タイトル:【駆除】 駆除業者の憂鬱
ファイル:駆除業者の憂鬱.txt
作者:特売 総投稿数:42 総ダウンロード数:1024 レス数:2
初投稿日時:2023/09/10-23:43:25修正日時:2023/09/10-23:43:25
←戻る↓レスへ飛ぶ

駆除業者の憂鬱

私は樋口俊彦

しがない実装生物駆除業者だ

就職氷河期の頃に大学を卒業するもなかなか仕事が決まらず
その間に叔父がやっている実装駆除の仕事を手伝う内に
見込みがあると言われて様々な資格を取らせてもらい
二十代後半に独立して今に至る

今はまだ規模も小さく依頼も少ない方だが
それでも叔父から回してもらた分や
大学時代からの付き合いの農協職員からの
定期的な駆除依頼でなんとか食っている

ある日の事農協からの依頼で畑の作物を食害する
実装石が現れたから駆除をして欲しいと言われ
早速現地にと赴いた

現場の状況は典型的な実装石による食害の有様だった
出荷を目前にした良く熟れた実ばかりが食われ
あるいは持ち去られている

あげくには糞まで残している

これはマーキングの可能性もある要注意行動だ

ここで糞をする事で縄張りを主張し何度でもやってきたり
臭いに釣られて他の同属が押しかけて来るかも知れないのだ

私はまず糞を除去して辺りに消臭剤を撒いた

次に一度味を占めた実装石は再び畑にやって来るので
罠を幾つか仕掛けておく
仕掛けの中には誘引性の高い専用の餌をセットしておく
これで早ければ翌朝には罠に掛かったそのマヌケな姿を見る事になる

…とそのはずだった

翌朝に確認に向かったがかかっておらず
その後三日間続けて見ていたが一向に掛かる気配が無かった
こんな事は初めてであった

そんな時二キロ離れた別の農家で実装被害が発生したと連絡を受け
あわてて現場へと急行した

一体何が起きているのだ?
味を占めた作物に執着しないなんて
そんな実装石は初めてだ

*****************************************************

駆けつけたキュウリ畑の現場を調査した

足跡からして成体しかも最大で60㎝クラスの
大型個体の可能性があるとみた

その後に再び罠を設置するもやはり捕獲には至らずに終わった

「樋口よ…一体何時になったら奴を駆除できるのだ?」

携帯越しに苛立ちの声が響く

声の主は今回の駆除を依頼してきた農協職員の佐久間だ

「こちらも罠を仕掛けてはいるが不思議な事に
一向に罠に掛かる気配が無いのだよ
まるでこちらの動きを全て察知されているようなんだ」

何時もなら必ず再び訪れる事を予想して侵入ルートに罠を仕掛けたり
場合によっては直接捕獲を試みるのだが
相手が現れない事には手も足も出ないのだ

「そんな馬鹿な!実装石がどこかに潜んで
我々の行動を観察していたとでもいうのか?」

佐久間の語気が少し強くなっている

「まったくその可能性を否定出来ないのだよ
今回の件は何時ものそれとは勝手が違いすぎる
実装石は馬鹿かも知れないがマヌケではないのだ
無駄に悪知恵だけは働くのだよ」

私の説明に携帯の向こうから彼の呻くような声が聞こえた

「分かった…引き続き駆除作業を継続してくれ
こちらからも何か分かったら連絡する」

彼はそれだけ言って通話を切った

佐久間が苛立っているのも
今回真っ先に被害を受けたのが村おこしの重要な鍵となる
新種のトマトの試験栽培が大きな被害を被ったからで

採れたトマトを使ってのアピールや新商品の開発など
今回の被害が与える影響は大きいのだ

何か良い方法は無いのだろうか…
私は憂鬱な気持ちになった

*****************************************************

こうしてしばらくの間追跡をし
巣穴の特定や行動パターンの解析などを行ったが
これと言った成果が上がらないまま
季節は秋を迎えた

すると実装石による食害の報告がピタリと止んだのだ

あれ程神出鬼没で我々を振り回し続けていたのにである

事故にあった様子もなく天敵に捕食されたのかとも思ったが
何か違うのだ

結局その後も現れた報告はなく一旦駆除を打ち切る事になった

そして翌年の春に奴は再び現れた

被害状況からして以前にもまして狡猾になって来た印象がある
確実に収穫を目前に控えた作物ばかりを狙ってくる
しかも的確に商品価値のある部分ばかり食われている

元来雑食で食えればなんでもよいはずなのに
人間が食べない所は一切手を付けない
前回なんかサヤエンドウが被害にあったが
実の部分以外は一切食われていなかった

おかしい…ただのちょっと賢い程度の野良の行動とは異なる
だとしたら元飼いでその時の知識で食べられる野菜を知っているのか?
それならば合点がいくのだが

あと元飼いであるならば合点がいく点がもう一つある
それは奴が繁殖をしていない事だ
放っておいても勝手に妊娠して増えるほどの生き物なのに
春を過ぎてなお単独行動を続けているのは不妊処理がされているなら
説明がつくことだ

佐久間にこれらの事を伝えると

「樋口の仮説通り元飼いで不妊処理を施されているならば
あんな性質の悪いのが増殖しない点は幸いな事だな」と言われた

また近々付近の農家の人達と会う機会があるので
対策会議を開くことを提案するつもりだと言われ
アドバイザーとして参加して欲しいと言われた

それと同時に現在村役場に掛け合って対策室を設置する様に
働きかけているとも聞かされた

どうやら思った以上に大きな話になって来たようだ

*****************************************************

その後の対策会議で情報の共有化や被害発生地点をマップに書き込んで
行動パターンを解析しようとしたが相変わらず決め手に欠けていた
せめて巣穴の特定が出来ればよかったのだが…

結局その日は奴のコードネームがOSOMA60に決まった事と
対策室設置に関する報告で会議は終わった

翌日になって私は叔父に連絡をして明後日に訪ねて来て良いか聞いた
運よくその日は仕事が無いので来ても良いと言われた

そして約束の日になって私は手土産を引っ提げて叔父のもとに向かった

今回の来訪の目的は行き詰まったOSOMA60対策に
実装生物の駆除に関して大先輩である叔父ならば
何か良いアドバイスを受けられるかもしれないと言う期待からであった

久しぶりに会い挨拶もそこそこにお互いの近況を報告し合い
そして俺が今担当している実装石対策が行き詰まっている事を打ち明けた

話を全て聞いた叔父も「そんな行動をとる実装石は初めてだ」と言った
実装石の習性からしてもまずありえないと言うのだ

叔父は暫く腕組みをして考えていたが
ふと何かに気が付いたような表情になり俺にこう言ってきたのだ

「確かに実装石は味を占めた食べ物に執着するが
その点ばかりに囚われてもう一つ奴らが最も執着する事を見落としていないか?」

その言葉に私はハッとした

そうだ奴らが最も執着するのは己の命だ…
一連の行動が生き延びる事を優先にしていたものなら
これは根本から考え直さないといけない事だ

そんな私を叔父は満足そうな顔をしてニコニコしていた

*****************************************************

家に帰ると私は部屋に籠って考えた

実装石は己の生に最も執着する
しかし一方で幸せ回路と称される目先の快楽の誘惑に
とても弱い一面がある

典型的なお花畑思考というかすべてが自分にとって都合の良い解釈をして
危険やリスクに関して考えない傾向がある

ゆえに実際に痛い目に合わないとそういったリスクを考えない
最も多くはそうなった場合
次回にその経験や反省を生かす事なく死ぬことになるので
そういう実装石的には貴重な体験が行動に反映される事はない

あの個体が一般的な実装石の習性に囚われていないのには
なにかトラウマとなる出来事を体験しつつ運良く生き延びたに違いない
この村での昨年起きた実装石の食害の実態をもう一度見直す事にした

佐久間に昨年の農作物被害に関する資料を請求しようと連絡をしたら
奴の姿を始めてカメラに捉えることが出来たという報告を受けた
これは解決の糸口になるかも知れないと彼は興奮した口調で語っていた

翌日村役場の対策室へと足を運んだ
そこには佐久間と村の青年が一人いた
彼も実装被害を重く見て最近は毎日通っているのだとか
私は頼んでいた資料を受け取ると件の映像を拝見することにした

部屋に設置されたモニターに奴の姿が映し出された
それは当初予想していたよりも一回り程小さく
また監視カメラが何なのかを理解していない様子だった
後この画像からでは元飼いか野良なのかは判別できなかった

ふと何か違和感を感じたので何度もその映像を繰り返し見てみた
よく見ると尻の辺りの裾の一部が破れている
これは罠から抜け出そうとして付いた物の様に見えた

また奴が足跡からの追跡を欺瞞するために先に付いた足跡に
重ねるようにして後ろに下がる様子も確認した
これがサイズを誤認する原因となったに違いない

帰宅後に渡された資料に目を通した
食害被害の発生は昨年の初夏から見られている

最初の発生時期と思われる期間を絞り込んで調べると
そこに実装石に畑を荒らされて罠を仕掛けて捕獲を試みたが
逃亡され以後現れなかったという報告を見つけた

これだと思った

やはり奴は一度罠に掛かった経験がある
そのトラウマから警戒心が強くなっていたのだと

*****************************************************

翌日になって佐久間に私の仮説を述べると
彼もそれで幾つかの謎だったピースが埋まったみたいで
この実装石の実態をかなり絞りこめた様であった

半月後奴が現れたという連絡を受けたが
同時に今回は現場には向かわないで欲しいと言う指示があった
どうやら佐久間は何か考えがあるようだが…

更に一週間が経過した頃に
奴が再び現場に戻って来たと言う報告があった
佐久間が言うには奴は優れた嗅覚と非常に強い警戒心を
もっていると予想していたのだとか

特に警戒心に関しては一度罠に掛かったトラウマが強いのだろうと
だから違う人間や罠の臭いがするところには近づかなくなり
またそれを避けるように逃走していたから
行動がパターン化しなかったのだと

奴の実態が分かれば手の打ち様もあると言う物だ
私は佐久間にこの辺りの古い農家の人なら知っている
実装石捕獲の手段を講じるように提案した
今回は直接罠の設置に行けないが
それ以外の支援には協力することになった

そしていよいよ訪れたXデー当日の夜

私達捕獲班は軽トラ二台に二手に分かれて待機していた
おおよそ奴がその嗅覚で感じ取れる圏外だと思われる
半径2キロよりわずかに外の位置に軽トラを止めて
畑の監視をしていた

向こうには佐久間と先日見かけた敏明という青年が乗り込んでいる
荷台には実装石捕獲後に収容するためのケージを乗せている
こちらの荷台にはケージの他に捕獲に必要な道具一式を乗せた

助手席に置いたノートPCのディスプレイには畑の様子が映し出されている
一時間程経過した頃奴が現れた

*****************************************************

奴は周囲に異常が無いか見渡すと安全を確認できたのか
ノコノコと畑に入って行った

ここ数日人間が何も対策を講じない事からか
奴はすっかり油断しており毎日畑に通いだしていた

そして最後のトマトに手を付けようと近づいた時であった
奴の足元が崩れそのまま垂直に落ちて行った
昔から畑に侵入する実装石を捕獲するための
オーソドックスな落とし穴であった
仕掛けに一切金属類を使わない事で奴の油断を誘ったのだ

その様子を確認した私達は大急ぎで現場へと向かった

奴は穴の中で何とか抜け出そうと暴れていたが
無駄な抵抗と言う奴である
ジャージャー鳴いて威嚇しているがそれには構わず
二人がかりで穴から引きずり出してケージに収容しようとした

佐久間が出来れば生け捕りにして尋問したいと言うので
こうしたのだが突如として奴は暴れ出し
私達の手を振りほどいで脱走したのだ

私は慌てて捕獲道具を手にして追いかけたが
車道に飛び出したところを
通りがかった車に跳ね飛ばされてしまった

その場で死亡が確認され調査のために死体は持ち帰るので
実装袋に入れて密封された

佐久間の奴は乗用車の運転手と何やら話していたが
暫くして車は山の方へと走り去った

現場で確認された不妊処理の跡と死体の解剖調査で
OSOMA60が元飼い実装であることが判明

佐久間は飼い主の責任を追及するために警察に被害届を提出した

後から聞いた話だと飼い主は特定されて結局罰金刑になったとかで
さらに民事訴訟を起こす構えで弁護士を通して
損害請求をしたと言っていた

つくづく怒らせると怖い奴だなアイツは

まあ農作物被害を軽く考えている奴にはイイ薬になった事だろう

何故かああいう手合いは作物を安く見る傾向があるからな
捕まるとたかが野菜だの酷いのになると
地面に種まいて勝手に生えているから罪には問われないはずなんて言うとか

こちらもあの実装石には一年と三カ月も奴に振り回されたのだからな
これでやっと肩の荷が下りると言うものだ

                             終 

■感想(またはスクの続き)を投稿する
名前:
コメント:
画像ファイル:
削除キー:スクの続きを追加
スパムチェック:スパム防止のため7449を入力してください
1 Re: Name:匿名石 2023/09/10-23:56:44 No:00007953[申告]
もう人間の集合知に狩られたって感じだな
恵まれた飼い生活からいきなり山中に放り出されたった一匹で結構な期間ニンゲンを翻弄したジッ君のこと忘れないぜ!
2 Re: Name:匿名石 2023/09/11-08:18:17 No:00007954[申告]
スーパー実装石じゃないって事は看破されてた事やデータの蓄積や連携を淡々とされ追い詰められていた事が再認識出来る終局のピースのようだ…
主人や農作物に執着し都合の良い解釈と幸運に生かされながらもジッ君の未来は既に閉ざされたようで少し物悲しくもある
戻る