道路の先に 「テェェェン!テェェェン!」 歩道脇で親指実装が泣いている。 傍らには親実装とおぼしき成体の轢死体が転がっていた。恐らく親指を庇ったのであろう。車に引かれたらしき下半身は跡形もない。 30分ほど泣き続け、親が残した最期の言葉を思い出す。 「いつまでも泣いていてはダメデス。お前はワタシの唯一の仔供。小さくてドジでも胸を張って生きるんデス…」 そうだ。ワタチは仔供の為に自分を犠牲にする勇敢なママの仔。いつまでも泣いてるだけじゃダメなんテチ! そう思い直して涙をぬぐい立ち上がると踵を返して歩みを進める。と同時にタイルの隙間に躓き派手に転んだ。 「テ、テェェ…」 だが泣かない。もう泣かないと決めたのだ。自分もママのように立派に、強くたくましく生きて…。 「ヂッ!」 気持ちも新たにする暇もなく親指実装が悲鳴をあげる。 「ふわぁ~あ…ねみ…」 あくびをしながら歩いていくサラリーマンに踏み潰されたのだ。当然地面に這いつくばっていた親指実装などに気付く筈もない。 親指実装の死体は母親と逆に上半身が綺麗に潰れて無くなっていた。 安全の棒 キッというブレーキ音を残し車が止まった。 「デ…?」 その様子を信じられないといった様子で親実装が見つめる。 その手には交通安全と書かれた黄色い旗。 これがあれば轢かれずに横断歩道を渡れる。その可能性に賭けたのが効を奏した。そう確信し感激の涙を流す。 「ママァ!おクルマ止まったテチ!本当に止まったテチ!」 「レフレフゥゥ!」「 「テェェン!嬉しいテチュゥ!」 「泣いてる暇はないデス!みんな早く渡るデス!」 同じく感動する子供達を急かしていく。 そうこうしている間に車からは男が降りてきた。 「ニンゲンサン!止まってくれてありがとうデス!これからは安心して渡れるデス!」 そう何度も頭を下げる親実装から男は旗を取り上げた。 「デ…?」 「ヘジャ!?」 「ベヒィ!」 「レピァ!」 「ヘヒビィ!」 「テヂッ!」 そして次々踏み潰される仔供達。 「な…なんてことをするデスッ!ちゃんと棒持ってたデス!ワタシ達はルールを守ってベジャァ!」 親実装も顔面を踏み潰されてその場に倒れる。 それが終わると男は手にした旗を定位置である信号機脇の箱へと戻した。 「これはオモチャじゃないっつーの」 それだけ残して男は再び車へ乗り込み発進させる。 そのタイヤは親実装の体を踏み潰し、何事もなかったかのように去っていった。 ボール遊び 空高く…といっても仔実装が投げた程度だからたかが知れているが…投げられたボールが宙を舞う。 それを見てテチテチデスデスレフレフと周囲の実装石達も盛り上がる。 ここは多頭飼いしている人間の家。大小合わせて個体数は30を超すがここでは実装石達はのびのびと暮らしていた。 「デスゥ!」 成体の一匹が高く高くボールを上へと投げる。 その高さには仔実装達も大盛り上がりだ。 「テチチィ!」 キャットタワー上で盛り上がる仔実装の前まで飛んできた。仔実装は反射的にボールを取ろうと飛び上がる。 「ヂッ!」 が、届くはずもなくキャットタワーから単身紐無しバンジージャンプを敢行する事となった仔実装はそのままカーペトのシミへと変わった。 「デデェ!?」 「テッチャァァァ!」 一気に恐慌状態へと陥る実装石達。何せこの家に来てから脅威とは無縁だっただけに突然の死には狼狽える。 そしてボールの行く先など誰も見ていない。 「レビュワッ!」 哀れボールの下敷きとなり臓物を口から吐いて絶命する蛆実装。 「デチャァァァァ!」 「テェェェン!テェェェン!」 これで成体も含めて完全に理性を失い実装石達は走り回る。 蛆を潰す、仔を蹴り倒して踏んでいく、成体同士がぶつかり喧嘩が始まる。 家具を倒す、皿を割る。血が目についた実装石が強制出産を始める。もちろん部屋中糞まみれ。 誰も状況を纏めることも出来ずに混乱だけが広がっていく。 ものの三十分ほどで部屋は血みどろの地獄絵図と化し生存している実装石は一気に6分の1ほどまでに減っていた。
