タイトル:【観察】 佐久間日記
ファイル:佐久間日記 .txt
作者:特売 総投稿数:42 総ダウンロード数:817 レス数:2
初投稿日時:2023/09/01-19:16:15修正日時:2023/09/01-19:16:15
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佐久間日記 

私の名は佐久間昇
しがない農協職員である

今私の地元は実装石による農作物被害に悩まされている

最初は早期に解決すると思われたが
いままでの駆除のセオリーが通用せず
また未だに駆除対象の特定に至ってないと言うありさまだ

特に将来ここの特産品として力を入れていた
新品種のトマトが被害を受けて私はいら立ちを隠せないでいた

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私は農協職員と言ったが担当は主に地元で生産される作物の販路の拡大や
それらを利用した様々な加工品や生産物のブランド化などである

そんな私が最近注目していることがある
それはわが地元の品種改良試験所において
新しいトマトの品種を生み出すことに成功したという事だ

実はミニトマトサイズでありながら色鮮やかで日持ちも良く
さらに従来品種よりも高い糖度を有していた

一方でややデリケートな一面もあり
育成には細やかな管理を要求されるのが
目下のところの問題点である

とはいえハウス栽培の環境下では安定した生産が見込まれるのだが
それだとどういう訳か実の糖度がやや低下してしまい
最も美味しくなるのは露地栽培に限るという

そこで私は町内でトマトの生産を手掛けている
農家を幾つかリストアップし
この新品種の試験栽培に協力してもらえるように頼んで回った

辛抱強く説得した結果
二軒の農家の敷地にて試験栽培を行う事が出来た

育成は順調に進み様々な改善点を見出すことができた
デリケートだと思われていたが実際には幾つかの点に注意するだけで
多くの問題が解決できるのが分かったのも大きかった

そしていよいよ収穫となった時大きな問題が発生した

実装石によって収穫直前の実ばかりが食害に会い
しかもかなりの量を持ち去られていた

一般的な実装石の移動範囲は狭いという事から来る油断もあって

本格的な侵入対策を怠ったのがいけなかったのだ

収穫量の大幅な激減は各方面に大きな影響を及ぼす

試験的に市場に流通させたり様々な加工品への試作依頼や
特約を結んだ一部の飲食店等多岐にわたってしまう

だがこの時は幸運な事に被害は一度きりで終わり
もう一件の農家の方での被害が発生しなかったため
最小限の被害に抑える事が出来た

だが一部で計画の遅れが生じてしまい
その修正に走り回る羽目となった

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その後も件の実装石は神出鬼没で追跡を躱し続けていたが

秋を迎える頃にその被害がピタリと収まり私達を困惑させた

天敵に捕食されたり事故などで死んだのではと言われたが
どうにも納得がいかないものがあった

そして新年となり春が訪れた頃
奴と思われる食害被害が再び発生したのだ
まったく一体今までどこに潜伏していたのだ忌々しい

初夏を迎える頃には去年のそれを上回る範囲で被害が発生していた

私は被害実態の把握のために村の寄り合いに参加し
話を聞いて回った

また良い機会だと思ったので一度対策会議を行いたいと
提案した所居合わせた農家の方の多くが賛同してくれて
開催することになった

一週間後公民館の一室を借りて被害の報告や注意喚起
また今までの食害被害を地図に示して
何か行動のパターンや住処に繋がる手がかりを得ようともしたが
成果は無かった

また村役場に対策室を設けたことを報告し
受付時間と連絡先の電話番号とメールアドレスを周知してもらった

またこの時奴にコードネームを付ける事を提案し

OSOMA60と命名した

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その後も奴による食害被害は頻発していたが
一向に駆除に繋がる情報は得られなかった

またそればかりにかまけてもいられなかった

今年になって新品種トマトの試験栽培への参加を
申し出てくれる人とが増え栽培面積も増加した

特に今年参加の小林さんは在来種の栽培を半分も減らして
試験栽培に割り当ててくれた
曰くとてつもない可能性をこれに見出していたのだとか
昨年は準備不足もあって参加を辞退してしまったが
今年は十分な準備を整えてきたとの事だ

計画は順調に進んでた

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OSOMA60に対する事で進展が発生した

今まで忍者のごとく我々の前には姿を見せなかった奴が
とうとう映像に収められたのだ
池野さんの畑に設置されていた監視カメラに
その姿が捉えられていたのだ

ここで今まで考えられていた事との相違がハッキリわかった
体長が50㎝級の並みの大きさの成体だったこと

以外にも監視カメラというものを理解していなかった事だ

そこから推察されるのは

奴は確かに警戒心は強くまた学習能力も高いが
それでも実装石としては特に突出した知能は有していないという事だ

これは奴への取り組みを見直す必要がありそうだ

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池野さんの所に出現してから半月後

今度は小林さんの畑に現れたという連絡を受けた

今回被害を受けたのは新品種のトマトを栽培している区画のみとの事

私は何時もなら行う現場の被害調査を行わないように指示し
また小林さんの畑を見下ろせる自宅ベランダに
承諾を得て監視カメラを設置し観察を続けることにした

また捕獲に向けての誘導として一棟を残して
全ての新品種トマトの収穫を済ませてもらった

だがこれは賭けでもあった
奴が現れなければ計画は失敗する
また現れるにしても今この時期でなければ駄目だ
収穫せず放置している実が虫や鳥に食われたり
腐り落ちてからでは遅いのだ

そして一週間後奴が現れた

私は賭けに勝ったのだ

再出現後数日は姿を見せなかったのだが
その後は毎晩のように現れて熟した実をむさぼり持ち帰って行った
潜伏先を畑の近くに移したのだろうか

そして実の数は減っていきいよいよ終わりが見えてきた

Xデー実行前に私と敏明君とで小林さんにあるお願いをしに行った
それは実装石を捕らえるための落とし穴を掘って欲しいというものだった
本来ならば罠の設置は私達が行うものだが
相手が嗅ぎ慣れない人間の臭いに敏感なために仕掛けに行くことができない
その事を小林さんに説明してお願いをした

小林さんから快諾を得て捕獲に協力してもらう事になった

「なあに昔はそうやって畑に悪さしにくる実装石を捕まえて成敗したものだ」

そう言って笑う小林さんの顔が印象的であった

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そして迎えたXデー当日の夜
私と敏明君は予めレンタルした軽トラック内で待機していた
荷台には捕獲した実装石を移送するためのケージを積み
監視のためにノートPCを持参して監視カメラとリンクさせて
見張っていた

そしてノコノコと現れた奴は最後の獲物に近づき
落とし穴に落ちたのだ

私達は大急ぎで現場に直行し奴を引きずり出して
ケージに収容しようとしたが

突然大暴れして振り切り車道に逃走
通りがかった乗用車に跳ね飛ばされて死亡した

実にあっけない

ある意味実装石らしい最後であった

あと奴を撥ねた乗用車に乗っていた女性が気になる発言をしていたので
もっていたICレコーダーに会話を録音しておいた

その後回収した遺体を知り合いの獣医の元で行ってもらった
敏明君からの報告で不妊処理が施されていて
元飼い実装だった可能性が高いと言うので
マイクロチップの有無を調べてもらった

解剖調査でマイクロチップは無事回収され獣医からIDの照会で
飼い主が特定できるが個人情報の開示は
自治体か警察にしかできないと言われた

私は一連の実装被害について被害届を出し
飼い主の責任を追及する事に決めた

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その後提出した証拠や会話の録音データーを元に
警察は捜査を進め女性の身元を特定し
任意同行を求めて取り調べた後に違法行為について認めさせ
略式起訴し罰金刑となった

有罪となった事を受けて私は弁護士を通して
内容証明を送り付け損害賠償の請求をした

相手側から支払いに応じるという返答を受け
和解が成立

一連の実装石食害被害の騒動は解決となった

後は賠償金の分配を決めるだけになった

あと念のため山実装が生息している山の地主に
今回の事を説明しに行った

話を聞いた地主はカンカンになって怒ったが
心配された汚染は発生していないという
説明を聞いて落ち着きを取り戻した

ただ念のために地主側でも汚染が無いか調査するといい
また今回の件を重く見て近い内に
山に入る道を全て封鎖すると言った

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山実装の汚染はそれを地元の特産品として扱う地主にとって
致命的な事案である

元来実装石は毒や汚染に強いのだが
それは体の解毒処理能力の高さと
体にそれらに対抗する抗体を生み出すからである

一度その抗体が体内で生成されるとそれを一生作り続け
また生み出した次の世代にも引き継がれるのだ
この抗体の人間に対する毒性は強く
それを含んだ山実装の肉を過度に摂取すると死亡する事もある
また加熱や冷凍及び発酵でもこの抗体の毒素は消えない

かつて人間の食べ物を食べたくらいではこんな抗体を作り出すことは無かったのだが
近年になって食品に含まれる添加物が多くなり
そんな食品を摂取して毒持ちとなるケースが多発するようになっていた

実際そのことを知らずにキャンプ場のゴミを漁りに来た山実装を捕獲して
食べたことによる食中毒事件とかが後を絶たないのだ

ちなみに一度毒持ちになった山実装は最低でも三世代を経ないと
抗体の生成を止めないという

その後地主側の調査によって汚染が起きていない事が判明し
今年の狩猟シーズンも例年同様に開かれることになった

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騒動が終息して思うのはOSOMA60にとって命取りになったのが
私が関わった新品種のトマトへの執着だったといえる

奴が執着などせずに他の畑に移動を繰り返していたら
今年もまた取り逃がしていたやも知れないのだ

とはいえ実装石である
いずれはどこかでヘマをして自滅するのだろうが
それまでに発生する被害を想像するとここで止められたのは
本当に良かった

かくして村に平和が訪れたのだ

                           終 

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1 Re: Name:匿名石 2023/09/02-10:38:38 No:00007926[申告]
胡散臭いなと思ってたらとんだ農家の心遣いだったなトマト
実装って栄養さえあれば火傷以外の怪我には滅法強いが一方病気と毒にはそうでもなく並くらいのイメージ
まあ個体差とデタラメがエポックメークやブレイクスルーに繋がらないのもまた実装か
2 Re: Name:匿名石 2023/09/02-16:29:51 No:00007928[申告]
成程なOSOMA60を最も憎んでいたのが佐久間だったと言う訳か
あと飼い実装を山実装のコミュニティに放流する危険が解説されているのが
おもしろかった
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