ジッ君と私 私は亜紀与 現在都内の某大学に通っている女子大生よ 進学を機に故郷から引越しして一人暮らしをしている 最初はそんな大学生生活を満喫できると思ったのだけど 一年ほどして何気に気持ちが不安定になりがちになり 困るようになってきた どうやら一人暮らしのストレスが影響しているらしくて 改善策の一つとしててペットを飼育する事を知人から勧められた また住んでいたマンションがペット飼育可能というのも後押しになった そして私はあらゆるペットを検討してみたが どれも飼いたいとかお世話したいと思えるのがなく 進展のないまま時間が経過していった ある日の事ゼミの帰りに友人に付き合わされて 実装ショップという所に入った そこは俗にいう実装生物というものを 専門に取り扱っているペットショップであった 基本人型に近い姿をした不思議生物と言う奴で 種類によって性格も食べる物も変わってくるのだとか だがそれらの多くは希少なものらしく価格も凄い事になっていた そんななか一番数が多くて価格も多彩なのが 実装石と呼ばれるものだった なにせ他実装の仔が最低でも十万の桁なのに対し 最も低価格のもので200円というありさまだ 勿論そんな低価格帯の実装石は愛玩目的以外の需要らしいが そっちにはあまり関わりたくないのでスルーした そもそも普通に愛玩目的と言うなら価格も大体常識的な範囲に収まっている 実際ケージを見ると 一般的な躾済み仔実装で価格二万円と表示されている 勿論ここで血統書付きとなると天井知らずになるわけだが さすがそこまでは興味が無かった こうして店内を見て回ったのだが気が付いたら一匹の個体が 気になって仕方が無くなっていた 丁度バイトの給料も入ったばかりで懐が温かかった事もあって スターターキットとまとめてお迎えしてしまった 部屋に到着し梱包を解くとお迎えしたばかりで 周囲の変化に戸惑っている仔実装が箱の中にいる 私は仔実装に向かって優しく声をかけた 「始めまして今日から私があなたのパートナーよ」 ***************************************************** 仔実装をお迎えした翌日の朝 何時までも箱の中と言う訳にもいかないので スターターキットを立ち上げた 説明によるとまず最初にトイレの準備と設置をしましょうと書いてあったので 説明に従いトイレ容器に処理剤を敷き詰めて水槽に置いた 準備が整ったので仔実装を水槽に移すと真っ先にトイレに向かい用を足していた そして給水器の設置や餌の用意を済ませた ここで一つ問題が発生した まだ仔実装の名前を考えてなかったのだ あれこれとリストアップして小一時間悩んだが良い名前が思いつかない そういえばお父さんがペットの名前は呼びやすい事を 優先させるのだ言っていたなと漠然と考えていた ふと頭に浮かんだのがジッ君であった うん…イイ感じの名前じゃないか きっとあの仔も気に入るに違いない 水槽の中でフードに齧りついている仔実装に向かい私は命名した 「今日からアナタの名前はジッ君よ!」 何故か若干反応が悪いような気がしたが まあいいか こうして私とジッ君の生活が始まった ***************************************************** 一般に実装石の飼育は簡単だとかネットにもそんな情報が流れているが そうだとしても不慣れな者にとっては毎日大変の連続であった 要は生活ルーティーンが確立出来てないせいなのだ 幾つかのサイトで検索しても餌やりや散歩や遊びとかは 必ず決まった時間に行う事を心がけてと言う物ばかりだった 私自身の生活パターンを変えていく必要があったのだ そしてようやく慣れた頃にはジッ君も私に心を開き始めてきて 甘えたり意思表示をするようになってきた またその頃に私はスマホにリンガルアプリを入れた これで更に親密度が上がりそうだ それからの生活は毎日がイベント状態だった 一緒に遊んだりTVを観たりした 時には悪戯を叱ったり突然病気になってしまって 慌てて最寄りの実装生物を診てくれる病院を探して大騒ぎしたりした そして気が付いたら 夕飯後に一緒にケーブルTVを鑑賞するのが日課になっていた 時は流れ大学生活も順調に進み就活もすでに希望していた企業への 採用が内定していて 後は卒論を提出するばかりとなった ただ内定した企業の勤め先が今住んでいる所から かなり遠くにあって 通勤の便を考えるなら引越しを考えなくてはいけなくなった だが勤め先の最寄りの圏内の物件でペット飼育可能な所は空きは少なく あっても家賃が高い所しか無かった 結局卒業までに条件に見合う物件は見つからず 私はしかたなく今住んでいる所から通う事になった ***************************************************** 内定していた会社に入社後私は住んでいた所から 片道二時間近くかけて通勤する事になった 当然今までよりも早い時間に起きて帰ってきたら食事とお風呂を済ませて ジッ君のお世話をしたら即就寝という毎日になった そしてやはり無理が祟ったのか私は体調を崩しがちになり 会社でのカウセラーのアドバイスもあって 会社に近い所に引っ越すことにしたのだ だがそれはジッ君との生活が終わる事でもあった 引越し先はやはりペットの飼育が不可のところであった しかも今の私の状態ではもう悠長に物件探しをしている時間は無く 今月にも引越しをしなくてはいけなくなっていた 私はジッ君の処分を考えたがやはりそれは出来ないでいた 学生時代に何時もその存在に支えられてきたんだ そんな簡単に処分所に連れて行くなんて事はあり得なかった どうしようか考えが決まらず 気分転換に観たTVの番組の中で山実装の生態に迫るとかいう内容を見た時 私はこれだと思った ジッ君を山実装に預けてもらうのだ そして私は住んでいる所から最短で行ける山実装の生息地を調べた 季節はもう夏になろうとしていた ***************************************************** 「ここで待っていてね何時か迎えに来るから」 お別れを告げたあと私から離れる事を嫌がるジッ君に 私はそう言って山を後にした 言った事は決して嘘ではない約束は守るつもりだ ただ今はそれを実現するための具体的に事がないだけだ 私は自分にそう言い聞かせながらアクセルを踏んだ 山実装は公園の野良と違って村を形成して秩序を保って生活していると言う きっとジッ君の事も受け入れてくれるだろう その為の手土産も渡しているのだから 待っててね必ず迎えに来るからね それから半年は通勤にかかる時間も短くなったおかげで 体調不良も改善し仕事に専念する事が出来た だが部屋に返って来ても出迎えてくれる存在がいない事は やはり寂しく思えた 年が明け厳冬期が終わり春がそろそろ近づいてきた頃 私はある広告に釘付けになっていた それは春に完成予定のマンションでペット飼育可能な上に 家賃もそれほど高くなく 更に会社からも近いという自分にとって最高の条件の物件だった 早速モデルルームを訪ね担当者と話を交わす 聞けば人気がうなぎのぼりでそのため抽選で 入居者を決める運びとなったとかで私も早速申し込んだ 一か月後当選したという連絡が届き 早速引越しに向けた準備を開始した 4月に入り新しい部屋に引越しを終えた私は 丁度その頃参加していたプロジェクトが忙しくなって 会社と部屋を往復する生活が三か月も続いてしまった やっと長かったデスマーチが終わって部屋で放心状態になっていたが ここでジッ君を迎えに行かなければいけない事を思い出した かれこれ一年近く放置していたのだ いけない…一刻も早く迎えに行かなければ… ***************************************************** 週末になり私はジッ君を置いて来た山を目指して走っていた 一番近い生息地ではあるがそれでも結構遠く 山の近くに到達する頃には夜になっていた あと少しでジッ君のいる山だと思った時だった 突然一匹の動物と思われる何かが目の前に飛び出してきたのだ ライトに驚いたのか真ん中で立ち止まっている 軽い衝突音と衝撃が車に伝わって来る 私は慌てて急ブレーキを踏んだ 何とか路肩に寄せたが私は軽いパニックになっていた その時私の事を心配して若い男が話しかけてくれた どうやら轢いたのは野良実装の様で 車体も汚れているが傷らしい物は無いと伝えられ 落ち着きを取り戻した そして若い男はこんな時間に山に向かって車を走らせていた 私の事が不審に思ったのかあれこれ聞いて来た 簡単に事情を説明すると何故か苦笑いをしていた そして最後に不思議な質問をしてきた 「ところで昨年山に行った時にはこの車で行ったのですか?」 嘘を言っても仕方が無いので そうですとだけ答え再び車を山に向かって走らせた ***************************************************** 結局ジッ君は見つからなかった 分かれた場所まで行き懸命に名前を呼んだが反応が無かった 夜が明けるのを待って山奥まで行ってみたが 結局見つける事は出来なかった 帰宅後しばらくの間私は泣いていた きっとジッ君は何時まで立っても迎えに来ない私に愛想を尽かせて 山の仲間たちと仲良くやっているのかしら いやジッ君は賢い仔よそんな事は絶対無い と言う事は死んでしまったと言う事なのかもしれない 結局その日は一日中泣いてしまった それから一か月が経ったある日の朝 突然誰かが訪ねて来て応対した所警察の刑事さんだと言ってきた そして私は任意同行に応じ取り調べを受けた 私は実装石飼育に関する違反と迷惑防止条例に違反していると説明された そして幾つかの罪状を認めさせられて略式起訴によって 罰金刑が言い渡された 釈放後に私はジッ君が死んだことを知った しかもあの時撥ねてしまった実装石がジッ君だったと言う事も 罰金はそれまでしていた貯金から払える金額だったので 速やかに指定された口座に振り込んだ 正直とても痛い出費だった だがこれで終わりではなかった それから一か月ほどして内容証明が送られてきた その内容は私への損害賠償請求であり 応じなければ民事裁判を起こすと言う文面だった その賠償金額たるやとてもじゃないが私個人で支払えるものではなく 慌てて実家の両親に泣きつき事情を説明した 当然であるが両親からこっぴどく叱られた また今回の件から自分達の目の届く範囲に置きたいと言う事で 務めている会社を辞めて実家に戻り地元企業に就職するように言われた そして賠償金は一旦肩代わりするが その後私が働いて得た収入から返済する事になった ***************************************************** あれから 会社を辞めて実家に戻り地元の企業の採用試験を受けたりと 落ち込んでいる暇は無かった やっとの思いでそれなりに日常が戻ったのは 三か月が経過していた 休日を利用してジッ君が死んだ現場を訪れ手を合わせた また当時ジッ君を置いて行った山にも向かった あんな形ではあるが最後にジッ君と分かれた場所に行きたくなったのだ だが以前とは違い山に続く道は封鎖され立ち入り禁止になっていので 仕方なく麓まで引き返した 来てまもなくという事もあって時間が余ってしまったので 雑木林や近くの土手を散策して回った 河原まで来るとふと川岸に見覚えのある物が 岸辺に引っかかって漂っているのが見えた 近づいて何かと見てみたら それは私があの時ジッ君に渡したポシェットであった どうしてこんなところに? そういえば後から聞いた話では事故当時のジッ君は 何も所持していなかったと言っていた これはジッ君が私をここへと導いたのだろうか 私はポシェットを回収するとハンカチでそっと包んだ これは他でもないジッ君の形見なんだと思った そして私はジッ君に別れを告げて その場を後にした 終

| 1 Re: Name:匿名石 2023/08/31-16:26:19 No:00007915[申告] |
| 飼い主のジッ君への想いも本物だったのが救いか…
考えなしの行動が農家も巫女実装もジッ君も飼い主自身も不幸にしちゃった |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/08/31-17:50:22 No:00007916[申告] |
| あれだけ賢ければ実家に預ける選択肢もあったろうに |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/08/31-20:35:11 No:00007919[申告] |
| スクの文章に実装石の泣き声が一切でてこないのは珍しいテチ |
| 4 Re: Name:匿名石 2023/08/31-22:21:47 No:00007920[申告] |
| 終始どこか自己弁護と悪怯れない感じの独白が何かすごいな…
結局、主人を盲信した挙句害蟲に落ちたジッ君や聡明そうなイチノコも無駄死にする必要が無かったし 賠償金も額に驚いただけで、どれだけ農家や地方コミュニティに迷惑掛けたかは他人事で親の脛 コイツまたやらかすな |
| 5 Re: Name:匿名石 2023/09/01-00:16:07 No:00007921[申告] |
| 御主人約束を守ったんだね。あばよジッ君来世でまた会おう。 |