「フォトコンテスト」 ------------------------------------------------------------------------------- 「うおおっ!俺の写真が…優秀賞!?」 『第12回 実と装 ほのぼの・野良部門 優秀賞 双葉としあきさん』 『題「絆」』 『論評:親仔の愛情の深さと力強さが一枚で伝わってくる。「未来」と「希望 」を感じさせる作品。』 雑誌『実と装』が一年に一度開催しているフォトコンテストの特集で、見開き ページの四分の一を使って、俺の撮影した野良親子の写真がでかでかと載って いた。 転んで泣きそうになっている仔実装と微笑みながら手を差し伸べている親実装。 まさにほのぼの写真だ。 俺は趣味というほどではないが写真を撮るのが好きだ。元々山登りが趣味で、 その途中で野鳥や野生動物、高山植物などの風景写真を撮っていた。 足を怪我してからは登山は行かなくなったが、代わりに町中の風景写真や野良 の動物などを撮ることが多くなった。 ある日公園で野良実装石の良い感じの写真が取れたので、実装石専門誌に投稿 したわけだが…まさか優秀賞まで取れるとは。 実装石という枠内のフォトコンテストではあるが、写真の撮り方や自分の感性 など全てにおいて肯定された感じがして、得も言われぬ幸福感に包まれた。 正直なところ、その頃の俺は実装石にはあまり興味がなかった。 むしろ無表情で三つ口やビー玉のような目などに、どこか怖さを感じていたか もしれない。 しかし自画自賛ではあるが、俺が自分で撮ったこの写真を見返してみると… 愛情深く表情豊かな母実装と無邪気で無垢な仔実装。 なんて素晴らしい生き物なんだと感じざるを得ない。 フォトコンテストは野良実装部門以外に飼い実装部門もあり、そちらのほうが よりページを多く割いているようだった。 「よし!実装石飼うか!飼って来年のフォトコンテストのためにいい写真撮る ぞ!」 動機はともあれ思い立ってからは早かった。 早速実装石専門ペットショップに足が向いていた。 ------------------------------------------------------------------------------- 実装石専門ペットショップでは元気があって一番表情が良い仔実装を購入した。 正直な所、実装石の値段やランクはよくわからない。 高級なやつは大人しくて面白くなさそうだったし、投げ売りの個体はみすぼら しくて品がない。 ちょっと安めの、とにかく笑顔で元気に動いているやつを選んだ。 愛玩動物なのに笑うなんて、素敵な特徴の生物だ。それを活かさない手はない。 あとはどう関わり、魅力を引き出していくかだ。 俺は購入した仔実装に「テチコ」と名付けた。 家に連れ帰ったらその日から楽しい生活が待ってると期待していたが 「わかったテチよろしくテチ…」 と小声で鳴くとハウスに引っ込んだ。 あれ?ペットショップじゃあんなに元気で表情もコロコロ変わって楽しげなや つだったのに… まあよくわからん動物だしな。懐くまで時間もかかるだろう。 しばらく俺はテチコの餌やり&ウンコ除去マシーンに徹した。 ------------------------------------------------------------------------------- ようやく俺にそれなりに懐くまで、一ヶ月はかかっただろうか。 「ゴシュジン、撫でテチー」 俺が帰宅すると控えめに要求してくる。 「お前、この家に来た時は全然懐かなかったのになぁ」 「ショップのニンゲンさんがギャクタイハには気をつけろっていってたから警 戒してたテチ」 「本当かよ、俺がそんな人間に見えるか?」 ワシワシと頭を撫でると嬉しそうに「チィー♪」と甘える。 テチコはショップで見せてた様子とは打って変わって、本質はやたら気弱な奴 だった。 今でさえ俺に完全に気を許しているのかよくわからない。 なにせ美味しい餌だの綺麗な服だの、物質的な要求を一切してこない。 それでいて排泄の失敗や食べこぼし等の汚染時には過剰なほどに謝ってきた。 ペットショップで何を教わったのかはわからないが…テチコ自身も言っている 通り、やたらと虐待というものを恐れている様子だった。 そのため常に俺の顔色を伺い、気に入られようと必死なのではないかと感じて いた。 飼いやすいは飼いやすいのだが…俺が期待するのはお前の満面の笑顔を写真に 収めることなんだよな。 あのペットショップ時代の明るく楽しそうな表情を見せてもらうためにはどう すればいいか… 放っておいても時間が解決するとは思うが、フォトコンテストには期限がある。 ある程度欲望を解放してもらうために歩み寄るか。 ------------------------------------------------------------------------------- 「テチコ、話がある」 「な、何テチ?」 「これを見てみろ。」 〜実と装 実装石と泊まれる温泉ホテル特集〜 実装石の雑誌の特集だ。一緒に旅行に行って絆を深めればテチコの警戒心も解 けるだろう。 「俺がお前と行こうと思っているのはここだ。部屋に付いている天然温泉で一 緒に温泉に入れるぞ」 「テェ…」 「食事は寿司、ステーキ、コンペイトウ…食べ放題だ」 「テェェ…!」 「アトラクションコーナーも実装石用プール、大型滑り台、実装石用レーシン グコーナーなんてものもあるらしい」 「テェェェ!!!!」 「どうだ?行きたくないか?」 「行きたいテチッ、でもワタチが行ってもいいテチ?」 「もちろんだ。ただし、全力で楽しめるならという条件だ。お前の本心の声が 聞きたい。心の底からの気持ちを言ってみろ。まずは温泉に入りたいか?」 「……入りたいテチ!キレイキレイのぽかぽかになりたいテチ!」 「寿司ステーキコンペイトウは食いたいか?」 「食べたいテチ!!お腹が張り裂けるくらい詰め込むテチ!!!」 「アトラクションで遊びたいか?」 「全部遊びたいテチイイイ!!!ゴシュジンと楽しい時間を過ごしたいテッ チャアアアアア!!」 「ヨシ、じゃあ最短の…えーと、一ヶ月後に予約取るぞ」 「テチャァァァァーゴシュジンありがとテチィィィ」 歓喜の声を上げるテチコ。いい表情が出てきたじゃないか、この調子だ。 それ以来、テチコは以前より大分明るくなった。 俺を信頼してくれるようになった。 びっくりするくらい甘えるようになった。 ここまでうまくテチコの感情を引き出せるとは予想外だ。 全てが、うまく回り始めたと思っていた。 ------------------------------------------------------------------------------- それから俺は毎日シャッターチャンスを逃すまいとカメラを用意してテチコを 撮影するようになった。カメラに対する慣れも必要だ。 テチコは「なんか恥ずかしいテチ」と照れながらもそれに応じた。 自然体じゃなきゃだめだぞと諭しながら撮り続ける。 信頼を得てからはテチコは進んで自分のことを話すことが多くなった。 「ショップに居る時に、お前たち安物は虐待されるために飼われるってお店の ニンゲンさんに脅かされていたテチ。ゴシュジンを疑ってゴメンナサイテチ」 「ワタチは他の実装石の仔の姉代わりだったから必死に笑って必死に元気に振 る舞ってたテチ、今はあの仔達がどうなってるのか気になるテチ」 テチコは本当に性格の良い仔だった。 しかし、ショップで見たときの笑顔は作っていたのか… これからは心の底からの笑顔を撮ってやりたい。 最初は写真の題材としか見てなかったが、テチコを飼ってよかったと心から 思った。 ------------------------------------------------------------------------------- 温泉旅行の1週間前。 ここ暫く、テチコが咳をすることが多くなってきたのが気になった。 エサも水分も摂取する量が減ってきた。 「おいおい、風邪ひいたのか?旅行も近いんだから早く治さないと。」 「ゴメンナサイテチ」 「最近エサもあんまり食べてないじゃないか。せめて水分だけは取るんだ。」 「ゴメンナサイテチ…実は、結構前から…このお家に来た時くらいからもう調 子が悪かったテチ」 「はあ?何で言わないんだよ!いつでも言うタイミングがあっただろうが!」 「ゴメンナサイテチ、ゴメンナサイテチ…」 「うわ、なんか熱いな!熱もあるじゃないか、すぐ病院行くぞ!」 「……はいテチ」 ------------------------------------------------------------------------------- 動物病院に行くとテチコは血をとったりレントゲンを取られたりと各種検査を された。その時に点滴も受けて、多少は体調が良くなったようだった。 そして何か全体的に横柄な態度の太った獣医から診断を受ける。 「これねぇ……ああ、実装リンガルはオフにしたほうがいいよ」 この瞬間、なんとなく察した。テチコの状態はかなり良くないのだろう。 「……!え、はい」 「だいじょうぶテチ、ゴシュジン。一緒に聞くテチ」 「まあ自分が一番わかるわな。これ実装ウィルスに感染してるわ。ペット ショップで買ったんだろ?その時点でもう既に感染ってたんだろうな」 「実装ウィルスって、治るんですか?」 「ウィルス自体は除去できるけど、もうこの段階だと身体は治らないね。仔実 装は病気の進みが早い。実装ウィルス感染個体は、臓器の機能が低下していく んだけど、もう内臓の半分も機能してない。まあ飼い主のあんたじゃなくて、 ショップが悪いよ。ろくに病気の検査もしてなかったんだろう。早めにクレー ム入れたほうがいいよ。それで残りの、大体の余命だけど…」 「余命…!?えっ、ちょっと待ってください!それはいいです!」 「そうか。家で出来ることは鎮静剤と鎮痛剤の内服くらいだよ。はっきり言わ せてもらうと、安楽死を勧めるよ。もうその仔、大分辛いんだろう。目眩や寒 気や嘔吐感でエサを食べるのもきついはずだ」 テチコを見ると、その通りなのだろう。血の通ってないような真っ白な顔で震 えている。 その日のその後のことはあまり記憶にない。 せめて最期に温泉旅行に行かせてやりたい。 完全に俺のエゴだが何か救いを与えてやりたかった。 ------------------------------------------------------------------------------- 次の日、動物病院からもらった薬のおかげで顔色はよくなった。 「本当にゴメンナサイテチ、言い出せなかったテチ。怖かったんテチ」 「………温泉旅行までもうちょっとだ。楽しんでこような」 「楽しみテチィ…」 「今、こんな事を聞くのも何だが…旅行が終わったら…楽になりたいか?」 ペットにこんなことを聞くのもどうかと思うが安楽死の意思を確認する。 「……ワタチ、死にたくないテチ」 「……そうだよな」 暗澹たる気分だった。 ------------------------------------------------------------------------------- テチコはそれから数日で一気に状態が悪くなりエサや薬を受け付けなくなった。 もはや旅行どころではない。 薬をゼリーに溶いて飲ませようとするが身体が受け付けないといった様子で口 から出てきてしまう。 髪は抜けハゲ頭になり、服も糞や吐瀉物で汚れたため脱がせている。 今はタオルだけをかけて横たわっていた。 「ゴシュジン…ゴシュジン…そこに居るテチ?」 「ああ、居るよ」 「温泉旅行、行きたかったテチ…」 「…」 「美味しいもの、いっぱい食べたかったテチ…」 「…」 「ゴシュジンと楽しく幸せに生きたかったテチ…」 「そうだな…」 「ゴシュジン、嫌テチ、こんなの。悪い夢テチ」 「…」 俺は何も言えず、テチコのはげあがった頭を撫でる。 「死にたくないテチュ…」 テチコは息を思い切り吸い込むと、自分の運命を恨み、憎むように声をあげる。 「ワタチ死にたくないテチ…!シアワセがこれからいっぱいあるはずだったテ チィ…!」 「お、おい…無理するな」 「絶対に死にたくないテチィィィ!!生きるテチィ!!!!コドモもいっぱい 産んでこのお家をワタチの仔でいっぱいにするんテチィ!!!!」 テチコは四つん這いになり身体を起こし、目を釣り上がらせて血の涙を流しな がら、魂を吐くように感情を露わにする。 ついさっきまで弱ってて呼吸をするのも一苦労といった状態だったテチコの豹 変っぷりに面食らう。 しかし思考がついていく前に俺の身体は動いていた。流れるような動作でカメ ラを構え、テチコに向かってシャッターを切る。 (パシャリ) 「絶対に!生きる!…テチャァ…!ゴボッ!ゴボォォォ…!!!!」 テチコは力尽きたように突っ伏して、口から粘り気の強い黒い血を吐き、二度 と動くことはなかった。 ------------------------------------------------------------------------------- 『第13回 実と装 虐待・飼い部門 大賞 双葉としあきさん』 『題「生に執着する糞蟲」』 『論評:糞蟲の絶望の深さと生き汚さが一枚で伝わってくる。質の高い「上 げ」と「落とし」を感じさせる作品。』 「ありがとうテチコ…大賞とったよ。そしてこんなタイトルで応募して本当に すまん。でもほら…この写真の感じ、このタイトルにすると完璧に合ってたん だよ…」 ちなみに贖罪のために新しい実装石を買おうと出かけると、例の実装石専門ペ ットショップは既に潰れていた。 (終)

| 1 Re: Name:匿名石 2023/08/30-07:23:47 No:00007900[申告] |
| すごく面白かったです
果たせなかった約束、テチコの魂の叫びと無情な写真のタイトル・評価コメントが素晴らしい… |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/08/30-08:55:11 No:00007901[申告] |
| 「ほのぼの・野良」「虐待・野良」「ほのぼの・飼い」「虐待・飼い」の4部門だとすると
テチコには可哀想だけど飼い主の部門選択は間違ってなかった… |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/08/30-17:06:15 No:00007905[申告] |
| ハッピーヱンドで良かったテチ |
| 4 Re: Name:匿名石 2023/08/30-17:20:57 No:00007906[申告] |
| テチコ視点だと不調を告げなかったという落ち度があって(実際告げてたら処分されてたんだろうけど)
だれも責めることのできない完璧な上げ落としになってるんだなぁ そりゃ大賞も取ろう |
| 5 Re: Name:匿名石 2023/08/30-19:57:25 No:00007909[申告] |
| ゴシュジン中々悪意のない畜生っぷり
希望をぶら下げる事で虐待派もそうそうお目にかかれない壮絶死を与えてるのはある意味凄い |
| 6 Re: Name:匿名石 2023/10/07-16:00:53 No:00008083[申告] |
| 愛護オチではないと思ったけどそうなるかーってなった
良い構成してる |