生き延びる 4 前回までのあらすじ 無事越冬に成功したジッ君であったが やはり雑木林の周囲には食糧となる物が無く 再び人里に下りて食べ物を探すことにした だが春先と言う事で作物の多くはこれから成長していく物が多く また見慣れない春野菜はどれが食べられるのか分からず 途方に暮れていた 一計を案じ畑でのニンゲンの様子を臭いの変化から伺い 食べられるものを割り出し食いつないでいった 季節は再び夏を迎え食べ慣れた作物が実りつつあった だが例年にない酷暑のため水の確保にも忙殺されることになる またこれまでは畑を荒らす度に設けた隠れ家を放棄していたのだが 構築にかかる時間と手間 そして隠れ家に適した所が減っている事もあり行動の見直しをする ある日のこと風に乗って昨年食べて一番美味しかったトマトの匂いを感じ 早速準備を整え偵察に出掛けるのであった ***************************************************** 今の季節は日がなかなか沈まずそして夜明けが早い 早く出たくて仕方が無くてウズウズしているというのに 夕日はまだ山の向こうで空を茜色に染めている やっと空が暗くなったころ大急ぎで臭いが流れてきた方向に進んでいく まずは最寄りの前線基地へと向かった ここの前線基地はニンゲンが色々な物を持ち込んで積み上げている所だった 積み上げていると言っても雑に積んでいるせいで ワタシが出入りできるくらいの隙間が多く空いている だが絶妙に入り組んでいる事もあり外から中の様子は見ることができない 隠れ家として一時的に使う分にはなんら困る事は無かった 何時もの通り次の夜まで潜伏したのち偵察を開始した 臭いを辿って進んでいくと小さいながらも真っ赤に熟れた実が 鈴なりになっている畑に出た 間違いないあの時食べたとっても甘いトマトだ 今すぐにでも侵入しありったけの数を食べてしまいたい衝動を抑え 一旦畑から離れ周囲の逃走経路の確認をする またついでに見慣れない物が取り付けられてないかも見て回った 前回のような不思議な機械は無く また罠を仕掛けているような痕跡や不自然な人の臭いはしなかった 一通り見回ったあと前線基地へと戻った 前線基地に戻り休息を取った後 今一度侵入口と脱出経路の確認とイメージトレーニングを行った 現場で食べる行為は時間ロスが多い 今回は作物の蒐集にのみ専念し速やかに脱出する事にした ***************************************************** そして日が沈み夜の帳が降りて行った 辺りを注意深く観察し異常が無い事を確認すると 暗闇に紛れて畑へと侵入した 畑を見渡すと夜露が付着し月夜に照らされた赤い実がキラキラと輝いていて 思わずその綺麗な光景をうっとりと眺めてしまった 「ハッ何をしているデス!早く集めてここを脱出しないとデス」 ワタシは慌てて蒐集を開始した 持参した袋が満杯になるのにさほどの時間はかからなかった 前線基地に戻ると張りつめていた緊張がほぐれ全身の力が抜けた こんなに緊張したのも久しぶりであった だがその甲斐あってあの夢にも見た極甘トマトが手に入ったのだから そして戦果を確認する意味もあり一つ食べてみた ああ…あの時と同じだ…甘いひたすらに甘い… そして甘さの跡に優しくやって来る心地よい酸味 「ああ…最高デスゥ」 気が付いたらワタシは泣いていた 食べ物のおいしさでここまで感動したのは生まれて初めての体験だった ***************************************************** 拠点に戻りそれから数日間は極甘トマトを存分に楽しんだ そして食べ尽くして次の前線基地への移動を考えていた時だった あの極甘トマトの畑の方からの臭いにいつもと違うものを感じた あれから既に三日は経過している なのに人間が複数訪れたり罠を仕掛けたような臭いがしてこないのだ こんな事は初めてであった 「しばらく様子を見るデス」 そして今度は正反対の方向にある前線基地に向かった 三日後戦利品のキュウリを抱えて拠点に戻り 気になっていたので極甘トマトの方角の臭いを嗅いでみた 相変わらずこれと言った変化はない 翌日の夜 危険を承知で放棄した前線基地へと向かい潜伏 次の日の夜に偵察に出掛けた 恐る恐る畑に侵入するとそこには既に収穫を終えた光景が広がっていた 成程…特に騒ぐことなく残っていた実を全て収穫して 盗まれないようにしたと言うのか これなら罠とか仕掛ける以前の問題である あわよくばもう一度味わえるかもという 淡い希望を絶たれてガッカリしたが ふと反対側にまだ一棟ほど収穫していない所がある事に気が付いた 何かの罠かもと辺りを警戒したが何も仕掛けた様子は無かった 念のため毒見もしてみたが味に異常は無く 安全を確認したワタシは極甘トマトを袋一杯に集めて立ち去った ***************************************************** 再び拠点に戻り集めた極甘トマトを食べながら数日を過ごした いくら食べても飽きることが無い本当に美味しいトマトだ そして持ち帰った分を食べ尽くしてしまい そろそろ他に移動する頃合いだと言うのに まだ残っている極甘トマトに未練が生じてそんな気になれなかった 「こうなったら残りを全て食べ尽くしてから移動するデス」 こうしてワタシは三度前線基地に移動した それからの毎日は前線基地とトマト畑の往復であった だが不思議な事にこれだけ食べに通っているのに 一度も怪しい臭いや罠を仕掛けた痕跡を見ることが無かった 「もしかしてここに残されているのはワタシの為に ワザと残している物かも知れないデス」 もし本当にそうならば有難い事である ワタシは農家の人の優しい心遣いに感謝した 数日後いよいよその時が来た 今夜であの畑の極甘トマトは全て食べ尽くしてしまう そうしたらこの畑とはオサラバになる そしてワタシは畑にと向かった ここに通うのもすっかり慣れてきた気がする それでも周囲の警戒は怠らないようにしているが いつも通り異常は感じなかった 最後のトマトが成っている棚に悠然と近づき その実を取ろうと足を踏み出した時であった 突然足元が崩れワタシ体はまっすぐに落ちて行った 一瞬何が起きたが分からず呆然とした そして自分は罠にかかったのだと言う事を理解した 何とか脱出しようと試みたが胴体がすっぽりとハマって 抜けなくなっていて 腕を動かそうにも穴が深いせいでバンザイのようなポーズで 引っ掛かっていて動かすことが出来なくなっていた 暫くするとニンゲンが集まって来た 最早これまでだ ワタシはこのまま捕まり殺されてしまうだろう もう御主人様に会う事は叶わない 約束を果たせなかったことがただひたすらに無念だった 穴から乱暴に引きずり出されなすがままに 檻の中に放り込まれようとしてたその時だった 遠くの方から聞き覚えのある音が聞こえてきたのだ あれは御主人様が乗っている車の音だ間違えるはずが無い そうワタシを迎えにやってきたのだ それはまさに奇跡であった ***************************************************** 再びワタシの体に力がみなぎって来る 自分でも信じられない力で押さえつけていた手を振りほどき 全力で御主人様の車の元へと駆け寄った 見覚えのある車のライトが近づいて来る もう御主人様からも私の姿が見えているはず ワタシは大声で叫んだ 「御主人様ぁぁぁぁぁワタシはここデスゥゥゥ言いつけを守って 今日のこの日を待っていたデスゥ」 だが車が止まる気配が無いそれどころかどんどん近づいて来る 身の危険を感じて退避しようと思ったがもう遅かった 体に強い衝撃が伝わり全身の骨が砕ける音が響いた そして体がねじれながら飛んでいくのが まるてスローモーションのような感覚で全て伝わってきた そしてワタシの意識は暗い闇に沈んでいった 終

| 1 Re: Name:匿名石 2023/08/29-07:40:50 No:00007883[申告] |
| 残してあるトマトを罠でなく貢物の様に感じてるのがどこまでいっても実装石って感じだよな救えない
自身に好意を持つ農家なんて存在する訳ないし、たとえ轢かれなかったとして無責任主人が何事も無く連れ帰る事は不可能だったろうね |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/08/29-10:07:46 No:00007884[申告] |
| 楽しく読ませていただきました
最後に幸せ回路全開で自滅するのが実装石らしくて良いですね |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/08/29-13:38:43 No:00007885[申告] |
| 人間からすると中途半端に頭がいいタチの悪い害獣だしこんなのが増えないように不妊処理してあったのは不幸中の幸いだね |
| 4 Re: Name:匿名石 2023/08/29-14:57:38 No:00007886[申告] |
| 彼女なりに頑張ったけど人間にとっては害獣でしかないから死ぬしか無いの哀しいなあ
本当に迎えに来た御主人様に轢き殺されるの芸術的 |