「飼ってチ!飼ってチ!」 今日の公園も、野良実装の仔がやかましい。 しかし俺に声を掛けたことを後悔させてやる……いくらかの幸福の後でな! 「……オマエ一匹だけなら飼ってやってもいいが、いくつか条件がある」 「なんでもいうこと聞くから飼ってチ!」 条件を聞く前にこの反応……俺が『この場で死んでくれたら飼ってやるから死んでくれ』と言いだしたらどうする気だコイツ? そんなことを思いながら言葉を続ける。 「まず一つ、子供は作らせねえ……どんな理由があっても見つけ次第ブチ殺す、作った奴ごとな」 「テェ……」 固まる。 そりゃそうだろう、実装石にとっては存在意義の大半を否定するような条件だ。 「俺はこういう男だ、それでも飼われたいか?」 しばしの沈黙、そして……。 「……飼ってチ!」 両手を振り上げて、そいつは叫んだ。 高性能高精度なリンガルの翻訳だ、意図に齟齬はないと断言していいだろう。 どんな思惑か知らないが、承諾したようなので話を続ける。 「じゃあついてこい、自分の足でな……それが第2の条件だ」 そう告げて、俺は早足で歩き出す。 振り返ることなどない。 「待ってチィィィ……」 段々と小さくなる声を後に、俺は家へと向かった。 帰宅後、チンタラ画像掲示板を見ていると、玄関からなにやら音が聞こえる。 「来たか」 席を立ち玄関のドアを開けると、そこには昼間の野良実装がいた。 本当に一匹で来たらしい。 家族が全滅したのかも知れないが律儀なことだ。 「ヤクソクまもったチ……飼ってチ……」 言い方からすると、本当に一匹だけでやってきたのかと少しだけ見方を改める。 とはいえ、条件の緩和なんて話には繋がらないが、気分的には悪くない。 案外『目的』に近い個体かもしれないと思えたからだ。 「よく来たな……約束通り飼ってやるが、もう一つだけ条件がある」 「……テェ?」 「この扉の横に、小さいドアがあるだろう?」 仔実装は男が指差した方を見た。 確かにそこにもドアのようなものがあった。 「この首輪があればそのドアは開く……お前がその扉を潜れる間はきっちり面倒見てやろう」 犬猫用のICタグと連動する小型のドアだ。男はタグのついた首輪を見せながら、告げた。 「テチ!」 二つ返事とはこのことか。返事に迷いも澱みもない。 実際ここにあるのは、何の変哲もない小型のドアでしかないのだから当然だろう。 この仔実装の大きさなら問題なく通れるだろう。 この大きさなら、な……。 「じゃあまず風呂だ……その汚い体で歩き回られたらたまったもんじゃないからな」 そう言うと男は、野良仔実装を風呂に連れて行った。 厳密に言えば、元野良仔実装か。 この瞬間から、間違いなく飼い実装ではあるのだから。 ……男が与えた条件を満たしている限りは。 男が風呂の後に仔実装に与えたのはICタグ付き首輪に寝床、そして実装フード。 もちろん、毒などは一切入っていない。 栄養たっぷりで美味なものだ……なにせベースが高級実装フード「ジッちゅ~る」 不味かろうはずもない。 そこに多量の成長促進剤を入れたものがその正体だ。 実装石は食欲旺盛で、餌がある限り食べる。 野良が大量の餌を与えられ、食べ過ぎの余り腹が破裂して死んだなんてのも珍しい話ではない。 そんな元野良仔実装に、男は約束通りに山ほどのフードを与え続けた……。 この行為、今回が初回というわけではない。 実のところ、これまでに何度も行ってきたことだ。 男が知りたいのは「実装石が自発的にどれだけ我慢ができるか」ということなのだ。 栄養豊富な餌に成長促進剤……何も起きないはずはずもなく……。 男のところに来た仔は平均1か月でドアを通れなくなっていた。 早い奴だと三日も持たなかったのがいたか。 というわけで、こいつがどれだけ持つか……男はそれを知りたいのだ。 男は約束を守る。 餌も寝床も与えるし、虐待らしい虐待もしない。 ただ、扉は中実装でギリギリ、成体だと痩せていないと厳しいか?位のサイズなのだ。 節度さえあれば乗り切れる……それがあるかを男は知りたいのだ。 節度……それは知性の有無の境界線。 栄養たっぷりの高級フードに成長促進剤、放っておいても体はどんどん大きくなる。 本当に凡庸な個体は、何も考えずに食べ続けてあっという間にドアを潜れなくなる。 多少優秀な個体は、ある時を境に日々大きくなっていく体に危機感を覚え、餌の摂取を控えようとする。 控えようとするが……この男の行為を前に、それを態度で示せたものは一匹もいなかった。 結局は支給されるままに喰らい続け、その日を迎えるのだ。 ある実装は、ドアでつっかえた状態でオアイソをかまして助けを求めてきた。 またある実装は、面倒を見られなくなる=捨てられるという恐怖心から全力を振り絞って脱出しようとした結果、 上半身と下半身が分かたれることになった。 他にも呆けるもの、キレて暴れるもの、ひたすらに涙を流すもの……さまざまな答えを見せてくれた。 だからこそ、男は知りたいのだ。 『節度』という、ある意味実装石から最も離れた素養を見せてくれる個体がいるのかを。 がっつく仔実装を前に、男はカレンダーに○と文字を書いた。 『飼育開始 1日目』 さて、今回の飼育結果の公表前に、男が出した条件についての意味合いを説明していきたい。 『オマエ一匹だけなら飼ってやる』には、二通りの意味がある。 一つは、家族ごと面倒を見てやるつもりなど更々ないという宣言だ。 一匹だけと伝えておいたのに一族郎党やってくる連中が後を絶たないが、この手合いは総じて糞蟲ばかりで試す意味もないからだ。 答えの分かりきっている実験に意味などない。この場合は粛々と処断するだけだった。 もう一つの意味は、純粋に男の金の問題。 高級だけあって『ジッちゅ~る』は高い。成長促進剤も安くない。金には限りがあるのだ……。 同時多頭飼いはしないのが男の決めたマイルール、ということだ。 『子を作ったら殺す』も、ここに掛かっているわけだ。 連中の根源願望を押さえつける意味合いとの相性もいい。 『自分の足で歩いてこい』は、知力体力時の運を試すテストだ。 足早に去る相手を効率的に追いかけられるか? 嗅覚は効くか? 生き延びるために遮二無二なれるか? そういった点の判断材料になる。 単に救って連れ帰ると、それがある種の成功体験になるせいか甘えに出る個体が多いと気づき、導入したルールだった。 それに道中で死ぬ程度の運しかないなら、どのみち長生きはできないだろう。 それが実装石の一生というものだ……。 そして時は流れた……。 『飼育 365日目』 「ただいま」 カレンダーに、日課として文字と○を書き込む。 「オカエリナサイデス、ゴシュジンサマ」 件のそいつは、まだ生きていた。 365日……一年を生きた立派な成体実装になっていた。 成長促進剤をブチ込みまくった餌をこれほどかと言うほど食べたのに、まだあの扉を潜れるのだ。 信じがたいことに……。 出迎えに出てきたそいつがのったのったと歩き回る姿は、まるでウナギに手足がついているかのようだった。 成長促進剤は効いたのだ、縦方向『だけ』に……。 男の実験はLONG CATのような実装石……極度に胴長の『LONG JISSOU』を生み出してしまったのだ。 生への執念か、はたまた生まれ持った素質なのかはわからないが……そいつは縦方向にだけ伸び続けた。 今では、脇の下に手を突っ込んで持ち上げても男では全身を持ち上げることもできないほどに長くなっていた。 面白半分の男の実験は、トンデモ変異種を誕生させてしまったのだった……。 ドアを潜れる以上、こいつには飼い実装であり続ける権利がある。 このデタラメ加減もまたよし……と勝手に納得する。 男が見たかった『節度』は見られなかったが、嫌というほど『可能性』は見せられた訳だから。 それにこの先、横にも大きくなっていくかもしれない。 誰も観たことがない長さに育った実装石だ、誰がこれ以上横にも大きくならないと保証するというのだ? ひとまず子作り厳禁にしておいてよかったなあとの安堵の思いを胸に、今日も男は成長促進剤を混ぜたフードをたんまりと与えるのであった……。 やめよう 覚悟のない実験飼育

| 1 Re: Name:匿名石 2023/08/23-21:39:53 No:00007830[申告] |
| 期待した結果を予想斜めに切り抜けたのが気に食わなくて殺す様な、実装石と言ってる事が大差無い虐待師も居るのでこう言う美学のある虐待師好き |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/08/24-00:38:47 No:00007831[申告] |
| 設けられたルールにちゃんと意味があるのがいいね
経験をもとに洗練された虐待は見ていて美しい おまけに文章まで綺麗にまとまってて読みやすいし |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/08/24-17:53:26 No:00007836[申告] |
| 最後のあたりは「世にも奇妙な物語のテーマ」が脳内再生される
でも最後はほのぼの感もあって好き! |
| 4 Re: Name:匿名石 2023/08/25-06:13:06 No:00007840[申告] |
| 結果は求めてた解法ではなくてもむしろ面白がれるだろ実験派なら
そもそも憎悪や嫌悪で虐待してるのと目的が違うし 実験派って潰す事自体が目的でない場合なんだかんだで面倒は見続けるイメージがある |