光 る 目 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ある大学の名目ばかりのスキーサークルに所属して夏休みに暇をもてあます4人の男女は、 納涼百物語で酔いを醒まし、その勢いも手伝って、 最近、不審な事故や行方不明者の出ると言う近くの旧道トンネルに肝試しに向かった。 お供は2匹の実蒼石…。 所詮は実装石が住処にして、それに驚いたヤツの話だろう… そう思って、深夜のトンネルを進んだ彼らは、トンネルで奇妙な実装石の群れの行動に遭遇する。 そして、無数の目を持つ異形な存在”カオス実装”に遭遇する。 人間すら凌駕するカオスに対し、連れの2匹の実蒼石は善戦し、 苦戦しながらもカオスを倒してしまった。 誰もが全てが終わったと思ったとき、 戦闘体勢を崩さない実蒼石と、その視線の先に、中に漂う無数の”光る目”が姿を現した。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 全てが終わったと思った俺達の前には、 再び闇の奥に無数の光る目が漂っていた。 実蒼石ブルー達は、この気配を感じて、匂いを感じて、疲れた身体で戦闘姿勢を維持していたのだ。 闇の奥から無数の目がゆっくりとはっきりと光って近づいてくる。 俺達はその圧倒的恐怖にライトでそれを照らすことも出来ない。 先ほどの戦いで、ブルーⅣは負傷しているし、ブルーⅢも疲労している。 いくら戦う本能に特化し、その本能を満たせる戦闘能力を与えられているとはいえ、 あれほどの戦いの疲労も癒えないまま、同じ相手と戦えば結果は目に見えている。 それでも、ブルー達が戦意を失わないのは、まさに、戦う為の実装シリーズたる実蒼石の本能がなせる技だ。 「ブルーⅢ・Ⅳ!!逃げるんだ!」 ”戦いから逃げる”それは実蒼石が絶対に拒否する命令だ。 しかし、としあきは実装笛を吹いて何度も命令する。 実装笛は、実装音叉の様に、偽石にだけ作用する音波を出す。 弱い音波で刺激して、命令を実行させる”犬笛”と同じような調教用具だ。 特に戦闘的で戦いとなると命令を無視しがちな実蒼石に命令を伝えるには最適だ。 やがて、迫り来るカオスに戦闘姿勢を崩さないまま、ブルー達は後退し始める。 程よい距離で、俺ととしあきが、それぞれブルーを後ろから抱えて、 4人で一気に元来た道を引き返す。 カラン… 俺が抱いたブルーⅣの首から、割れた自発光スティックの首輪が落ちる。 大丈夫…射程に入らなければ、カオスの動きは鈍い。 噂が広まると言う事は、あの”光る目”をみて逃げられた人間が居ると言う事だ。 俺達は足元が良く見えないながらも、緩やかにカーブを描くトンネルを全力で引き返す。 パニックで逃げ惑う実装石の一群にすぐに追いついたようだ。 「デスゥゥゥゥゥゥ」 「デビィィィデビィィィィ…」 「レチァァァァァァァ」 狂ったように走り、仲間を蹴り倒してでも進もうとする実装石たちを、 俺達は更に蹴りつぶしながら追い抜いて逃げる。 とにかく、走り続けた。 僅か300mのトンネルを途中で引き返すわけだから、 実際には200m程度だろう。 俺達はそう思い走り続けた。 足場が悪いところが時々ある。 なぜ足場が悪いかなんて考える暇もない。 ただ、俺は不思議と ”来るときにはこんなに滑りやすいところなんてなかったのに”と考える余裕はあった。 そして、再び、”こちらに向かって”ひれ伏す実装石の一団に遭遇し、 それを踏み越えて走る。 踏み越えた先には再びパニックの一団が見える。 パニックで交錯したりしたのか、大量の実装石が既に潰れているので、先程よりは遥かに走りやすくなっている。 ”まったく、どれだけ住み着いているんだ…” 俺はそんな事を考えながら走る。 話す暇もないが、みんなそう思っているようなのは目線や表情でわかる。 走る速度は、障害物(実装石)に当たる度に鈍るが、少しでも出口に近づく為に足を動かし続けた。 女性陣が動きやすいジーンズやパンツスタイルだったのも幸いして、足場が悪くても遅れることはない。 全員、足元を緑に染めながら走る。 はぁ…はぁ… 荒い息が聞こえる。 他人の息など耳には入らない。 自分の呼吸が上がってそれしか聞こえない。 嫌気がさすとはこの事だ…。 なんど、闇の中であの実装石の姿を見て、踏み越えればいいんだ? 女性陣が止まる。 俺たちも止まって、疲れた女性陣の視線の先を見る。 その先にはまたもパニックにバタバタと騒がしい実装石が居る。 ギャギャーと喚いて泣いて、走り回り、勝手に他人や壁にぶつかって倒れ、 怪我をしたり、他の実装石に踏まれたりしている。 「テペラテペラテペラァァァァ…プアパパパパパ」 その喧騒をボーッとして眺めて狂った笑いを浮かべているものも居る。 「レリュ♪リュリュリュ♪レチュラァー」 既に”のしいか”のように潰れた実装石の手を握って、さかんに媚を売る幼児退行した実装石もいる。 「デ…デ…ス」「テチュ〜♪テチュテチュゥゥゥゥン♪」 頭を踏まれて言葉も出せないまま、股を開いて排泄口に手を突っ込んでいる実装石親仔もいる。 「デギギィィィデピェェェェ…」「(ムグ…ムグ…)レェフゥゥゥゥテヒェェェェェ」 ひたすら、自分の髪を引きちぎり、引き抜いて、他の実装石の口に押し込んでいるヤツも居る。 「デスゥ♪デッスゥゥゥゥゥン♪」 そして、大量の死骸を無心に貪り食うヤツもいる。 とにかく判るのは、人間の目線で見れば”地獄絵図”が展開されている。 それも、見て判るほど実装石達は狂っている。 もはや、正常な実装語ではないと判る叫びや笑いが木霊している。 公園でも、これほど醜い状態は見た事がないという光景だ。 「なによ…これ…」 「どれだけ走ったと思ってるのよ…なんで、こんなに暗いのよ!」 叫びたくなるのも判る… 入り口付近は、トンネルの電灯も、まだ十分な明るさを提供するぐらいに点いていた。 ここには未だに光と言えば自分達の蛍光灯やライトの明かりしかない。 それに、もう十分なほど走り続けたはずだ。 それなのに出口の出の字も見えてこない。 そう…まるで”先程から同じ場所”をひたすら走っていた様な感覚…。 ふと、俺は後ろを振り返る。 何かに祈りをささげる実装石の群れが見え、 ソイツらと俺達の間には、大量の実装石の肉片と体液があり、そこに淡い光を放つ輪が落ちている。 俺は再び、混乱する実装石達を見る。 その死体の大半には、幾重にも足跡がついている。 人間の靴の後… それも同じ4人分の靴跡が何重にも重なってついている。 「俺たち…同じところを回っている…」 俺は、力なく座り込み、手に抱いたブルーⅣを降ろす。 ブルーⅣが、俺の背に足を引き摺りながら回りこんだ。 「馬鹿な…そんな馬鹿な話が現実に…」 俺はそちらを見ずに指差す。 背中に感じる薄ら寒い威圧感に向かって…。 それは、俺の背で威嚇姿勢をとっているだろうブルーⅣの目線と同じはずだ。 「うそだ…」 「ウソ…」 「そんな…」 信じたくない…でも、現実として俺達は同じところを回って、 先程の場所から殆ど動いていない場所に疲れて座り込んだのだ。 「「デェェェェェズゥゥゥゥゥゥ」」 カオスは超常的存在…何も知られていない。 次元や空間すら歪めているのか…。 としあきの手からブルーⅢが飛び降りると、やはり、そちらに向かって鋏を構える。 俺もゆっくりとそちらに顔を向ける。 確かに闇に漂う”光る目”が浮かんでいる。 としあきが、ポケットから鍵を取り出して右手に握る。 拳の隙間から鍵が出ている。 そして、意を決したように立ち上がる。 「こうなりゃ、こいつを倒し切ってしまうしか逃げる手段はないみたいだな… あいつを照らしていてくれ…頼む」 「やめろ、としあき…あいつは…」 「ウアアアアアアア!!」 追い詰められたとき、人間の攻撃衝動は始めて臨海を突破する。 ブルーⅢが先行し、ブルーⅣもとても怪我をしているとは思えない動きで駆け出す。 そして、としあきも駆け出す。 歩幅が大きいだけに、直線距離だけならブルー達にも負けない。 「「ブベボァァァァァァァァァァァァ」」 カオスの叫びが響くと、2匹と1人の動きが止まる。 何か様子が変だ。 カオスの目が次々に闇に消えていく。 ズズズゥゥゥゥゥ… カオスは緩やかに地面に落ちていく。 その目の光が全て消えてしまった後、再び、カオスの無数の目が光る。 淡い淡い…白い光が、カオスの赤と緑の目のあった場所から光を放っている。 ライトを向けるとキラリとキレイな反射の光を見せる。 それは、ガラスのような… それは、宝石のような… 透き通った水晶の光だと気がついたとき、 「トウサマ…イソ…カワイソー」 弱々しい、それで居て落ち着いた声が洞窟に響く。 パン! それと共にカオスの肉が一瞬にして弾け、 そこには巨大な、偽石より美しい透明の巨大な水晶がゴロリと転がる。 中には巨大なカオスの偽石が、まだ、エメラルドの様な緑の光を放ったまま内包されている。 実装石達は、それを見てブビィーと一斉に糞をまいて、 天を仰ぐと一斉に胸部や頭部が破裂して死に至った。 薔薇実装…。 俺はそう思ったが訂正した。 薔薇実装…実装薔薇とも呼ばれる実装は、非常に危険だといわれている。 しかし、こいつは薔薇実装ではない…。 より危険な”存在”だ。 薔薇実装の出す水晶は淡い紫と言われている。 この水晶は無色透明…。 そして、幽霊のように白い衣装に、印象的な薔薇…。 噂に聞く…雪華実装…。 『私の眠りを妨げるのは貴方達ね…こんな薄汚いモノを寄越して私をまた眠らせようとするのね… 身勝手だわ…ニンゲンの分際で』 キラ…隻眼の左目が光っている。 闇の中に一際、妖しい光を放って…。 カオスではない… この現象は雪華実装が起していたのだ。 あの2体のカオス実装は、雪華実装と戦っていたのだ。 実装石達は、”目を覚ました”雪華実装のこの寝床に、無断で足を踏み入れ捕食されていた。 そして、そこへ次から次へと実装石が送り込まれ、 実装石達は逃れられない空間で恐怖の果てに狂ったまま共食いを続け、 狂気のカオス融合をしたのだ。 2体のカオス実装は、実装石達の神として雪華実装と延々と戦い続けた。 延々と送り込まれる実装石達を吸収して回復しながら交互に戦っていたのだ。 実装石達は災厄が去るように、いつしかその神に祈り、身を捧げていたのだ。 ヤツらは、その神の死を目の当たりにして絶望の果てに偽石が破裂したのだ。 俺の脳裏に直接、その情報が送り込まれてくる。 雪華実装は怒っているのだ。 封印された怒り、眠りを覚まされた怒り、実装石達や人間達への怒り、 その怒りの感情と共に、どんどん情報が遡る。 雪華実装が起きている時間、無断で、この寝床に足を踏み入れるものは容赦なく捕食された。 雪華実装は、肉ではなく魂を食べている。 では、誰が、その雪華の眠りを覚ましたのか…。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ワゴンに乗った大勢の男が見える。 「本当にあるのか?」 「あるとも、伝承によれば、この近辺で昔から”神隠し”や”雪女”伝説が確かにあったんだ。 この旧道は戦後に作られたけど、その前にはここに”神隠し”を封じた祠が祭られてたって。 その祠の周りで霊的現象を暗示する言い伝えが残っているのさ。 白い女性の幽霊が出て、雪様と呼ばれてたらしい。 同時に、ここが開発される前の山村では”雪女伝説”が昔話にあるんだよ。 神隠しに、雪様に、雪女…どうだ?」 「もし、祠を見つけたらそれだけでも大変な資料だとは思わないか? 伝承と史実を少なからず結びつける」 「こんな身近にねぇ」 「なんでまた、こんな小さい山で雪女伝説があるのかねぇ」 「ここも開発されたのは最近だし、開発ったって、ウチの大学ぐらいしかないじゃないか? それまでは十分山奥だし、雪も多いぜ」 ああ…オカ研の連中だ。 オカ研の連中は、この山に祭られていた、雪華の寝床を暴いてしまったんだな…。 山の中で祠を見つけ出し、大騒ぎで中を暴いて、それを写真に収めてたんだ。 そこに雪華実装が”封印”されているとも知らず…。 寝床から解き放たれた雪華は、眠りを妨げられ、怒り、彼らを殺し、 近くの夜に人が通らないこの旧道を寝床に定めた。 長い封印で力を失った雪華は、実装石を襲って飢えを凌いだ。 しかし、人間達がその眠りを妨げた。 あるものは、無意味に彼女の眠りを妨げ怒りを買った。 しばらくして彼女の力を再び弱めようと大量の実装石を送り込む人間が現れた。 怒りを買ったのは、俺たちと同じく、面白半分で噂を信じて来た行方不明者たちだ。 なら、雪華の存在を知って、実装石を送り込んで、強制的にカオス実装を生み出し、 雪華と戦わせていた人間とは何者なのだろうか? −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ふと、意識が戻った。 俺…俺達は、雪華実装に完全に意識を乗っ取られ、 事の全てを見せられたのだ。 「きゃぁぁぁ…ブルーⅣちゃん!!」 玲子の悲鳴が響く。 ブルーⅣは、完全に全身を水晶に取り込まれていた。 まるで氷の様に透き通った水晶に、氷漬けの標本の様に閉じ込められていた。 既に2本の水晶がブルーⅣの胴体を上下2つに両断して、 その瞬間の情景をオブジェの様に封じ込めたのだ。 これが、伝説の雪女…雪華実装の圧倒的な力だ。 「ち・畜生!!みんな、逃げろ!」 そう言うと、としあきとブルーⅢが再び、今度は雪華実装に向かっていく。 悔しいが、俺は身動きできなかった。 「いやぁぁぁぁぁぁ」 怖がりの明美が叫びながら闇に去っていく。 「うおおおお…ぐっ…」 雄叫びを上げたとしあきの動きが止まる。 太股から血が噴出し、水晶が槍のようにとしあきの大腿部を貫通している。 「イソ…カワイソ」 雪華実装の目が再び妖しく光る。 声に遅れて、頭に直接女性の声が響く。 『ニンゲンの恐れは美味しいわ…さぁ、私を満たして頂戴』 ザクザク…何本もの水晶の槍がとしあきの腕や腹を貫く。 雪華は、わざと急所を外しているのだ。 「ボクゥゥゥゥゥゥ!」 ブルーⅢが、細いガードレールの上を駆け抜けていく。 僅か数ミリの厚さのガードレールの縁を足場に全力で走る。 まさに妙技と言うべき技だ。 そして、再び、ガードレールから跳躍すると、天井を蹴り矢のように落ちる。 カオスを倒したブルーⅢの必殺技だ。 カキィィィィィィィン… 激しい金属音と火花が舞った。 そして、粉雪の様に水晶の破片が闇に光を放って舞った。 雪華は地面から水晶を出して、ブルーⅢの必殺の一撃を交わしたのだ。 ブルーⅢの一撃は水晶に受け流され、水晶を破壊したが、 その分、威力を殺され、軌道を逸らされ、 いくらブルーⅢが瞬時に修正しても鋏の刃は雪華に僅かに届かず、アスファルトを打って再び火花を上げる。 ブルーⅢの鋏はその衝撃で、取っ手を残して粉々に砕けてしまった。 いくら、実蒼石の鋏がそれほど強度の高いものではないにしても、 威力を流されてもなお、キレイに砕けるほどのまさに”必殺の一撃”だったのだ。 「トウ!トウサマ!カワイソー」 『おのれ!…タロウの子孫め!またも私の邪魔をするの!』 カキンカキンカキン! 雪華が狂ったように水晶を作り出す。 ブルーⅢは、必殺の一撃がかわされ、体勢を崩しながらもそれを回避していく。 それでも、無数の水晶の矢をいくつか受けて、俺のほうまで飛ばされてくる。 俺は無心で、そのブルーⅢを抱きかかえる。 「ブルゥゥゥスリィィィィィ!」 そして、駆け出そうとする…雪華の居ない闇に向かって。 「玲子!逃げるぞ!」 しかし、玲子は逃げなかった。 多機能ライトを頭に掲げて雪華に向かっていく。 その目は恐怖に支配され、正常な判断の出来ない目だった。 「こぉのぉぉぉぉぉバケモノぉぉぉぉぉぉ」 俺はそれを追わずに闇に逃げた。 「きやぁぁぁぁぁぁぁ」 「ぐぁぁぁぁぁぁぁ」 闇に逃げた俺に2つの絶叫が木霊する。 雪女に、人間が挑んでも土台無理なのだ。 氷漬け…いや、水晶漬けにされるだけだ。 俺はとにかく逃げた。 俺は酷い男だ。 仲間を…女性をも…見捨てて逃げたのだ。 しかし、だからといって俺が助かるとも限らない。 この無限の闇を雪華が作っているなら、ここが雪華の安眠の場所…空間の捻じ曲がりなら、 俺は逃げたところで、出られる可能性などない。 ここに送られた実装石たちと同じなのだ。 なら、逃げずに立ち向かった方が、まだ俺自身の精神衛生上どれだけ良かったのだろうな? だが、俺を闇雲に走らせているのは、手の中の瀕死のブルーⅢだった。 何故かは判らないが、こいつは死なせてはいけないと思った。 あの雪華の動揺…そう、明らかに雪華はブルーⅢの一撃に動揺していた。 深く考える余裕はない。 とにかく出口が開く事を信じて逃げた。 しばらく進むと、目の前に絶望的な光景が広がる。 そこには無数の実装石達が水晶漬けにされていた。 そして、その向こうに1つ…”光る目”を見つけたときに俺は絶望した。 その淡く光る姿が、徐々に近づいてくるとき、 その側に人間の水晶漬けが見えた。 それは必死に逃げようと駆けているままの姿で全身を刺し貫かれ、 水晶に閉じ込められた明美の姿だった。 俺は死を覚悟した。 仲間を見捨てたものらしく、腰を抜かした無様な姿で水晶に封じられるのがお似合いだな…。 いっそ、もっと無様に正座して祈りを捧げ懇願する姿の方がお似合いかな? そんな余裕も生まれていた。 どうせ、俺は助からない。 たかが肝試し…そんな気持ちで人間は、人外の存在の安らかな寝床を平気で汚している。 だから、罰が当たる人間が居て当然なのだ。 その時… 「デスゥ?」マヌケな声がする。 俺の後ろの何もないところから、ペタペタと足音と共に、 ダンボールやら食べ物を抱えた実装石達が現れだしたのだ。 その数はどんどん増えていく。 俺が呆気に捉われていると、俺の後ろからスゥーっと手が伸びてきて俺を抱えた。 そして、グイッと力強く引っ張られる。 引っ張られる俺の目の前では、大量の実装石が一斉に驚く姿が見えた。 そして、暗闇が覆い… −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 気がつくと耳元に騒がしい声が聞こえる。 「デスゥデッスゥ!デスデッスゥ!」 「デスゥ〜♪デププププ」 「はいはい、じゃ、金平糖も付けるから、列を乱さない!どんどん入ってー! その中には楽園があってステーキの成る木や金平糖の海があるからねー。 小さい事にはこだわらなーい!」 「おい、起きろ…男だろ…これ位のすり傷で」 パチン! ん!痛い! 俺は…頬を叩かれたのか? 目を開くと、確かにそこに光があった。 悪夢でもなく、天国でもない。 「気がついたか…ったく手間を取らせやがって」 こわもての顔が俺を覗き込んでいる。 迷彩服を着た男が睨むように…。 「ここは…」おれはマヌケな質問だと思った。 「危うく、雪華実装に憑き殺されるところだったぞ…あそこに何名入ったんだ?」 俺が朦朧とした意識で頭を横に向けると、ここはあのトンネルの中だった。 ちゃんと電灯が薄く光を放っている。 やはり迷彩服を着た男が盛んに実装石の大群をなだめていた。 とにかくトラックから大量に降りてくる実装石達に、ダンボールや菓子を振舞っていた。 実装石達は、それを受け取ると文句を言いながらも列を作って歩いていく。 その実装石達は、何も無い場所で突然姿を消していく。 そうか…ここが雪華実装の寝床との境界なんだ。 「「」隊長!磁場が不安定になってきました!こっちに移動しようとしているみたいです」 「ちっ、欲の深いヤツだ。 俺たちを感知したらしい…無理もないか、アレに身体を突っ込んじまったしな…。 俺達は救助者をつれて出る。 作業班は合わせて後退!最悪、トラックごと実装石を飲ませてしまえ」 俺は担架で運ばれている。 すぐに真上を見上げる視線に星空が見える。 確かに外の空気だ。 俺は、それに安心したのか、中で起きた事を全て話した。 「そうか中に3人か…名前は後で話してもらう。 我々は実装石…いや、今は”実装犯罪”対策室の者だ」 それから、俺は治療を受けながら逆に話を聞いた。 雪華が言った”実装石を送り込んでくる人間”は彼らだった。 ”JapanGovrnment JissouCriminal CounterTeam” 略称G・J Team… そう呼ばれる彼らは、あらゆる実装シリーズのあらゆる犯罪に対応する部隊らしい。 彼らは危険な雪華実装の出現を知り、これを何とか封じ込めようと、 大量の実装石を捕獲しては、こうして送り込んで力を使い続けさせようとした。 実装石の”魂”は、殆ど雪華実装の栄養にならないらしく。 倒す為に使う力と得られる栄養が僅かにマイナスだという。 無視すれば、結界のキャパを超えるほど増える(送り込む)ので寝床を失って弱るらしい。 それに、俺達ですら不快なだけに、こんなものを送り込まれれば雪華もストレスだろう。 魂に飢えているならまだしも…。 そうして、なんとか祠で大人しく寝る方が快適だと思わせて還すつもりだったらしい。 中でカオスが生まれていたのは、まるっきりの想定外だとの事。 最も、カオスが居なければ俺もここには生きていない。 そうして穏便に解決しようとしていたのを壊したのは、 俺たちの様なオカ研の事故が発端の噂話に群がる野次馬連中であった。 多少、気に障ったぐらいでは雪華実装も進んで世の中に干渉する気はないらしい。 しかし、人が直接、彼女の寝床に踏み入る事を彼女は良しとしない。 それに人の魂を食えば、雪華実装はパワーアップして、結界を作らなくても世に出てこれる。 その事が、彼女の、本来前面にない余計な”欲”を刺激してしまうのだと言う。 そうなれば、より沢山の人間が被害にあっていたのだ。 そうだな…もし、雪華実装が雪女のモデルなら、彼女は不用意に山に入る人間を襲っていただけなのだ。 「タイミングが良かったな…ちょうど作戦時間にお前があそこに居たから空間の歪みの先に姿が見えた。 あの空間の歪みは、来るもの拒まず、出るもの許さずの捕食用の罠みたいな物だ。 ただ、物が入る瞬間は相互につながっているから、実装石を入れるタイミングで引っ張り出せた。 それも、あいつの寝床の中で、たまたま、お前の居た場所と近い場所に俺たちが居だけ… まさに、奇跡の生還だ」 「あの…ブルーⅢは?」 「ああ、あのカオスを倒したと言う実蒼石はブルース・リーというのか? 中々、実蒼石にはつけない面白い名前だな…。 安心しろ、実装活性剤を注射してある。お前のパートナーか?」 「いえ…中で死んだ友人の大切にしていたペットです」 「そうか…なかなかカオスを倒せる実蒼石なんて居ないからな… あれは、天賦の才能を持った実蒼石なのだろう…お前が飼うのか?」 「はい…鍛えれば…一緒にかた」 「それ以上言うな…雪華実装は、大昔から原型のまま存在する… いわゆる実体の無いに等しい彼岸の存在。 誰にも、どうする事も出来ないから全国各地に色々な形で神様や悪霊として伝説が残る。 それは、文明の力で持っても触れ得ざる物なのだ。 もし、彼女が本当に怒って、今、自分の存在が消えるのも構わずにこの世に実体化したら、 たとえ、戦車や戦闘機が腐るほど手元にあっても止められない。 体験したお前なら、よく判ったんじゃないか?」 「はい、すいません」 「まぁ、結界の消える朝になったら、車があるという反対側まで送ってやろう…。 ちなみに、俺達の存在は公にはできない。 死んだ人の家族には、警察から事故という話が行く。 ここに近寄るなと言う話を流すのは勝手だが、他人の興味をココに惹く話をするのは賢明ではないし、 当然、我々の名前を出すのは言語道断…警察の話に口裏を合わせてくれるのを祈るよ」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「隊長!トラック一台が飲まれちゃいました…乗員は無事です」 「馬鹿が!許可したからって本当に飲ませるヤツが何処に居る! 戻ったら、そいつらフル装備スクワット30分だぞ!」 「しかし、こんなので本当に何とかなるんですか?」 「荒らされた祠は、既に見つけて建て直しただろ? あの中には山の地磁気やらが程よく流れているそうで、アレには居心地の悪くない空間だ。 ここの伝承によれば、この雪女をあの祠に封じたのは旅の修行僧となっている。 今で言う坊さんというより、神道の陰陽師か何かだろうな…。 昔話の雪女が雪華実装だったり、一寸法師や桃太郎が実蒼石だったなんて仮定すると、 陰陽師が使ったという”式神”もまた、人外の物…実装シリーズなのだろう。 俺達のデーターから見ても、雪華を弱体化するのに一番効率がいいのが、 鉛弾より、底辺の俗物たる実装石を結界にぶち込む事だ。 ツケ入るスキは、アレがこの世にまともに姿を見せられない事だからな。 文明は偉大だが万能じゃない…昔の人間には偉大な知恵があったということだろうよ」 「はぁ、そんなものなんですかね…」 「世の中目に見えるものが全てじゃないって事だ。 しかし、中でカオスが出来ていたのは惜しかったな…もっと早くケリがついていたかも知れん とにかく、この道路の両端は工事中にしてもらう大義名分はできた… まったく、被害者が出ないと腰を上げない警察や役所の背広連中相手は疲れる」 「でも、残念ですね…雪女って美人でしょ!?拝んでおきたかったな… 昔の人が見とれたって事は、やっぱり薔薇実装を…こう、大人の女にしたぁ…って感じですかね?」 「お前…そーいう伝承だけは信じるんだな? 遭ったら最後の相手に顔なんか判るわけがないだろうが…そこはお話用の付け足しだろうよ。 なんなら、あの中に入っていいぞ…お前だけな」 薔薇実装と人間が交わると雪華実装が生まれると言われている。 なら、逆もありえる。 むしろ、原始に雪華があって人との交わりで肉体をこの世に持つ薔薇実装がうまれたかもしれない。 なにせ昔話では、雪女は気まぐれで助けた人間との間に子供を設けている話がある。 どのみち、アレを見て生きている人間は昔も今も奇跡の確立でしか存在しない。 触れ得ない物は、時代がどれだけ過ぎて、理解が進んでも”触れ得ない物”なのだ。 それとも、いつしか人間の”欲”が実装シリーズを上回って、 雪華実装すら使役しようという時代も来るのだろうか? だとすれば、その時は人間は己の”欲”で滅びるのだろうな…。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 事故の数日後、封鎖されたはずのトンネルの入り口に1通の手紙と、 実蒼石の入った箱が放置されているのが発見された。 「自分にはブルーⅢは鍛えきれません…そいつを頼みます…」 そして、一人の人間がまた、行方不明となった。 彼は仲間を見捨てたという”罪の意識”から、逃れられなかったのだろうか? それとも、雪華実装に魅入られて、逃れられなかったのだろうか? どちらにしろ、それは人と実装との交わりが産んだ、 こうありたい、あるべきだという”欲望”に逆らえなかった末路だ。 自分はあのときに無様に死んでいるべきだった…という。 彼が語った、あの”光る目”を見てしまったが為に… そして、ふと頭によぎった予感に備えた。 「AH−1でいい…近くの駐屯地に戦闘ヘリが1機空いてないか確認しておいてくれ… それと、研究所から至急、実蒼石と肉苺を集められるだけ掻き集めろ! ”薔薇実装”が出てくるかも知れん… おい、コイツにやれる鋏があるかも聞いてくれ! 戦えるな?ブルース・リー?」 雪華実装は、危険なほどに”気まぐれ”なのだ。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− おわり ホラーにならなくてスイマセン でも、雪華実装や薔薇実装は存在自体がホラーだと…おもったもので
