すぐに増えるがすぐに死ぬ実装石。 彼女らは生き残りを懸けて様々な場所に進出した。 ある者は山へ、ある者は海辺へ、ある者は樹上へ…。 そしてある者は地中へ潜った。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ モグラ実装 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ある春の夜、場所とある森の中。 地面から盛り上がったモグラ塚の土を押しのけて、一匹の実装石が現れた。 目が小さく、土で汚れた実装服の袖から伸びるヘラ状に発達した手…モグラ実装だ。 大きさは15センチほどだがこれで成体。 普通の実装石と比べてかなり小柄である。 彼女を仮に『モグ』と呼ぼう。 モグは妊娠しているらしく両目が緑色だった。 地上へは餌を求めて出てきたらしい。 モグラ実装は雑食性で何でも食べる。 だが地中では虫やミミズ、草の根くらいしか食べる物がなく、 それも豊富に手に入るとは言い難いため、特に妊娠中や育児中の個体は こうして地上に出て餌を探すことがある。 「デッ!?…デッスゥ~ン♪」 どうやら地面に落ちていた小さな果実を見つけたらしい。 笑顔を浮かべ、手足を動かし体をくねくねさせて踊った後、果実を拾って口に入れる。 「デッププゥーン♪」 ほほに手を当て、満面の笑みを浮かべるモグ。 モグはしばらく果実を食べていたが、落ちていたそれをあらかた食べ尽くすと、 辺りに散らばっていた春落葉を両手に抱え、モグラ塚に戻っていった。 * モグラ実装は、モグラの穴を間借りして生活している。 地中に張り巡らされたトンネル内を、モグラのように腹這いで移動するのだ。 モグラは単独生活を好み、縄張りに入った他のモグラを追い出す傾向にあるが、 嗅覚に優れるためモグラ実装の体臭が苦手で、追い払うことができない。 一方のモグラ実装側も、戦ったらモグラに勝てないので、 モグラを追い出すことはできない。 これだとモグラ実装が一方的に利益を得ているように見えるが、 実はモグラは、モグラ実装からある形で『家賃』を取り立てている。 これについては後で紹介する。 また、モグラ実装の両腕は土を掘りやすいように発達しているが、 あくまで邪魔な土をどけたりするのに使うことが多く、 自分で新たなトンネルを掘ることはあまりないと言われている。 だが厳密に言えば、自らの寝床だけは自らの手で掘って作り上げる。 出産時を見越してある程度の広さの部屋を掘り、そこに落ち葉を敷き詰める。 そして、一度の出産で産まれるのは6~10匹。 「デェェ…デェェ…」 「テッテレー!!」「テッテレー!!」「テッテレー♪」… 今回、モグは8匹の仔を産み落とした。 水の乏しい地中での出産になるため、全ての仔の粘膜を舐め取るのは困難で、 モグの仔も早く生まれた2匹が粘膜を舐め取られた頃には、 残りの6匹は粘膜が乾いて蛆実装で固定されてしまった。 しかしこの蛆実装には、非常食にする以外の役割がある(後述)。 * 出産を終えたモグは、仔たちのためにせっせとミミズや虫を捕まえる。 時には夜に地上に出て、落ちていた木の実や草の実を取ってくる。 その間、仔たちは出産に使われた部屋で大人しくしている。 光のない地中の部屋で、通常の実装石でいう親指実装ほどの大きさのモグラ仔実装は、 蛆実装の居場所を嗅覚で探してプニプニしてやったり、糞を食わせてやったりする。 「テッチュテッチュ♪」 「レフー♪」「プニフー♪」「レフレフー♪」… だが、2匹いる仔のうちの1匹が、親を追って部屋の外に出てしまった。 その仔は親の臭いをたどってモグラ塚から顔を出すと、物珍しそうに辺りを見回し、 ピスピスと鼻を鳴らして臭いを嗅いでいる。 その時、仔実装の近くで黒い影が動いた。 …タヌキだ。 風向きの関係で仔実装はまだ気づいていない。 タヌキは突然地中から顔を出した仔実装に少し驚いた様子だったが、 背後から近づくと…首筋に噛みついた。 「テヂャアアァァッ!?」 森の中に仔実装の悲鳴が響く。 近くのやぶで草の実を集めていたモグもタヌキに気づいたのか、 体に似合わない大きな鳴き声で威嚇しながら石を投げ始めた。 「デギャアアァァァッ!」 『キュー!』 「テヂィッ!…ヂュアアァァ…」 モグに石を投げられて驚いたのか、タヌキは仔実装を咥えたまま闇の中へ走り去り…、 後に残されたモグは、ガクリと膝をついて泣いた。 「デェェ…デェェェェン…」 * タヌキ襲撃からしばらく経ったある日。 モグと仔や蛆たちが部屋で餌を食べていると、部屋の入口から何者かが入って来た。 「デェッ…!?」 モグは臭いで侵入者の正体に気づいたようだ。 …部屋に入ってきたのは、モグが使っている穴を掘ったモグラだった。 大きさはモグと同程度で、ゴツイ前足をしている。 「テチィィィィ!」 「レフー?」「レフレフ?」「プニフー」… 侵入してきたモグラは、怯える仔実装や状況を理解していない蛆実装に構わず、 モグの顔にその鼻先を近づける。 「デェェ…」 モグは少し躊躇していたが、諦めたように1匹の蛆実装を掴むと、 侵入者であるモグラの前に差し出した。 蛆実装が不思議そうな顔で「レフー?」と鳴いた次の瞬間…。 『…キィッ!』 「レピャッ!?」 モグラが蛆実装を地面に押し付け、その大きな手で蛆の体をグイグイ押し始めた。 「…レピィッ!?…レピャァッ!?」 モグラの手で押される毎に、苦しそうな鳴き声と共に総排泄孔から糞が押し出される。 「チャアアアァァッ!?」 仔実装が泣きながらモグラを止めようとするが、モグがそれを制止した。 そう…これが非常食以外の蛆実装の役割なのだ。 モグラは普段、モグラ実装の体臭を嫌って近づかないが、餌が不足した時に限り、 間借りさせているモグラ実装の仔を『家賃』として『取り立て』る。 そしてミミズを食べる時のように、蛆実装の体内の糞を押し出してから噛りつく。 腹が減っているモグラは、この『取り立て』をモグラ実装の目の前で行う。 「レッ…レピ…」 パキン 「テ…テェェェン、テェェェェン!」 何かが割れるような音が響き、蛆実装は動かなくなった。 暗いので捕食の様子を目にすることこそないが、音と臭いで把握できるのか、 モグに抑えられた仔実装は、泣きながらパンコンしていた。 この様にして、『家賃』とその『取り立て』の仕組みは次世代に受け継がれる。 なお、もし『家賃』が払われない場合は、親実装を食べてしまうこともある。 モグラは基本的に半日ほど何も食べないと餓死する生き物なので、 払う『家賃』がなければ体で払ってもらう(食事的な意味で)しかないのである。 『キィッ!』 『取り立て』が終わると、モグラは一鳴きして部屋から出て行った。 「デェェ…」 「テェェン…テェェン…」 「レフ?」「レフレフーン♪」「レフー!!」… 後に残された親は泣く仔をなだめ、状況を理解してない蛆は笑顔でモグラを見送った。 モグラはモグラ実装の臭いが好きではないので、『取り立て』に来るのは よほど切羽詰まった時に限られるが、それでも餌が少ない年などは、 モグラ実装の一家が全滅するまで『取り立て』ることもある。 また、モグラは巣穴の中に、モグラ実装を何家族か間借りさせていることもあるという。 * またしばらくして、大雨が降ったある日。 モグたち家族は部屋で眠っていた。 モグラの寝床同様、モグラ実装の部屋も雨が流れ込みにくい場所に作られているが、 今日は普段の雨とは様子が違うようだ。 「デェ…?」 部屋の壁が湿っぽくなってきたことに気づいたモグが目を覚ます。 鼻をピスピスと動かし、耳も動かして異変を探る。 「…デスッ、デスゥ」 「テェ…?」 隣で眠っていた仔を起こすと、モグは仔と共に部屋を出た。 寝ている蛆実装をモグと仔で1匹ずつだけ抱え、残りは足手まといなので置いていく。 トンネルの中は既にかなり湿っていた。 恐らく外の雨がトンネルに流れ込んでいるのだろう。 このまま地中にいたら水没してしまう…モグ親仔は外を目指すしかなかった。 「デェ、デェ…」 「レピー…レプー…」 「テェェ、テェェ…」 「レピュー…」 腹這い移動の邪魔になるので、モグは蛆を咥えたまま這い進んでいる。 仔の方は背が低いので、身を屈めればトンネル内でも蛆を抱えて歩けるようだ。 どちらにしても、無邪気な蛆は眠ったままである。 モグが地上に出る時に使っているモグラ塚まであと少しという時、 突然、そのモグラ塚の方から水が押し寄せてきた。 「デェェッ!」 「レピッ!?…レピャァァァ…」 思わず鳴き声を上げて、咥えていた蛆を落としてしまうモグ。 蛆は水没し、水に流されて転がっていったが、モグには気にする余裕などない。 蛆よりも仔…仔だけはなんとしても生かさなければならないと思ったのか、 流されそうになる仔の手を引き、モグは水が流れ込んでくる地上への穴を目指す。 そして穴の真下まで来ると、流れ込む水のせいで苦戦しながら、 それでもどうにか仔を抱いて地上に出た。 * 夜の森。 土砂降りの雨の中、親仔は近くの木の根の上に避難した。 辺りの地面は水浸しだが、少なくともここなら水に濡れにくくなる。 「…デスゥ」 「テチュゥ…テチュ…」 ずぶ濡れになったモグが、同じくずぶ濡れの仔を撫でている。 大雨を初めて経験した仔は、かなりショックを受けているようだ。 また、抱えてきた蛆をどこかで落としてしまったことや、 水に濡れて体が冷えたことで、心身ともに衰弱していた。 「テチィ…テチャ…」 「デスッ、デスッ!」 「テチュゥ…テェェーン、テェェーン…」 仔が血涙を流して泣き始める。 このままだと仔が危ないと思ったか、モグは自らの実装服の中に 仔を潜り込ませて抱きかかえ、温め始めた。 「テチュー…テェ…」 安心したのか、仔は安らかな表情で眠り始める。 それを見てモグも安心した顔を見せた。 雨は降りやむ気配を見せない。 モグは仔を抱いたまま、いつの間にか自身も眠りに落ちていた。 * 夜明け…雨は降りやんでいた。 明るい所が苦手なモグラ実装は、わずかな日の光にも敏感に反応する。 モグも森の中に差し始めた朝日に気づいて目を覚ました。 「デスゥ…?」 首を傾げている。 なぜ自分が地中の部屋ではなく地上にいるのか、すぐには思い出せなかったらしい。 自分の服の下に抱きかかえた仔に気づいて、やっと昨夜のことを思い出したようだ。 そして仔を起こそうと呼びかける。 「デッス、デッス!」 だが、仔は動かない。 その後もしばらく呼びかけ続けたが、仔は目を覚まさなかった。 まだ小さく、体温調節が上手くできない仔は…ずぶ濡れになって体温が下がり、 そして精神的に衰弱していたこともあり、死んでしまったようだ。 「デェッ!?…デェス!デェス!…デェェ…。 …デェェーーン、デェェェェーーン、デェェェェェーーーン!」 モグは大声で泣いた。 それでも、しばらくすると泣きやみ、のろのろと体を引きずるようにして、 モグラ塚の方へと歩いていった。 水没したモグラの巣穴も、水が地面に染み込んでしまえばまた使えるようになる。 もちろん、トンネルの壁を押し固めるなどの補修は必要だろう。 運が良ければモグたちの部屋も、まだ使うことができるかもしれない。 * 辛うじて部屋に戻ることができたモグが手始めにしたことは、、 何も知らずに部屋の中でうごめいていた蛆たちを、1匹だけ残して喰うことだった。 1匹残したのはモグラの『取り立て』があった時のための保険である。 「レピャアア!!」「レフェェェン!!」「レピィィィ!!」「レピャア…!!」「…レフ?」 「デズゥゥ!」 くちゃくちゃと蛆を喰らいながら、モグは体力の回復を図る。 仔が全滅した今、早急に次の仔を産まなければならなくなったからだ。 * 半月後のある夜、モグラ塚からモグが姿を現した。 その両目は緑色になっている…モグは再び妊娠したらしい。 お腹の仔に胎教の歌を聞かせながら餌を探している。 「デッデロゲ~、デッデロ…デッスゥ~ン♪」 実のなった草を見つけ、胎教の途中で手足をフリフリ奇妙な動きで踊るモグ。 その喜びの表情を見るに、既に亡くした仔のことは振り切り、 新たな仔への愛情がモグの原動力となっているようだ。 「デッデロゲ~…くちゃくちゃ…デッデロゲ~♪」 モグは座り込んで草の実を頬張りながら、お腹を撫でつつ胎教を続ける。 次こそは、自然に負けることなく仔を育てられるだろうか…? ~終~ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 前に書いた『雪山実装の一年』『飛び実装』と同じく、 環境に適応した実装石のシリーズ…みたいな感じ あとモグラさん実装石と同居させてスミマセンでした
| 1 続: Name:匿名 2023/08/17-14:43:45 No:00007792[申告] |
こうして見ると泥だらけの酷い姿になりそう… |

| 1 Re: Name:匿名石 2023/08/17-15:29:07 No:00007793[申告] |
| 農家からの憎しみがエグいことになりそう |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/08/17-17:10:42 No:00007794[申告] |
| 確かに人間に然したる害の無いムササビ実装と違い農家の目の敵にされて徹底的にエグめの駆除対策されそう |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/08/17-22:24:20 No:00007797[申告] |
| 元から指がどこだか分からん手をしてるから地中に特化した方が器用になってそう |
| 4 Re: Name:匿名石 2023/08/18-01:43:44 No:00007799[申告] |
| 服や髪って邪魔な生活だよな
ハダカデバネズミやミミズ的な見た目に急激に収斂しそう |
| 5 Re: Name:匿名石 2023/08/18-17:55:28 No:00007802[申告] |
| 髪も邪魔だし服も邪魔だし手は丸で掘れないし何より成体実装最大80cmあるし
これだけじゃないけど穴関係の実装石の話無理がありすぎ |
| 6 Re: Name:匿名石 2023/08/18-21:29:06 No:00007806[申告] |
| 20cm凸凹の小振りな成体サイズで考えてはいけないルールはないよ
言及されてても平均は40cm台かなり大きめ個体でも60cm程度までが多いし そもそも幼稚園年少と大差ない80cmなんて子供に即危険が及びかねない標準サイズじゃ危険視され見つけ次第駆除される。 その方が無理あり過ぎ |
| 7 Re: Name:匿名石 2023/11/12-13:24:36 No:00008452[申告] |
| こういう奇妙な生態の生き物を観察する話好きだな
そう言えば俺が初めて実装石と出会った頃に好きだったのも観察系スクだった |