仕事と趣味 俺の名は子門近満(しもん ちかみつ)。 高校卒業後、双葉市の会社に就職して忙しい社会人生活を送っていたが、 親父が病気したのをきっかけに郷里の尼寺浦(にじうら)町に帰ることにした。 これからは畑でもいじりながらスローライフを送るぜ。 荷物を運び終わり、俺はリュックを背負って外出した。 久々に散歩がてらコンビニで飯でも買おう思ったのだ。 しばらく歩くと、『レンタル』の看板を掲げた大きな建物が見えた。 あれは確か、ダチの親が経営するレンタルビデオ店だったな。 最後に店に行ったのは高校生の時だったか…。 そうそう、アダルトコーナーに入ろうとして怒られたっけ。 あれから10年以上経つのに、まだ店やってるんだと思い近づいてみると、 看板の文字が記憶にあるのと違う。 【レンタル実装・トシ】?…なんだそりゃ? 実装という文字で思い浮かぶのはまず実装石だ。 ガキの頃から町中でよく見かけたと言うか、イジメて遊んだし、 都会に出てからも道端や路地裏で何度も見かけた、日本中にいる害獣だ。 それをレンタルとは…そんなもんそこらに捨てるほどいるだろうに。 まあ、店で扱ってる商品なら、変な病気や寄生虫を持ってたりとかはないだろうが…。 * 「こっち来てからまだ見てないし、久々に実装石どもを見てみるか」 そう思って店に入ってみると、入口正面の大型水槽には かなり身なりの綺麗な仔実装が入れられていて、俺をお辞儀で出迎えた。 『テッチュテッチュ!』 水槽には「食事、トイレ躾済み 良仔実装…」などの特徴が書いた紙が貼られていて、 その下に「1週間 ○○円 2週間 △△円…」などと金額が記載されていた。 さらに、備え付けられたリンガルには『いらっしゃいませテチ!』と表示されている。 なるほど、つまりここは愛護向けのペット実装の貸し出しをしている店か。 店内のあちこちに貼られた説明書きによれば、 実装石を飼ってみたいけどどんな感じか分からなくて不安という人や、 または、ずっと飼う気はないけど少しの間だけ飼ってみたい人向けなどに、 親指から成体まで、様々な実装石を1週間からレンタルできるらしい。 蛆実装は扱っていないらしいが、別に興味ないので気にしなかった。 「こんな商売あったんだなあ。しかしこんな田舎で需要あるのか?」 真っ昼間だからかもしれないが、店内には俺以外の客はいない。 その時、不意に後ろから肩を叩かれた。 「子門、子門じゃないか!」 「えっ、お前は…土師か?」 そこに立っていたのは、幼馴染の土師明彦(とし あきひこ)だった。 ちなみに土師の親父が、さっき言ったレンタルビデオ店の店長だった人物だ。 「久しぶりだなあ、子門。高校卒業以来か? 双葉市の会社に就職したって聞いてたが、帰って来たんだな」 それからしばし、俺たちは昔を懐かしみ思い出話などをした。 * 「それにしても、レンタルビデオ店をやめてレンタル実装店とはな。 こんな田舎で、やっていけるのか?」 俺がさっきも思った疑問を率直にぶつけると、土師は笑って言った。 「今、この尼寺浦町では実装石がブームになりかけてるんだ。 と言っても、うちと提携してる大手の企業が仕掛けたんだがな」 土師の話では、その企業は地方の町で実装関連商品の試作品のテストをしがてら、 実装石ブームを起こそうとしているらしい。 「しかも愛護向けだけじゃないんだ…ちょっとこっち来てみろよ」 土師に案内され、仔実装や親指が水槽に入れられてる店の中を奥へと向かうと、 店の奥からバックヤードに入り…さらにそこから向こう側に出た。 …ここは、別の店の中か? 土師をちらりと見ると、ニヤリと笑みを返してきた。 店内にはやや鼻をつく臭いが漂っている。 そこかしこに置かれている消臭剤でも消しきれないこの臭いは…。 「すまんな、ちょっと臭いか?どうしても臭いがこもるんだ。 愛護レンタル店の方の商品には体臭を抑えるエサを食わせてるんだが…。 ここはさっきの店の隣…と言っても同じ建物内だが…でやってる、 虐待用実装のレンタル店だよ」 店内を見渡すと、中は薄暗くなっていて、 さっきまでいた方の店よりは小さな水槽が所狭しと並んでいた。 「ほら、外に出れば分かるが、隣がさっきの店だ」 土師に連れられて外に出てみると、確かに同じ建物を区切っただけなのが分かる。 ただ、こちら側の店の方が小さいようだ。 「愛護向けの店は、水槽の広さとかの問題でどうしても場所を取るからな」 なるほど。 「まぁ、まだ愛護と虐待のどっちがウケるか見極めてる段階なんだよ。 提携先はウケた方のスペースを大きくして欲しいらしいが…どうなるだろうな」 再度虐待向けの店内に入ると…まず、すぐ目に付くところに普通の実装石がいる。 種類で言うと仔実装や成体実装が主で、親指は少なかったが、 どれも髪も服もある、見慣れた実装石だ。 「そいつらは仕入れたばかりなんだ」 土師がそう言いながら仔実装の水槽をつつくと、 中の奴はテチテチと寄ってきて、こっちに媚びながら何事か鳴き始めた。 『おなかすいたテッチューン!ウマウマをよこすテチューン♪』 リンガルにはそんな表示がされている。 土師はいつの間にか手にしていた実装フードの袋から 見た感じパサパサしてそうな実装フードを水槽に数粒入れた。 『テッチャ−!またこのパサパサフードテチッ!?ステーキを出すテチッ!』 「いやなら食うなよ。お前の代わりなんていくらでもいるんだ」 『テェェ…』 仔実装は渋々と言った表情で不味そうなフードを口に運んでは、 その味に顔をしかめている。それにしても…。 「土師、お前リンガルの表示見てないけど、あいつらの言葉わかるのか?」 「まあ商売柄、何となく想像がつくようにはなったよ。 あいつらの思考を理解できるようになるなんて、あまり良いことじゃないけどな」 そんなことより…と、土師は案内を続けた。 「今、見た辺りが仕入れたばかりの連中で、こっちが何度も貸し出された奴らな」 そこに陳列されているのは禿や裸、もしくは禿裸だ。 顔や身体に痣をつくってる奴もいる。 特に痣のある奴らは、俺たちを見ると怖がって水槽の隅に逃げて震えていた。 『テチィィィ!』『痛いのは嫌テチャア!』『助けテチィ!』 「痣があるのは返却されたばかりの奴だな。 まあエサ食って寝てればすぐ治るから心配するな」 別に気になっただけで心配してた訳じゃないが…まあいいか。 「それより、こいつらトイレはどうしてんの?」 水槽は糞で汚れていないモノばかりだが、トイレが設置されている訳ではないようだ。 「そこに気づくとは、さすが子門…やはり天才か」 「茶化すなよ、誰でも気づくっての」 「店の中で糞されたら臭いからな、トイレだけは躾してあるんだ。 トイレは朝と夜に1度ずつ、営業時間外だけ。 もし陳列中に水槽内で糞をした場合は…こうする」 土師はそう言って、さっき実装フードを食わせた仔実装の水槽を持ってきた。 エサを食ったら出たのか、水槽の床には緑色の糞が出されていた。 「おい、トイレは朝と夜だって言ったろ!」 『テェ…た、食べたら出るのは当然テチィ…』 「エサを要求したのはお前だから言い訳は聞かん…お仕置きが必要だな」 『テチャ!?や、やめテチッ!デコピンは痛いテチッ!』 土師は水槽に手を突っ込んで、逃げ回る仔実装を隅に追い詰め… ————パチン 『テチャッ!』 仔実装は一発で気絶して倒れ、また糞が出たのかパンツが膨らんでいった。 「あぁ…起きたらまたお仕置きだな、これは。 ま、虐待用の商品は馬鹿が多いから、躾してもすぐ漏らすんだが…」 * 「さて、あと見てないのは…あ、処分セールの奴らだな」 土師が指を拭きながら、店の隅に俺を案内した。 ひときわ臭いの強いその区画には、大きな水槽にひとまとめに入れられた ボロボロの実装石たちが、処分品として売られていた。 もはや躾も意味を成していないのか、水槽内は糞で汚れ放題だ。 リンガルすらも設置されていない水槽の中には、 痣だらけでぐったりした禿裸成体と禿裸仔実装が数匹ずつ、 そして水槽の壁を叩いてこちらに何やら訴えている、これまた禿裸成体が一匹。 元気な奴以外は、腕や脚が無くなってるのもいる。 「処分品だから当たり前かもだけど、ボロボロの奴が多いんだな」 「あぁ、こいつらは虐待しても反応が悪くなった奴らだ。 虐待され過ぎて体力もないから再生も回復も遅い。 …こういうレンタルに向かない奴は処分品として安く売るんだ」 「へぇ、それにしちゃあ…」 と、俺は水槽を叩いてる元気そうな成体を見た。 「そいつは多分、他の奴を襲って食ったな。 手や足の無い奴がいるだろ?こいつに食われたんだよ」 土師が手袋をはめて、水槽からその成体を取り出した。 そいつがデスデス訴えているので、俺はリンガルアプリを起動してみた。 『ワタシはこんなに可愛いデス!処分なんてしないで欲しいデス! 可愛がって欲しいデスゥ!おあいそもできるデッスゥーン♪』 その禿裸成体は、そんなことを言いながら土師に媚びてみせた。 だが、そんなものは店主の土師には通用しない。 「まぁ、元気だけは取り戻したようだし、レンタル品に戻すか。 同族を襲って食ったことは説明に書いとかないとだけどな…」 淡々とそう呟くと、その禿裸を傍らの水槽に放り込んだ。 処分品の水槽を見ていた俺は、土師にある疑問をぶつけてみた。 「処分品って言うけどさ、こんな元気のない実装を買う客いるのか?」 「いることはいるな。この状況から助け出して、治療して、回復させてから もう一度虐待する、いわゆる上げ落としをやるお客さんとかな」 うわ、面倒なことする奴もいるんだなあ。 「うちの商品は偽石を摘出してないから、処置ができる手慣れた客向けではあるな」 そうか、偽石は取り出してコーティングとかしないと割れたりするんだったな。 でも、レンタル品の偽石が取り出されたりしないんだろうか。 そう思って聞いてみると、それも対策してるという。 「偽石サーチャーってのがあるんだよ。偽石の場所や反応をチェックする機械。 商品を仕入れた時点で全部反応をチェックしてあるんだ。 レンタル品の偽石を取り出したり、あるいは死なせたりしたら ペナルティとしてそいつを引き取ってもらう契約になってる」 虐待用って言っても商品にするとなるといろいろ大変なんだなあ。 俺には無理だな…土師を尊敬するよ。 * 「じゃあ最後にバックヤードを見るか?」 土師はそう言って、さっき通過した愛護ショップと繋がったバックヤードとは別の 独立したスペースへ俺を連れていった。 そこは暗く、臭いが一段とキツい…強い実装臭が鼻をついた。 「実装石を仕入れたら健康状態とかをチェックして、駄目な奴はエサに加工する。 あとさっきの処分品も、あんまり売れなかったらエサに加工しちまうな。 仕入れた実装石のうち、元気な奴はトイレの躾をして店に並べるんだが、 落第した奴らはここで別の仕事を担当することになるんだ」 土師の説明を聞いてるうちに、暗がりに目が慣れてきた。 その部屋の壁際に、数匹の禿裸の実装石が縛られているのが見える。 悲鳴を上げられないように口を塞がれた禿裸の一匹に、土師が赤い液体を点眼する。 すると禿裸はあっと言う間に蛆実装を出産し始めた。 …いわゆる出産石だ。 『ムグムグゥゥゥ!』 蛆をひり出している出産石が、俺を見てむぐむぐと唸った。 助けを求めているのだろうか知ったこっちゃない。 土師は適当な所で赤い液体を洗い流して出産を止める。 「この蛆はどうするんだ?」 俺はレフレフと鳴いている蛆を見下ろしながら、そう訊ねる。 さっき店内で見た限りでは、蛆はレンタルしてなかったはずだ。 「あぁ、蛆どもは隣の部屋の機械で、実装フードと混ぜ合わせて 虐待ショップ用の商品たちのエサにするんだ。 全部フードで賄うより多少安上がりだからな」 その話を聞いていた出産石が、血涙を流しながら喚き始めた。 『ムェグゥゥゥァァァッ!』 「おい、こいつ騒いでるけど大丈夫か?」 「大方、産まれた蛆はどこかで生きてるとでも思ってたんだろ」 ————パキン ひとしきり騒いでいた出産石が、急にぐったりして動かなくなった。 見ると、そいつの隣に置いてあった容器に漬けられていた偽石が割れている。 「なぁ、こいつ死んじゃったけど…」 「あー、そいつは随分産ませたからな…限界だったんだな。 あとでエサに加工するから大丈夫だ。出産石は他にもいるしな」 そう呟く土師の表情は、薄暗くてよく分からなかったが、 実装石が死んでも何の感情の変化もないように感じて、俺は少し寂しかった。 * 「これで一通り見た訳だが…どうよ子門、俺の店で働いてみないか? ダチのよしみで給料上げてやるぜ」 「なんだよ、やけに丁寧に店内を見せると思ったら、勧誘が目的だったのか」 「おう。この時間帯は閑散としてるけどな、これでも客はそれなりに来るんだ。 今、虐待レンタルの方の店員がちょっと足りないんだよな…」 なるほど、ダチの頼みだし引き受けてやりたい気持ちもある。 だが…。 「いや、悪いが今はやめておくよ」 「そうか…参考までに理由を聞いていいか?」 「うん…お前の仕事ぶり見てるとさ、あんまり楽しそうじゃないんだよな。 やっぱ虐待なんて仕事にするもんじゃないよ。ありゃ趣味でやるもんだろ」 俺が正直にそう答えると、土師は納得したような表情でうなずいた。 「ま、お前ならそう答える気がしていたよ」 「悪かったな、わざわざ案内してもらったのに」 土師も業務中だろうに申し訳ないことをした。 「いや、いいさ。久々にダチに逢えて楽しかったしな。 今度、近くの川原に野良実装狩りにでも行こうぜ」 「あぁ、そっちなら大歓迎だ」 * 俺は【レンタル実装・トシ】を出て近所のコンビニへ向かう。 そのコンビニの前で、仔を2匹連れた親実装が入口近くをうろついていた。 …こんな日中から託児狙いか。アホだな。 俺は買う予定だった夕飯の他にゴム手袋を1組買うと、夕飯の袋をリュックに入れ、 さらに待ち構える実装石を避けるように店を出た。 『デェスッ!』 託児を回避された親実装が、背後で忌々しげに鳴いた。 ちらりと背後を窺うと、親仔実装は別な客を狙うことにしたのか、 俺の方への注意は疎かになっていた…隙だらけだぞ。 俺は手袋をはめると、親子の背後から近寄って2匹の仔実装を掴まえた。 『テェッ?』『テチィ?』 2匹の仔が鳴くのとほぼ同時に、俺は両手に持った仔実装を車道に放っていた。 『テェェェェッ!?』『テチィィィ!?』 2匹の仔実装は緩やかに放物線を描いて飛び… 『テチャッ!』『テヂャアッ!』 道路に激突した。 『テェェェェン!』『テヂャァァァァ!』 足を折ったり怪我をしたのか、2匹ともその場で泣き喚いてイゴイゴしている。 『デエエエェェェェェッ!?』 親実装が慌てて仔実装を助けに走っていく。 そして2匹の手を取ったまさにその時、軽トラックが走ってきて———— ————ぶちゅっ 助け起こそうと掴んだ仔の片腕だけを親の手に残して、2匹の仔実装は潰された。 『デ、デェェェ…』 あとに残った親実装は、道路に残された緑と赤の染みを茫然と見つめていた。 「うん、こういうのでいいんだよ、こういうので」 やはり虐待は自由でありたい。仕事にして縛られるのは良くないな。 そんなことを考えながら、俺は家路につくのであった。 ~終~ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 自分で書いたスクにツッコミ入れるようであれだけど、 愛護レンタルで借りた実装を虐待する客もいるんじゃないかとちょっと心配になった。 まあ返却時にチェックされて、明らかに虐待されてたら弁償とかかな。 あと基本的に愛護レンタルの方が手が掛かってるのでお高いです。

| 1 Re: Name:匿名石 2023/08/08-04:30:31 No:00007739[申告] |
| やってることはアレなのに読後感が爽やかで良いね |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/08/22-19:06:11 No:00007821[申告] |
| 託児の手間も省けて親実装もハッピーだね |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/08/23-06:10:49 No:00007827[申告] |
| 虐待派的な使い方なら消耗品って感じがするのでレンタルが成立するのかな?結局買取多そうだ
あと愛護派に一定の貸し出し後、商品価値の落ちたおつとめ品も上げ済み需要見込めるな |