タイトル:【観察】親指の世界 五章 「背任」 【ボックスサム】
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作者:中将 総投稿数:51 総ダウンロード数:1126 レス数:4
初投稿日時:2023/08/07-14:59:31修正日時:2023/08/07-14:59:31
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思った以上に機材の操作に手間取る。
なんせ強い照明を使うわけにはいかない。初の夜間観察である。
「世界」に人口の光を可能な限り落とさないように慎重に動く。

動物観察用なら赤外線とか色々使えるのだろうが、実装石の色覚はいまだよくわかっていない。
一説によれば左右の目で違う色彩を見て脳で統合させるために特殊な視界を持っているとも聞くくらいだ。

ほのかなパイロットランプで機材の正常を確認。
固定暗視カメラの一部をライブ接続。
集音追跡の準備もばっちりだ。

今晩の舞台はSUKE-BASEから水場迄のルートである。

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                 親指の世界 五章 「背任」


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月が「世界」を照らす中、裸足リーダーと逃亡兵はひっそりとSUKE-BASEを出た。
塞いだ裏口をこっそりずらした脱出口からである。

「チア」

小さく声をかけたのは裸足軍師か。他の裸足たちを休ませて自分は留守番兼見張りに立っているらしい。
本来ならリーダーの役目であろうそれに見送られて、2匹は水場へ急ぐ。

『待つテチ。息が苦しいテチ』
『頑張るテチ。水が飲めれば少しはよくなるテチ』

周りが静かなせいか集音がいつもより鮮明だ。
昼間は断片しか拾えなかった音声が会話レベルで把握できる。
どうやら逃亡兵は食料の支給も満足にされていないらしく、深刻な体力不足に陥ってるらしい。
当たり前である。防衛戦に参加もしていないのだから、口減らしされても本来しょうがないくらいなのだ。

禿裸が先導し、綺麗な裸足があとからフラフラついていくという奇妙な構図が発生する。

それでも水の臭いを近くに感じるのか、道を違えるようなことはない。


ほどなく2匹はかつての自陣の水域にたどり着いた。

『水テチィ!』

この時ばかりは逃亡兵も水場に飛び込まんばかりである。
2匹はしばし無言で貪るように水を飲んだ。

久しぶりの水分で腹が緩くなったか、2匹は水場を汚さないように慎重に糞をしに離れ、
戻ってはまた空いた分の腹を満たすかのように水を飲んだ。

一休みして大きめの石の上に腰を下ろす裸足リーダーと逃亡兵。
裸足リーダーが逃亡兵に声をかける。

『よくなったテチ?』
『お腹パンパンだけどお腹ペコペコテチ』

当然飢えそのものは改善していない。水で誤魔化しているだけだ。

『何か食べ物探すテチ』
『暗いテチ。見つからないテチ。それにこの近くは、きっともう探したとこテチ』

堕ちたと言えども元筆頭探索班、その言い分は経験値に基づくものだった。

『それでもなにかのタネくらいは見つかるかもテチ。待ってテチ』
『その必要はないテチ』

突如混ざるもう一つの声。

『テ!?』

裸足リーダーが振り返ると、そこには頭がウルシで少々歪んだ爪楊枝を持った一匹の禿裸がいた。

『生きてたテチ!?』

裸足将軍の禿裸の姿を見て無事だったか、とは言わなかったのは流石リーダーである。
それでも仲間の生存を知り駆け寄ろうとするのを、裸足将軍は軽く突き飛ばした。

『テッ』

尻もちをつく裸足リーダー。その横を裸足将軍が通り過ぎる。先にはへたり込む逃亡兵。

『テェェ……』

おびえた声で後ずさる逃亡兵。
裸足将軍は静かに言った。

『いまさら逃げた理由は聞かんテチ』
『テェ……』

相手が怒っていないと思った逃亡兵は安心したのか、一気にまくしたてる。

『あ……あれはしょうがなかったんテチ!びっくりしたし、みんなに伝えないといけないって思ったテチ!!』
『慌てなくてもいいテチ』

裸足将軍は静かにそういうと、ごく自然に持っている爪楊枝を逃亡兵の額に刺した。

『テピェ?』

なにが起こったかわからない逃亡兵。

『テチャアアアアア!?』

取り乱す裸足リーダー。
裸足将軍はゆっくりと爪楊枝を引き抜くと、今度は胴体の真ん中を突き刺した。

『テペ? テパ? テプェェェェェ!?』

逃亡兵の脳には痛みと困惑と恐怖が駆け巡っているのだろうが、そのための大事な脳みそはすでに深刻な破壊を受けている。
びくんびくんと変な痙攣をしながら裸足将軍を見上げる目はすでに焦点が合っていなかった。
それでもろれつの回らない舌で言葉を紡ぐ。

『怒ってないんレポア? なんでパ ピョレエエ』
『怒ってなんかないテチ』

裸足将軍は静かに言葉を返す。

『これは、恨みテチ』

突き入れた爪楊枝をグリっと抉る。

『チャベ』

逃亡兵は命そのものを吐き出すかのような断末魔を上げ、ぱたりと倒れ絶命した。
口から飲んだばかりの水が逆流して溢れている。

『テ、テエ……』

結局何もできなかった裸足リーダーがへたり込む。
そんなリーダーを裸足将軍は静かに見下ろし、裸足将軍は踵を返した。
はっとしたような裸足リーダーがその背中に話しかける。

『も、もう戻っては来ないんテチ!?』

裸足将軍はちらりとリーダーを一瞥だけして、そのまま茂みの中に消えていった。
取り残される裸足リーダー。
しばらく動けないでいたが、ふらふらと逃亡兵の死骸を草むらの陰に隠し、足取りも重くSUKE-BASEへの帰路に就く。


      *      *      *


『なんテチ!?』
『テェ……』

帰還した裸足リーダーは逃亡兵が襲撃され殺されたことを裸足軍師に告げた。
狼狽する裸足軍師。リーダーに詰め寄る。

『もっと詳しく伝えるテチ! 敵の情報をよこすテチ!』
『テェ……それは……』

正直に言えばかつての仲間を売ることになる。嘘を言えば裸足軍師を裏切ることになる。
一瞬言葉に詰まる裸足リーダー。そしてはっきりと言う。言ってしまった。


『敵は禿の親指だったテチ』


裸足将軍は禿裸にされている。だからこの情報は嘘ではない。
おそらくリーダーの中では裸足将軍を裏切らず、裸足軍師も裏切らない唯一の正解だったのだろう。

だが、それが結局は裸足チームの明暗を分けてしまった。

『禿が水場までの道を押さえてるテチ……!?』

裸足リーダーのもたらした情報は裸足軍師視点では完全に基地が包囲されているという意味になる。

『……水補給作戦は中止テチ。貯めた食べ物でしのぐテチ』



地獄の籠城戦の始まりだった。



そしてそれは、裸足チーム内でのリーダー提案作戦の失敗も意味していた。
裸足リーダーのチーム内での地位はここで完全に消滅した。



     *     *     *



翌朝、禿チームも行動を開始した。
SUKE-BASEが監視下における位置に拠点を移動し、交代でその入り口を見張るようにした。
隙を見せたら、即総攻撃を仕掛けてやろうという腹であろう。

しかし、禿たちの目の前には、昨日よりもさらに強固になったSUKE-BASEの正面口があった。

出入りを諦め、完全籠城のつもりになるなら、出入り口の防護はより強固になる。
裸足軍師が明け方のうちに可能な限り防御を増強した結果だった。

「チッチェ!」

悔しそうに地団駄を踏む禿リーダー。
禿リーダーの中ではあの素晴らしい棲家は自分にこそふさわしいと確定しているのだろう。
それを不当に裸足どもが占拠している。許しがたい。
禿リーダーはもはや完全にSUKE-BASEに執着しきっていた。

見晴らしのいい石の上にどっかと座ると、頬杖をついてSUKE-BASEを睨みつけた。
それを見て顔を見合わせる禿チームの面々。
何か言いたそうにしているチームの指揮をとったのは、かつて禿リーダーの側近を務めていた2匹である。
禿リーダーとリーダー命令で基地入り口を見張る一匹を残し、
側近、ヒラ、奴隷各一匹ずつの3匹1班に班を分けて食料集めに乗り出した。


あとになって判明することだが、このときの禿再編班Aは【側近A、ヒラ、奴隷】、
禿編成班Bは【側近B、奴隷待ちヒラ、転落奴隷】という分配だった。


     *     *     *


再編班Aは良くも悪くもいつもの禿チームだった。
側近はあまり探索の心得がないが、奴隷の使い方に慣れたヒラが奴隷をコントロールする。
奴隷は奴隷でいつもより迫害してくる相手が少ないので、待遇自体は変わらぬものの比較的生き生きとしている。
ブラック環境に染まてしまった悲しき生き物の姿がそこにあった。

「世界」の中心よりやや裸足側の領域まで探索範囲を広げ、姫リンゴなどいくばくかの食料を確保した。


かつての禿チームと違ったのはそこからだった。

「テッチ」
「「テェ!?」」

見つけた食料に側近Aは手を付けたのである。そして班の仲間にも……奴隷にもだ…‥にそれを分け与えた。
禿チームにおいてはまずはリーダーに食料を献上し、そこから分配が行われるのが常であったが、
側近Aはその原則を破ったのである。

3匹は顔を見合わせ小さく笑った。
大いに腹を満たした3匹は、残ったわずかな食料をリーダーの元に運んでいく。


     *     *     *


そうならなかったのが再編班Bのほうである。
明日は我が身の奴隷待ちに奴隷のコントロールがうまくいくはずもない。

食料らしきものを見ても奴隷が自発的に動かない。
奴隷待ちも側近の方をチラチラ見るだけで積極的な指示を出さない。

「テッチャ!テッチャ!」

とうとう側近Bは怒り始めた。
面白そうなことになりそうなので集音機をそちらに向ける。

『なんで……グズグズ……!』
『べつに……指示……テチ』
『食料が……ない……さぼり……テチ』
『……奴隷が……仕事……!』

ここまで班Bにめぼしい成果物はない。
喚き散らす側近Bにうなだれる転落待ちに転落奴隷。
それが気に入らないのか、奴隷ばかりではなく転落待ちも小突き始める側近B。

『オマエは所詮……このまま……!』
『ワタシはなにも…‥理由が……テチ』
『うるさ……リーダーに報告……オシマイ……』

エキサイトする側近B。おろおろする転落奴隷。
ただいいようにされていた奴隷待ちだったが、なにかがふつん、と切れたように側近Bを突き飛ばした。

『うるさいテチ』

そしてはっきりと集音機に拾えるドスの利いた声で短く宣言する。
横にいる転落奴隷に続ける。

『こいつをやるテチ』
『テチェ……』

おろおろしていた転落奴隷だったが、元同僚が側近に手を挙げたとなっては腹も決まったらしい。

『何を……今ならまだ許して……やめ……』
『黙るテチ』

さっきまでの興奮はどこにやら、尻もちをついて後ずさる側近Bに迫る転落待ちと転落奴隷。
禿チームの必勝ドクトリンは数の暴力である。
今あるのは2対1の構図。


側近Bは見誤っていた。今この場においては自分こそが少数勢力であることを。


もとより最下層カーストに組み込まれた2匹だ。
力での支配が緩んだなら従い続ける理由もない。

「テチャァァァァァ!」

慌てて逃げ出そうとする側近Bの後ろ髪を転落奴隷が掴む。
そのまま2匹がかりで側近を地面に引きずり倒す。

「テチェェ」
「テチ」

むしろ襲っている2匹のほうが冷静だった。禿裸にするより前に2匹がかりで側近の足を潰す。

「テチェエエエエエエ……ゲボヒェ!?」

叫ぶ側近Bの喉に小石を押し付けて潰す。
逃げられない。助けを呼ぶ声もあげられない。
血涙を流していやいやと首を振る側近Bに、2匹は本格的に襲い掛かった。



ほんの20分前まで上司だった肉塊で存分に腹を満たした禿2匹は、そのままリーダーの元に戻らず、茂みに姿を消した。



     *     *     *


禿チーム、残り5匹。
裸足チーム、残り5匹。
離反した裸足将軍、そして禿2匹。

状況がだいぶ動いた。
まだ日も高いままだ。今日のうちに状況はまだ動くだろう。
徹夜明けで少々眠気はあるが、まだ目を離せるような状態ではない。

見入っていて忘れていた水分補給をし、観察を継続する




続く




【付録 親指キャラクターデータ1】

・裸足リーダー
 行動指針は「全員協調」
 チーム内の平等な和を最重要課題として行動する。
 平時においては温厚な良きリーダーでいられるが、優先順位をつけるべき課題、
 ならびに有事の際の切り捨て判断に弱く、判断力のない無能とされてしまう。
 自己判断により仲間をウルシで失ってからその優柔不断さにますます磨きがかかる。
 下からは慕われるが一度侮られると急速に求心力を失うタイプ。


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中将◆.YWn66GaPQ


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1 Re: Name:匿名石 2023/08/07-21:39:51 No:00007737[申告]
禿チームもルールに背いたり離脱する者が出てますます先が読めないな
2 Re: Name:匿名石 2023/08/08-14:30:20 No:00007740[申告]
それぞれの実装石が自分の思惑で行動していて先が読めない展開にドキワクする…!
3 Re: Name:匿名石 2023/08/25-15:28:14 No:00007847[申告]
力による支配も仁徳も通用せんのだなあ
4 Re: Name:匿名石 2023/09/08-05:45:27 No:00007944[申告]
人でさえ裏切るのだから実装石なら尚更ね…
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