仕事がひと段落したので休暇が取れた。 で、運動不足なので早朝の散歩を始めることにした。 最近は日中は猛暑になる日も増えてきたが、5時台ならまだ涼しいからね。 それにしても早朝ってのは静かなもんだと思ってたが、 この時間でも大通りじゃ結構車が走ってるし、鳥や虫の鳴き声もするんだな。 …テェェン…テェェェン… あぁ…朝っぱらからこっちの蟲の鳴き声もするのか…。 【ゴミ出しはルールを守って】 そこは俺も暮らしているアパートの住人が共同で使うゴミ集積所だった。 ブロックで囲まれた場所にゴミを捨てるようになっていて、 鳥などにゴミを荒らされないように目の細かいネットで覆われている。 そのネットの内側に仔実装が1匹、座り込んで泣いていた。 『テェェェェン、テェェェェェン!』 仔実装は俺に気づく様子もなく、ただ泣き続けている。 そのまま通り過ぎてもいいけど、せっかくだからちょっとからかってやろう。 「どうしたんだい、仔実装ちゃん?」 リンガルアプリを通して語りかけると、仔実装はビクッと身体を震わせ、 俺の方をこわごわと見上げてきた。 そして、慌てて立ち上がって、集積所にいくつか捨てられていたゴミ袋の陰に隠れる。 でも所詮は実装石の浅はかさ、姿が丸見えで隠れられていない。 「どうしたの?親に捨てられたのかい?」 仔実装の警戒を解くように優しく話しかけてやると、 そいつはゆっくりとゴミ袋の陰から出てきた…全くこんなすぐ警戒を解くなんて、 野生動物としてどうかと思うわ…。 『ママと…オネチャたちと一緒にゴハンを探しに来たテチ…』 仔実装は小さな声で話し始めた。 だが、今日は生ゴミじゃなくビンや缶のゴミの日だぞ。 『ゴミはあったけど、食べ物はなかったからみんな帰ろうとしたテチ。 でもワタチだけ気づいたテチ。硬い筒の中にアマアマな水が少し残ってたテチ…』 なるほど、確かにゴミ袋が1つ破れていて、空き缶が2本、袋の外に転がっている。 中に少し残っていたジュースは、さぞや美味しかったことだろう。 『チププ…ママやオネチャたちは馬鹿テチィ、アマアマはワタチが独り占めしたテチ』 話しているうちに興が乗ってきたのか、仔実装は自分が閉じ込められていることも忘れ 家族を嘲笑い始める…どうも糞蟲気質があるらしい。 「それで、ママたちは先に帰ってしまって、自分じゃこのネットを開けられなくて、 閉じ込められて泣いてたってワケか…ばk…可哀想に」 馬鹿はお前だろという言葉を飲み込み、俺はあくまで優しそうな人間を演じる。 その甲斐あって糞蟲も俺を優しいニンゲンサンだと思ったか、 期待するようにチラチラと俺を見上げてくる。 『ニンゲンサンやさしいテチィ…ワタチを飼わせてあげてもいいテチ。 スシやステーキを食わせろなんて言わないテチュ。 ウマウマなフードで勘弁してやるテチュ♪』 当然のようにスシやステーキを寄こせと言わない辺り、多少控えめな面もあるのかね。 だが、もう飼ってもらえたつもりになってるところが既に糞蟲。 こういう糞蟲は…。 「おいで、そこから出してあげる。君は今日のこの場に相応しくない」 『テッチュ~♪これで飼い実装テチュー♪』 早朝散歩もちょうど終わったし、俺は糞蟲と一緒に帰宅した。 ゴミ集積所の隣にある築30年の安アパート、その1階にあるのが俺の部屋だ。 ちなみに部屋の裏には1階の各部屋専用の庭があり、俺は家庭菜園的に使っている。 俺は部屋の玄関の前に糞蟲を待たせて、先に部屋に入った。 「ちょっとここで待っててね、君を迎えるための準備をするから」 『わかったテチュ!でも早くするテチ!ワタチはおなかすいてるテチ!』 そうか空腹か…じゃあ可哀想だし…。 と、俺は大きな実装用ゴミ袋に生ゴミを入れ、家の外で待っている糞蟲の所に戻ると…。 「おらっ、ここがお前の家だ!」 『テェッ!?』 糞蟲を生ゴミ入りのゴミ袋に投げ入れた。 俺が袋の口を縛っている間に中で起き上がった糞蟲は、猛然と抗議してきた。 どうでもいいけど頭からタマネギの皮と魚の骨を被ってて滑稽な姿だ。 『どういうことテチ!ここから出すテチ!』 「うるさいな、お前はゴミなんだからゴミ袋に入れるのは当然だ」 『さっきは飼うって言ったテチ!』 「ゴミ捨て場から出すって言っただけだよ。今日はビンと缶の日だからな。 実装ゴミが捨ててあったらゴミの回収する人に迷惑だろ?」 糞蟲は俺の言葉の意味は分からなかったようだが、馬鹿にされているのは理解したのか、 ブバババと糞を漏らしてパンコンしながら、ゴミ袋をペスペスと叩き始めた。 『テチャアア!クソニンゲンはワタチを可哀想って言ったテチ! そう思うならワタチに奉仕するテチャアアアア!』 「あのまま放置してたらゴミ捨てに来た他の人に虐待されてたかもしれないだろ? 俺はこうしてエサまであげてやってるんだから、これはもう愛護と言ってもいいな」 『テッチャアアアア!さっさとここから出してスシとステーキを寄こすテチィィィ! コンペイトウも持ってこいテチャアアアア!』 喚く糞蟲を無視し、ゴミ袋を持って庭に向かうと日陰に放置して家に戻った。 今日は猛暑になるらしいが、まあ生ゴミは水分もあるし日陰なら大丈夫だろう。 日向に置かなかったのは、あっさり死なれて腐りでもしたら、 ゴミ回収の人が困るだろうと思ったからだ。 夕方、家庭菜園の野菜に水をやるために外に出た際に、 ゴミ袋をゆすって確認してみたが、糞蟲は弱ってこそいたが生きていた。 『…テチィィィィ…暑イテチ…臭イテチ…水飲ミタイテチ…』 中に入れられていた生ゴミは食べ尽くしたらしく、 袋には代わりに糞蟲がひり出したであろう糞がたくさん入っている。 そして糞まみれの糞蟲が、自分の糞の水分をすすって暑さに耐えていた。 「もうすぐ夜だ。がんばれ!」 『テェェェェン…テェェェェン…ママァァァ…』 翌朝。 俺の予想通り、糞蟲は昨日の熱帯夜も乗り越えて生き延びていた。 そこで俺は、昨日の散歩より少し早い時刻にゴミを捨てに行った。 「さあ、君に相応しい場所だ。回収の人が来るまで大人しくしてるんだよ」 『テチィィ…ここは昨日のゴミ捨て場テチィ…ワタチはゴミじゃないテチィ…』 「今日は実装ゴミ(と、可燃ゴミ)の日なんだよ。 大丈夫…ちゃんと袋にも入れたし、これで回収してもらえるよ」 『…! ママァ…!助けテチャアアア!』 糞蟲が俺ではなく、その背後を見て何か訴えている。 もしかしたらと思って昨日より早い時間に来てみたが、現れたかな? そう思って振り返ってみると、電柱の陰に親実装と2匹の仔実装がいた。 隠れているつもりで隠れられていないのはこっちの糞蟲と同じだ。 やはりゴミを漁りに現れたようだが…残念、今日は君たちがゴミになるんだよ? 『デデッ!?人間に見つかったデス!逃げるデベッ…!』 逃げ出そうとした親実装が台詞を言い終わらない内に倒れる。 俺が投げた石が頭に命中したのだ。 ちなみに強くは投げなかったから、ただ倒れただけで命に別状はない。 『ママー!』『テェェッ!?』 一緒に逃げようとしていた2匹の仔実装も、母親が倒れたのを見て足を止めてしまう。 俺は糞蟲を入れたゴミ袋を掴むと急いでその3匹に駆け寄り、 ゴミ袋の口をほどいて親仔3匹を中に放り込み、再び口をしっかり縛った。 『ママ、それにオネチャたちテチィ!』 『そ、その声はいなくなったはずの三女デスゥ…?』 『三女チャテチ!』『無事だったテチィ!?でもウンチまみれテチ…?』 いきなり袋に詰め込まれてまだ状況の分かっていない親仔と、 捨てられる直前からいきなり母や姉と再会できて嬉しい糞蟲。 やや感情の食い違いはあるものの、一家は再会を喜んだ。うーん感動。 「あー、さっそく感動の再会の邪魔して悪いんだが…。 その三女ちゃんはこのゴミ捨て場に置き去りにされていたので、 今朝まで俺が預かってました」 俺がそう事実を告げると、糞蟲は先程までの嬉しさもどこへやら、 思い出したように母親に食ってかかった。 『そうテチ…ママたちがワタチを置き去りにしたせいで、 かわいいワタチはそこのギャクタイハに袋に閉じ込められて、 バナナの皮とか、野菜くずとか、魚の骨とか酷いエサを食わされたテチ…!』 お前それら全部食いつくしたけどな! …と、それを聞いた親実装が今度は怒る番だった。 『三女…オマエはその酷いエサとやらをどうしたデスゥ!? この袋にはオマエのウンチしかないデス!オマエはママたちが空腹に困っていたのに ママたちのために取っておくこともせず全部食べたんデスゥ!?』 親実装の言ってることはめちゃくちゃだったが、 要するに三女だけが食事できたのが気に入らなかったようだ。 『ママはうるさいテチ…ママがワタチをここに置き去りにするから そういうことになったんテチ…自分の行いを悔いるといいテチ…チプププ』 糞蟲は弱弱しい声を振り絞って親実装に悪態をつき続け、しまいには嘲笑った。 再会の喜びはどこへ行ったんでしょうかね…。 一方の親実装も、そんな糞蟲の三女に怒り心頭な様子。 『デシャアアアアア!三女は糞蟲デスゥ! 長女、次女!今日のゴハンは三女デスッ!こんな糞蟲は食ってしまうデス!』 『テェッ!?』『テチッ!?』 糞蟲の三女を食うことにした親は、狭い袋で逃げ場のない三女に噛り付いた。 2匹の仔たちも最初はためらいがちだったが、 すぐに親に従って糞蟲の三女に食らいついた。 『何するテチャァァァッ!やめるテッチャアアアアア! かわいいワタチを食べるなんてママはクソママだったテチャアアアァァァ! オネチャたちもクソオネチャなんテヂィィィィィ…!』 『デププ…オマエの肉がワタシたちを生かす糧となるデス。光栄に思うといいデス…』 『三女チャ、ウンチまみれでマズいテチュ!』『ウンチ肉だけど食べてやるテチッ!』 親仔3匹は、糞蟲の手足や喉笛に噛り付き、 あっというまにバラバラにして食ってしまった。 あらら、せっかくの親子の再会だったのに…合掌。 さて、残った親仔3匹だが…。 俺の方を見上げるとゴミ袋を叩いてアピールし始めた。 『ゲプッ、ワタシたちはあんな糞蟲より賢いデスゥ。飼って欲しいデスゥ!』 『飼っテチ!飼っテチ!』『みんなそろってお飼い得テチュウ♪』 俺は少し考えて、こう言った。 「…しばらく待ってな。人間さんが大きな車で迎えに来てくれるよ」 『デデッ!?大きな車デスゥ!?…デププ、セレブな飼いになれるデスゥ』 『アマアマもウマウマも食べ放題テチィ!』 『クソマズい三女チャの肉とは比べものにならないゴチソウが食えるテチ!』 大きな車…ゴミ収集車は大きいからな、間違いではない。 そして幸せ回路が働いたらしく気味の悪い笑顔を浮かべる親仔の実装石たち…。 俺はそいつらを放置して、今日の散歩に行くことにした。 散歩から帰ってきた時に、気づかれないようにゴミ集積所を覗いてみると、 親仔はまだゴミ袋の中でデププチププと笑っていた…ホントおめでたい奴らだ。 『セレブなゴシュジンサマに可愛がられて…デププッ、早く迎えに来るデスゥ』 『チプッ、かわいいピンクのお服を着るテチィ…』 『チププ…コンペイトウ風呂に入ってステーキを食ってやるテチ…』 実装ゴミを捨てに来た人に気づかれて始末されるか、ゴミ収集車に回収されるか… どちらにしても、残り僅かの命を幸せ回路フル稼働で過ごすといいさ。 さて、散歩も終わったし帰ろ。 数時間後。 ゴミ収集車がやって来たので、俺は様子を見に行った。 『やめるデスッ!ワタシたちはゴミじゃないデスッ! やめっ…セレブニンゲン早く迎えに来るデズァァァァァッ!』 『ママ、怖いテチッ!大きな音がするテチッ!…ニンゲンサン助けテヂィッ!』 『セレブなニンゲンサン来なかったテチャアアッ! ママがあんなクソニンゲンの言うことを信じたせいテッチャアアアアッ!』 あ、ちょうど収集車に放り込まれたとこだったか。 悲鳴と共にぶちゅぶちゅと潰されていく親仔がちらっと見えたぞ。 これでゴミは処分できたし、あとはエアコンの効いた部屋でゆっくりしよ。 後日。 回覧板で、実装ゴミに関するお願いの連絡が回ってきた。 ≪実装ゴミは、コロリを与えるなどして息の根を止めてから出すようにして下さい。 元気なまま出されると、鳴き声が周辺にお住まいの方の迷惑になります≫ 俺のせいかも…どうもすみませんでした…。 ~終~

| 1 Re: Name:匿名石 2023/08/03-14:13:05 No:00007692[申告] |
| ほっこりする良い話テチ
回収された家族3匹も地獄で3女ちゃんと会えるテチ |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/08/03-19:50:07 No:00007695[申告] |
| ゴミ袋がお似合いの糞蟲一家が回収されて清々しい
〆るのは抵抗ある人も多そうだけど実装ゴミルール自治体で差異が結構ありそうだな 薬品を使わずドブネズミみたいに水で処置出来る実装ゴミ袋とかもあったっけ ゴミ捨て場にシビレの自動噴霧装置とか設置してそのまま回収してもらえる仕組みがあれば便利そう |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/08/05-12:16:04 No:00007700[申告] |
| どいつもこいつも化けの皮が数分で剥がれるの好き |
| 4 Re: Name:匿名石 2023/11/18-12:35:54 No:00008476[申告] |
| 清々しいほど実装石な親子だなぁ |