タイトル:【観察】親指の世界 四章 「衝突」 【ボックスサム】
ファイル:親指の世界4.txt
作者:中将 総投稿数:51 総ダウンロード数:1043 レス数:3
初投稿日時:2023/07/30-14:15:30修正日時:2023/07/30-14:15:30
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新機材の調整を進める。
各陣営内部で軋轢が生まれ始め、さらに両陣営がとうとう接触した。
これから奴らの生き生きとした行動を追跡するにはどうしても音声の回収が必要だ。

問題は彼我の距離と親指のサイズだ。
リンガルの集音機能は決して良くはない。か細い親指の声が対象なら尚更だ。
アンテナ式の指向性集音機に型の新しいリンガルを搭載しても対話はとぎれとぎれしか拾えない。

でもまあそれもまたよし。

音で拾えない分はしっかりと仕草を観察して見逃さないようにしよう。

リンガルの音声を自動文字起こしに設定……これもなんか知らんうちにすごい進化してたな……に繋げ、
俺は朝食のカロリーメイトをかじりながら今日の観察を開始した。


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                 親指の世界 四章 「衝突」


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禿チームは朝から行動指針を変えてきた。
昨晩の食い残しで奴隷層までしっかりと腹を満たした禿チームは水分を補給すると、
チームを分断させずに一丸となって昨日の戦場跡まで移動した。

主だった危険が確認されていないなら探索範囲を薄く広くとるのも手だが、
複数の敵の存在が確認されているなら集団で移動する。

より強大な全滅リスクや面成圧可能な兵器が相手側にないのなら理にかなった方針である。

戦場跡で調査を開始した禿チームはほどなく皆嘲笑を上げ始めた。

「チププ」
「チプププププ゚」

一匹が地面を指さす。

そこには逃亡兵が零した糞のあと……SUKE-BASEまでの一本道が記されていた。

「テチャアア」
「「「チ」」」

禿リーダーの号令で静かに糞道の追跡を開始する禿チーム。
ここからSUKE-BASEまで、直進で向かえばそこまでの距離ではない。


      *      *      *


「テッチア!」

SUKE-BASE屋上……椅子としては腰かけ部分だ……の見張り台で裸足の親指が声を上げる。

裸足軍師はこの短時間で簡素ながらも機能的な要塞を構築していた。
入り口はひとつを残して塞ぎ、その入り口の前には複数のウルシを差し込んだ防護壁。
その前にはウルシを敷いたいわば地雷原。要塞内には採集した姫リンゴと投擲用の砂利粒が蓄えられている。
各々が手に取りやすいように長めの棒……槍と呼ぶべきか、をあちこちに置いている。
驚いたのが前述の見張り台だ。屋上に向かって天然の枝を3本立てかけただけのものだが、
横枝同士がうまいこと噛み合って十分梯子として機能している。
現状では2つに分かれた腰かけ部分の片方しか使えていないが、周囲警戒の視界を保つならこれで十分だ。

見張り役の一声で要塞内がざわめきだす。

「チイ!」

裸足軍師の号令でそれぞれが配置につく。
要塞の入り口をふさぐように槍持ち親指が3匹、砂利投げ要員が2匹。見張りはそのままだ。
その背後に槍を持って裸足軍師が立つ。
裸足リーダーは砂利投げ要員に動員されている……もはや完全に群れの中での立場は入れ替わってしまったようだった。
逃亡兵は員数外として相手にもされていない。要塞の片隅で壊れたようにテーと鳴いている。


ほどなく要塞前に禿チームの面々が姿を現した。

「テテエ!?」

要塞の姿を見て驚く禿リーダー。しかしその指示は適切だった。

「テッチェ!」

群れを引き連れて要塞を遠巻きにするようにぐるっと一周。
突入経路がひとつしかないと確認するとにんまりと汚い笑みを浮かべた。

「テテェェェ!テチ」

リンガルを起動しないでもわかる。
喰い殺せ、住処を奪え。今発する号令はそんなとこだろう。

「「「「チャアアアアアア!!」」」」

要塞の入り口に一斉に群がる禿たち。

「テチャ!?」

一匹の奴隷が足を押さえてうずくまる。ウルシの地雷原だ。禿裸にされた奴隷には効果覿面である。


しかし、ここで裸足軍師の誤算があった。

「テテェ!?」

目を剥く裸足軍師。
そこには地雷原をものともせず踏み越えてくる禿実装の軍団があった。

言うまでもなく裸足チームは裸足である。だから床に敷かれたウルシの地雷原は効果抜群だ。
戦力的な評価も高かった。


だが、【禿チームでは裸足ではない】。


俺は思わず額を押さえてしまった。
ただの識別のためにしたつもりの処理がここにきて明確な戦力差に表れてしまうとは……


「テチャアアァァアァ!!」

地雷原でうずくまり、転げまわり、みるみるボコボコの肉塊に変貌していく奴隷。
それを見てテェェ……と足を止めてしまった転落含む2匹の奴隷実装たち。

しかし靴持ちの8匹は地雷原を踏破し唯一の入り口……正門に迫る。

「テ……テッテェ!」

若干焦り様子の裸足軍師。後方に控えて指示を出すつもりだったのだろうが慌てて前衛に連なる。


狭い正門前は混戦となった。


砂利投げ部隊が投げた砂利にひるんだ禿の一匹を槍持ち裸足2匹がかりで隔壁に押し付ける。

「テ?ジャアアアアア!?」

後頭部に違和感を覚えた禿親指が次の瞬間には絶叫を上げてのたうち回る。壁に仕込んだウルシの効果だ。

しかし禿チームもやられっぱなしではない。
数の有利を生かして槍持ちの一体を反撃される危険性のない4匹がかりで引きずり倒し、集団で暴行を加える。

「テチャ!テチャア」
「チィ!チィ!」
「……テベッ……テボッ……」

非力な親指といえども4匹がかりでの暴行だ。槍持ち裸足の一匹はみるみる挽肉に変えられていく。

「チププ……テチェッ!?」

そんな暴行の輪にあとから加わろうとした禿の一匹を横から裸足軍師が槍でつく。
槍の先端は禿の無防備な眼球を貫き、槍の先は逆側の耳に突き抜けていた。

「テチャアアア」

その隙に暴行されていた一匹……手遅れである……を救おうと砂利投げに従事していた裸足リーダーが持ち場を離れて駆け寄ろうとする。

「チェェェ!」
「テッテェェェ!!」
「チャ!? テジィィィィ!?」

さすがにそれを見逃してくれる禿チームではない。残った2匹がかりで裸足リーダーをとらえ、髪をむしり、服を破る。

「……テチ!」

それを呆れたように横目で見る裸足軍師は次の瞬間には視線をそらし、裸足リーダーを見捨てた。
善良であったが思慮に浅く判断力に甘い裸足リーダーが完全に見切られた瞬間だった。

この段階で乱戦内には禿チーム6匹、裸足チーム4匹+リンチされ中の裸足リーダーとなる。

裸足リーダーがやられてる隙に砂利投げ実装に槍を装備させた裸足軍師は、暴行に夢中になっていた禿4匹に槍持ち裸足4匹で襲い掛かる。

「チププ……チェッ!?」

暴行に参加していた4匹のうち1匹は禿リーダーであった。さすがに反応が早い。
槍の穂先で少々の傷を負うものの、暴行を中止し散開、周囲を確認した。

「テェ!?」

禿リーダーの中では、数の有利でもう少し優勢に事を勧められていると思ったのだろう。
だが、実際には乱戦内での戦死は禿2匹に対し、裸足1匹。
先の襲撃で得た「集団で暴行」という勝利のドクトリンで挑んだ禿に対し、装備の差で裸足が食い下がった結果である。

「……テチャ!」
「「……テテエ!」」

悔しそうな顔の禿リーダーの判断は一時撤退であった。数の差が縮まった今、装備の差はますます如実に結果を表す。
しかし禿チームもタダで引き下がるつもりはなかった。

「テェェ!?」

少し離れたところに孤立していた槍持ちの一人に狙いを定めると、禿3匹がかりでそれを拉致。

「テチェエエエエエエ!!!」

それを引きずるように攫って撤退を開始した。

「テチェエエ!?」
「テチィィィ!!!」

一瞬の隙をつかれて慌てて追いすがる裸足チームの面々。
しかし、禿たちが撤退していく先には自らで敷いたウルシの地雷原が広がっていた。

テァァァァァァァ……

引きずられ遠ざかっていく仲間の声を聴きながら、どうにもできない裸足チームたち。
今や、外に対して堅固だったはずの要塞は、内にいるものを逃がさない障害と化していた。

「……チイ」

戦闘の終了を宣言する裸足軍師。
最終的な結果は禿チーム戦士3匹(うち一匹奴隷)、裸足チーム戦死2匹(うち一匹拉致)
さらに裸足リーダーが禿裸にされるという結果になった。

禿チーム、残り8匹。裸足チーム、残り6匹。そして孤立の裸足将軍。
とうとう初期数の半分まで割り込んでしまった。


     *     *     *


「テブェェ!」
「テボェ!」

岩場の棲家に戻った禿リーダーがまずしたことは、戦線に参加しなかった奴隷たちへの制裁である。
しかしこれはなかば事実上の敗戦の八つ当たりのようなものだった。
頭では謎の死を遂げた奴隷の存在は理解している……だからこれ以上奴隷を殺すつもりはない。
なので致命的にならない殴打にとどめているのである。

「チィィィ!!」
「チェェェ!!」

この時、拉致してきた裸足親指を嬲り殺していたヒラの禿親指たちが一斉に悲鳴を上げた。

「テテエ!?」

見れば各々の手が赤く腫れあがっている。
あわてて灼熱を持った手を洗うヒラの禿たち。
幸い水場が近いこの棲家では手を洗うことは容易ではあった。
容易ではあったが……このことは禿チームにある深刻な現実を伝えていた。

あの要塞から攫ってきたオニクは何らかの理由で汚染されて食べられない。

実際には引きずった際に裸足実装に付着した地雷原のウルシ成分のせいであるのだが、そんなことは禿チームにはわからない。
しかし奴隷の謎の死、壁に押し当てられて死んだ仲間の謎の死、推理するだけの材料は十分にあった。
なんらかのカイカイ毒物がある……そしてそれは致命的なものである。

「テチャアアアッ!」
「ブベッ」

それを理解した禿リーダーは忌々しげに奴隷に一撃を加えた。


     *     *     *


奮戦した裸足チームも新たな問題に直面していた。
水不足である。

かなり有利なSUKE-BASEではあるが、水場から離れているという問題はいかんともしがたい。

そして、ここにきて員数の減少が響いてきた。
ある程度の数がいれば防衛人数を十分に残しながら、水場に遠征をすることもできただろう。
しかし、今の裸足チームは6匹である。
襲撃のあった今、防衛人数を減らすことは難しい。

だいぶ寂しくなったSUKE-BASEの中で会議が行われているようだ。
こっそりリンガルの集音を開始する。

『喉……水……テチ』
『危険……オウチ……』

複数が固まってるのと要塞内に閉じこもっているのとで断片的な単語しか拾えない。
しかし、やはり水をどうするかが問題になっているようだ。

『まだ木の実……テチ』
『これは食べ物……無駄遣い……』
『集め……』
『危険……テチ』

回収した姫リンゴで喉を潤すにしても限界があるだろう。
そして今となっては食料の収集に関しても制限が伴う。

『提案……』

これは……裸足リーダーか?
可能な限り集音機の精度を上げて会話を拾うようにする。

『水場……二人ずつ……交代……飲む……』
『危険……狙われ……テチ』
『夜……クライクライ……ワタシ……最初……テチ』
『フン……やってみる……ソイツ……テチ』

相手をしているのはおそらく裸足軍師だろう。
二匹ずつ交代で、夜中要塞を抜け出し、暗闇に乗じて水を飲みに行く……こんなところか。
そしてどうやら最初にそれに挑むのは、元裸足リーダーと、裸足軍師の口ぶりからするに、逃亡兵のようだ。


どうやら、今晩は夜間観察もしなければならないらしい。


戦闘の疲労に負けたように睡眠を開始する親指たちに合わせて、俺も夜に備えて仮眠をとることにする。
夜間撮影用の暗視カメラでどこまで追えるか楽しみだ。





続く



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中将◆.YWn66GaPQ


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1 Re: Name:匿名石 2023/07/31-11:57:46 No:00007672[申告]
裸足リーダーが落ちぶれてもなかなか頑張っているようで好ましい
このまま粘り続けるかあっさり逝くか
どっちにしても続きが楽しみです
2 Re: Name:匿名石 2023/08/03-16:25:24 No:00007693[申告]
続きが待ち遠しい!
3 Re: Name:匿名石 2023/08/03-16:25:24 No:00007694[申告]
続きが待ち遠しい!
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