夏と言えば祭りの季節である。 今年も老禅宗実装寺では、恒例の『禿裸祭り』が行われようとしていた。 禿裸はご存じのとおり、実装石の中では『飼い実装』という、現世に於いて救われている存在から最も縁遠いもの共である。 『禿裸祭り』は、そんなもの共に現世での救いを与えうる祭りであった。 祭りを無事に乗り越えたならば、いかなる禿裸であろうと『飼い実装』になることができるというのだ。 ルールは簡単、山門の外に置かれたコンペイトウを模した祭具を本堂に安置すること、ただそれだけである。 しかし祭具は成体実装並みの大きさであり、素材は鉄と軽くはない。 また、参加できるのは禿裸に限る、ということであった。 普段は人間から邪魔者扱いされる禿裸たちも、この日ばかりは大手を振って歩くことができる。 そのため山門前には、朝早くから禿裸達が屯っていた……。 祭は夕暮れ時からと決まっているのに、なんとも気が早い。 これが生き急ぐ実装石の急先鋒ともいえる、禿裸達の生き方だった。 日も暮れようかという頃に『禿裸祭り』の始まりを告げる鐘が鳴ると、一斉に禿裸達が祭具に群がっていく。 集まって禿裸達の願いは一つ『今年こそアタチだけが飼い実装になってやるデスゥァァァァァ!』というシンプルなもの。 禿裸達は我先にと祭具に群がり、その利を得ようとして……自ら殺し合うのだ、誰に言われるまでもなく。 禿裸達は押し合い圧し合い殴り合い、見る見るうちに数を減らしていく。 辺り一面は血と汗と涙と糞尿にまみれていくばかりだ。 人間達はその模様を、離れて眺めているだけである。 『禿裸祭り』の主役は禿裸であって人間ではない。 故に見物しかやることがないのだ。 「デスゥァァァァァ!」 そしてついに、一匹の禿裸だけが生き残った。 同胞の死体の山を背に、呟く。 「これでアタチも……飼い実装デスゥ……」 大きく肩で息をしながら呟いた。 そして、祭具を本堂まで持ち運ぼうとする。 するのだが……持ち上げられない。 血と汗と涙と糞尿にまみれた祭具は、よく滑り全く手に引っ掛からなかった。 生き残った禿裸の手足も同じく、これまたよく滑る。 かといって体重を掛けて押し運ぼうとすれば、コンペイトウを模した祭具の鋭利な刺が容赦なく体に食い込むのだ。 そしてこの禿裸も全身傷だらけの上に、体力は消耗しきっていた。 手加減をしていて生き残れるような甘い戦いなど、ただの一戦もなかったのだから当然だ。 万全で挑んでも難しいことを、なぜこの状況下でできたものか。 かくて祭具は微動だにすることなく、祭りの終わりをつげる鐘が鳴った。 「…デ…デチャア…」 ややあって、パキンという音と共に最後の禿裸も息絶えた。 今年の『禿裸祭り』も、終わってみれば例年と同じ結果であった。 人間達は色々に感想を呟きながら、片付けにかかるのだった……。 この祭りは確かに禿裸を救いうる祭りなのだが、今までに救われたことがある禿裸は一匹も存在しなかった。 そう、ただの一匹も。 (本当に救えねえ連中ですぅ……。 誰も「一人で運ばないといけない」なんて言ってねえのに勝手に殺し合うから始末に負えねえですぅ……) 口でその場で教えることもできるが、それでは意味がないのだ。 禿裸という立場にあって、なお力を合わせることに思い至れるかを【このお方】は見ているのだ。 かつて姉妹達と争い、それを乗り越えた彼女流の試練と救済。 ここ実装寺の御本尊は、実装閻魔と呼ばれている。

| 1 Re: Name:匿名石 2023/07/28-07:49:23 No:00007648[申告] |
| あのお方にとって薔薇水晶が可愛く見えるレベルのデッドコピーだと言うのに慈悲深い事デスゥ |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/07/28-09:18:13 No:00007649[申告] |
| 賢いのがいても問答無用で殴り殺されるから意味ないんだ… |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/07/28-23:27:56 No:00007652[申告] |
| 祭という名の禿裸大処分市
野良実装を下支えする奴隷&非常食階級が居なくなった影響も気になる |
| 4 Re: Name:匿名石 2023/08/05-12:37:49 No:00007701[申告] |
| ※3
それを見越してのイベントかもしれませんね 遠回しに普通の実装石の数も減らせてそう |