とある場末の安食堂(と、近くのゴミ捨て場) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 時は夕方。 場所は商店街の路地裏。 一匹の勇敢な実装石が、食堂の裏口から店内に侵入しようとしていた。 (この時間はニンゲンたちは忙しそうにしてるデス。 きっと見つからずにゴハンが奪えるデス) そんな事を考えているのは、餌を探しに来た一匹の親実装。 裏口のすぐ外で様子をうかがっていると、扉が開いて中から人間が出てきた。 「出前行ってきまーす」「あいよー」 良い匂いのする大きな箱(オカモチ)を持って店から出てきた人間は、 ちょうどオカモチの陰になり見えなかった親実装には気づかず、 裏口の扉を閉めようとしていた。 (今デス!) 親実装は扉が閉まる前に、人間の足元を這うようにして店内に滑り込んだ。 その瞬間、親実装の鼻に飛び込んできたのは—— (……!! 良い匂いデスゥ!) 店の外にも涎が出そうなほど美味しそうな匂いが漂っていたが、 それとは比較にならない濃厚なゴチソウの匂い。 親実装は濃厚な匂いにくらくらしながら、家で待つ我が仔の為に食べ物を探し始めた。 「カレーライスあがりー!」「ハムカツ定食2つ入ったよー!」 店内には人間の声が飛び交い、忙しそうに動き回っている。 調理場の隅を這いつくばって移動する親実装の事は誰も目に入らないようだ。 (とは言え、あまり目立つことはできないデス。 オニクでも見つかればいいんデスが…) ゴソゴソ這い回っていると、前方から美味しそうな匂いがしてきた。 店内の美味しそうな匂いは主に高い位置に漂っているが、 その匂いは地面の高さで漂ってきている。 (デスッ!? これは…アブラの匂いデス! アブラっこい食べ物がこの先の地面に落ちてるデス!) 親実装はその優れた嗅覚で、食べ物が落ちているのを察した。 落ちている物なら拾っても気づかれないだろう、親実装はそう都合よく考える。 そのまま這って行くと、床に黄色っぽい小さな塊がいくつか落ちているのが見えた。 (何だか分からないけどあれは美味しい食べ物に違いないデス!) 親実装はシャカシャカと這い進み—— …腹ばい状態で身動きが取れなくなった。 (な、何デス!? 地面がべたべたしてるデス! はなれない…はなれないデジャアアア!) それは粘着シートタイプのネズミ捕りであった(エサは揚げたての天かす)。 調理場の隅にある流し台の下に仕掛けられていて、 親実装は見事に貼り付いてしまったのだ。 「デジャアアア! デジャア! デジャアアアアアアアア!」 もがけばもがくほど服も腕も長い髪も、粘着シートに貼り付いていく。 (わ、ワタシの髪がべたべたになったデジャア! 放すデジャアアア!) その時、店員が騒ぎに気付いて罠の様子を見に来た。 「あ、なんか騒がしいと思ったら実装石が罠に掛かってら」 「デ!? …デスゥ! デスデス! (ワタシを逃がすデス! そしたら罠に掛けたことは許してやるデス!)」 親実装が騒ぐ声を聞いてか聞かずか、店員はシートに手を伸ばしてきた。 (逃がしてくれるデス? デププ…ちょろいデス) 逃がしてくれると思いほくそ笑む親実装。 だが店員は、シートの端を掴むと…。 「まあ、何言ってるかわかんないけど、害虫を逃がす訳にはいかないんだよねっと」 そう言いながらシートを、粘着部分を内側にして折り畳み始めた。 「デスッ!?(何するデス! それじゃ剥がれなくなるデス!)」 半分に畳まれたシートが、親実装の頭をサンドイッチする。 「デジャアアアア!(やめるデス、バカニンゲン! 放すデス!)」 親実装の身体は大部分がシートからはみ出ているが、 店員は気にせず貼り付いた頭にシートを押し付けていった。 「モガガガーー! ブズーーー、ブズーーー!」 口の大部分が貼り付いたのか、親実装の口から汚い呼吸音が漏れる。 「さて、あとは袋に入れてゴミの日に出すか…って、うわっ!」 親実装の下半身で膨らむパンツ。 もがき苦しむ親実装が糞を漏らしていたのだ…当然と言えば当然だが。 「ったく、こっちは飲食店だぞ。勘弁してくれよ……」 パンコンだけで済んで床に糞が垂れていなかった事に胸をなでおろしながら、 店員は親実装の体を粘着シートごと、大きな実装石専用ゴミ袋に放り込んだ。 頭を粘着シートでサンドイッチされた親実装は、 しばらくイゴイゴしていたが、やがて窒息したのか動かなくなった…。 * 翌日、実装ゴミの日。 ちなみに対象となるゴミは、実装石の死骸を含む実装捕獲機のゴミや、 実装臭が染みついてリサイクルに適さないゴミなどだ。 腹を空かせた数匹の仔実装が、ゴミ捨て場に餌を探しに来ていた。 前の日に餌を探しに行った親実装が帰ってこなかったので、 餌(と母親)を探す為に危険を冒してダンボールハウスから出たのである。 ちなみに家には数匹の蛆もいたが、全て今朝の食事になった。 「いいデスか、イモウトチャたち。ニンゲンが来たらすぐ隠れるテチ」 「わかったテチ、オネチャ!」「はいテチ!」「はーいテチ!」 妹たちの返事を確認した姉実装は、テチテチとゴミ捨て場の周りを歩きながら、 食べられそうなゴミの入った袋を探し始めた。 「オネチャ、これ見テチ! …チププ、間抜けな奴がいるテチ!」 一匹の妹が、目の前の袋を指差して笑っている。 姉実装がその袋を見ると、平たいモノで頭を挟まれた一匹の成体実装が、 袋に詰められて動かなくなっていた。 「…ワタチたちも気をつけないとこうなるテチ」 姉実装は人間への警戒を強めて気を引き締めるが、 「ワタチたちはあんな間抜けじゃないテチ」「そうテチ」「オネチャ心配しすぎテチ」 妹たちは、間抜けを見つけた事で人間への警戒は意識の外へ消えていた。 「…まぁ、いいテチ。今はこのオニクを頂くテチ」 とにかく今は餌の確保が最優先なので、この死骸を食べる事にする。 毒餌で死んだ実装石の場合、肉を食べるのは危険な場合がある。 だがこの死骸は頭を挟まれて死んでる(少なくともそう見える)ので 毒はないだろうと判断しての事だった。 姉実装たちは頑丈な実装用ゴミ袋に手こずったが、尖った石を使ってどうにか破る。 「このままでは大きくて運べないテチから、適当に噛みちぎって運ぶテチ」 姉実装が妹たちに指示を出すと、妹たちは先を争って成体実装の死骸にかじりついた。 「…デッ!?」 その時、姉実装がある事に気がついた。 「このオニクは…ママテチ! イモウトチャたち、食べちゃ駄目テチ!」 目の前の死骸から母親の匂いを嗅ぎ取った姉実装が、慌てて妹たちを制止する。 しかし妹たちは、耳を貸そうとしなかった。 「ママがこんな袋に入ってるはずないテチ!」 「ママのオニクだったらこんな美味しくないテチ! ママは怖いからオニクも不味いテチ!」 「オネチャ、どうかしちゃったテチ?」 妹たちはゴミ袋に潜り込んで死骸の服の裾をめくり上げ、 柔らかそうなふとももやお腹をかじっている。 その様子をオロオロと見つめながら、姉実装は考えた。 (これは…きっとママをこんな姿にしたニンゲンが近くにいるテチ! すぐに逃げないと危険テチ…!) 姉実装は再び妹たちに声を掛けた。 「イモウトチャたち、ここから逃げるテチ! ここは危ないテチ!」 だが、妹たちは耳を貸さない。それどころか姉実装を罵った。 「こんな美味しいオニクがあるのに逃げろとか、何言ってるテチ?」 「オネチャは臆病テチ!」 「そうテチ、オネチャだけひとりで逃げればいいテチ!」 もはや妹たちは、噛みちぎって運ぶという目的も忘れ、その場で食べ始めている。 その時、姉実装の視界に人間と大きな車の姿が映る。 それはゴミの収集業者だったが、実装石にはそんな事は解かるはずもなく、 姉実装は母親を殺した人間が戻ってきたと思った。 (イモウトチャたちは袋の中に入り込んでいる…逃げるのは間に合わないテチ!) 姉実装は妹たちを見限り、一匹で逃げ出した。 (ごめんテチ、イモウトチャたち…でも言う事を聞かなかったみんなが悪いテチィ!) * ゴミ収集車が集積場所にやってきた。 そこでは大型のゴミ袋がひとつ、三匹の仔実装に荒らされている。 「あーあ、実装ゴミを実装石が漁ってるよ」 「このゴミ袋ってそこそこ頑丈だけど、石とか使えば実装石でも破れるからな」 「テッチューン♪」「テチュゥ?」「テッチテチィ♪」 仔実装たちは音楽を鳴らしながら近づいてくる収集車に気づくと、 業者の人間を見上げて口元に手をやり、小首を傾げる…要するに媚び始めた。 「何だこいつら、俺らを見て媚びてるぞ」 「餌が欲しいか飼って欲しいか…ま、お前らの行き先は…」 業者がそう呟きながら仔実装を一匹摘まみ上げ… 「テチュウン♪」 飼ってもらえると思ったのか嬉しそうにしているそいつを、ゴミ収集車に放り込んだ。 「…テヂッ!?」 「この中だけどな!」 「テチャッ!」「テヂィ!」 残りの二匹も収集車に放り込まれる。 仔実装たちが手荒な扱いに抗議の声を上げるが、 人間たちは気にする様子もなくゴミ袋をいくつも放り込んできた。 「「「テチャアッ!?」」」 続いて、何やらゴゥンゴゥンという不気味な低音が響く。 仔実装たちが不安に思う間もなく、ゴミを圧縮する装置が動き始め… ある者は足先からゆっくりと、 「テヂィィィィッ!」 ある者は頭を一瞬にして、 「テヂャ!」 最後の一匹は他のゴミに押し潰されるように、 「ティヂベベベッ!?」 それぞれ圧縮されていった。 * とある商店街の食堂裏口。 姉実装は必死に逃げるうち、この場所にやってきていた。 辺りに漂う匂いに鼻をヒクヒクさせながら、裏口の戸を見つめる。 (良い匂いがするテチ…それに、ママの匂いもするテチ?) それは親実装が店に入る際に、裏口の戸に触れて付着した匂いだった。 (ママは、この良い匂いがする場所に入って…ニンゲンに殺されたテチ? …きっとこの匂いはワタチたちを誘う罠なんテチ。 ここに入ったら生きて帰れないテチ…) そう心の中で結論づけた姉実装は、匂いの誘惑を振り切って公園への道を戻り始めた。 腹は空いている。母親も妹たちも喪った。 だが、姉実装は少し賢くなった。 姉実装は一匹だけで公園へと帰っていく。 しかし妹たちを置いて逃げ、一匹だけになった姉実装が、 この先、公園で生き延びられるかは…、 「デププ…仔が一匹だけでいるデス。 …近くに親はいないデス? これは今日の朝ゴハンは決まりデスゥン♪」 …かなり厳しいと言わざるを得ないだろう。 ~終~ —————————————————————————————— スレに投下したスクに加筆修正したものです。 元は親実装が死んだところで終わりでしたが、仔のパートを加筆しました。

| 1 Re: Name:匿名石 2023/07/26-15:02:49 No:00007629[申告] |
| >はなれない…はなれないデジャアアア!)
なんかかわいい |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/07/26-15:24:25 No:00007630[申告] |
| 飲食店における実装石は罪深いからな…被害が出る前に駆除されてよかった
そして親実装の死骸を知らずに食べる仔実装というシチュもいい |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/07/26-19:36:45 No:00007631[申告] |
| バレたらただじゃ済まないのを承知のスニーキングだったのに罠にかかった途端全部ふっ飛んで叫ぶわ命令するわ馬鹿な奴だ |
| 4 Re: Name:匿名石 2023/07/26-22:11:37 No:00007632[申告] |
| 容易く店に侵入したりネズミ捕りに引っかかってそのまま回収されたりこの地域の個体はワンサイズくらい小さそう
ベルグマンの法則とガラパゴスペンギンの例を考えるに九州か沖縄辺りに生息してる実装石だろうか |
| 5 Re: Name:匿名石 2023/07/27-01:06:48 No:00007637[申告] |
| >ちなみに家には数匹の蛆もいたが、全て今朝の食事になった。
こういうしれっと枠外で起こってる悲劇描写好き あえてこってり書かないことで顧みられてない感じが |
| 6 Re: Name:匿名石 2023/07/27-02:22:53 No:00007638[申告] |
| 害蟲感がしっかり出てて良かった。しかし飲食店にとって大敵だよな
こっそり侵入といて、すぐパニックで大騒ぎからの助ければ許すの短絡的思考はまさに実装って感じが最高に出てた ネズミ取りシート ドブネズミとかそこそこデカいので広げると20×30cm以上のものも多く 丈40cmぐらいの成体実装の顔なんて簡単に挟んで窒息させられると思う |
| 7 Re: Name:匿名石 2023/11/13-00:59:45 No:00008465[申告] |
| 近所に大型飲食店がある関係か家にもたまにネズミが入り込んでくるので大判のネズミ捕りシートを使うので妙にリアリティを感じた
個人的にはがんじがらめに粘着されたまま数日放置してそんまま焼却炉にポイして欲しかった |