磯実装狩り ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 海辺に住む実装石がいる。 磯実装とも海実装とも呼ばれるその実装石は、潮だまりで漁をして暮らす。 蓋羽(ふたば)村近くの海岸にも、磯実装の群れがいくつか棲みついている。 そして、蓋羽村のお食事処『紫蘇』のメニューのひとつに、 "磯実装の浜鍋"(要予約)がある。 磯仔実装の肉と魚介、野菜などで作る鍋料理だ。 今回、『紫蘇』の店主の杜氏 昭史(とし あきふみ)さんに取材できた。 私とスタッフ2人…合わせて3人だけの取材だが、杜氏さんは快く出迎えてくれた。 さっそく杜氏さんは、防水ウェアの上に雨合羽という姿で海岸に出かけていく。 本来は料理の予約が入った時のみ狩りに行くのだが、 今回は我々の為に特別に磯実装狩りを見せてくれるという。 ————この辺りには磯実装は多くいるのですか? 「村の近くだと、この先の岩場に磯実装の群れがいます。 反対方向の岩場にももう少し小さな群れがいるのですが、 最近そっちの群れには余所から来た実装石が合流したようなんです。 仔を産んでいた場合、磯仔実装と区別がつきにくいので今回は違う群れを狙います」 ————どういう経緯で、磯実装でない実装が群れにいると判明したのですか? 「前回の狩りの時にその群れを対象にしようとしたのですが、 明らかに通常の磯実装より大きな個体がいたんですよ。 群れのボスかとも思いましたが、そういう感じでもなさそうでしたから」 ————磯実装は普通の実装石より小さいのですか? 「と言うより、恐らく大きな実装石が元飼い実装なんでしょうね。 栄養状態が良かったので大きいんでしょう。 服も比較的小綺麗でしたし、日焼けも磯実装に比べて薄かったので。 …いずれにせよ、その実装を駆除するなど何らかの対策が必要だと思っています」 なるほど…捨てられた実装石が、磯実装の群れに合流したという事か。 "磯実装"と銘打って料理を出す以上、それ以外の実装への対策は必要なのだろう。 ————それで、狩りで狙うのはやはり仔実装ですか? 「そうですね。親は肉に臭みがありますから、仔の方が旨いですよ。 あと撮影するなら、カメラとか気をつけた方がいいですね。 あいつら糞を投げてきますからねぇ…そろそろ奴らの縄張りですし」 あぁ、道理で合羽を着ているわけだ。 杜氏さんのアドバイスを受け、カメラは後方から望遠で撮る事にした。 * 「居ました…潮だまりで魚を獲ってますよ」 杜氏さんの言う通り、磯実装たちが潮だまりで魚や貝を獲っている。 そこはさほど広くないが、十数匹ほどの磯実装が余裕で漁をできる広さはあった。 潮だまりの中央付近に磯仔実装が集まり、周囲を親たちが囲むようにして 仔を守りながら漁をしているらしい。 裸で水に浸かっている者もいれば、服を着たまま漁をしている者もいる。 ————どうやって仔を捕まえるんですか? 「まぁ見ててください。あなたはここで待ってた方がいいですよ」 杜氏さんはそう言うや否や、持参した長い棒を持って 堂々と潮だまりの中へ入っていった。 磯実装に見つかる事など気にしないと言った風だ。 『デェス!デスデス!』 案の定、磯実装が警戒して杜氏さんから距離を取るように囲む。 一部はパンツに手を突っ込んでる事から見て、糞を投げようとしているらしい。 「…よっ!」 『テブェッ!?』 杜氏さんは長い棒を突き出し、今まさに糞を投げんとしていた磯実装を突き倒した。 さらにそのまま棒を振り回して、磯親実装たちを次々に薙ぎ倒していった。 『デベェェェェッ!?』『デェェン!』『デッギャアア!』 『テェェ?』『テッチュウウ!』『テチッテチッ!』『テッチュワァァァ!』 親が薙ぎ倒されるのを見て、仔たちは慌ててバラバラの方向に逃げようとしたが…。 「…ほいっ!」 『テッ!』『チペッ!』『テヂッ!』『テヒャッ!』 順番に頭を打たれ、気絶させられた。 …あっと言う間の早業だった。 数分後、杜氏さんが磯仔実装を袋に詰めて帰ってきた。 親たちは糞を漏らして伸びたままだ。 ————あれ、死んでるんですか? 「はは、そんな強く打ってないんで生きてると思いますよ。 あまり数を減らしても、具材が手に入らなくなりますからね。 だから仔実装も全部は捕まえてません。 今回は3匹捕まえれば十分ですから、残りは置いてきました」 杜氏さんの話では、こうして生き残った磯実装は学習して手強くなる事がある為、 狩りの対象にする群れ、そして狩りの方法は頻繁に変更するのだという。 「まぁ時間を置いてからなら、同じ手でも上手くいくんですがね」 そう言って杜氏さんは笑った。 * 翌日、捕まえた磯仔実装を食べさせてもらえる事になった。 杜氏さんに案内され、スタッフ3人揃って席に着かせて頂いた。 「リンガルがあるといいですよ」 杜氏さんがニヤリと笑う。 店主のお勧めなら、とスマホのリンガルアプリを起動してみた。 運ばれてきた鍋に野菜と出汁が入れられている。 そこへ禿裸にされた3匹の磯仔実装が、お盆に乗せられてきた。 顔は浅黒いが、よく見ると頭巾や服で覆われていた部分は日焼けが薄い。 3匹とも糞抜き処理と洗浄、そして偽石除去は済ませてあるそうだ。 『テェェン、ママの所に帰しテチィ!』 『ニンゲンサンテチ…おあいそするテチュ♪』 『ここはどこテチ?良い匂いがするテチ!』 三者三様の反応を見せる磯仔実装たち。 「磯仔実装は最初から鍋に入れておきます。 上や下から出汁を浸み込ませる為と、その方が楽しいからですね…」 杜氏さんはそう言って磯仔実装を鍋に入れると、コンロに点火した。 『テェェ?しょっぱいテチ、色のついた海のお水テチ…?』 『テッチュウン♪ワタチのおあいそ見テチ!こっそり練習したテチ!』 『これ食べられるテチ?』 白菜の芯を食べようとしていた奴を杜氏さんが菜箸でどけたが、 『な、何するテチッ!ワタチにその白いのを食わせ——ガボガボガボッ!』 抵抗されたので菜箸で頭を抑えつけて出汁に沈めていた。 出汁がだんだん熱くなってきた。 磯仔実装たちは、肌を上気させ汗を流してテチュテチュ鳴いている。 『あついあつい嫌テチィ、もう出して欲しいテチ…テェェェン!』 『ワタチを助けるテチ!おあいそが足りないテチ?…テチュウン!テチュ~ン!』 『この上に乗ればいいテチ!ワタチはかしこいテ——ガボガボガボ!』 熱さから逃れようとしたのか白菜に乗ろうとしていた磯仔実装が、 またしても出汁に沈められていたので笑ってしまった。 鍋の出汁はかなり熱くなり、湯気が上がってきた。 磯仔実装たちは熱さに耐えかね、出汁のなかでイゴイゴしている。 『…テェェン…ダジデェ…』 『ダズゲ…デッヂューン…』 『…アヅイ…テヂィ…』 もはや身体は茹でダコのように赤くなって、 消え入りそうな声でこちらに助けを求めてくる。 『…テ…テヂィ…』 『…ヂィィ…ヂ…』 『…テヒ…ィィ…』 もはや沸騰寸前…あ、磯仔実装たちが鳴き止んだ。 うーん、堪能させていただきました…。 「あの、まだ召し上がってないんですけど」 …そ、そうでした。 野菜や魚介など、火が通った具材から順に頂いた。 浜鍋と言うだけあって海の素材がふんだんに使われていて、どれも良い味だった。 最後に火が通った磯仔実装を鍋から取り出してもらったのだが、 驚いた事にあれだけ煮られていたのにまだ生きていた。 杜氏さんが箸で掴むと、ピクピクと手足を動かしたのだ。 「偽石を強壮剤に漬けてありますからね」 さすが実装石。 儚くもしぶとい生命力の持ち主である。 「磯実装の浜鍋は、海の側なら昔はありふれた料理だったんですよ。 地域によって味付けが異なるそうですが、うちは塩味の出汁を使います。 味噌味も美味しいと聞きますけど、この村は塩が名産でしたので…」 なるほど、出汁だけ飲んでみても確かにうま味のある良い塩味だ。 そしていよいよお待ちかねの磯仔実装の肉。 熱い出汁で煮られた為かぎゅっと縮こまった足からかじってみる。 うん、普段から魚介類を常食しているからか味が良い。 出汁の味と合わさって、うま味のあるしょっぱさが口の中に広がる。 続いておなかの辺りに歯を立てると、箸で掴んでいた磯仔実装がビクンと動いた。 「テ…ェェ…」 まだ生きている?だったら、これはどうだろう。 好みでつけて食べるように添えられた、蓋羽村の塩。 これをさっき食い千切った足の付け根にちょんちょんとつける。 「…テピィィ…!!」 鳴き声が聞こえた所ですかさずかぶり! 「ピギィ…ィィ!!」 悲鳴と塩が調味料になってタマラない旨さだ。酒が欲しくなった。 胸まで食べた所で動かなくなったので、最後に頭に塩を付けて丸かじりしてみた。 うま味のある塩の味と、茹で上げられた脳の味が合わさって、 とてもまろやかな、えもいわれぬ味だったと記しておく。 * 実装料理と言えば蛆実装も基本だ。 だが今日の料理には出てこなかったので、杜氏さんにたずねてみた。 ————そう言えば、磯実装には蛆はいないんですか? 「…いることはいますが、この辺りでは磯蛆は滅多に見ませんね」 杜氏さんによれば、磯実装は水が豊富な磯で出産する為に、 粘膜が乾いて蛆で固定されてしまう事はあまりなく、 また、生まれついての蛆は足手まといになるので間引かれる事が多い。 その結果、磯蛆は数が少ないのではないか…との話だった。 「群れの拠点を襲った場合、出産直後の個体がいると手に入る事があります。 でも、そういう機会はあまりないですね…今は時期外れですし。 磯蛆が手軽に手に入るようになれば、また違った料理もできるんでしょうけど」 もしその時が来たら、是非また取材させて欲しい。 そう伝えると、杜氏さんは「喜んで」と笑った。 ~終~ —————————————————————————————— このスクに登場する磯実装は、渋の海実装の絵から着想を得ています。 ありがとうございます。 過去作の『実装料理を訪ねテチ♪』『海辺の実装石』とほんのり繋がってます。 あと1作目に出てきた「塩食わせ実装」は、蓋羽村ならではの名物料理。 このスクの「磯実装の浜鍋」は、一般的な実装料理の蓋羽村風、という感じです。

| 1 Re: Name:匿名石 2023/07/14-16:07:17 No:00007518[申告] |
| 電光石火の薙倒しカッコいいわ
正直、山実装よりとりやすいだろうから個体数管理はしっかりなされてそうだよね |