タイトル:【悲劇】七夕様のとおりみち
ファイル:七夕様のとおりみち.txt
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初投稿日時:2023/07/07-11:07:09修正日時:2023/07/07-11:18:44
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町内会長の頼みで笹藪から子供会用の笹を切り出す。
子供のころから知られてる相手だ。独り身になった今となってはますます頭の上がらない相手でもある。

色々と便宜も図ってもらっている。返せるときに恩を返しておかねばならない。

しかし……大した笹藪である。切り出しのつもりで始めたが、これはある程度払っておかないとまずいんじゃないか?
持って帰る用にも結構切り出したが、いまいち生育が悪いものや裂けているものを雑に廃棄しても全然減った様子もない。

なんにせよ、今は切って運び出すだけで精いっぱいだ。
なんせ時間がない。
七夕会はもう今日の夕方からなのだから。


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           七夕様のとおりみち


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「ママァ、ニンゲンが何かオマツリの準備をしているテチ」
「オマツリデスゥ? もっと雨とか降らなくなってからだった気がするデス」
「オウチの前になにか飾ってるテチ」
「ああ、タナバタサマデス。前にゴシュジンサマが教えてくれたデス」
「タナバタサマテチ?」
「お願いごとをすると叶うオマツリデス」
「じゃあワタシはギャクタイハが来なくなるようにお願いするテチ!」
「ワタチも!」
「蛆チャンもレフー」
「いいデスねえ……ところでなんでニンゲンのオウチの前のこと知ってるデス?」
「テェ……」
「藪から出ちゃダメデス。ここはゴハンも少ないけど、キケンも少ないデス」
「ちょっと顔を出しただけテチィ」
「それでもダメデス。ママのいうことは絶対デス。この藪の中にいれば安心なんデス」

笹藪の中に実装石の家族がいた。
元飼いでもある親実装は賢明な個体で、子育てをするにあたって人の寄り付かない笹藪を選んだ。

当人がいうように笹藪では食料はあまり確保できない。ただしそれゆえに他の動物の侵入も少ない。
その一方で水は植物からふんだんに確保できる。食料は親が遠征して確保すればいいのだ。

藪の中で見通しが良くない上に、さらにこの親は段ボールハウスを使うことを避けた。
飼い時代に公園で見て常々思っていたのだ……なんで野良はあんなに「すぐに見つけられてしまう家」に住むのだろうと。

元飼い主とは引っ越しの都合で別れてしまったが、当時得た知識は親の財産だ。
笹藪の中に斜めに穴を掘り、その中に落ち葉や枯れ枝を敷き詰めて巣穴を作り、そこを住居とした。

笹藪は住んでみるとなかなか快適な環境だった。
軽い斜面なので水はけがよく水害の影響を受けない。密集した笹が日差しを割けアスファルトに焙られるより冷涼だ。
そして可能な限り身の回りに人工物を置くのを避けた実装石のカラーリングは笹藪の中で保護色として機能していた。

一家はおおむね今の生活に満足していた。


     *     *     *


ある日、親は異常に気が付いた。
笹藪の中に誰かいる音がする。そしておそらくは笹を切っている。
こんなことは初めてのことだった。いままで誰も笹なんか目もくれなかったのに!

「オマエタチ静かにするデスゥ」

親の言葉に仔実装、親指実装、蛆実装まで素直にコクコクと頷く。
ママはいつでも正しい。よく躾けられた一家だった。

ほどなくして周囲は静かになった。
恐る恐る巣穴から外をうかがう親実装。

だれの気配もしない。だが直感的に笹藪がいつもと違うことに気づく。

「様子を見てくるデス」

親実装は仔たちを残して注意深く巣穴から這い出した。


     *     *     *


「デェェェ……これは何事デス」

親実装は驚愕した。笹藪の一部が切り開かれている。周りには切られた笹も無造作に捨ててある。
ところどころ斜めに切られた笹の切り株が鋭く上を向いている。親は慎重に回避しながら進んだ。

「敵はいないデス……」

藪は多少切り払われたが巣穴はまだまだ全然暴露されていない。

親は安堵した。その時だった。

偶然。
本当に偶然。

完璧だった親の一瞬の心のゆるみを突いたかのように、切り捨てられて別の枝に引っかかっていた笹のひと房が親に覆いかぶさった。

「デェ!」

親は驚き足をもつれさせた。腐っても親実装、折れた笹程度の重さでは押しつぶされない。
だが、親がバランスを崩して転んだ先には鋭くとがった笹の切り株があった。


     *     *     *


デギャァァァァァァ……

巣穴にも親の悲鳴が聞こえた。

「ママの声テチ!」

仔実装は不安がる親指と蛆をそれぞれ両脇に抱え、巣穴を飛び出した。

この藪の中にはキケンはないって言ってたのに!
ママがそう言ってたのに!
ママになにがあったの!?

ママ!
ママ!!!

仔実装は親実装の声がしたほうに必死に向かっていく。
仔実装の身長の高さにはほとんど笹の葉もない。
仔実装は障害もなくまっすぐに進んだ。


     *     *     *


「テチャアアアアアア!?」
「チィィィィィィ!?」
「レピャァァァ!」

仔実装の足でもすぐに親は見つかった。
親は全身穴だらけになっていた。
切り株が刺さったあまりの痛みにのたうち回ったのが悪かった。
大量に笹を切り出された周囲の地面は笹の切り株だらけなのだ。
そんな上を転がりでもしたら……

親はまるで全身マシンガンで撃たれたかのような有様だった。
親は潰れた片目で仔の姿を見つけた。

だめだ、こんな見晴らしのいい場所に出てきたら……

「オマエダヂィ……早く身を隠すデズゥ……」

自らに何が起こったかわからない親実装だったが、誰よりもまず我が子を気遣った。
それを受けて、仔実装は親に言われた通りに駆けだした。

ママが大変だ。
でもママは絶対。
ママを助けなきゃ。
ママの言う通り隠れなきゃ。
ママは正しい。
ママはいつだって正しい。

仔実装は泣きながら親の言うことに従った。
考えがあったわけではない。動揺していたから他人の言うことに反射的に従っただけだ。

だから、仔実装は手近なところに身を隠せそうな場所に潜り込んだ。
切り倒され打ち捨てられた笹の枝の中へと。

「……もう大丈夫テチ」

仔実装は笹の葉っぱの中で一息ついた。
笹の葉に潜り込むとき笹の葉であちこちをこすってヒリヒリチクチク痛む。

「イモウトチャ、もう大丈夫……」
「オネエ…チャ……」

仔実装が両脇に抱えた妹たちを見た。
その仔実装の目の前でゆっくりと、親指実装の首が落ちた。
蛆実装に至っては、顔がそっくり削り取られていた。

「テチャアアアアアアアア!?!?」

笹の葉は鋭い。
仔実装程のサイズになれば少々の切り傷を作る程度のものではあったが、
親指実装の首を刎ね、蛆実装の顔を削ぐには十分すぎる刃物だった。

でもそんなことは仔実装にはわからない。
ママがやられた!
イモウトチャたちも目の前で殺された!
誰かいる!
ギャクタイハが近くにいる!

「テチャアアアアアアアアアアアア!!」

仔実装は狂ったように叫んだ。


     *     *     *


公民館に笹を納品した後、俺は昔馴染みに連絡を取って近くの居酒屋に入った。
7月といえどもう周りも暗くなってきている。

なじみがからかうように言う。

「で、お前は言われた通りに笹を切ってたわけだ」
「まあそのくらいはな」
「親御さんいなくなってから世話になってる相手の頼みとあっちゃな」
「大した手間じゃないと思ったが、暑いし蒸すし蚊に刺されるしで散々だぜ」
「まあそりゃ夏だからしゃあないわ……ところでまだ実装いじめとかやってんのか?」
「ああ?……ああ、まあ、ぼちぼちな」
「飽きねえなあ」
「いいストレス発散なんだよ」
「で? 今日はストレス溜まってねえのか?」
「ああ……なんか今日は暑いしダルいし、いいわ」

俺は冷えたビールを流し込んだ。

「七夕の日くらい実装石にも希望があっていいだろ」

なぜだろう。今日はまったく実装石虐待をする気にならなかった。
まるで誰かにそうあれとでも願われたように。


     *     *     *


仔実装は藪の中を全力で走っていた。


嘘つき!
ママの嘘つき!

ここは安全だって言ったのに!
ギャクタイハも来ないって言ったのに!

「お願いなんかウソッパチだったテチィ!」

なにがタナバタサマだ。

「お願いなんて全然かなわないテチィ!」

ワタシもギャクタイハに殺される!


涙で歪んだ仔実装の視界が開けた。
笹藪を抜けた先の大きな道路。人間は県道とそれを呼ぶが、仔実装は知る由もない。

車のライトが目の前をいくつも横切っていく。
日が落ちてから外を出歩いたことのない仔実装にそれは、まるで星の川のように見えた。

『藪から出ちゃダメデス』

ママの言葉を思い出す。

『特に、あっちの大きなドウロに出ちゃ、絶対にダメデス』

ママはそう言っていた。

「……ママは嘘つきテチィ」

仔実装はふらふらと藪から出た。

「オウチの周りは安全じゃなかったテチィ。ギャクタイハがいたテチィ」

仔実装は泣きながら、歩道を横切る。

「ママの言うこと聞いて隠れてもイモウトチャ死んじゃったテチィ。蛆チャンも殺されちゃったテチィ」

仔実装はガードレールをくぐった。

「ママは大嘘つきテチィ! タナバタサマもママもゼンブゼンブ大ウソテチィ!」

そして、仔実装は駆けだした。


     *     *     *


親実装はズタボロだった。でもまだ息があった。
苦痛の声を漏らしながらそれでも笹の切り株を体から引き抜く。
決して軽症ではない。でも致命傷でもない。
親は痛む体を我慢しながら巣穴に戻る。

仔たちはまだ戻っていなかった。

親実装はへたり込んだ。もう一歩も歩けない。
そして潰れた片目で空を見た。
笹の枝の間から天の川が見える。
親実装は空に向かって祈った。


「タナバタサマ、どうかあの仔タチの無事をお願いするデス」



でも、タナバタサマのお願いはどうやらもう品切れのようだった。



完



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中将◆.YWn66GaPQ

十何年振りかの七夕スク。

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1 Re: Name:匿名石 2023/07/07-12:40:39 No:00007458[申告]
お願い通りギャクタイハは来なかったけど死んでしまう無常さがたまらない
あとオチも好き…七夕様もそういくつもの願いはね
2 Re: Name:匿名石 2023/07/07-12:46:03 No:00007459[申告]
タイムリーなネタで面白かったです!
3 Re: Name:匿名石 2023/07/07-13:44:29 No:00007462[申告]
実装石以外の生物にも竹藪は丁度いい場所だし人間のしょーもない風習でそれ奪われるのは可哀想
4 Re: Name:匿名石 2023/07/07-14:53:13 No:00007463[申告]
笹って気をつけないと人間でも指をスパっといくから怖いですね
5 Re: Name:匿名石 2023/07/07-19:53:13 No:00007464[申告]
自然環境、同族、駆除に事故に比べたら
虐待派なんて実装石の死因では微々たるもの、シソンハンエイを願うべきだったね。
あと竹や笹は侵略性が強いから人間が管理して利用するのが吉
6 Re: Name:匿名石 2023/07/08-02:43:42 No:00007468[申告]
竹藪ってマムシをはじめとして蛇の類が多く棲みついてるから
実際は実装石にとってそれほど安全ではなさそう
鳥の卵みたいに丸飲みされて喉のところでグシャっと潰されるんだろうな…
7 Re: Name:匿名石 2023/07/10-17:28:17 No:00007490[申告]
ダンボールに住まない理由の所凄い頷いてしまった、そりゃそうだよな!
七夕の日くらい~で人間と実装両方の願い自体はしっかり叶ってる所とか誰も悪くない所がとても素敵。面白かったです
8 Re: Name:匿名石 2023/07/12-21:08:55 No:00007512[申告]
ダンボール普通にめっちゃ目立つよな・・・
普通に成り立たないというか・・・
9 Re: Name:匿名石 2023/07/13-00:36:03 No:00007514[申告]
爪も無く道具のマウント力が無い実装一匹が地下茎蔓延る地に穴掘る事の方が難事
山実装とかなら他生物の穴をベースに協力しながら拡張する事は出来そうだけど。
ダンボールハウスはそこそこ知恵が有れば普通に灌木の裏や間に置くしだろうし目立たなく偽装する事も可能。
でも本当の肝は集団でいる事で誰かが犠牲になり逃げる時間を稼いだり自分がターゲットなるリスクを減らせる事
目立つ目立たないそこまで必須ではない(目立たないに越した事はない)
林や藪に居ようが基本目立つ連中だし実害無い内は積極的に関わろうなんてのは一部の好事家だけ、人里周辺に住んでる時点で元々お目溢し状態と言っていいのでは
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