まさか廃校のプールを住所指定して荷物が届くとは思わなかった。 怪訝そうな表情の配達員からZOMAHONのダンボールを受け取ると、俺はさっそく空撮用小型ドローンの調整に入った。 ……すごいなこれ。画像が鮮明だしなによりも静寂性が半端ない。 これならかなり近くまで寄せて親指たちの様子を観察できるだろう。 夜間のカメラ映像には今日も異常なし。まだまだ「世界」の中心付近にはふんだんに食料が眠っている。 各チームともにじわりと頭数が減ってきていることも考えれば、まだまだ持つだろう。 展開次第では世界に介入することも考えなくてはならないが、観察派として可能な限りそれは避けたい。 もっとも、まだまだ状況は変化しそうである。 決定的瞬間を逃すまいと新たに増えたカメラも駆使して俺は今日の観察に入った。 ******************************************* 親指の世界 三章 「遭遇」 ******************************************* SUKE-BASEを押さえた裸足チームはさっそく拠点を要塞化し始めた。 食料を内部に運び込み、周辺を探索する。 新しい食料を確保しては貯え、長めの木片や複数人で運べそうな石を拠点の周りに集積する。 拠点改造の指揮をとるのは裸足軍師だ。 先日の輸送の段階から見ていたが、この個体がストレス下で覚醒させた生存の知能は、 道具を工夫して大きな効果をあげること、のようだった。 ヒラ親指たちに集めさせた資材を見て「建築」を開始した。 大きめの石を二つ並べて、その隙間に木片を挟んでいく。木片の反対側も同じように石で挟んで固定する。 なんと壁を自力で建設したのだった。 ただの木片では障害物にしかならないところを、これは完全に障壁と呼べるものである。 完成したそれを見て、留守番組だったヒラ親指たちが歓声をあげる。 反応が比較的薄かったのは裸足将軍と、その配下にしっかりと収まっている4匹だった。 彼らはSUKE-BASEの中でも比較的いい場所を確保し、まるで周辺の見張りでもするかのようにふるまっていた。 彼らの見つけた新拠点である。多くの所有権を主張するのは当然であるし、 場所を守るという意識が強いのも当然である。 これを苦々しげに見つめる裸足軍師。 彼の目にしてみれば、群れ全体の環境を良くするために群れの半数以上が働いているのに、 それをわき目に特権階級がサボっているように見えるだろう。 「テッチ! テテッチ!」 「テェテェ……」 そんな気配を感じたのか、裸足リーダーが裸足軍師をなだめている。 そして忙しそうに裸足軍師と裸足将軍の間を往復し始めた。 ……リーダーだったはずがもはや両名の調整役になってしまっているのか。 それでもまだリーダーとして尊重はされているらしい。 裸足リーダーが裸足将軍に声をかけると、裸足将軍はもったいぶった動きで配下……もう配下と呼ぶしかあるまい…‥の4名を招集し、 食糧確保の遠征に乗り出した。 他のヒラ実装が探索をしているような周辺ではない。 自らの勇敢さを誇示するかのように、あえて遠目の探索経路を選ぶ。 すでに要求を聞いてもらっている形になるリーダーにそれをたしなめる権力はもうないようだった。 出撃していく裸足将軍の背中を明らかに不機嫌そうな顔で睨んだ裸足軍師は、拠点の整備を再開した。 * * * 欠員の出た禿チームでも簡単に部隊の再編が行われた。 昨日ミスをしなかった方の部隊からヒラ親指実装が一匹、欠員が出たほうの部隊に移転する。 ヒラ3匹に奴隷1匹の探索部隊が2個という形になった。本部は変わらずだ。 ミスのなかった部隊は昨日と同じように着実に探索成果をあげている。 奴隷の扱いは相変わらず悪かったが、奴隷降格制裁という「奴隷を損ねる」危険性を知ったゆえか、無意味な暴行が目に見えて減少した。 それでも奴隷は糞以外のものを口にはさせてもらえていないのだが。 複雑な様相を見せていたのが「転落奴隷」を含む方のチームだ。 見た目はヒラ3奴隷1の構成なのであるが、実態はヒラに奴隷待ちAと奴隷待ちB、そして転落奴隷である。 AとB、それに転落奴隷は昨日までは同じ立場にいたのだ。どことなく関係がぎこちない。 ただの転落奴隷であるなら喜んでマウント側に回ったのだろうが、明日は明確に我が身となればその手も鈍る。 そんな中でヒラ親指だけがひたすらに空気を読まない。転落奴隷を明らかに酷使し、無茶な進軍をさせる。 AとBはそれに積極的に異議を唱えられない。 ヒラ「テッチャ! テッチャ!」 転落「テヒィィィィィ」 待A「……テチャ? テチテテチィ……」 ヒラ「テ!? テッチャテチ!? テッチャ!」 待A「ティ……」 部隊全体のテンションはイマイチ低いまま、逆に冷静に静止をかけるメンバーがいないために進軍自体は好調なのが皮肉だ。 ヨウシュヤマゴボウの洗礼を知っているので、むやみに脇道に気を取られないのも関係してるか。 こうして、「世界」の中心からやや禿チームサイドに押し込んだ地域に、両チームともに突出した集団が進行することになった。 * * * 最初に相手チームに気が付いたのは裸足将軍の部隊だった。 禿遠征部隊の方はヒラ親指が転落奴隷をなぶるので、周囲に声を響かせていたからだ。 「テチィ?」 「テチャ テチ」 「「「「テッチ」」」」 その声に気づき伺いを立てた配下に裸足将軍は方針を告げる。 その方針とは…… 「テッチューン!」 なんと「ご挨拶」であった。 裸足将軍以下4名、まさかの無防備での禿遠征部隊へのご登場である。 ……そうだった、禿将軍以下、危険に対する命知らずの経験値は持っていても、 「明確に悪意をもって接してくる相手」への経験値はゼロなのだった。 無理もない。裸足将軍視点では、この世界で出会う親指はみな味方であった。 爪楊枝で見た目だけは武装していても、敵に対する備えは概念として持っていないのだった。 そうなると、悪意のエリートとしてアドバンテージがあるのは禿チームの方である。 ヒラ親指は突然の遭遇に驚きながらも、他の3匹に迅速に指示を出した。 すでに糞虫の序列を知っている禿遠征部隊は躊躇なく裸足将軍のチームに襲い掛かる。 数で劣る禿遠征部隊だが、取った作戦は実に悪意に洗練されていた。 油断している相手チームの5匹のうち2匹に、禿はそれぞれ2匹がかりで襲い掛かった。 「テッチャアアアアア!」 「テヒ!? テギャアアアアアアア!」 「テテェ!?」 2匹がかりで襲い掛かり、1匹は相手を抑え込み、もう1匹で相手の首筋を噛み切る。 攻撃力に劣る親指が唯一確実に相手を「仕留める」ことができる必殺コンボだった。 首を噛みきられて地面をのたうつ仲間2匹に動揺する裸足将軍たち。 これで数の上では禿4VS裸足3。 このまま畳み込みたい禿チームであるが、さすがに裸足将軍は反応が早かった。 「テッチィ!」 「テ!? ……テテチィ!? テハッ!?」 次はお前だと襲い掛かってくるAとヒラのうち、Aに狙いを絞り爪楊枝一閃。 初撃成功の興奮冷めやらぬAの油断まみれの額を貫き通した。 何が起こったかわからないままぐるんと目玉をひっくり返す禿チームの奴隷待ちA。即死である。 しかし、裸足将軍の抵抗もそこまでだった。 新たに加勢に加わったBが裸足将軍を後ろから押さえると、禿のヒラ親指は怒りに任せて裸足将軍に暴行を始めた。 殴りながら、頭巾を破り、髪を引きちぎり、服を奪う。 その間に裸足将軍の配下の1名は衝撃から立ち直れないままに転落奴隷に馬乗りにされていた。 ここで裸足将軍の残った配下1名が果敢に立ち向かえば数の上でも3VS3。戦況はどうなるかわからなかったかもしれないが…… 「テッチャアアアアアアアアアア!!」 なんと、無事だった裸足将軍の配下1名、まさかの敵前逃亡だった。 「テチィィィィィィィ!?」 脱糞しながら脱兎のごとく遠ざかる仲間の背を見て禿裸の将軍は吼えた。 疑問、怒り、絶望、そして怨嗟の感情がリンガル抜きでも伝わってくるようだった。 「チプププププ」 「チプププププ」 見捨てられて叫ぶ将軍を見て禿遠征部隊は笑う。仲間を害した将軍をとことんまで嬲るつもりのようだ。 あえて致命傷を与えずに殴る蹴るの暴行を裸足将軍に与えていく。 将軍は禿裸にされうずくまって震えるだけだった……かに見えた。 「テチャ!?」 もう抵抗しないだろうと高をくくった禿チームの隙をつき、一瞬で横っ跳び、落ちている爪楊枝をさっと拾い上げる。 緊張の走る禿チーム。しかし裸足将軍は禿チームに爪楊枝を向け間合いを測るようにふるまうと、 「ティッ!」 次の瞬間には裏切り者が逃げたのは別の方向……草木が生い茂る未開領域に身を翻した。 一瞬の離脱逃亡。一矢報いに特攻してくるかと身構えていた禿チームはあっけにとられて初動を失してしまう。 「テチャァァッ!」 「テチャアアア!」 仕留める寸前まで追い詰めていた禿チームの2匹は悔しがる。 そのころには転落奴隷にボコられていた最後の一匹も完全に息絶えていた。 現場には両チーム合わせて親指の死骸が4つ残された。 * * * 報告に戻った禿遠征部隊。すわいかなる制裁がとおびえてリーダーに報告を行ったが、リーダーはむしろ上機嫌だった。 リーダー直々に側近を携えて現場に赴き、4匹の死体を回収。 4匹分の死骸は改めて禿チームの貴重な食料となった。 「テッチ テチャ?」 「テチ! テテチ!」 上機嫌で肉を片手に、そして配下に……奴隷にもだ…‥にも肉を振る舞い、詳しい報告をさせる禿リーダー。 制裁はないとわかってからの禿遠征部隊は饒舌に報告を行っているようだった。 実際、禿遠征部隊の戦果は見事なものだった。 犠牲1匹に対し正体不明の相手3匹を打ち取り、なおかつ「他の親指の存在」という情報をチームに持ち帰った。 リーダーのとった措置も理にかなっていた。 ミスによる欠員の責任は責めても、戦闘による損失の責任まで問えばだれも戦闘をしなくなる。 そして、禿チームの構成員にもこの事態は意識改革をもたらしたらしい。 探索でミスをすれば責任を取らされる。実入りも限られている。 だが、他のチームを襲って失敗しても、リーダーに責められはしない。しかも成功すればオニクが手に入る。 「テチチチチチ」 「チププププ」 だれともなく、禿チームに暗い笑いが伝播し始める。 「テッチ」 「「「「テッチャ!」」」」 リーダーが音頭をとった。禿チームが応える。 禿チームの瞳が一気に血に濁る。 明日からの闘争を予感させるものであった。 * * * 逃げ帰った元将軍の配下……逃亡兵……はほうほうの体で…‥とはいっても無傷である……でSUKE-BASEに帰還した。 「テチャアアアアア! テッチャアアアアア!」 「……テエ?」 必死で報告をする逃亡兵。しかしそれに応対する裸足軍師は冷ややかだった。 大言を吐いて出撃していった将軍の一味、そして無傷で帰還した1匹。 どれだけ必死に泣き叫んでも、裸足軍師の心を震わせることはできない。 それは裸足軍師の下で働いていたヒラたちにとっても同じだったようだ。 「テチ」 どん 「……テェェ」 報告は終わったテチ? 作業の邪魔だからあっちいくテチ まるでそう言わんばかりの態度で邪険に突き飛ばされている。 「ティィ……」 歓迎されないまでもせめてねぎらいはされるだろうと思っていたのだろうか。 とぼとぼと逃亡兵はSUKE-BASEの片隅にうずくまり、テェテェと独り言を言い始めた。 報告を受けた裸足軍師は裸足リーダーに詰め寄った。 何らかの提案をしているようだった。そして意見が対立しているらしい。 「テッチェ! テチテッチェ!」 「テエ……テテエ……」 強く何かを主張する裸足軍師。そしてなにやら及び腰の裸足リーダー。 「テチ」 「テチャ……」 結局、裸足軍師は裸足リーダーに何かを吐き捨て、勝手に行動を始めた。 顔を見合わせる他のヒラたち。 「テチ」 「テチテチ」 「!? テチャアアア……」 結局ヒラたちは裸足軍師たちについていくことに決めたらしい。 取り残される裸足リーダー。 仲間のいなくなったリーダーは逃亡兵の横に腰を下ろした。 そして、裸足軍師が始めたことは、なんと自分をさんざん苦しめたウルシの葉の回収だった。 直接触れたら酷い目に合うということで、木の枝で注意深く刺したり、他の葉で挟むように持ったりして、 回収したウルシは裸足軍師の指示のもと、壁に仕込まれたり、床に敷かれたりと拠点の外周に設置されていった。 裸足リーダーにしてみれば仲間を酷い目にあわせたウルシの兵器利用には及び腰にもなるだろう。 だが、裸足軍師は外敵の存在をしっかりと脅威としてとらえていた。 わが身を苦しめたウルシであればこそ、この拠点を守る兵器足りうる、そう判断したのだろう。 実際に被害を受けた裸足軍師本人がやるというのなら、他のヒラに訴えかける説得力も十分だ。 頑丈な拠点は強固な要塞に姿を変えつつあった。 そして、とうとう裸足将軍は日が落ちてもSUKE-BASEには帰還しなかった。 * * * 禿チームに×ひとつ。裸足チームに×を3つ書き、ふと逡巡し×をさらにひとつ書き足した。 そして新たな枠を足すと、そこに裸足将軍の枠……計1匹、を書き記した。 結果として、禿チーム残り11匹、裸足チーム残り8匹、離脱した裸足将軍1匹、という勢力図になった。 明確な裏切りを受けて、本拠に戻るという選択肢を取らなかった裸足将軍。 そして、能動的に「世界」を切り進んだ裸足将軍の舞台を失った裸足チーム。 さらに襲撃略奪の味を覚えた禿チーム。 明日以降はますます両チームの接触の機会が増えるだろう。 中心部用にドローンを買っておいてよかった。 今日一日使って分かったがドローンの空撮機能は充電の関係で時間が限られているものの実に使いやすい。 しっかりと充電をし明日以降の撮影に備えなければな。 続く ******************************************* 中将◆.YWn66GaPQ

| 1 Re: Name:匿名石 2023/07/04-15:00:53 No:00007431[申告] |
| ついに両チームが遭遇か…スケベ椅子の守りがどう機能するか楽しみデス
裸足将軍の動向も気になる |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/07/15-03:17:17 No:00007521[申告] |
| 集団になるとサボりとか問題出てくるよなあ… |