タイトル:【パ悲】 楽園行きバスの悲喜交々
ファイル:滲占町の楽園行きバス.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:708 レス数:3
初投稿日時:2023/07/03-13:02:30修正日時:2023/07/03-13:02:30
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滲占町の楽園行きバス

『双葉発楽園行き』を元にさせていただきました。
ありがとうございます。

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滲占(にじうら)町には、楽園行きのバスが走っている。
バスと言っても大型のそれではなく、ワゴン車タイプの乗り合いバスと言った物で、
客として乗れるのは手続きをした飼い実装だけだ。

そして楽園とは、実装石が自由に生きられ、飢えも寒さもなく、
素敵なお友達とダンナサマに可愛がられる、実装石の楽園の事だ。
少なくとも楽園に向かう実装石たちは、そう教えられている。

土曜日の朝。
日走刷(じっそうすれ)停留所。
実装石が入れられたケージを持った人間が、何人かバスを待っている。
出社途中と思われるスーツ姿の男性もいれば、
起床してそのままと言った感じの、寝間着にサンダル姿の老人もいる。
愛しいペットを楽園へ送り出すバスが来るまでは、もう少し時間があった。

*

「デスデスゥ…(ママに早く逢いたいデスゥ…デププ、楽しみデス)」
「…ふわぁぁぁぁ…」
朝起きてすぐに停留所にやってたキンジロウは、
停留所の椅子に腰かけ、足下のキャスター付きケージを見て大きなあくびをした。
ケージの中には、亡き妻のミツコが可愛がっていたタマが入っている。
タマは鈴付きの首輪とリボンを着けた成体実装だ。

夫婦が老齢に差し掛かるまで、夫婦生活は円満だった。
だが、長く飼っていた愛猫のタマが死んでから、ミツコは少しおかしくなった。
それでも妻を支えて暮らしていたある日、庭に侵入してきた野良実装が、
タマの墓に供えられた魚を盗み食いしているのをミツコが見つけた。
その時ミツコは…その野良実装をタマと思い込んで、家に上げた。
タマの方は思いがけず飼い実装になって最初は戸惑った様子だったが、
それなりに知恵の回る個体だったのか、すぐミツコに懐いた。
キンジロウも渋々タマを飼う事を容認していたが…。

先月、ミツコがぽっくり逝ってしまった。
残されたキンジロウが、仕方なくタマを世話してやろうかと、
エサを与えたり糞の処理をしたりしてみたものの…。

「デッスデス?(ママはどこデス?ママに逢わせるデス)」
タマはミツコを「ママ」と呼んで懐いており、キンジロウの言う事は聞かなかった。
エサをやれば食べるのだが、どうもキンジロウの事をミツコの家来か何か
(それも家庭内カーストはタマより下)と思っているらしく、
ミツコが使っていたリンガルで会話してみると、
キンジロウの事を「おいオマエ」などと呼んでいる事が判った。

「そんな奴と一緒に暮らせねぇよなぁ…」
と言う訳で、離れて暮らす息子などにも相談した結果…。
タマを楽園に行かせる事にしたのだった。

「デェス!デェス!(おいそこの、ママのいる楽園へ行くバスはまだデス!?)」
タマには「楽園に行けばママに逢える」と言ってある。
だからタマの言いたい事はリンガルがなくても大体分かるので、適当に返事をする。
「…もうすぐだから待ってなさい」
そう、もうすぐこの不快な生物ともお別れだ。
キンジロウがそう思った時、停留所にケバケバしいバスがやって来た。
花柄と虹色に塗られた、楽園行きのバスだ。

*

「スイちゃん、もうすぐ楽園行きの時間だよ」
「テッチャ!(遅いテチ、クソドレイ!いつまで待たせるテチ!)」
停留所の隅にいる眼鏡を掛けた少女アキコが、
足下に置いた実装ケージの前にしゃがみ込んで、中の実装石と話している。
ケージの中には、誕生日に父親に飼ってもらった仔実装のスイが入っている。

スイは人間をドレイ呼ばわりする典型的な糞蟲だ。
ピンクの実装ベビー服を着て、さらにリボンやフリルでこれでもかと飾られている。
肩かけのポシェットはキラキラしたイエローで、蛆ちゃんの柄がプリントされている。
…正直、虐待派でなくても引くレベルである。

とは言え、アキコが愛誤派という訳ではない。
愛誤派なのはアキコの父親だった。
アキコの誕生日に仔実装(スイ)を買ったは良いが、自分が夢中になってしまい
ステーキや寿司、高級実装フードを与え、服や小物も望むまま買い与えた。
アキコの父は金持ちだったので、贅沢させるのは簡単だった。
結果、買ってきたばかりの頃は大人しくて贅沢を言わなかったスイは、
ものの2週間で糞蟲に成り下がった。

「テチュテチュ!(ゴハンのキボウテチ?何でも良いテチ、ゴシュジンサマ!)」
  ↓2週間後
「テチャテチャッ!(ステーキと寿司をよこすテチャ!食後にはコンペイトウテチッ!
 全くグズでのろまテチ!クソドレイは言わないと分からないテチャ!?)」
…こうである。

(スイがこんな風になっちゃったのは、私がパパに逆らえなかったからだ。
 糞蟲になっちゃったスイは、私が責任をもって楽園行きにしないと。
 それが私自身への戒めだし、パパの為でもあるし、何よりスイの為なんだわ…)
思いつめたアキコは、父親に内緒でスイの楽園行き登録を済ませ、
そして今朝、散歩と称してバス停にやって来たという訳だ。

「チププ…テチテチュ…(楽園に着いたら素敵なダンナサマが欲しいテチ。
 今のダンナサマは色々買ってくれるけど禿テチ…禿ドレイとはもうお別れテチ)」
「うんうん、幸せになってね…」
身勝手な妄想に浸るスイを見るアキコの表情は暗い。
アキコが暗い瞳でスイを見つめていると、停留所にケバケバしいバスがやって来た。
花柄と虹色に塗られた、楽園行きのバスだ。

*

「はぁ~」
停留所の椅子に腰かけたスーツ姿のトシオは、
足下に置いた実装ケージを見てため息をついた。
ケージの中には、トシオが去年購入してからずっと可愛がっていた、
仔実装のミドリコが入っている。

ミドリコはいわゆる普通の飼い実装だ。
ピンクの実装服やリボンやポシェットで飾り立てていないし性格も大人しい。
今もケージの中で、与えられた金平糖を嬉しそうに食べたり、
愛しい飼い主であるトシオを見上げたりしている。
(ゴシュジンサマはどうして困ったお顔をしてるテチ?)
朝から一緒にお出かけできて、コンペイトウをくれるのは嬉しいけれど、
飼い主が浮かない顔をしているのは気になって仕方がないミドリコ。

トシオが憂鬱なのには理由があった。
最近つきあい始めたチアキが、大の実装石嫌いだったのだ。
「実装石とか臭くて汚い不快生物を飼ってるとか信じらんない!
 あいつらどんなにしつけてもすぐ糞蟲になるし、とにかく嫌!
 処分してくれないなら別れる!」
と、まあこんな感じだ。
いくらミドリコの良さを説明しようとしても、チアキは聞く耳を持たなかった。

里子に出すという選択肢もあったが、里親探しや手続きに時間が掛かる。
だがチアキは「今週中に処分して」と言って聞かない。
どこかに捨てたとしても、大人しいミドリコが上手くやっていけるとは思えない。
そこで泣く泣く、楽園行きのバスに乗せる事にしたのだ。

「ごめんな、ミドリコ…」
「テチ?テチテチ!(どうして謝るテチ?一緒にお出かけ嬉しいテチ!)」
何も知らないミドリコの無邪気な様子に、
トシオは涙目になりながら、これから『楽園』に行く事を告げる。

「…これからお前は楽園に行くんだよ」
「テチィ…?(らくえん、テチ?)」
「美味しいものがいっぱいで、綺麗な服を着られて、友達もいっぱいいるんだ」
「テチュ!テチテチィ?(すごいテチ!ゴシュジンサマも一緒に行くテチ?)」
ミドリコは期待に満ちた目でトシオを見上げる。
だが、トシオは視線をそらした。

「そこに行けるのは実装石だけなんだ…僕は一緒には行けないんだよ」
「テェェ…(そんなテチ…)」
ミドリコはしばらくうつむいていたが、顔を上げて言った。

「テチッ!(なら、楽園に行けなくていいテチ!)」
「ミドリコ…?何言ってるんだ、ピンクの服を着れるし、金平糖も食べ放題なんだぞ?」
「テッチィ!(ゴシュジンサマが一緒じゃないならいらないテチ!)」
ミドリコは、手にしていた金平糖もケージの床に置いて、トシオを真っすぐ見つめた。

「…お前の気持ちはよく分かったよ」
トシオがそう呟いた時、停留所にケバケバしいバスがやって来た。
花柄と虹色に塗られた、楽園行きのバスだ。

*

「はーい、お・ま・た・せ!楽園行きのバスの到着ですよー!」
作業服姿の運転手(若い女性だった)が車外に降りてきてバスの乗降扉を開け、
やけにハイテンションな様子でアナウンスを始めた。

「皆さんおはようございまーす!
 この停留所から乗車する実装石ちゃんのお名前を読み上げるので、
 呼ばれた方は元気にお返事してくださいねー! シの12番、タマちゃん!」
「デェス!…デププ(はいデス!…デププ、ママに逢えるのが楽しみデス)」
「はーい、じゃあバスに乗ってね!そう、成体の君は奥に座ってー!」

タマは、デププと笑いながらバスに乗り込んだ。
キンジロウに対しては別れの挨拶すらしなかった。
キンジロウもまた、タマを黙って見送った。

「続いて、シの22番、スイちゃん!」
「テチテチッ、テッチューン!(はいテチ!早く楽園に連れテッチューン!)」
「あらあら、元気ね。ご主人様とのお別れは済んだのかなー?」
「テッチテッチ!(クソドレイ、今まで飼わせてやった事に感謝するといいテチ!)」
「じゃあね、スイ。元気でね」

偉そうに鳴いてバスに乗り込むスイ。
それを暗い表情で見送るアキコは、口元に小さく笑みを浮かべていた。

「最後に、シの25番、ミドリコちゃん!」
「……」
「あらぁ?ミドリコちゃーん!どうしたのかなー?」
ミドリコは返事をしない。

ざわざわと、ここまでのバス停で乗車していた実装石たちが騒ぎ始める。
「テチィッ?(なにごとテチ?)」
「デスデスゥ!?(なんで発車しないデス!?)」
「テッチィ!(早く楽園に行くテチッ!)」
だが、ミドリコはケージから出ようともせず、
困った運転手がケージごとバスに乗せようとしたが、
ミドリコはトシオのズボンを掴んで離そうとしなかった。

「…あのぉ、ミドリコちゃんの飼い主さんですよね?
 その仔を早く乗せて頂かないと困るんですが…」
「あ…」
運転手に声を掛けられたトシオは、しばしためらって、そして言った。

「すみません。出発して頂いて結構です。楽園行きはキャンセルしますので」
それを聞いたバスの運転手は、一瞬だけキョトンとしたが、
「そうですか。飼い主さんがそう決心されたのでしたら、それを尊重いたします」
そう言って微笑み、バスの乗降扉を閉めて運転席に戻った。

「デププ…(デププ、楽園行きを断るとは間抜けな奴デス…)」
「テチャア!(あいつは馬鹿テチ!)」
「テッチテチテチ!(どうしようもない屑はほっとくテチ!)」
車内からミドリコに、侮蔑の視線や罵声が投げかけられる。
そして。
「楽園行きバス、発車いたしまーす!座席にしっかりお掴まり下さいね~!」
運転手のハイテンションな声と共にバスは走り去った。

*

キンジロウはゴミ捨てが終わって清々したとでも言うような表情で、
大きく伸びをして家に帰っていった。
アキコは、ミドリコの方をちらりと見て、小さく何か呟いて去っていった。

トシオとミドリコは、まだその場に残っていた。
「ミドリコ…ごめんな。俺、もうお前を楽園行きになんてしないよ」
「テチテチィ…(ゴシュジンサマ…ワタチのせいで迷惑したテチ?)」
「いいんだよ、どうせチアキとは長続きしないだろうし」
「テェ…?(…?)」
ミドリコはチアキの事を知らない。それなら伝える必要もないだろう。
トシオはチアキとは別れる決意をしていた。

「お前を連れたままじゃ会社に行けないし、一度戻らないとな。
 …あ、会社に遅刻するって連絡入れないと!」
ミドリコの入ったケージを前に、会社に連絡を取るトシオ。
その表情は、先程までとは一変して明るくなっていた。

*

滲占町の外れにある『楽園』。
焼却場の様な建物にバスが入っていく。
さすがに期待していた楽園の様子とは違う事に気づき始める実装石もいるが、
バスの扉や窓はロックされているし、運転席との間もアクリル板が貼られていて
乗車している実装石たちは何もできない。

「はーい、楽園に到着でーす!お疲れさまでした~!」
バスが停車したのは何もないガランとした部屋。
壁だけはバスと同じ様にケバケバしく塗られ、殺風景な印象を少しだけ和らげている。

バスから降りた運転手が、部屋の隅にある大型ケージの方へ歩いていく。
「次はこちらの乗り物に乗ってくださいねー」
「デスゥ…?(ママはどこデス?)」
「テチテチ…(アマアマもウマウマもないテチ…)」
「テチャァ?(素敵なダンナサマはどこテチャ?)」
実装石たちも訝し気にバスから降り、それでも誘導に従って大型ケージに乗り込む。
誘導に気づかずうろついていた実装石も、数人の作業員が迅速にケージに押し込んだ。

「いってらっしゃーい!良い旅を!」
部屋の側面にあった大扉が開き、大型ケージがゆっくりと動いていく…。
実装石たちは初めこそ静かにしていたが、すぐに騒ぎ始めた。
「デスゥ!(ここは楽園じゃないデス!早く楽園に連れていくデスゥ!)」
「テッチャア!(素敵なダンナサマはどこテチャア!)」
「デシャシャア!(ワタシにもピンクのお服とポシェットをよこすデシャ!)」

ゴウンゴウンと音を立てながら進む大型ケージ。
その中は、だんだん暑くなってきていた。
「テチャア!(暑いテチャ!涼しい風を出すテチャ!)」
「デッサァ!(冷たい飲み物をよこすデスッ!)」
「デッシャアア!(早くウマウマをよこすデシャア!)」
ケージ内の不満が爆発寸前になった頃、ようやくケージの移動が止まった。
そして…。

…ケージの床が割れた。
「ティチィィィ!(ひゃあああああ!)」
ケージの中央にいた仔実装と他多数が、あっという間に落下していく。
その下は火の海だ。

「デシャアアアアアアア!(落ちるデシャアア!ママ、早く助けるデスゥ!)」
タマは端の方にいたので、とっさにケージの入口の枠に捕まって落下を免れた。
「テヂィィィィ!(ワタチのダンナサマ助けにきテヂィィ!)」
スイはそんなタマの脚に捕まり、必死に落ちまいとしている。
他にも数匹の実装石が耐えていたが、すぐに火の中に落ちていった。

「デシャッ!デシャア!(この糞蟲ッ離すデシャ!ワタシはママに逢うデシャ!)」
タマがパンコンさせながら、スイを蹴り落そうと足をばたつかせる。
スイもウンチを漏らしながら必死にしがみついていたが…。
「テチャーッ!(ゴシュジンサマ!助けにきテチ!もう贅沢言わないテチャーッ!)」
血涙を流しながらのその言葉を最後に、火の中に落ちた。

「デップップ…(デププ…ワタシは選ばれたデス。これで助かるデス)」
幸せ回路が働いているのか、最後の一匹になれば助かると思っているらしいタマ。
だが、無情にもケージはゆっくりと火の海に降下を始めた。
「デェェッ!?(どうしてデス!?ワタシは助かるはずデス!)」
凄まじい熱が、タマの足先を焦がす(すでに靴は脱げてしまっている)。
実装服がチリチリと焼け始め、下半身は熱さ以外の感覚がなくなっていた。

そして、ケージの入口を掴んでいたタマの手が、限界を迎えた。
よくここまで耐えたと言うべきだろう。
「デシャ!デッシャアアア!(ママ、ママ!ワタシを助けにくるデシャア!)」
タマは火の中に落下し、炎に包まれた。

*

『楽園』行き…。
それは可燃ゴミの収集日に合わせて回収された廃棄飼い実装が、
処分場で焼却処分される事である…。


~終~

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1 Re: Name:匿名石 2023/07/03-14:26:59 No:00007427[申告]
ミドリコちゃんとその飼い主は幸せになってほしいテチ!
その他の糞蟲はまあ死んだからいいか
2 Re: Name:匿名石 2023/07/03-22:51:05 No:00007428[申告]
ミドリコも主人に対する依存心や忠誠心強そうなので一歩踏み外すとタマのようになる恐れがあるのが実装の面倒な所。
あと飼い主の男がミドリコを最悪の方法処分しようとしながら彼女と長く付き合わないだろうと結局天秤にかけている感じがイイ話感出してても何ともね
3 Re: Name:匿名石 2023/07/06-22:40:21 No:00007454[申告]
この運転手の女性は金髪の予感がするなあ…
懐かしい名作の楽園行き、そこに乗る側乗せる側にも色々な事情があっても良いよね
アキコちゃんの最後の呟きは、元々自分が求めた実装との関係への羨望だったのかな?
スイがあれじゃ実装自体に嫌気さしてウンザリしてただけかもしれないけど…。
一般的実装の好きなもの全部よりゴシュジンを一番に考えられるミドリコ、トシオと長く仲良くいられるといいなあ。
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