-------------------------------------------------------------------------------- 麗らかな陽気の中、近所の公園を散歩中にふと目をやると、木陰で寝ている仔実装を見かけた。 両腕に親指と蛆を抱えており、3匹ともスヤスヤと寝息を立てている。恐らく姉妹だろう。 親と一緒ならともかく、仔実装達だけで巣の外に居るのは珍しいと思ったが そういえばこの公園は昨日実装石の一斉駆除があった事を思い出した。 いくら待てども親が帰って来ず、空腹に耐えかねて親を探している内に疲れて寝てしまったのだろうか。 幼い仔実装だけで生活していくには余りにも厳しいのが野良の世の常である。 早晩運良く駆除を免れた個体に襲撃され、良くて禿裸の奴隷か、 最悪嬲り者にされて生きたまま臓腑を裂かれ食い殺されるのがオチだろう。 不憫に思った俺は近くの薬局で即効性コロリを購入し、水で溶いた物を親指と蛆の口に1滴ずつ垂らした。 一口齧れば成体でも絶死する代物である。親指と蛆は文字通り眠ったまま安らかに死んだ。 しかし仔実装の場合は流石に安楽死とは行かない為、どうしたものかと思案しつつひとまずその場を後にした。 再び夕方に来て見ると、まだあの仔実装が居た。 中々起きない妹達を不思議がっているのか、既に息絶えている事に気付いているのか。 その表情から窺い知る事は出来なかったが、暗く濁った瞳から察するに後者であろう。 彼女には申し訳無い事をしてしまった。 明日には一斉駆除の第二陣が始まる。せめて彼女が安らかに妹達と同じ場所へ逝ける事を願うのみだった -------------------------------------------------------------------------------- ワタチは長女テチ。3人姉妹の一番上のオネチャテチ。ママとワタチと親指チャンとウジチャの4人で暮らしてるテチ。 ママはとっても優しいテチ。毎日ご飯を取って来てくれるし、夜は一緒に寝てくれるテチ。 親指チャンもウジチャもとっても可愛くて良い子テチ。親指チャンはウジチャによくプニプニしてあげてるテチ。 でもある日ママがご飯を取りに行ったまま戻って来なかったテチ。 その日は見たことの無い格好のニンゲンサン達が沢山公園に来てたテチ。 (デシャァァァァ!!…デボベッ!?デギャァァァァァ!!!テチャァァァァァ!!!テェェェェン……) 「デェェ…外の様子がおかしいデス…お前達はお家から出てはダメデス」 「今日は帰りが遅くなるかもしれないデス。長女チャンは妹達の面倒を良く見てあげるデス」 「お前は賢い仔デス…二人のことは頼んだデス」 ママはそう言って、普段はお家の奥にしまってる細長い棒を取って出掛けていったテチ。 棒の片側は赤くて丸い玉が付いてて、もう片側はすごく尖ってるテチ。 細いのにワタチの力じゃ全然曲がらなくて、勝手に触ったときはママに怒られたテチ。 「マチバリ」っていうママのママが使っていたものらしいテチ。 お家が大きなカエルに襲われたときは、ママはコレを使ってカエルを追っ払ってくれたテチ。 あの時のママはとっても強くてカッコ良かったテチ。 でも夜になってもママは戻って来なかったテチ… 「オネチャ…お腹すいたレチ…」「レフー…」「………テッチ!」 二人ともお腹を空かせてるテチ。ママが居ない間はワタチがイモウトチャ達を守るんテッチャ! 外の様子が静かになっていることを確認してから、ワタチ達は慎重にお家を出てママを探しに行ったテチ。 でもママがどこに行ったのか分からなくて、まだ暗い夜なので周りもよく分からなくて 夜通し探したけどママは全然見付からなくて、ワタチもお腹が減ってて、夜明け頃になると 親指チャンとウジチャを抱っこしたままワタチも木陰でいつの間にか眠ってしまっていたテチ… …目が覚めると辺りはすっかり夕方になってたテチ。親指チャンとウジチャはまだ起きないテチ。 全く二人ともお寝坊さんテチ…ほらママを探しに行くテ… よく見るとイモウトチャ達はピクリとも動かなくなってたテチ。息もしてないテチ… 「……」 「…………テ?」 「テチャァァァァァァァァ!!!」 ウジチャ! 親指チャン! しっかりするテチィ!! お目目開けるテチ! ママを探しに行くテチ! なんでテチ? どうしてテチ? ママの言いつけを破ってお家の外に出たからテチ…? 守れなかったテチ 守れなかったテチ ワタチが一番オネチャなのに ママにも二人の面倒を良く見るように言われてたテチ でも二人ともお目目を開けないテチ 息してないテチ 「チュワァァァァァァァァァァ!!!!!!!!ママァァァァーーーーーーー!!!!!!」 -------------------------------------------------------------------------------- 「テッテロチェー… テッテロチェー…」 「ん?なんだこいつ?」 「どうしたんスか先輩」 「いやあそこの木陰のところ 仔実装だなありゃ」 「あーやっぱ一昨日の駆除でも生き残ってたヤツ居るんスね」 「だからこうして念入りに再駆除が必要なわけだ しかしこいつ人間を見ても逃げないな」 翌朝公園の実装石駆除を担当している市の清掃員が見つけたそこには、 親指と蛆の屍を抱いたまま幸せの歌を謡い続ける仔実装の姿があった。 「特に逃げないようなら使うのはコッチだな」 「了解っス。んじゃ散布始めます」 清掃員が取り出したのは実装ネムリと実装コロリを配合した特殊駆除剤である。 まずネムリの効果で実装石を眠らせた後に、即座にコロリの効果が発揮される。 この薬剤を吸い込んだ実装石は、皆眠るように息を引き取るのである。 効果は高いがその分薬剤の費用も高額なため、要所要所で使われる。 一斉駆除に関しては愛護団体からの強い要望もあり、 逃げ回ったり反抗してくるような個体には物理的な強硬手段を取らざるを得ないが、 そうでない場合は極力こちらを使うように指示されていた。 「屍骸はちゃんと回収しとけよ。放置してたら野良が食いに来るからな」 「分かってますって。しかしこいつ…」 「どうした」 「いや何でもないっス」 清掃員が回収した、両手に家族を抱えたままの仔実装。 その死に顔はとても安らかであった。

| 1 Re: Name:匿名石 2023/07/01-22:14:16 No:00007407[申告] |
| 駆除の谷間にわざわざ駆除剤を持っていって生き残りの姉妹を孤独にさせる。まあ、敢えてだよなぁ |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/07/02-01:03:47 No:00007409[申告] |
| 実装石のサイズだと待ち針もアイスピックみたいな扱いになるんだろうか。 |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/07/02-09:35:40 No:00007416[申告] |
| 物理的な苦しみなく逝けたのがせめてもの救いかな…
切ない話デス |