タイトル:【食】 蛆実装料理専門店 寺屋橋次相
ファイル:次相.txt
作者:中将 総投稿数:51 総ダウンロード数:858 レス数:9
初投稿日時:2023/06/30-00:53:35修正日時:2023/06/30-00:53:35
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暑気払いに久しぶりにちゃんとした実装料理を食べたくなったので都心に出る。
目指すは蛆実装料理の専門店だ。
ぱっと見にはわかりづらいビルのエレベーターを登って店に入る。
フロアに足を踏み入れると、エアコンに調整されたさわやかな風、
そしてヒノキを基調とした店の清潔な香りがまとわりついた熱気を一気に押し流してくれた。

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       蛆実装料理専門店 寺屋橋 次相


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店の名前は寺屋橋 次相(テラヤバシ ジソウ)という。
蛆実装を使った寿司が有名だが、寿司の枠にとらわれない様々な料理をお任せで出してくれる。
名前は広く知られているが、店としては一見さんお断りで縁がなければ非常にハードルが高い。
俺自身蛆ドッグ早食い大会の際に審査員に気に入られ初めて暖簾をくぐったのだ。

しかし格式高い店構えと違って実態はなかなか砕けている。
実装料理を地位あるものにしたいという店主の心意気と計らいでこの押し出しになっているものの、
出てくる料理は高級とはいえ実装、見た目ほどには懐に響かないのも好ましい。
なにより俺自身「通」の正式な流儀など知らない。だからこそこういうスタイルの店が実にありがたい。

キープしていた大分の麦焼酎「蛆情(うじょう)」のボトルをロックで頼む。
ほどなくして、先付の品とともにグラスが運ばれてきた。


「こちら虹の湯ぶりのもみじおろし詰めでございます」


古くからやってる蛆実装料理の店では店内で蛆という言葉は使われない。
江戸時代から「焼けば鯛、茹でりゃエビ、湯がけばイカで蒸せば白子の舌触り、実に面白きは虹のさま」と謳われるように
調理法でさまざまに風味を変える新鮮な蛆実装を指して「虹」と呼ばれる。

首をもぎ、内臓を丁寧に抜いた袋状の蛆実装をさっと湯にくぐらせたものに辛さを控えたもみじおろしが詰めてある。
端で持つと白い身がふるふるとつややかに震える。かかっているのはあさつきだ。

噛み締めればぷつんと千切れる弾力のある歯ごたえ。湯がけばイカと呼ばれる所以をしっかりと堪能する。
舌の上に広がる辛味とほのかな甘み。ここでロックをぐいと決める。

一瞬で外の熱気が忘却の彼方に押しやられた。


「虹素麺でございます」


次の品はイカそうめんならぬ蛆そうめんだ。この店では薄めにやや幅広に切った蛆の白身を、すだちを利かせた濃い目のつゆでいただく。
都心界隈だと川越の高級養殖実装、房総の山実装などが実装食では有名だが、生で食べるなら茨城の朝どれ蛆に勝るものはない。
臭みのない白身こそ朝どれの腹割き蛆の証明だ。
腹割き蛆は蛆が腹にいる段階の親の腹を割いて取り出したもので、出産の負荷を与えていないために身が非常に繊細なのが特徴である。
値段よりも流通そのものが少ないのでこうして巡り合えることは非常に幸運である。

さきほどの一品とは違うねっとりとした甘みに舌で押せば千切れてしまいそうな柔らかさ。
箸でつまむのにも細心の注意を必要とするくらいだ。だからこの店ではやや幅広に蛆を切る。

早くも次の冷酒を注文してしまった。汗をかいた体に恐ろしい勢いで酒気が回っていく。
いかんな、実にいかん。


大将が鍋を出して揚げ物を始めた。
香ばしい揚げ油の香りに、静かな店内に油の跳ねる音だけが響く。


「虹の揚げ物3種、姉妹巻き、肉唐辛子、ぷに返りでございます」


姉妹巻きとは開いた蛆の身に紫蘇、さらにもう一枚蛆の身を重ねて梅肉を乗せたものを巻いて揚げる天ぷらだ。
切った断面が緑と赤の渦巻きになっているのが美しく、さくさくの衣のままにかるく塩でいただく。
軽快に弾ける衣、そしてほろほろと崩れる繊細な蛆の身がさわやかな薬味とあいまって繊細で鮮烈な風味を醸している。
二つ目にはレモンを絞ってみた。また蛆の白身の持つ確かな旨味が別の方向から引き出される。
これはレモンサワーだったかな?と少し後悔。

大根おろしでいったん舌をリセットさせる。

肉唐辛子とは蛆実装の素揚げのことだ。名前の由来は見たまんまの外見から。
腹を割き身を酒で洗って下味をつけたものをからっとパリッと揚げる。
主な味付けはショウガ醤油。腹の内側からも火が通ってるのでクリスピーな食感と香ばしさがたまらない。
噛み締めるたびにバリッバリッと少々行儀の悪い音が響く。

俺はここでとうとう誘惑に負けてビールを頼んだ。揚げ物にはやっぱり炭酸でしょう。

半端な店だと骨と皮ばかりな蛆実装が供されるがさすがは次相、肉付きが違う。
ぷりぷりとした肉質の歯ごたえがしっかりと感じられる。
頭も歯を立てた瞬間ほろっと崩れる。目抜きがしっかりしてあるので頭蓋にも内側からしっかり火が通っている。
軽く一味で味変する。これまたビールに合う。たまらない。

ぷに返りも蛆の頭を使った料理だ。
これは割いた腹の中に頭と具材を詰め、閉じて揚げるものだ。食感は軟骨入り鳥皮餃子が一番近いだろうか。
さて、どんな塩梅かと一口齧って驚く。
これは…サトイモか。そして味付けは味噌か・・・!
ねっとりしたサトイモで蛆の頭を包み、それが腹の中に詰めてある。
香ばしく揚がった皮の中でねっとりしたサトイモの食感とネギ味噌が混ざり合う。
こうして包んで火を通すと蛆実装の頭はまるでウズラの茹で卵程度の硬さしかなくなる。
じっくり味わっているうちに舌の上で消えてしまうのが残念だ。


「逃げ山虹の焼き物、薬味詰めでございます」


逃げ山虹というのは、山実装の巣を潰したときに巣から独力で逃げようとする蛆実装のことである。
多くの蛆実装は巣が壊された場合泣き叫ぶか呆然として身動き取れなくなるかあっさりと自死をするのだが、
中にはそこらの親指よりも素早い速度で巣から這い出して逃げようとする集落がある。
非常にたくましく、魚介に例えられることが多い蛆実装の中でも肉に近い食べ応えが楽しめる。
幸運にも見つけた猟師さんは臨時収入に小躍りするという。
〆る瞬間まで果敢に抵抗をし、叫び、身をよじらせるが、そのしっかりした内臓ゆえに首をねじるとそのまま首ごとずるりと内臓を引き出せるのが特徴だ。

しっかりと下処理をした袋状の身を甘辛い醤油ダレで炒め、中に詰まっているのはもやしとタケノコ、あとはミョウガか。
ジャキジャキした歯ごたえに甘辛いタレ、薬味の苦みが引き立て合う。

「大将、こういうの珍しいね」と声をかけると、
「肉厚のいい逃げが手に入ったもので肉の解釈で是非にと」と言ってくれた。
なかなかのサプライズだった。家で作るならマヨネーズをつけたくなる味だな。
もしかしてビールを頼んだから気を利かせてくれたのかもしれない。


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さて、いよいよ寿司である。


「茹で虹の握りでございます」


やっぱりベーシックにまずはこれからだ。
じそえびとも言われる蛆実装の一番ベーシックな食べ方はやはり茹でエビを模したもの。
しっかりと出汁で茹でれば肉厚のエビの持つ甘味と弾力に近い風味が楽しめる。
地獄茹でといわれる腹を割いた蛆を息のあるままに煮立った鍋に放り込む手法で、
声なき悲鳴で叫ぼうとした体制のまま茹で上がる逆エビぞりの姿になるのが特徴だ。
今日は上にちょんととびっこが添えてある。
白醤油が塗ってあるからそのままいただける。納得の弾力だ。甘い。そして美味い。


「こぶじめした虹の握りでございます」


天然ものばかりが取り出されるが最近では養殖物もいい味を出す。
特に偽石強化食を取らせて育てた食用蛆は独特の調理法が可能だ。
蛆の体から偽石を抜いて栄養剤に漬け、その状態で内臓を抜いて昆布で挟み、冷蔵庫で生きたまま〆る。
これは天然ものではなかなかできない工程だ。
冷暗所で凍えながら、内臓はすでに取り払われているので昆布を齧っても消化はできないので糞臭くもならない。
握る寸前に偽石を割って完全に〆る。
地方によっては石を割らずに生きたまま食べるところもあるらしいが、それは特殊な例だろう。


「蒸し虹の軍艦でございます」


白子に似た食感の蒸し蛆であるが、目の前の軍艦巻きの上に見えるのは趣が違う。
これはもしかして……

「はい、虹の仔でございます」

なんと……! 蛆実装の目を緑にそろえることで無理やり作らせた超小粒の蛆実装の塊のことである。
目が揃った蛆実装は張った腹に苦しみプニプニを要求するが、仔蛆が育つまで放置。
いよいよとなったら腹を割いて中身を取り出すのである。
蒸しあがった虹の仔の塊には、すでにポン酢のジュレがかかっていた。
一息で口に放り込むと、ぱらぱらと弾け、そして口の中に濃厚な旨味を残す。
小ぶりなシャリと混ざり合って、これは……飲める寿司だ。
味わっているうちに歯を動かすのを忘れてしまったほどだ。


「房総の山虹の白焼きとかば焼きの握りでございます」


先ほどからいい香りをさせていたものの正体がこれだ。
開いた蛆の身を油を塗りながら遠火の炭火でじっくりと焼く。
そうすると焦げた表面が独特の硬さを持ち始め、柔らかさが売りの蛆肉とは別の様相を表してくる。
臭みのない上質のバターのような脂の弾ける匂い。厳密なかば焼きではないが関西式に属するのだろうか。
ひとつは塩をふって、ひとつはツメをぬって。
白焼きのほうをいただけば、夏場向けの強めのあたりがカリカリに香ばしい蛆の身の脂と相まって口の中にあふれ出す。
添えられた山椒の葉がぴりりとアクセントを残す。
かば焼きの方も極上だ。ウナギと違って小骨がないことを逆に物足りないという人もいるが、あごと舌だけですりつぶせる柔らかさは他には代えがたい。

「この虹は姉妹でしてね、同じ仔に抱えられていたんですよ」
「ほう、それなのに味付けひとつでこれだけ風味が変わるモノなんですねえ」
「最後までステーキステーキと叫んでいたらしいですから、ステーキになれて本望でしょう」
「それも最高の仕事ですからねえ。ありがたくいただきました」

食実装は規格ごとに出荷先が違う。姉にあたる仔実装もきちんとした店に卸されているはずだ。
そちらはちゃんとステーキになれたのだろうか。約体もないことを考える。
本望を叶え我が身を満たしてくれた姉妹にあらためてごちそうさまでしたと手を合わせる。


「焦がし虹の出汁の椀でございます」


名残惜しいが締めの一品である。
焙烙の上で丹念に低温から焼き上げた蛆で出汁を取った椀だ。
蛆実装はもろいので、焙烙の温度を丁寧にじっくり上げていかねばならない。
しかし頭は鈍いので、職人がゆっくり火を通すと暑さを感じるより先に身を焼くことができるという。
存分に身が焼けたところに一気に湯を張ると、「レピッ」の断末魔とともに一瞬でいい出汁が取れるという。
いただいた一杯も曇りのない見事な出汁だった。


……堪能した。


会計を済ませ店の外に出ると、先ほどよりはましとはいえまだまだ暑い。
タクシーで帰りたくなる誘惑をぐっとこらえ、帰路につく。
だいぶ酒も入ってしまった。酔い覚ましに歩くのもいいだろう。

たまに贅沢をして気合を入れて、なんとかこの暑さを乗り切らないとな。
まだまだ日本の長い夏は始まってすらいないのだ。


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中将◆.YWn66GaPQ


あんまり暑いからボックスサム書いてる合間に勢いで食実装スクを書きました。
スタミナつけたい。

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1 Re: Name:匿名石 2023/06/30-07:11:59 No:00007391[申告]
高級料理なぞ無縁の俺だがぼんやりと料理の姿が頭に浮かんだ…
これは食べたくなる
2 Re: Name:匿名石 2023/06/30-07:35:02 No:00007392[申告]
調理工程での阿鼻叫喚も良いがこう言う趣があるのも良い。
3 Re: Name:匿名石 2023/06/30-18:00:49 No:00007396[申告]
良い店の食材になる実装石は違うんだろうなぁ
すごく美味しそうに思える
4 Re: Name:匿名石 2023/06/30-22:26:20 No:00007398[申告]
グルメの方に完全に軸足を置いてる実装食もの珍しい?あくまでも一食材として扱っていてどんな味わいか食べてみたくさせるスクだった
5 Re: Name:匿名石 2023/07/01-01:53:24 No:00007399[申告]
ウジちゃん美味しくなるレフ
6 Re: Name:匿名石 2023/07/01-03:33:05 No:00007400[申告]
描写の細かさといい詩的な表現の数々といい
作者さんの教養がうかがい知れる良作なんだけど
実装があくまで処理済みの食材としてしか出てこないから
実装スクというよりも読み物になってしまってるのが惜しいといえば惜しい
7 Re: Name:匿名石 2023/07/01-14:06:00 No:00007401[申告]
良い蛆を食べてみたいものだ。
8 Re: Name:匿名石 2023/07/03-08:28:04 No:00007423[申告]
美味そうすぎる…
読む飯テロですねこれは
9 Re: Name:匿名石 2023/07/21-08:10:24 No:00007595[申告]
数年ぶりに実装スクを見に来たけれど、これはたまらない逸品だ
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