俺は訳あって蛆実装を飼育している。今日も実装専門店で一匹十円のハゲハダカ蛆実装を十匹購入してきた。 「レフー?」 「レフレフ」 「プニフー」 耳を澄ますと聞こえてくる蛆実装達の元気そうな声に、思わず頬が緩む。一応ペット用に売られているだけあって、野良実装の両眼を赤くして強制出産させた即席蛆より健康状態は良好だ。 「ここが君達の新しいお家だよ。皆、新しいお友達だ。仲良くするんだよ」 そして専用ケージにピンセットで一匹ずつ入れていく。 「レフー?」 「レフーン」 ケージにも十匹ほどのハゲハダカの蛆実装がおり、新しい仲間を迎えて嬉しそうに鳴いている。 蛆実装達はケージ内に入れてある、数個のピンポン玉を使って早速遊び始めた。同族同士仲良く過ごせればストレスでパキンする可能性も減るし、お互いに助け合うので事故で死ぬ可能性も気休め程度だが減るから喜ばしい。 そして俺は台所に向かい、自分の食事を手早く済ませる。今日は安売りされていたスーパーの弁当にインスタント味噌汁だ。最近物価高だからな。 自分の食事を異袋に詰めたら、次は蛆実装達の食事を用意する。実装ショップで売られている蛆実装用ゼリーフードやデチュールは高価だし、栄養価を整えたいので餌は自作だ。 フードプロセッサーでバナナをペースト状にして、それに買いだめしておいた黄色い野菜ジュースを粘性が無くならない程度に加える。 これで我が家の蛆実装用の定番料理の完成だ。ポイントは緑や赤ではなく、黄色か紫の野菜ジュースを使うところだ。以前、緑や赤の野菜ジュースで作っていた時は、興奮して顔ごと突っ込んだ蛆実装の目に餌が入り、妊娠や強制出産が起きてしまった事がある。 「さあ、ご飯だぞ~」 作った黄色いペーストを専用エサ皿に乗せてケージの床に設置する。すると蛆実装達は興奮した様子でレフレフ鳴きながら集まってくる。 「レフ~ン♪」 このエサはバナナや野菜ジュースの自然な甘さが美味しいらしく、蛆実装達には好評だ。ぴちゃぴちゃと舐めとるようにして夢中で食べる。 「レフーっ!」 「レフレフ、レフ~レフ」 特に反応が大きいのは、今日買って来た蛆実装達だろう。ペットショップで与えられているのは水でふやかした徳用フードらしいから、俺の作った餌はこいつらにとってご馳走なのだろう。 「ご飯が終わった奴からプニプニするから、仰向けになりなさい」 リンガルを使わなくても俺の「プニプニ」という言葉は理解できるようで、蛆実装達は食事を終えると早速仰向けになって「プニフープニフー」と鳴きだした。 使い捨てのビニール手袋をした俺は、端からそれぞれ十五秒ほど腹を指で刺激してやる。 「レピャピャッ!」 液便を垂らしながら喜ぶ蛆実装達。昔は力加減を誤って潰してしまう事もあったが、今ではすっかり慣れたのでそんな事はない。 そして五分程かけて全ての蛆実装にプニプニをし終わったら、シャワーの時間だ。 「よし、じゃあシャワーの時間だ。皆、キレイキレイしような~」 もちろん、蛆実装を一匹ずつ浴室まで運んでシャワーを浴びせる訳じゃない。用意しておいたぬるま湯を園芸用のジョウロで上からかけるだけだ。 このケージは床に小さな排水溝があり、それに繋がっているホースを台所やトイレ、浴室の排水溝に伸ばせば汚水を直接下水に流せる仕組みになっているのだ。液便をしょっちゅう出す蛆実装を衛生的に飼育するには必要な機構だ。 「レフ~っ」 「レボボボ……」 人肌のぬるま湯を浴びて、蛆実装達が気持ちよさそうに鳴いている。何匹か仰向けのまま浴びているが、あれは何なのだろうか? シャワーの水流を利用した疑似プニプニか? そして暫く経ったら電気を消してお休みの時間だ。 「さあ、今日はもうお休みの時間だ。もう寝ようね」 部屋を薄暗くすると、蛆実装達はケージの隅に集まり身を寄せ合って眠り始める。布団どころか服もないので、お互いに温め合うためだ。 そして俺は眠った蛆実装の内、比較的大きくてコロコロとして栄養状態が良さそうなのを一匹ピンセットで掴み、ケージの蓋を閉める。 「レフー?」 途中で選んだ蛆実装が起きるが、にっこり笑って優しく頭を撫でてやれば騒がない事は経験上分かっている。そして俺は別の部屋に向かった。 ウジチャンはウジチャンレフ。名前は無いレフ。 気がついたらお友達と一緒に『ショップ』にいたレフ。ママやオネチャはいなかったレフ。みんな、ウジチャンと同じウジチャンだったレフ。 ウジチャンにはお毛々もおくるみも無いレフ。生まれた時にはあった気がしなくもないレフが、気がついたらハゲハダカだったレフ。 「ご飯まだレフ?」 「誰か、ウジチャンにプニプニして欲しいレフ」 お友達もハゲハダカレフ。だからウジチャンも気にしないで済んだレフ。 そしてある日、ニンゲンさんに買われたレフ。ニンゲンさんはウジチャンとお友達を籠に入れて買ってくれたレフ。 「ウジチャン達飼いウジになれたレフ?」 「このニンゲンさんが新しいママレフ~♪」 「ニンゲンさん、プニプニしてくださいレフ」 ウジチャン達はとても喜んだレフ。これでウジチャン達の実生はバラ色レフ。バラ色ってどんな色レフ? 『ここが君達の新しいお家だよ。皆、新しいお友達だ。仲良くするんだよ』 ニンゲンさんは、ウジチャン達をケージに入れたレフ。 「新しいお友達レフ?」 「レフ? ちょっと大きいお友達がいるレフ」 ケージの中には、ウジチャン達よりちょっと大きいウジチャン達、お友達がいたレフ。 「レフー、お友達が増えて嬉しいレフ。ボールさんで遊ぶレフ!」 「レフ~ン! 遊ぶレフっ!」 ウジチャン達は白くて真ん丸なボールに大興奮レフ。これが飼い蛆の特権、オモチャレフ。頭や尻尾で押すとコロコロ転がって、受け止めると止まるレフ。とっても楽しいレフ。 『さあ、ご飯だぞ~』 そして夢中で遊んでいたら、ニンゲンさんがご飯をくれたレフ。黄色のドロドロレフ。 「これなんレフ? ウンチレフ?」 「ウンチより美味しい物レフ。アマアマレフ」 「アマアマレフ!? ウジチャンも食べるレフ!」 お友達とご飯に近づいて、黄色いドロドロをなめとるようにして食べると、本当にアマアマだったレフ。ちょっとすっぱくて苦いけど、とっても美味しいレフ。お店で食べたゴハンの何倍も美味しいレフ。 『ご飯が終わった奴からプニプニするから、仰向けになりなさい』 そしてお腹がいっぱいになってまったりしていると、ニンゲンサンがそう言ってケージに指を入れてきたレフ。 「プニプニしてくれるレフっ!?」 「ここは楽園レフっ!」 お店のニンゲンさんはプニプニしてくれなかったレフ。プニプニてくれるママもオネチャもいなかったレフ。ウジチャン達はいつも自分で転がって疑似プニプニしていたレフ。 だから実生でこれが初めて経験する、本物のプニプニレフ! 「レピャレピャ!」 本物の、しかもニンゲンさんにしてもらうプニプニは極上だったレフ。気持ちよくてウンチが漏れちゃったレフ。 『よし、じゃあシャワーの時間だ。皆、キレイキレイしような~』 余韻に浸っていると、ニンゲンさんが何か言ったレフ。すると、仰向けになっていたお友達がうつぶせに戻ったレフ。 何が始まるんレフ? 「レフッ!?」 すると、突然雨が降って来たレフ。でも冷たくない、温かい雨レフ。気持ちいいレフ。 「レボボボボ……」 でも仰向けのままだったウジチャンは、息できなくなっちゃったレフ。ちょっとピンチレフ。 「レフ~、パキンしちゃうかと思ったレフ」 でも、すぐに終わったから大丈夫だったレフ。 「ニンゲンさんはプニプニの後でウジチャン達にシャワーを浴びせてくれるレフ」 「次からはウジチャンみたいに気を付けるレフ」 「ウジチャン分かったレフ」 『さあ、今日はもうお休みの時間だ。もう寝ようね』 お友達と話していると、ニンゲンさんがお部屋を暗くしたみたいレフ。ウジチャンはまだ眠くなかったけれど、暗くなったら眠くなってきたレフ。 気がついたらお友達とくっついていたレフ。温かいレフ。 お休みなさいレフ~。 「レフ~、ウジチャン選ばれたレフン♪」 程よい大きさの蛆実装を一匹ケージからピンセットで取り出し、プラスチックのカップに入れる。 「レフ? お砂糖レフ? レェェン、甘くないレフ」 そしてカルシウムパウダーを振りかけてまぶす。 カルシウムパウダーが目にでも入ったのか、それとも味が気に入らないのか、レフレフ鳴いているが構わない。ウネウネしている蛆実装を再びピンセットで掴んで、ケージに入れる。 「ここがウジチャン専用のお家レフ? 居心地が良さそうレフ! でもお友達がいないのは寂しいレフ」 白い床材の上を肌色の蛆実装が這いまわり始める。その動きと鳴き声が、あいつを刺激する。 「レフっ? 誰レフ?」 ケージに置いてある倒木を模した隠れ場所から、このケージの主で俺のペットのトカゲが姿を現す。 レオパと通称されているトカゲで、既に成体だがそう大きいものではない。手の平に乗せられる程度のサイズだ。 「ト、トカゲさんレフ?」 しかし、一ヵ月から二カ月程の飼育で多少体が大きくなっていても蛆実装にとってトカゲは、巨大な恐竜のように見えたのだろう。鳴き声に脅えが混じる。 「ニンゲンさんっ、助けてレフっ! ウジチャンのお家に、トカゲさんが侵入してるレフ!」 トカゲは隠れ家から出て、クリクリとした可愛らしい目で蛆実装を見つめながら近づいていく。 「何で助けてくれないんレフ!? レヒィィっ」 蛆実装は身を翻して逃げようとするが、その動きはあまりに遅い。トカゲはすぐ追いつくと蛆実装の下半身を口に咥えて持ち上げた。 「レピィっ!? ここは、楽園じゃなかったんレ——」 そして、頭まで口に納めて丸呑みにした。小さく、「ヂッ」と言う断末魔の鳴き声が聞こえた気がする。 「よしよし、よく食べたな。今日の蛆も美味しかっただろう?」 俺は食事を追えて満足そうなトカゲに声をかける。 俺が蛆実装を飼っているのは、このトカゲの活餌にするためだ。 このトカゲは元々友人が飼っていたものだったが、彼の結婚相手の女性は爬虫類嫌いだったため代わりに飼ってくれと押し付けられたものだ。 正直、最初は迷惑だとしか思わなかった。しかし、飼い始めると可愛く見えるようになったし、トカゲ自体にはそれほど手間がかからないので嵌ってしまった。 だが、問題は餌だ。近年では便利な人工飼料があるそうだが、友人はこのトカゲにもっぱら蛆実装を生きたまま与えていた。 そのせいで、このトカゲは人工飼料に対して食いつきが悪い。だから俺も餌に生きた蛆実装を与える事にしたのだ。 ……独自に繁殖できない蛆実装より、レッドローチやコウロギの方が活餌としては優れているそうだが、俺は虫がダメなので他に選択肢が無い。 「……俺のペットはトカゲであって蛆実装じゃない……よな?」 だが、ふと疑問に思う時もある。果たして俺のペットはどちらなのかと。 俺はトカゲのために毎日霧吹きでケージ内を湿らせ、水を交換し、二日か三日に一度蛆実装を与えて、月に一回床材を交換する。 一方、蛆実装には毎日二回、朝と帰宅時に手作りの餌を与え、ストレスを感じないよう声をかけてやり、全ての個体にプニプニをして消化を補助してストレスを軽減させ、シャワーを浴びせて衛生状態を管理している。 世話にかかる手間と時間を考えると、明らかに蛆実装の方が多い。 「い、いや。蛆実装を活餌にし続けているのは虫がダメだからだし、手作りの餌をやるのも蛆実装自体の栄養価を上げるためだ。世話を焼くのも、餌にする前に蛆実装が死なないようにしているだけだ」 そう自分に言い聞かせている俺を見上げながら、トカゲは口元に着いた赤緑色の液体を舌で嘗めとっていた。うん、可愛い。 ちなみに、蛆実装が一匹減ったが、他の蛆実装に対してそれを誤魔化す必要はない。あいつらには個体を識別する目印を何も与えていないからだ。名前も、前髪も、おくるみも。 せいぜい体臭と体の大きさで、前からいるグループと今日来た新入りグループが見分けられるくらいだろう。 それだって同じケージの中で同じ餌を与えている内に、見分けがつかなくなっていく。 何より、今日はニ十匹に増えたばかりだ。十九匹に減っていたとしても、気がつかないだろう。 ケージがだんだん明るくなって、ウジちゃんは目が覚めたレフ。 「レフ~……レフ?」 あくびをしたウジちゃんは、昨日眠る前友達が寝ていた場所に誰もいなくなっていたから、不思議に思ったレフ。 「レフゥ~」 「おはようレフ~」 でも、すぐに他のお友達も起きて動き出したから、空いている場所が分からなくなっちゃったレフ。 「気のせいレフ?」 首を傾げていると、ぱっと明るくなってニンゲンさんの顔が見えたレフ。 『おはよう、皆。さ、朝ごはんだよ』 そして、あの黄色のご飯を置いてくれたレフ。 「レフっ! アマアマゴハンレフっ!」 『食べ終わったらプニプニもしてあげるからね』 「レフ~! ウジちゃん幸せレフ~!」 そして今日もアマアマゴハンをお腹いっぱい食べて、プニプニしてもらって、お友達と遊んで幸せに過ごしたレフ。 何か気になる事があった気がするけど、忘れちゃったレフ! ●活餌としての蛆実装 衛生状態を良くするため、生まれた直後に髪とおくるみを除いてハゲハダカの状態で売られている。(本来はペット用という名目の虐待用) 小さく消化もいいため、ベビーの餌として優れている。ただショップで飼って来たばかりの状態だと栄養価がミルワーム並みに低いため、時期が来たら他の餌に替えるか、蛆実装に栄養価の高い餌を与えてある程度育ててから与える必要がある。 コオロギと違い、顎の力を含めた運動能力が低いのでペットに噛みつく事はないため、ミルワームのようにエサ皿に放置しても問題ない。 しかし、飼育するには手間がかかる。 蛆実装は低いながら知性があると同時に、ストレスに弱い。自分達が活餌であると理解すると、恐怖のあまりストレス死する事があるので自分達はペットだと思い込ませ続ける必要がある。 さらに寂しさでも死ぬし、消化能力が低いため内臓を刺激(プニプニ)してやらないと死ぬし、冬の寒さでも死ぬし、夏の暑さでも死ぬ。 また、ローチ系の活餌と違って飼育下で繁殖させる事が不可能。蛆実装自体が実装石の幼体で、しかも未熟児なのだから、当然ではあるが。 ただ、それなりに環境を整えて毎日プニプニしてやるか、お世話係の親指や仔実装を飼って世話をさせれば全滅する可能性は低いため、慣れればコオロギよりも飼いやすいという声も多い。 実際、温度と湿度の管理はコオロギを飼育するのにも欠かせない。管理に失敗すれば全滅してしまう事もある。 また、コオロギは弱った個体を共食いしてしまう。 それに、コオロギにはプリン体が多いためあまりやり過ぎるとペットが通風になってしまう可能性がある。 しかしが、コオロギはプニプニや声掛けは必要ないし、目の前で同族が死んでもパキンしない等の利点があるため、結局は飼い主とペットの好みの問題だろう。 また、ショップで売られる冷凍活ウジや親指などは世界で唯一販売されている、『冷凍保存できる活餌』として重宝されている。 ・pixivにも同じ話を投稿しています。

| 1 Re: Name:匿名石 2023/06/12-17:01:25 No:00007284[申告] |
| 爬虫類飼ってるから同じ様にウジちゃん使ってみたいな |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/06/13-03:13:52 No:00007287[申告] |
| ペットの餌にも気を使うのが分かって飼い主さんの苦労が忍ばれるデス |