焼肉弁当 ある日の昼。 俺は近所の自然公園で焼肉弁当を食べていた。 公園と言えば実装石の生息地だが、この公園は先月に大規模な駆除が行われていた。 それで久々に、この公園で昼飯を食う事にしたのだ。 もし仮に生き残りがいたとしても、しばらくは人間を恐れて近寄ってこないだろうし。 でなければ薄汚い実装石がまとわりついてくる公園で飯など食べたりしない。 ちなみに俺は虐待派じゃないから、被害を被らない限りは積極的に関わる気はなかった。 * 何枚目かの焼肉を箸で摘まもうとした時だった。 「テチッ!テチッ!」 甲高い鳴き声がしたので足下を見ると、仔実装がいた。 なんだ、やっぱり生き残りがいたのか? もう人間に近寄ってくるのか…それとも余所から移ってきた奴か? 俺はちょっとうんざりしながらそいつを見下ろす。 「テチュ!テチュ!」 そいつは蛆実装を一匹抱えて何やら訴えていた。 「なんだよ、弁当寄こせってか?せっかくの焼肉弁当をお前らなんかにやれるか」 俺は割り箸を振って、シッシッと追い払う仕草を見せた。 「テェッ!?…テチュ~ン♪テチュ~ン♪」「レフーレフー!」 仔はちょっと驚いた様子だったが、すぐに蛆を抱えたまま媚び始めた。 蛆も小さな手足をバタつかせ、よだれを垂らして鳴いている。 媚びる仔や、よだれを垂らす蛆を見るうちに、俺はだんだん食欲が失せてきた。 「おい、いい加減にしろよ!」 俺は焼肉弁当をベンチに置くと、立ち上がって糞蟲を追い払おうとした。 その時だった。弁当を置いた辺りで物音がした。 振り向くと、成体実装が弁当を持ち去ろうとしている! 「あっ、こら!」 俺が思わず持っていた割り箸を投げると、それは弁当を掴んでいた成体実装の手に当たった。 「デェッ!?」 大したダメージにはならなかったが、奴は驚いたのか糞を漏らしながら弁当を落とした。 その拍子に、弁当に乗っていた焼肉が何枚か地面に落ちてしまう。 「デスッ!デスッ!」 成体実装は何事か鳴きながら、その落ちた焼肉を素早く拾って植込みの中に逃げ込んだ。 足下にいた仔実装も、いつの間にか姿を消している。 恐らくあれは親と仔で、仔が俺の注意を引いた隙に、親が食べ物を奪う作戦だったのだろう。 「ちっ、してやられたか…野良実装の汚い手が触れたこの弁当はもう食えないしな」 俺は奴らの策にまんまと嵌められた事を苦々しく思いつつ舌打ちし、 親実装が逃げた植込みの中を覗き込んだ。 * 「…で、あれが奴らの家か。すぐに見つけられたぞ」 植込みの奥の様子をうかがうと、その少し先にダンボールハウスがあった。 ダンボールのさほどくたびれていない様子からして、比較的最近建てられた家の様だ。 駆除の後に渡ってきた一家なのだろうか…まぁ、どうでもいいが。 家の中では親実装が家族を前に何やら鳴いている。 どうせ「ニンゲンから肉を奪ったワタシはスゴイデス!」とか何とか勝ち誇っているのだろう。 …あの実装、多少は知恵が回るようだが、家のすぐ近くて盗みを働く辺り所詮は実装石だな。 今すぐここでお仕置きしてやっても良いが、どうせなら少し工夫を凝らしたい。 焼肉弁当を台無しにしてくれた礼は、しっかりしないとな! 俺は明日の朝にまた来る事にして、その日は家に帰った。 ———————————————————— 男が帰った後、焼肉を強奪した親実装の家を、お隣の実装一家が訪ねていた。 お隣の親は妊娠中で、餌集めの効率が今ひとつで腹を空かしていたので、 何か食べ物を分けて貰えないかとやってきたのだった。 「その肉はどうしたデスゥ?美味そうデスゥ…」 「おなかすいたテチィ…オニク欲しいテチィ…」 お隣一家と言っても親の他は仔が一匹いるだけで、その仔も痩せていた。 お隣仔実装は涎を垂らして焼肉を見つめている。 「これは賢いワタシが知恵を振り絞ってニンゲンから奪い取った戦利品デスゥ! ワタシとワタシの仔の物デス!オマエらにはやらんデスゥ!」 男から焼肉を盗んだ親実装は、仔と共にガツガツと肉を喰らいながら、 お隣一家に向けてシッシッと手を振った。 「デェ…このままではお腹の仔の栄養が足りないデス…」 「デププ…この肉を食べた後のワタシのウンチを食べると良いデス。 それなら栄養たっぷりデスゥ♪」 「焼肉ウンチは、うちの蛆ちゃんに食べさせるつもりだったテチ! でも特別にオバチャンたちにもやるテチ!きっとおいしいテチ!」 肉を食い終わった親仔実装は、お隣一家にそう言い放って嘲笑った。 「デェ…」 恨めしそうな表情で帰って行くお隣一家。 その後、お隣一家の家の前に排泄されていった糞からは、わずかに肉の風味がした。 ———————————————————— 翌朝、俺は準備を整えて再び奴らの棲むダンボールハウスの前にやって来た。 ダンボールの中には親が一匹、仔が一匹、そして蛆が数匹眠っている。 俺はこっそり近づいてダンボールを上向きにして蓋を閉め、テープで封をしてひっくり返した。 いきなり家をひっくり返されて驚いたのか、中からデスデス悲鳴が聞こえてくる。 今、開いているのは地面近くの左右の取っ手穴のみ。 中に閉じ込められた親実装が、這いつくばって取っ手穴から外を見て騒いでいる。 「デシャアア!デシャアアアアア!」 まあ、十中八九俺への文句だろうから聞き流す。 俺は持参した手製の厚紙ダクトを片側の取っ手穴にテープで固定すると、 ダクトの入口に蚊取線香を何本もセットして火を点け、煙を送り込んだ。 焼肉弁当を駄目にされた仕返しだ…焼く訳じゃないが煙責めにしてやる! 「デズッ!?デシャッ、デシャア!」 ダンボール内に煙が入って来たのか、親実装が騒ぎながらハウスの壁をポスポス叩くが、 実装石の力ごときではダンボールを壊す事はできない。 「テチッ、テチィ!」 外と繋がるもう片方の取っ手穴の前に仔実装が陣取って、必死に外の空気を吸っている。 「テチャァ!?」 …が、親に退かされてしまう。 親が外の空気を吸いたくて仔を退かしたのかと思ったが。 「レヒャー!」 「レフーレフー!」 「レヒェェェン!」 親に押し出された涙目の蛆が数匹、取っ手穴から這い出てきた。 蛆だけでも逃がそうとしているのか…どうやら少しは愛のある親だったらしい。 素晴らしい家族愛に感動したので、蛆は見逃してやる事にする。 この公園には他にも実装一家が棲んでいるから、 彼女らに見つけてもらえれば『野良猫や野鳥に食われる事は』ないだろう…。 「テェェン!テェェェェン!」 ダンボールの中は煙が充満しているのか、実装親仔が中でガタガタ暴れる音がする。 咳き込む声や鳴き声、さらに蚊取線香の臭いでも消せない糞の臭いもする。 どうやら糞を漏らしているらしい…うん?ダクトから煙が逆流してきた。これは…? 「デホッデホッ!」 親実装らしい咳き込む声と共に、べちゃべちゃと音が聞こえてくる。 もしや、糞で取っ手穴を塞いだのか…なかなかやるなあ! 「デズッ!デズゥゥ!」 「デヂィィィ!」 糞を塗りたくって煙の侵入口を塞ぎ終わったのか、 実装親仔はもう片方の取っ手穴に顔を押し付けて外の空気を必死に吸っている。 うーん、煙責めは失敗か…昨日もしてやられたし、俺の知能って実装以下か? ——などと落ち込んでいると、何やら視界の端で炎が揺らめいている。 見ると、厚紙で作ったダクトが燃えていた。 何本も火をつけた蚊取線香から燃え移ったのか…あ、ダンボールハウスにも燃え移った。 「デジャァァァァアアアア!」 「テチャァァァァアアア!」 親仔の実装は燃えるダンボールハウスに閉じ込められたまま焼けていく。 実装石はよく燃えると聞いていたが、本当なのかもしれない。 このまま眺めていたいが周囲に火が燃え広がっても面倒だ。 俺は急いで水を汲みに行き、燃え盛るダンボールにぶっかけた。 3回ほど、水を汲んでは掛けを繰り返して完全に火を消すと、 その跡にはダンボールの燃え残りと共に、全身に大やけどをした実装親仔が、 服は燃えカスになり髪はチリチリで横たわっていた。 「デ…デズゥ…」 「テチィ…」 苦しそうな声で鳴く親仔。 煙責めだけのつもりが本当の焼肉になってしまったが、 元はと言えばこいつらが俺の焼肉弁当を奪った所為だ…ま、自業自得だな。 幸いと言うべきか、彼女らが長く苦しむ事はないだろう。 何故なら…ほら、別の実装一家が、肉の焼ける臭いに釣られて 植込みの向こうから顔を覗かせている…。 おや、あの妊娠した親実装は蛆をかじっているな。 さっき見逃した蛆が逃げて行った方向だから…やはり食われたか。 じゃあ一家そろって、お隣の実装一家のごはんになるという事で! 「デププッ…」「チププ…」 「デジャ…デジャァァァァ…」「テヂイィィィィ…」 …ムシャッ…クチャクチャ その場を後にする俺の背に、お隣一家から親仔への嘲笑が聞こえ、 続いて親仔の断末魔と、同時に不快な咀嚼音が聞こえてきた。 お隣さん、ちょっと生焼けだけど焼肉を食えて良かったな。 俺は虐待派じゃないから、お前らが俺の弁当を盗ろうとしたりしない限りは お前らには手を出さないよ。まあ元気でやってくれ。 まあ、悪さした実装石にお仕置きするのであれば結構楽しめるな。 わざわざ準備しただけの事はあった。 …あ、でも今日の昼飯は焼肉弁当はやめておこう…焼肉はしばらく食う気がしない。 —終—

| 1 Re: Name:匿名石 2023/06/02-20:53:28 No:00007269[申告] |
| 本当に賢いなら男が言うように弁当泥棒なんて働くべきじゃなったな |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/06/02-23:55:57 No:00007270[申告] |
| 実装石が人間様に逆らった末路だな |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/06/03-04:47:07 No:00007271[申告] |
| 悪因悪果と言う言葉がピッタリだ |
| 4 Re: Name:匿名石 2023/06/03-15:39:47 No:00007272[申告] |
| 肉しみは消えない… |
| 5 Re: Name:匿名石 2023/06/03-23:30:23 No:00007273[申告] |
| 焼肉になれて良かったな。 |
| 6 Re: Name:匿名石 2023/06/04-23:24:20 No:00007274[申告] |
| いい小話 |
| 7 Re: Name:匿名石 2023/06/11-20:27:54 No:00007282[申告] |
| 『宇宙≫、だな・・・ |
| 8 Re: Name:匿名石 2023/11/13-01:07:47 No:00008466[申告] |
| 焼肉泥が焼肉になる、教訓的お話♪ |