禿裸の一夜 むきだしの裸で夜風に震える仔実装。 かたわらには無惨な死骸を晒す、親実装と姉妹の姿があった。 その光のない目玉には、仔実装の姿が写っている。 最期まで恨みがましい目つきで、そして今でさえ仔実装を凝視している。 そんな目で見られても、しかたがなかったテチ ワタチは死にたくなかっただけテチ 仔実装は寒さに自らをかき抱いて、そう呟いた。 仔実装は自らの命と引き換えに、家族の棲家をヒトに密告したのだ。 それを知った家族は激怒した。 仔実装の衣服を剥ぎ取り、毛髪をむしり、あわや命まで奪われるところであった。 すんでのところで、ヒトがやってきて、家族を皆殺しにした。 密告者である仔実装のことを、人間は顧みることはなかった。 それが家族をヒトに売り渡した、仔実装への報酬だったのだろうか。 どちらにせよ、禿げ裸の仔実装など野良では長らえることなどない。 ニンゲンは、たしかに約束を守ったテチ でも、ワタチはこのままだと死ぬテチ 仔実装は現状を理解していた。 暖をとることもできず、食餌もできなければ、末路は決まっていた。 棲家であるダンボールハウスが残っていれば、まだ活路はあっただろう。 そこには家族の寝床である襤褸布もあれば、冬越しのための蓄えもあった。 だが、ヒトはそれを念入りに解体し、家財も食糧も持ち去っていた。 ほんとうに、仔実装にはただその命以外には何も残してはくれなかったのだ。 仔実装はカチカチと歯列を打ち合わせる。 それは寒さのせいでもあったし、ヒトに対する恐れのせいでもあった。 なによりも、自分が死ぬことへの恐怖があった。 ママはクソテチ アネチャもイモウトチャもクソテチ 高貴で美しいワタチのために、役にたって見せるテチ ポスポスと足元に転がっていた姉妹の死骸を足蹴にする。 死骸はまだ柔らかく、引きちぎられた四肢の断面からは、ジクジクと体液が染み出している。 それにまだ、暖かい。 仔実装はふと、親実装の死骸を見上げた。 親実装は股間から胸元まで裂かれて、どろっとした臓器とも糞便ともつかない内容物をぶち撒けていた。 仔実装の脳裏に、家族の最期の情景が再現する。 *** 親実装は姉妹を守ろうとヒトの前に立ち塞がった。 ヒトがつま先で親実装の頭を小突くと、親実装はあっさりと倒れた。 勢い、後頭部で背中に庇った我が子を一匹潰してしまった。 潰されたのは妹の方だった。 親実装はその頭巾越しに直接、我が子が潰れる感触とテギャッと短い断末魔を聞いた。 頭をもたげた親実装の眼下に、頭がザクロのように弾けた妹実装の姿があった。 親実装は悲鳴をあげる。 姉実装も悲鳴をあげる。 ついさっきまで、親実装ともども自分を吊し上げていた憎い相手の無様な姿に、仔実装はほくそ笑む。 そのとき仔実装の頭に浮かんだのは、危機に瀕した姫を救う白馬の王子だった。 もちろん、そのヒロインは仔実装自身だ。 王子様はニンゲンだった。 ニンゲンサン、ニンゲンサン ワタチのビボウにメロメロだったテチね 棲家を言わなきゃ殺すだなんて、きっと照れ隠しだったのテチね アナタはワタチをむかえにきたのテチ きっと家族にだって、挨拶するだけのつもりだったテチ イモウトチャがくたばったけど、キニシナイテチ こいつらクソテチ よってたかってワタチの高貴で美しい髪とドレスを奪ったのテチ でも、アナタはワタチにメロメロだから大丈夫テチ ワタチも愛があれば大丈夫テチ でも、新しいドレスはほしいテチ ゴチソウも毎日食べるテチ ワタチとアナタでハッスルしていっぱい仔をつくるテチ シアワセいっぱい家族になるテチ だから、もう、こいつらはいらないのテチ 仔実装の身体を生暖かくてベタつく何かが包み込む。 ニンゲンサンの手、とっても暖かいテチ でも、ちょっと汗っかきテチ それになんか臭いテチ ワタチはそういうの気にしないテチ でも、レディに触るにはエチケットというものがあるテチ ベタつくなにかは仔実装の身体を舐めるように伝って、ボトボトと足元に溜まっていく。 この得体の知れない何かを、仔実装は認めたくなかった。 これはヒトがやさしく自らを包み込む温もりだと信じたかった。 その臭い、その感触は、とても身近な何かに酷似していた。 仔実装は頭の中のお花畑から、チラリと現実を窺う。 頭上では両脚を掴まれて宙吊りになった親実装が、力任せに引き裂かれていた。 破れた総排泄孔からこぼれ出す糞。 親実装の口から溢れ出す吐瀉物と体液。 その混交物を仔実装は頭から被っていた。 ヒトが手を離すと、ベシャリと汚物が地べたに落ちた。 親実装であったそれは痙攣しながら汚物を撒き散らし、ぐるぐると忙しそうに視線をめぐらせ、家族の姿を探していた。 その眼差しにが家族を捉えると、妹実装の亡骸に憐れみを、姉実装の姿に諦めを写した。 そして最後に仔実装を捉えるとピタリと動きをとめて、与うる限りの怨恨をその目に浮かべて事切れた。 仔実装の笑顔がひきつる。 目閉じても、親の怨嗟の眼差しが焼き付いて離れず、お花畑には帰れない。 姉実装はまたぐらから悲鳴のような下痢便をブピブピと繰り返すばかりで声もなかった。 ヒトはそんな姉実装の頭をつまみ、手首をかえした。 ポキンと、小気味の良い音が鳴った。 手を離すと、手品のように姉実装の顔が背中の方を向いていた。 支柱を無くしてフラフラと据わらない頭を首で支えきれず、姉実装は両手で頭を持ち上げるように、その場で尻餅を着いた。 ビシャリとパンコンの内容物が溢れ出す水音。 手から離れて、ポロリと胸元まで落ちる頭。 仔実装は怯えた眼差しを姉に向ける。 あるべき場所にない頭が、仔実装を見返した。 逆さまになった頭はボールのように抱えられ、仔実装を睨めつけていた。 *** 事は済み、仔実装は良くも悪くも顧みられることはなかった。 ヒトは去り、実装石の一家とその棲家であったものの残骸があるばかりだった。 既に家族から切り捨てられていた仔実装にとっては、親や姉妹が死んだことには大した感慨も与えなかった。 ただ、自分が生き残ることに腐心する。 ぬくもりを得ること、腹を満たすこと。 それしか頭になかった。 仔実装は親実装や姉妹に身を寄せる。 その表面は冷えつつあった。 ただ、その断面からはほのかな湯気があがり、まだ熱をもっていることに気が付いた。 仔実装は家族を身の回りに集めて、親実装の股座の裂け目に潜り込んだ。 ぬるい泥に漬かっているように、冷え切った仔実装の肌にぬくもりが伝う。 隙間から侵入する冷気を避けるため、姉妹の肉をギュッギュと詰め込む。 ついでに、食べやすく千切れた部分をクチャクチャと歯を立て、空腹をまぎれさせた。 少なくとも、これで今夜は越せることだろう。 仔実装はぬくもりを得、腹を満たせて安らぎを得た。 そうして、ウトウトと眠りについた。 仔実装は夢をみた。 目の前には三匹の家族の姿があった。 親実装は仔実装の衣服を抱えていた。 姉妹は仔実装の毛髪を抱えていた。 それらは、家族から奪われたものだった。 返してほしいテチ! それさえあれば、ワタチはニンゲンサンとシアワセになれるテチ! きっとまた迎えにくるんテチ!! 仔実装は叫んで、自らの唯一の財産を取り返そうと駆け寄ろうとした。 ところが、手足はゆっくりとしか動かない。 一歩前進することすら困難だった。 親実装たちはその場から動いていないのに、一向に近づくことはなかった。 一家が手にしているのは、仔実装にとって、ガラスの靴だった。 それさえあれば、再び王子様が迎えにやってくるに違いない。 仔実装はそう思っていた。 もがく仔実装をみて、実装一家は静かに微笑んでいる。 そんなに返してほしいデスか? 親実装はそう問いかける。 返すテチ! ワタチのものテチ!! 仔実装は喉が裂けんばかりに訴える。 ワタチたちにも返してほしいテチ オネチャンがとったもの、ワタチたちに返してくれるテチ? 姉妹は仔実装に問いかける。 なんでもいいテチ! それを早く返すテチ! 大事な大事な、ワタチの髪とドレスを返すテチ! 禿裸はイヤテチ!! 一家はニッコリと笑顔を浮かべる。 親実装が抱えた衣服が、ピカっと光る。 それはキラキラとした粒子になって、仔実装の身体にまとわりついた。 気が付けば、仔実装は染み一つない衣服に身を包んでいた。 フリルで縁取られ、色とりどりの宝石が散りばめられた豪華なドレスだった。 テッチューン♪ 高貴なワタチにふさわしいステキなドレステチィ♪ 仔実装はご満悦で、魔法少女の変身バンクじみたポーズを取った。 次に、姉妹の抱えた毛髪が光を放って、仔実装の登頂へ移動した。。 そうして現れたのは、ツヤツヤとして緩いウェーブのかかった豊かな毛髪だった。 その髪束が揺れる度、煌めく鱗粉が舞って仔実装の存在を彩る。 テチャーーー!! これこそワタチの本当の姿テチュ♪ みんなメロメロテッチュンテッチュン♪ ニンゲンサンはバカテチ、こんなステキなワタチを放ったからしで行っちゃったテチ よく考えたらアイツもみすぼらしいブサイクニンゲンだったテチ もういらないテチ ワタチにふさわしいステキな王子様がいっぱいいるテチ でも、ワタチはクソ家族から命を救ってくれたことは感謝してるテチ 高貴で美しいワタチをオカズにおそまつなマラをシコるくらいは許してやらないこともないテッチュン♪ 仔実装は得意の絶頂にいて、家族に取り囲まれてることにも気づかない。 *** 夜が明けると、餌を求めて徘徊する野良実装たちの営みがあった。 その朝、一番の収穫は実装一家の残骸だった。 同属の死骸は飢えた野良実装たちにとって貴重な栄養源だった。 そんな野良実装たちでさえ、無残な一家の有様には、顔をしかめた。 きっと、ニンゲンの仕業デス ムゴイことをしやがるデス 野良実装たちはそんな残骸を漁って、目ぼしいものがないか探した。 同情はするが、背に腹は代えられない。 柔らかな肉質の仔実装は特に好まれ、取り合いになるほどだ。 親実装の死骸は嵩があるので、仔沢山にはありがたい。 そんな中、一家の死骸に埋もれた仔実装が掘り起こされた。 デギャ!? なんかキモいの出たデス! それは、損壊された実装石の死骸など見慣れた野良実装ですら抱えた肉塊を取り落すほど悍ましい姿だった。 その身体は一家の血と肉、糞にまみれていた。 頭蓋は叩き割られ、隙間から髪束が差し込まれていた。 首は髪の房が巻かれて縊られていた。 股座には丸めた衣服が無理やり詰め込まれて、腹まで引き裂かれていた。 そしてその顔には、歓喜に歪んだ笑顔が貼りついていた。 なんだかわからんデスが、きっとひどい恨みを買ったのデス 一度殺しても足りなかったのデス、きっと三度も殺されるようなことをしでかしたクソ蟲だったのデス とても食う気がしないと、仔実装は打ち捨てられた。 実装石の一家は持ち去られ、そこにはただ異物だけが残り、実装一家の営みの痕跡は何ひとつ残らなかった。 そんな中で、のそりとひとり仔実装は立ち上がる。 ずるりと脳まで達した毛髪が抜け落ち、首がもげ落ち、股から糞にまみれた衣服がひり出される。 仔実装は一歩前進することもなく、その場で膝をついて手をさし伸ばす。 何かを探し求めるようにしばらく両手は宙をさまよったが、その手が何かを掴むことはなかった。 やがてその両手は合わさり、祈りを捧げるかのようにして静止した。 最期の願いは誰に聞き届けられるでも無かった。 その姿は、ただ一塊の糞がそびえ立っている以外の何物でもなかった。

| 1 Re: Name:匿名石 2023/05/21-23:38:19 No:00007204[申告] |
| いつもの糞仔蟲の自滅に見せかけて急にホラー展開になるの好き |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/05/23-18:06:18 No:00007216[申告] |
| 急転する展開と淡々な語り口調の差が不気味で素敵です |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/05/24-03:46:21 No:00007219[申告] |
| 怪談にはまだ早いデスよ… |
| 4 Re: Name:匿名石 2023/05/31-05:35:57 No:00007259[申告] |
| うーんこれはハッピーエンド
優しい家族にちゃんと全部返してもらえてよかったね仔実装ちゃん! |
| 5 Re: Name:匿名石 2023/10/19-06:07:46 No:00008130[申告] |
| 家族の憎しみへの恐れや深層心理には罪悪感があったのがあわさり自分でやったのか
家族の怨念によるオカルト現象か…想像が膨らんで面白い |