タイトル:【観察虐】 実装石イゴイゴダービー 後編の一歩前
ファイル:実装石イゴイゴダービー 中編.txt
作者:ブタやろう 総投稿数:7 総ダウンロード数:468 レス数:0
初投稿日時:2023/05/07-21:54:57修正日時:2023/05/07-21:54:57
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待ちに待った年に一度の祭典「菊孔賞」に出場したマテナイフクコナイたち15匹の競争石。
彼女たちのレース結果がいかなることになるか未だ誰にもわからない。

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中間報告

1  ジャイアントツウカ 現在トップ
2  ゴールドチョップ レース放棄
3  ナリタドンブリ ほぼ落石
4  ゴーホーデッド
5  オサワリマン
6  バラオソヒダ ほぼ落石
7  マテナイフクコナイ
8  ヤマトスカードレッド
9  ヒエアワシャワー
10 ヘルコンドルブワサ
11 トラブルターボ 二番手
12 サクナデチノコー
13 ミスッタデースー
14 メグロダンベル 落石
15  ハラボテエフェジー

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「さて、レースもいよいよ終盤に差し掛かろうとしております」

「残すはこの先、最終カーブ、そして最後の直線を過ぎますとゴールがまっております」

「トップはもちろん一番ジャイアントツウカ、それを11番トラブルターボが追いかける。二匹は群をぬいております」

「トラブルターボの後ろには4実身以上開いて12番サクナデチノコー。その後ろに九番ヒエアワシャワー、10番ヘルコンドルブワサ」

中盤を超えると最速で走り抜ける逃げの競争石には一見不利になるものと誰もが思う。
しかし先頭の二匹はそんな予想を裏切り、応援者に応え、全力で走り続ける。
その反面、中ほどで走っていたマテはここにきて数匹のライバルに追い抜かれて益々順位を落としていた。

だが特にマテは気にも留めていない。
マテが見つめる先は先頭のウカの姿のみ。そのウカとの距離が引き離されずに維持できているなら、
マテの勝利への道筋は何一つ変わらないのである。
〈落ち着くデス私・・・・〉
〈後ろからの圧を感じるデスー・・・これはきっとマテちゃんデス?〉
〈ウカちゃん、私は絶対に勝つデスー負けないデスー〉

〈きっとマテちゃんはそう思ってるデスー?だったらきっと〉
〈だから絶対〉

〈私が追い抜かれるとしたら〉
〈私が追い抜くとしたら〉

〈〈勝負はこの先の最後の曲がり道〈最終コーナー〉デスー!!〉〉

そこで勝負が決まるとはいわないが、そこからついにマテの逆転劇の始まりである。


残念であるが、既にウカにはある一匹の競争石が眼中に入らなくなってきていた。
それは、ウカとターボの間に大きな差が存在していたためだ。

〈でえ・・・でえ・・・でえ・・・苦しいデスーいつもならあんな糞虫、あっという間に追い抜けるデス。
なのにどうしてデス・・・・ぜんぜん、差が縮まらないデスー
高貴な私がこんなに苦しんでいるのに、どうしてアイツ・・・・〉
トラブルターボが斜め前でシュタシュタと全力で走り抜けるウカを睨んだ。
〈どうしてアイツは・・・私みたいな苦しいお顔を全然、見せないデスー〉
ターボの限界がウカよりも圧倒的に早く近づいてきていたのだ。
それはひとえに、ターボがペース配分を誤った故におきた悲劇である。
自分よりも恵まれた体を持ったウカに追いつこうと、追い抜こうとしてスタート直後からずっと限界ギリギリの
ペースで駆けていたターボにはもう、ゴールまで走り抜けられる可能性すら限りなく無くなっていた。
いつものターボであったなら、ゴールまで走り切ることはできたはずだった。

だが今大会、「菊孔賞」

普段の大会と比べて圧倒的に違う点があった。
他と比べて圧倒的に強大な力をもった悪魔が何匹も潜んでいたことだ。
「おっと11番トラブルターボ、ガス欠でしょうか。徐々にスピードがダウンし始めているようです。
大きく引き離していた筈の九番ヒエアワシャワーが逆にスピードを上げております。」
「おっとついにトラブルターボが抜かれてしまいました。
10番ヘルコンドルブワサ、八番ヤマトスカードレッド、次々と追い込みに入ったようです。」

「でえええええ!!お前たち・・・待つデス!!
なにこの・・・でぇでぇ・・・高貴でエレガントな私を、追い・・でぇ・・抜いてるデスー」
哀れターボは次々と自分を追い越していく競争相手の横顔を睨みつける。
が、どの石達も特にターボの姿を見ることはなかった。
彼女らは皆気づいていた。
もうトラブルターボはライバルとして見なす価値もないと。
ターボは二匹三匹と次々と追い抜かれる内に、徐々に目が白く濁り始めていた。

「で・・・・でえ・・・・待ってデスー・・・・誰か・・・私を・・・・見るデズぅ」
二歩三歩とヨロヨロと歩みを進めようとする。
が、ダメだった。
既に最後尾だったハラボテエフェジーにすら追い抜かれて最終カーブに差し掛かっている。
最後尾にすら追いつけない。
その絶望感によって両目から赤と緑の血涙をダラダラと流し始め、ついにヒザをついた。
今までウカほどではないにしても、数々の大会で大逃げをうつ戦法で駆け抜けて
レースを制した名石であった筈の自分が完走すらできない。
その精神的な苦痛は彼女の偽石を攻め始める。

彼女の体全体を大きな影が覆った。
ゆらりと振り返ると、ターボは涙でグズグズとなった顔を上げる。
自分の背後に、自分専用の騎手が追い付いて鞭を振り上げて立っていた。
「で・・・デスゥ・・・ニンゲンサン・・・・・私を見て・・くれる・・・デス?」
彼女は自然と片方の手を顎において、お愛想を始めた。
無価値な自分を見てくれる大きなニンゲンサンが居る。
それだけで彼女の中で喜びが湧き上がってくる。
バシーン!!
ひと際大きな鞭を振る音が聞こえると同時にターボの体が大きく吹き飛ばされた。
それと同時に偽石がパキンする。
左右に備えられた柵に体を打ち付けられたトラブルターボ。
その表情は苦しみよりも何かの喜びを感じて微笑んでおり、眼だけが白く濁っていた。
「残念、11番トラブルターボ落石です」
解説のアナウンスに涙して石券を握り潰すファンがチラホラと見受けられた。

〈残念だったデスー、ターボちゃん。貴女は貴女の走りをしていたら、せめて完走ぐらいはしてたと思うデスー〉
全てはこの巨大な怪物、ジャイアントツウカの存在によって一匹の実装石が屠られた。
その程度のことと残りの競争石達は受け止めると、トラブルターボのことを思い出すことを誰もしなくなった。

そうして最終コーナーに突入する。
一部の競争石にとっては勝負の分かれ目である。
この半月状に丸く大きく曲がった道をどう走るか。
もしも直線の時同様にペースを上げ続けるとしたら、体は大きく外側のラインへと膨らんだ軌道を描き、最悪は柵に突撃しかねない。
外側のラインは内側と比べて距離が長い訳だから、不利にもなる。
それならばと誰もが内側のラインを走り続けられるようにと減速するはずである。
ウカもそうするつもりであるし、他の石達も同様にそのわずかな内側のラインを保持してコーナリングを走り抜けようとする。
だが、ウカにはわかっている。

アイツだけは違うだろう。
アイツだけはきっとその定石に抗い、そしてこのジャイアントツウカに迫りくるために、ここから勝負を仕掛けてくる。

「さあ各石が最終コーナーに入りました。先頭の一番ジャイアントツウカ、九番ヒエアワシャワー、ラインの内側ギリギリを攻めるようです」
「おっとしかしどうしたことだ七番マテナイフクコナイ!減速しません!!」
〈来たデスー〉
マテはコーナーを曲がるとき、一切の減速をしなかった。当然外側に膨らんでいく。
内側を走る石達と距離が開く。圧倒的に不利じゃないか。

だが、マテに言わせればこれで良いのだ。

確かにコーナーを曲がる時に内側のラインを通るのがベストだと思えるかも知れない。
しかし内側のラインにもデメリットは存在する。
多くの競争石たちによる、渋滞が起きるのだ。押し合いへしあい、転ばないようにただ走ることだけに集中しなくてはならない。
当然、コーナーを曲がり切るまで追い抜く余裕なんてないだろう。
そして内側を廻ろうとする時の減速によって、速度を上げなおすまでにタイムラグがある。

そこで、マテのように思い切って外側を走ってコーナーを曲がるとどうなるか。
長い距離を走るかわりに、減速の必要がなく、そして前にも後ろにも、ぶつかりそうになるライバルが存在しない。
内側と比べて、自由に走り抜けることが可能なのだ。
それが功を奏して、マテがコーナーを曲がり切ったその時、一瞬であるが
ウカの横顔をちらりと見てそのまま走り去る。

「ここで来て七番マ テ ナ イ フ ク コ ナ イ !!
一番ジャイアントツウカを追い越しました!!」

「でじゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

マテはコーナーを曲がりきり、直線に突入する。
そして上げる遠吠え。まるで外敵にするような、威嚇するような、荒々しい遠吠えを上げて
マテは走り抜ける。ここからは全力疾走だ。

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!

その逆転劇で観客が湧く。歓声があがる。
そのマテの上げた雄たけび。それは知る人ぞ知る大きな意味を持っていた。
そのマテの持っていた雄たけびのクセ。今までの大会においてマテにこの雄叫びを上げさせて敗北した大会は「皆無」である。

マテにはどうしてもこの大会に勝ちたいという強い思いがあった。
ウカやヘル、他の一部の競争石は同様に持ち合わせている思いであるが、その強さは きっと このマテが一番 強いのだ。
なんといっても、このマテナイフクコナイの両肩には二匹の姉の想いが乗っている。

私達の分まで、どうか勝ってほしいデスー妹ちゃ

おねちゃ・・・見ててほしいデスー。私は、マテナイフクコナイは、このレースで絶対に一番を取るデス。
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それはマテがまだ幼い頃のことである。
まだ自分にマテナイフクコナイという名前もなく自分を選んでくれる石主もない。
双葉県の片田舎にある実装牧場でこの子は生を受けた。
最初は10匹姉妹の一匹だったが、産まれて直ぐの選別で競争石として育てるために残されたのはたったの二匹。
あとは母実装と共に食用実装の工場へと送られた。

母親と引き離れた二匹は直ぐに処置を施される。
「デヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
腕の先の手に当たる部分を切り落とされる。
手作業で服を脱がせて髪を乱暴に引き抜く。
専用の機械にセットされ体の四肢を固定され、スイッチ一つで刃が落ち、
焼いた鉄棒を押し付けられる。

「でじゃあああああああああああ!!痛いでじゅ!!ママ!ママたちゅけてテチ!!私の可愛いお手てが焼かれてるテチィ!!」

「お服も取られたテチィ!髪も取られて痛い痛いテチー!!なんでママ助けてくれないテチー!!」

再生しないように火傷を負わされてそのまま小さなプラスチック製の台に乗せられる。
その台には四か所の穴が開いており、それぞれの穴に両手と両足を通して固定する。
丁度四つ足動物のような姿勢にされると、そのまま台ごと棚の上に並べられた。

テチーテチーテチーイタイテチーママーテチーテチー

自分と同じように固定された子実装がその一つの棚一段につき三匹ばかりが並べられていた。
こうして一月ばかり置いておくと、犬猫のように這うような姿勢が固定され、二度と立てなくなる。
その四つ足に慣れるということが競争石としての第一歩であった。


そうして四つ足に慣らされるとその拘束具は外され、房へと戻される。
房といっても馬房のように一部屋ごとに区切ることはせず、どちらかと言えば管理が粗末な豚小屋に近い。
その一つの建物の中で4つほどに柵で区切られ、藁を敷き詰めた部屋それぞれに30~40匹ほどの四つ足実装達が放り込まれ、
共同で生活する。
「妹チャ、オネチャから離れちゃダメテチー」
幼い頃のマテには姉がいた。名は「ダメナトウニョウのXX93」と呼ばれていた。
同じ時に産まれ、マテと同様に他の姉妹達と別れて競争石への道を歩むことになった長女だ。
マテは七女だった。

「テーンテーンオネチャ!ママどこテチィ?わたち寂しいテチィ」

「ゴメンテチー・・・・・オネチャにも分からないテチー」

そう言いながらオネチャは小さかった私をしっかり抱きしめてくれたデスー。
今思えば、あの頃の私は甘えんぼだったデスー。
オネチャと言っても自分より数十分早く産まれたというだけの相手に私は大きく依存してたデスー。
でもあの頃の私はオネチャのおかげで凄く幸せだと思えたデスー。

競争石にとって、産まれて間もなくのトレーニングというのが一番厳しく苛烈である。
この年この牧場では五千匹もの子実装が生まれた。その内、競争石として選ばれたのは200匹程度。
残りは食用実装として工場に送られる。
その二百匹の子実装の中で三歳を迎えてデビューを迎えられるのはわずか2、3匹である。
その間に多くの子実装はその過酷なトレーニングに体が追い付かずパキンしてしまうのだ。

そしてこの姉、ダメナトウ二ョウのXX93もまた成体になるまでもたずにパキンした個体だ。

それは産まれてから半年後。二匹が中実装となった頃だ。
「オネチャ、元気出してテスー」

私はオネチャの頬を撫でるように頬ずりしたデス。

この時、オネチャはお風邪をひいて熱でアチチだったデスー。
うつすとダメだから、ニンゲンサンに連れられて皆と別のお部屋にいったデスー。
私だけはオネチャが寂しくないように一緒についていったデスー。
「妹チャ・・・・ママのお腹の中にいた頃のこと・・・覚えてる・・・テスー?」
私は数回、頭を縦に振ったデスー。
「・・・・デッテロゲーデッデロキュキュー。可愛いお前たちよく聞くテスー」
「この世は・・・広くて・・・美しいテスー」
「草の良い匂いがして太陽はまぶしくあったかいテスー・・・・体を思う存分動かして・・・走れるテスー」
「ニンゲンサンが~私達のことを見て笑ってくれるテスー~私達も走れることが嬉しくって毎日走るテスー」
「だから・・・お前たちも・・・走ることを・・忘れちゃダメ・・・テスー」
無音の部屋で二匹の胎教の歌だけが響いていた。
他は何もない。牧場主もできる限りのことをしてくれた。抗生物質いりの餌に咳止め熱さましの薬。
そして特別に用意された柔らかお布団。マテと違い、この姉は妹以上の恵体であり、日々の特訓にも耐えてきたからこその
待遇であったのだが、運がなかったのだ。
そういう他に言葉がないほどの症状が現れ、このような展開となる。
もう今夜が峠か、と牧場主の男性は部屋からの去り際にそう漏らしていた。
「ハァハァ・・・テスー・・妹ちゃ、ハァ、よく聞くテスー」
マテは耳を姉に向け、しっかりと一言も漏らすまいに集中して耳を傾ける。
「妹チャ・・・知ってるテスー?キッコーショウ、実装石の走る大会で一番大きなレースがある・・テスー」
知ってるデスー。元気だった時のオネチャはよく教えてくれたデス。誰かから聞いたのか。
私達のママはその大会で一番を取った凄いママだったデスー。
私達姉妹にとってそれは自分のことのような自慢で。
だから自分も
「私も・・・そのキッコーショウに出たかったテスー。そのために頑張ってたテスー」
「うん、知ってるテスー。
だからオネチャ、早くこんな風邪なんて治してまた特訓テスー。
私もオネチャと一緒にまた走りたいテスー。今度は絶対負けないテスー」
私はわざと大げさに笑ってそう言ったデス。
だけど
「デププ・・・・ゲホッゲホッ・・・・ハァ、それはきっと無理テスー。
妹チャ、私には分かるテスー。私はきっと、ここでお別れテスー。もうお石がボロボロなのが分かるテスー」
「そんなこと!」
マテはつい身を乗り出して姉の言葉を正そうとした。だがふいに伸びた姉の手がマテの手に触れて遮られる。
「・・・だから、妹チャ?オネチャの言う事を良く聞くテスー」
言われてマテはまた姿勢を正す。そして姉は続ける。
「妹チャ・・・・後をお願いして良いテスー?
私はダメだったけど、妹チャはこれから大きくなって、ニンゲンサンにお名前を貰うんテス。
そして色んなレースで勝って勝ち続けて。オネチャの代わりにキッコーショウに出てほしいテスー。
そして勝つテスー」
言われてマテの体がブルルと震える。当たり前だ。自分なんかに出来る筈がないと思った。だが
「・・・・分かったテスー。オネチャの分まで私は頑張るテスー。だからゆっくり休むテスー」
私はこの時、生まれて初めて嘘をついたデス。
そんなことできるわけないって思ったデス。
だってその時の私はオネチャよりずっと遅かったテス。
そして直ぐに疲れて走れない子だったテスー。
そんな私がママやオネチャみたいに凄い才能なんてないって知ってるデスー。
なのにオネチャは私の手にまた触れて
「大丈夫テスー・・・妹チャには私なんかよりもずっとずっと凄い才能が眠ってたテスー。
私は知ってるテスー・・・それに気づけさえすれば、妹チャは私なんかよりもずっと凄い・・・・じっ・・・石に・・」
パキン
神様っていじわるデスー。この時、本当にそう思ったデス。
オネチャは言い終わるまでもたずにパキンしちゃったデス。

でも、オネチャの願いは受け取ったデスー。この日を境に、キッコーショウでの優勝は私にとっての目標になったデスー。
この後にも、いろんな困難が待ち受けてたデス。

以上が一匹目の姉との物語であった。
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続いて二匹目。

その実装石との出会いは私が三才になってニンゲンサンのご主人様〈石主〉が出来た時デスー。
名前も貰ったデスー。
「マテナイフクコナイ」っていう立派な。

だけどそのお名前を貰ってすぐの時デスー。忌々しいことに私はある出来事があって地獄の底に叩きつけられたデスー。


その石主には息子が一人あった。
非常にヤンチャで落ち着きがないことで知られていたクソガキであるが、親に連れられて遊びにきたことがあり、
マテの元に近づいてきた時だ。
そのクソガキ様は事もあろうにリンガルを持ち込み、マテに話しかけた。
そして告げた。「待てない福来ない」という名前の意味を。


マテにとってそれは非常に辛い出来事だった。
実装石にとって人に名前を付けてもらえるのは一種のステータスである。
実装の脳でも名前に何か意味や願いが込められていることは把握していた。
だからきっと、より美しく賢く素晴らしくという名前なのだろうとマテも実装石特有の幸せ回路で勝手に信じ込んでいた。
そこへ来た息子のクソガキムーブでその喜びは打ち砕かれた。

マテがその時、パキンしなかったのは奇跡という他ない。

が、その時の衝撃がもとでマテはデビューから一年、レースに身が入らず逸脱した行動の目立つ糞虫となってしまっていた。
石主も期待通りの結果が出ないことに不満を抱えていた。
いつマテが肉にされても不思議はなかった。だがそんな状況を変えてくれた出会いがあった。
二人目の姉との会話だ。


デビューを終えてからのマテは正式に、競争石用の房へと移されていた。
そこは何十匹もの子実装が押し詰められたタコ部屋とは違い、二畳程度の空間で区切られ、一つの部屋に1、2匹の競争石が暮らしている。
その姉とは、マテと同じ部屋で暮らしていた競争石で、歳はマテの一年上、当時4歳であった。
名前は「モトネタナイモブコ」と言った。
モブは実装石には珍しい非常に温和な性格で、よくマテの愚痴を聞いていた。

そうして相談を繰り返す内に心の距離が近づき、とある日の晩、マテは思い切ってその糞虫化の原因となった石主の息子にされた
所業をモブに語って聞かせた。
「なるほど・・・それは大変だったデスー」

「ほんとデジャー!!あの糞人間!この高貴でエレガントな私に向けて酷い言い草だったデジャー!
今度会ったらウンチ投げて窒息させてやるデスー!!」
二匹を肩を並べて座り込む。四つ足の教育を受けても、たまに起き上がったり胡坐をかいて座る個体が現れる。
二匹はそうであった。
「ドードー落ち着くデスーマテちゃん。それやったらニンゲンサンに捕まってお肉にされちゃうデスー」
「・・・分かってるデス」
人間に逆らうな、それはこの牧場で暮らす実装石なら最初に教わることである。
事実、競争石として教育するため、房へと移された子実装の内、6割は連れてこられて一か月の内に可哀そうなことをされる。

それは分かっているのだが、こうして話している内に頭のムカムカが晴れずにどうしようもなくなってくる程に、
当時のマテにはその話はトラウマとなっていた。

しばし、お互い沈黙して無音の時が流れる。だが間をおいてモブが口を開いた。

「まあアレデスー。世の中悪いことばっかりじゃないデスー。私はお前が良いお名前を付けてもらったと思うデスー?」
聞いて、マテはギロリとモブを睨みつけた。
「どういう意味デスー?」
返答次第によっては例え第二の姉と慕った相手でも嚙み殺してしまうぞ、という目をしていた。
だがモブはいつもと変わらぬ調子で少し微笑みながら続ける。
「良いデスー?こういう時に大事なのは良いとこ探しをすることデスー」

それが何だというのか。待てない、福来ない、こんなひどい名前のどこに良さがある。

「例えばデスー?
お前はどうしても会いたい相手が居たとして、でもその人が来てくれないとしたらどうするデスー?」

またしばし沈黙。しかしこれはトゲトゲした空気だからではなく、マテが考え込んでの間だ。

「・・・来れないなら、お迎えに行く・・・・デス?」
相手が自分に会いたがってないとは一切考えていない、全てが自分の思い通りで
自分は歓迎されているという実装石らしい図々しい考えからの答えだ。
「その通りデスー。そしてお前の名前を思い出すデスー。
待てない、ってあるデスー。
待てずにお迎えにいけるようにって名前に付いてるなんてステキでっすーん」

とんでもないこじつけであるが、特に反論もないのでモブは続ける。

「そして更にデスー?お前のお名前では、何が来るのを待てないってあるデスー?」
またマテが少し考え込む。マテナイフクコナイなのだが・・・・
「福・・・デス?」
「その通りデスー!マテちゃ知ってるデスー?
福というのは福の神という神様のことでっすーん。
その神様が来てくれたら幸せいっぱいアマアマいっぱいくれて幸せにしてくれるでっすーん。
そんな凄い神様を待てずにお迎えにいける。そんな素晴らしい名前は他にないデスー!!」
またまたとんでもないこじつけであるが、モブにとってはそれの正しさとか筋の通し方なんて大した問題にならない。
大事なのはマテが、この憎らしくも可愛い妹が更生して救われてほしい。それにつきる。
そのままの調子で追い込みをかけるようにモブは続けた。
「だからこれからお前はその名前に誇りをもっていくデスー。
福を幸せをお迎えに行ってその手に掴むデスー
マテナイフクコナイ」
だが、最後のツメが甘かったか。とあるワードがマテは気が食わなかった。
「・・・・お前は何を言ってるデスー。
こんなお手てで!!
何を掴めるって言うデスー!!」
そういってマテはモブに向けて自分の両手を伸ばしてみせる。
先の部分が切り落とされて物も握れず、焼かれて治らない。
物を持とうしても掴めない。こんなお手てで

「こんなお手で!!どうやって掴めっていうデスー!!」

両目から赤と緑の涙を零して悲痛な表情をこれでもかとマテはモブに向けた。

やっぱりこんな奴信じるんじゃなかったデスー!!私が間違ってたデジャー!!

頭から湯気が立ち上るほどに激怒してマテは四つ足で這うような姿勢をとり、モブに牙をむいて威嚇する。
だがどうしてか、モブは怯えも怯みもせずにマテを見ていた。
「なんだそんなことデスー?」
モブは平然としながら胡坐をかいて座る姿勢のまま、マテに片腕を伸ばす。
「ほら、私の腕を掴んでみるデスー」
( ,,`・ω・´)ンンン?
怪訝な表情を浮かべながらマテは座りなおすと、スッとモブの腕に両手を伸ばし、その二本の腕で挟むようにして
モブの腕を掴んだ。
「ほら、できたデスー」
「デ?」
できたって何を?
よく分からないという表情でマテがいると

「だからホラ、よく見るデスー。お前は自分が物を掴めないって言ってるのに、
今掴んでるデス」
モブはその掴まれた腕をまるで握手でもしているかのように上下に二度三度と振るのだった。
「・・・・・・わたし、掴んでる・・・デスー?」
自分の腕を凝視する。
確かにそうだ、自分は今、掴めと言われてできた。できてしまった。

「・・・モブオネチャ・・・・私、グズッ・・・でぎでる、デズー?」

なんてことないその行為だが、マテの心の内から沢山のモヤモヤが内から大きく湧き上がり、噴出していくのが分かる。
流れて行け、流れて行け、嫌なものも汚いものも、高貴でブリリアントでゴージャスな私に必要ないデスー
私には綺麗なモノだけがあれば良いデスー。こんな風にお目目から流れ出るキラキラしてしょっぱいものだけがあれば
良いデスー。
止めどなく流れる思いや涙が止まらない。
そんなマテをモブは優しく見守っていた。
そうしてマテに腕を掴ませたままでモブは言葉を続ける。
「良いデスー?本当に大事なものは片手て扱ってはダメデスー。
神様に怒られるデスー。
本当に大事なものは今みたく、しっかりと両方のお手てで持つデスー。
そうしないと福の神様をお迎えにいけないデスー」
「で・・でえええ?福の神様お迎えできるデスー?」
「もちろんデスー。それができるお名前をお前はもらったデスー。
だから明日からのレースも頑張るデスー?
福の神様が来るのを待たず、お迎えにいける実装石になるデスー。」

わかったデス?マテナイフクコナイ

その一晩でマテは生まれ変わることができた。
残念なことに、モトネタナイモブコという競争石はレース成績の悪さ故にこれから間もなく可哀そうなことをされることが決まり、
マテの前から姿を消した。
しかし、自分がこの名に誇りを持ち、その思い出を忘れぬ限り、マテの中でモブも長女も生きているのだ。
そう思うことで、マテは今後大きく躍進することになるのだった。
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そして現代に戻る。
ついにレースは最終直線を残すのみ。
マテは一番外側のラインを他のライバルとの接触を恐れることもなく全力で走っていた。
その速さは後ろから追いかけていた騎手が早歩きでは追いつけず、軽く駆け足に切り替えなくてはならないほどの
スピードで走っていた。
だがマテが積み上げたアドバンテージは一時的なものであり、既にウカも速度を取り戻して直線に入っている。
その速さはマテと互角。
直線に突入した事で他の数匹の差しの競争石も速度を上げ始め、気の抜けない状態である。

そしてついに、あの競争石が隠していた牙を見せ始める。

それは番号15番、ハラボテエフェジー

「良い頃合いだ。作戦行動を開始してよ」
ハラボテエフェジーの騎手の耳に受信機を通して何者かの声が響いた。
「了解」
短くそう答えると、騎手は駆け足でハラボテエフェジーに駆け寄ると、その頭を鞭で一回ぺシンと叩いた。

後編へと続く


ぶたやろう コメント
こんにちは皆さん、ぶたやろうです。

もう少し早めにうpりたいと思ったいたのですが、こんなに時間がかかってしまいました。
更に想定よりも文が少し長くなってしまって、読みづらい文体で申し訳ない。
本当は前後編でスマートにまとめたかったのですが、三部構成となってしまいました。
次回は後編+おまけの蛇足編でお送りする予定です。
楽しみにお待ちいただければ幸いです。
あと楽しんでくれたらコメとか足跡残してくれると嬉しいです。
ではまた ノシ

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