タイトル:【観察】 夏の公園を乾かせてみたら
ファイル:初夏の実装退治.txt
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初投稿日時:2023/05/02-13:37:49修正日時:2023/05/02-13:37:49
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※先に説明をまとめましたのでご一読ください

双葉第二臨川公園=野良実装溢れる汚い公園、トイレ・水飲み場のある小規模な公園だが
         野良実装で溢れかえっているため立ち寄る人は少ない
         その名の通り川に面しており、公園内の階段から川岸に降りられる構造である

虹裏年雄=公園のそばに住む、アパートのゴミ捨て場を荒らされて困っている
蓋場昭夫=実装石実験派


賢い野良実装一家= 公園で暮らす賢い親実装の賢い野良実装一家、親実装、長女〜四女の五石
元飼い実装 デェリザベス一家








-<六月某日 地方番組 デイリーニュース より抜粋>--------------------------------------------

いよいよ今年も梅雨が明けました、いかがお過ごしでしょうか
今年は例年より降水量も少なく、気温も上がる予想となっています
熱中症などにお気をつけてお過ごしください


-<7/23(火) 虹裏年雄>--------------------------------------------

「デデェーッ!デデスデス!」「テッヂャアアアー!」
「デェースッ!デデーッ!」「ヂィィィー!」

怒声と騒音で虹裏年雄は目を覚ました

また喧嘩だ…このところ酷いもんだ
春を越えて公園に野良実装が増えてしまい
それに伴って騒音がますます酷くなっているのだ
これではとても寝られたものではない

理由は明白、双葉第二臨川公園の野良実装だ
公園から最も近いゴミ捨て場のひとつであるせいで
虹裏の住むアパート前は野良実装が集まってきてしまうのだ
何度追い払ってもきりが無いったら無い

特に、ここ最近は酷くなってきた
梅雨を控えた時期と言うこともあって、春に生まれた仔のために
必要な餌の量が増え、生存競争がますます熾烈になっているからであろう
それに伴う糞害、騒音、悪臭、託児、不潔…

かつて市民の憩いの場所であり、子供たちの遊び場であった公園だが
今や野良実装の巣窟と化して近寄る人はほとんどいない

虹裏は実装石への知識も理解も皆無に等しいが
それでも数が増え、ゴミがあらされ、それが今後も悪化するだろうことは予想できた

かといって、この市は実装被害への対応は非常に遅い
保健所に駆除を依頼したところで、恐らく駆除は行われないだろう
そうなると、実装石に詳しい友人を探さねばならないか…


-<7/24(水)午前 蓋場昭夫>--------------------------------------------

その日の朝、蓋場昭夫は大学の同窓、虹裏年雄から相談を受けた
なんでも、近所の公園に実装石が湧いて困っている、実装石に詳しい蓋場ならなんとかなるのでは
そんな相談だったのだ

「そうか、臨川公園、ってあの公園か…」
蓋場は実装石については観察派で、近隣の公園についてはよく知っていた
臨川公園は文字通り双葉川の支流に接した公園であり
北には川に降りられる階段があり、普段は幅20センチほどの川と言うか水が流れており
噴水は無く、トイレは一箇所、水のみ場は東西二箇所に水道…

「あの公園なら大丈夫そうだな、ちょっとした工夫で片付けられるぞ」

蓋場の頼もしい言葉に虹裏はほっと胸を撫で下ろすも、念の為に釘を刺すのは忘れない
「よかった、ただ、近所の目があるから、くれぐれも…」

そんな虹裏の態度を察して、蓋場は手をひらひらさせながら答える
「わかっているさ、必要なのはふたつのシカケとエサ撒きだけだよ…
俺たちが直接手を下す事はほとんどない。
じゃあ、俺は夜のうちにシカケをしないといけないからもう行くぜ、明日は明け方5時に公園前に集合だ」

-<7/24(水)深夜-25(木)未明 蓋場昭夫>--------------------------------------------

蒸し暑い、初夏の熱気がむんむんと立ち込める
そんな中、顔を隠すべく帽子を目深に被り、大きなリュックサックを背負った蓋場の出で立ちは異様に映るだろうが
幸いにして人とすれ違うことはなく、無事に双葉第二臨川公園の少し下流に着く

ここでまず、第一のシカケを作る
この季節の双葉川は水流も弱く、ほぼ干上がっているに近い状態だ
わずかな水が川の跡をちょろちょろと流れ
川の泥はほとんどが干上がってヒビが入っている

人目につかないうちに…蓋場はさっさと仕事にかかる
石を積み上げて川の流れをせき止める
誰かに見られたらその時点で終わりかも知れない
少し焦り、汗が頬を伝う

蓋場は実装石実験派だった
これまで一人で様々な実験を行ってきたが
今回のように面倒な計画はなかなか二度三度とできるものではなく

一人では迅速な作業が心もとなかったため、虹裏の申し出は渡りに船だった
この機会を逃したくない

川原の石だけでは足りない場合を考慮して、リュックサックに詰め込んだ石をざらざらと川原に積む
これでダムは完成した
せき止められた水がひび割れた地面を濡らしていく…

さて、そろそろ虹裏と合流する時間だ、急がねば


-<7/25(木)早朝 とある賢い親実装>--------------------------------------------

早朝、まだ夜が白んでいないが、公園で暮らす野良実装の朝は早い
それは彼らの活動の軸がニンゲンのゴミ漁りが主体だからである

「ニンゲンたちが何の用デス?」
朝起きた親実装はまず、蓋場と虹裏の存在に気付いた

こんなに早い時間に公園に人間が来ることは滅多に無い
それにやってきた二人は人目を避けるように目深に帽子を被り、サングラスにマスクだった
これは親実装の直感と経験がギャクタイハだと告げている

「ママ、大丈夫テチ?」
そんな親実装を心配して仔が声をかける、長女だ
「大丈夫デス、それよりも静かに、音を立ててはいけないデス」
手短に用件だけ伝えると親実装は目を皿のようにしてニンゲンたちの動向を探った
ここまで育てた大事な四姉妹…こんなところで失いたくなかった


-<7/25(木)早朝 虹裏年雄>--------------------------------------------

「デェース!デスデスッ!」

俺たちがふたつめのシカケの準備に取り掛かっている間に、野良実装が声をかけてきた
何を言っているかはわからないが、人間にこう強気に来るのはほぼ野良糞蟲であろう
俺は蓋場に目配せをすると、蓋場は頷いた
これはつまり、やれ、という合図だ

俺はシカケのことは蓋場に任せ、鞄から粉砂糖の袋を取り出した
そして手に持った粉砂糖の袋の口を開けると、一掴み野良糞蟲の顔にぶっかけた

野良実装はびっくりしていたが、口に入ったそれが甘いとわかるとデスデスわめきはじめた
そこにもう一掴み顔に砂糖をぶっかける
騒ぎに気がついた野良たちが集まってくる、シカケの終わった蓋場も合流する
それから俺も蓋葉も次々に砂糖の袋を開けると野良たちに浴びせかけた

野良たちはデスデステチレチわめいて砂糖を求める
仔実装や親指、果ては蛆実装まで集まって砂糖を求めだした
こちらもお構いなしに砂糖を頭からぶっ掛けて回る
野良実装たちは見苦しく砂糖を奪い合い、地面を舐めているものもいる

そろそろ頃合だ、人に見られる前にさっさと残りの砂糖を野良実装の頭上にぶちまけると
俺達は人目を避けて公園を後にした

臨川公園についた蓋場達は最初に前夜のうちに小川に石を積んで築いた堰を切った
ここ数日の日照り続きで貧弱な水量だったが、水溜りはすぐに流れて消えた


-<7/25(木)早朝 とある賢い親実装>--------------------------------------------

「アマアマデスー!もっとこっちにも寄越すデスーッ!」
「こっちデスゥー!高貴で美しいワタシにもっと寄越すデスゥ!」

遠巻きでよく分からないが、ニンゲンたちが何か甘い物を配っているらしいことはわかった
だが、熾烈な公園で生き延びるこの賢い親実装にはそれが決してよいことではないことだけはわかっていた
毒かもしれない、罠かもしれない、釣り餌かもしれない…

そういった様々な可能性に目を向けると、なかなか出て行ける物ではなかった
とはいえ、数が増えすぎてこの公園での餌獲りは日々熾烈になり、本当にただ甘い食料を分けてもらえるのであれば
今すぐにでも飛び出したいのはやまやまであった

もし、彼ら二人がごく稀に公園を訪れるアイゴハのニンゲンだったら…
この機を逃すのは勿体無いどころの話しではない
事実、醜く人間に群がっている同族の中にそれなりに賢い顔見知りが含まれているのも確認できた
しかし、この親実装の直感と経験が頭の中で警鐘を鳴らす
この二人のニンゲンたちは何かがおかしい、何かが…

「もうガマンできないレチーッ!」
「三女ちゃん!」
声をかけたときにはもう遅かった、三女はダンボールハウスを飛び出した
つられて四女もダンボールハウスを飛び出してしまう

阻むものの無い公園をまっすぐ駆けると、二匹はすぐにニンゲンたちが粉をまいているところにたどり着く
偶然四女のところに砂糖がバラ撒かれ、頭から粉を浴びる
「レチィーッ!レチィーッ!天国レチィ!アマアマレチィ!!」

「もっとー!もっとこっちにもくださいテチィ!!」
砂糖のまわってこない三女が泣き叫ぶが、そうこうしているうちにさっとニンゲンは引き上げる
地面に撒かれた粉砂糖を持ち帰る方法など野良実装には思いつきもしないし、道具も無い
きらきらと鈍く光る地面を這いずってただ舐めるだけである

「…ママ」
「…もう大丈夫デス、長女ちゃん、次女ちゃん、行くデスゥ」
親実装はニンゲンが完全にいなくなったのを確認すると
長女と次女を引き連れて地面の粉砂糖に向けて歩き始めた

砂糖を舐めている他の野良実装たちに異変はないし、毒ではないだろう
アマアマが手に入ることなんて滅多に無い
たまにはこの子たちにも楽しい時間を与えたい…
そんな風に親実装は気楽に考えていた

だが、既にこの時、罠のシカケは動き出していた
そんなこととは露知らず、野良実装は束の間の狂騒に明け暮れる
折しも時間は木曜日の早朝、貴重な食料源である生ゴミは収集車に回収されている時刻である


-<九月某日 地方番組 デイリーニュース より抜粋>--------------------------------------------

<特集 実装被害”実害”のいまを追う>(公園近隣に住む住民)
いつものゴミ捨て場をあらす実装石がね、なぜかあの日はほとんど来なかったんですよね
不思議なこともあるもんだと思ったんですが、まさかあんな事になるなんてねぇ
一体全体、誰があんな酷い事をするんでしょうか


-<7/25(木)早朝 元飼い実装デェリザベス>--------------------------------------------

「こっちデスゥー!高貴で美しいワタシにもっと寄越すデスゥ!」
喉を枯らしてアマアマをばらまくドレイニンゲンに命令するも
なかなかデェリザベスのほうに砂糖は回ってこない

周囲はもう押し合いへし合いの地獄絵図だ
それでも一石の死者も出ていないのは奇跡…というより
目の前の二人をアイゴハとして認識して最後の理性が働いているからだろう
アイゴハの前での狼藉は御法度、それくらいはこの公園の野良馬鹿蟲にも
最低限の常識として備わっていた

「もっとー!もっとこっちにもくださいテチィ!!」
後ろにいる仔実装がキンキン耳障りな金切り声をあげる

イラっとしてデェリザベスが睨みつけるも仔実装がこちらに気づいていない
見ると周囲に親らしき成体実装もいないしデェリザベス基準でも見た感じ馬鹿糞蟲だ
ニンゲンの目がなかったら恐らく踏み潰していただろう

そうこうしている間にドレイニンゲンたちは最後に袋に残った粉砂糖をバサッとひと振りした
「ケプッ!?」

デェリザベスの足元にいたデェリザベスの仔たちの頭からまともに降りかかる
「テッチュウ〜ン♪」
仔たちはすぐに砂糖に気づき、自分たちの腕や足をナメナメしている

「デデデ…デッズァア!!!」
結局デェリザベスは一口もアマアマを口にすることはできなかった


-<7/25(木)午後 とある賢い親実装>--------------------------------------------

「デデッ!?水が出ないデスゥ!!」

水道の蛇口は硬く閉じられていた
正確には水が出ないわけではない、成人男性の握力で硬く、硬く、硬く蛇口を絞っただけである
(あまりにも重要なので三度言います)
それでも、実装石の体では絶望的に不可能なほど硬く閉じられていた

多少、知恵のきくものは枝を使っててこの原理で蛇口を捻ることが出来ると言うが
それでもなお蛇口を捻ることができないであろうほどに硬く閉じられていたのだ
言うまでも無く、これは虹裏たちのしかけたシカケその1である

この公園の水場は4箇所、東西の水飲み場とトイレ、そして双葉川の支流である
東西の水飲み場はかように蛇口を硬く閉じられ、実装石の力では開けられない

では、人間がやってきてこの公園の水道を使うかと言われればそれもありえない
なぜなら、現在の公園の支配者は実装石なのだから
持ち前の不潔さと不快さを持ってして公園を占拠し、人間を追い出した
それは人間と距離を置くことによって人間の脅威から離れると同時に
人間の用意したインフラからも距離をとることになるのだ

もしもこれが、多少実装石が多い、程度の公園であれば
利用者が、清掃者が、あるいは通りすがりの者がすぐ異常に気づいたろうが
そうはならない

なぜなら、この公園を支配しているのは実装石だから…
彼ら自身の力で解決せねばならないのだ

ここで、多少頭の回るものはすぐに次の手を思いつく
「そうデス!トイレデスゥ!」
もちろん、ここでいうトイレとは野良実装が用を足すためのトイレではなく
人間用のトイレである

洗面所は高く、水には遠く届かないが、和式トイレにはわずかながら水が張られている
それを狙って野良実装たちが次々にトイレに殺到する

トイレは大混雑していた
水道を使えなかった公園中の野良たちが一斉に殺到したのだから無理も無い
おしくら饅頭をしながらようやく大きい野良が水を飲み終わり
まわりを見回すと辺りに甘い匂いが漂っているのに気がついた

ふと、足元にいる仔実装を持ち上げて見る
全身にかいた汗に粉砂糖がくっつき、わずかな光に照らされテラテラと光っている
それをおもむろに持ち上げると口元にやり、一口齧る    ヂィッ!!
口の中に砂糖の甘い味と濃厚な肉汁、そして汗からなるほのかな塩分が広がる
野良実装の身分ではいかに努力しようとほぼ手に入らない旨み…
甘みと肉がそこにはあった、いや、そこかしこにいるではないか!
トイレ中でテチレチレフテス蠢いているではないか!

「デデッ!オマエ私の仔に何するデスウ!」
「デププ、オマエの仔はとても旨いデス!もっと食わせるデシャアアアア!」

体格の優良なものから水を得て渇きを癒していたので当然といえば当然であるが
後から着いた貧相な親、仔、親指に蛆が次々と共食いの牙に倒れる
だが、トイレの中にまでたどり着けた他の体格の良いものたちも負けてはいない
水を独占された上に仔まで襲われたとあって、
水を得られない憎悪は全て個室に陣取る同属食い達に向けられた
一瞬でトイレは地獄と化した

一方、トイレの中に入るにはいたらなかった者たちは遠巻きにその様子を伺っていた

先ほどの親実装も、トイレに入り遅れたことに今更ながら安堵していた
しかし、四女がいない!

だが、トイレをもう一目見やるとそれももう諦めた
こんな中にいてはもはや生きてはいまい
親実装は他の水場で水を得るため、トイレを後にした


-<7/25(木)夕刻 とある賢い親実装>--------------------------------------------

双葉川支流
公園のフェンスには小さな切れ目があり、そこから十段ほどの階段を下りると
双葉川の支流に下りる事が出来た
ここは舗装されぬ地面の川岸の真ん中に流れる細い水が野良実装の貴重な水場になっていた

ところが、蓋場と虹裏の手によって
昨夜から今朝にかけて水をせき止められていたせいで
舗装も補強もされていない川岸は完全にぬかるみ、泥のぬかるみと化していた
とは言え、この猛暑で水はすっかり干上がっていたため、
飲める水はやはり泥と泥に挟まれた幅わずか20センチほどの川を目指さねばならない

だが、異常に気付かない野良実装たちはぬかるみの先にある川めがけて走っていった
「デデッ!?」「デヂィッ!!」「デギャッ!!」

次々にぬかるみに足を取られ、転び、倒れ、泥まみれになる野良たち
腰まで泥につかり、もはや行くも戻るも出来ないものたちも多数いる
倒れた上に更に後から来たものが倒れ、泥にめり込み、動けなくなる野良たち
川べりはまさに汚肉の絨毯と言った様相を呈していた

「ママ、大丈夫テチ、こうすればイイテチ!」
言うが早いか、三女は倒れた野良の背中から野良の背中へとテッチ、テッチと飛び移り、すぐに川へとたどり着いた
そして喉を鳴らして水を飲み始める
それを見るが早いか、近くのほかの野良実装たちも真似をして同じように川岸へとたどり着く

「デッス!デッス!」「デギャ」「デッス!デッス!」「デボァ!!」「デッス!デッス!」「ヂィ」
こうなるとたまらないのは足場にされる実装石たちである
なにしろ泥に半身漬かっているところを後から後から来た糞蟲たちに背中を頭を手足を踏み潰されるのだ

たちまち汚泥に血が糞が染み渡り、あたり一面は汚肉の絨毯と化すが
実装石のたくましい生命力に加えて下は柔らかい泥なので死ねるものではない
実装石の悲鳴と怒号、うめき声の響く中で続々と後続が詰めかける

そして仔実装である三女が川にたどり着けたため成体実装に続き
安心した他の仔実装・親指実装も続々とあとに続いて川に無事にたどり着く

だが、親実装はこの行動に安心よりも危機感を感じた
「とにかく早く戻るデスゥ!」

「大丈夫テチィ、チププププ」
三女は余裕の表情を見せると、ゆったりと水を飲み干す
それはいかにもママは心配症なだけテチ、三女チャンは賢いんテチ!と見せびらかす…そんな心根の現れだったのか

三女は喉の渇きとママの心配、両方をじっくり堪能するとまた汚肉の絨毯をテッチ、テッチと飛び移り
軽快に渡りきろうとした…

しかし、そうはいかなかった、汚肉の絨毯の中から手が生え、捕まえたのだ
「テヂャァア!?コウキなワタシを離すテチィ!」
「デー…」
三女は自らを捕まえた手をぺすぺすと叩く、しかし
踏み潰されて死に掛けとはいえ、相手は成体実装、逃れられるべくもない
ゆっくりと口に運ばれると、ジュルジュルと音を立てて体液を吸われる

「ヂャアアアアアアアアーーーー!!!」
三女は余計な時間をかけたため、体勢を立て直す時間を与えてしまったのだ

「三女チャーーーーン!」
みるみる吸われて干からびる三女、そしてその騒ぎはその場にいる全ての野良実装の目を引いた
それは、渇きに飢えた野良たちに手近な水分の在り処を教えるところとなった
いかに死にかけとは言え相手は真っ先に川岸にたどり着いた比較的体格の良い成体実装
汚肉の絨毯からたちまち手が伸び首が伸び、手近な野良実装達を捕まえる

運よく手から逃れてぬかるみとの境目に来られた者も、それで助かったとはいえなかった
足場がぬかるんでいるせいで階段と地面を隔てるほんの20センチの段差が超えられないのだ
登ろうと片足が地面から離れれば、残った片足がぬめってすべり、またぬかるみに戻されてしまう
そこでじたばたと足掻くけば、今度は自分がぬかるみに沈むのだ

手や首を逃れるべく、その場で地団駄を踏むような動作をした物もいた
だが、ぬかるんだ地面は激しい動作を許さず、そういった動きをすればたちまち泥に沈み
次は自分が汚肉の絨毯に取り込まれていく羽目に陥っていくのだ

もっと悲惨なのは仔実装・親指実装である
彼らはそもそも20センチの段差を超えることはできない
従って川岸に降り立った時点でもう上に登る方法はないのだ

運良く汚肉の絨毯から逃れ、下流に、向こう岸に逃れようとする実装石たちも
次々と泥の中へ沈んでいく
沈むまいと地上に伸ばす仔実装・親指実装の両手は泥から生える緑の林…
そう、まるで葉が開く前のふたばのようであった

水道も、トイレも、川もだめだ
絶望的な状況におかれたことはしっかりと把握した
こうなれば、できることはひとつ、親実装も覚悟を決めた



-<7/25(木)夜 とある賢い親実装>--------------------------------------------

「レ?オバチャンだれレチュ?」「レフー?」

「レヂィッ!!」「レピャッ!?」
この公園は、水が潤沢に手に入る環境と言えど、水場そのものの数は少ない
となると、水場から離れたところにあるダンボールハウスには必ず水を貯める工夫があるはず
水場とハウスの往復の回数が増えることは危険を増すことに直結するからだ

そして、読みは当たっていた
水の溜まった350mlペットボトルがなんと4本

それにピンク色の仔実装用の実装服が隠してあった
実装ショップで売られている一般的な安物であるが
野良実装にとっては手の届くにべもないとんでもない貴重品である

これも何かの役に立つかも知れない…親実装はこれも持ち出すことにした

一家は辺りの様子を伺うと、奪った荷物を手に夕暮れの闇に溶けて行った


-<7/28(金)夕刻 蓋場昭雄>--------------------------------------------

あれから三日、蓋場は様子を見に自転車で公園にやってきた
西口から入り、水のみ場の蛇口が硬く閉まったままなのを確認すると、トイレに向かった

途中のほうぼうの植え込みからはかすかにレフレフ言う蛆実装の声が聞こえてくる
実装石の出産に水は欠かせない、水が無ければ蛆実装の粘膜の除去は非常に困難だ
そして粘膜が除去できないと成長が妨げられ、蛆実装のまま成長できなくなる
これは間違いなく水が不足している影響であろう

蛆実装の世話は仔や親指の役割であることが多く
そうでない場合でも親実装が何らかの処置をして泣き声を抑えるための努力をするものだ
それがレフレフ鳴きっぱなしということはまともに世話が出来ていない証拠
蛆実装が増えすぎたか、仔や親指が減りすぎたか、どちらかはわからないが
いずれにしろ公園の実装石の数の分布が崩壊したことを予測させるところだ

野良では蛆実装は餌でしかないため、分布の崩壊は各野良世帯の崩壊に直結している

植え込みからの刺すような無数の赤緑の視線を背中に感じて
さしもの蓋場も背筋が凍りつく
自分が招いたとは言え自分に向けられている敵意が、恐怖が勝り
一刻も早くここを抜けたくなってくる

次にトイレにたどり着く、もちろん野良実装まみれの汚い便所など使うつもりは無いが
そうでもなかればただの不審者であるので、トイレを利用するふりをする
自転車をトイレの前に停め、中に入って見る

「デデーッ!…デェッ!?」

中に入ろうとすると、小枝を持った成体実装が飛び出してきて、勝手に転んだ
どうやらトイレを利用しようとする同族を待ち伏せて襲うつもりが、人間だったので腰を抜かしたらしい

「デップゥ〜ン♪」
野良実装が汚い笑顔で媚びを売ってくる
だが蓋場は目もくれずにトイレの中を観察する

トイレの床は野良実装の体液や汚肉が飛び散り、目を覆うような惨状となっていた
粉砂糖を撒いたおかげで同属喰いに目覚めた糞蟲がトイレに陣取ったらしい
みっつある個室それぞれに小さな一世帯が暮らし、お互いにぎらぎらとした目を光らせあっている
恐らく、女子トイレのほうも同じような状況だろう

普通ならトイレに暮らすような無謀な固体はトイレを利用する人間か、清掃員によって排除されるのが常だが
この公園はまったくもって管理もされていなければ、不潔な野良のせいで誰も寄り付かないので
こういったことが可能なのだろう

貴重な水場を強い固体だけが独占する
野生動物でもそう滅多に出ない暴挙であるが、半端に知恵のまわり、共食いをする実装ならではの光景と言える

北側に自転車を回して川辺へ行くと、つんとする異臭が鼻をつく
ひょいと首を伸ばすと悲惨な光景が目に飛び込んできた
日に照らされて、乾燥しかけた野良実装の死体が川へ向かいまるで絨毯のように敷き詰められている

本来なら川岸全てが干からびる程度の水量しかないはずだが
そこここに潰れている実装石の元々持っていた水分に加えて
実装石特有のウレタンボディが水分を逃さなかったのであろう
遠目に見ても全体的に湿っているのが伺える

ためしに足元から小石を手に取り、野良実装の死体にめがけ投げて見る
ぐちょり、と音がして小石は死体に沈み、近くから正体不明の虫がもぞもぞと這い出る

「テー…」
声のするほうを見ると、一匹の仔実装が首から上だけを死体の山から出して
身動きが取れない状態となっていた
ウレタンボディと評される実装石の死体は水分を含み、沼と化していた
おそらく、体重が軽かったため途中までは移動できたものの、腐敗の進んだ死体の真上で沈み込んだんだろう

これはとどめを刺しておくべきか…と思ったが、まわりを見渡してそんな気は失せた
頭上には腐臭に集まった烏、周囲には正体不明の昆虫
まともな足場も無く、天敵も集めてしまってはさしもの野良実装も水を得ることはできまい
ここは水場になりえないことを再確認すると、仔実装のことは放置して次へ行く

最後に東口の水のみ場へ行き、蛇口が硬く閉まったままなのを確認すると、公園を後にした

実装石の主な出産シーズンは春、夏、秋の三つに分けられる
中でも秋仔は、野良実装の常識から言えば非常食扱いが多く
よほど競争が緩くない限りは冬を越せるのは春仔か夏仔と決まっているものだ
ところが、この人工的な水不足により厳しい梅雨や夏を乗り切る手助けになるはずの
春生まれの仔・親指は壊滅し、足手まといにしかならない蛆実装ばかりが増えてしまっている

すぐに水不足が解消されたとしても、この荒れ果てた公園からまず立ち直るのが先決
場合によってはこの騒ぎで貴重な備蓄食料を食いつぶしていることであろう
何より、食料の腐敗しやすく、食糧備蓄の難しい梅雨が控えているというのに
非常食を兼ねているとはいえ、無駄飯喰らいの蛆実装を大量に抱えてしまっては
もはや夏仔には期待できないはずである

ともすれば、本来なら夏仔になって一家を背負う予定だった備蓄の栄養分が今
蛆実装になって公園でレフレフ這いながら糞を喰っている可能性もある
よって、この公園ではどうにか秋仔の冬越えを成功させなければならない
秋仔の冬越えとは観察しがいのある案件じゃあないか

幸いにして虹裏の家が公園から近い、今回の見返りに早朝の観察時には泊めてもらえるだろう
今から冬が楽しみでならないものだ


-<7/29(金)早朝 元飼い実装デェリザベス>--------------------------------------------

全て失った

何もかも

頭から砂糖を浴びた仔たちは同属に喰われた
ハウスに残した賢い長女と非常食の蛆チャンも何者かに喰われた
賢い長女はまだまだ可愛い盛りの仔実装だったのに…

そして宝物の実装服も奪われた
飼い実装だった頃にご主人様から貰った高貴で美しいワタシへの特別な宝物
もう着られるサイズではないが、ピンク色の実装服

そろそろ長女にちょうどいいサイズだったのに
長女が着ればきっとドレイニンゲンたちはメロメロ
すぐに飼い実装になれたろうに…そして自分たち一家丸ごとついでに飼ってもらい

セレブな飼い実装となって毎日スシステーキコンペイトウの幸せな日々を送れたはずだったのに…

「デヒ、デヒヒ…デェッピャッピャッピャ!!」
デェリザベスは笑った、心の底から大声で笑った
こんなに笑ったのは生まれて初めてだった

パキン
最後に乾いた音が響くと
ダンボールハウスは静かになった




-<8月上旬 とある賢い親実装>--------------------------------------------


ニンゲンたちがアマアマを配ってから地獄のような日々が始まって
公園は悲しいことになったデス…

体の大きい糞蟲たちが留守を狙って仔や蛆を奪い食べるのでおちおち餌取りにも行けないデス
トイレにも同じく糞蟲が待ち伏せていてお水を独り占めにしているデス

水のみ場は水が出ないデス
昨日、ジテンシャに乗ったニンゲンが水のみ場に来ていたのを見たデスが
そのニンゲンでも水は出せなかったようデス
ニンゲンに水を出せないものが、ワタシタチに水を出せるとは思えないデス

川べりには黒い大きな鳥が来るからやはりお水を取りにいけないデス
耐えられなくなって川へ水を飲みに行った次女ちゃんは出たきり戻らないデス

もう、ペットボトルのお水がなくなって丸一日経ったデス
このままではワタシも、唯一生き残った長女ちゃんも渇死デス

だからもう、これしかないデスゥ…
幸い、うちには元飼い実装に食べ物と交換して貰ったコレがあるデス

コレと長女ちゃんにすべてを賭けるデス…



-<8月中旬夜 虹裏年雄>--------------------------------------------

あれから一ヶ月以上経った
ゴミ捨て場も荒されない、夜中に騒音も起きない
道路に糞も落ちなくなった

ところが…

テーブルの上には買い物袋、そして、その中には…
「テッチューン♪」

そう、託児だ
ご近所に聞くところによるとあの日を境に託児が増えたらしいのだ
それも相当活発になっているらしいとのこと
自分のせいで実装被害が増えてもまずいので蓋場に聞いてみたところによると
託児は野良実装の断末魔みたいなものだから気にするなっては言われたものの
それにしてもまさか、俺がやられるとは…

「テッチューン♪」
幸いにして、多少は賢いのか買い物袋の中は荒されてはいない
薄汚いとはいえ、ピンク色の飼い実装服を着ているところを見ると
捨てられた元飼いってところだろうか?

「テッチューン♪」
先ほどから、相当熱心に媚び続けている
自分を売り込むのに余念がないのか、もしくは後が無く必死なのか…
こいつにも不幸な境遇があるかもしれない考えるとと多少は同情してしまい、殺すには忍びないが
だが、だからと言って託児された不潔な野良蟲を飼うほど情け深くもないのだ

さて、こいつをどうした物か
んー、託児された、ということは臭いをたどって親が来る可能性が高いな
あまり長々と考える時間は無い

虹裏の脳裏に荒されたゴミ捨て場の光景が浮かぶ
あんなところにたむろしているような汚物の土足で
玄関先を汚されるなど我慢できることではない

そっと窓を開けて下を眺める
眼下には双葉川の支流が細々と流れている
この川を辿っていけば双葉第二臨川公園に着くはずだ

一息つくとテーブルの上の仔実装に向き直る
媚び疲れたのか、へたりと座り込んでいたが
目が合うと、仔実装は再び媚のポーズをとって一声鳴いた
「テッチューン♪」

そういえば、蓋場のやつが、賢い実装石は言葉が通じる、と言っていたことを思い出した
「お前、臨川公園から来たのか?」
「テッチ!」
なんとなしに尋ねると、仔実装は肯定するように首を縦に振り、短く一声鳴いた
「そうかあ…すると今頃…」

ここ最近、公園が急に静かになったことを思い返す
蓋場に聞いたところによると、二人の努力の甲斐あって公園の野良実装は
少なくとも来年の春までは数が増えることはないだろう、とのことだった

つまり、もしこいつが臨川公園から来たとしたら、そこまで追い込んだのは自分だ、ということになる、が…

だからと言って温情をかけるほど虹裏は甘くは無かった
そもそも、虹裏は公園の野良実装の迷惑を被って、駆除を思い立ったくらいだ
男はそっと薄汚いピンクの実装服を着た仔実装を手に取ると、窓から川に向けて投げ、ぴしゃりと窓を閉めた

あとに残ったのは川の流れる音だけだった


















野良実装一家
親実装=賢い、渇死する
長女=賢い、飼い実装の服でめかして託児されるが、虹裏に川に捨てられる
次女=賢いが、自制が弱い、汚肉沼と化した双葉川の川岸で身動きが取れなくなり、生死不明
(親視点では、いなくなった、とだけ)
三女=糞蟲、双葉川で実装石に食べられる
四女=トイレで行方不明になる(どうするか未定)

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1 Re: Name:匿名石 2023/05/05-05:20:21 No:00007127[申告]
実装石に限ったことではないが水は命の鍵だと改めて思わされる一本でした
2 Re: Name:匿名石 2023/05/05-08:22:42 No:00007128[申告]
実装対策がしっかりした自治体とかで、夏休み前や梅雨時に対実装用の断水や公園の物理的一時封鎖(隔離しやすい改装済)とかで半月や一ヵ月程カラッカラに
干し上げた上に清掃して片付ける駆除とかありそうとか思ってしまった。
3 Re: Name:匿名石 2023/05/12-06:49:52 No:00007152[申告]
こっちが直接暴力を振るわなくても実装は楽しいね、公園全体を使った実験だねこりゃ
今回はうまい具合に占領されてしまった公園があったから出来たけど
同じような環境作ってシミュレートしてみたいなあ…
4 Re: Name:匿名石 2023/05/12-12:47:51 No:00007156[申告]
実装石の観察ツールなんてあったら楽しそうですよねぇ。
水槽に入れて観察するんじゃなくて、公園とか街中とかを丸ごと再現して…って感じでいわゆるゴッドゲームみたいに観察してみたい
5 Re: Name:匿名石 2023/07/22-07:43:13 No:00007599[申告]
賢い親実装がピンク服を食べ物と交換?デェリザベスは盗まれてるから以前に別の元飼いがいたのかな
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