突然だが諸君。巨大怪獣になって暴れてみたいと思った事はないかな? 怪獣になって街を壊したい。逃げ惑う人々を踏み潰したい。そんな思いだ。 もっとも、公園で野良実装達を相手に暴れまわるのはそれに近いのかもしれない。 だがもしも、実装石がその立場になったら? 巨大怪獣になった実装石はいったいどのように暴れるのか…。 今回はそんなお話だ。 どうか呆れずに最後まで付き合って欲しい……。 ──────────────────────────────────────────────────────────── その野良実装は人家の窓に張り付いていた。 日が傾き始め、夕飯を探そうと窓を割って空き巣をしようとしたのだ。 だが生憎にも今日は休日。どの家も住人がおり実装石の侵入を許すような家は一軒もない。 今日は外れかととって返そうとした矢先それを見つけたのだ。 家の中の人間の男と飼い実装が見る先、テレビだった。 野良実装はテレビを見たことが無かった。 しかもそこに写る映像は巨大な怪獣が暴れ、街を破壊し人々が逃げ惑う光景が写し出されているではないか。 その特撮番組は光力戦士ハイパーマンという人気番組なのだが野良実装は知るよしもない。ただ自分の価値を理解しない愚かなニンゲン達を蹂躙してくれる存在がいるのだと勝手に盛り上がっている。 番組の構成上怪獣は人々の為に現れたハイパーマンによって倒されるのだがその光景は幸せ回路全開の野良実装の目には入っていなかった。なんともおめでたい存在である。 巨大化した自分がニンゲン達を踏み潰す妄想でいっぱいいっぱいだ。 そうしてひとしきり妄想を終えると食事も忘れ夢うつつでダンボールハウスへと戻っていった……。 その日の夜、野良実装はハウスの外で空腹も忘れて妄想に耽っていた。 巨大化したら何をしよう。 街を壊そう。ニンゲンを潰そう。その前にコンペイトウを要求するのもいい。自分の強さにひれ伏すニンゲンを嘲笑い潰してやろう。 「デププププ」 思わず笑いが漏れる。 無論そんなことは現実には不可能なのだが現実と虚構が即座に混ざり合う実装石の脳みそでそれを理解するのは不可能と言えた。 そして、そんな妄想の最中、それを現実に出来るかもしれない存在はすぐそこにいた。 「ふむ。なにやら楽しそうだねぇ君」 突然背後から声を掛けられびくりと身を震わせる野良実装。 慌てて振り返ってみるとそこには男が立っていた。 しかしその出で立ちは奇妙としか言いようがなかった。 身の丈2mを越える真っ黒な巨体はマントで覆われ鋭い眼光は赤いサングラスに覆われている。笑っているらしい口は光っているようであり頭頂部からはなにやら燃え盛る炎のようなものが見受けられた。 「デデデェ!?」 突如現れた怪人に野良実装は逃げることも忘れて驚くばかりだ。 「いやいや申し訳ない。なにやら楽しそうな声が聞こえたのでつい声をかけてしまったんだ」 男は隆々とした態度を崩すことなく語りかける。薄汚い実装石に話しかけているとは思えない丁寧な物腰だ。 「それで、君は巨大化したいんだって?」 「デデェ!?」 怪人はリンガルも無いのに言葉が分かるらしく語りかける。 「そ、そうデスッ!おっきくなってニンゲンを踏み潰したいデス!コンペイトウを献上させるデス!豪華な生活を要求するデスゥゥゥ!」 驚きつつも答える野良実装。 すると怪人は笑ったような雰囲気を見せた。 「そうかそうか。ではその願い、叶えてあげよう。────────────!」 怪人がなにか呪文のようなものを唱えると野良実装は光に包まれた。 「デ、デスゥ…?」 眩しさに閉じていた瞼を開くとそこは今まで見たこともないような高さだった。 「デ、デデェェェェェェェェ!?」 あまりの高さに身がすくむ。落ちる。一瞬そんな恐怖がよぎった。 だが落ちるような感覚はなく、代わりに足元からは自分が立っている感覚が帰ってくる。 ここに来て野良実装は自分が巨大化していたことに気づいたのだ。 足元には恐怖し、逃げ惑う人々。高く高くそびえていた建物は自分の首ほどまでしかない。 野良実装にとっては全てが小さくなり、何もかもが自由に出来る塵芥のようだった。 「デププププ」 小さかった頃そのままに、薄気味悪い笑顔と仕草で嘲笑う。 まずはここにいるニンゲン達を踏み潰して自分の恐ろしさを思い知らせよう。 そう思って脚を踏み出そうと持ち上げる。 「たあああああああっ!」 突如空から声が響き、腹に痛みが走る。 空から降ってきた巨人の脚が巨大実装の腹にめり込んだのだ。 「デフェェェェ!?」 くぐもった悲鳴を上げて倒れる巨大実装とその眼前に立つ銀色の巨人。その姿はテレビに流れていたハイパーマンそのものである。 『また怪獣かっ!』 「人々の安息のために、好きにはさせないっ!」 ハイパーマンからは少年の声と青年声が響く。 二人が同期し、融合することでハイパーマンは戦う力を得ているのだ。 「生意気デシャァァァァ!!」 「てやっっ!」 互いの拳がぶつかり合う。力では巨大実装が押されているようだがダメージが入った様子はない。 どうやら巨大化して増した体重を支えるために骨密度と筋肉量が爆発的に増加したらしい。 仮に今の状態で元の大きさに戻ることが出来るのなら凄まじい強さを発揮する実装石が誕生していたことだろう。 『効いてない!?』 「脂肪が多くてダメージが入っていない!…だが」 ハイパーマンが後方へと跳躍て距離を取りし体制を立て直す。 「弱点は分かった!ハイパー…光輪剣!」 咆哮と共に手刀の形にした手元にリング上の光が現れる。 極薄のそれは握られているわけでもなく手の位置に追従しながら高速で回り始めた。 しかし巨大実装はそんなこともお構いなしに再び拳を繰り出す。 「たあっ!」 光の刃を縦に振り下ろすと何の抵抗もなく巨大実装の拳が両断された。隙を与えることなく左手で腹を斬り裂く。 「デゥ!?デ、デジャァァァァ!!?」 慌てて血が吹き出る傷口を押さえるが隙だらけだ。 対象を斬り裂いた刃は一撃で姿を消し、代わりにハイパーマンは両手で巨大実装の後頭部を掴むと一気に膝へと落とした。 鋭利な膝のアーマーが巨大実装の眉間に突き刺さる。 「デヒゴォォッ!!」 眉間から噴水のように出血させながらもんどり打ってのたうち回っていると切り裂かれた前掛けの隙間からなにかが一粒こぼれ巨大実装の手の中に収まった。 「コ、コンペイトウデスッ!」 以前人間が撒いていたのを一つずっと持っていたのだ。 どうやらそれは巨大化しても健在だったらしい。 「これを食べればパワーアップ出来るデス!お前なんかイチコロデスッ!」 「むっ!」 宣言通り口に放り込みハイパーマンが警戒する。 すぐさま力が湧き出る…代わりに尋常ならざる腹痛が襲ってきた。 だがそこは小賢しいことには頭が回る実装石。いそいそと下着を脱ぎ、四つん這いになって尻をハイパーマンに向ける。 「し、死ねデズゥゥゥゥゥ!!」 まるでビームのように糞を発射する。 実装石が食べたのは駆除用の濃縮ドドンパだったのだ。その勢いはすさまじく、強化された体でなければ瞬時に吹き飛び夜空の星となっていただろう。 『こ、こっちに来るっ!?』 「問題ないっ!」 ハイパーマンは両腕を頭上に掲げると臍を中心に立て回転を始める。 凄まじい勢いの糞がハイパーマンを直撃するかに思われたが、寸前で糞は軌道を変え、ハイパーマンとは逆回転で巨大なリング状に回り始めた。 「デジャァァァァ!止まらないデズゥゥゥゥゥ!!」 そんなことを気にかける余裕もない巨大実装はおびただしい量の糞をぶちまけながら枯れ木のようになっていく。 支えを失った皮や服が弛みに弛み全身が空気の抜けた風船のようになっていき、やがて止まった。 フラフラになりながら腰をつき、ハイパーマンと対面するような形で座り込む。 その間に糞のリングは小さくなり始め、最終的にハイパーマンの拳大の大きさになった。 「はぁっ!」 回転をやめ、正拳突きを繰り出すと糞の玉は触れてもいないのに高速で打ち出され、そのまま実装石の口へと収まった 「デブベェェェェ!?」 濃縮された糞玉を飲み込むと同時に奇声を上げてのたうち回る。 実装石が食糞をすることは広く知られているがそれはあくまで最終手段。しかも今回は自身の体積以上の糞を一口で飲み込んでしまったため凄まじい嘔吐感に苛まれることとなった。 「ま、まずいデス……気持ち悪いデスゥゥ……」 血涙を流しながら濃縮糞を吐き出そうとえずくが全く出てくる気配はない。 もう戦いどころではなくなってしまった。 しかしそれを許すハイパーマンではない。害虫駆除に情けは無用。生かしておく理由は欠片もない。 『トドメだっ!』 「ああっ!ハイパー…」 額の宝玉が光り、その前で両腕をクロスする すると光は左腕のブレスレットへと移っていった 「ビーム!!!」 一歩を踏み出しなから肘を曲げた姿勢で左腕を突き出し右手でその手首を後押しすると凄まじい光がブレスレットから放たれた。 「デギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」 超高温の熱線に晒され実装石は全身から炎を吹き上げながら爆発した。 『ハイパーマン!』 「ああ!」 だがヒーローの戦いは終わりではない。少年の声に答えるとハイパーマンは跳躍し街を俯瞰した。 まるで街を包み込むように体を広げる。 「リザレクション…ビーム!」 ハイパーマンの胸の結晶体から七色の光が街を包むと建物やあらゆる施設、果ては人々の怪我すらなおしてしまった。 巨大実装が暴れた痕跡は塵ひとつとて残っていない。 『これでまた、みんなハイパーマンの活躍を忘れちゃうんだね…』 「構わない。私の活躍よりも、人々が怪獣に脅かされたという記憶を残さないことの方が私は嬉しい」 一種悲痛な覚悟のような言葉だったが、ヒーローの声はどこまでも晴れ晴れとしていた……。 「ふぅン。ま、こんなものか」 マントの男がハイパーマンの背中を見上げながら呟く。そこには落胆や失望の色は見られない。 「デ、デヅ…」 「ん?」 声に気付き足元を見るとそこには全身丸焦げの干物のようになった実装石が横たわっていた。 「おお、生きていたのか。まったく生命力だけはデタラメだねぇ君達は」 男の声に反応したのか、瀕死の状態でありながら実装石が口を開く。 「はやぐ…はやぐ助けるデヅ…クソニンゲン……」 だが男の方はもうそんな干物か炭の塊には興味はない。 「生憎私にそんな力はないよ。それよりもこの世界も飽きてきた事だし、そろそろお暇させてもらうことにしよう」 言うと男の背後にゲートが出現し、それに向かって歩き出す。 「ま…待つデヅ……」 「君達の感情の変化は実に愉快だったがどうにもワンパターンでね。飽きるのも早かったよ」 振り返ることもなくそう言い放つと男の姿は消えてしまった。去ったのだ。 「デヒャ…ヘ……パ…プ…ヒャ………」パキン 実装石は誰にも知られることもなく、他の大半の同族と同じように誰にも気遣われる事もなくこの世を去った……。 「さてと、次はもっと面白いものを見つけられると良いなぁ」 そして男は既に去った世界に未練はなく、新たな出会いに期待するのみだった………。

| 1 Re: Name:匿名石 2023/05/01-12:09:05 No:00007116[申告] |
| そうか、自分で怪獣を用意して倒して人気を稼ぐ腹黒
ハイパーマンは居なかったんだな良かった。 |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/05/03-09:47:52 No:00007119[申告] |
| 倒したあとのアフターケアも完璧とか素晴らしいヒーローじゃないか! |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/05/03-14:42:16 No:00007120[申告] |
| でかくなっても
じっそうはじっそうなんだなあ じそお |