「デェェェェェェェェェェェェェン!!デェェェェェェェェェェェェェン!!」 公園のベンチの上で禿裸の実装石、エメラルドが泣き続ける。 無理もない。 今日この公園にはエメラルドの友達となる実装石を探しに来たのだが候補になりそうな連中は目の前で全滅した。 しかも最後に残った仔実装は不慮の事故によって失われたのだ。 「まいったなぁ」 泣き止まないエメラルドを脇に頭をかく。 候補が全滅した以上帰宅がルールだったがエメラルドが泣き止まないのは問題だ。 それに最後の仔は一応条件をクリアしていたが完全な不可抗力で死んだ。これをどう考えるか…。 「…もう少し探してみるか」 しばし熟考した後そう言って俺はエメラルドを掬い上げて他の実装石を探すことにした。 先程の様子を生垣から観察していたものがいた。 同族達の勢いに気圧され、出てくるタイミングを逃した成体実装石だ。 男が餌をばらまくと同族達が大挙して押し寄せ、何と自ら服や髪を捨て始めたのだ。これから寒くなるというのにそんなことをしては凍死確実だ。ましてや汚ならしい禿裸などニンゲンが飼ってくれる筈もない。 そんな疑問を解消する暇さえなく、今度は殺し合いが始まった。 「デェェ…いったい何をやったんデスあのニンゲン…」 距離があって声は聞こえなかった。 だが男がなにかをやったであろうことはあまり頭のよくない実装石でも理解できていた。 「とりあえずはやく帰るデス…」 あのニンゲンからは敵意は感じなかったが積極的に関わるべきではないと考えダンボールハウスへと戻る事にする。 姿を見られなければ危険はないだろうという考えと仔実装が心配なのだ。 なにせ自分のハウスはあの男が入ってきた公園の入り口の比較的近くなのだから…。 「長女ー!」 走りながら声を上げる。すると答えはすぐに帰ってきた。 「ママー!」 ダンボールハウスから飛び出してきた仔が一目散に駆け寄ってくる。 あれほどおウチから出てはいけないと教えたのに、と自身の呼び声が原因である事を棚に上げて考える。 この親仔、あまり頭は良くないようだ。 「大丈夫だったデス?何も無かったデス?」 「怖かったテチー。オバチャン達が沢山おっきな声出してたテチー」 どうやら仔実装は何があったのかを見たりはしていないようた。 「ずっとおウチの中で待ってたテチ」 「偉いデスー。お前は賢いデス」 胸の中に飛び込んできた仔を優しく抱き抱えて頭を撫でる。どうやら先程のダンボールハウスからの無断外出の件は忘れたらしい。 そんな長女は10匹ほどいた姉妹の中で唯一生き残った個体だった。 多少なりとも賢くなければとっくに地面の染みになっていただろう。 「あぁ、いたいた」 しかしそんな団欒を遮る声が響いた。 先程まで同族の殺し合いを眺めていたニンゲンだ。 「デデェェ!?」 「テチャァ!?ママー!」 仔を抱き抱え驚愕する。 まさかニンゲンに見つかってしまうとは予想していなかった。簡単に発見されないよう生垣の奥に住処を作っていたのに。 …前述した通りこの親仔のダンボールハウスは出入り口の近くにあり、なおかつ生垣は成人男性の腰上ほどまでしかない。 仮に生垣に接した状態でハウスを設置しておけば全くの無警戒であれば見つからなかったかもしれないが人間からしたらバレバレである。 「デッデッデェェェェェ!?」 絶対に見つかることはないと自負していた自身の家があっさり発見され混乱する。 馬鹿な。今まで干渉してきた人間など一人もいなかったというのに。 「驚かせて悪いな」 そう言ってニンゲンが生垣を回り込んでくる。実装石親子はと言うと突然ニンゲンに話しかけられた驚きで完全に硬直してしまっていた。 「な、なんの用デスッ!?ワタシ達はニンゲンに迷惑なんてかけてないデスッ!」 実際は公園に住み着いているだけで人間の生活圏への干渉であるしゴミを漁っては散らかしているだけでも十分に迷惑をかけているのだが頭の足りない親実装が気付くはずもない。 だがニンゲンはそれを咎めるでもなく親子へと語りかけた。 「だから驚かせて悪かったって。それより俺は君達を飼い実装にしようと思うんだ」 「デデェ!?」 「飼い…テチ?」 「そうデスー!飼い実装デスー!」 男の言葉に呆気に取られる親子を他所に禿裸の飼い実装が飛び出してくる。 「デデェ!?」 「ゴシュジンサマは優しいデスー!毎日美味しいゴハンをくれるデス!お風呂にも入れさせてもらえるデス!あったかい所で寝られるデスー!」 「デェェェ…!」 突如現れた禿裸に一度は驚くものの、その言葉に幸せな妄想が頭をよぎる。 毎日平和に幸せに暮らせる。そんな幸運は二度とない。これは日頃の行いが認められた証なのだ。 普通なら禿裸が飛び出してきたとなれば警戒するところだが頭の足りない親子ではそこまで考えが及んでいないので幸せ回路が全開だ。 「よ、よろしくお願いするデス!飼い実装にしてデスー!」 「飼っテチィ!飼っテチィ!」 ニンゲンさん、ゴシュジンサマに頭を下げると長女もピョンピョンと跳ねながらお願いする。 これからは贅沢三昧の薔薇色の生活が待っている。否が応にも期待は膨らむ。 「ただちょっと待って欲しい」 するとゴシュジンサマが手を前に出してそう言った。 「流石に行儀の悪い仔は飼えないからな。少し見せてもらっても良いか?」 「も、勿論デスゥ!」 「テチューン。ゴシュジンサマ優しくしテチィ」 早速長女を差し出すと長女も全力のアピールポーズでゴシュジンサマをメロメロにしようと子首をかしげて手を口許に添える。 掲げているのでよく見えないが完璧なポーズがキマったはずだ。毎日練習させた甲斐があるというもの。 それに自分達は他の野良とは比べ物にならないほど身だしなみに気を使っている。これは飼い実装は確実だ。 「デププププ…」 ゴシュジンサマが長女を受け取るとつい笑いが込み上げてしまう。なんにしても今日はとてもツイている日だ。 親実装を無視して仔実装を確認する。 手の中で無防備に媚びている辺り頭はあまりよくないようだ。 服や髪は比較的綺麗であり身だしなみに気を使っていることがうかがえる。 パンツは少し汚れているが許容範囲内だ。 「まぁ野良だしなぁ」 ただでさえ劣悪な環境であり、常日頃餓えや同族に怯えながら暮らさねばならない以上身だしなみには限界がある。 それでも服を汚さぬように出来ているのは野良としては評価が高い。 対して髪も多少はマシだがバリバリに渇き無軌道に絡み合っている。 「どうせ家に行けば禿裸だし関係ないか」 評価としてはまあまあといったところか。 頭は良くないようだが糞蟲かどうかは別の話だ。 その辺は時間をかけて調べれば良い。 「今度はお前が調べろ」 そう言って仔実装をエメラルドに預ける。 如何に良個体でもここで相性に問題が出ればアウトだ。 「分かったデス!任せてくださいデスゴシュジンサマ!」 自信満々なエメラルドに仔実装を面談させている間にタバコを一服。 「いいデス?ゴシュジンサマはおウチを汚したらとても怒るデス。いたいいたいを沢山するデス。汚さないように気を付けるデス」 「分かったテチ!キレイキレイするテチ!」 「特におトイレに失敗するのはダメデス。物凄くいたいいたいの上にゴハンも無くなるデス」 「テェェ…嫌テチィ。いたいいたい嫌テチ…ウンチ漏らしたくないテチィ…」 エメラルドの話に仔実装が答える。 この面談が問題なく終われば親子は飼い実装になる。 最初トラブルもあったが今度は問題なく終わりそうだ。様子を見ながらそんなことを思う。 「この仔は大丈夫デスゴシュジンサマー!」 そう言ってエメラルドが手を振る頃にはタバコは半分ほどの長さになっていた。 飼い実装の心得を教えるには短い時間だが実際にその場で実践させてみなければ分からないこともある。そう考えればひとまずは十分だろう。 「さてと。仔が問題ないようなので次はお前だが…」 そう言って親実装に振り向くといつの間にか四つん這いになり殺気立つ親がいた。 親実装は精一杯威嚇していた。 「危ないところだったデス。まんまと騙されるところだったデス!」 やはりニンゲンは信用ならない。自分でなければあっさり騙され地獄へ連れていかれるところだっただろう。 「どうしたんだお前?なにかあったか?」 「ふざけるんじゃねーデス!なにが飼い実装デス!そんなものこっちから願い下げデス!」 「デデェ!?」 「テェェ!?」 突然の親実装の変貌ぶりにはエメラルドも仔実装も驚くしかない。 しかも親実装の奇行はそれだけに留まらない。 「お前もボサッとしてんじゃねーデス!早く抵抗するデス!」 「で、でもママ…」 「さっさとしろデス!殺されるデス!」 「ッ!」 殺される。その言葉に訳もわからないまま仔実装はエメラルドの腕へと噛みついた。 飼い実装にはなりたいが今までずっと一緒にいた親が鬼気迫る表情で警告したのだ。断る理由はなかった。 「デヒャァァァ!?」 エメラルドが突然の痛みに慌てて手を離す。その腕には血が滲んでいた。 「エメラルドッ!」 「テチャァァァァ!!」 男が声をあげ、仔実装が悲鳴をあげながら親の元へと走る。 だが男の動きの方が僅かに早かった。 「この糞仔蟲っ!エメラルドに何しやがるっ!」 親実装が仔実装を抱き抱える寸前にスライディングキャッチし、そのまま下半身を握り潰した。 「テジィィィィ!!」 「デギャァァァァァ!」 目の前で仔が半分になるのを目の当たりにした親実装も絶叫する。 しかし男の怒りはまだ収まらない。感情に任せて立ち上がるとタバコを放り捨てて火を踏み消す。 「デデッ!?」 その様子に何故だか親実装は一瞬硬直した。 防御するタイミングすら失い、親実装の眉間に男の爪先が突き刺さる。 「デヴェチョッ!」 体は一瞬で吹っ飛ばされ、勢いそのままに背中から樹木へと叩き付けられた。 地表10cm程の高さに張り付いた背中を預けたままズルズルと地面へと落ちていく。 「デギャッヴォォォ……!」 直撃を受けた鼻は陥没し、それに伴って目が引っ張られ兎口はより細長い形へと延びまるで顔のパーツ全てが中央に引っ張られたような造詣へと様変わりした。 後頭部も裂けて血がだらだらと溢れている。 「デギョギョ…ドゥエ…ドゥスゥゥゥ……」 落ちそうになる右目を支えながら奇怪な鳴き声を放ち、ヒクヒク動く鼻の穴からは止めどなく血がこぼれ出す姿は汚物そのものだ。 「行くぞエメラルドッ!こんな場所で仲間を探すのが間違いだったんだ!」 「デェェェェェン!デェェェェェン!」 そんな汚物を無視してエメラルドを抱き抱えると男は公園を去っていった。 瀕死だが、親実装はなんとか生き延びることができた…。 男が公園を出ていくと、親実装は仔実装の元へと這いずり寄った。 「ドゥ…ドゥスゥゥゥ…」 「テヒィ……テヒィ……」 苦労しつつも抱き抱えるとまだ息をしている。だがもう虫の息であり助かりようがないことは親実装の目からも明らかだった。 「じっかウィ…じっかウイするドゥスゥ…」 「マ、ママァ……あのニンゲンサン…悪いヒトだったテチィ…?」 「ぞ、ぞうドゥス…ヴァの白い棒が証拠ドゥスゥ……」 あの煙の出る白い棒は自分達を痛め付けるためのもの。それを取り出した以上さっきのニンゲンもいいニンゲンではない。というのが親実装の言い分だった。 「でもあのニンゲンサン…捨てたテチ…白い棒で…なにもしなかったテチ……」 「わ、分からないドゥスゥ…でヴォ…あの棒は……」 「デププププ」 すると何処からか笑い声が聞こえてくる。振り向くとそこには自分達を嘲笑う野良が立っていた。 「お前は本当に馬鹿デス。あの白い棒はタバコというデス。ニンゲンにはあの煙がウマウマらしいデス」 「う、嘘ドゥスゥゥ…!ワタシはあの白い棒でオジリを火傷させられたドゥス!」 痛みも忘れて野良の言い分に慌てて反論する。 かつて親実装は公園に来た人間に虐待された。 というのも親実装の方が人間の前で糞をし始めたので怒った人間にタバコを押し付けられたというのが事のあらましである。 その際は火傷の痛みで再び糞を漏らし始め、それが人間の服にかかったので慌てて退散していったので九死に一生を得たのだった。 「デププププ。熱くなるからギャクタイに使うニンゲンもいるだけデス。ワタシ達に供物を寄越すニンゲンにもタバコをしてるニンゲンはいるデス。注意力皆無デスゥ」 「ドゥ…ドゥエェェェ…」 あまりの事実に絶句する。言われてみればばらまかれた餌を集め、お礼を言おうと顔を上げた時に煙が見えたことがあった筈だ。 さっきのニンゲンは、本当にいいニンゲンだったのだ。 今更になって親実装は自身が致命的な過ちをおかしたことを思い知らされた。 「マ、ママ…」 「なんドゥス…ママはここにいるドゥス…!」 我が仔の口許へと耳を近づける。 これが最後の言葉になるかもしれない。一字一句聞き逃してはならないと全身全霊を掛けて耳へと神経を集中させた。 「ママの、ママのせいテチ…」 その言葉を聞いて親実装が目を見開く。 まったくの予想外の事態に息をするのも忘れて立ち尽くす。 「ママのせいテチ…ママのせいテチ…ママのせいテチ…ママのせいテチ…」 否定したくても出来ない。 あのニンゲンの実装石は禿裸ではあったがよく懐いていて、明らかに待遇もよかった。 ツヤツヤの肌。シミのないパンツ。楽しそうな笑顔。 どれを取っても幸せな実装石そのものだった。 その生活を放棄しただけでなく、愛しい我が仔の命を奪う結果まで招いたのは間違いなく自分自身だった。 「ママの…ママの……」パキン 絶対に聞き逃させないと必死に恨み言を吐く仔実装はやがて息絶えた。 どんなに飢えても、どんなに汚れても、どんなに苦しくても文句ひとつ言わなかった仔実装の一斉一代の恨み言だった。 「デププププ。まったくその通りデス。馬鹿な親を持つと苦労するデス。デププププ」 実に愉快そうに嘲笑しながら野良実装は去っていった。 ただ一匹残された親実装は仔実装の亡骸を抱えていつまでもそこに立ち尽くしていた………。

| 1 Re: Name:匿名石 2023/04/23-15:04:17 No:00007082[申告] |
| 人間様の慈愛と糞蟲の愚かしさの塩梅が最高だったデスー |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/04/23-15:37:09 No:00007083[申告] |
| まさか続きを書いてくださるとは思いませんでした。ありがとうございます! |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/05/15-23:31:11 No:00007170[申告] |
| 嘲笑ってる糞蟲はあの騒動の被害受けてない辺り糞蟲だけどしっかりニンゲンの行動や普段使ってる物を理解してる賢い部類なんだろうな |