「今日こそ憧れの王子様に買われるテチ」 ショップで売られているその仔実装はそう意気込んでいた。 彼女の言う王子様とは、この店によく来る常連客のことだ。 その客は実装石の目から見てもハンサムな顔立ちで気品すら漂わせていた。 その王子様は売られている仔実装をおおよそ週一度のペースで買っていくお得意様だった。 それだけ頻繁に仔実装を買うということは熱心な愛護派だとこのショップの実装石たちの間で噂されていた。 きっと広くて豪華な家で毎日美味しいものを食べて楽しく幸せいっぱいに楽園のような暮らしをしているのだろうなあ、 いつしかその王子様に買われることは彼女たちの目標となり、憧れ、そして夢になっていた。 テッテレ~♪ 「いらっしゃいませ~」 店の入口自動ドアが開くと同時にチャイムが鳴り店員が挨拶をし来客を知らせる。 「き、来たテチィ!」 「テッチャアアア!王子様ぁ!ワタチ!ワタチはここテチ!」 「見テチ!こっち向いてテチィィ!」 「テッテッテテテテッ(チューン!)テテテテッ♪」 件の王子様が来店したのを確認するとケージの売られ実装石たちが騒ぎ出し、あの手この手で自分をアピールをする。 「待っテチ!こっち見テチ!」 「ワタチ!ワタチを飼っテチィィ!」 「待っテチ?飼っテチ!待っテチ?飼っテチ!」 手前のケージには目もくれずズンズン奥へ進み、そして冒頭の仔実装のいるケージの前で立ち止まる。 「テチャアアア!チャンステチ!王子様!ワタチ!ワタチを飼っテチ!」 一生懸命に習った踊りを披露しアピールする。 仔実装は踊りに夢中で気づいていないが、王子様と店員が何事か会話をやり取りしている。 数分後、仔実装は踊りに夢中になっていると不意に店員に持ち上げられた。 「よーしもういい、おとなしくしろ。お前はめでたくあちらのお客様に買われることになった。粗相の無いようにするんだぞ」 「テ、テッチャアアアアア!やったテチィ!これでワタチも王子様の飼い実装テチィ!!!」 念願の飼い実装、しかも憧れの王子様のだ。これ以上の喜びはないかのようにはしゃぐ仔実装。 「分かったからおとなしくしろ。ここまで来てキャンセルされたくないだろ?重ね重ね言うがくれぐれも粗相の無いようにな」 店員が念入りに忠告をする。 「はいテチ!ワタチ幸せになるテチィ!」 忠告を聞いているのか聞いていないのか…若干怪しいが、新品の服に着替えさせられお持ち帰り用の支度を整え、客へと渡される。 ヒソヒソ…ヒソヒソ… ケージのある実装石コーナーの方からひそひそ話が聞こえてくる。 「チッ、気に入らねえテチ」 「なんであんな糞蟲が」 「ワタチの方が何百倍もカワイイのにおかしいテチ」 口々に漏れる嫉妬の声、普段ならば聞くに堪えないが… (チププププ!ざまあみろテチ!お前らなんかよりワタチの方が偉いんテチ!カワイイんテチ!選ばれたのがその証拠テチ!ワタチは一足先に楽園に行ってるテチ、 お前らは一生そこでくすぶったまま処分品にでもされちまえテチャア♪) その声もいまや仔実装にとっては自分を称え祝福する合唱曲だ テッテレ~♪ 「ありがとうございました~。またのお越しをお待ちしております」 退店のチャイムが鳴り王子様に抱えられ帰路へつく。 (チププププ、お家に着いたらまずはポカポカお風呂テチ?それからゴハンテチ。寿司!ステーキ!金平糖ォォォ!当然全部山盛りテチ!まずはお腹いっぱい食べるテチ! 食べきれなかったらウンチにするか吐き戻してお腹を空けるテチ!それでまたお腹いっぱいに食べるテチ!そしたらまた吐き戻すテチ!飽きるまで何度でも繰り返すテチ!それからそれから…) 「あー、君、君、聞こえているかい?」 仔実装がこれから行うであろう贅沢な妄想にふけっていると、現実に我に返る。王子様が語りかけてきていたのだ。 「え?あ、はいテチ!一生懸命やるテチ!」 聞こえていたフリをしようと適当な返事をする。 「そうかい、それは良かった。きっとお友達も喜ぶだろうね」 (…!お友達!?) そうだ、忘れていた。先に王子様に買われていった先住石たちがいるのだった。 ということはこの王子様の愛情や興味、与えられる食べ物や物品までそいつらと分け合うことになるのか。 そうと分かればなんだかつまらなくなってきたな… 仔実装が頭の中でトーンダウンするかと思うと、一転して笑みに変わる そうテチ、自分がそいつらのボスに君臨すればいいんテチ。そして邪魔者は退場してもらえばいいんテチ。 今はまだ幼体だが、やがて成体になる。力づくで始末するも良し、王子様をたぶらかして排除するも良し、そしてゆくゆくは王子様の寵愛を受け子供も…テックックw 仔実装が自分勝手な実生計画(実生=実装石の人生)を練っていると王子様の邸宅に到着する。 広くて綺麗な明らかに金持ってそうな立派なお屋敷だ。 (き、期待以上テチ!これ全部ワタチのものに…) 「まずはお風呂にしようねえ」 敷地内を進み離れにポツンとある一軒家に入る。おそらくこの王子様専用の建物だろう。 玄関をまたぎ浴室に入る。 「着いて早々で悪いけど、お風呂にするよ。君もお友達の前に出る時、みすぼらしい格好や体臭を出していたら恥ずかしいだろう? ぼくは君を迎える支度があるから、一人で綺麗にしててくれ。出来るね?」 「は、はいテチ!一人で出来るテチ!」 「よろしい。この実装石用お風呂にもう湯を張ってあるから使ってくれ。シャンプーとかはここ押したら出るから。それじゃあ」 パタム そう言って浴室のドアが閉じられる。 いきなりの放置、洗ってくれるんじゃないテチ?一人で出来るとは言ったがお世話してほしいテチ そう文句を垂れそうになったがある可能性に思い至る。 ハッ、もしかしてワタチが魅力的すぎたんテチ?好き避けってヤツテチ?それとも乙女への配慮テチ?この柔肌をさらすのはまだ早すぎるのには同意テチ、チププw またもや幸せ回路が回転し上機嫌で体を洗い入浴に恍惚となる。 「テ~、ポカポカお風呂気持ちいいテッチュン♪」 思えばこれまで入浴なんて他の実装石と一緒くたに入って教育係に見張られながらやるものだった。 粗相をしたらアウト、他石と争いをしてもアウト、体を洗うのが不十分でもアウト…気が休まるものではなかった。 「テ~レ~テ~レ~テッテテテッ♪」 思わず歌でも歌いたい良い気分だ。これが楽園…いや、まだまだ序の口だ。これからもっと良い思いをするんだ。 ガチャリ! 「もう済んだかい?そろそろ上がってくれ」 「テヒャア!?」 反射的に両腕で肢体を隠し恥ずかしがる仔実装 「何をやっているんだい?早くしてくれ」 そう言いながら王子様は浴室に入ってきて仔実装を掴み上げて持っていたバスタオルでわしわしと拭く。 あ、あれ?何かおかしいテチと思いながらされるがままとなる仔実装。 仔実装は一糸まとわぬ姿のまま部屋の真ん中に佇んでいた。 目の前には巨大な水槽が設置されていた。が、不思議なことにベールに包まれている。水槽の中がどうなっているのか見えない。 ここに先住石たちが?もしかしてこの水槽の中で暮らすことになるのか…落胆する仔実装に王子様が語りかける。 「お友達はこの中さ。君も今からこの中に入ることになる。仲良く出来るね?」 「今からテチ!?あ、あの…先にオクルミをお願いしますテチ。このままじゃ恥ずかしいテチ」 服を要求する仔実装。しかし… 「ぼくが飼っているものは皆裸で服なんて着てないから平気さ。逆に君だけ服を着ていたらおかしいだろう?さあお友達とのご対面だ」 「テ、ちょ、待っテチ…」 水槽を包むベールを剥がし、そっと水槽の中に降ろされる仔実装。 水槽の中はやけに蒸し暑かった。地面には湿った土が敷き詰められ、木片や植物が配置され加湿器と白熱球で高温多湿に保たれていた その環境はまるで熱帯のジャングルの様─ 仔実装が水槽の環境に困惑していると、それが目に入った。 身の丈2メートルはあろうかという巨大な蛇が舌をチロチロ動かしながらこちらを見ていた 「テ…」 ドッ 水槽が軽く振動する。 それは一瞬のことだった。傍目から見ていた王子様でもそうなのだ。当の仔実装には何が起きたのかさえ分からないだろう。 仔実装のあるのかどうか分からないような首筋に深々と蛇の牙が突き刺さっていた。 そして素早く仔実装に巻き付き、頭を除いた全身を圧迫する メキメキペキポキビキビキ 耳の奥から自分の骨が折れていく音を聞きながら仔実装は声もなく絶叫した (ヂイイイイイィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!) 絶叫したいが口から出てくるのは泡混じりの血がゴボリと出ただけだった。 (何でテチ!?何でテチ!?痛いテチ!苦しいテチ!何でワタチがこんな目にあってるテチ!?王子様!王子様ぁ!!) 仔実装が唯一動かせる眼球をギョロギョロと動かし庇護者を探す。 視界に捉えることが出来た憧れの王子様は笑っていた。今まで見た笑顔で一番の笑顔だ。 そのハンサムな顔が弱者を嘲笑う悪意に満ち満ちたものへと変わっていた。 (何で笑っているテチ!?何がおかしいテチ!?早く助けテチ!苦しいんテチ!死んじゃうテチャアアア) 助けを懇願するが口からはコポコポ泡混じりの血が吐き出されるだけだ。 蛇が大きく口を開き、ゆっくりと目の前に近づいてくる。 仔実装の視界いっぱいに蛇の口内や喉が映る。蛇の体内から生臭い匂いが漂ってくる。 「その中が君の新しいお家だよ、お友達と仲良くしてくれよな。ああそれと粗相はするなよ」 仔実装の視界が闇だけになる。体がどんどん蛇に飲み込まれていく。 全身の骨が折れているためわずかな動きも激痛となり動けない。 やがてすっぽりと全身が蛇の中へ収まる。 (何でテチ) (ワタチは選ばれたはずテチ) (ワタチは幸せになるのが約束されたはずテチ) (こんなのおかしいテチ) (臭いテチ、苦しいテチ、痛いテチ) (何でテチ、何でテチ、何でテチ!) (ワタチはカワイイんテチ!だから選ばれたテチ!そのワタチをこんな目にあわせてただじゃおかないテチ!) (ワタチが選んでやったのに生意気テチ!お前の仔なら産んでもいいとさえ思ったのに裏切ったテチ!このワタチに奉仕する権利を手放すなんてバカテチ!大馬鹿テチ!) (ああかゆいテチかゆいテチ!かゆすぎるテチィ!許さないテチ!) (…チクチクしてきたテチ) (テ、テ、テ、テヂャアアアアアアアアアアアアア!) (熱いテチ!!溶けるテチ!) (ごめんなさいテチ!さっきのは嘘だったテチ!冗談テチ!だからさっさと助けろテチャアアア!!!) はじめは痒み、そして刺すような痛み、皮膚が侵食されやがて燃えるような痛み 消化液によって溶かされるとはどういうものかの感想だ。 仔実装の脳に埋め込んだチップが今何を考えているのかを送信し王子様が持つ特殊リンガルによって拾い上げる。 実装サトリ。 それは実装石の思考、今何を考えているのかをリンガルのように拾い上げる機械だ。 はじめは実装石の本当の気持ちを知り、より良好なコミュニケーションを実現するという愛護派向けに開発された製品だった。 しかしあまりにも実装石の醜悪な本性を赤裸々に暴き出してしまうため数台限りで生産打ち切りとなった、世に出回っていない機械である。 この王子様はそれを財力にものを言わせ入手したのだった。 種明かしをしよう、この王子様はこうやって仔実装を買っては蛇などに食わせてその様子を楽しむを繰り返す趣味を持つ異常者だったのだ。 さらに冒頭のショップも実装石専門店ではなくあそこにいるのは生き餌用、虐待用の消耗品実装石だけだったのである。 店側もこの王子様が購入した実装石を虐待で消耗しているのを承知しており黙認していた。 経営難だったショップに援助し立て直したのがこの王子様だったからだ。 寝ているスキにチップを埋め込む、偽石を摘出する、適度に教育し躾を施すというのも王子様の命令とあらばというわけだ。 (ゲボォ) ご存知の方も多いだろう、蛇は吐き戻しをする 「テ…ヂ…」 かろうじて息のある仔実装が2日ぶりに日の目を見る。しかし眼球は消化液に侵食され失明している。 「よしよしエライぞぼくのウロボロスちゃん」 王子様が蛇をナデナデする 「やあ仔蟲ちゃん、生きてるかな?生きてるよねえ?何何?『助けてくださいテチ、もう許しテチ』?おいおい人聞きが悪いな、ぼくは君の願いを叶えてあげてるんだぞ?」 (…テ?) 仔実装はもう言葉を話せない状態だが実装サトリにより思考を読まれていた 「君確かこう思っていたよね」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 『まずはお腹いっぱい食べるテチ!食べきれなかったらウンチにするか吐き戻してお腹を空けるテチ!それでまたお腹いっぱいに食べるテチ! そしたらまた吐き戻すテチ!飽きるまで何度でも繰り返すテチ!』 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ リンガル読み上げ機能で音声が再生される 「…ってね。たっぷりと味あわせてやってくれ。」 (違うテチ、食べるのはワタチテチ。食べられるなんて思ってないテチ) 「ええ~ウソだあ!こうも言ってたぞ」 会話ログが再生される ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「ぼくのペットの食事になってくれるけどいいかな?」 『テプ、テププププ』 「あー、君、君、聞こえているかい?」 『え?あ、はいテチ!一生懸命やるテチ!』 「そうかい、それは良かった。きっとお友達も喜ぶだろうね」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「おやおやおや~?ちゃんと言ってるじゃないか。これが動かぬ証拠だよ」 (ウ、ウソテチ、ウソテチ、こんなのおかしいテチ) 「ま、そういうわけだから第2ラウンド行こうか。まあこれでお別れだろうけど短い間ではあったけど楽しかったよ、それじゃあ」 (待っテチ!話を─) 王子様はリンガルの電源を切った。 ウロボロスちゃんが再び仔実装を丸呑みにする。 2メートル級蛇の消化時間は蛇の種類とエサの大きさにもよるが6~12日だそうな… ~オワリ~ ****************************************************** あとがき 蛇飼ったことないし蛇博士でもないので色々間違ってるかもデス 元々は実装石の日常シリーズ「待合室」が好きで食われる間際の仔実装の描写にフォーカスをあてたものを自分が見たかったのがこのスクの始まりデス 蛇に食われるネタはけっこう先駆者がいたらしいデスね…15年くらい前に読み漁ってたのに忘れてるデス たまたまタイトルがこうなっただけでテニプリネタは皆無デス 過去作 冬の温もり 限界耐久籠城ピクニック 待っテチ飼っテチ

| 1 Re: Name:匿名石 2023/04/22-00:28:24 No:00007073[申告] |
| 新生活に期待いっぱいだったのに実装ちゃん可哀そうすぎるだろ(笑顔 |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/04/22-04:48:13 No:00007074[申告] |
| 躾済みの割にアレな個体多いと思ったら活き餌専用で何か腑に落ちた
糞さえ何とかすれば冷凍ネズミくらいの需要はあるだろうし躾け落伍者の飼料処分としはありかも。 待合室は隠蔽されてた絶望が露呈する感じと悪足掻きからのループが良作でしたね |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/04/22-10:55:57 No:00007076[申告] |
| 生き餌実装にわざわざ躾するのか・・・と思ったけど上げ落としの上げなのね
上げるのはイライラするから外注するのは良い手段 |
| 4 Re: Name:匿名石 2023/04/22-18:51:01 No:00007077[申告] |
| チューンが入っている+100点
ママとかゴシュジンサマとかが多い呼び名ですが、王子様はなかなか新鮮! 王子様スマイルでうまく拾ってるし面白い 偽石読み取り型リンガルのある世界じゃなくて、脳にチップを埋め込むという手間を取るのも王子様の性格が滲み出ててよかった すごく好みの作品でした。よければまた書いてくださると嬉しいデス〜 |
| 5 Re: Name:匿名石 2023/04/23-02:54:11 No:00007079[申告] |
| 生き餌にも気を使うなんて良い飼い主なんだ |
| 6 Re: Name:匿名石 2023/10/19-08:26:50 No:00008132[申告] |
| 糞蟲ざまあ!スカッとしました |