実装ホテルを開いていると当たり前のことだが、実装石の食料が必要になる。 今日もボロのママチャリをこぎ、近所の実装ショップに向かう。 店の規模としては小さいが、品揃えは良く餌や遊具も豊富なので、人気はあるようだ。 と思っていたのだが、店の入り口に『閉店セール』の紙が貼ってあったので俺は驚いている。 「あ、「」くんじゃないか」 店の中から声が掛かる。この店の店長だ。 実装ホテルを開いてから、この店長は色々と商品をおまけしてもらっている。 「店長、閉店セールって貼ってあるけど」 俺の質問に、店長は指をさした。その指の方向を見て俺は思い出した。 「そうか、そろそろ出来るんだったか」 俺の視線の先にある大型のビル。 何も知らない人が見るとデパートと勘違いしそうな建物は、大型の実装ショップである。 実装シリーズの研究組織『実装生物研究連盟』。 通称『実連』を中心に、実装グッズを扱う企業たちも協力した最高峰のショップになる予定らしい。 そして数日後、ショップ開店日。 俺はショップを観に来て予想以上の人の多さに驚く。 実装に興味のある一般人から、愛護派集団、虐待派の見知った顔も見える。 「出直すか……」 元々、下見くらいと思っていたので帰る。 というかこの人の群れに入っていくのは無謀だ。 そして1週間後。 開店初日に比べればいくらかマシな店に入る。 「いらっしゃいませー!」 実装ショップとは思えない綺麗な服を着た店員たち。 しかも、入口すぐにしてはやけに多い。 「この店では、お客様を私たち1人1人が案内するんですよ」 近くにいた女性店員が説明する。初日の人の多さは案内役不足か? そんなことを考えつつ、俺も目の前の店員に案内されることになった。 最初に案内されたのは当然実装石売り場だ。 その辺の実装ショップにはないだろう大きなケージに、実装石たちの姿が見える。 手前のケージはメインの商品であろう仔実装と親指実装のケージだ。 広いケージを駆け回っている。こちらに気づいても媚びずに礼をする。 このごろ少し虐待派に戻りかけてた俺でも、可愛いと思える。 その先にも仔実装のケージ。 ただ、さっきのケージの仔実装に比べると少し大きく、値段も安めだ。 それでも躾はきちんとされているし、野良の仔実装より断然いいだろう。 その次のケージで俺は驚いた。中実装、成体実装だ。 場所をとる、食費、売れないなどの理由から成体は処分されるのがほとんどだ。 だがここでは普通にケージで過ごしている。 「ここにいる成体たちはペットよりも手伝い用が主ですね」 店員の言葉に納得する。そうだ手伝い実装って手があったな。 「お、獣装石か」 突き当たりのケージには……珍しいな獣装石たちのケージだ。 毛がきちんと整えられてあり、こっちの方がペットっぽい。 「この階は以上になります。 あ、蛆実装や他に何かあれば私たちにお願いします」 特に今はいいので2階へ。 2階は他実装コーナーと書いてある。 「ボクー」 「ボクゥ」 2階で最初のケージにいるのは実蒼石たち。 鋏の手入れをしているものや、素振りをしているのもいる。 さすがに実装石よりも数が少ないため成体と子供が一緒に入っている。 と、よく見ると蛆実蒼までいる。実装石以外の蛆は珍しい。 「ダワ」」 「ダワ?」 次は……実装紅か。 紅茶の扱いとかに気を付けないと糞虫化しやすいって聞くが……。 いや、でも、普通にお嬢様って感じで可愛いかもしれない。 「ルトー」 「ルトー」 実装燈は……なんだろ、虫の群れみたいだ……。 というか実装燈って実装石に卵産んで増えるんだろ? こんなに増やすのに実装石の犠牲やばくね? 「ナノ!」 「ナノー」 実装雛は生体がはっきりしてないせいか、 小さくて可愛い奴もいれば、ちょっとでかくて実装石に匹敵するくらいちょっとキモいのもいる。 売れるのかこのでかさ……? 「カシラー」 「カシラー!」 珍しいな、実装金だ。 こいつも可愛いと言えば可愛いんだが、 躾が甘いと飼い主にも罠仕掛けてくるんだよな。ある意味糞虫か? 「オトウサマ」 「オトウサマ」 うわ! 雪華実装と薔薇実装がこっち見ている。 ここ明るくしろよ店員。ホラーだぞ。 すごい2階だった……。 その後はエサやグッズの売り場。 実連にもあった実装肉レストランなどを回り、見学は終わった。 さすがに何も買わないのはまずい気がしたので、ホテル用のエサを補充しておいた。 夕方、としあきから突然電話がくる。 「夜、21時に大型実装ショップにこい!」 とだけ。なんだよ……。 といいつつも行くしかない腐れ縁。 大型実装ショップにつくと、としあきは『遅いぞ』と言わんばかりに手招きする。 「こんな時間になんだよ。もうショップは閉まる時間だろ?」 「まあまあ、いいからついて来いって」 としあきはそう言うと、ショップの横の裏道に誘ってくる。なんだ? 「そっちは従業員口とかじゃないのか?」 「来いって!」 はいはい、いきますよ。 裏道を通っていると……ん? 変な場所に扉があるな。 としあきはその扉を普通に開けて入っていく。おい、いいのか? その扉からエレベーターに乗せられる。 「おい、いいかげん教えろよ」 「わかってるって、まあ、もう着くんだけどな」 エレベーターの扉が開く。 「っ!」 この匂い、実装石の糞、血、ありとあらゆる匂いが混じっている。 はっきり言える。この場所は……虐待派のエリアだ。 「ようこそ、『実装ショップ(裏)』へ!」 まるで自分の場所のようにとしあきは叫ぶ。 「あの実装ショップの裏側がこんなになってたのか……」 「そう! しかもここはれっきとした実連公認の場所さ!」 実連は虐待派にも商売しているのは周知の事実だったが、こんなのも作ってたのか……。 「よう、としあきじゃねえか。お前もよく来るなあ!」 「お前らこそな!」 虐待派仲間だろうか。数人の男に挨拶しながらとしあきは歩く。 「ヂィィィッ!!」 「デズゥゥゥ!!」 どこを歩いても、実装石の叫びが聞こえる。 「ボクゥ!!」 「デギャッ!」 実蒼に切り刻まれる、実装石の群れ。 「ルトー」 「デギャァァ!!」 実装燈に寄生され苦しむ親実装。 なるほど、他実装も売られていたのは、裏で虐待に使えるからか。 「と、思ってるだろ?」 「なんだよ。まだあるのか」 としあきはさらに奥へ俺を誘う。 「お前もただの虐待じゃ飽きただろ? いいもの見せてやる」 「ボクゥゥ!!」 「ダワダワ!?」 「ナノー!」 「カシラー!?」 「ルトー」 「オトウサマ?」 なんだ? 他実装の叫び声? 「見ての通りだ。こっちはな、なんと他実装の虐待エリアなんだよ」 おいおいマジかよ。他実装は……まあ個体によるが、基本的に実装石と違い人間と関わらない。 飼われているのは見たことあるが、虐待するのはめったに見ないぞ。 それに……。 「ボクゥッ!!」 「うぉっ!?」 「オトウサマ」 「いってっ!」 そう。特に実蒼石や、綺羅実装、薔薇実装は人間に匹敵する強さもいる。 ちょっと歯が丈夫くらいの実装石とは危険度が違う。 実蒼の鋏はともかく、綺羅薔薇の攻撃とか人間以上だし。 「冷静だなお前。珍しいの見せてるんだから少しは興奮しろよ」 「お前が興奮しすぎなんだよ。いつか痛い目見るぞ」 まあでも、昔は虐待派だったのも事実。少しくらい見ていくか……。 「ボ、ボクゥ!」 実蒼石は、目の前の男が持つ鋏を取ろうと跳びまわっている。 あの鋏はあいつの物なんだろう。取り返そうと躍起になっている。 が、やっぱり鋏がないと弱体化するんだろうか。 「ボギャッ!?」 殴られて床に叩きつけられた。 「ダワー!?」 その横では、実装紅のティーカップを奪ってる男が。 男はカップの茶を、実装紅を煽るようにゆっくりと飲んでいく。 実装紅の茶は本人かよほど懐いた者びしか渡さないレア物だ。 それをおそらく、見知らぬ男に取られれば、暴れもするだろう。 「ナノー!」 実装雛もぴょんぴょん跳ねている。 目の前には実装雛の好物『うにゅー(苺大福)』で釣りをする男が。 「ナノッ!」 お、実装雛がうにゅーに齧り付いた。 「ナノッ!?」 と思ったら落ちた。 いや、正確には違う。あれはおそらくわさび入りか何かだろう。 落ちた実装雛が口を押さえ暴れている。 「カシラー!?」 実装金は……自分の仕掛けた罠に逆に引っかけられた。 「ルトー」 実装燈は……はたき落された。 「オトウサマ」 うわっ!? 綺羅実装薔薇実装がいつの間にか横に!? 「ははっ、よかったな「」。お前懐かれてるぞ」 「いや、うちにはフカミドリとキミドリがだな……」 「まあ覚えてもらえるだけいいじゃねえか。何かあれば使えるかもだぜ?」 何かってなんだよ。 そんな景色を見終え、俺はショップ(裏)を後にした。 このしばらく後、俺はとしあきと決定的な別れをするのだが、それはまた別の話
