「ここだ。ここなら試せるんだ」 俺は休日を利用して人里離れた山奥に辿り着いた。 背負っていたリュックを下ろし中からある物を取り出す。 実装音叉。 発売直後に販売停止になり法で所有することすら禁止され 今では虐待派のコレクターアイテムに成り果て、アングラサイトなど陰で取引されている。 先日ボーナスをはたいて競り落としたこの音叉をどうしても試してみたくなったのだ。 飼い実装がいるかもしれない地域から離れ 山実装のコロニーがある場所を探すのにも多大な労力と時間が必要だった。 休日のたびにリュックを背負い名前を知らない山を渡り歩いた。 そして今日やっと目の前に山実装のコロニーを見つけたのだ。 「デデッ!?」 「デスデス…」 突如現れた俺の姿に山実装たちは困惑し警戒するそぶりを見せる。 俺ははしゃぎそうになる気分を抑え 山実装が逃げ出さないよう出来るだけゆっくりと動いた。 水筒の水で喉を潤し高揚を落ち着かせる。 「きれいに弾け飛んでくれ。この為だけにどれだけ苦労したか…」 足元にあった小石を掴み上げ音叉を構える。 不思議そうにこちらを見る山実装たち。 今からどうなるかも知らずに。 「くっふふ…。それっ」 キィーン おもわず漏れ出た笑みとともに小石で叩いて音叉を鳴らす。 「…デスゥ?」 「おっ…ぉ?。……あれ?」 おかしい 動画では鳴らした次の瞬間には一斉に弾け飛ぶはずなのに。 俺はキンッキンッと何度も音叉を打ち鳴らす。 「……?。デッ…デッデデッデー♪」 何も危害を加えられないことに加え、俺のことを優しい愉快な音楽家とでも思ったのか。 山実装たちはこともあろうに俺の周りに集まり始め 仔実装も親指実装も皆が皆、音叉の音に合わせて笑顔で唄い踊り始める始末だ。 「うそだ…うそだうそだうそだあああ!!!」 半狂乱で音叉を打ち鳴らすが結果は変わらない。 「どれだけ金払ったと思ってんだよぉ!偽者じゃねぇかああ!!」 どうなるかを知らないのは俺の方だった。 この音叉の出品者が今頃ほくそ笑んでいるであろうことを思うと 先ほどまで喜びで震えていた体が今度は怒りで震え始める。 「テェ…?」 「デスゥー?」 叫ぶ俺を見て再び困惑の表情を浮かべる山実装たち。 気が付けば俺は近くにいた山実装の目に偽者の音叉を突き立てていた。 「デギャッ!?」 「デェッ?デピャアアアーー!!」 「テェエーーーン!!」 その後は逃げ惑う山実装たちを捕まえては 思いつくままに木の幹に叩きつけ、石で殴り倒し、足で頭や胴体を踏み抜いた。 それから10分ほど暴れただろうか。 俺の周りにはもう生きた山実装は一匹もいなかった。 過程は違えどどうせ見る光景は音叉を使ったときと一緒なんだと自分に言い聞かせ俺は山を降りた。 人影のひとつも無いド田舎から古びたバスに乗り さらに電車を乗り継ぎ、住み慣れた町へと帰還する。 窓の外ばかり眺めていたはずだが、帰りの風景は何一つ覚えていない。 なんとなく寄った公園のベンチに腰掛け、リュックから出した音叉をまじまじと見つめる。 音叉の金属面に疲れきった俺の顔が歪んで映る。 「……ふっ。くっくっく…」 しょうもない。 勉強代にしてはちょっと高すぎやしないか。 自虐の笑みが浮かぶ。 「デェェ…?」 餌でもねだりに来たのだろうか。 いつの間にかこの公園に住み着いているのだろう薄汚れた野良実装がベンチの近くで俺を見ていた。 「悪いが今日はもうお前らの顔を見ても、何の感情も沸かないや」 力無く笑いかける俺を不思議そうに見てくる。 「食いもんは無いけど…これやるよ。ちょっと重いけど武器にでも使えるだろ」 見知らぬ野良実装に音叉を手渡し 重い脚を引き摺るようにして俺は公園を出た。 「デスゥ?」 人間から変わった形の棒を譲り受けた野良実装は 両手で持ったその棒をいろんな角度から眺めた後 とりあえず齧ってみたりペタペタと全体を触ってみたりした。 結局それが何なのかわからなかったが、とにかく人間からの貢ぎ物ということで 野良実装は汚い声で唄い短い脚でステップを踏み喜びを表した。 「デップップ〜!デッスデッスデススゥ〜ン♪」 キィンッ 踊っている最中にベンチの足に音叉がぶつかった。 その瞬間、この街にいた実装石は野良も飼いも分け隔てなく弾け飛んだ。 翌日の朝 あのあと風呂に入る気力も無く、そのままベッドにもぐりこんだ俺は出勤前にシャワーを浴びた。 新しい下着を身に付け、頭をタオルで拭きながらスマホで軽くニュースをチェックする。 「閣僚に不倫の疑い…大物女優ネットで炎上…。どうでもいいなぁ」 フリックしていくと一つの記事が目に留まる。 「F市で実装石が謎の大量死…?」 F市とはまさに俺が住んでいるこの街の事だ。 見出し文をタップし記事の内容を読む。 「○月○日午後6時ごろ、F市で実装石が大量に爆発、死亡するという事件が発生した。 警察は法律で禁止されている実装音叉という器具を用いた犯行と見ており、調査を進めている。」 まさかあの野良にやった音叉のことだろうか。 しかしあれは偽者だったはずじゃ? 「しかし不思議なことに今回の事件では一部の実装石は何の害も無く生き残った。 これは家庭で飼われている実装石のみならず野生の実装石も同様であるとのことだ。 音叉が使用されたのなら、実装石はすべての個体が軒並み被害を受けるはずだ。」 生き残った…? あれが本物だったとして、いったい何がどうなっているのか。 「専門家の話によると『音叉というものはそれぞれが設定された周波数があります。 高級なものほどブレが無く設定どおりの周波数が出ます。 市場に出回った実装音叉は多くが安価で、出す周波数もブレの幅が広い。 ですが今回使用されたものは恐らくは安価なものではなく特定の性質を持った実装石だけを狙うことの出来る いわゆる規格外の超高級品でしょう。市場には出回っておらず私も話に聞いただけで実物を見たことはありませんがね。』 ということのようだ。」 そこまで記事を読んで、はっと気が付いた。 忘れていたわけではなかったが、そういうことだったのか。 確かにあの実装音叉にはなんの説明文も無くただ“糞蟲殺シ”とだけ銘打たれていた。 俺は慌てて服を着て家を飛び出した。

| 1 Re: Name:匿名石 2023/04/05-08:43:23 No:00007011[申告] |
| 高級飼い実装やお手伝い実装の選別に企業の製造ラインに置かれてそう |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/04/06-03:50:50 No:00007012[申告] |
| 山実装にも村八分を恐れて不承不承に群れに従ってるだけの糞蟲も一定数いそうなもんだけど
男が運が悪かったのか何なのか、結果として町がしばらく糞蟲被害が無くなっったならいいか |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/04/09-04:10:35 No:00007017[申告] |
| 懐かしの実装音叉!周りに集まって踊りだす山実装が可愛いなあみんな死んだけど…
公園周辺の飼いまで含めて爆破するのはそりゃ禁止になるわ 実装に渡した音叉が発見されてしまったら指紋等で男が罪に問われそうだ |
| 4 Re: Name:匿名石 2023/04/11-02:45:18 No:00007034[申告] |
| 糞蟲殺しって凄い銘品デス |
| 5 Re: Name:匿名石 2023/04/17-12:28:41 No:00007056[申告] |
| 悪だけを斬る刀みたいでかっこいい |