タイトル:【虐 狂】 こどくのゆくすえ
ファイル:こどくのゆくすえ.txt
作者:13年越し 総投稿数:7 総ダウンロード数:1166 レス数:6
初投稿日時:2023/04/01-00:59:08修正日時:2023/04/01-19:26:59
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大きな衣装ケースの中に隙間なくみっしりと入れらている実装石たち。
成体から仔実装、親指や蛆まで、まるで規則性もなく、ただ詰め込まれている。
その数、40匹以上。

敏明は数日に一度、ケースの上蓋を開ける。満足そうに中を見渡した。



「テジャアアア!!狭いデス!!臭いデス!!餌を寄越すデスクソニンゲン!!」

「苦しいテチャア!潰れるテチャァ!助けテチ!助けテチ!ニンゲンさん!ママァ!ママァ!」

「蛆チャン!?蛆チャーン!?ウンチいっぱいで汚いレチャ!踏まないでレチャアアア!!」

「プニプニしてほしいレフー。にぎやかでウンチあったかいレフー。楽しそうレフー」

中は実装石たちの海と化していて、また際限なくひり出された糞の海でもあった。



水も餌もトイレもない。
そもそも足の踏み場もない。

寝ることもできない。
倒れることさえできないのだ。



「動けないデス。お前らちょっとどけデスゥ。どかない糞蟲は頭から食ってやるデス!!」

「テチャア!!動けないテチ!食べないでテチ!食べないでテチ!オバチャンやめて許しテチ!ママァー!!」

「蛆チャアアアア!踏まないでレチ!潰さないでレチ!死にたくないレチャアアアー!!」

「オネチャぺちゃんこレフー。すごいレフー。おなかすいたレフー。プニプニしてほしいレピャッ」

当然のように、小さく背の低い蛆や親指たちのほとんどは潰れ、溺れてもう死んでいるし、
或いはほかの実装石たちの腹の中に収まってしまった。



ケースの中、みっしり詰まった実装石たちは毎日毎日絶望の悲鳴を上げながら、
ただ糞を垂れ流し、糞を舐め、助けを求め、共食いをしている。



「糞と死体が邪魔デスゥ。生きてる糞蟲も邪魔だから食べるしかないデスゥ。ゲプッブハァ」

「デカブツでも動けないデブになんか負けないテチ!食ってやるテチ!みんな協力するテチ!」

「デギャアア!?仔実装が親を食べてはいけないデス!やめるデス!絶対悪いデス!デス!デs」

「お前はママじゃないテチ!ワタチたちはこんなとこで死んではいけないテチ!生きるテチ!」

「生きるテチ!生きのびて自由になるテチ!公園にママのもとに帰るテチ!!」

「生きるテチ!ワタチは飼い実装になるテチ!スシやステーキ食べ放題のセレブになるテチ!!」

「生きるレチ!蛆チャンのぶんまでワタチは生きるレチ!って踏まないでレチ噛まないでレチャアアアー」

「デジャアアアアアア」



PCのリンガルアプリが自動的に、勝手に実装語の翻訳を続けている。
機械音声で、テキストで。膨大なログが流れて行く。
それらのほとんどを敏明は気にもとめなかった。



■



敏明は別にここで蠱毒の呪術を行っているわけではない。

何らかの実験ですらない。
もちろん、そもそも実装石たちの生き死にに興味もなく、何の意味もなかった。



かつて、虐待用に集めてきた実装石たちの選別を行っているうちに、
いや、やがて選別そのものにも飽きて、

新たに捕まえてきた野良実装を雑に詰めたビニール袋を開けるたびに、
ケース内がどんどん過密になっていく状況が楽しくなってきただけだった。



死んだり共食いしたりで数は減るが、敏明は数日ごとに実装石を投げ入れ続けた。
さすがに溢れる。もうめちゃくちゃ溢れる。



バイオスフィア、という実験を知っているだろうか。
例えばドームなどの閉鎖空間の中で地球環境を疑似再現する研究のことだ。

敏明の知識や意識の中にそれがあったかどうか知るすべはないが、
この衣装ケースの中には生産も排水もないまま、長く循環が起きていた。

ただ実装石を詰めて、餌やりもトイレ掃除もしなかった、というだけの最低の話なのに。

なんか研究的に論文も書こうと思えばできなくもないことだが、
残念ながらこれはただの敏明の性癖であり、実際飼育環境は溢れ、崩壊しつつあった。



それはもう、ぎちぎちを通り越した段階になっている。
致死量の超過密な密集が、二階建てになりかけた状態。
しかし、敏明はこの瞬間が好きだった。



「デジャアア!!クソニンゲン、また糞蟲を拾ってきたデス!!食べるのも限界があるデス!」

「テチャアアア!ママァ!ママはどこテチ!?このハウス、オバチャン多すぎテチ!こんなところ住めないテチ!」

「奴隷ニンゲンはどこテチ!?ワタチを飼うって言ったテチ!ここはトイレテチ!豪邸じゃないテチ!」

「痛いデス!お前ら重いデス!いいもの食ってきた糞蟲デス!許せないデス!」

「蛆チャンはご飯じゃないレチ!蛆チャン食べちゃダメレチ!蛆チャン!?蛆チャーン!!」

「プニフ」



ははっ、と敏明は暗い笑いを浮かべる。
やっと、超過密で溢れたケース内の実装石たちをトングでケースから取り出し始めるのだ。



■



「テチャ!?」
「テッチ、テッチ」
「テッチューン」

敏明はまだ息のある仔実装たちをワンカップの空き瓶に入れ、蓋を閉める。
ワンカップはちょうど10センチほどの高さなので、仔実装が一匹づつぴったり収まる。



選ばれた、と信じた仔実装は身動きもできない小瓶の中でしばらく喜んでいた。
地獄から救い出されニンゲンさんの飼い実装になれたと本気で信じていた。

敏明が何も反応しないことにもめげず、何日かは懸命に媚びたりもしていた。



「ご飯!ご飯下さいテチィ!もうウンチは嫌テチィ!!」

「公園に返しテチ!ママに会わせテチ!!」

「飼っテチ!飼っテチ!わがまま言わないテチ!!」



蓋の閉まったワンカップ瓶の中で詰められた仔実装たちがそれぞれ鳴いている。
慣れたことなので気にしないし、声もかけない。

瓶の1/3はもう仔実装のひり出した糞で埋まっている。
放置、放置。ただ放置だ。

敏明の部屋にはそんな仔実装を詰めたワンカップ瓶がもう百は並んでいる。



みっしり詰めた衣装ケースから解放された仔実装たちは、
身動きもできないワンカップ瓶に詰められてやはりみっしり並べられているのだ。



「テチャァァァ!!ウンチに溺れるのは嫌テチャアアアア!ウンチがもう口元まで!来てるテチャアア!!」

「ニンゲンさん、何でもするテチ!どんなことでも耐えるテチ!だから助けテチ!!」

「テプププ。高貴で美しいワタチだけはきっと助かるテチ。王子様が来るテチ。テプププ」



普通はほら、糞の腐敗のガスとかで、いくら密閉しててもいずれ蓋は弾け飛ぶものだろう。
実装はデタラメなので、やがて瓶の中は100%糞で埋まり、仔実装は窒息して死んだ。

そもそもが。
捕獲から絶命に至るまで、一切餌を与えていないのに、
ワンカップ瓶を満たすほど排便する糞蟲こそが、デタラメそのものなのだ。



■



成長していたり、全体からはみ出してるように感じた成体をトングでつかむ。



「デププ。やっとワタシの美しさに気付いたデスゥ?これでもうこっちのものデスゥ」

「やめるデス!ほかの糞蟲と同室はごめんこうむるデス!!」

「悲しいこともしたデスが生きていけるなら全部耐えられる試練デスゥ…」

「狭いデスゥ!無茶が過ぎるデス!この水槽に何匹入れるつもりデスゥ!!?」



敏明は、つまみ上げた成体実装を全て同じ中型の水槽に入れていく。
慎重に、衣装ケースと同じように、成体実装でぎちぎちに埋まるように詰めていく。



「狭いデス!苦しいデス!こんなはずじゃないデス!お前たちどっかに行けデス!!」

「選ばれたはずデスゥ!話が違うデス!ワタシはもう飼い実装デス!この糞蟲を殺すデス!」

「デジャアアアア!糞蟲はお前デス!!クソニンゲン!高貴なワタシ以外みんな間引きするデス!!」

「動けないデスゥ。ぎちぎちでもう糞まみれデス。これ、さっきまでと同じかデス?」



敏明はリンガルのログを見たり、見なかったりしながら、
当たり前のように水槽に蓋をした。

中型の水槽にみっしりとぎちぎちにパッケージングされ、蓋を閉められた成体実装は、

つまりそこが終着点だった。



みちみちぎっしりバトルもあるヨな衣装ケースでの諍いなどは遊びで、鑑賞対象だった。

しかし、この成体実装を詰めた中型水槽は部屋の中、もう20はあった。



ほぼ全て、みっしり詰まった成体実装がどこにも逃げられないまま糞に埋まり、
全滅したまま残してあるオブジェであり敏明のトロフィーでもあった。



衣装ケースを生きのびて、「選ばれた」成体実装は、
先のワンカップ瓶詰め仔実装と同様に、死に場所を与えられたにすぎない。



「ニンゲンさん!ワタシは役に立つデス!ワタシを助けるデス!!」

「ワタシの体を好きにしていいデス!何ならワタシの仔をいくらでも差し出すデス!!」

「取り引きをするデス!ワタシとの交渉のテーブルにつくデス!お願いデス!ニンゲンさん!」

「デジャアアアーーーーーー!!クソニンゲン!!勝負するデス!!殺してやるデジャアアーーー!!」



やがて醜い媚びや命乞いや罵りが叫ばれるのだが、敏明はそれらを全く聞いていない。



■



敏明は、数日ごとに野良実装を衣装ケースに入れる。
ぎちぎちに詰まっていた実装石たちがさらに増え、大変なことになる。

それらをしばらく静観し、潰れて死ぬとか殺されるとか共食いが起きるとか、見ている。



争いが沈静化しても、ケースの乗車率は100%を越えている。
そこからが、敏明の仕事だ。

パズルゲームをしている感覚に近いのかもしれなかった。



溢れた個体をトングで掴み、仔実装はワンカップ瓶に、成体は水槽に詰める。
親指や蛆は気にしない。生きていようが、どうせすぐに潰される。

敏明はつまり、
衣装ケース内の飽和度を維持するために、溢れたものをよそに移しているのだ。


数日おきに、
衣装ケースに隙間ができ過ぎず、また、溢れ過ぎないくらいに収まるように行う。

過密を通り越して溢れかけていた衣装ケースがそれなりにぴったりに戻るまで繰り返す。



敏明にとっての美意識、黄金比みたいなものがあった。



言語化するのならば、

「箱には限界まで詰まっていなければならない。
 溢れたらよその箱に限界まで詰めなければならない」



では、よそで詰めたものが限界を超えたなら?



■



「苦しいデス!誰か助けろデス!こんなぎちぎちの中で窒息死とか絶対嫌デジャアアア!

「お前は悪魔テチ!死んでも絶対呪ってやるテチ!お前も死ぬテチ!絶対死ねテチ!!」

「ニンゲンさん!今日こそ返事してくれるデス!?無視はダメデス!話を聞いてくれデスゥ!」

「これはさすがにおかしいデス!虐殺派はニンゲンさんでも許されないはずデス!!」

「死にたくないテチ!死ぬのは嫌テチ!お願いだから殺さないでテチ!助けテチ!ママ!ママァ!」



実装石のあらゆる怨嗟や命乞いを、敏明は全く意に介さなかった。




■



一年後、敏明は逮捕された。

罪状は威力業務妨害。



敏明が借りていたレンタル倉庫の中に、
ぎちぎちに詰められたケースとその中のとんでもない数の実装石の死体。
そこからのめちゃめちゃな悪臭からの、近隣住民の通報がきっかけだった。



敏明の借りているアパートの管理会社からも同時に訴えられた。

部屋の中は隙間なく、糞にまみれた実装石の死体で敷き詰められていたからだ。



敏明のこだわりと、実装石を使った歪なパズルゲームは社会的に終焉を迎えた。

楽しかったから、と供述した敏明は、
しばらく責任能力が問われたが、やがて有罪が確定した。



民事での損害賠償の請求はとんでもない額だった。

知識がなかったのか、教えてくれる人もいなかったのか、はたまたどうでもよかったのか。
敏明は自己破産をすることはなかった。



行政的には、判決から12ヶ月後、敏明は消え、
唯一の知人だろうか、恋人だろうか。一通の手紙だけが記録としてあったらしい。

それは相手にすぐに捨てられ、
敏明の行方は誰にももう、わからない。






おしまい

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1 Re: Name:匿名石 2023/04/01-08:58:51 No:00007003[申告]
『実装石に関わる者は皆不幸になる』
改めて肝に銘じたい
2 Re: Name:匿名石 2023/04/01-15:49:50 No:00007004[申告]
側から見ればゴミ屋敷老人と大差無いはずなんだけど
世捨て人が意味も無く火を焚べ眺めているかの様な一抹の寂しさをなんか感じる
3 Re: Name:匿名石 2023/04/03-00:12:52 No:00007007[申告]
GJ!切ない気分になりました
4 Re: Name:匿名石 2023/04/03-19:06:35 No:00007008[申告]
最後が某筋少の何処へでも行ける切手のラストみたいだと思った
5 Re: Name:匿名石 2023/06/20-07:07:00 No:00007333[申告]
狂人すなあ…
6 Re: Name:匿名石 2023/08/22-21:28:32 No:00007825[申告]
自分で勝手に不幸になってるだけで実装石関係なくねえ?
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