男の前には仔実装がいた。 ここは男の住む家。仔実装は先程公園から拾ってきた野良だ。 「ニンゲンサン、これから宜しくテチ」 言いながら深々と頭を下げる仔実装。とても飼われていた経験の無い野良実装とは思えぬ挨拶だ。 その様子に男は暫し驚くがすぐに笑顔へと変わった。 「ああ、これから宜しくな」 そう言う男の目は全く笑っていなかった。 「公園はどうだったんだ?」 「酷いテチ…毎日酷いテチ…」 男の質問に仔実装が語り出す。 「お腹いっぱいは無かったテチ…キレイキレイも無かったテチ…おばちゃんが姉妹を食べてたテチ…ママも姉妹を食べてたテチ…いつも痛い痛いだったテチ…」 仔実装は僅かな記憶をとくとくと語る。 そのどれもが苦痛を表していた。 「分かった。俺は君に苦痛の無い生活を与えるよ。約束だ」 その後、仔実装は水槽の中で飼われる事になった。 餌に水呑場、トイレに布団、仔実装サイズのボールもありなにより同族に襲われる危険がない。更には風呂にまで入れてもらえる。今までの境遇を考えれば天国に来たような感覚。 仔実装の心は飼いになれた喜びでいっぱいだ。 翌朝の早朝、目が覚めると何かを失くしたような虚無感が襲う。体のあちこちを確かめるが何も変わっていない。 そんな不安も美味しいフードを食べるとそんな不安は消し飛んでしまった。 「お帰りなさいテチゴシュジンサマ!」 男が帰ってくるなり水槽の中で駆け出す。 だがはじめての元気一杯の走りに体が追い付かないのか足が絡まって転んでしまった 「テチァ!い、痛いテチィ。でも平気テチッ!」 頭が重く手足は短いというバランスの悪い体格をしているが軽いため転んだ程度ては怪我はしない。 だが男は慌てた様子で動き出した。 「怪我をするといけない。早急に対処しよう!」 そう言った男はすぐそばにある道具箱を開き中の物を取り出した。 使い込まれたハサミ。それも刃の部分が歪曲した枝切りハサミだ。 「テチ?ゴシュジンサマ、それは何テチ?」 「これはね、君が怪我をしないようにする道具だよ」 そう言って男が仔実装を掴むと無防備な右足へと刃を向けた。 「怪我をさせようとする悪い足め!お前なんてこうしてやるっ!」 根本から切断された足がボトリと落ちる。 突然の事態に理解が追い付かず呆然とする仔実装。だが次第に激痛が襲い掛かり足を喪った現実へと直面させた。 「テジャァァァァァァァ!!」 一気に血涙を吹き出しパンコンさせて暴れ狂う。 だが男は手に力を込めて仔実装が脱出できないように押さえつける。 「頑張るんだ!あと片方だけで済む!」 そう言って仔実装を圧迫し呼吸を遮り抵抗を弱めさせる。 程無くして酸欠になった仔実装の動きは鈍くなっていった。 「うちの仔の怪我の原因になる悪い足め!成敗だ!」 その隙に残った左足を切断する。 「テジャァァァァァ!テェェェェン!テェェェェン!」 激痛に悶え空気が足りない状態で再び悶える。 そのまま水槽の中に置かれ、ジタバタともがこうとしたが衝撃が傷に障り激痛を生むので小さく咽び泣くだけとなった。 「テェェェェン!テェェェェン!テェェェェン!」 両手で顔を覆い突然の不幸を嘆く。 何があったのかすらいまだに理解できていない。少し前まで幸せだったのに突然足がなくなり激痛の中にいる。世界がひっくり返ってしまったかのような惨状に仔実装は泣くことしか出来ない。 「よく頑張ったね。あと少しだよ」 そう言って男が抱き上げる。 だが仔実装は自身の痛みにいっぱいいっぱいで男の声など届いていない。 もっとも、届いていたところで何かが変わるわけではないが。 「これでとどめだっ!覚悟しろっ! 」 「テジャァァァァァァァァァァァァ!」 男の声と共に再び足の根本に激痛が走る。今度の痛みは切断ではなく熱によるものだった。 男は仔実装を掴んでいるのと反対の手に火のついたタバコを持っていたのだ。 男は時折タバコを吸うがそれも今では希だ。殆んど実装石に使うためだけに購入し、道具箱の中に保管していたと言って良い。 じっくりとタバコを当て傷口を塞いでいく。 両方に処置を終えると男はそっと仔実装を水槽へと下ろした。 「よく頑張ったね。これでもう平気だよ」 仔実装は襲いかかってくる激痛と疲労困憊によって返事すらできずテチィテチィと泣いていた。 二日後。両足を喪った仔実装が腕を使って体を前に進ませ餌皿からフードを食べる。 焼き潰された事で足の再生は不可能になったが痛みは引き、なんとか生活できる程度には回復した。 水槽の近くでは男も食事を摂っている。 「ゴシュジンサマ。何食べてるテチ?」 水槽越しに男に近づき質問する。 初めて見る食べ物に仔実装は興味津々だ。 先日は突然の事態に混乱した仔実装だったが男に謝罪と共に優しく必要な措置だったと説明を受けると疑いもなく信用した。 男が悪い足を退治したと言っていたので自分の足は何か重篤な病気でありこうするしかなかったのだと心の整理をしたのだ。 その結果仔実装と男の距離感はこの家に来た当初から変わっていない状態を保っていた。 「食べてみるかい?」 そう言って男は自身の器の中から一本麺を水槽へと下ろした。 「テェ…?」 実装フードと違いホカホカと湯気が登っていて暖かい。 過去に野良として生ゴミや自身の糞しか食ったことの無い仔実装にとって暖かい食事とは未知の体験だ。 まじまじと眺め、触れてみると微かな弾力が返ってくる。 そうして観察している間にも男はちゅるちゅると麺を啜っていく。 その様子を見て仔実装は同じように啜ってみることにした。 「テギャァァァ!?」 突如喉に襲いかかってきた激痛にひっくり返る。 男が食べていたのは激辛ラーメンだった 生来甘党である実装石にとって辛いものは本能から拒絶するものであり絶対に食べられないものだった。 「大丈夫か!?」 男がラーメンを全て平らげ仔実装のもとに駆け寄る。 ヒーヒーと荒い息を漏らす仔実装の両頬を押さえて口を開かせるとタバコを突っ込んだ。 「テギィィィィィィ!!?」 先程とは比べ物にならないほどの激痛と肉の焼ける臭い。 パンコンした状態で血涙を流しながら大の字になって荒い呼吸を続ける 落ち着きを取り戻すにはそれなりの時間がかかった。 「ゴメンゴメン。お詫びに金平糖をあげるから機嫌治してよ」 口内の腫れが引き、餌を食べられる程度にまで回復したと思われる状態になると男が金平糖を差し出した。 暫くはスポイトで水を与えることしか出来ない状態であり、少しでもなにかが触れると悲鳴をあげるような生活だったために、仔実装にとってはとても長い時間なにも食べていなかったような錯覚をしている。 「テ、テヒィィィ!」 そんな状態だったためか、仔実装はお礼も忘れて金平糖へとむしゃぶりついた。 「コンペイトウテチィ!アマアマとっても美味しいテチィ!」 一心不乱になめ回す。火傷による痛みはすっかり無くなったようだ。 「ははは。美味しいかい?」 「美味しいテチィ!コンペイトウは最高のごちそうテ…チ……?」 なにか違和感あったのか、まだ半分以上あるというのになめるのをやめてしまった。 その後も数回舐めては止めるを繰り返し小首をかしげる。 「どうしたんだい?」 「アマアマしないテチ。味がしないテチィ…」 「おかしいなぁ。これ最高級の金平糖だよ?」 そう言って男がパッケージを見せる。 仔実装は字が読めるわけではないが男が当たり前に言っていることからそれが真実であると認識した。 どうして?なんで?アマアマは大好きなはずなのに、全くそれを感じることが出来ない。それどころか舌に乗っているという存在感すら希薄だ。 その事実に仔実装は混乱した。 それもそのはず。舌を、味覚を完全に破壊された以上味を感じることは出来ない。 仔実装は一生食を楽しむ事が出来なくなったのだ。 「テチテッチ」 仔実装が焼け爛れた舌で高級金平糖を舐める。 暫くは普通に舐めていたが段々と必死になって、遂には金平糖を投げ捨ててしまった。 「全然アマアマじゃないテチッ!美味しくないテチッ!そもそも味がしないテチッ!」 失くした足の分まで腕をジタバタさせて癇癪を起こす。 舌を焼かれた日から仔実装の主食は実装フードから高級金平糖に変わっていた。 しかし仔実装はその味を一度も感じたことがない。実装石にとって火傷は致命的な損傷であり患部を切除し再生を行わない限り治ることはない。 だがそんな事を知らない仔実装は今日こそ金平糖を味わえるかもしれないと毎朝期待に胸を膨らませながら金平糖を舐めては絶望する日々を送っていた。 足がなくなりボール遊びもなかなか出来ない。舌が駄目になって食事も楽しめない。雨風や気温、餓えや同族の驚異こそ無いが娯楽の殆んどを僅かな期間で奪われた現実にテスンテスンと泣き続ける。 そんな日々を暮らすうちに、仔実装は自身が食べていた食事の味さえ忘れてしまった。 「…もしかして、コンペイトウはアマアマじゃ無かったテチ…?フードも公園にいた頃のゴハンも美味しくなかったテチ?」 自身が味を認識できないことからの酸っぱい葡萄ではない。本当に味が記憶から無くなっていたのだ。 虚ろな瞳にトイレが写る。そこには自身がした糞が山と積まれていた。 仔実装は思い出す。公園にいた頃、禿裸の同族が一心不乱に糞を食っていたのを見た事を。 絶対美味しくないはずなのに、禿裸は血涙を流して糞を必死で舐め取っていた。 それが媚びることすら不可能になり、餌場からも真っ先に排斥された結果食うものが糞しかなかったからだという事実を仔実装は知らない。 その事実と自身の味覚障害から仔実装はあり得ない結論へと行き着こうとしていた。 「もしかして美味しいんテチ?」 まずい物を必死になって食べるはずがない。しかも禿裸は血涙を流して貪っていた。つまりウンチは必死の形相になるほどの美味なのではないか。そんな可能性が脳裏をよぎり、仔実装をトイレへと誘う。 まだ乾燥していない半固体の汚物を手に取り近づける。 「く、くさいテチャァ!」 あまりの悪臭に顔を背ける。 トイレに敷かれている紙製の猫砂ならぬ実装砂は消臭効果を持っているが、日頃のストレスから多量の糞を垂れ流す為に追い付いていないのだ。 「テェ…」 それでも味は良いのかもしれない。最高の美味を味わえば舌も元に戻るかもしれない。 そんな妄想に捕らわれ仔実装が再び糞を食おうとする。 「そんなはずないテチィ!」 口に含む直前になって我に帰り手にした糞を投げ捨てた。 「こんなっ!ウンチがっ!コンペイトウみたいな味するはずないテチィィィ!」 一言ごとに糞を投げ捨てる。 一心不乱に投げた事で床や壁は勿論仔実装自身も軟便まみれだ。 「テェェェェン!テェェェェン!テェェェェン!」 自分の愚かさと不幸に血涙を流して泣き叫ぶ。 「お前、なにしてんだ?」 仔実装が振り向くとそこには飼い主の男が立っていた。 「ゴシュジンサマァ!ゴハンが食べたいテチィ!味のするゴハンが食べたいテチィィィィ!」 すがるように願望を吐露する。だが男はそんな言葉など聞いていなかった。 男が見ていたのは仔実装ではなく水槽だ。 デタラメに投げつけられた糞のせいで殆どが緑の汚物に染まり見るに耐えない状況になっている。 「ゴシュジンサマ!治しテチ!ワタチのお口治しテチィ!」 「…貴様ぁぁぁぁぁ!!」 仔実装の声を上回る声量で男が叫ぶ。突然の事態に仔実装は思わずパンコンした。 男は構わず仔実装を鷲掴みし水槽の外へと連れ出す。その手には必要以上の力が込められており仔実装の骨はミシミシと軋み今にも全身が複雑骨折してしまいそうだ。 「ゴシュジ…苦しいテチ…やめテチ……」 肺が圧迫され呼吸することもままならない状況で仔実装が懇願する。 だが男の耳には届いておらず、やがて硬い板の上へと叩き付けられた。 それは赤と緑に染まったまな板だった。 「チベッヘェ!?」 あまりの衝撃に吐血し、後頭部からも血が吹き出す。 だかこれから始まる事に比べればまだ生易しい。 男は首を押さえつけると包丁を取り出したのだ。 「この手がっ!この手が悪いんだなっ!」 ダンッ、ダンッと力任せに包丁を下ろし手先を切り落として行く。 仔実装の腕を切り落とすのにそれほどの力は必要ない。男は明らかに大きな音を立てて仔実装により恐怖を感じさせるように包丁を振り下ろしていた。 「テチャァ!テヒッヒィィチュベチャァァァァ!!」 仔実装が暴れる為乱切りになっていく手。それも元来の短さからすぐに終わったが、仔実装からしたら数時間を掛けて腕がなくなっていったような錯覚を覚えた。 「ゴ…ゴシュジンサマァ……ワタチのおててがテチィ……」 息も絶え絶えになりながら仔実装が訴える。だがそれも終わりではなかった。なにせ腕はもうひとつあるのだ。 仔実装をまな板の上で回転させ反対側の腕も切断していく。 しかも今度は傷口に男の手ががっちり触れているためとてつもない激痛が左右から仔実装に襲いかかる。 「ヘベ…プジュ…チベヒャァ…!」 あまりの痛みにろれつも回らない。 痛みのせいで気絶と覚醒を繰り返し、仔実装はあっという間に消耗していった。 「やめテチ…痛いテチ……」 両手を切断された仔実装が血涙を流しながら懇願する。どうやら切断が終わったことに気付いていないらしい。 普通ならとっくに偽石が砕けているほどの苦痛だったか既に摘出と栄養剤への投入が終わっているため死ぬこともできずにただ苦痛を享受しながら耐えるしかなかった。 そして突如始まる新たな痛み。 男が傷口にタバコを押し付けたのだ。 万一にも手が再生しないように念入りに傷の目元をほじくり傷を広げてからタバコを押し付ける。 「…!…!テッ!ペッ…!…!」 ついでに鎖骨を砕かれ首が座らなくなり始めた。 もがこうとすると普段以上に頭が転がりその頬をタバコの熱が焼く。 「テベヒッ…タァ!」 奇声をあげながら反対方向へ頭を転がしこれ以上顔が焼けないようにする。 しかし痛みそのものから逃れられる訳ではないのでそれも殆んど無駄な抵抗だった。 男は反対側の切断面にも同じ処置を施し、両手が焼き潰した後処置もせずに仔実装を水槽へと投げ捨てた。 「デチュア…チブベッ…」 頭から落ちてバウンドしてから頭蓋骨が変形し右耳の根本が歪にへこんでいる。 だが男はまるで何事もなかったかのように踵を返し切断に使った拷問道具を片付け始めた。 「テーテーテー……」 両手足を失い、蛆実装のようになった仔実装が背中を水槽に預け虚ろな瞳で歌のようなものを呟く。 水槽内には小さなボールがあるが見向きもしない。 この家に来た初日に遊び倒したボール。短いながらも楽しい思い出が詰まったおもちゃももう見たくない。 なにせ今の自分には両手足が無いのだ。蛆実装にすら小さいながら手足が備わっているというのに仔実装にはそれすらない。ボールで遊ぶという行為は非常に困難になっており、思い出が詰まっている分そのギャップに苦しむことになる。 しかも舌まで焼かれていて食事を楽しむことすらできない。 完全に蛆以下の存在に成り果てた事が仔実装を追い込んでいた。 「どうした?元気がないな」 水槽に男が近づき仔実装に声をかける。 その声色にはただ暇潰しに話しかけてみた以上の感情は込められていない。 「ゴシュジンサマ…」 視線をあげることもなく仔実装が反応する。 無気力になった仔実装は、男が普段させない香りを放っていることに気づかなかった。 この状況になってもいまだに男をご主人様と呼ぶとは人間に反抗的な態度をとったらどうなるか理解しているのか、それとも単に無知なのか。 理由は不明だが仔実装はそのまま続けた。 「ボールで遊べないテチ。ゴハンも美味しくないテチ。歩けないテチ。物も持てないテチ。ワタチは…なにも出来ないテチ……」 自らの状況に絶望し、その嘆きを男にぶつける。 「なにも出来ないねぇ」 男は興味なさげに反芻する。 だがすぐにその声色は明るい色へと変わった。 「そんなことないさ」 「テ…」 その言葉に仔実装は視線を上げないが瞳に光が宿る。それを確認してか水槽を見下ろしたまま男が続けた。 「そんなことないさ。お前にはまだまだ出来ることがあるよ」 「本当テチかっ!教えてっ!教えてほしいテチャァァァァァ!!」 顔を上げキラキラと輝く視線を男に向けた直後仔実装は絶叫しパンコンした。 「ん?どうした?」 「怖いテチ!その白い棒は怖いテチィィィ!」 仔実装がギュッと目を閉じ、まるで蛆実装のように丸まってガタガタ震える。 普段はあまり吸わないが、男はタバコを嗜んでいたのだ。仔実装は気付かなかったが、男が放つ臭いはタバコが生じさせていた。 タバコは怖い。あれを押し付けられると全部戻らなくなる。 足も、舌も、おてても、全部あれがくっついてから戻らなくなった。 仔実装にとって、タバコは恐怖の象徴になっていた。 「ああ、これか。大丈夫だよ。もう怖くなくなる」 男がタバコに視線を向けながらそういうとおもむろに仔実装を拾い上げた。 頭をつままれ抵抗することもできない。せいぜいが蛆実装のようにイゴイゴと体を揺するだけだ。 「お前はもう、これを見なくて済むからな」 「テェ…?」 男の言葉に疑問を感じ、目を開けると燃え盛るタバコの先端が視界いっぱいに広がっていた。 「テジァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」 一瞬にして左目の中の水分が沸騰し、目元とその周辺が焼け爛れ、ブスブスと音を立てて黒こげになる。 そのままグリグリと押し付けられると更に痛みが増した。 「あ、しまった。やり過ぎた」 仔実装から放すとタバコの火が消えていた。男が仔実装をテーブルに下ろしその脇に置かれたライターを掴んで再点火を始める。 その隙に仔実装はまるで蛆実装のように這って逃亡を図った。 逃げなければ。これ以上何かされる前に逃げなければ! 今なら水槽の透明な壁はない。幸い右目は見えている。扉も見えているし逃げるチャンスは今しかない。 そう思って必死に這う。 だが無情にも仔実装は数cm移動したところで再びつまみ上げられてしまった。 「おいおいここテーブルだぞ。落ちてミンチになるだけなんだからやめとけって」 少し楽しそうに男が告げる。その手には再び着火したタバコが細く煙を伸ばしていた。 「はい、ごくろーさん」 「テジァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」 先程の再現が今度は右目によって行われた。 今度は火を消さないように押し付けようと少し優しくされたがなんの意味もない。 「あ、臭いで怖がっちまう可能性もあるか」 そう言うと男は鼻にもタバコを押し付ける。 「テフッベ!フゴゴゴゴゴシャァァ!!」 鼻を豚鼻のように変形させられながら焼かれ、先程とは違う奇声を上げて苦痛を表現する。 少し前までなら目を白黒させていただろうがいまや両目は完全に焼かれその機能を失っていた。 「…もう吸いたくねーなこれ」 再び吸うために火を消さないようにしたタバコだが、考えてみれば実装石なんかに押し付けたタバコだ。 衛生的に問題はないにしても気持ちの良いものではない。 男は鼻にグリグリと押し付け消火すると仔実装を水槽に戻した。 「ほら、俺を楽しませられたじゃないか」 今更ながら仔実装が出来ることを教えるが、仔実装は失神し聞いてはいなかった。 「ただいまー」 「テ!?テェェェェェン!」 男が帰宅するなりパンコンし悲鳴をあげる。 目と鼻を失ってから仔実装はすっかり怯えるようになってしまった。 盲目となったため声のする方と逆方向を目指して這って逃げる。 しかし腕を焼いたときに念入りにやったせいなのか、仔実装は頭が簡単に振られるようになってしまい重心移動によって我知らず進行方向が変わってしまう。 今も少しだけ距離を取ったと思ったらUターンしてしまい男に近づいてきている有り様だ。 「おいおいなにしてるんだ?」 その様子に半笑いになりながら男が質問する。 逃げたはずの声がさっきより近くでしたため仔実装は更にパンコンした。 「やめテチィィィ!もう奪わないテチィィ!」 仔実装の物言いに男は眉をひそめた。 「おいおい何言ってるんだ。俺はお前のためを思ってやってるんだぞ」 「嘘テチ!絶対嘘テチィィ!」 「嘘じゃない」 男はきっぱりと告げた。 「お前が転んだからもう転ばないように足を潰した。お前が辛いものを食べて苦しんでたから舌を潰した。お前が水槽の衛生を悪くしたから手を潰した。お前がタバコを怖がったから目と鼻を潰した。全部お前のためだ」 「テェェ…」 完全な詭弁だが確かに行動の起点は常に仔実装にあり、仔実装の足りない頭では反論出来なくなってしまった。 「で、でも治らなくする必要は無かったテチ!」 「治ったらまた同じことになるかもしれないだろ」 必死に考えた反論もあっさり潰される。 仔実装は完全に男の手のひらで踊らされている状態だ。 「それよりお前臭いぞ。風呂入れるからな」 「おフロ…」 生活環境のせいでそう思われないが、実装石は元来綺麗好きだ。その例に漏れずこの仔実装も風呂が大好きだったが今の不自由な体では掛け湯すら出来ず、男が手助けしなければ入浴すら出来ない。 仔実装の中に入浴という娯楽への希望がわいた。 「じゃ行くぞ~」 返事を待たずに男は仔実装をつまみ上げキッチンへと向かった。 「こんなもんで良いだろう」 男は普段食器を洗う際に水を溜めている洗面器に湯を張り、温度を確認すると裸にした仔実装をつまみ上げた。 髪を人差し指と親指でつまみ、薬指と小指で仔実装を軽く固定する。 「おフロテチ…♪おフロテチ…♪」 先程の恐怖は何処へやら。久しぶりの娯楽に仔実装が身をくねらせて喜びを表現する。 「おいおい暴れるなよ掴みづらいだろ」 男が忠告するが仔実装は聞いていない。 なにせいまや手足を失い目も見えず鼻も使えない。体を動かすこと自体が困難な上に味覚も破壊され食事も楽しめないと娯楽から最も遠い存在となっている仔実装にとって風呂は一大イベントだ。楽しくないわけがない。 「じゃ行くぞ~」 先ほどと変わらぬ軽いノリで男が仔実装の体を湯に浸す。 「テヒャァ!」 すると仔実装は反射的に体を丸め湯を避けた。 男も湯から仔実装を引き上げる。 「なんだよ危ないな。落ちるって言ってるだろ」 「急にお湯に入ってびっくりしたテチィ!もっとゆっくり入れてほしいテチィィ!」 仔実装は五感の殆んどか死んでいるため状況把握が出来ず触覚が敏感になっている。 突然全身を湯に入れられたのもあわせて当然の反応と言えた。 「我慢しろよ。そこまで面倒みきれねぇ。ほら行くぞ」 「テヒャァ!」 湯に浸けると仔実装は再び身を丸め暴れだした。 「今度はなんだよ」 「暑いテチィィ!もっと冷まして欲しいテチィ!」 水温は42℃。少し高めの風呂程度の温度だが実装石と人間では肌の厚みも神経の敏感さも違う。 人間にとって快適でも仔実装からしたら熱湯に放り込まれるような感覚を覚えるものだった。 「…仕方ないな」 男が一度お湯を捨て、再び湯を張る。 「良いか。今度こそ暴れるなよ」 「テェェ…」 湯を張り直すと男が忠告する。 仔実装は度重なる事態に少し疲弊気味に答えた。 「じゃあゆっくり下ろすからな」 男の言葉通り、今度は少しずつ自分の体が下がっていくのを感じる。 その感覚に仔実装は少しの安堵を得た。 しかし湯に近づくにつれ、男は手を仔実装から放すようにし、髪だけで持つような状態になった。 足元に来る熱気も強めに感じるがいつまでたってもお湯に浸かる感覚が来ない。 「ゴシュジンサマ、どうしたんテチ?」 「いや危ないから」 「どういう意味テジャァァァァァァァ!!」 湯に浸かった直後仔実装は悲鳴をあげた。 男が張り直したお湯はポットから給水した熱湯だったのだ。 「熱いテチァァァ!熱いテチャァァァァァ!!」 「おい暴れるなって言ってるだろ」 髪をつままれた状態でジタバタともがく仔実装。だがゆっくりと体は下降していき熱湯から逃げられるような状態ではない。 「お前熱いのが怖いんだろ?だから体の感覚潰しとくよ」 男が邪悪な笑みを浮かべながら入水させる。その手にはいつの間にか火傷しないように厚手の手袋がはめられていた。 対して無防備な仔実装は直接熱湯に漬かりより大きな悲鳴をあげている。 血涙を流し糞を漏らしながら熱湯に全身が焼かれ水膨れが至るところに発生していた。 「テジャァァァァァァァ!!ァァァァァァァァァァァ!!!」 「おい暴れるなって。お前ただでさえストレスであれなんだかあっ」 仔実装がもがき苦しんでいると後ろ髪が根本からズポリと抜けた。 耐えがたいストレスによって毛根はかなりの負担を感じており脱毛寸前だったところに髪のみで支えられた状態の仔実装が暴れ狂ったために遂に限界を迎えたのだ。 「テジャベガボボボボボボボボ!!!」 一気に熱湯にまっ逆さまに落ちた仔実装が悲鳴もあげられずに残り少ない空気を吐き出している。 「いかんいかん」 流石にまずいと思った男は即座に洗面器をひっくり返し仔実装を救出した。 「デヒーデヒー…」 男の手のなかで喉が焼けダミ声になった仔実装が必死に酸素を求める。 全身が茹で蛸のように真っ赤になり熱気がもうもうと上がっている。見事な全身火傷であり実装石であっても治癒は不可能だ。オマケに後ろ髪も全滅している。 「…バランス悪いから前髪も抜いとくか」 そう言って男は無造作に前髪を引き抜いたが仔実装は荒い呼吸をするばかりでなんの反応もしなかった。 水槽のなかで蛆実装が仰向けに寝ている。 否、正確には手足を失くした仔実装だ。 更には目も鼻も舌も焼かれ、全身が赤く水膨れになって動くことすらままならない。 総排泄口も焼かれているため脱糞する度に裂けていたので今は雑にプラスチックのパイプを突っ込まれ、排泄物はトイレへ直接流れるようになっている。 餌も男にスポイトで液状のものを流し込まれるだけ。 仔実装はすることがない。出来ることがない。出来ることといえばせいぜい時間を無為に消費するだけだ。 「ゴ…ゴジュジャザマ……」 水槽の中で喉の焼けたダミ声で仔実装が話しかける。 全てを失った仔実装に残されたのは声と聴力だけ。 その僅かな財産を使って男に頼むことにしたのだ。 「ゴロジデ……ゴロジテクデダジャイデチ……」 仔実装が涙も流せない状態で懇願する。 仔実装が救われるのは己の命が尽きること以外存在しない。 「そうはいかない。俺は君に苦痛の無い生活を与えると約束したんだ」 だが男はヘラヘラと笑いながらにべもなくそれを断った。 そうだ。男は確かに仔実装に約束した。 そして仔実装はその意味を履き違えていたことを今更に知った。 「テェェ……」 「だからこれからもずっと長生きしてくれよ」 足がないので転ばない。舌がないので不味いと思うこともない。手がないので汚さない。目が見えないので怖いものを見ない。鼻がないので臭い臭いを嗅ぐこともない。感覚がないので痛い思いもしない。 確かに肉体の苦痛はない。だがその代わり幸福もなく、精神は肉体が受けるべき苦痛すら引き受けることになってしまった。 苦痛の無い生活は何よりも苦痛だった。 仔実装はようやく痛みがあるからこそ幸せがあることを理解した。 「これからもずっと、痛みの無い世界を与えてやるからな…」 男はカプセルの中で栄養剤に浸けられ傷ひとつ無い仔実装の偽石を眺めながらニヤリと笑うのだった……。

| 1 Re: Name:匿名石 2023/03/31-19:36:57 No:00006990[申告] |
| 展開は途中で想像できたのに止まらず読み切ってしまった。
やっぱり安定した虐待スクは楽しい >傷ひとつ無い仔実装の偽石 髪を失ったりした割にはパキンのリスクもなしに傷一つないとはどんな栄養剤なんだろう |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/03/31-21:07:43 No:00006991[申告] |
| 仔実装<<ラーメン なのじわる |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/04/09-05:27:10 No:00007018[申告] |
| MOTHER2のムの修行を思い出した
音が聞こえるだけこの仔はマシなんだろうか…それもそのうち奪われそう 男が飽きた頃には辛いと思う心を潰されてお終いかな |