タイトル:【虐】 愛しても、いいですか?4/5
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初投稿日時:2006/08/24-21:45:34修正日時:2006/08/24-21:45:34
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愛しても、いいですか?  4/5



 としあきは、ルミが目覚めるより先に非音声型実装リンガルを設置すると、いつものように振舞った。
 おはようの挨拶を交わし、朝食を摂る。
 トイレの洗浄をして、昼食になる実装フードをスタンバイする。
 なんとなく、ルミの元気がないようだが、そんな事はどうでも良かった。
 玄関まで見送りに来てくれたルミに、行って来ますと小声で呟くと、としあきはそそくさと家を出た。



「…ご主人様…」

 取り残されたルミは、しばらく、玄関に立ち尽くしていた。
 あの晩から、ご主人様は突然冷たくなった。
 あんなに楽しかったお話もしてくれなくなったし、遊んでもくれなくなった。
 何か、自分はとんでもない粗相をしてしまったのだろうか?
 ルミは、あれからずっと悩み、考え込んでいた。

 どう考えても、きっかけは、あの晩しかない。
 自分が、としあきに甘えてしまい、添い寝を頼んだこと。
 あの時、としあきはとても優しそうに接してくれたが、本当は、とても怒っていたのだろうか?

 ルミは、あの時の事を反省していた。
 大好きなご主人様と、もう少しだけ、一緒に居たい。
 ただそう思って、ふと口に出しただけだった。
 それ以外、他意はない。
 媚びたわけでもない。

 ルミは、心の底からとしあきを好きだった。
 時々悲しそうな目をするとしあきを心配し、なんとか力になってやりたいと思った。
 だから、せめて気が紛れるようにと、ボール遊びをせがんだり、お話をしたりした。
 自分と接している間は、としあきは、あの悲しい目をしない。
 大好きなとしあきに、悲しい目をさせないため、自分は頑張らなければならないと、強く思い込む。
 そのためには、甘える事は全面禁止だ。
 本当は、ぺたっとくっつきたい、ぎゅっと抱きつきたい。
 だけど、我慢だ。
 としあきの機嫌を損ねないよう、一生懸命真面目に振舞おう。
 そしていつか、としあきが自分に心を開いてくれた時、自分の気持ちを伝えよう。

『ご主人様、ルミは、ご主人様がとっても大好きテチ——』

 ルミの目的は、それだった。
 それだけだった。

 ——大好きという気持ちを伝えれば、ご主人様は、少しでも嬉しく思ってくれるテチか?
 ——喜んでくれるテチか?

 ううん、喜んで欲しいテチ。
 ワタチは、そのために、ここに飼われる運命だったテチ。
 きっと、そうテチ。


 水槽のある部屋に戻って来る。
 としあきの居ない部屋の中は、いつも寂しく、どこか寒々しい。
 だがルミは、あえて胸を張って、気合を入れた。

「よチ!ルミはがんばるデチ!!」
「我慢我慢、我慢して耐えるテチ!」
「でも、ご主人様にはナイショで頑張るテチ♪」

 水槽の脇に隠された、非音声型リンガルに、ルミの言葉が刻まれていく。



 退社後、としあきは、珍しく会社の同僚と話し込んでいた。
 先日、ペットショップに行くところをたまたま見つかり、その関係で実装石の話になった。
 同僚は、かなりの愛護派だ。
 数年前に飼い実装石を寿命で失ってからは、何も飼っていないそうだが、知識はかなり豊富だ。
 としあきは、思い切ってルミに対する不安を打ち明けた。

「アホかお前」
「は?」
「あのな、その実装石はまだ子供だろ?」
「あ、うん」
「だったら、まだ不充分なところがあるのは、当たり前だろうが」
「え、でも、躾済みなんだぜ。しかも、かなりの」
「躾されたら、すべての仔実装が大人同然になるとでも、思ってるのか?」
「え?」
「お前な、ネットから影響受けすぎなんだよ。実装石ってのはな、飼い主の心を反映するんだよ」
「反映って?」
「こっちが、厳しく優しく躾けようとすると、それなりに賢くなる。でも、ただ甘やかしたり、一方的に
 サービスばかりしていると狡猾になって、こちらの心の隙を突いて来るようになるんだ」
「な、なるほど」
「お前が、その仔をまともに育てたいと誓ったなら、途中で問題起こしても、我慢して育ててやれよ」
「あ、そうだよな…うん」
「まったく、お前は昔っからそうだよな。一度思い込むと絶対考え変えないし。だいたいな、奥さんが
 逃げたのだって元はといえば…」
「!」

 そこまで言って、しまったと口を手で塞ぐ。
 つい、口が滑ったようだ。
 だが、もう遅かった。
 としあきの額には血管が浮き出し、身体がプルプル震えていた。

「す、すまん! 悪気はなかったんだ!」
「二度と、その事は言うなっ!」
「わ、解ったよ。悪かった…」

 思わず同僚を殴りつけそうになったが、必死でこらえる。

 あいつが、俺から逃げただと?
 お前に、何がわかるってんだ!!
 俺はな、俺は…すべてをあいつのために費やして来たんだ、ずっと!

 同僚に別れの挨拶もせず、としあきは、帰宅した。
 玄関を開ける直前、朝に仕掛けたリンガルの事を思い出す。

 同僚からのありがたい忠告の言葉は、としあきの頭の中から完全に消えうせていた。


「おかえりなさいテチ」
「…うん」
「元気がないテチね。お身体は大丈夫テチか?」
「…」

 無言で靴を脱ぐと、そのまま、ルミの水槽のある部屋へ向かう。
 隠してあった実装リンガルのログを、頭まで遡る。

 としあきの心の中で、何かが音を立てて、砕けた。


「我慢我慢、我慢して耐えるテチ」

「ご主人様にはナイショで頑張るテチ」


 ルミが…俺に何かを隠している?!
 何を…我慢する必要があるんだ?!
 なんだ…なんだなんだなんだ、なんだこれはぁっ?!

 どす黒い感情が、としあきの胸中に広がっていく。

 その後に続く、としあきへの思いが綴られた多くの言葉は、最後まで読まれることはなかった。


 ルミはその日、夕食も与えられず、風呂にも入れてもらえなかった。
 帰宅した後、としあきは、ルミとはまったく顔を会わせようとしなかったのだ。
 ルミの不安と心配は、ピークに達していた。
 きっと、とても口に出せないような、辛いことがあったに違いない。
 だから、あんなに気落ちしているのだろう。
 こんな時、私は、ただじっとしているだけでいいのだろうか?
 私の事を、あんなに優しく抱き上げてくれたご主人様を、ただ苦しませてしまって、いいと言うのだろうか?

 ルミは、決意した。
 水槽を出て、トテトテととしあきの部屋に向かう。
 部屋の仕切りはドアではなく、襖だ。
 ルミの移動用に、少しだけ隙間が開けてあるため、部屋に行くのは容易だ。
 最大の難関の階段も、無理すれば昇れなくはない。
 多少苦しくても、構わない。
 としあきは、もっともっと苦しんでいるのだ。
 それに比べれば、この程度の苦難、なんてことはない。
 ルミは、ぴょんと飛び跳ねて段の上辺に手をかけると、両脚で身体を支え、無理矢理よじ登った。
 そうやって一段一段昇り、二階にあるとしあきの部屋を目指す。
 非力な実装石…しかも、まだ成体になっていないルミには、それはあまりにも過酷だった。
 もちろん、階段を昇ったからと行って、すぐにとしあきの部屋に行けるとは限らない。
 だが、一生懸命なルミの頭には、そんな事は思いもつかなかった。

 一時間くらいかけて、ようやく階段を昇り切る。
 もう、全身に力が入らない。
 だけど、灯りの漏れている部屋は、すぐそこにある。
 ルミは、匍匐前進するように身体をうねらせて、灯りの部屋を目指す。
 二階の床は、掃除が行き届いていないようで、服にかなりの埃がまとわりつく。
 だが、必死のルミは、そんな事にも気付いていなかった。


 灯りの漏れている部屋の中では、としあきが、机に座って何かしているのが見える。
 ルミにとって、それは、寂しさのあまり沈んでいる光景に映った。
『ご主人様!』
 ルミは、思い余って、つい部屋の中に飛び込んでしまった。
 無断で主人の部屋に立ち入る事は、躾で厳しく戒められていた筈なのに。


「テチ〜!」
「る、ルミ?!」

 振り返ったとしあきは、足元で鳴き声を上げるルミを見つけた。
 なんということだろう。
 服はボロボロに汚れ、ところどころ穴まで開けている。
 自慢の髪もよじれ、乱れ、汚れており、両手足も真っ黒だ。
 それなのに、表情だけは妙に明るい。
 こいつ、どうしてこんなところに?
 いや、それ以前に、どうやってここまで来た?
 いったい、何が目的なんだよ!!

「お前、そんなに餌が食べたかったのか?」
「テチ? テチーッ、テチテチテチ、テチーッ」

 としあきは、普段使っている実装リンガルのスイッチを入れてなかった。
 だから、足元で一生懸命、としあきを励ましているルミの言葉も、心も、優しさも、理解できなかった。
 ただ、飢餓感に押されて、ここまでやって来たと信じ込んだ。

 汚れた衣服と髪、身体は、としあきの心に怒りの火を着けた。

「来い!」
「テチ?!」
「まったく、こんなに汚して! 意地汚い奴だ!」
「テチッ、テチッ!!」
「今日はお仕置きだっ! 二度と、こんな事出来ないように、きつくな!」
「テチーッ! テチーッ!」


 その晩、結局ルミは、最後まで夕食をもらえなかった。
 服を引き剥がされ、身体にぬるま湯をぶっかけられ、大雑把に汚れを落とされただけで、水槽に放り込まれた。
 服は洗濯してやると、としあきが言っていたから、捨てられたわけではないらしい。
 だが、今夜はすっ裸で我慢するしかない。
 洗われてる最中、大切な髪がいくらか抜けてしまった。
 だがそんな事よりも、ルミの心を深く傷付けたのは、としあきの怒りだった。

『ワタチ、ご主人様に、お声をかけたテチ…』
『元気出してくださいって、ワタチで良ければ、いつも一緒に居ますからって、伝えたテチ』
『でも、ご主人様は…ワタチの言ってることをわかってくれなかったテチ…どうして?』

「テ……テエェェェン、テエェェェェン…」

 ルミは、この家に来て、初めて泣いた。
 とても悲しかった。

 怒られたからではない、お仕置きを受けたからでもない。
 大好きなとしあきを慰められなかっただけでなく、さらに怒らせてしまったことが、無念で仕方なかったのだ。

 このまま、としあきは自分を嫌いになってしまうのだろうか?
 ルミは、全身にのしかかるような不安に怯え、ただずっと震えていた。


 としあきの部屋のモニターには、あの掲示板が表示されていた。
 昨日の書き込みに、いくつかの返信が付いている。
 その中に、管理人からのレスがあった。

“実は今、私も管理人さんと同じような流れで、躾済み実装石を飼い始めました。
 ですが、ここを見てとても不安になりました。

 私の所の実装石も、いつかはそちらのようになってしまうのでしょうか?
 それは、避けられないのでしょうか?”


“書き込みありがとうございました。
 そうですね、残念ですが、あなたが疑問を抱くような原因があったということは、間違いなく糞蟲化が
 始まっているという証拠です。
 こうなったら、どんなに躾を強化しても意味はありません。
 飼い主のあなたの心が傷付く前に、対処した方が賢明だと思いますよ”


 キーボードの横には、非音声型リンガルが置かれている。
 帰宅直後に発見した、ルミの言葉を表示したまま…

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