ぬこ 私の名前は「ごろんた」 誇り高きぬこの種族。 誉れの証たる二股の尾を有すぬこ。 私はこの双葉町をシマとするぬ組の親分だ。 今日は私の一日を紹介しよう。 朝 他のぬこはどうだか知らないが、私の朝は早い。 陽が登ると起きだし、朝のウォームアップをしに優雅な足取りで人間のゴミ捨て場に行く。 そこには人間のゴミを狙う生き物が大挙して押し寄せている。 人間が実装石と呼ぶものだ。 先程、生き物といったが、正直私にはこれが生き物の類だと思わない。 生き物に偽装した何かだと私は思う。 人間はこれを一時は生き物として扱っていたそうだ。 全く愚かな事だ。 さて話が長くなったが、朝の体操を始めることにする。 したっしたっした 矢の如き勢いで不愉快なヒトガタとの距離を詰める。 「デスゥ?」 気づいたときにはもう遅い。 ばりばりばりばりばり! 大きな実装石(たぶん大人)の顔面を引掻く。 「デギャアアアアアアア!」 引掻いた勢いで赤と緑の玉が地面に転がる。 それを咥えて噛み砕く。 どうやらこれは目玉のようだ。 「デスゥ?」 「デチィ?」 「デジャアアア!」 実装石の群れは大混乱に陥る。 愚かなヒトガタだ。 群れを為しておきながら、リーダーの存在が明確ではない。 だからいくら集まろうとぬこに対して脅威にはなりえない。 移動しながら蟲を抱えた小さな実装石を踏み潰し、実装の子供を射程に捉える。 がぶり 首の辺りから咥え込み、顎に力を入れながら疾走する。 「テチー!テチー!」 助けを求めているのだろうかテチテチ吼える。 「ふん!」 ぶちり 首と胴はさようならだ。 「デチャアアアア!」 大人の実装石の一匹がこっちに向かってくる。 当の本人は全力疾走のつもりだろうがあまりにも遅い。 「デズゥ!」 目から涙をぼろぼろ流してこちらに向かってくる。 この子実装石の親であろう。 しかし私は容赦しない。 そのまま一直線に相手に向かい、すれ違い様に眼球を一薙ぎする。 「デズァ!アアアアアアアア!」 眼球を押さえうずくまる親実装石。 周りを見渡すと多くが逃げ出そうとしている。 しかしもう遅い。 「デスゥ!」 そう、私以外のぬこがもう目を覚まし「体操」にやってきたのだ。 「「「「「「「デスゥ!!」」」」」」」 毎朝毎朝懲りない連中だ。 数瞬の後、道路に実装石の十重二十重の悲鳴が上がる。 この悲鳴を目覚ましとし、人間は朝をさわやかに迎えるのだ。 こうして今日も醜いヒトガタをズタズタにし、子実装の多くを地獄に叩き落してやった。 周囲には大量の子実装の死骸が転がっているが、これは鴉が始末するであろう。 上を見上げると、既に電線には大量の「始末屋」がこちらを見下ろしている。 実装石ほどではないが、忌々しい生き物だ。 こぬこを襲い、自身の食事は我々が始末したヒトガタを喰らう。 奴らの小さい脳味噌には誇りとか尊厳という単語は無いのであろう。 さてそろそろ人間が起きだしてくる時間だ。 つまりは朝食の時間。 人間の家の庭を散歩がてらに、とことこと散歩していると朝食が用意される。 実装石を「清掃」している「みかじめ」というわけだ。 ぬこは怠惰だとか言っている人間の皆、ぬこはこんなに働き者なんだよ。 だからたまには「モンペチ」を・・・・・ごほんごほん!ぬこは喰わねどツンとお澄まし! どうか先程の言葉は忘れて頂きたい。 さて食事が終わると用を足したくなる。 用を足す場所は秘密だ。 でも人間にすぐ見つかるようなところに用を足すような真似はしない。 私達ぬこは人間の優しさも、人間の恐ろしさもよく理解しているのだ。 実装石のようなぽっと出と一緒にしてもらっては困るよ。 朝から昼 さて、飯を食ったら眠くなる。 私達ぬこは人生の殆どを寝てすごす。 その夢の中で思索に生きるのが我等ぬこの本分。 いつもの塒に向かうと先客がいた。 私と同じ二股の尾を持つぬこ、「こげんた」だ。 このぬこは所謂、偏屈者というか変ぬこというかとにかく変わり者なのだ。 やれ、自分はかつて殺されただの、人間に虐待されただの、実装石は存在しなかっただの、かなりいかれている。 そもそも殺されたなら自分自身は何なのだ?幽霊だというつもりか? 人間に虐待された? そもそも虐待すべき対象たる実装石を無視して、人間がぬこを虐待するはず無いだろう。 人間に襲われる事も確かにあるが、それは人間のテリトリーを犯したものだけだ。 実装石が存在しない? そこらをうろつく醜悪なヒトガタの姿はその目に映らないのか? このいかれた精神構造がぬこ社会からこげんたを孤立させていた。 一応、見苦しい真似や人間を敵に回すような真似はするなと言い含めているし、それを守っているので排除されるほどではないが。 まあ私と同じ二股の尾という「力」の証明を有している為、私とはそれなりの親交がある。 「狩にいかない?」 こげんたが誘いをかけてくる。 ここで言う狩の相手はもちろん実装石だが、狙うのは特別な実装石だ。 すなわち「飼い実装」 人間嫌いのこげんたが、唯一私達共生派と行動を共にするのが飼い実装狩りだ。 こげんたは人間に大事にされている実装石が気に入らない様だ。 ほおって置けば普通の人間にも迷惑を掛けかねないが、その辺に関しては町中のぬこが目を光らせている。 流石に、同じぬこに狩られるのは嫌なのか大人しく従っているようだ。 その為に、こうした利害が一致する状況になると、こげんたは頼りになる。 さて、飼い実装を狙う我々のメリットに付いて説明しておこう。 実装石は人間にとって嫌われ者だ。 我々は動物愛護法なるものに守られているが、実装石は守られていない。 人間のテリトリーを脅かす存在だからだ。 しかし、人間が所有する器物という状態になると話が変わる。 無礼な態度で人間の町を練り歩き、実害が立証されるまでこの醜悪なヒトガタの跳梁を許す事になる。 しかし、のらぬこという事になっている我等ならば始末屋にはうってつけだ。 飼い実装に対して戦果を挙げれば、みかじめは間違いなく豪華になる。 これはこれまでの実績から証明済みだ。 「仲間を集めてこよう」 私はひと走り、仲間を集めに回った。 ・・・1時間後・・・・・ かなりの数が集まった。 これならば大人の実装石も殺しきれるであろう数だ。 「じゃあ、手筈どおりに・・・・・」 人通りの少ない裏路地を忍者のように多くのぬこが移動する。 ・ ・ ・ 昼 通りにデコデコと派手な装いをした集団が現れる。 「デッスゥ」 「テチテチ」 「テッチャッチャ」 「テステス」 「レフーレフー」 大人一匹、子供2匹、小さいのが一匹、蟲一匹。 今回のターゲットの飼い実装だ。 その横にはでっぷりとした強い臭いを発する女がいた。 「エメラルドちゃん、ほんとにいい天気ねえ」 どうやらこいつが飼い主のようだ。 飼い主がいると危険が大きいだろうが、このオバハンに自分達が戦果を挙げたことを他の人間に伝えて貰わねばならない。 人通りもそれなりにある。 その周りの人々もこのオバハンと実装石に不快な雰囲気を発している。 まさに頃合だ。 ニャアアアアア! 雄叫びを上げて攻撃の始まりを伝える。 その瞬間、周囲の影から十重二十重のぬこ達が実装石達に攻撃を加える。 「デズゥ!!」 最初に私が親実装を襲撃し、光を奪う。 「デズゥ!デジャアアアアア!」 顔面を押さえ転げまわる実装石。 「ヒイイイイイイイ!エメラルドちゃん!助けて!誰か助けて!」 オバハンが周囲に助けを求めるが、誰も助けようとはしない。 悲鳴を聞いて助けようとした人も、飼い実装の姿を見て引き返していく。 「何で誰も助けないの!私を誰だと思っているの!」 助けてくれぬ周囲に悪態をつくオバハン。 その間にも実装石たちは次々と肉塊になっていく。 まず一番小さな子実装と蟲が潰れた。 次いで子実装一匹に対して、四匹のぬこが飛び掛り、肉片に変えていく。 「キイイイイ!この糞猫共!あっちにおいき!服が汚れる」 服が汚れるのを嫌がる為か、なかなか思い切った行動が取れないオバハン。 その間に既に子供は全滅している。 「デズゥ!デズゥ!オロローン!オロローン!」 目が見えずとも子供達が皆死んでしまったのが解ったのか、オロロンと泣いている。 しかし別に全てが終わった訳ではない。 手の空いた者達がこぞって親実装に襲撃を始める。 「デジャアアアアアアア!デズゥジャアアア!」 甲高い悲鳴を上げ、助けを求める親実装。 しかし助ける者はいない。 他の愛護派がいれば助けて貰えるかもしれないが、少なくともここにはいないようだ。 親実装は体をズタズタに引き裂かれる。 まず髪が無くなった。 前髪も後ろ髪も肉ごと引きちぎられている。 そして遂に最後の時が来た。 ぶちぶち! 噛み千切られた肉片の中に緑色の石が見つかる。 それに気づいたのか。 「デズゥデズゥデズゥーーーーーーー!!」 といやいやをするようにひときわ大きな悲鳴を上げる。 ガリ 偽石咥えたドラぬこが偽石を噛み砕く。 「デスゥ!」 ばちゃ! まるで内側から弾けるように親実装の体が爆ぜる。 「ひいいいいいいい!エメラルドちゃーん!いやああああああああ!」 ムンクの叫びのように頬に手を当てて絶叫するオバハン。 その光景を楽しいバラエティーを見るような顔で見物する通行人達。 戦果を挙げたことを確認し、皆一斉に散らばりその場を後にするぬこ達。 オバハンの姿は悲惨なものだった。 最後に爆ぜた親実装の肉片を浴びて、高価であろう服は糞と血肉で汚れている。 往来で放心しポカンとしている。 ぶふっ 通行人の誰かが拭きだした。 その瞬間オバハンが切れる。 「うわああああああああ!何よ何よその態度はーーーーー!」 いきなり通行人に襲い掛かるオバハン。 右往左往する通行人の皆さん。 「図に乗ってんじゃないわよ!この庶民共!セレブのあたしに対して何なのよその態度はーーー!」 周囲の人に殴りかかり、歯をむき出す。 そしてハンドバッグから何かを取り出す。 バチバチバチバチ!! スタンガンである。 「この塵!高貴なあたしの指導を受けなさい!」 そういって周囲の一人にスタンガンを押し付ける。 「ギャア!」 一瞬で昏倒する通行人の一人。 どれだけの威力を有しているというのか。 まるで人間サイズの実装石が暴れているような暴れっぷり。 しかしそれも長くは続かない。 パトカーのサイレンと共に警察官が現れる。 「君!抵抗を止めなさい!」 取り押さえにかかる警察官。 しかし、「煩い!!」 いきなりこともあろうに警察官に対してスタンガンを押し付ける。 「ギャ!」 一瞬で昏倒する警察官。 「只のスタンガンじゃないぞ!」 警察官が距離をとる。 「本部!スタンガンを持った女性が暴れている!既に一人やられた!至急増援を!」 どんどんと大事になっていく。 私はそれを見届けるとその場を離れた。 後は人間の問題だ。 さてお昼寝の時間だ。 夜 夕食、ご多分に漏れず今日の夕食は豪華! 多くの家から、高級カリカリやモンペチを用意された。 人間達も機嫌がいい。 よっぽど嫌われていたんだろうなあの女。 腹をパンポンにして塒に帰る。 途中、出会った実装石たちは当然引掻いていく。 塒に帰るまでに子8匹と親一匹の眼球を引掻いてやった。 食後の運動に実装石は最適だ。 これが私達ぬこの一日だ。 無論、個人差や地域差はあるだろうが、概ねこんなもんだ。 何か質問はあるかい? 何? 「二股の尾に何か意味があるんですか?」だって? おいおい、気づいていなかったのかい? 私は人間の言葉を理解していたんだぜ。 おかしいと思わなかったのかい? そう、これは「ぬこまた」と呼ばれる上位のぬこの証だ。 理解できたかな? ところで君達の町の実装対策はどうかな? 今なら格安でぬこを派遣するよ。 ご用命は双葉町ぬ組の親分ごろんたまで。 待ってるよ!。
