タイトル:【観察】 実装石と生きる一族⑨
ファイル:実装石と生きる一族⑨.txt
作者:石守 総投稿数:9 総ダウンロード数:664 レス数:5
初投稿日時:2022/12/15-20:54:44修正日時:2022/12/15-20:55:31
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   実装石と生きる一族⑨   実装石の袋と祖父の遺産①


ホソとチュウを連れて移動した先は、糞蟲案山子どもの晒し場だ。
禿裸に剥かれ、手も足も耳ももがれ焼かれた、絵に描いたようなダルマ案山子が
一丁前に絶望の表情で呆然と大小6つ、並んでいる。
その傍らには、これら手足耳無し禿裸案山子作成の過程で残った糞蟲どもの羽、
通常でいうところの、服やら頭巾やらが無造作に積んである。

糞蟲案山子の作成は、糞親蟲1匹と糞仔蟲5匹の偽石の機能が麻痺している間に、
これら全てに対して行わなければならなかった。
文字どおり、時間との戦いだったこともあって、服や頭巾も、手足耳と同じく、
刈込バサミで無造作に切り取ったため、ズタズタになってしまった物が多い。
それらは切り取った手足耳と一緒に庭蟲どもの糞穴に捨てたのだが、意外と、
特に糞仔蟲のそれは、原状をとどめている部分も多かった。
それらをここにまとめて置いておいたのだ。

「袋は糞蟲どもの服や頭巾を使え。
 糞蟲の臭いや汚れが付いているが、洗えば少しはマシになるだろう」

私は日課である塩素系洗剤での裸禿糞蟲案山子洗浄を行いながら(ただ単に
原液をぶっ掛けているだけだが)、ホソとチュウに告げる。

糞親蟲は痛みに敏感に反応して声無き悲鳴を盛大に上げる。
総排泄腔の痕を貫き通している鉄パイプは、地面にしっかりと刺し込んであるが、
これが音を立てて揺れるほどに激しく暴れるが、一方で、糞仔蟲どもの身動きは、
少し弱まったように思える。
身悶えのレベルがウゴウゴからイゴイゴになった感じだ。
分かりにくい表現だが。

まあ、手足耳をもがれてそこを焼かれた上に、小さい身体に鉄パイプを刺されて、
雨風日射に曝されて続けているのだ。
しかも自分の糞を喉の最奥まで突っ込まれたチューブにより強制的に摂取させられ、
そのために声も出せず、ご丁寧にも、その惨めすぎる自身の姿を眼前に置かれた
フィルム鏡によって、つぶさに見させられている。
成体より気力も体力もない仔実装では、衰えるのが早いのも仕方がない。

私は、切除して焼いた糞蟲カカシどもの手足耳や卵巣が再生していないか、
糞循環用の管が暴れて口から外れていないかをチェックする。
ついでに糞親蟲案山子の腹に木の枝を刺しておく。

新たな苦痛に一層激しく暴れるが、口に突っ込んだチューブのお陰で声が出せず、
静かで実によろしい。
これすら致命傷にはほど遠いので、手足耳無し禿裸糞親蟲案山子にとっては単に
苦しみが増えて、かつ、長引いただけだ。
手足耳無し禿裸糞仔蟲案山子どもも、地獄は悪化することがあることを知らされ、
新たに恐怖が増したようで、赤緑の血涙を流している。

なお、この追加措置には何の意味も無い。
なんとなくだ。

ホソとチュウは、酷い扱いを受けている同属を見ることの恐怖か、又は結果として
糞蟲どもから命と髪の次に大事な服を奪うことになる罪悪感からか、糞蟲案山子を
一切見ることなく、小さく震えながら糞蟲の脱け殻を確認している。

「庭蟲の仔蟲どもには、糞仔蟲の頭巾が、大きさ的にも使いやすいだろう」
『はいデス(テス)』

頭巾は実装石の頭部と耳を覆い、顎の下まで繋がって一周していて、それ自体が
袋として完結している。
頭から外せば、そのまま使える代物だ。

ホソとチュウは、5匹の糞仔蟲の頭巾全てが使えると判断したようだ。
糞仔蟲どもは、刈込バサミの先で頭巾を外してから髪と耳を切り取ったから、
ほぼ無傷だったのだろう。
庭蟲の仔実装は、ちょうど5匹だ。
これで仔実装分の袋は確保できたことになる。

お次は、デカ、ホソ、チュウの袋だ。
3匹には、まだしばらくは持ち込みのビニール袋を使わせてやるつもりだが、
この機会に実装石に相応しい袋の作り方を教えておく。

第一、せっかく新鮮な実装石の服があるのだ。
糞蟲どもの服をこのまま野外に放置して、雨風で傷んでしまってはもったいない。

チュウが持つには、糞親蟲の服が、おそらくはちょうど良い大きさだったのだろうが、
思い切りズタズタにしてしまったので、今は糞穴の中だ。

成体のホソ、ましてや特大実装石であるデカが持つに相応しい大きさの袋には、
糞仔蟲の服では全く用を足さない。

ここで、フェルトに例えられる実装石の服の特性が役に立つ。

羽毛が変質したそれは、繊維が無秩序に複雑に絡み合って成立している。
この性質を利用する。

といっても大した手間は掛からない。

まず、糞仔蟲の服を靴底で(手で触りたくない)引き裂いて概ね四角形の布状にする。
その布を2枚地面に広げ、それぞれの一辺の端を、ある程度の幅で重ねて置く。
その重なった部分を石の平らな部分で叩いていく。

仔実装の服は、親実装のそれに比べて薄く、柔らかい。
石で叩いていくと、繊維がしっかりと絡み合って一体化し、さほど時間を要さずに
2枚の切れ端が、より大きな1枚の布地となる。

次いで、その布地の対角線にある角を重ね、同じように叩くと、持ち手状になる。
もう1組の対角線も同様にすれば、実装石が腕を通して持てる袋の出来上がりだ。

なお、隣り合う角で輪にすると物を入れやすくなるが、中に入れた物が横から
こぼれやすくなってしまうデメリットがある。
その改善方法もあるが、説明が面倒だし、この袋の作成と使用が初めての今としては、
対角線方式で十二分に用が足るはずだ。

丸手の実装石は、結ぶ作業が不得手だ。

一方で、実は実装石は、握ることは割りと得意である。
丸手の中には指に相当する骨が、人間と同じく5本存在し(だだし、その5本は
全て一列に並び、かつ、同じ長さだが)、手の平に相当する部分に、とても柔らかい肉が
丸く、分厚く着いている。
指に相当する骨には、2か所ずつ間接があって、曲げることが可能な構造になっており、
そして手の平の分厚い肉は圧迫によって自在に変形する。

イメージが上手く伝わらないかもしれないが、足の指のように並んだ5本の指全てが
手の中指のように長く、丸いスポンジごと、何かをつかむことを想像してもらいたい。

それが実装石の丸手だ。
石を持って叩く程度の作業は、難なくこなせるはずだ。

そして、叩き接合方法で作った袋なら、あまり重い物は入れられないだろうが、
劣化しやすいビニール袋より余程丈夫で長持ちする袋となる。

胸羽、白い前掛け部分は、緑の服よりも柔らかいので、叩き加工もよりしやすく、
力が弱いチュウ向きだろう。

私は5分もかからずに実装石服袋を完成させた。

「見てたか?簡単だろう。
 チュウ蟲は、こっちの前掛けで作ってみろ」
『分かりましたデス(テス)』

ホソとチュウは、作業に入る前に、一旦仔蟲どもを呼び寄せる。

『さあチビちゃんたち、これがニンゲン様が使うのを許してくれる袋デス。
 ひとりひとつずつもらうデス。
 ニンゲン様にちゃんとお礼をするデス』

仔蟲どもはホソとチュウから糞仔蟲頭巾の袋をもらい、チトチトチトチトと走って
私の足元に来て、ピコッとそれぞれお辞儀をする。

『ニンゲン様、アタチたちの袋ちゃん、ありがとテチ!』

   別に俺が与えたわけじゃねえがな
   むしろ糞蟲案山子どもに礼を言うべきでは?

仔蟲どもはテチャテチャと喜んで無邪気に騒いでいる。
ビニール袋では仔蟲にはデカすぎて持てないから、この仔実装どもにとっては、
生まれて初めての「自分の袋」なのだろう。
私から見ればどうでもいいことだが、実装石の生活における袋が持つ役割の
大きさを考えた場合、実装石にとって、自分専用の袋を貰えるということは、
かなり重要な出来事になるのかもしれない。

ホソとチュウは、はしゃぐ仔蟲どもの頭を優しく撫でてやっている。

『おチビちゃんたちは、もらった袋ちゃんを洗うデスゥ。
 洗って乾かしたら、土運びをするデスゥ』

親指2匹を連れ、蛆実装を優しく抱えたデカが声をかける。
この一族の大黒柱たる自分自身の回復を優先しながらも、子守りや仔実装への指示など、
出来ることをしっかりとやるところが、さすがと言える。

仔実装どもはデカに連れられ、水場で実装頭巾袋を洗い始めた。
デカはそれを絞り、脱水してやる。
丸手の割に、器用なものだ。
そして、力の入り具合を見る限り、完全回復も近いようだ。
この様子なら、仔実装たちはデカに任せておけば大丈夫そうだ。
仔実装どもはそれを日の当たる場所に広げて干す。

ホソとチュウは、私の教えに従い、石でトントン叩いて袋を作成中だ。
眺めている感じでは、きちんと作れている。
単純な製法のせいもあるだろうが、私の手順を一度見ただけで、しっかりと
作成法を理解したようだ。

賢い。

「ホソ蟲とチュウ蟲。
 ああ、こっちに来なくていい。袋を作りながら聞け。
 とりあえず庭蟲1匹に一つずつ袋を作ったら、食糧保存用の穴作りに戻れ。
 後で、糞蟲どもの服の切れ端があるのを全て袋に作っておくんだぞ。
 あればあるほどいいからな」
『はいデス(テス)』

この件は、これで良いだろう。

しかし、今更だが、これだけの細かい内容の正確な翻訳を可能にしている
我が社製の最新非売リンガルの性能の高さは驚くばかりだ。

実装石の言語発音能力は、種族的に近い鳥類のそれに比べると、かなり劣る。
人類に最も近い言語発音能力を持つのが鳥類であることは、九官鳥や鸚鵡などを
例に出せば分かりやすい。

知能としては実装石の方が上だし、実装石同属間でのコミュニケーションの
複雑さを考えれば言語発音能力がもっと進化しても良さそうなものなのだが。

私の祖父は、その点について、実装石の祖先が鳥類の中でもフクロウ類に近かった
ことによるものと考えていた。

確かに、見た目を考えれば、この両者の、特に顔は、良く似ている。
フクロウは鳥類の中でも特別に、顔の真っ正面に目が向いている。
そしてその目は顔の面積に比して巨大だ。
さらにフクロウの高い知能は、コミュニケーション能力を除けば、実装石のそれと
比してもさほど違いはない。

そしてもう1点、祖父の実装石≒フクロウ説を強力に補強する事実がある。

私は、手足耳無し禿裸糞仔蟲案山子に近寄った。
ぐったりとしていた糞仔蟲案山子たちが恐怖に暴れ出す。

   何もしねーよ  ……今は、な

私が見ているのは、これらの耳の穴の位置だ。

実装石の耳の位置は、人間と同じく目の高さにある。
形状は、ご存知のとおり、毛の無い猫の耳を顔の両横に着けた感じだ。
そのため、通常の状態では気付くことは、まずないのだが、こうして耳を
もぎり取ってしまうと分かりやすい。

実装石の耳の穴の位置は、左右で高さが異なっているのだ。
これはフクロウの耳と全く同じ特徴だ。

高さが異なることで、対象の正確な位置情報を把握可能にしている。
加えて、正面を向く巨大な目が立体的に視覚情報を捉える。
そして、これら優れた聴覚と視覚による膨大な情報を瞬時に処理する高い知能。
これらの点で、実装石とフクロウは共通している。
私が亡き祖父を天才と敬慕する理由が、こうした斬新かつ論理的な着眼と
発想にある。

そうした高度な能力の反面、フクロウと共通の祖先を持ったことは、実装石に
発音能力での限界を宿命づけた。
成体であれば、人間には、「デス」「テチ」などとしか、その発声は聞き取れない。

しかし卓越した聴覚も併せ持っていた祖父は、「デ」の発音が約10種類、
「ス」の発音が約6種類あることに気付いた。
そしてそれに気付いてしまえば、それらを組み合わせることにより、実装石どもが
人間に匹敵する会話を行っている事実を解明するまで、さほど時間はかからなかった。

とはいえ、そこから組み合わせられた発音と実装石の意図を関連付ける作業には、
さすがの祖父も長い時間、大変な苦労を重ねたようだが。
まして、それを機械的に処理するリンガルの開発にはさらに長い労苦を要した。

何しろ、単為生殖で完全クローンの実装石でも、体格や成長段階による個体差があり、
加えて、目や耳の高性能さに比べれば、ほぼ役立たずと言える常時詰まり気味の鼻のせいで、
ただでさえ微妙な違いしかない発音が、さらに不明瞭になる。

それほどまでして実装石ごときと会話をしたかった祖父の情熱には、正直、
かなり引く思いがする。
何しろ祖父は「実装石語」の解析からリンガルの基本設計まで、たった一人で
成し遂げたのだ。

スゴいを通り越して、極めてヤバい。

その恩恵で悠々自適な生活を送らせてもらっている自分が言うのもナンだが。

とは言うものの、祖父がそこまで実装石に拘った気持ちも理解できるのだ。

何故ならば、祖父こそが、『実装石』を創り出した人物だからだ。

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防護服を脱ぎ、シャワーを浴びて、部屋に戻った。

純香と美翠は協力して家事をしているので、今は一人、静かに過ごせる。

私室に隣接する執務室に入る。

祖父から受け継いだ、畳1畳ほどもある巨大な事務机の鍵付き引出しから、
数冊を綴った古ぼけたノートの束を取り出す。

これは、祖父の日記を兼ねた実装石に関する研究の覚書だ。

祖父の生まれた家、その一族、つまり私の一族は、1千年以上も昔から代々、
この政令指定都市が所在する県の隣接県、その中央に聳え立ち、霊山と称される
秀麗な双耳峰・双葉(ふたば)山、その南麓の2つの古神社を管理している。

これらの神社は、とある特殊な禁忌があり、恐れられると同時に、崇敬されてきた。
その惣領である祖父は、それだけでも周囲から距離を置かれる立場だったのだが、
さらに不運にも、祖父は、天才だった。

生まれながらに裕福で、かつ、敬われ、しかも天才。
それが故に、他人を嫉妬するという感情を知らず、他人の嫉妬も理解できない。
それが祖父という人物だったのだ。

当然のように、少年時代から、祖父は孤独だったようだ。
ようだ、というのは、祖父が書き残した周囲の人物の様子言動から推定したに
過ぎず、祖父自身はそのことを特に気にもしていなかったからだ。

祖父にとっては、自分の知的好奇心を満たすことが人生のほぼ全てだった。
哲学から生物学、電子回路工学など、不思議に思うことは何でも吸収した。
当時の理論・技術が足りなければ自分で考え、人知れず生み出してしまった。

嫉妬心をはじめとする、他人の負の感情など、構っている暇はなかったのだ。

ただし、人間の負の感情と、それによる行動には、非常に興味を持った。

何故、人間はこれだけの知能を持ち、高度な社会を築き上げながら、意味不明な感情に
振り回され、理性を失って、非生産的・不経済・理不尽な行動を際限無く繰り返すのか。

祖父はこの答えを見つけるためには、観察や思考、通常の実験だけでは足りないという
結論にたどり着いた。

この時、まだ20歳代だった祖父は、生体実験をすることに躊躇いを持たなかった。
とはいえ、さすがに人体実験は選択しなかった。

祖父が目につけたのは、とある生物だった。

人間と比して体格は3分の1ほどしかないが、ヒトと同じく直立二足歩行をし、
類人猿やクジラ類よりも高度な言語と社会生活を持っていると思われる生物。

この生物こそが、我が一族が管理する古神社の『禁忌』だった。

古代の巨石信仰の有り様を色濃く残す2つの神社は、双葉山南麓の斜面一帯に、
それぞれ広大な禁足地を持つ。
この極めて特殊な生物は、その禁足地内で“のみ”、奇跡的に生き残っていた。

   あ る 時 ま で は

標高100メートルほどにある、麓の集落に近い神社は、太陽石神社という。
この周辺に棲息するこの生物のグループは、古来、「石猿」と呼ばれてきた。

概ね1千匹ほどが、岩陰や木の“うろ”などを寝床や貯蔵庫とし、木の実や野草を
集団で採取している。
肉体の回復力・耐久力は高いが、攻撃力・防御力は極めて低く、高い知能を持ち、
集団による協力体制と旺盛な繁殖力が特徴だ。

石猿がここにだけ生き残ったのは、この地が様々な生物や植物の南限でもあり
北限でもある、自然環境の特殊性・豊かさによるものが大きいだろう。

だが何より、古代の頃から禁足地として人が保護してきたのが一番の理由だ。

この地の古代人は、遺跡の発掘結果からも、食糧が豊かで文化的にも優れた生活を
していたことが分かっている。

石猿の仲間は、古代の頃までは日本各地で棲息していたと推測されているが、
人間が徐々に増えるにしたがい、その狩りやすさもあって食糧として捕獲されて
数を減らし続けた。

が、この地では、食糧にされる必要がなかったということだ。

それどころか、直立二足歩行し、言語らしき音声でコミュニケーションを
とりながら集団生活を送る、「小人」との表現がまさに当てはまるその姿に、
神秘性を見出だし、いわば神の遣いとして保護し、かつ、秘匿したのだ。

この保護・秘匿は、1千年もの間、有効であり続けた。
禁足地の豊かな自然の中で、自然の摂理に従い、石猿の数は一定が維持されていた。

しかし、大正時代以降、麓の人間の生活が豊かになり始め、変容するとともに、
それまでの長い歴史の中で初めて、綻びが生じた。

要因は様々にあるが、日本一広い平野のただ中に、唯一忽然と聳え立つ双葉山が、
急激に観光地化したことが1つの大きな理由だ。

木を伐られ、旅館等の建物が建ち並び、人が詰めかけると、山中にいた獣たちが追いやられ、
太古からの自然を残す禁足地に、かつて無いほど多く押し寄せるようになった。

禁足地には、この過剰に増えた“人口”を養うだけの食糧が存在しない。

増えた生物の中で、最も弱い石猿の一部が追い出されるのは当然の流れだった。
石猿の2割ほどとみられる集団が、禁足地を離れ、集落近くに棲むようになった。

野生動物と同じく、石猿は人の姿を見ると隠れる習性があるが、これまでとは
比較にならないほど人間の生活圏に近付けば、接触も増える。
接触が増えれば、やがて、慣れる。
慣れれば、“甘え”も出てくる。

そして、結果として、麓の集落の住民に、石猿保護の精神が根付いていたことは、
この場合、仇になったといえる。

食糧難の石猿が、畑の端に打ち捨てられた農作物を拾って食べるのも黙認したし、
特に厳しくなる冬に、家庭のゴミをあさることがあるのも、よほどの実害がない限り、
見て見ぬふりをした。

当然、石猿は、増えた。
爆発的に。
棲息範囲も一気に広がり、戦後には、村から町となったこの地域全体で、その姿を見ることが
ごくごく普通のこととなった。

そうなると早くも、糞害・悪臭が無視できない問題となった。
人間の残飯が食糧の一部となることで、糞の臭いが強くなったことも影響した。

そして、麓の集落以外には、禁忌の意識が元々存在しないことにより、当然の帰結として、
禁足地を離れた石猿は、この時期既に、嫌われる存在となりつつあった。

その頃には、人里近くにいるこの生物は、もはや、石猿とは呼ばれなくなった。

『石蟲』
これが新しい名となった。

祖父は、この石蟲に目を付けたのだ。

……前置きが長くなったが。



     ——続く——

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1 Re: Name:匿名石 2022/12/15-23:55:43 No:00006633[申告]
段々と伝奇物のような壮大さが出てきて期待が膨らむんです!
2 Re: Name:匿名石 2022/12/16-00:02:38 No:00006634[申告]
待ってた
ありがとう
3 Re: Name:匿名石 2022/12/16-07:50:03 No:00006635[申告]
戻ってきてくれたのですね!
嬉しい限りです。
これからも楽しませてください。
4 Re: Name:匿名石 2022/12/18-03:16:31 No:00006638[申告]
実装石とは…
5 Re: Name:匿名石 2022/12/28-14:19:33 No:00006650[申告]
おおお、なんか凄い設定ができてる…。
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