タイトル:【観察】 セーフ・ザ・ワールド
ファイル:セーフ・ザ・ワールド.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3377 レス数:8
初投稿日時:2022/11/07-14:25:40修正日時:2022/11/07-14:25:40
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「これで冬篭りの支度は終わりデスゥ」

出入り口を塞ぐ針金をギュッと締め上げて実装石は一息ついた。

「おうちの中がくらいテチ」「ウンチはここでするテチ?」

後ろから我が仔たちがテチテチと話しかけてくる。
早くに母親や姉妹と死別し、一人でなんとか生きてきた。
種として持って産まれた大事な資産である髪と服も失い、同属からも距離を置くしかなかった。
しかしこの実装石は厳しい野生生活を乗り切り、秋には新しい住処と新たな家族を得て
産まれて初めての冬を迎えることが出来た。

「これだけ食べ物があれば寒いときも平気デスゥ」

住宅地の一角にある、それほど広くはない公園の隅にダンボール箱の居を構え
今は亡き母から少しだけ聞かされていた冬篭りの仕度を終わらせた。

「たべものいっぱいテチー」「おそと出たらダメテチ?」

「食べていいのは今日の分だけデス。今日からはお外には行けないデス」

仔実装たちに暖かくなるまでの過ごし方を言い聞かせる。
厳しい寒さに備えるため、ダンボール箱には拾い集めた落ち葉を保温のためにたっぷりと被せてある。
住処の出入り口であるダンボールの蓋の部分も拾ってきた針金で縛り
隙間に新聞紙を詰めて、冷たい風が入らないようにした。
布団代わりのタオルも集めた。
ボロボロの雑巾さながらではあるがダンボールの中なら十分に暖を取れるだろう。
保存の利く食料も集めた。
干からびて死んでいたミミズやトカゲ。
そして食べかけで捨てられていたスナック菓子や飴玉もお正月用にとってある。

「はやくあまあまたべたいテチュ!」

積み上げられた食料に目を輝かせる仔実装たち。
きつく言い聞かせても所詮は仔ども。
言いつけを守らず、食欲に負けることもあるかもしれない。
親である自分が目を光らせていないといけないと親実装は気を引き締める。

「すぐに腐る生ゴミから食べていくデス。もっと寒くなってきたらいっぱい食べて寝て過ごすデスゥ」

仔実装たちは少々不満げな様子だったが、それでも親の言うことには従うことにした。



この狭い空間に篭り始めて何日経っただろうか。
昼の気温も10℃を下回るようになり親仔は数日に一度、空腹になると起きてエネルギーを補給する。
そして住処の隅に開けられた穴に排泄し、そのまま眠りに就く。
そんな生活が続いていた。
そしてある日の夜、親仔でぴっとりと寄り添い寒さをしのぎながら眠っていたときのことだ。
ビリビリとダンボールの住処が細かく震えたかと思うと
世界そのものが揺れた。

「デ……デェェ…ッ!?」

「テェェーン!こわいテチィ!「ママー!おウチがこわれるテチ!」

何が起こっているのだろうか。
実装石には理解できないことが起こっていた。
外で誰かが住処を破壊しようとしているのか。
とにかくこのままではいけない。
明かりも無く真っ暗な中で、親実装は寝起きと揺れでおぼつかない足を踏ん張り
封鎖していた出入り口に体当たりをするようにして外に転がり出た。

「デデデ…。いたいデスゥ………デェ?」

自分はダンボールの外に出たはずだ。
なぜこんなにも暗いのか。
今の時間が夜だということはわかるが
それにしたって町の街灯の明かりやニンゲンの家の明かりがあちこちに見えるはずだ。
目に映るのは夜空の月と星しかない。
親実装は、まるで世界そのものが死に絶えたような印象を受けた。
寝起きで目が覚めきっていないのかと思い
親実装は目を擦ってもう一度周りを見渡してみるが、やはり景色は変わらなかった。
地面がまだ微かに揺れ続ける中、この暗闇と静けさが更に不安を掻き立てた。

「テェェ…、ママどこ行ったテチ?」「まっくらテチュ…。ゆらゆらするテチュゥ…ッ」

不安げな仔実装の声が聞こえてくる。
住処に戻って仔どもたちを安心させなければ。
そう思い足を踏み出そうとしたが、勢いをつけて転がり出たせいで
この暗闇の中では自分が今どこにいるのかすらわからない。

「マ、ママはここデスゥ!大丈夫だから安心するデスーッ!」

声だけでもかけて不安を取り除こうとする。

「ママがどこかわからないテチー!」「テェェーン!こわいテチ!だれもいないテチ!」

不安がますます募っているのが仔実装たちの声からでもわかった。

「オマエたち、どこにいるデス!?もっと声を出すデス!」

焦りが出たのか、親実装の声に怒気が含まれてしまう。

「ママ怒ってるテチ…ッ?」「いやテチュ!こんなところいやテチュ!」

仔実装にはなぜ自分が怒られるのかがわからない。
困惑はすぐに混乱となり、パニックの引き金になるのに時間はかからなかった。

「もういやテチ!なんでワタチがこんな目に会うテチュ!?」「もうせかいの終わりテチーッ!!」

悲鳴にも似た鳴き声が聞こえる方向に、親実装は足元を確かめながらゆっくりと進んでいく。
どれだけ時間がかかっただろうか。
地面の揺れはすっかり治まっていた。
とにかく早く仔どもたちを安心させてやらねばという一心だった親実装は
ようやく住処に着いた頃には、仔実装たちがすっかり大人しくなっていたことに全く気が付いていなかった。

「あ、ママかえってきたテチ」「おかえりなさいテチュ!」

不安どころか上機嫌の仔実装たちが親実装を出迎えた。

「…オマエたち、大丈夫なんデス?怖くなかったデス?」

先ほどまで泣き叫んでいたのはなんだったのか。
とにかく家族の無事に安堵した親実装はダンボールの中に戻って
仔どもたちに怪我は無いか直接触って確かめることにした。

「テェェ?ママ、なにするテチ?」「くすぐったいテチィ」

おかしい。
暗くてよく見えなくとも怪我は無いのはわかるが、なぜこんなに腹が膨れているのか。
ハッとした親実装は住処の床を手探りでまさぐり始めた。

「無い…無いデスゥ!」

住処の隅に置いてあったはずの食料が丸ごと無くなっていた。

「たべものテチ?みんなたべたテチュ」「あまあまサイコーだったテチ!」

「な、なんで食べたデスッ!?あれは大事な…」

先ほどと違い親実装の声には明確な怒気が含まれていたが、今度は仔実装たちは気にもしてない様子で答える。

「だってもう終わりテチ。せかいがこわれたんテチ。きっと、お日さまが落ちちゃったんテチュ」

「みんなみんないなくなったテチュ。せかいの終わりならおいしいもの食べて死んだ方がお得テチ」

そうかもしれない。
結局外に出ても何が起こったのかわからずじまいであったし、確かにそうかもなのしれないが
自分の言いつけを守らず、冬篭りの計画まで台無しにされたことに親実装は怒りを覚えた。

「それははやまった事をしたかもしれないデス…ッ。もう一度ちゃんと言い聞かせないといけないデス!」

仔どものした事だと自分に言い聞かせ、なんとか怒りをこらえようとしたが

「どーせ死ぬからママが怒ってもこわくないテチーィ♪」「ハゲハダカのママにはあまあまはもったいないテチ♪」

と、余計な一言が付け加えられた。
極限状態や死の瀬戸際には本音が出るというが、仔実装たちのこの態度が
本当の死を招くことになった。



「どうせ死ぬんデス…。もうなにもかも失ったんデス…」

暗闇と死臭に支配されたダンボールの中で最後の食事も終えた。
仔どもたちが遺した実装服で口の周りについた血を拭う。
波乱万丈であった自身の実装生を思うとせめて静かな最期をと、親実装は眠りについた。
そして…普通に朝が来た。
明るい空に数はまばらながら道行く人々。
至って普通の日常が、眠りから覚めた親実装の眼前にあった。
呆けた顔で空を見上げる親実装のそばで、近所の主婦たちが井戸端会議を始めた。

「夜は大変だったわねぇ。地震が来たと思ったら停電が長くて」

「ほんと。ウチの旦那ったら懐中電灯探して転んじゃって。足の骨にヒビよ、ヒビ」

「あらぁ、大丈夫なの旦那さん?」

「だーいじょうぶよぉ。いつも偉そうにしてるのが、ちょっと大人しくなってこれ幸いだわ」

大声で笑いあう主婦たち。

何がおかしいのか
自分はちゃんと躾けたはずの仔どもたちに裏切られ、失ったのだ
いったい何がおかしくて笑うのか

人間の言葉こそわからないものの、その楽しげな様子に沸々と怒りが込み上げてくる。
そのときまた地面が揺れた。

「デ…ッ!?」

親実装は思わず身構える。
今度こそ世界が終わりになるのかもしれない。
額に脂汗が滲むのを感じながら、親実装は自分の足元を凝視した。

「あら…?また揺れてる?」

「ほんとだわ、やぁねぇ。ガスの元栓、一応見てこようかしら」

緊迫した面持ちの親実装と違い、主婦たちは平然と話を続ける。
それを見た親実装は愕然とした。

「ニンゲンは…誰もゆらゆらを怖がってないデス…?」

世界が壊れるのではなかったのか
では自分はいったい何を恐れていたのか
自分は何のために、すべて失ったのか

口の中に残る血の味に、滝のように涙が溢れ出た。
はやまった事をしたのは自分も同じだったのだ。

《ごめんなさいテチ!ママ、ごめんなさいテチ!!》《やめてテチィッ!たべないでテチーッ!!》

手塩にかけて育てた我が仔たちの、最期の姿と断末魔が脳裏に蘇る。
わなわなと震える手は、我が仔たちの温もりをまだ覚えている。

「…デ……デェェ…エ…。デギャアアアオオオオウ!!デギャアアアアアアアオオオオッ!!!」

親実装は四つん這いになり主婦たちに向かって吼えた。
ぶつけどころの無い感情を込め、喉が破れんばかりに吼えた。
そしてその様子に怯えた主婦たちが通報した保健所の駆除担当員に捕獲されるまで
親実装は寒空の下、一匹で吼え続けた。

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1 Re: Name:匿名石 2022/11/07-14:39:53 No:00006582[申告]
秋仔は食うためのものだろうに…
冬越しのことを学んでいたにしても肝心のところで抜けてるのは実装石だからか
2 Re: Name:匿名石 2022/11/07-14:52:41 No:00006583[申告]
これはもう少し対応が違ってたらワンチャンみんな無事だった系……!
実装は糞蟲性からの破滅が常につきまとうよね
面白かったです
3 Re: Name:匿名石 2022/11/07-20:00:55 No:00006584[申告]
映画「ミスト」を彷彿とさせました GJ
4 Re: Name:匿名石 2022/11/09-07:42:31 No:00006586[申告]
禿裸でここまで冬越の準備が出来ただけでも奇跡。
その奇跡すら自ら破壊するのが実装石。
地震がなくても、破滅するのは決まってたな。

楽しめました、次作を期待しております。
5 Re: Name:匿名石 2022/11/10-22:31:44 No:00006587[申告]
実装の新たな物語が読めて幸せだ。
6 Re: Name:匿名石 2022/11/14-05:21:33 No:00006592[申告]
最後のはブランカの勝利の雄叫びかな?
7 Re: Name:匿名石 2022/12/11-10:34:32 No:00006622[申告]
親から教育受けてないので秋仔と越冬しようとしてたんだろうか
この辺ほかのスクと設定破綻しないように工夫しててナイス
一見して地震が無ければ越冬できたかの様に思わせておいてその実餓死確定と言う状況だとしたら面白い
8 Re: Name:匿名石 2023/06/25-16:30:35 No:00007350[申告]
餌全部食べられた時点で詰み
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