夜更けに実装石の親仔が街を歩いている。 普段なら実装石といえど住処でゆったりと過ごしているか寝ているような時間だ。 だが親実装は意気揚々と先頭をのっしのっしと歩いていく。 「テック…テック…。おミミいたいテチ…」「お、おもいテチュ…。テヒィ…」 親の後を歩く三女の耳には頭のフードごと耳を貫いて缶バッヂが両耳に取り付けられている。 歩くたびに三女の耳には激痛が走り、ガチャガチャと耳元で不快な音が鳴る。 末っ子の四女の体にはLEDの電飾ケーブルがぐるぐると巻きつけられていた。 こちらも歩くたびに首や腹にケーブルが食い込み、息をするのにも苦労するほどだった。 「はやくあるくテチ!おまつりが終わっちゃうテチ!」「お菓子もらえなかったらオマエらのせいテチ!」 捨てられていたぬいぐるみから剥ぎ取った薄汚い帽子をかぶった長女と 小さなプラスチック製のパンプキンヘッドを抱えただけの次女が 歩みの遅い妹たちに対して怒りを顕わにする。 「デップップ。そこらへんにしておくデス。さぁ、まずはこの家からデスゥ」 親実装が歩みを止めたのは一軒の民家の前。 おもむろに道端の石を拾い集め、インターホンに向って石を投げ始める。 そのうち一つが上手く当たり、中から玄関のドアが開かれた。 中からは少し疲れたような陰気そうな男が現れた。 「…はいはい。…んん?なんだよ野良実装?」 「トリック…アー…とり?…わすれたデス!とにかくイタズラされたくないならお菓子をよこすデスゥっ!!」 新手の託児かと男は考えたが、次女の持っているパンプキンヘッドを見て 実装石が何を言わんとしているかの大体を察した。 「そりゃもう終わってるぞ間抜けめ…。お前らにやるものなんか何も…」 男が独り言のようにブツブツと言い終わるよりも早く 「おかし出せって言ってるテチ!」「したがわないならイタズラ決行テチュ!」 と長女と次女が男の足元をすり抜け、部屋の中へあがろうとし始めた。 「ほう…。…で、お前らはいいのか?」 「テェ?」 男は特に怒る様子もなく玄関前で立ちすくんでいる、残った仔実装たちに問いかけた。 「イタズラなんてしたら悪い子になっちゃうテチ」「おなかが減ってへとへとテチ…。食べものの方が大事テチュ」 「…わかった。お菓子はやらんがあっちの2匹は飼ってやろう」 「デデェ!?仔どもを攫う気デスゥ?。それならワタシの方が飼われるのにふさわしいデスゥ!!」 親実装は鼻を鳴らして抗議するが、中に入り込んだ二匹は気にも留めずに 玄関の段差を登れないことに苛立ち、下着を脱いで投糞をはじめた。 「ほれ見ろ。あいつらもうクソを投げてやがる。悪戯したからお菓子は無しだ」 「あんなガキ知らん仔デス!勝手についてきただけのクソムシデ…」 今度は親実装が言い終わる前に、バタンとドアが閉められた。 「テッチィーッ!はやくお菓子出すテチュ!」「ワタチのかんにんぶくろのおは切れやすいテチ!」 足元で騒ぐ二匹の仔実装を左右それぞれの手で鷲掴みにすると 男は黙って部屋の中に連れて行った。 卓上ライトスタンドだけが灯った薄暗い部屋には、どこかで嗅いだことのある匂いが充満している。 仔実装たちの野良生活には馴染みのありすぎる血の匂い。 だが馴染みがあるゆえに、人間の部屋には似つかわしくないことに仔実装たちは気がつかなかった。 「昨日はハロウィンだったろ?すこし張り切りすぎてな」 パソコンとライトスタンドの置かれたデスクに二匹を静かに置くと 男はライトをデスクの脇に向けた。 そこにはベニヤ板に釘で手足を貼り付けられた仔実装 顔をまるでパンプキンヘッドのように繰り抜かれた仔実装 ハロウィン衣装を着飾ったいくつもの仔実装がむごたらしい姿で絶命していた。 「チププ!へんなかっこで死んでるテチュ」「そんなことよりお菓子テチ!さっさとするテチ、ノロマニンゲン!」 「ちょうど切らしてたんだ。次の休みにでも新しいのを捕まえに行こうと思ってたんだが」 騒ぐ仔実装たちを素早くデコピンで弾き、黙らせる。 「今のは玄関でクソを投げた罰だ…。さぁ、次のイベントはクリスマスだな」 「テ、テェェ…ッ。クソニンゲンのくせに叩いたテチ!」「お菓子を出せって言ってるのがわからないテチ!?」 仔実装たちは男の話に耳を傾ける様子はない。 しかし男の方も仔実装の訴えを聞く気は無いようだった。 「ツリーのいい飾りになってくれよ?……それまで楽しもうぜ」 そう言って男は血まみれの道具をズラリとデスクに並べて薄ら笑いを浮かべた。 「トリック…ト、トー……。もう、なんでもいいデス!とにかくお菓子をよこすデスゥ!!」 諦めがいいのか親実装はもう既に二件目の家に突撃していた。 家の中から現れたのは、白髪交じりの初老の女性。 そして同じくかなり歳をとっているであろう実装石であった。 「あらあら、かわいいお客さんね。なにかしら?」 女性はにこやかに問いかけたが、傍らにいた実装石が 仔実装たちの様子を見るなり慌てて駆け寄った。 「アナタたち、なんてかっこうしてるデス!?ほら、こっちに来て休むデス」 実装石は屈みこんで出来るだけ仔実装たちと同じ目線の高さで話しかけ 疲れ果ててクタクタなっている仔実装たちの顔の汗をぬぐってやると やさしく肩を抱き、家の中へと招き入れようとした。 「あら、サニーちゃん?どうしたの、その仔たち怪我してるの?」 女性にはその行動が特に珍しいものでもないようで サニーと呼ばれた実装石が仔実装を家に入れることを止めたりする気は無いようだ。 「デデェ!?仔どもをどうする気デス!?ワタシもあがらせてもらうデス!!」 今度こそ出し抜かれてたまるかと、我先にと家に上がりこもうとする親実装をサニーは睨みつけた。 「デ…ッ!?」 同属から殺意や恨みの籠もった視線を浴びたことはあるが、これほど怒りに満ちた目を見るのは初めてである。 相手は年老いた実装石だというのに親実装は完全に気圧された。 サニーが女性に向かってジェスチャーをすると 女性はスマホを取り出し、アプリ越しにサニーと会話をはじめた。 「ごめんなさいねぇ。サニーちゃんがあなたはダメだって。もう大人だから大丈夫よね?」 そう申し訳なさそうに言うと、女性はドアを静かに閉じた。 サニーとその飼い主がリビングに戻ると、テチャテチャと騒がしい声が聞こえてくる。 「としこママとサニーママがかえってきたテチ」「そのこたち、あたらしいおトモダチテチ?」 サニーに抱かれていた三女と四女は静かに床に下ろされると 何匹もの仔実装たちに取り囲まれた。 皆が皆、三女たちに興味津々なようで一斉に質問攻めにされる。 どの仔実装も小奇麗で明る笑顔で話しかけてくる。 初めての経験に三女たちはすっかり戸惑っていた。 「こわがらなくていいデスゥ。ここにいる仔はみんな家族のようなものデス。 まずは体を洗って、怪我を治療するデス。もう誰にもいたいいたいはさせないデス」 耳を貫いていたバッヂを取り除かれ、体を縛り上げていた電飾ケーブルを取り払われ 三女と四女はサニーに促されるまま風呂に入った。 「なにがなんだかわからないけど…たすかったテチ?」「ママがおいかけてきたりしないテチ?」 不安に思いながらも風呂から出た後に、用意されていた食事にかぶりつく姉妹。 おいしい食事に気を取られている間に、サニーは手馴れた様子で姉妹の傷に消毒薬を塗った。 「そう、ふたり増えたのよ。明日にでもお医者さんに診てもらって、それからサイトに写真を上げておくわね」 としこママ、と呼ばれた女性はよくニンゲンが持っている板のような機械で誰かと話しているようだ。 口いっぱいに頬張りながらその様子を見ていると、サニーがこれからのことを説明してくれた。 「としこママはワタシたち実装石に幸せな家族を見つけてくれるプロなんデス。 ワタシが恵まれない仔を育てて、としこママが里子に出すデス。 アナタたちも、いい仔にしてればきっと幸せになれるデス」 二匹の姉妹は突如として飛び込んできた転機に目を丸くした。 「こ、こんなはずではなかったデス…」 訳のわからないうちにひとりぼっちになってしまった親実装は焦っていた。 我が仔はみな、ニンゲンに飼われることになったのに自分は何故こんなことをしているのか。 当初の目的であったお菓子すら手に入っていない。 親の威厳にかけて手ぶらでは帰れないのだ。 街のゴミ置き場に大量に捨てられていた煌びやかな飾りの中から 今度は自分が着飾るためのものを探す。 仔どもたちよりももっと優雅に見えるものでなくては。 「これでもない…。もっと派手なのがいいデス…!」 しばらくはガラクタ同然のものしか見つからなかったが、やがて蝋燭を模したライトをいくつか見つけた。 下の方にあるスイッチを押してみると、まだ電池はたっぷり残っているようで煌々と明かりが点く。 親実装はライトを全て回収し、同じくゴミ置き場に捨てられていた物からガムテープや紐を拾い 自分の服や髪に貼り付けたり括りつけたりした。 「デップップ!光り輝くこの姿!ワタシの幸せへの道を照らしているようデスゥ!」 ガムテープとケーブルと蝋燭の化け物と化した親実装は 高笑いを上げながら先ほどまでいた住宅地の方へと向かった。 三軒目となれば手馴れたもの。 親実装はインターホンにあっさりと石をぶつけ、家の中の住人を呼び出す。 「はいはい、どちらさんで…。なんだこりゃ、…実装石?」 ドアを開け出てきたのは若い男 奇妙な格好をした実装石を見て驚いているようだ 「出るのがおそいデスッ!グズなオマエにすばらしい権利を与えるデス!さぁワタシを飼うデスゥ!!」 「なんだなんだ、全く…。騒ぐんじゃないよ、近所迷惑だろうが」 デスデスと捲くし立てる実装石を見て面倒そうな表情を男は浮かべていたが 何か思いついたのか、いそいそと家の中に戻っていった。 「えー…っと、たしかこの棚に…。あったあった、やっぱ期限切れてるのばっかだ」 独り言を呟きながら、何かを袋に詰めているのが玄関にいる親実装からも見える。 しばらくすると、パンパンに膨らんだビニール袋を片手に男が玄関に出てきた。 「ほら、これやるから。帰って食べな」 男は親実装に袋を持たせると、さっさとドアを閉めてしまった。 呆気にとられる親実装の鼻孔を甘い香りがくすぐってくる。 これは何度か嗅いだことのある匂い。 金平糖だ! 親実装は慌てて袋の中を確かめると、見たことも無い量の金平糖がぎっしりと詰め込まれていた。 「デヒィーーッ!?コ、コ…コンペートーがこ、こ、こんなに…っ!?」 思わず周りを見渡し誰もいないか警戒する。 親実装は袋の口をぎゅっと握り締め、自分の住処へと大急ぎで走り帰った。 「デププ…。デププププッ!」 みすぼらしいダンボール箱の住処で、親実装は笑いを堪えることが出来なかった。 なんてすばらしい! ニンゲンに飼われていったあの仔どもたちでも、これだけの量の金平糖はお目にかかれないだろう。 体に貼り付けたままのライトの明かりに照らされて、手にとった金平糖がキラキラと輝く。 まるで宝石でも見るように金平糖を眺めながら、親実装は思案する。 まずはひとつ食べてみようか いやいや、一つだけというなら前にも食べたことはある これだけ大量にあるのだ 一気に口に流し込んでも早々は無くならない そうだ、あの仔たちにも出来ないような贅沢な食べ方をするべきだ 親実装は袋に顔を突っ込むと、そのまま袋を顔より上に持ち上げ逆さまにした。 ざぁっという音とともに、色とりどりの金平糖が口の中に雪崩れ込む。 「ボリッ…ボリッ!デプッデプフゥ〜〜ン♪」 口の中は甘みでいっぱい。 親実装は天にも昇る気持ちだった。 「誰だったのぉー?」 テレビに視線を向けたまま妻がリビングに戻ってきた夫に声をかける。 「不用品の回収…かな。ほら、前から捨てろってお前言ってただろ?」 少し考えた後、妻も夫の言っていることが理解できたようだ。 「あー、実装駆除の薬ね。コロリだのドドンパ?だの安いからって使い切れないのわかってて買うんだから」 いつもなら妻の愚痴に対してばつの悪そうな顔をするしかない夫も 今日は晴れ晴れとした顔で空になったダンボール箱を畳んだ。 ダンボール箱には “お徳用実装駆除剤アソートセット ゲロリ ドドンパ コロリ 各100個入り” と書かれていた。 「テヂィィーッッ!やめるテチィ!」「テヂヂヂヂヂ…、ワタ、ワタチのお石…ッ」 衣服をすべて剥ぎ取られ手足をピンで板に留められた長女が悲鳴を上げる。 同じように板に貼り付けられた次女の方はパックリと開いた胸から偽石を取り上げられたところだ。 「かえすテチ!クソニンゲンが触れていいものじゃないテチ!」 長女の怒りの訴えはデスクに置かれたスマホのアプリで翻訳されているはずだが 男は意にも介さずピンセットで摘んだ偽石を栄養剤入りの瓶のなかに沈めた。 「ママが迎えにきたらオマエなんかイチコロテチュ!」「たすけてママーッ!お石どろぼうテチー!」 涙ながらに男を威嚇する姉妹。 どうやら本気で命の危険は感じているようだ。 「ママはお前たちなんか知らないって言ってたぞ。そんなことよりじっとしてろ。 LEDが上手く入らないだろうが」 男は開いたままの次女に胸の中に、無理矢理に電飾を埋め込む。 ゴム手袋をつけた手でさらに電飾を奥へと押し込まれ次女は声にならない悲鳴を上げた。 「これで仔実装ごとケースに入れて…ケースの電源をつなげば…。ははは!ゲーミング仔実装PCケースの出来上がりだ!」 笑いながら男がパソコンの電源をオンにする。 自身を貼り付けた板ごと空きベイに取り付けられた次女は 側面が透明なアクリル板になっているPCケースの中で七色に輝きだした。 「あはは!我ながら静音もばっちりだな。世話はしてやるからクリスマスまでそうしてな。さて次はお前だな」 こちらを見て笑みを浮かべる男に、長女は糞を漏らしながら震えるしかなかった。 ここからどうにかして逃げなければ どうして母親は助けに来ないのか 思わず窓の外に目を向ける。 そのとき窓から見える星空に一筋の光が昇っていくのが目に入った。 あれは流れ星だろうか。 「ママが言ってたテチュ…。ながれぼしにお願いすると願いがかなうって言ってたテチュ…! 長女は必死に願った。 はやくママが助けに来ますように このクソニンゲンをやっつけてくれますように、と。 願いを託したその光が 吐瀉物と糞を撒き散らしながら空に打ち上げられた自分たちの母親の最期の姿だということを 姉妹が知る術はなかった。

| 1 Re: Name:匿名石 2022/11/02-05:52:37 No:00006576[申告] |
| 糞蟲には惨たらしい最期が良い子には幸せな未来が!
いい話だった |
| 2 Re: Name:匿名石 2022/11/04-22:12:03 No:00006581[申告] |
| 長編ありがとう。面白かった。 |
| 3 Re: Name:匿名医師 2022/11/08-17:17:45 No:00006585[申告] |
| 4 Re: Name:匿名石 2022/11/13-20:23:06 No:00006590[申告] |
| 汚え流れ星だ… |
| 5 Re: Name:匿名石 2022/12/11-13:24:03 No:00006624[申告] |
| 面白かったです!
実装石が人間の真似事をすると大抵ロクなことにならないよなぁ... |
| 6 Re: Name:匿名石 2024/02/01-08:39:31 No:00008667[申告] |
| >No:00006585
スクと関係ない実装絵使うなよ |