タイトル:【虐?】 二作目です 冗長なのでお時間とお暇がある方へどうぞ
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作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:950 レス数:7
初投稿日時:2022/10/20-01:33:56修正日時:2022/10/20-01:46:34
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これは私の二度目の実装情熱なんだよ時代遅れとか知らないのだが(タイトル)



■



子供の頃、宇宙人に怯えていた。



父が古いエセドキュメンタリー番組のマニアで、矢追〇一のUFOなんとかとか、
そんなビデオ?をエンコードした動画を晩酌しながらよく見ていたのだ。
懐かしっ、合成ヤベー、とかツッコミ入れながらゲラゲラ笑っていた。

あの頃の私は小学生で、単純に怖かった。

爬虫類のような見た目の怪物が宇宙から来ている!
空飛ぶ円盤に乗って、地球の技術じゃわかんない高性能で、ていうか見た目が怖い!

人間の子供くらいに小さいらしいのに人間じゃ敵わないくらい武器がすごい。強い。
動きが素早く、写真にもなかなか撮れない。
とにかく見た目怖い! キモい。

その上、人間を誘拐したりするらしいのだ!
会話が成り立たないので、目的も不明。
拉致してなんかして記憶消してまた帰したりする。意味不明。

わからないからこそ、リアリティが歪だからこそ。

そのわけわかんなさに私は恐怖し、夜には夢にまで見て。
泣いて起きてリビングの父母を戸惑わせ、またたまにおねしょもした。



学校で話しても友達には全然伝わらない。

円盤というワードも、UFOも、宇宙人も、現代の小学生には何もリアルじゃなかった。
だから、友達の誰も、私が何を話し何を恐れているか理解できず、共有ができなかった。

それさえも、かつての小学生の私の、わからないに由来するおぞましい恐怖を増幅させた。

宇宙人は、幼い私の最初の、決定的なトラウマだったのだ。



■



小学生のある日のある帰り道、晩秋だった。

友達と遊んだ帰り道、一人家路を急ぐ。日はもう暮れ、あたりはかなり暗くなっていた。
当時は17時までに帰るという決まりがあった。もう一時間は過ぎている。

私は言い訳を考え、歩みを小走りに変え、それでもすぐには着けないと考えて、
近道をすることにした。

双葉市立双葉公園。



なんか江戸より昔からどうこうで、よくわからないが、とにかく昔から維持されている、
子供にとってはすごい広い森みたいな、小学校が50個は入りそうな、そんな公園だ。

敷地内には散策コース、サイクリングコースなど整備され、広い貯水池などもあって。
色んな大会を行う体育館や食堂付きの建物、郷土資料館などもある。

近所の広大な公園だから、幼い頃よりハイキングだったり、日帰りキャンプなどで使った。

けれど、その広大さは、近所とは言え、深い森のような異世界感を感じていたと思う。

散策コースにはちゃんと街灯があるが、なにしろあまりにも広い土地なのだ。
日が暮れると本当にうす暗く、静かで、不気味だった。
だから、昼間ならまだしも、日没後に近道でここを通るのは初めてのことだった。



通ると言っても、家までのショートカットなので、敷地内をわずかに斜めに行くだけだ。

それでも、夜の闇は深く、虫の声は不気味で、背の小さな子供の私は怖かった。
せいいっぱい何も見ないようにして、小走りで公園を突っ切って行った。

いや、公園の出口に向かってはもう全力疾走だった。ダッシュしてた。
怖い夜の双葉公園で、怖いものを見たくなかったのだ。
けれど。

体育が苦手なチビの小学生のダッシュなんて続かない。
公園の出口が見えたかその程度で息が切れ、私はぜえぜえ言って立ち止まる。
大きく呼吸をして、空を向いて、ポカリとか欲しくなって、ないからただうつむいた。



その時。まあ。見たわけだ。
「宇宙人」を。



■



そこで「テス」と「テチ」と「レフ」の声を聞いたと思う。

茂みの中、虫じゃない、犬でも猫でもない、なんか生き物がいた。
生き物だと思ったのは、鳴き声だって思ったってことと、あと、臭かったのだ。

私がその時風下にいたのか、漂ってきたそのケモノ臭は一瞬だったけど、すさまじかった。



ケモノ臭というか。
動物園に行ったことは何度もあるけど、子供はあの独特の臭いにすぐには慣れないものだ。
動物が好きか嫌いかを置いておいても、けもののケモノ臭はわかると思う。

あれの、やばいやつの、10倍くらいの刺激だった!
刺激というか、臭さだった!!

「まそっぷ!!!」

私は咽て、えずく。吐き気やばい。
こみ上げるものをなんとか耐えた時、自然と臭いの方向を見ていた。



茂みの中、赤と緑の瞳の光がいくつもいくつも。
私のことを見返していた。



「うわぁああああ!!!」



あの時の感覚を今の私がうまく言葉にして説明することは難しい。

茂みの中に小動物がいた。
赤と緑の瞳が光って見える。それは平気だった。

小学生の私からしても、膝より下で光る眼光で、犬どころか仔猫のような感じだったのだ。
けれど。
私は見てしまった。

それよりもずっと高い位置。
私の胸くらいの高さか? いや、それより低かったが記憶が混濁しているか?

どちらにせよ。
よりずっと大きな赤緑の眼光が、私の心臓を射抜くような位置で。

それは、大きかった。

闇の中、小さなケモノを従えるように、倍以上の巨大な何かが直立で私を見ていた。
見られた。
それは、大人のニンゲンのように見えた。
ニンゲンならせいぜい5歳くらいの身長なのに。

だが、違う。
あれは、あれらは人間ではない。

人間ではないものを見てしまった。
そして、人間でないものが、集団で。
ひときわ大きなボスから一斉に、私は見られてしまった。



「デスゥ」



野太い咆哮に、私は耐えきれず漏らした。おしっこを漏らしたのだ。
もう小学生なのに。高学年なのに。

それらケモノは、わたしが半狂乱で喚いているうちに視界のどこにもいなくなっていた。



■



宇宙人がいた! 双葉公園にいた!! 確かに見た!! さらわれる! 殺される!!
見られた!! 目を付けられた!! 狙われてる!! ぼくはもうダメだ!! 

後の記憶は散漫だ。



「それは実装石だよ」



父母は門限を破ったことを咎めることはせず、泣く私を抱きしめて、優しくそう言った。
しゃくりあげ、えずく私を自室へ誘導し、ベッドに寝かせ……。

「ごめんな。お父さんが見てた動画は嘘だ。宇宙人なんていない。怖がらせちゃったな」

いつもなら、泣いて取り乱す私を慰める役は母だった。
けれど、その日は母は私をただ撫でていて、父がずっと喋っていた。



「実装石…?」

私は涙目をこすりながら父に聞き返した。どこかで聞いたことのある響きだった。

「実装石は、お父さんが小さい頃にはどこにでもいたんだ。公園にも、道端にも」

父は少し遠い目をして、話してくれた。
それは説明と言うより、子供を寝かしつける物語のようにも聞こえた。



「ちょうど日本がすごく景気が良かった後くらいの時で、公害とかあった時期だ。
 晴れて暑い日は光化学スモッグって言って、身体に良くないモヤが出たりした。
 その時は意味もわからなかったけど、まあ、やりすぎたんだよな。みんな。
 みんなそこそこお金持ちになってたみたいだけど、あちこちに毒みたいなのがあった」



「実装石もそうだ」



父が、タブレットで実装石のイメージ検索画像を見せてくれた。

そこにあったのは、宇宙人ではなかった。
緑の頭巾を被った、赤緑の瞳をしたヒトガタ。人によく似てるけど、すごく小さい。
目ヤニや手足のゴワゴワさや肌の汚い垢。髪に似た毛のバサバサなありさま。
服を着て靴まで履いているのに、それが全て皮膚であるかのような、ケモノ感。

これだ。私は実装石を見て、実装石に見られた。



私は合点がいって、やっと涙が止まった。
そんな私の顔を確かめて、父は昔話を続けてくれた。



「そう。これが実装石。よく知られてるので20cmくらい。親指くらいのもいる。
 小さくて人形みたいでキモかわいいとかで、ブームになった時もあったよ。
 でも実装石は飼い辛くて、あととても不潔だった。バイキンとかすごいんだ。
 子供に影響があるといけないって。あと他にもいっぱい理由はあったんだけど、」

「うん」

「野生の実装石は一斉に捕まえられて、みんな国の施設に送られたんだ。
 だから、今はあんまり見なくなった。けど、いなくなったわけじゃない。
 双葉公園は広いから、そりゃ今も少しはいるかもな」



「そうか、実装石か。懐かしいな……」

一瞬、父の目が昔話から自身の幼少にタイムスリップしていた。
今、思い返すとそうだったな、という感じの。

いい表情をしていたと思う。
少し笑って、少し困ったような。それは恐らく父の思い出によるものだ。



「実装石は、怖いもんじゃないよ。ただの動物だ。けど、不潔だから、すごい臭いし。
 それにさらに臭いウンコをいっぱいするんだ。めちゃくちゃウンコする。臭い」

「ははっ。ウンコ臭いんだ?」

「すごく臭いよ。祭りの屋台で買ったやつなんか、家に着くころにはウンコまみれだ」

「そんなに?」

「そんなに。この掌くらいの大きさの仔実装が、仔実装三匹分くらいウンコしてる」

「あはははは!」

「帰った途端にめちゃくちゃ怒られるんだ。捨ててこいって。お父さんも後悔したよ。
 一匹仔実装を買ったのに、袋の中は三匹分くらいのウンコで重いし臭いし」 

「ははははは! 何で、そんなウンコなのに買ったの?」

「子供、ウンコ好きじゃん。実装石って、ウンコだったんだよ」

「ウンコ! ウンコ笑うけど!!」

「ただ、ウンコは面白いけど、実際のウンコはもうものすごく臭い。鼻が曲がる」



笑い疲れて、泣き笑いみたいになって、私はそのあたりで寝てしまった。
ただ、色々夢を見て、実装石も出てきて。

目覚めた私は恐怖はどこかへ消えていたが、「実装石」が刻まれてしまっていた。

父の子供の頃は屋台で買えた。子供が買えるくらいの値段で売られていたんだ。
金魚すくいの金魚みたいな位置だったんだろうか?
私は昨日初めて見て初めて知ったくらいレアな生き物が。

すごいウンコしてすごい臭いから飼えたもんじゃなかったんだろう。

親が怒るということはダメだということだ。
大人がダメって言う実装石が、どうしてその時はいっぱい売られていたんだろう。



そして。

「捨ててきなさい」と言われた父は、
その仔実装をどうしたんだろう。



■



小学生の私はそれから、実装石に興味を持った。

放課後には図書室のタブレットで検索し、記事を読み、動画を漁った。
それらは、今にして思えば、子供用の検索制限があったのだろう。

野生の動物としての紹介が多く、(期待した)ウンコや汚いとかの記述は少なかった。
なぜブームが起きて、その後一斉に駆除されたのかもよくわからなかった。

「野生は地方や山で見られる。都会に定住しようとした実装石の生息数は今では少ない」
出力された結果だけがそこにあった。



映像の中の実装石のほとんどは、仔実装や親指、蛆で。
エンピツ程度の大きさの実装石がテッチテッチ鳴きながら歩く動画はブサイクで面白かった。

森の木々の中、茂みの中の実装一家の画像にもこんもり糞が盛り上がっていたけど、
風景が自然の中だったから、父の言う臭さ、汚さはよくわからなかった。



ウンコネタにからめて、友達に実装石の話を幾度となく振った。
けれど、反応は芳しくなかった。
みんな、そもそも実装石を知らないのだ。無理もない。私も知らなかった。

クラスで「知ってる」と言ったのは10人に1人程度。
ほかのクラスでも聞いてみたが、結果は大体同じだった。



図書館で検索する毎日が続いた。

いくつかの学術ページの中の、
「仔実装は20㎝ほどだが、親実装、成体実装は50㎝から80㎝になるものもある」
そんな一文に突然衝撃を受けた!

1m近いと、もうほぼヒトだ!

お隣の4歳くらいの敏明ちゃんなんかまだ1mない。
その比較に、私は説明できない興奮を感じた。父に話した。



「公園で見た実装石? その話だと60cm以上はあるね。立派な成体実装だ」

父は実装石に詳しいのかもしれない。
ただ、当時の私は実装石にある種のタブーを感じて、父に過剰に頼ることを恐れた。

「人間みたいで怖かったんだ。調べたら、実装石は大体小さい。大きいのは珍しい?」



父は、少し昔を思い返したかのように沈黙し、それから色々考えたようで口を開いた。

「今だとすごく珍しい。大きいと目立つからすぐ駆除されちゃうしね。
 そうか……。それだけ大きな親実装。外敵まみれの都会の中で、冬を越す気か……」



どくん。
私の胸が鳴った。

その時、私が思い返していたのは。

人間の作った公園の中。
潜み、生き抜き。子供も連れて群れのボスで。

実装石が駆除された歴史を調べた私が改めて感じるのは、
私、人間を睨みつけ、笑い、生き抜いてやるという強さ。したたかさ。

思えば、宇宙人かと恐れたあの成体実装石は私を恐れていなかった。

その性質は脆弱で、攻撃されればすぐに、どころか精神を病んでも簡単に死ぬ。
Wikiに実装石はそうあった。儚い弱い哀れな生物なのだ。
実際、一斉駆除で感覚的にはほぼ絶滅寸前まで追いやられている。

けれど、あの親実装は、笑ったんだ。私はそう、感じていた。



私を、取るに足らないと、侮ったから。
蹴られれば死ぬのに、私を恐れもせず、悠々と笑い、立ち去った。



勿論それは真実ではない。
実装石の事情はわからない。

けれど、あの時私は実装一家を恐れ、おもらしするほど取り乱し、
ゆえに彼女らに「とるに足らない大丈夫なニンゲン」扱いをされた。



許せなかった。



■



「行政に駆除の申請を出すけど。成体実装の目撃は久しぶりだからね」

父がスマホを片手に私に言った。

「君が会った実装親仔を捕まえるって話だ。君が嫌ならしない。君はどう思う?」

今になって思い返しても、父はちゃんと真っ当な父だったと思う。
私の人格や意思を尊重してくれた。



ただ、私はその時幼く、一人ではなにもできず、半ば父を利用した。
本当は私の手で復讐を成し遂げたかったが、とにかくその時私は子供だったのだ。



行政はいつも通りにちゃんと仕事をした。

目撃証言の周囲を捜索した専門家がごくわずかな期間で簡単に捕獲したのだ。
実装一家は親実装、四匹の仔実装、巣には親指が三匹、蛆実装が十匹近く。
冬を前にした状況でこのコロニーの規模は極めて稀だと言えた。

捕まえた親実装の体長は80㎝近く。
幾度も冬を越えたかなり賢い個体と言えるだろう。ベテラン。実装石の古強者だ。



父はある日の朝食で一言ただ「捕まえたよ」と言った。

復讐の意思を持っていた私は、詳細を求め、さらにはそれを見たいと訴えた。

父は肩をすくめ、前述の実装コロニーの詳細を私に説明した後、

「ぜんぶ、もうどこにもいない」

と続けた。



■



私はどこかで、実装石は貴重な、保護されるべき生物だと誤解をしていた。

だって、かつてはいっぱいいたのに、今は野生かペットで少しいるだけで、
忘れられつつある。

そんなレアな生き物に私は脅かされ、挑発され、脅かされた。

これは、いつかスゲーヤベー大人になる私と、
めっちゃレアな生き残り実装石とのバトルだったのだ。

うんこ臭い動物だけど、ずる賢いヤツ。

私は一度不意を突かれ負けた。それは認める。
けれど、あの嘲笑(妄想)は許せない。リベンジしてやる。
駆逐してやる!!

なぜなら、実装石。お前は怖い宇宙人でもなんでもない、ただの野生動物だ!!
だった認識の、小学生の、浅はかさ。



父に詳細を求めた。
ぼくももうガキじゃない。あの日会った親実装を見たい。どこで会える?
ちゃんと本当のことが知りたいんだ!

父は教えてくれた。

行政に駆除を依頼したって言ったね。それは成功した。
君が会った実装石一家をぜんぶ捕まえて、閉じ込めて——。

いや、もう誤魔化すのはよくないな。

捕まえた害獣は処分されたよ。
ぜんぶ、もうどこにもいない。



■



私は、慌てた。んだと、思う。

復讐の対象は、アレだけでよかったのだ。
私を見て、汚い声で「デスゥ」とか言った成体実装。



それと戦う機会は永遠に失われた。

行政が、プロが手際よく迅速に捕まえて処分したから。
私は憎き、宇宙人を騙るヤツの断末魔を見ていない。



■



そうして私は中学生になり、
頭の中の実装石が占める割合はますます膨れ上がっていった。

思い出の中の、トラウマの実装石を求めた。

広大でどこか異世界のような双葉公園を徘徊する日々が続いた。
かつて味わった恐怖よりもずっと、執着が勝った。



朝は早起きしてわざわざ双葉公園の中を通って登校する。

PCが使える部活に入って放課後まで実装石を検索した。
膨大な量の画像や動画を(持ち出し禁止のルールがあったが)USBメモリに保存した。

帰り道もわざわざ遠回りをして双葉公園を使った。



がさり、と草むらが音を立てることが幾度かあった。



私の心臓は跳ね、興奮を抑え込みながらそれと向き合う。

四回はタヌキで、一回はハクビシンだった。
それらの動物も、都会で出会うことは稀と聞いていた。

なんということだろう。
父が言った、「小さい頃にはどこにでもいた。公園にも、道端にも」
実装石は今や、タヌキやハクビシンよりもレアな生き物になっていたのだ。



六回目に茂みが揺れた時。
私はやっと、あの小さな赤と緑の瞳を見た。

私がもっともっと小さい頃に、そういう経験があったことを思い出した。



■



ハイキングや一日キャンプで幾度となく訪れた双葉公園。
通り道として使ったこともある。

過去に何度も、茂みから私を見る赤緑の視線に出会っていたのだ。
宇宙人の恐怖も知らなかった頃。
当時はただただ瞳の光を恐れ、それは毎夜の悪夢となって私を苛んでいた。

それが。
今、知識を得た私の眼前にあった。



拳ほどの大きさの仔実装だった。
群れからはぐれたのか、それとも好奇心を抑えられなかったのか。一匹で茂みの中にいた。

「テッ」

私と目が合って、仔実装は動揺した。

何回もシミュレーションしていたファーストコンタクトだ。
私は慌ててポケットに手を入れ、このために常備していた駄菓子を取り出した。

「テ?」

おやつカルパスの一つをそっと、乱暴でないように地面に放った。

「テ?」

私は動かない。ただ、地面に落ちたカルパスを指さした。
仔実装は少し考えた後、テッチテッチと鳴きながら茂みから出てきた。

!! 動画で見た通りだ!!

私は初めてしっかりと実装石を見た!
頭巾を被った小さなヒトガタは、汚い服を身にまといむせ返るような臭気を帯びていた。
思わずえずく。嘔気を必死にこらえ、両目は仔実装を見つめ続けた。

仔実装はカルパスのもとにたどり着き、覆いかぶさって匂いを嗅いでいる。

「テッチュウン!」

お気に召したのか、犬食いで齧り付こうとして——
包装紙に邪魔をされた。

おやつカルパスのビニールを破くことができず、もどかしそうに舐めている。
仔実装の小さな牙や手では駄菓子を剥いて食べることができなかったのだ。


しまった。

私はなるべく音を立てないようにポケットに手を入れ、もう一つ、
今度は包装紙をはがして取り出した。そっと、投げる。



「テ!?テチー♪」

今度はうまくいった。
仔実装がおやつカルパスを舐め始めた。

「テチュー♪」

鳴いて、ますます舐める。
時おり歯を立てるが、齧ることができないようだ。仔実装には固すぎたか?
それでも肉の味は甘美なのか、執拗に舐め続けている。

テチュテチュテチュと鳴き声が漏れる。

舐めている。

めちゃくちゃおいしいのか、涙さえ流している。



「テェッ!?テステステス!!」

目の前の仔実装ではない声が聞こえた。

ほかにも実装石がいる!?



私のテンションはブチアゲだ。
おやつカルパスはいっぱいある。

もっと出てきてくれ。姿を見せてくれ!

「テチ?テチテチテッチューン♪」

仔実装が後ろを振り返って何事か鳴いた。
ほかの実装と喋っているのか?

なにもかもが初めての体験だ。興奮した。

しかし。

「テステステス」

別の個体の鳴き声は急速に遠くなった。逃げたのか?
耳をすませても、辺りの鳴き声は目の前の仔実装のものだけとなった。

「テッチューン♪」



初めて目の当たりにした実装石。
その時私は、それを自分のものにしたいと強く思った。



涎をたらしてカルパスを舐めまくる臭い汚い仔実装にそっと近づいた。
襟元をつかんでバッグに入れよう。しまおう。持ち帰ろう!

「テチュテチュテッチューン」

仔実装はカルパスに夢中で、動き出した私に気付いていない。

今だ。
仔実装の首の後ろをつかんでつまみ上げた!

「テェ!?テッ!?テチテチテチ!!」


消しゴム二個くらいの軽さだった。
一気に高く持ち上げられた仔実装は大声で喚いて、
めっちゃくちゃにウンコを漏らした。




「テチャア!テッチャア!テチ!テチィ!!」

叫びながらバタバタ動く仔実装、飛び散るウンコ。撒き散らされるウンコ。
体臭が臭いとかのレベルじゃなかった。とにかく臭い。毒ガステロのレベル。

「テチャア!テチャア!」

飛び散るウンコが服にカバンに付着する。ついには顔にまで飛んできて、私は手を離した。

「あっ」

「テチャアーーー」

私の眼前、140cmの高度から仔実装は落ちて行った。悲痛な嘆きが聞こえた。

「テベッ」



落ちた仔実装の身体は、胸から下が完全に潰れていた。
足は胴体にめりこみ、上半身だけが私を見上げ、赤緑の瞳は限界まで見開かれて、
瞳と同じ色の涙を流している。

「悪かったよ。でもお前、治るんだろ? 実装石の再生能力はデタラメだってWikiに…」

私は血まみれウンコまみれの仔実装を拾い上げようとかがみこんだ。

「テチャアーーー」

パキン。



帰宅してすぐに浴室に飛び込んだけども、両親が

「なんか臭わない?」
「嗅いだことのある臭いだ。くさい」

悪臭はバレてしまっていた。



■



中学の三年間、たまにだが仔実装に出会うことはあった。

けれど、成長期の弊害か、力加減がうまくいかず、どれもわずかな間に殺してしまった。
私が敵と認めた実装石は、思っている以上にはるかに脆かったのだ。私は困惑した。

それは私自身を激しい自責や後悔で追い詰めた。



私はその苦悩を、より知識を得ることで拭い去ろうと努力した。 
そうして、高校生になった。

ネット検索の子供向けフィルターは中学の時に解除できていたが、
実装石の理解の役に立つにはもう少しの時間を必要とした。

所謂、裏や闇サイト的なものに出会うまで。



「偽石」「栄養剤に浸ける」「再生しない髪と服と火傷」「禿裸」
「妊娠のメカニズム」「瞳の色」「強制妊娠・出産」「蛆実装とは」



新たな知識に全身が震えた。
同時に、一般人が知る必要のない暗部やタブーのようなものに触れた自覚もあって、
ぞくぞくした。


「糞蟲」の概念や、親実装がそれを理解していること、様々に対処していること。
知識が増えるごとに、私の、頭が暗く重く沈んでいく自覚があった。

「間引き」「共食い」が当たり前だと言うことを知った時は、複雑な気持ちだった。

なんて愚かで、醜く、神に見放された生き物なのだろう。

同時に、それでもなお絶滅せずにあり続ける生への執着に、種の強さに感銘を覚えた。



本当に、実装石は宇宙人なのではないか!?



知識欲を満たすため、季節に一二回程度捕獲できた仔実装を使った実践に熱を込めた。

カッターやナイフを使って仔実装を何度か開いたが、それらはすぐに死に、
ようやく摘出できた偽石はドス黒く濁っていた上に、すぐに砕けた。



私の学びは著しく偏っていて、歪んでいた。

何しろ、「実装石虐待」という言葉を知るのが、やっと17歳になってからだったのだ。



■



ネットの知識を掘り、裏や闇のサイトの人とつたないながらの交流を経て、
私はバイトの賃金を握りしめて、初めてショップへ行った。

実装石は一部の好事家のための「飼い」か、「野生」しかいないと思っていた。
それが、いくつかの経験から、それだけではないことを知った。



反抗期もあったし、父との関係は疎遠になっていた。
けれど、実装黄金時代を生きてきた父には、私が実装石に魅入られていることは
容易に気付いていただろう。

話し合えればよかったのかも知れない。

しかし、生来バカな男児の成長なんてこんなものなのだ。
もっと父と話したかった。

それはもはや永遠に叶わない願いだ。



ショップの実装石は血統書付きの犬猫の値段を遥かに超えていた。

ケージの中には、躾のほどこされた、見たこともないほど綺麗な個体が並んでいた。

無駄吠えもしない。
アクリル板越しに目を合わせると、あえて反応することも、媚びることもせず、
わずかにはにかむ様子。信じられなかった。それらには、知性が宿っていた。
私が知っていた実装石とは違う、ペット実装がそこには羅列されていた。

「実装ちゃんをお探しですか」

初老の店員に声をかけられた。
高校生の金のない私はキョドり、うやむやに何事かを言ったかと思う。

店員は察したのか、何も言わなくなった。

ケージの中の実装石を見る。
きれいだし、ほとんど臭わない。
「飼い」のための強烈な選別を感じた。そもそも、手が出る値段ではない。



「あの」

30分も長居して、私は口を開いた。

「もっと安いの、ないですか」

初老の店員がどこか嬉しそうに口元を歪め、整えられた髭を撫でた。

「それは、『飼い』以外の、という意味ですかな」



「……糞蟲、を」

「ほう」

どこで知りました? 糞蟲は文字通り糞壷でゴミ同然です。好んで扱う店なんて。
そもそも各自治体の条例でも扱いは——。

いや、あの、違うんです。
ネットで調べた知識です。お店に来るのは初めてで。

私は慌てふためいて弁明した。童貞丸出しの男子高校生がイケてない私服で訪れた専門店。
冷やかしと思われても無理はなかった。

「ほう」

初老の店員はそんな私を見つめ、満足そうに微笑んだ。
そして「良かったら、こちらへ」と言ってショップのバックヤードの扉へ案内してくれた。



「テギャア!!テジャア!テギャア!!」
「テチ!テッチテッチ♪ テッチューン♪」
「テチャア。テッスーン。テッスーン。テチャァ…」
「テププププ。テッフーン♪ テステステスーン♪」



バックヤードは売り場と正反対で大騒ぎだった。

仔実装達がそれぞれに叫び、嘆き、嘲笑い、媚を売る。
初めて見た、生の糞蟲達の、阿鼻叫喚。

しかし、それが不思議と心地よかった。
囚われて野生を失いつつある実装石のみっともないまでの生への執着が感じられた。

薄く笑みを浮かべていたかもしれない。
そんな私を見た初老の店員は満足そうに交渉を始めた。


「どれでも一万円。摘出済み偽石を栄養剤に浸けたケース付。興味があるかね?」

「はい。はい!」

高かった。
たまにバイトする程度の高校生には高価すぎる玩具だ。消費税もきっちり取られた。

けれど、お膳立てされた「入門セット」のパッケージに、
私は矢も楯もなく飛びついたのだ。



■



「リンガル」は今では全然メジャーじゃなかったけど、今もずっとアプデは続いていた。
昔は標準搭載だったり無料だったりしたみたいだけど、まあ高額だった。

買った。

それで人生経験的に、魂的に得られたものがあるかは断言できないが、
このアプリってばなんと実装と会話が成り立つ!

「お前のママのことを聞きたいんだ」

私は学習机の上、ショップで買った一万円糞蟲に質問した。わくわくしながら。

「デシャアア!クソニンゲン、コンペイトウはどうしたテチ!?ステーキ持ってこいテチ!!」

威嚇された。
ネットで見た通りのまさに糞蟲だ。テンプレだ。話が通じない。
なんだか興奮してきたぞ。



「ちゃんと答えてからだよ。お前のママは? お前がいるってことはママがいるだろ?」

「デシャアア!高貴なワタチが飼い実装になってやるってのにグダグダ言うんじゃないテチ!!」

パンツも脱がずにウンコをして、それを右手で投げようとした。うんなるほど、糞蟲だ。
慌ててそれをチョップで制した。

「テギャアア!?」

糞蟲が、折られた右手を見て大騒ぎする。うるさいし、臭い。

「テギャアアアー!オテテがー!高貴なワタチのオテテがー!!」

「お前はママから産まれたんだろ? そのことを覚えているか? 公園か? 施設か?」

「クソニンゲン!殺してやるテチ!泣いて謝っても許さないテチ!ウンコ食えテチ!!」

もりもりブリブリ糞をして叫ぶ。
おいおい。双葉公園の野良はここまでじゃなかったぞー…。

「もう限界テチ!このままじゃワタチが死ぬテチ!今すぐスシをいっぱい持ってくるテチ!!」

ちょっと息が上がっている仔実装。空腹らしい。

「いや、話してくれたらご飯あげなくもないけど」

「大トロテチ!あん肝テチ!ウニイクラ海鮮丼テチ!持ってくるまで一歩も動かないテチー!!」

なんだそれ。私の方が食べたい。北海道で。小樽の漁港で。

「高貴なワタチにはこんなギャクタイ許されないテチ!!
 国際法に基づいてシャザイとバイショウをヨウキュウするテチ!震えて待つテチクソニンゲン!!

びし。

「テギャッ!!?」

あ。
ついデコピンをしてしまった。ムカつきを抑えきれず。つい全力で。
あーあ。死んでるんだろうな。
今まで例外なくそうだったもんな。
小突いただけで死ぬ。どころか、全力のデコピンだ。

「テチャアアアーーーー」

糞の線を描いて机の端に吹き飛ばされた仔実装が片目をこぼしながら哀れに鳴いた。
しかし、生きてる。

痛そうだけど、全然生きてる。初だ。
おおー。
これが、偽石を栄養剤に浸けてるっていうことか!? すごい。

テンションが上がった。
正直、仔実装の値段もリンガルへの課金も「バカを見るつもり」で支払ったのだ。
この仔実装もすぐ死ぬと思っていたけど。
私は笑った。

手が汚れるのも構わずに仔実装の飛び出した瞳をむりやり押し込む。
ほどなくして瞳は定着し、傷からの出血も止まった。
偽石の栄養剤保護。これほどとは!
ケージや水槽などが必要になりそうだ。



「お前のママはどこにいる? どうしている?」

私は質問を続けた。
一度きり、わずかに関わっただけの「成体実装」に私はずっと固執していた。



■



「テジャア!テギャアア!」

カッターで手足を深く刻まれた仔実装が血涙を流している。
意味のある解答が得られなかったため、カッターで切る作業を繰り返した。
暗い欲望が満たされていく気がした。



「ママ!助けテチャママァ…!クソニンゲンはギャクタイハだったテチャ!ママ!どこにいるテチャ!」

ついに仔実装は私に毒づくことを止め、ママに助けを求めだした。
そうそう。そのママのことが知りたいんだよ。

どこにいる? 産まれた時の記憶は? どうやって育てられた?

「テギャア!!テチャア!!テッチャーーー!!」



手足を先端から細かくスライスしても、仔実装は泣き喚くばかりだった。
リンガルには「痛い」「怖い」「助けて」「飼い」「ステーキ」などが並び、

後半は

「ママ」「ママ」「助けてママ」「ママは嘘吐き」

と、親実装を呼ぶ声ばかりになった。

「ママはどこにいるんだ?」



「テェ…。ママはクソニンゲンテチ。クソニンゲンがママになるテチ。高貴なワタチを飼うテチ」

仔実装の声がうわ言のようになっていった。

「暗かったテチ。テッテレーしてすぐ水に流されたテチ。タカイタカイ上にブサイクな実装石がいたテチ」」

「ママに会ってないテチ!粘膜も舐め取ってくれなかったテチ!胎教もなかったテチ!」

「クソニンゲンしか見てないテチ。糞蟲がいっぱい死んだテチ。もうずっと食べてないテチ」

「でもワタチは高貴だから飼いになったテチ。クソニンゲンがワタチに奉仕して、ママも来るテチ」

「ママ」

「ママ」

「ママ」



栄養剤に浸けられている偽石のドス黒い色の変化に私は気付けなかった。
さらに話を引き出そうと仔実装にカッターを向けた時、
パキンという音がして、仔実装はもう喋らなくなった。



■



「ママは糞蟲だったテチュウテピャアッ」

金槌で跡形もなく潰した。親へのリスペクトがない個体はどうでもいい。

「糞蟲だから死デギャ」

「ママはお前を最期まで愛してたぞー」

「愛なんて糞の役にも立たないゴミ概念テチュブバtギャメギャッ」

あと30行くらいはテンプレなのでやめる。
ショップの実装は基本テンプレだった。嘆きも、糞蟲反応も。
これが一匹なんと一万五千円だ。

素で。偽石摘出処置とかない糞蟲がだ。



私は大学生になっていた。
生物学を学んでいた。



食費と引き換えに、糞蟲を潰す日々を重ねていたらある日。

小学校からの同級生から「実装石タグ」で繋がった。
実装を調べてた時知り合ったうちの一人だった。

曰く。

「親世代はズリーよな? 一日何十匹も潰して、給料はでかくて、バブルで。
 まったく、負の遺産だよな。実装も管理され、旧世代のおこぼれだ」

それは同意だ。町に公園に道端にゴミ箱に実装石がいるなら糞蟲なんて買っていない。

「久しぶりだけど、お前のことは覚えてるよ。小学校の時に突然実装の話したよな。
 あの時みんな実装なんて知らなかった。親が教えなかったんだ。負の歴史だな」

私はバブルとか縁日の話とかした。
関わらなかったけど、事実として起きただろう風俗には実感がある。

私は彼にこう説明した。

すっかり、あの幼少の日に私の情熱まで乱した実装石趣味は、
しかしただの趣味だったのだと受け入れている。
深入りもしない、執着もない。
あれはその時、ただそうだったというだけなのだ。

「お、おう。そうか。お前は大人だな」

嘘だった。
私はますます内に閉じこもり、周囲との関係を拒んだ。



実装石のゼミに入って、フィールドワークをしている。

おもに、山に入る。
山実装は都会のそれより野生が強く、その生態も複雑だ。興味深い。
ただ、とにかく人を嫌うので目立った成果は少なかった。
冬こもりを前に、役立たずでかつ食料にもならないようなガリガリの仔実装の
死体をいくつか回収した程度だ。
山実装は都会の野生よりはるかに自然に溶け込んでいる。

それと、頻度は低いが、巨大な国立の公園の調査もしている。
新宿御苑にも何度か足を運んだ。
実装石はいた。

ただ、成体を見たのは、死体もカウントしていいのなら、一度きりだ。



■



「ちょっと、かなり面倒臭いけど、君、成体実装に固執してるよね?」

「まあ、そう。否定はしない」

大学の学食でたまたま会った女子にそう言われた。
理解がある女子っぽいのがむかつく。誰にも理解されなかった人生、
そんな簡単に踏み込んでこないでほしい。

私は彼女を見た。
ゼミのメンバーではないが、二回生の時に同じグループにいた。
少し世間話程度ならしたことがある。

「一昨日ね、小金井公園で見たよ。それで君のこと思い出した」

「……ッ!!?」

「私でも見かけられる程度の成体だから、ゼミの君ならすぐに捕獲できると思う」

「そんなに大きくなかったな。ただ運良く生き延びた、そんな程度に思った」

「ま、マジで? 本当に?」

「うん」

「ごめん、マジで言葉が出てこない。ありがとうしか浮かんでこない。ありがとう……」
(kokia



■



デウスエクスマキナ!!!!!!!!



■



「デスッ。デスッ。デッフーン♪」

初めて金平糖を買った。
コンビニとか、そのへんじゃ売ってないのだ。
まさかの。まさかの。念のための。Wikiで見た実装石の要求するアレ。それが。
ものすごく役に立った。

成体実装が身をよじって私に媚びている。
私は戸惑いと歓喜がないまぜになりながら、震える手で金平糖を一粒づつそれに与えた。

「デスッ。デスッ。デッスーン♪」

40cmほどのヒトガタが涎や垢に汚れた口端を笑顔のかたちに歪ませている。
信じられない幸福だった。

実装斜陽の今に、現代になお!!
こんな成体の糞蟲がいるだなんて!!
まったく、宝くじに当たった気分だ!!!!

こういうのは様式美だろう。
私はこのために買った小ぶりなバールをナップザックから取り出した。興奮で手が震えた。



「デスゥ?」

訝しがる成体実装だが、追加の金平糖で簡単に篭絡できた。
奇跡のような、ご都合主義のような一生一度のショータイムだ。

対話をしたかった。
私は大学生で、研究者なのだ。

けれど、建前は置いておいて本能は正直に作用する。バールを掲げる。

「デッスーン?」



■



私は成体実装が大好きだ。
テチとかレチとかレフとかの鳴き声の方が可愛いことは認める。認めざるを得ない。

けれど、あの、デスデスという濁った声が一番心地良く、甘美に思える。

成体実装。親実装の鳴き声。デスデス汚いその呼び声。
何度だって動画をリピした。



ゴスッ。

「デビャアアア!!?」

偽石を摘出する余裕なんてなかった。興奮が閾値を超えていた。
私はバールを実装石に振り下ろす。



「デジャアアア!!」

「お前は! 宇宙人なんかじゃないんだよ!!」

私は歓喜に震えながら、目の前の貴重な成体実装の手足を潰した。
仔実装と比べても、大して変わりはなかった。軽い感触だった。

「デジャアアア!!デギャ!デギャッ」

「お前はただの! 汚い醜い! 野生動物だ!!」

なぜなら、これはあの時の復讐だから。

「デジャアアア!!デッ!デスデスッ!デッスーン」

いや、復讐は続く。
これからも。ずっと。

「神に見放された糞蟲が!!」

「デギャアアアア!!デスッ、デスゥ」

人に紛れ、人の手から今もなお逃げ続ける野生の成体実装石。
万感のリスペクトを持ってして、私は生涯をかけて、それを駆逐する。私の手で。

そんな決意と歓喜とともにバー(ryを振るう手が止まらない。

「デギャアアア!!デジャアア!!デジャアアアア!!」

どうして動画を撮らなかったのだろう。撮り忘れたのだろう。
しかし。
だからこそ、それだからこそ、あの時のようにこれが、私に呪いを刻んでくれる。

一生を費やすに足る呪いだ。

これはただの幸運。
次は、次こそは私自身の手で同じ事をする。

もっと賢い個体を。
野生で生き抜くタフな生き物を。

「デジャ。デジャ。デジャアア」

足元の成体実装石がどんどんと潰れていく。
飛び散る血。
一面に撒かれる糞。

ああ、これだ。
私はこれが見たかった。

ただ願わくば、もっと賢い、したたかな野生で。



「デジャアアアアアアアアアアアアアア!!」



否定しようもなく、
私の人生はあの時に、すっかり決まっていたのだ。

父ともっと話したかった。



■


おわり






二作目です。
観察系にならなかった……

リスペクト元は「実装斜陽時代」です
かつて実装石がはびこっていて当たり前だったバブルが終わった今、を
ずっと妄想していたらこういう感じになりました

酔ってかくので前回も含めすぐに方向性が変わります
シラフの時に別方向で書き直して、書き足して、リミックスします
これもだいぶ変になったのでツギハギをして仕上げた成果です

ほかの流れをいっぱい放置したまま、できたのでここにドロップします
よろしかったら、どうぞ、よろしくお願いいたします

@ijuksystem




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1 Re: Name:匿名石 2022/10/20-01:51:44 No:00006559[申告]
実装石が珍しい時代の虐待派か…大変だよなあ…
2 Re: Name:匿名石 2022/10/20-10:09:22 No:00006560[申告]
観察も期待してます
3 Re: Name:匿名石 2022/10/20-20:33:17 No:00006561[申告]
たまらん…素晴らしい
4 Re: Name:匿名石 2022/10/20-22:59:36 No:00006562[申告]
主、復活してくれてありがとうm(_ _)m
5 Re: Name:匿名石 2022/10/23-11:30:06 No:00006565[申告]
糞蟲は宇宙人なんかじゃないんだよ
調子に乗りやがって、糞蟲め
6 Re: Name:匿名石 2022/11/13-20:00:31 No:00006588[申告]
実装石はウンコ(至言)
7 Re: Name:匿名石 2023/05/18-07:36:49 No:00007181[申告]
実装石のいる世界感を強く感じられて良かった!
子供の頃のトラウマって大きいよねえ
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