タイトル:【観察】 終の棲家
ファイル:ついのすみか.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2908 レス数:2
初投稿日時:2022/10/09-02:38:54修正日時:2022/10/09-02:38:54
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二次グロ裏実装石雑談スレに上げられていた「服兼住居」という画像を元ネタにしたスクになっています
この場を借りて元ネタの作者さんに感謝

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としあきの住む町は山に囲まれた平凡な農村地域である
暑さにうんざりする季節も過ぎ、今度は台風に気をつける時期になった
としあきの生家も農家であったが積極的に継ぐ気もなく、かと言って都会に出るのにも乗り気ではない
この日も昼までの畑仕事を終え、町に一軒しかないコンビニで昼飯を買って帰る

「住むのに不便してるわけでもないんだよなぁ…」

いつもどおりのルーチンであったが、としあきは帰り道におかしな物を見た
宅地前の車道を挟んだ場所にある山林
そこから四角い緑色の物体が幾つかゴソゴソと出て来るのが見えた
最初はそれが何かわからなかったが、よく見れば物体上部に開けられた穴からは
こんな田舎でも見慣れた生き物が顔を出していた
実装石である

いわゆる山実装と言われる自然の中で暮らす実装石は、この辺りでも珍しくはない
山実装は滅多に人里に出てくることは無く、町の人間もそれに干渉することなく生活している
だがこの実装石たちは少々毛色が違うようだ
としあきは少し離れた場所から、この奇妙な実装石の様子を伺うことにした

「デスデス」「テッスーン」「テチャ!」

この実装石たちはどうやら親仔のようで、なにやら言葉を交わすと
周囲に気を配りながら車道を渡り始めた
その途中、カラスの鳴き声がすると親仔は一斉に頭を箱状の物体の中に引っ込める
なるほど、あれは外敵から身を守るためのもののようだ
無精髭をさすりながら一つ納得したが、実装石たちの行き先はどう見ても車道の向こう
そこにあるのは我が家を含む幾つかの住宅、そしてそれを超えると一面の田畑
こうなると実装石の思惑はだいたい想像できる
このまま黙って見ているわけにもいかず、としあきは溜め息をつきながら実装石たちに近づいていった

実装石たちが車道を渡り終えようとしたとき、としあきがその目の前に立ちはだかった
驚いて見上げる実装石をよく観察すると、この四角い物体がなんであるかを理解できた
それは実装服を模して色を塗られたダンボール箱であり、ご丁寧に前掛けを布テープで貼り付けてある
頭を出している上面の穴は乱暴に破られたものではなく、綺麗にくりぬかれており刃物を使ったように見える
実装石も道具は使うが、ここまで丁寧に扱うことは難しい
人の手によって与えられた物であるのは一目瞭然であった
おそらく禿裸のこの親仔を哀れに思って与えたのだろう

「余計なことしてくれんなぁ、まったく」

この町の住人、ましてや農業を営むものなら野生の動物にこんな施しはしない
こういうことをしてしまっては山に住む生き物は平気で人里に下りてくるようになるからだ
こんな事をするとすれば農業を老後の趣味にしたいと少し前に移住してきた元商社マンの夫婦であろう
としあきはまた一つ溜め息をつくと、困惑した表情の親実装を有無を言わさず箱ごと持ち上げた



予定外の仕事を終えたとしあきは家の二階にある自室の窓から外を眺めていた
正確には外の風景を眺めていたわけではなく、自分が処理したあの実装石たちの監視である
我が家の近くの側溝の蓋を一枚はずし、そこには親実装をダンボール箱ごと逆さまに設置
仔実装たちは親と同じようにダンボールを逆さにして、山林の木の枝に箱を突き刺さしておいた
手出しを禁ずる旨を書いた貼り紙はしてあるが、誰かが助けないとも限らない
別に実装石に恨みがあるわけではないし、こういう趣味があるわけでもない
たとえ相手が実装石といえど生き物を酷い目にあわせるのは気分のいいことではない
でもやっておかなくてはならないことだ
時折聞こえてくる助けを懇願するような親実装の声に気が滅入るのを誤魔化すように
としあきはそのまま窓際で買ってきた昼食をとることにした



「だれかいないデス!?だれでもいいから助けるデスーッ!!」

親実装はダンボール箱の中で足をばたつかせながら何度も助けを求めてみるが
呼びかけに誰かが応える様子は無い
かすかに我が仔たちの声が聞こえる気もするが、耳を澄ませるほど気持ちに余裕も無い
逆さにされ今は底面となった穴にすっぽりと入った重い頭を引き抜くには
実装石の腕力はあまりに非力すぎ、また体勢も悪かった
それでも顔を紅潮させ腕に力を込めて踏ん張ってみるが状況は好転しない
変わったことと言えば踏ん張れば踏ん張るだけ、糞がひりだされただけである

「デップ…ッ!?ウ、ウンチが顔にまで垂れてきたデス!」

ニンゲンがくれた無敵の城だったはずのダンボールが、こんな枷になるなんて
おまけに漏らした糞の匂いで外敵を呼び寄せてしまうかもしれない
目の前に広がる暗闇からは周りの状況もつかめず、親実装の不安はますます募っていく

「デッ、デヒィィ〜!こわいデスゥ!くさいデスゥ!デェェーン!!」

パニックになりかけている親実装はもはや助けを求めているのか
外敵に襲われることを恐れているのか、自分でもわからないまま悲鳴を上げていた

「あのニンゲン…!あのニンゲンがこんなモノよこすからデス!」

恐怖はいつしか自分をこんなにも不自由にした箱を与えた人間への怒りと憎悪に変わっていった
箱なんか貰わなくてもジブンはシアワセになれたのに、この箱のせいでニンゲンに襲われてしまった
何も悪くないジブンがこんな目に会うのも、あのお節介なニンゲンにせいだ
実装石にはよく見られる傾向の考え方だが、この場合は概ねその通りではあった



「おねぇちゃん、こわいテチ!」「シーッ、しずかにするテス…ッ」「テェェェン!」

木の枝にぶら下げられた三姉妹の仔実装たちの方も、為す術なく泣き声を上げるだけであった
一番大きな長女は一番高い場所に親実装と同じように、頭を箱の底面から突き出す形で
次女は長女よりも少し低い位置に、やはり底面から頭を出していた
まだ小さな三女は二匹よりも低い位置におり、木の枝が揺れたおかげでなんとか頭を引き抜いて
ダンボール箱の中から姉たちに助けを求めていた
身動きの取れない姉たちは当然、何もすることは出来ず
長女は外敵を呼ばないためにも、妹たちに声を上げさせないように必死だ
しかしその努力も虚しく、すぐ近くで羽音がしたと思うと長女がぶら下がっていた枝がずしりと揺れた
そして

「カァー」

と一鳴き

「ッッ!?」「テェェーッッ!?おねぇちゃん!おねぇちゃん!!」

近くで人間が見ている大きな獲物よりも、小さくとも安全に仕留められる獲物
カラスはそう考えたのだろうか
不運にも最初に狙われたのは、糞の匂いを撒き散らした親ではなく長女であった
まだ獲物と認識されたわけではない、カラスはただ休みに来ただけかもしれない
そう自分に言い聞かせて長女は息を潜め身動きひとつせず、まるで彫像のように体を強張らせる
くんっと枝が少し揺れる
また揺れる
近づいてきているのだ、一歩二歩と
冷たい汗が長女の顔を伝う
そして

「テッ!?〜〜〜〜〜ッッ!!」

カラスの少し遅めの昼食が始まった
黒く太い嘴がダンボールの中を突くたびに長女の顔が歪む
そしてまた羽音が一つ舞い降りた
ダンボールを挟むように枝に捕まった二羽のカラスは競い合うように柔らかな肉を啄む

「テズァアアッッ!!テジャァァアア!!!」「おねぇちゃーん!!」「テック、テック…テヒンッ」

三女はダンボールの中の惨状を思うと、糞と涙を垂れ流すほかなく
上を見ることの出来ない次女は三女のその様子を見て泣きながら恐怖に体を縮ませていた
やがて長女の顔が垂れてきた赤緑の血に染まり、狂ったように暴れていたのが次第に大人しくなる

「お、おねぇ…ちゃ…?」

「…オ…オマエのせい…テス。……オマエがさわ…ぐから…。このクソム……」

言葉を言い切る前に、長女の頭から下がダンボールの穴からずるりと出てきたと思うと
三女のことを睨んだまま地面へと落ちていった
骨の砕ける音と水を撒いたような音が辺りに響いた

それまで状況のつかめなかった次女の目に
頭の中身を赤緑の血とともに地面に飛び散らせ、体は胸から下を失った長女の無残な姿が映る

「テ…?…テチュアアアーー!?」

次にああなるのはジブンだ
半狂乱に陥りながら次女はダンボールの中で暴れた

「ママーーッ!ママァーー!!死にたくないテチ!まだ死にたくないテチィーッ!!」

腹を満たした二羽のカラスは既に飛び去っていたが、次女にはそのことを知る由もない
長女の最期の言葉にショックを受けた三女は呆けた表情でその様子を見つめている
闇雲に手足を動かすうち、次女のダンボールの刺さった枝がパキリと音を立てた
完全に折れたわけでは無かったが、次女が穴から頭を引き抜くには十分な角度にダンボールが傾いた
そして次女が振り向いた先に見えたのは、遠くで未だ逆さまのままじたばたしている母の姿であった

「テヒッテヒ…ッ。マ、ママ…?ママーーッ!!」

あんな姿でもママは生きている
やっぱりママのおうちはすごい
きっとジブンたちのおうちはこども用だからダメだったんだ
ママのおうちにジブンも入れてもらおう
恐怖で半狂乱のまま、自分が今おかれている状況を考えようともせず
満面の笑みで母に向って走り出そうとする次女

「お、おねぇちゃんっ?あぶないテチ!」

「うるさいテチ!おねぇちゃんはオマエをクソムシって言ってたテチ!オマエのことなんかしらんテチュ!!」

「テ、テチィ…」

そう言われて三女はもう何も言えなくなった

「テヒッ!テチチチ!いま行くテチュ、ママ!!」

この恐怖から逃れ、母の庇護を受けられる
次女はこれ以上ない幸せを夢見て空中へと飛び出した
見ていられずにダンボールの隅で蹲っていた三女の耳に
先ほどと同じ音がするのが聞こえた



「あーあーあーあー…。なんでそうなるかね」

窓から様子を見ていたとしあきの口から落胆の溜め息が漏れる
死ななきゃ死なないでも、それでよかったのに
殺すこと自体は目的ではないのだ
そんなことを考えていると、けたたましい同属の声を聞きつけたのか
二匹の実装石が林から出てくるのが見えた
山実装だ
死んだ二匹の仔実装を見つけるなり、その死体を躊躇無く口へと運んでいる
都会育ちと比べて大人しかったり、多少は同属思いだったりはするものの大きな違いは無い
所詮はこんなものなのだ
でなければ一家揃って禿裸になったり、山から追い出されるように人里近くに住む必要は無い
二匹の山実装は残った仔実装の入ったダンボールを見上げて何度か石を投げた後
今度は家の近くで悲鳴を上げている親実装の方に向ってきた

「おっと。これは近づいておかないとダメな感じか」

十中八九は自分の考えた筋書き通りになると思うが
もしかしたら同属を助けることがあるかもしれない
としあきは万が一に備えるのと、山実装の反応を知るためにスマホを片手に部屋を出た
そして実装石の声が聞こえやすいよう、親実装の近くにある生垣に身を潜めると
翻訳アプリを起動して様子を見守ることにした

「デププ。ほらこいつバカみたいな格好デスゥ」

「ニンゲンの罠にでもかかったデス?やっぱり禿裸はバカデス、デピャピャピャ!」

「こ、これはワタシのお城デスゥ!いいからたすけるデス!」

「いったいどこがお城デスゥ?こんなもんただの穴の開いたジャンクデスッ!」

片方の山実装がダンボールに蹴りを入れる
親実装はそれに驚いたのか、思わず糞を漏らした

「デヒャヒャヒャ!こいつビビッてクソ漏らしたデス!」

「こんな箱、クソで埋めてやるデス。クソムシにはお似合いのクソ箱デス!」

二匹の山実装は下着を脱ぐやいなや、もりもりと糞をひり出し
次々に親実装のダンボールの中へと投げ入れた

「や、やめ…っ!ワタシのお城が!なにしてるデジャァア!!」

抵抗しようにも声を荒げることしか出来ず、大量の糞に埋もれていく親実装
体と穴との隙間からも糞が溢れ、親実装の顔にぼとぼとと落ちてくる

「デフゥ…。もうクソも出んデスゥ」

「あそこで死んでた仔はオマエのデスゥ?ならこの糞に混ざってるかもしれんデス」

「親仔いっしょになって嬉しいデスゥ?デプップップ」

もはや顔全体が糞まみれになり、息をするのにも必死な親実装にその言葉を聞く余裕も無く
ただただこの二匹が去るのを待つしかなかった

「こんなクソまみれは喰う気にもならんデス。そろそろお暇するデスゥ」

「空気も何やら怪しいデス。一雨くる前にオウチに帰るデス」

蛮行に満足した山実装たちは笑いながら林へと入っていった
息も絶え絶えながら、嵐の過ぎ去ったことに安堵する親実装だが
この会話を聞いていたとしあきもまた安堵した

「お前達には悪いが、あいつ等にああいう反応をしてくれんと困るんでな」

野生の生き物に施しをしたことで人を舐めて見てくるのは困る
だがそれ以上にこういった知恵を付けられたらもっと困るのだ
この親仔の企みが成功してしまうと、それを見た他の実装石も真似をし出す
一度ついてしまった知識を消すことなど不可能だ
そしてそれが広まれば人間は山実装に対して何らかの大きな対策をしなくてはならなくなる
そんなことになっても誰が得することも無い
ならばこうやって同じことをする気にならないように、企ての失敗した酷い有様を見せ付けるしかない
自分はああなりたくない、あんなことはしない
そう思わせるしかない
結果に満足したとしあきは、もういい加減この親仔を解放してもいいかと思い立ち上がった
あとはアプリで言い聞かせて、ここから少し離れた山林にでも送り届けてやればいい

「しかしあの実装石…。雨が降るって言ってたな」

空を見上げると、確かに先ほどより雲が出てきて暗くなったように感じる

「うーん…。ちょっと天気予報でも見るか」

そう言って天気予報のアプリを開こうとしたときだった
どこから現れたのかと思うほどに上空を雲が覆っていき、途端に雨が降り出した

「おわっ!?ゲリラ豪雨ってやつか!?」

夕立にしては強すぎる、台風かと見紛うほどの土砂降りが始まった
実装石にかまっている場合ではない
畑の様子も気になるし、田んぼを持っている近所の農家にも声をかけなくてはならない

「ったく最近は!台風だけでも厄介だってのに!」

としあきは急いで家の玄関から傘を持ち出し、風も吹き始めた横殴りの雨の中を走り出した



「デ、デェェエエッッ!?」

先ほどまで糞に塗れていたかと思うと、今度は暗闇から大量の水が親実装に襲い掛かった

「デ…ップ!…ッッ!デプェ!!」

側溝に流れ込んだ雨が親実装の鼻や口へも流れ込んでくる
強風でダンボールがグラグラと揺れるたび、積もった糞と一緒に雨が穴から顔に向けて流れ出てくる
親実装は死を予感した
もはや呼吸すらままならない
もがく以外に出来ることは無いが、それでも必死にもがき続けた
そしてしばらくもがき続けると、すぐ耳元でダンボールが破れる音がした
大量の糞による水分とこの大雨とで、ダンボールはかなり柔らかくなっていた
手足を無茶苦茶に動かし、首を捻り、側溝の底にこすり付けるように頭を振り回した
そして大きな音がしたかと思うと、ダンボールの側面が崩れ親実装の体は側溝の中に投げ出された

「デペッ!?た、たすかっ…」

ようやく自由になれたと思ったその瞬間
目の前には今まで以上の大量の水が迫ってきていた
親実装は立ち上がって逃げる暇も無く、踏ん張るための取っ掛かりも無く
ただ転がるように、まるでブラックホールのような暗い側溝の奥へと飲み込まれていった



「マ、ママ…」

城が崩れ母が流される様を三女は震えながら見ていた
もう姉も母もいない
頼れるのはこのダンボール箱だけだ
バタバタと大粒の雨が打ちつける音が響き
強風に煽られ刺さった枝ごとダンボールが揺れる

「テ、テチィ…ッ」

雨でふやけてきているのか
枝が貫通している部分が少しずつ破れてきているのが見える
このままではいずれダンボールは崩れて自分は落下してしまうだろう
姉たちがいた枝よりも低い位置にいるとはいえ、小さな自分が落下に耐えられるとは思えない
三女は必死で考え、ある方法を思いついた
ダンボール全体が崩れるより先に、枝の貫通している部分だけを破いてしまえばいい
そして箱の形を保ったまま落下すれば、衝撃も幾分かましになるかもしれない
大怪我をしたとしても死ぬよりはいい
これ以上の考えはもう三女の頭には浮かばなかった

「テッチ、テッチ…ッ」

風に揺らされ、雨でよく手元も見えないまま作業に取り掛かる
枝はダンボールの蓋になるフラップと呼ばれる部分
そのうちの2枚の外フラップを貫通してバランスをとっていた
これを片方ずつ破ってはバランスを失い、結局は三女だけで落下する羽目になるだろう
どうにか2枚とも一緒に破らなければならない
三女はフラップを手で引き寄せると同時に、貫通している穴を広げることにした
濡れて柔らかくなったダンボールは、三女の考えたとおりに上へ上へと穴は破れていった
ジブンはクソムシじゃない
ジブンはできる仔だ
他の皆がクソムシだから皆お城がダメになったんだ
ジブンのお城こそ最強なんだ
だからきっとジブンを守ってくれるはず
顔を打ちつける雨に目を細めながら、三女は自分にそう言い聞かせる
そしてそれまで降っていた雨が突然にその激しさを弱めたとき

「テッチーィ!!!」

ブツンと2つの穴がフラップを縦に切り裂いた

「やった!やったテチーーーッ!!」

ダンボールに入ったまま落下する三女
このまま落ちれば雨で柔らかくなった地面も味方することだろう
生き残れた
そう確信した三女の顔に笑みが浮かんだ瞬間
それまでにない雨と突風が三女を襲った

「テッ?」

周りの木の太い枝がいくつもへし折れ
細い樹木は根本から倒れるほどの突風だった
地面に接する間際だったダンボールは三女を中に入れたまま高く舞い上がった
雨粒は横殴りというよりまるで竜巻のように逆巻き
容赦なく脆くなったダンボールに止めを刺していく
錐揉みしながら緑色の箱が空へと舞い上がり続ける
やがて打ち上げに失敗したロケットのように空中分解していくダンボールを
三女は掻き集めるように宙に手を伸ばした

「テ…。ワタ…ワタチのおし…ろ……」

お城が消えた
がんばったのに
あと少しで助かったはずなのに
何かも失った

「テェェ…。テェエェェエェェーーッ!!テエエエエエエエエエーーーーッッ!!!!」」

空高く舞う三女の慟哭は風に掻き消され、涙は雨に流され
体は重力に吸い寄せられていった



「あ゛ーー、疲れた…」

昨日の豪雨は小一時間ほどしか降らなかったものの、被害が無かったわけでもなかった
としあきはその処理に追われ、ようやく遅めの昼食をコンビニで買ってきたところだ
その帰り道
またいつもと違う光景を目にした
件の夫婦がまた実装石相手に何か手渡しているようだ

「あぁ…。忙しくて忠告するの忘れてた…」

よく見れば林の中から別の山実装が何匹か、その様子を伺っているようだ

「もう俺こんなの悪者みたいじゃん…。やだなぁ…」

そういえば昨日の実装石はどうなっただろうか
家に戻ったときにはもう姿を消していた
できれば生き残っていてほしいが
そんなことを考えながら、としあきは夫婦に歩み寄ると相手をしていた実装石を観察した
実装石に似つかわしくない花柄の入った薄ピンクの実装服
お菓子でパンパンになったポシェット
おおよそ見当は付くが確認は大事だ

「こんにちわ。昨日の雨すごかったですねぇ。ところでこちらはお宅の実装石ちゃんですか?」

夫婦がにこやかに応える

「あら、こんにちわー。いえね、この実装ちゃん、山の野良みたいなんですけど服を無くしたみたいで…」

「可哀想なんで、ちょっといらなくなったカーテンで服を作ってみたんですよ」

ああそうですか、と心の中で溜め息を尽く
これを見たら、あんたたちもまた出ていくんだろうな
それがいい
お互いのためだ
俺が都会に出る気にならないのもそういうことだ

「じゃあ、しょうがないんで。ちょっと離れてもらえますか」

そう言ってひとつ間を置くと
至福の笑みを浮かべるその実装石を、としあきは渾身の力を込めて蹴り飛ばした

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1 Re: Name:匿名石 2022/10/10-04:23:32 No:00006548[申告]
真面目な話都会の人には田舎の動物をペット感覚で扱えると勘違いしてるのがいる
それを思い出させられた
2 Re: Name:匿名石 2022/10/14-20:25:24 No:00006554[申告]
ダンボール一つでここまで面白いお話を...
すごいなぁ
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