実装石と生きる一族⑧ 事情聴取(その2)と冬の蓄え 「ホソ蟲」 『はいデス』 実質的に昨日丸1日だけの我が家の庭での生活だが、ホソはだいぶ血色が 良くなったように見える。 ほぼ食えない生活だったものが、腹いっぱい食べられ、日当たりも抜群の 場所で、しかも安心安全な昼寝付き、という住環境に変わったのだから、 変化も顕著なのだろう。 「素嚢乳、実装石どもが言う、お乳の出具合はどうだ?」 『たくさんお乳が出るようになったデス。 ワタシがお腹いっぱい食べられるようになったからと思うデス。 ヨンジョちゃんもお腹いっぱいお乳を飲めて、とっても喜んでいるデス』 やはり、早くもかなり良化したようだ。 ホソの4女蛆実装は今現在、素嚢乳を飲ませて育てているようだから、 そちらにもすぐに良い影響が出てくるだろう。 うまくすれば、繭を作って親指実装、あるいはひょっとすると仔実装にまで 成長するかもしれない。 しかし、そのためには正しい授乳が必要なわけだが、庭蟲どもには素嚢乳に 関する正確な知識はあるのだろうか。 「ホソ蟲、デカ蟲もだが、実装石の素嚢乳は、右と左で違う乳が出ている のは、知っているか?」 『デ、デ?』 ホソは困ったようにデカの顔を見るが、デカも知らないことだったらしく、 戸惑った様子を見せている。 「右の赤い方からは栄養が豊富な素嚢乳が出ている。 そして、左の緑の方からは実装石の服などの元となっている葉緑体を、 たっぷりと含んだ素嚢乳が出ている。 どちらも親指蟲や蛆蟲の身体を大きく強くして、賢い仔蟲に育てるのに 大切な物だから、両方とも飲ませた方がいいぞ。 一回の食事の時に、お腹の半分くらい、どっちかを飲ませたら、次には もう片方を飲ませる、という感じでな」 デエェー、とデカとホソが感心している。 テテテ!、とチュウは頬を上気させて興奮している。 チュウの知識欲を刺激したらしい。 「それとな、デカ蟲は、今お乳は出てるか?」 『出るデスゥ。でもヨンちゃんもご飯が食べられるのであげてないデスゥ』 「デカ蟲もホソ蟲も、お乳に余裕があるようだったら、親指蟲にも飲ませて やった方がいいな。 親指蟲は草団子なんかも食べられるだろうが、仔蟲になるぐらいまでは 素嚢乳も飲ませた方が絶対に良い」 『ありがとうございます、ニンゲン様。 ヨンちゃんにも飲ませてあげるデスゥ』 『ワタシも今度からサンジョちゃんに飲ませてあげるデス』 それでいい。 と、話がまたまた逸れた。 本題の脇道に戻ろう。 「ホソ蟲は、今まで何回、冬越しをした?」 『1回だけデス、ニンゲン様』 「去年初めて冬越しをしたんだな? その時はホソ蟲の親実装、たしかデカ蟲の妹実装だったか? それと一緒に冬を越えたのか」 『そうデス』 「その時、ホソ蟲の母親実装が産んだ仔実装、つまりホソ蟲の姉妹実装だが、 ホソ蟲と一緒にこの前の冬を越えた仔実装はいたのか?」 『……お姉ちゃんがいたデス』 辛そうに、顔を曇らせてホソが答える。 やはり、何かあったんだろうな、これは だが今は先に進む。 「次の質問だ。 ホソ蟲は今、5匹仔蟲たちを育てているな。 そのうち、どれがホソ蟲の産んだ仔蟲なんだ?」 『チョウジョちゃん、ジジョちゃん、サンジョちゃんをワタシが産んだデス』 ホントに3匹までしか産まれないんだな。 この一族の知能の高さと関係あるのだろうか。 「じゃあ、4女蛆蟲と5女仔蟲は、誰が産んだ?」 『…………デ…………』 ホソは、のっぺりした顔を苦しげに歪めて俯いてしまった。 辛い思い出がよみがえるのだろうか。 それなりの知能と感情を持つ実装石だから、その悲しみを理解はするが、 ホソに対して同情や哀れみ、共感などといったものは私の心に一切生じない。 むしろ、実装石ごときが悲しみの感情を持つということに、冷笑を禁じ得ない。 表情を隠してくれるフルフェイス・リンガルで良かった。 「ホソ蟲よ。 何かツラいことがあったんだろうが、これは、大事なことなんだ。 これからホソ蟲とホソ蟲の仔蟲、親指蟲、蛆蟲たちがこの庭で暮らして 行くために必要で大事なことなんだから、ちゃんと答えるんだ」 『……………。……………』 絶句かよ 一丁前に 『……あのう、デスゥ、ニンゲン様』 デカが恐る恐る割って入る。 『このコは、とてもとても悲しいことがあったデスゥ。 まだ悲しい気持ちでいっぱいなんデスゥ。 なので、ニンゲン様にお話しするのは、ちょっと無理だと思うデスゥ。 だから、ワタシが代わりにお話ししてもいいデスゥ?』 愛情豊かなこの一族の代表であるデカらしい申し出だ。 思いやり、という高潔な言葉を実装石に対して適用する日が来ようとは、 夢想だにしなかった。 これは、敬意を表してご褒美を上げざるを得ないな……、っと! ド ガ ッ !!! 私はブーツの裏でデカの腹を蹴り飛ばす。 勢い良くブッ飛んだデカは後ろ向きにもんどり打って激しく転がり、頭から 1回転してうつ伏せに倒れ、そのまま1メートルほど顔を地面で思う存分 すりおろしてから、ようやく止まった。 テチャァァァッ! と仔蟲たちから悲鳴が上がる。 私は、血まみれになって痙攣するデカに向かって、ごく冷静に告げる。 「ダメだ。俺はホソ蟲に聞いているんだ。 デカ蟲の気持ちは分からないでもないが、余計なことをするな。 言ったよな? 庭蟲がこの庭に棲む条件は、俺に対する完全服従だ、と。 俺に逆らうことは、絶対に許さん」 実装石だからこの程度で死ぬことはない。 が、しばらくは動くことができないはずだ。 だが驚いたことに、デカは痛みに耐えながら必死になんとか起き上がろう としている。 興味を引かれて眺めていると、腕でデカい図体を持ち上げ、頭と顔から 赤緑の体液を垂れ流しながら跪いて、私に向かって土下座の体勢をとった。 土下座という作法まで知っているとはね ひれ伏したデカの顔から垂れる赤緑の粘液が、鮮やかなコントラストを 土の上に描き出す。 しかし、これは実装石の生態を考えれば驚異的なことだが、デカはほとんど パンコンをしていない。 括約筋がよほど強靭なのだろうか。 「次は殺すぞ。 今回はそれで許してやる」 デカは何か言おうとするが、ゲビャッと気管に入った血の塊を吐き出し、 激しく咳き込む。 蹴った時の感触は、非常に重く、ずっしりとした蹴り応えだった。 胸骨、あばら骨辺りが折れていてもおかしくはない。 内臓もどこか損傷しているのだろう。 血涙を流してデカに駆け寄り、ガタガタと震えながらもデカの背中を擦る チュウを冷め切った気分で見下ろした後、ホソに向き直り、同じく怯えて 血涙を流すその醜い顔に淡々と告げる。 「ホソ蟲。良く聴け。 ホソ蟲が俺に聞かれたことに答えなかったから、デカ蟲がこんな目に 遭ったんだ。それをしっかり覚えておけよ」 ホソは茫沱の赤緑の血涙を流し、ガクガクと頷く。 あまりの恐怖に声も出ないのだろう。 「じゃあもう一度聞こう。 ホソ蟲の4女蛆蟲と5女仔蟲の産みの親は、誰だ?」 ジェジュジェジュとホソの口から声が出るが、怯えのあまり不明瞭になり 過ぎて特製リンガルでも翻訳できていない。 「少し落ち着け、ホソ蟲。 何を言ってるか、さっぱり分からん。 ちょっと深呼吸、つっても知らんか、大きくゆっくり息を吸って、それから 大きくゆっくり吐いてみろ」 ホソは震えながらも、なんとか吸って吐いてを行う。 「それを、あと5回繰り返せ。」 シェーヒャー、セーファー、デーハーと徐々に呼吸が落ち着いてくる。 面倒くせぇなぁ、ホントに 「よし、それじゃ、ゆっくりで良いから質問に答えろ」 頷き方もだいぶまともになった。 「4女蛆蟲を産んだのは、誰だ」 『ワタシの、お姉ちゃん、デス』 消息不明の一族がまた増えた。 だがやはり先に進む。 「5女仔蟲を産んだのも、ホソ蟲の姉蟲か?」 『ちがいます、デス。ニンゲンさま。 ゴジョちゃんは、ワタシの、ママが、産んだデス』 「つまり、5女仔蟲は、ホソ蟲の妹か」 『そうデス』 「妹を娘として育てているということか?」 『はいデス。』 やはり、この実装一族には、養女という言葉こそ無かろうが、その概念 らしきものは存在するとしか思えない。 近しい血族の仔を育てることがシステム化されていると考えるのが自然だ。 そして同時に、その事実は、この一族が、実装石にはまずあり得ない、 血族内の他家族間で助け合って生きる集団だということも示している。 その時、私の脳裏にある仮説、可能性がよぎった。 この一族は、“蟲系”の実装石ではないのかも もしかしたら、“猿系”の末裔か___? しかし、万が一、そうであったとしても、今はそれを確かめる時ではない。 「ホソ蟲は、まだ親蟲の助け無しに冬を越したことはないんだよな?」 『そうデス』 「親実装の助けが無くて、初めて産んだ自分の仔蟲と冬を越すことに不安は なかったのか?」 『とっても心配があったデス』 そらそうだろ 現に餓死寸前で渡りをやったぐらいだし 「自分の仔実装だけでさえ、無事に冬を越えさせられるか分からないのに、 4女蛆蟲だけならともかく、なぜ5女仔蟲まで引き取った? 既に何度も冬を越したことがあるデカ蟲に任せれば良かったろ」 ホソは長女仔実装・次女仔実装と一緒に3女親指を慰めている5女仔実装を じっと眺めた。 その眼差しには、愛情が込もってように見える。 凹凸に欠けた実装石の顔から感情を読み取れる特殊能力は私には無いが、 なんとなく、ごく自然にそう見えるのだ。 『ゴジョちゃんは、ママお姉ちゃんが育てると言ってくれたデス。 でも、ゴジョちゃんがワタシと一緒にいたいと言って聞かなかったデス』 「なぜ5女仔蟲はデカ蟲を嫌がったんだ」 『ゴジョちゃんはママお姉ちゃんをイヤがったわけではないと思うデス。 でも、少しだけ先に産まれたワタシのチョウジョちゃんとジジョちゃんと とても仲が良いデスし、それにーーー』 ホソはまた悲しげな表情を浮かべる。 ように見えるだけだが。 『ーーーゴジョちゃんは、ワタシが死んじゃったママの匂いがすると言うデス』 なるほどな ホソ母と娘ホソの臭いは、姉妹であるデカより似ているのだろう ま、どうでもいいけど で、ホソの母実装であるデカの妹実装は死んでる、と 「それで、経験も無い、自信も無いホソ蟲としては、どうやって冬を越す つもりだったんだ?」 『ワタシの両目がミドリ色になった時、ママとママお姉ちゃんが相談して、 ワタシのお家をママのお家とママお姉ちゃんのお家のすぐ近くに運んで くれたデス。 そうすれば、ママとママお姉ちゃんがワタシが困った時にすぐに助けて 上げられると言ったデス。 それから、ママとママお姉ちゃんに教えてもらって、とってもがんばって 冬の準備を始めたデス。 だけど、冬に食べるご飯がとても少なくなってたデス。 それに、毎日食べるご飯までほとんど無くなってたデス』 この地域の実装石ウォッチャーの間で、森林公園と河川緑地公園の堅果類の 実りが今年はやけに少ない、という情報が流れ始めたのは9月初頭のことだ。 おまけに、世界的な感染症の影響で、実装石が日常の餌としていた飲食店からの 廃棄物は、客の数に比例して激減している。 愛護派の餌巻きが激減していたのは既に周知のことでもあり、今年の冬の 両公園が阿鼻叫喚の地獄絵図となることは観察派・虐待派の共通認識だった。 ホソの話を信じるなら(ホソの知能では嘘もつけまいが)、この一族は、 我々とほぼ同じ時期にその危険を察知したことになる。 9月にはもう既に冬を見越した準備を始めることといい、さすがというべきか。 「なるほどな。分かった」 そして、ここからがようやく本題の話だ。 「ホソ蟲は、“この庭で”、どうやって冬を越そうと考えてた?」 『はいデス。 今日から、朝のご飯を食べたら冬の準備を始めようとママお姉ちゃんと 話してたーーー』 「その『ママお姉ちゃん』ってのは分かりにくいし、長くて面倒だ。 デカ蟲のことは、“オバちゃん”と呼ぶようにしろ」 『オバちゃん、デス?』 「そうだ。 ホソ蟲の母親の姉、という意味だ。 いちいちママお姉ちゃんと言うより簡単だし分かりやすい。 慣れるまで、ちょっと大変かもしれないが、そのようにしろ」 『わかりましたデス』 オバちゃん、オバちゃん、とホソは口の中で繰り返している。 「それで、今日から冬の準備を始めようと、デカ蟲と話してたのか?」 『そうデス。 ここにはドングリなんかがたくさんあるから、お家の中に集めて置いて おこうってママおね、じゃないデス、えと、オバちゃんが言ってたデス』 「それはいいことだ。ぜひそうしろ。 だが、どうやって小屋の中にドングリを置いておく?」 『ママは、袋にいっぱいにドングリを入れて、それをいくつもいくつも お家の中に置いてたデス。 だからワタシもそうするつもりデス』 「袋っていうのは、ホソ蟲、デカ蟲、チュウ蟲の3匹が持ってたような ビニール袋のことか?」 『そうデス』 「それはダメだ。その方法は許さない」 『デ、デ?!』 「ビニール袋は人間が作った物だ。 最初に言ったよな。 庭蟲どもには人間が作った物は使わせない、と。 だから、ビニール袋でドングリを保管する方法はダメだ」 『……はいデス……』 と、デカがチュウに支えられながら、ヨロヨロと歩いて来た。 介助付きとはいえ、もう歩けるか 4年越しのベテランは強いな、やっぱり 私とホソが話してる間、チュウがタイサンボクの葉に水を汲んで何度も デカに飲ませてやり、仔蟲に指示してドクダミ団子もいくつか運ばせ、 それもデカに食べさせていた。 実装石レベルでできる治療行為としてはなかなか的確だ。 そのお陰と、デカ自身の強さ・回復力もあって、この短時間で立ち上がれる どころか歩くまでの復活となったのだろう。 まあ、かなり無理してはいるだろうが。 「デカ蟲とチュウ蟲。 今ホソ蟲に伝えたが、冬用の食糧としてドングリなどを貯蓄しておくのは 良いことだが、ビニール袋に入れておく方法は許さない。 だから、今からそれに代わる方法を教える」 そう告げてから、庭蟲2家族が棲む小屋からほど近い、森の入り口付近に デカ、ホソ、チュウを連れて行く。 デカがチュウに支えられてヨロヨロと歩くので、いつもよりさらに遅い。 イライラするが、まあ仕方がない。 「見たところ、庭蟲どもは穴を掘ることに慣れてるようだな」 糞穴は掘ってやったが、小屋周りに溝を掘ってたしな 「穴を掘って食糧を蓄えたことはあるか?」 『な、無い、デスゥ』 デカが声を絞り出すように答える。 もう喋れるか さすがに強いな 「糞蟲はウジ蟲なんかを冬用の食糧にするために穴で飼ったりするだろ。 庭蟲どもはそれをやったりしないのか」 『ジッソウセキを食べると身体が臭くなって、ニンゲンさんとか犬とか カラスとか、それに他のジッソウセキに襲われやすくなるデス。 ママたちからそう教わって、ワタシたちはそれを守ってるデス』 ホソが答える。 それはそのとおりだ。 理にかなった判断が一族に受け継がれているらしい。 「冬用にドングリなんかを蓄えるのはいいことだ。 だが、さっきも言ったが、人間が作ったビニール袋で冬用の食糧を 保存するのは、ここでは許さない。 だからこれからは穴を掘って、そこに木の実を保管しろ」 近くにあった太い木の枝を拾い上げる。 シャベルを使えば簡単なんだが、面倒だけど仕方がない。 「今から見本に1つ掘って見せる。よく覚えろ」 まず枝で、デカが2体入れるほどの円を地面に描く。 次いで、円の中を枝で掻いたり突いたりして土を柔らかくし、それを手で 掬い出す。 あとはこれを繰り返すだけだ。 ああ、面倒くせえ! とはいえ、そう大きくない穴だ。 深さも、チュウの目の高さほどにする。 さらに、穴の壁面の一部を、螺旋状のスロープのように掘り残し、穴の中に 降りられるようにした。 最後に穴の底と壁を、手のひらほどの大きさの石で叩き固める。 食糧保存穴、完成だ。 30分ほど時間がかかった。 デカ、ホソ、チュウは熱心に見ていた。 「穴の作り方は覚えたか」 『覚えたと思うデスゥ、ニンゲン様』 デカの声がしっかりしてきたようだ。 分かってはいるが、実装石の回復力は、正直、気味が悪い。 『あのテス、ニンゲンさま』 遠慮がちに、しかしやや上気した感じでチュウが声をかけてくる。 『そこはなんで坂道みたいに土を残しておくテス?』 「これは、庭蟲が穴の中に入りやすく、出やすくするためだ。 こうしておけばデカ蟲、ホソ蟲、チュウ蟲だけじゃなく、仔蟲でも ドングリを持って来られるだろ」 テー、とチュウが感心している。 「穴の作り方を覚えたなら、次はドングリの入れ方だ」 栗、トチノミ、椎の実などをホソとチュウにも手伝わせて拾い集め、穴の 7割ほどまで積み込む。 その上に細い木の枝を被せ、さらにたっぷりの落ち葉で厚く覆う。 「これが保存方法だ。覚えたか? これをいくつか作っておけば、庭蟲11匹が冬越しするのに十分なだけの 食糧を蓄えておくことができるはずだ」 3匹がデスゥデステスと頷いて返事をする。 「あのテス、ニンゲンさま」 またチュウだ。 「なんだ」 『作り方教えてくれて、ありがとうテス。 それで、この穴は、雨が降ってもドングリ濡れないテス?』 「いや、濡れるな。 強く降ったら雨水が溜まってドングリが水に浸かるだろう」 『? 濡れちゃって大丈夫テス?』 「むしろ水に浸かるからいいんだ。 腐ってダメになったり芽が出てしまったりすることが防げるからな」 『……よくわからないテス。 でもこの方法がいいことは分かったテス。 ありがとうテス』 「……礼など要らん。 それより仔蟲どもにも穴造りを教えておけ」 デステス、とホソとチュウが返事をして、小走りに仔蟲たちを呼びに行く。 デカも動こうとしたが、ホソとチュウが止めた。 今デカは回復優先ということだろう。 やがてワラワラと、というかテチテチと仔蟲たちが集まって来た。 親指と蛆蟲も遅れて来るが、作業には加わらず、デカの側にいる。 草だんご作りとは違い、穴造りの場面では、まあ戦力にならないどころか、 むしろ邪魔だろう。 デカは親指と蛆の子守りをしつつ、ホソとチュウが中心となって進めている 食糧保存穴造りに側からアドバイスを送る。 大したリーダーシップだ。 一方の作業部隊のホソとチュウもなかなかのものだ。 自分たちの背丈よりもやや長く、両手で抱えて自由に動かせる程度の太さの 枝を選び、それを丸手なりの器用さで穴を掘り進める。 チュウの作業ペースはホソのそれより少しだけ遅いが、この2匹の身長が 倍ほども違うことを考えれば、チュウの作業ペースはホソよりもかなり速い と言えるだろう。 ホソとチュウが掻き出した土を5匹の仔実装が抱えて穴から運び出して行く。 この5匹の作業も体格や能力の差でペースに違いはあるが、概ね効率的と 評価できるはずだ。 だが、穴の深さが仔蟲どもの顎の下ほどまでに達すると、作業の速度が 急激に落ちてきた。 仔実装たちが抱えて運べる土の量は、たかが知れている。 そして穴が深くなるほど歩く距離も長くなり、腕からこぼれる土も増える。 ビニール袋を使わせれば作業効率は格段に向上するだろうが、庭蟲たちに 既に伝えたように、極力避けたい方法だ。 と、なれば 「ホソ蟲、チュウ蟲と、仔蟲ども。作業を止めてこっちに来い」 デステステチと土まみれが集まって来る。 デカと親指たちと、蛆は、最初から私の傍にいる。 「作業を見ていたが、なかなか上手くできている」 『あ、ありがとうございますデス。ニンゲンさま』 作業組を代表してホソが礼を言う。 「だが、穴がこれくらい深くなると、作業が上手くいかなくなるようだな」 『……仔実装ちゃんたちが運べる土は、多くないデス』 『お手々で運べる土が多くないし、それも歩くとこぼれちゃうテス』 ホソとチュウが作業効率の低下要因を口にする。 やはりチュウの方が観察と考察が的確なようだ。 「では、それを解決するにはどうすればいいと思う。 どんな方法でもいいから、思い付いた方法を言ってみろ」 ホソとチュウは泥がついたノッペリ顔を見合わせ、同時に恐る恐る口に出す。 『……袋を使いたいデス(テス)』 やはり気付いていたか 「そのとおりだ。 ビニール袋に土を入れて運べば、作業は速く、楽になるだろう。 だが、ビニール袋は人間が作った物だから、庭蟲どもに使わせたくない」 ホソとチュウは、その答えを予測していたようで(だからこそ口ごもったの だろう)、落胆の色は薄い。 ように見える。この表情の読みにくさ! だが、穴掘り作業効率アップは、私にとっても都合は良いのだ。 というわけで、 「これから、庭蟲どもに、ビニール袋に代わる袋を教える」 ——続く——

| 1 Re: Name:匿名石 2022/08/09-23:31:01 No:00006527[申告] |
| 続き来たー!観察系は人間に縛りがあって楽しいな |
| 2 Re: Name:匿名石 2022/08/10-00:42:06 No:00006528[申告] |
| まってた |
| 3 Re: Name:匿名石 2022/08/10-21:16:05 No:00006536[申告] |
| 猿系、また新しい言葉が増えたな… |
| 4 Re: Name:匿名石 2022/10/30-03:21:59 No:00006574[申告] |
| 続きが気になるんデス |