タイトル:【悲哀】 巡る春は喜びとともに
ファイル:巡る春は喜びとともに.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2175 レス数:5
初投稿日時:2022/04/30-19:00:19修正日時:2022/04/30-19:00:19
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ごく普通の家庭である中野家に飼われている実装石、モモコの毎日の楽しみは散歩だ。
別に遠出をするわけでも無いのに、いつもわざわざおめかしをする。
今日も3時のおやつの後にリードすら装着せず、いつもどおりのルートを飼い主と散歩していた。
そしてゴミの集積場で地域実装のタンポポが掃除しているのを見つけると
足早に駆け寄り、いつものように話しかけた。

「タンポポおばちゃん、こんにちはデスゥ。今日もお仕事デスゥ?」

「こんにちはデス、モモコちゃん!ゴミ収集のときにゴミ袋が破れちゃったのか
 散らかってたからお掃除してたデス」

「デププ、いつも大変デス〜。おやおや…それはワタシの捨てたお洋服デスゥ?」

「まだキレイなのに捨てたデス?ワタシがもらってもいいデスゥ?」

「ワタシはご主人サマにまた新しい服を買ってもらえるから好きにするデスゥ。デッププ♪」

「じゃあもらっておくデス。モモコちゃん、ありがとうデス!」

寛容なところを見せつけると同時に、自分の捨てた服を大事そうに畳むタンポポの姿を
モモコは内心嘲笑っていた。


モモコが散歩を楽しみにしている理由がこれである。
地域実装としてこの町内に住み着いている実装石であるタンポポに
自分が飼い実装として如何に愛されて裕福に暮らしているかを見せびらかすためだ。
もらった服を抱えて住処に戻るタンポポを眺め、モモコは満足げに鼻を鳴らして散歩を再開した。
町内で飼われるだけの地域猫と違って、地域実装は町内の掃除や雑用をしなければならない。
その代わりとして安全な住処と質素ながらも食事を提供され安定した生活を送ることができる。
飼い実装として何不自由ない暮らしをするモモコから見れば、地域実装の立場は人間の奴隷のように映った。
モモコは家に帰ってもニヤニヤと薄ら笑いを浮かべていた。

(デププ。相変わらず小汚い奴隷デスゥ。それにあの右目…デップップ)

タンポポの右目を思い出すたび、モモコは優越感を感じていた。
ただタンポポは町内の人間からは重宝されているようで
何かと世話を焼かれて可愛がられているのが、モモコは少し気に食わなかった。


ゴミ集積場の傍らに置かれた古びたお下がりの犬小屋、それがタンポポの住処である。
もうこの町に住んで2年にもなるが、この質素な生活にタンポポ自身は満足していた。

「あのころに比べればワタシは恵まれているデス」

元は飼い実装であったが飼い主の引越しに伴い捨てられたタンポポは野良生活で地獄を見てきた。
ひたすら食べ物と身の安全を求めるだけのその日暮らしの日々。
終いには保健所に送られ安楽死を待つだけだったところを
ちょうど地域実装を求めて保健所を訪れていた、この町の町内会長に救われた。
飼い実装として躾けられていたタンポポは、身の回りのことは一通り自分でこなし
高いモラルと知能も備えており、地域実装としてはうってつけだった。
九死に一生を得たタンポポは地域実装としてゴミ収集の日には早起きし
ゴミを荒らす猫やカラスに野良実装を追い払い、夜は防犯のために遅くまで町内の見回りをした。
町を荒らすだけの野良実装とは違う、その献身的な働きの甲斐もあって
地域実装の有用性に懐疑的であった住民からも暖かく受け入れられるようになっていった。
そんなタンポポにも小さな不満はあり
右目を抜き取られ、ただの赤いガラス玉に置き換えるという避妊措置をとられている。

「仔どもを授かれないのは…しょうがないことデス…」

ときおり仔作りの衝動に駆られるが、そんな時はがむしゃら仕事をこなすことで気分を誤魔化した。


冬も終わりを迎え始めると、それまでに増してモモコは散歩を楽しみにしていた。
春は実装石にとって種として最大の喜びである妊娠と出産が最も活発になる季節である。
モモコは飼い主から勝手な妊娠を禁じられていたが
散歩中の受粉による事故的な妊娠ならば認めざるを得ないだろうと画策していた。
そして鮮やかな若草色に染まった両目を、あの嘘っぱちの右目を持つタンポポに見せつけてやろう。
最大の喜びを奪われたあの奴隷には、最大を喜びを得た自分がさぞかし羨ましく見えるだろう。
もしかしたらあまりの嫉妬と怒りに暴れまわって、この町を追い出されるかもしれない。
そんなタンポポの情けない姿を思い浮かべると

「泣き叫ぶアイツの顔はきっと見ものデスゥ〜。デプフッ!」

と思わずいやらしい笑みがこぼれた。
しかしそんな思いとは裏腹に、何日散歩を繰り返してもモモコの右目が緑色の染まることはなかった。
散歩から帰るたび、朝起きるたびに右目が緑色に変わっていないか鏡で確かめる。
そんな様子のモモコを、飼い主の方は気に留めることも無いようだった。
それもそのはず、人間である飼い主にはモモコの企みくらいお見通しである。

(子供が生まれたら、それだけ出費も増えるし里子に出すにも手間もかかるし一人暮らしには無理があるんでな。
 ネズミ算式に増えられでもしたら、もう手に負えない。悪いけど、責任を考えたらこうするしかないんだモモコ)

モモコの普段食べている3時のおやつには週に一度、イシキエールという商品名のゼリーが与えられていたが
これは実装石に疑われることなく摂取させることのできる、いわゆる不妊薬であった。
このゼリーは食べると胃液から新たな偽石を保護するための粘膜が作られなくなり
食べたものと偽石が一緒に消化され妊娠しなくなるというものであった。


ある日のこと、モモコは散歩中にタンポポが小さな仔実装を連れているのを見つけた。
モモコは動揺し、いつもの自慢話も忘れて声を震わせながらタンポポに尋ねた。

「そ、その仔はどうしたんデスゥ…?」

「昨日追い払った野良の親実装に置いていかれた仔デス。なかなか頭のいい優しい仔デス。
 かわいそうだから一緒に住まわせていいか町内会長サンに頼んできたところデス!」

薄汚れて異臭を放ってはいるが、可愛らしくお辞儀をする小さな仔実装にモモコは目を奪われた。
ゴミ漁りに失敗したため非常食として食べられるから親の元には帰れないこと
名前の無かった仔実装にツクシという名前を付けたこと
隣町からいい地域実装はいないか相談されているので住まわせる代わりに
このツクシに地域実装としての生活を教えてやってほしいと町内会長に頼まれたこと。
色々なことをタンポポが話していたが、モモコの耳にはツクシという名前以外ほとんど入ってこなかった。
これから忙しくなると嬉しそうに話すタンポポがツクシを連れて住処に戻っていくと
モモコは呆然とした様子で散歩に戻った。

(なんであの奴隷に仔どもができるデス…?なんで努力してるワタシには仔ができないデス?)

その次の日からモモコは散歩のルートを変えるよう飼い主に頼んだ。


ルートを変えても同じ町内に住んでいる者同士である。
タンポポとツクシが仲良さそうに掃除などをしている様子を嫌でも見る羽目になった。
もう5歳にもなるタンポポは生まれてこの方、妊娠も出産の経験も無い。
そのせいもあり溺愛と言ってもいいほどツクシのことを可愛がっていた。
ツクシの方も生まれて始めて触れる“仔を思う実装石”であるタンポポを育ての親として信頼しきっていた。
二匹はまるで本当の親仔のように暮らし、その姿は町内の人間からも愛された。
そしてそんな二匹を見かけるたび、モモコの胸中には嫉妬や焦りが湧き上がり
それまで圧倒的に優位を保っていた自尊心が深く傷つけられていった。

(そのうち春も終わるデス。ワタシはあの奴隷に劣ってるというデス…?)

飼い主になんとか出産を認めてもらおうと、翻訳アプリを通して説得してみるものの
色よい返事がもらえなかっただけでなく、いかにモモコが恵まれているかを長々と説教されてしまった。
しかし焦るモモコには説教など聞く耳も無く、ただただ飼い主への不満が募るだけであった。


ある日、モモコはとうとう思い余って散歩中に道端に咲いていた名前も知らない花を無造作に掴むと
すばやく下着を下ろし鼻息を荒くしながら自身の股間に擦りつけ始めた。

「デッ!デヒッ!デェッ!」

「あっこら!?何してるんだモモコ!!やめなさい!」

その行為を飼い主が止めないはずもなく、持っていた花は平手で打ち落とされ花のそばから引き離された。

「なんで邪魔するデス!ワタシは仔どもがほしいんデスゥッ!!デジャアアアア!」

モモコは顔を紅潮させ涎を振りまきながら飼い主に吠え掛かったが、力の差は歴然である。
簡単に抱きかかえられ日課の散歩は終わりとなった。
家に帰る途中でも飼い主の腕の中で糞を漏らしながら暴れ続けた結果
モモコは罰として夕食を与えられず、ケージの中に閉じ込められてしまった。
生まれて始めて感じる空腹感に寝付けずにいたが、モモコは暗いケージの中で薄ら笑いを浮かべていた。

「おなか減ったデズゥ…。でもきっとニンシンはしてるはずデス。デ、デプププ…」

翌朝、ケージから出ることを許されると、モモコは真っ先に鏡に向かった。
しかし赤いままの右目は、飼い主の怒りを買ってまでした行動が何も実を結ばなかったことを教えていた。


その日のモモコはまるで食欲が無く目に見えて気落ちしていた。
流石に飼い主の方も気の毒に思い、いつもより早くに気晴らしの散歩に行くことにした。
モモコは嫌がるそぶりを少し見せたものの、本気で抵抗する気力も無く渋々散歩に出た。
とはいえ前日と同じことをされては困るので飼い主は散歩ルートを少し変えることにしたが
不幸にもそのせいでモモコはすぐにタンポポ親仔と鉢合わせることになった。

「あっ、モモコおばちゃん、こんにちはテチー!これおすそわけテチュ!」

モモコの姿を見つけ駆け寄ってきたツクシが、近所の人からもらったのであろうお菓子を差し出してくる。

(ほんとうにイイ仔デスゥ…。ワタシもこんな仔がほしいものデス…)

眼にじわりと涙が溜まるのを感じながら、屈んでツクシに目線を合わせお菓子を受け取ろうとしたとき。
モモコは見てしまった。
以前よりも少し大きく育ったツクシの右目が、今まさに鮮やかな緑色に変わっていく様を。
その瞬間モモコがツクシに感じていた愛情が、別の物へと変貌した。

「こんなガキに…ワタシが劣るはずないデス…。そんなのは許さないデス…」

擦れるような声で呟いたときにはもうツクシの体を両手で掴み、小さなその頭の半分ほどを齧りとっていた。


「デ…?…ツクシィィ!?デギャアアアアアオオッッ!!」

あまりのことにタンポポは糞を漏らしながら吠えるだけで動くことができず
モモコの飼い主も悲鳴を上げながら、その場で頭を抱えてへたり込んでしまった。
頭を半分失いながらもビクビクと体を震わせ呻くツクシだが、もう長くないことは誰の目にも明らかだった。

「デヒヒヒッ!ワタシだって産めるデス!オマエらみたいなクズとは違うデジャァァアッ!!」

モモコは齧りとった頭部を吐き捨てると、今度はツクシを自身の左目に擦り付けるように押し当て始めた。
ツクシの抉られた頭部から噴き出た体液がモモコの左目を染めていく。
グチャグチャとツクシの体の潰れる音がするたび、モモコの下着が膨れ上がる。

「ほぉ〜ら産まれたデスゥ!かわいいかわいいワタシの仔どもたちデス〜♪デププ〜ン!」

下痢のような排泄音と共に下着からは仔実装でも蛆実装でも無い
肉片の付着した偽石の欠片のようなものが糞を漏らすように溢れ出し、ベチャリと不快な音を立てて地面に落ちた。
ツクシを投げ捨て地面にこぼれ落ちた肉片たちを愛おしそうに抱きしめ笑うモモコ。
上半身のほぼ全てが擦り潰され、もう息の無いツクシを抱き上げ泣きじゃくるタンポポ。
近隣の人たちも何の騒ぎかと押し寄せたが、二匹の異様な光景に誰も近寄らず
ただ困惑と忌避の眼差しを向け取り囲む野次馬となるほかなかった。

————————————————

騒動のあと、ゴミとして処分される肉片にしか見えない我が仔を守ろうと町民に噛み付いたため
モモコとその飼い主は遠くへの引越しを余儀なくされた。
幸いにも町民の怪我は軽いものだったので保健所に送られたり賠償金を払うといったことは無かったが
モモコは二度と家の外に出してはもらえなくなった。

「あれもクソムシデス…。あそこのもクソムシに違いないデス…」

毎日ベランダのガラス戸に張り付くように立ち、道行く実装石の親仔を見かけるたび呪詛を吐く。
日がな一日そんな様子で、外も暗くなりガラス戸に自分の姿が映ると悲鳴を上げてケージに駆け込んだ。
ガラス戸に映ったもう一人の自分の嘘っぱちの右目が、こちらを嘲笑っているような気がしてならない。

「こんなはずじゃなかったデス…。シアワセな家庭を作るはずだったデス……デェェェン」

どれだけ季節が巡ろうと、モモコにはもう春が来ることはない。
込み上げてくる感情に涙が止まらず、以前よりも狭くなった視界がぼやけてくる。
自分自身を抱きかかえ身を守るようにして、モモコは咽び泣いた。

————————————————

「あの仔はあっちでがんばってるようデス。ツクシも見守ってやってほしいデス…」

タンポポは手を合わせながら、墓石代わりに置かれた庭石に言葉をかけた。
町内会長の家の庭に設けられたその墓には小さくツクシと書かれている。
事件からしばらくしたのち、ツクシを失ったタンポポの心情を察して新たな仔実装が住民たちから贈られた。
サクラと名付けられた仔実装はタンポポに愛情深く育てられ、今は立派な地域実装として隣町で働いている。
そしてツクシを失った日からちょうど一年、タンポポはツクシの墓参りをしていたところだ。
タンポポが腰を上げ仕事に戻ろうとすると、ちょうど外出先から帰ってきた町内会長とばったり出くわした。

「やぁタンポポちゃん、ちょうどよかった。ちょっと話があるんだけどもねぇ」

町内会長は持っていた小さな紙箱をやさしく地面に置くと、タンポポにも中が見えるように開いた。

「この仔なんだけどね、サクラちゃんの事を聞いた別の町の人からねぇ。地域実装に育ててくれないかって」

タンポポが箱の中を見てみると中には仔実装が一匹、すやすやと寝息を立てていたが
周りが急に明るくなって驚いたのか、目を擦りながら体を起こした。

「テェェ……?」

状況を掴みかねているようにキョロキョロと会長とタンポポを見返す仔実装。
翻訳機も通していない会長の言葉だが、タンポポには不思議と手に取るように話の内容が理解できた。

「よろこんで引き受けるデス!さぁいらっしゃいデスゥ、今日からワタシがママになるデス〜!」

そう言って仔実装をやさしく抱え上げると、タンポポは嬉しさのあまり笑顔でクルクルと踊りだす。
タンポポの温もりのこもった赤い瞳には、つられて笑顔をこぼす仔実装の姿が映されていた。

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1 Re: Name:匿名石 2022/05/01-04:42:11 No:00006495[申告]
飼い実装でも糞蟲は不幸になる良い話でした
2 Re: Name:匿名石 2022/05/01-09:17:17 No:00006496[申告]
ツクシにはかわいそうだが、いい話だなあ
糞蟲が簡単に死なずに生き地獄で無駄に長生きさせられてるのがいい
3 Re: Name:匿名医師 2022/05/17-14:59:16 No:00006502[申告]
モモコは殺処分にすべきでしょ?常考
4 Re: Name:匿名石 2022/05/20-23:32:22 No:00006504[申告]
これだけのスクを書ける人がいまだにいるのはありがたい
自分は今、別の界隈の虐を書いてるけど、数年ぶりにもう一度実装虐スクを書いてみようかな…
5 Re: Name:匿名石 2022/08/10-15:19:32 No:00006533[申告]
いい話だった
この作者にもっと話を書いてほしい
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