実装石と生きる一族⑦ 早朝の散歩と事情聴取(その1) 2家族の実装石たちが我が家の庭に棲みついて、3日目の朝だ。 庭蟲への対応でただでさえ忙しかったのに、予定外の糞蟲一家侵入事件が あったりして、昨日の2日目の密度は、いささか濃すぎた。 そのせいか、だいぶ時間が過ぎたような気分だが、庭蟲たちとの付合いは、 まだ丸1日半ほどでしかないのだ。 さて、なぜそんなことをわざわざ言うのかというと、私は早くも、庭蟲どもに 実装石本来のあるべき生活形態を教えることに、厭きてきたのだ。 早すぎる、とは自覚しているが、元々怠け者の性格なのだから仕方がない。 だが庭蟲どもの育成は、私自身の企画事業実現への準備段階でもある。 怠惰な私にも、一応の矜持、責任感というものがあるのだ。 そうそうサボるわけにも行かない。 こういう時は、気分転換が必要だ。 というわけで、私は朝4時半というこの時間に、さもジョギングをするか のようなスタイルで、河川緑地公園までやって来たのだ。 さすがに、他の人影は皆無に等しい。 しかし、デスデスという不快な声を発する不潔かつ不細工なドス緑色の 生物は、既に何匹か活動を始めている。 私の用事は、これらの蟲どもだ。 実装石などという不快生物と接していると、例えそれが自分が絶対強者の 立場であるとしても、気持ち悪いおぞましさが胸にヘドロのように溜まり、 どうにも苦しくて、やりきれなくなる。 昨日、侵入して来た糞蟲一家を手足耳無し禿裸案山子にしてやった。 さらにその糞蟲どもの完全不妊化もしてやった。 1日の終わりには、塩素系洗剤を原液でたっぷりとかけてやり、声無き 阿鼻叫喚に陥れてやった。 夕食の後、美翠を膝の上で長い時間をかけて全身を撫でてやった。 ベッドに入ってから、純香を日付が変わるまで何度も可愛いがった。 おかげでクタクタになった純香は、まだスヤスヤと眠っている。 だが、それでも、この実装石ストレスは解消しきれていないのだ。 実装石と接するということは、かくも大きな精神的負担を強いるものだ。 これを静められるのは、ただひとつ。 そう、糞蟲の絶望と死、それだけである。 私は静かに、デスデスデスと前を行く緑色の不快生物の背後に忍び寄る。 3匹の成体実装が連れ立って、ゴミを漁りに行くところらしい。 3匹とも汚れきって凄まじく臭く、実装石本体と同様に汚ならしくヨレヨレの ビニール袋をめいめいに肘から提げている。 これらが近付く私の足音に気付き振り返る直前、私はスマホ型リンガルで 偽石ジャミング・パルスを発した。 ドタドタドタと、麻痺した3匹が声も無く倒れる。 糞も漏らさない。素晴らしい。ありがとう、我が社のスタッフたち。 私は近くの木の下で太めの枝を見つけ、それを使って3匹を茂みの陰へと 引きずり込む。糞蟲らしく、無駄に重い。 目が開いたままで無反応、身体の芯が硬直していて、外側の脂肪がブヨブヨ としたその様は、いわば不気味で不細工なウレタン製ぬいぐるみだ。 ちなみに、今回のジャミング・パルスは、30分ほどの麻痺に設定してある。 バッテリーの節約と、麻痺の間に要する作業が簡単なためだ。 さて、実装石を絶望へと誘うその方法だが、市民の憩いの場である公園での 出血は、極力少量で済ませたい。 そもそも今の私の服装が、ごく普通のジョギング・スタイルだし。 血飛沫などで汚れてしまうことは絶対に避けたいのだ。 意外と常識人の私に、公共の場で、対実装石のフル装備、フルフェイス・ リンガルに防水加工のツナギ、手袋、ブーツなどを着用する勇気は、無い。 それに今のこの格好なら、“処置”を愛護派に見られてしまったとしても、 十分、言い逃れが可能だろう。 さて、では、汚れることを避けつつ、しかも軽装の状態で、実装石に確実な 絶望をプレゼントするにはどうすれば良いか。 こうすれば良い。 腰ポーチにたっぷりと入れて来た「ある物」の塊から一摘まみを取り出し、 靴の裏と木の枝を使って麻痺実装石の口をこじ開け、その塊を喉の奥から 口いっぱいになるまで詰める。 こいつは、樹脂粘土だ。 固まってしまえば実装石の丸手と力で取り除くことは、まず不可能だろう。 これで口を塞がれた実装石は、餌を食えず、声も出せずに、なす術なく 死んでいくはずだ。 ワクワクする。 難点は、樹脂が固まるまでの時間が結構長く、軟らかい間にどうにかして 取り除かれてしまう可能性があることである。 なので、念を入れての処置を施す。 枝で、実装石の手足耳をもぎ取る。 赤緑の血液体液がだらりと流れ出るが、偽石機能の麻痺で代謝そのものが 低下しているので、さほどの量ではない。 これで3匹を人目の付かない茂みの奥に突っ込んでおけば、意識が戻っても 手足が無いため這ってでしか移動ができず、声が出ないから助けを呼べず、 結果、樹脂が固まりきるまでの時間を稼ぐことができるはずだ。 しかも、実装石が助かるためには、結局のところ、手足が復活するのを 待つしかないわけだが、一方で、身体に溜め込んだエネルギーを手足と 耳の復活に費やしてしまうため、より飢餓が早まる結果となる。 色々と考えたのだが、今のところ、最も低コスト低リスク低汚染で済み、 かつ、可能な限り長く絶望を楽しませてやれると判断した方法である。 至って簡単な作業なので、3匹合わせても10分とかからない。 これらを1匹ずつ離れた茂みに突っ込む。 と、3匹目を突っ込んだ茂みの近くに、いかにも人目を避けたダンボール ハウスが、2つあった。 気付かれて騒がれてしまうリスクを避け、やや離れた場所からそれぞれに ジャミング・パルスを発する。 2つとも、ほとんど物音がしなかった。 1つ目のダンボールを、枝を使って開けてみる。 成体実装が1匹だけいた。 まだ眠っていたところだったらしい。独居実装石の気楽さか? 生後1年ぐらいは経ってそうな大きさと汚さと臭さだ。 この蟲は冬を越してから仔を産むつもりだったのだろうか。 だとしても、もう既に不要な予定だぞ。 速やかに樹脂詰め手足耳無し処置を施す。 2つ目のダンボールの中身は、4匹の仔実装、2匹の親指実装、2匹の 蛆実装と、仔蟲系だけの構成だった。 これらも、眠っていたようだ。 おそらくは、先ほどの3匹の成体実装のうちのどれかが、この仔蟲どもの 親だと思われる。 仔たちが眠っている間に、食べ物を確保しようと出かけたところだったか。 仔蟲どもは産まれてから、さほどの期間が経っていなさそうな大きさだが、 汚れ具合からみて、親からあまり大切に扱われてはいないようだった。 この蟲どもの親は、秋仔を冬用非常食とするタイプなのかもしれない。 ま、どうでもよい。 6匹、仔実装どもと親指実装どものの処置を完了する。 蛆実装は放置。どうせすぐ死ぬ。 2匹とも、私の作業の音にも目を覚まさず、平和に眠っている。 レピ~ ピピピピ…… レフ~ン オネチャ、プニフ、レフ~ン♪ 終わって腕時計を見たら、5時を回っていた。 そろそろ帰ろうか。 帰りがけに、やはり汚いビニール袋を持って出かける成体実装1匹と、 それを甲斐甲斐しくテチレチレフと騒々しく見送る3匹の仔実装、2匹の 親指実装、2匹の蛆実装を見かけた。 その騒ぎは実装石界隈の近所迷惑ではあるだろうが、身なりも小綺麗で、 行動の統制が取れ、仲も良さそうな様子が素晴らしい。 賢く強い親を一家の大黒柱とする、幸せな家族なのだろう。 迷わず、樹脂詰め手足耳無し処置を執行。 蛆実装を除き、全ての蟲に。 レフ~ン? ママ、オネチャタチ、ドウチタレフ? ウジチャノマネ、シテルレフ? 公園出口近く、さらに1匹の成体実装を発見。 すぐ先にもう1体の成体実装(黄色の目立つビニール袋を持っている) がいるが、既に公園の外なので、残念ながらそちらは放置し、速やかに 手前の1匹に向かう。 パルス麻痺、枝が無いので靴裏蹴り移動、そして樹脂詰め手足耳無し処置。 その間に、比較的近いところから、 テチャッ という声が聞こえた。 最後の成体実装を茂みに突っ込んで、靴の紐を結び直すふりをしながら 低く辺りを窺うと、公園の小道の奥、木立の中でチロチロと動く緑色。 静かに近寄ると、5匹の、もうじき中実装になりそうな仔実装がいた。 たった今樹脂詰め手足耳無し処置をした成体実装か、その先にいた黄色い ビニール袋実装石がこの蟲どもの親かもしれない。 きっと、餌を取りに行く間、家の中で大人しくしていなさい、と親実装に 言われただろうに、楽しげに追いカケッコをして遊んでいる。 親の言うことを聞かない腕白な仔たちなのだろう。 その光景は微笑ましくもある。 10分後、5匹全部の樹脂詰め手足耳無し処置完了。 樹脂粘土も完売したし、そろそろ帰ろう。 公園のトイレで手を良く良く洗い、腕で額の汗を拭う。 清々しい汗だ。 運動とは、こうでなくてはいけない。 家まで帰る途中、見覚えのある黄色の袋を持った成体実装が、器用にも ゴミ捨て場(鉄のカゴタイプ)の鉄の扉を開け、中のゴミを漁っていた。 賢さと、力強さを併せ持った個体だと感心する。 私はまず、そばに置いてあった黄色のビニール袋を無言で手に取った。 不潔な袋だが、野良実装石の身体そのものに触れるより、マシだ。 夢中になってゴミを漁っているようで、私に気付いた様子は全く無い。 周囲を素早く確認する。 クルマ通りは既にそこそこあるが、ちょうどそれが途切れた。 人もいない。 足を浮かせて上半身をゴミ集積の鉄かごの中に突っ込んでいる実装石に 向かって、偽石ジャミング・パルスを発射。 からくり人形のように、足から歩道に落ち、ゆっくりと後ろ向きに倒れる 実装石の頭から黄色のビニール袋を被せる。 上半身がうまく車道にはみ出した。 まだ薄暗い今の時間、ドライバーの目には、ただの黄色いビニール袋が 車道に落ちているようにしか見えまい。 マナーの良い市民である私は、開きっぱなしになっていたゴミ集積所の 鉄の扉を静かに閉めて、家に向かって足取り軽く帰り始めた。 その足取りは、10数秒後に背後でやけに水っぽく潰れるビニールの音が 聞こえたことにより、ますます軽快になった。 ================================= 我が家の前まで来ると、いかにも渡り中、といった様子の実装石家族が 門扉の前でデステステチと騒いでいた。 成体実装1匹に中実装と仔実装が2匹ずつという構成で、どれも見事に 痩せこけ、ボロボロの身体と服がありとあらゆる汚れにまみれ、かつ、 少し離れたここまで臭うほど、恐ろしくクサい、という点で共通している。 なんとか我が家の敷地に入り込もうとして、門に隙間がないか探している、 といったところだろう。 この状況は想定していた。 今の我が家の敷地は、豊富な木の実の匂いだけでも相当な魅力である上に、 複数の実装石が棲み着いている臭いが漏れているのだ。 自分たちもその恩恵に与りたい、と思うのは、野良の生き物である以上、 当然のことだと思う。 が、その望みが叶えられることは決してないのだ。 この蟲どもは、絵に描いたような普通の野良実装だから。 不潔 不快 臭い の三拍子 排除したいのは山々だが、今は人通りもクルマ通りもあり、衆人環視の 中で大っぴらにこの蟲どもの駆除をするわけにもいかない。 しかし野良蟲どもは門の前を塞ぎやがっている。 ゆっくりと近付きながら、処理方法の考えをまとめる。 射程距離に入った瞬間、ポケットの中でパルスを発射する。 ドタパタと4匹の汚蟲が路上に倒れる。 残念ながら、一番遠くにいた仔実装には届かなかったようだ。 おそらく、バッテリー不足のせいだ。 使いまくったので、仕方ない。 1匹だけ無事に残った仔蟲はしかし、母と姉妹が何の前兆もなく突然倒れた ことに驚いてしまい、倒れ伏す家族たちを見回してチ、チ、と小さく声を 漏らし、呆然と立ち尽くしているだけだ。 この仔蟲が我が家に入るチャンスは、私が門を開けて中に入る時に、その 脇をすり抜けて潜り込むしかないわけだが、この様子では、それに気付く ことはないだろう。 私は、しっかり息を止めつつ、表面上は何食わぬ顔で、倒れ伏す4つの ドス緑のゴミをまたぎ、私の身長より高いアルミ門扉を開け、中に入る。 入る時、数匹の野良らしき実装石が、道の向こうからこちらに向かって 路肩を歩いて来るのを視界の端に捉えていた。 門扉を中からしっかりと閉め、フゥッと呼吸を再開する。 門の外からは我に返ったらしき仔蟲がチイチイと家族を呼ぶのが聞こえる。 この5匹は、後から来ている実装石群の格好の餌となることだろう。 私は防犯と実装石の侵入を防ぐために二重になっている内側の門扉を通り、 ようやく我が家の玄関にたどり着く。 長い、しかし充実した有意義な散歩だった。 ================================= ゆっくりとシャワーを浴びた後、まだ夢の中にいる純香の邪魔にならない よう、広々とした2階のベランダに出て、ビーチチェアに身を沈める。 優しい日差しの中で目を閉じたら、瞬く間に眠ってしまったようで、目を 覚ました時には8時になっていた。 純香はまだ眠っている。 1階に降りてダイニングに入ると、美翠が朝食の用意をしてくれていた。 『おはようございます、ご主人様』 「おはよう、美翠」 美翠の頭を優しく撫でると、陶器のように白く滑やかな頬にほんのりと 朱が差し、天使の笑顔を見せてくれる。 いつもどおり心が和んだところで、朝食を食べ始める。 窓の外には活動する庭蟲たちの姿が見える。 「良く働くな、庭蟲たちは」 『はいデス、ご主人様。 今朝も私が起きて来た時には、もう動き出していたデス』 庭蟲たちは、朝食の準備を始めているようだ。 ドクダミと葛を刈り、団子にしている。 今日も、2家族ともに楽しげな作業の様子だ。 「美翠は、あの庭蟲たちをどう思う?」 『おにわジッソウさんたちは、昨日も今日も、ご主人様が貸してあげた イヌさんの小屋をみんなでおそうじしてて、きれい好きだと思うデス。 仔ジッソウちゃんたちも、ママさんたちの言うことをよく聞いてる、 おりこうさんみたいデス。 でも、まだお話ししたことがないので、良く分からないデス。』 良く見てるじゃないか 美翠もそれなりに庭蟲たちに関心があるようだ。 庭蟲たちに対する呼称に、愛情や尊敬が感じられる。 美翠には、私や純香と同じように、庭蟲に対する絶対上位者に立たせる つもりなのだが、ひょっとしたら美翠自身がそれを望まないかもしれない。 ま、まだ少しの間は、美翠に庭蟲との接触を許さないし、後で考えれば よいことだ。 そのためにも、美翠の庭蟲に対する関心や感情を知るべきだろう。 「庭蟲たちと、どんな話をしてみたい?」 私の質問に、美翠は可愛く小首を傾げて少し考えてから答えた。 『公園での生活と、ほかのジッソウセキたちのお話を聞いてみたいデス』 ================================= 午前9時、朝食を終えた私は、庭に出た。 庭蟲たちも朝の食事を終えて糞をし、その後始末をしていたようだ。 仔実装たちも、しっかりと枯れ草や砂を集める手伝いをしている。 「親蟲2匹と中蟲、こっちへ来い」 今日もフル装備の私の指示に3匹は瞬時に従い、走って来る。 デ、デ テ、テ 「デカ蟲に確認することがある」 『はいデスゥ』 「デカ蟲は冬を越したことはあるのか?」 『あるデスゥ、ニンゲン様』 汗を拭いながら、デカは頷いた。 「何回だ」 『3回デスゥ』 やはり、推測は的を射ていた。 「3回とも、親としてか?」 『この前の1回は、初めて産んだ仔どもたちと一緒に越えたデスゥ。 その前の1回は、ママから巣立ってすぐだったので、仔どもたちを 育てながら冬を越す自信が、まだ無かったデスゥ。 だからワタシだけでがんばって冬を越したデスゥ。 最初の冬は、ワタシはまだ小さくて、ワタシのママに冬の越し方を 教えてもらいながら、ママと、ワタシのお姉ちゃんと妹ちゃんの、 家族4匹で冬を越したデスゥ』 デカは当時を懐かしむように答える。 赤緑のオッドアイで遠い昔を思い出しているような表情が気持ち悪い。 私は頭の中で情報を時系列に整理する。 3年前の冬は、デカはまだ仔実装で、親の庇護のもと、姉妹と過ごした。 一昨年の冬は、巣立ちはしたが仔を産まずにデカ1匹だけで冬越ししたと。 ……後先考えず繁殖しまくる実装石とは思えない話だ。 で、去年の冬は、初めて仔を産んで、その仔どもたちと一緒に越した、と。 ……ん? 気になる言い方だな。 少し本来の確認事項から外れるが、確認しておくか。 「デカ蟲と一緒にデカ蟲の親実装から生まれた実装石は、何匹だった?」 『お姉ちゃんとワタシ、妹ちゃんの3匹デスゥ』 「3匹しか生まれないってのは、実装石にしては少なくないか?」 答えるのがキツいかな、とも思ったが、あえてズケリと聞く。 「デカ蟲ども3匹以外の仔実装は、親実装が殺したのか?」 『そうではないデスゥ』 デカはあっさりと答える。 『ワタシも、ワタシのママも、このコ(とホソを指し示す)も、このコの ママのワタシのお姉ちゃんも、イチちゃん(チュウ)のママのワタシの 妹ちゃんも、それから、ワタシのママのママも、3匹より多い仔どもを 産んだことはないデスゥ』 「待て待て待て待て」 いきなり情報量が多すぎる。 天を仰ぎ、思いもかけず判明した事実を頭の中で整理する。 まず、ホソとチュウは、デカの姉妹の仔だから姪だな。 だから、デカとチュウがあまり似てないと思ったのは、正しかったわけだ。 しかし、デカはチュウを“イチちゃん”と呼び、自分の仔の扱いをしている。 これは何故だ? 実装石ごときに、養子の考えがあるとも思えないが。 だが、これは、ひとまずここで置いておく。 さて、それはそれとして、デカとホソが共に渡りを行った理由も判明した。 叔母姪という血縁の近さなら、家族同士で渡るのも、容易に納得できる。 問題は、ここからだ。 この一族は、一度に3匹までしか仔を産まない、とデカは言う。 となると、デカの仔の数は説明がつくが、5匹育てているホソの仔の数が 説明がつかない。 数は合うが、一応デカにも確認しておくか。 「デカ蟲がニィ、サン、ヨンと呼んでいる仔蟲たちは、デカ蟲が産んだ 仔実装なのか?」 『ニィちゃんとサンちゃんは、今年の夏が終わる頃に産んだ、ワタシの 2度目の仔どもたちデスゥ。 ヨンちゃんは、今年の夏の始まりの頃にワタシのお家から巣立って行った、 ワタシの最初のイチちゃんが、夏の終わりに産んだ仔デスゥ。 でも、イチちゃんも、ニィちゃんも、サンちゃんも、ヨンちゃんも、 みんなワタシにとって可愛くて賢い、大切な仔どもたちデスゥ』 デカは愛おしそうにチュウの頭を撫でる。 チュウも嬉しそうにデカに身を寄せ、幸福そうに微笑む。 だが私には実装石の家族愛物語など、どうでもいい。 知りたいのは事実だけだ。 「つまり、ヨン仔蟲は、デカ蟲の孫ということだな?」 『孫、デスゥ?』 その概念がデカには理解できなかったようだが、 『ニンゲン様はきっと、ママはヨンちゃんの大ママだ、って言ってるんだと 思うテス』 とチュウに説明されて納得している。 やはりチュウは賢いか デカから聞くことは、こんなところか。 いや、あと1つだけ確認しておこう。 「庭蟲たちの一族はひょっとして、代々、夏の終わりに仔を産むのか? なぜだ? 餌の無くなる冬を前に、なぜわざわざ口を増やす?」 『ワタシのママが教えてくれたのは、夏の終わりに仔を産むと、冬食べる ゴハンは大変になるけど、仔どもと一緒に冬を越す用意をしてやり方を 教えてあげられるし、春には大きくなるから、冬を越してお腹が空いた 他の実装石から身を守ることができるからって言ってたデスゥ』 ウーン? それならそもそも、一般的な実装石たちと同じように、春の終わりに仔を 産んだ方が良くないか? あぁ、でも、それだと仔の巣立ちのタイミングが難しいのか。 春生まれの仔実装は、今のチュウのように冬前に中実装まで成長する。 もし、その段階で冬前に巣立つとすると、成体実装ほどの体力が無いし、 冬越しの経験も全く無いので、相当厳しい冬越しになる。 それならばと春まで巣立ちを遅らせたら、今度は仔実装10匹分ほどの 餌を必要とする成体が数匹一緒で冬を越すことになってしまう。 冬に同属喰いが多発するのは、この辺も理由のひとつかもしれない。 庭蟲一族の方法なら、翌年の夏のはじめには成体実装まで成長していて、 しかも既に1度、冬越し経験有りの状態で巣立つことができるわけだ。 なるほど、厳冬期に腹を空かせた同属に仔実装たちを襲撃される心配が あるにせよ、これはかなり合理的な出産・子育てだといえる。 そうなると、ここまでの大きな謎が2つ。 ①デカの親、デカの姉妹であるホソとチュウの親たち、それとデカから 巣立ちしてヨン仔蟲を産んだというデカの長女。 これらデカの話に登場した実装石どもの現在の消息。 ②チュウだけが何故、夏の終わりに仔を産むはずのこの一族にありながら、 春に生まれたのか。 これらを追及する時間は、今は無い。 デカたちから事情聴取を始めた目的から外れ過ぎてしまう。 だが、ホソにも聞いておきたいことはある。 「ホソ蟲」 『はいデス』 ——続く——

| 1 Re: Name:匿名石 2022/03/07-01:40:39 No:00006483[申告] |
| このシリーズは考えさせられることが多くて好き
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| 2 Re: Name:匿名石 2022/03/07-15:33:05 No:00006484[申告] |
| よそ様の実験体に手を出してしまった可能性がある?
だとしても関わった人間にどうされるか、どういう態度を取るかも含めての調査なら問題ないか |