タイトル:【観察】 実装石と生きる一族⑥
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作者:石守 総投稿数:9 総ダウンロード数:777 レス数:2
初投稿日時:2022/02/05-18:21:31修正日時:2022/02/05-18:21:31
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   実装石と生きる一族⑥   二度目の食事と石鹸



「この人は、庭蟲たちの監視役だ。
 “奥様”と呼ぶように。
 この人が言うことにも、絶対に従うんだぞ」

『はい、分かりましたデスゥ、ニンゲン様。
 オク様、ワタシたち、みんなで、ちゃんと言うこと聞きますから、
 これからよろしくお願いしますデスゥ』

デカが私たちの前に集まった2家族を代表して頭を下げる。
ホソ、チュウと以下の仔実装、親指実装たちによるデステステチレチの
挨拶とお辞儀が続く。
リハーサルでもやったのかと疑うレベルで礼儀正しい。
この実装石の一族は代々、一体どういう教育をしてきたのだろう。

純香もこの庭蟲たちの行儀の良さには、さぞ驚くだろうと予測していた
のだが、どうも彼女的にはそれどころではないらしい。
思いもかけずに(私のサプライズ演出だが)、初対面の実装石たちから
突如として、奥様、と呼ばれることになってしまった事実に驚き過ぎ、
そちらに意識が集中してしまったため、庭蟲たちの挨拶を思考と気持ちの
半分くらいでしか受け止められなかったようだ。
嬉しさと照れくささと驚きが入り雑じった表情で、動きがワチャワチャ
してしまっている。

   あぁ、すげぇ可愛い

この場で抱き締めてキスしたい、が自重する。
今は仕事中なのだ。

私は相変わらずフルフェイスとカッパ、ブーツの完全武装だが、純香に
同じ格好をさせてしまうと庭蟲どもが私たちを区別できなくなるので、
普段着で汚れてしまっても構わない物を着てもらっている。
万一の実装石の攻撃を考慮し、透明のフェイスガード(リンガル付き)は
着けてもらい、髪はまとめてアップしてもらってはいるが。
なお、うなじが大変美しい。

いろんな意味で可愛いらしい純香を横目に見つつ、私は早速庭蟲たちに
ここでの2度目の食事について教え始める。

葛とセイタカアワダチソウだ。

葛の食べ方はドクダミと同じ。葉だけでなく、蔓まで食べられる。
ちょうど今の時期、我が家の庭の葛に実っている豆状の実は、サヤから
出せばそのまま食べられ、実装石にとっては大変なご馳走だろう。

一方のセイタカアワダチソウは実装石にとってはかなり大きいのだが、
薄く尖った石を拾わせ、それで茎を切って刈入れさせる。
後は基本的にドクダミや葛と同じである。

特にセイタカアワダチソウはクセが非常に強い味だが、悪食で知られる
実装石なら問題あるまい。
栄養の点では満点だし、さらに、ドクダミ、葛、セイタカアワダチソウは
そのいずれも薬草としての効果も期待できる。
ただ、セイタカアワダチソウに関しては、茎の部分は繊維が強すぎるため、
仔実装と親指実装は食べられないだろうが。

デッスゥデッスゥと、デカがパワフルにセイタカアワダチソウを刈り取る。
『イチちゃん。これをニィちゃん、サンちゃん、ヨンちゃんたちのところ
 に持って行って欲しいデスゥ』
『はいテス』
『ニィちゃんとサンちゃんとヨンちゃんは、その葉っぱだけを取って、
 そこに生えているスースーするイイニオイのお草を混ぜて、お団子に
 するデスゥ』
『は~いテ(レ)チ(ィ)』

チュウはともかくとして、仔実装2匹と親指実装も、デカの指示に従って、
きちんと働いている。
特に、ニィちゃんと呼ばれた仔実装はそこそこ賢そうだ。
朝覚えた草団子の作り方を、半分忘れてしまった妹たち、サンちゃんと
呼ばれた仔実装(服の左袖が少し短く千切れている)と、ヨンちゃんと
呼ばれた親指実装に教えてやっている。
『こうやってイイニオイのおクサとまぜるテチィ。
 そしたら、このおイシで、そうテチィそうテチィ、サンイモウトチャ
 おじょうずテチィ』
『ニィオネチャありがとうテチ。これでいいテチ?』
『ニィオネチャ、アチャチのおだんご、ちいちゃくなっちゃったレチィ。
 オネチャたちみたいにじょうずにできないレチィ』
『そんなことないテチィよ、ヨンイモウトチャ。
 ヨンイモウトチャは、まだ、おカラダがちっちゃいから、おおきな
 おだんごがつくれないだけテチィ。ちいちゃいけど、おじょうずテチィ』
『そうテチ、ちっちゃくても、ちゃんとおだんごになってるテチ。
 ヨンイモウトチャとおなじ、とってもかわいいおだんごテチ♪』
『ありがとニィオネチャ♪サンオネチャ♪』
『みんな、とってもお団子作るのお上手テス。美味しそうなお団子テス。
 お利口さんの、可愛い妹ちゃんたちテス~♪』
『ありがとテチ(レチ)、イチオネチャ♪』
チュウが運搬の合間に妹たちの様子を見つつ、頭を撫でてやっている。
仔実装と親指実装は嬉しそうにテチュレチュ笑っている。

しかしなんとまあ仲の良い家族であることか。
作られたホームドラマを観ているような気分になるほどだ。

しかし、イチちゃんと呼ばれているところを見ると、チュウはデカの初仔
なのだろうか。体高から見てチュウは生後半年ほどだろうが……
ニィ仔蟲、サン仔蟲、ヨン親指たちは、仔実装の大きさから判断するに、
生後1月余りだろう。
となると、デカは4月頃にチュウを産み、9月にもまた出産をしたという
ことになる。
デカほどの利口な個体にしては、随分と間のないタイミングでの出産だし、
しかも秋口に産んだら冬季の子育てになってしまうことも、当然分かって
いるはずだ。
この辺のことは、後でデカに直接聞いてみよう。

『そうデスそうデス、チョウジョちゃん、ジジョちゃん、ゴジョちゃん、
 お草のお団子作り、みんな上手デス』
ホソは、苦労しながらも、葛をまず蔓ごと引き切り、その後で葉、実、
蔓を丸手で器用に千切ってそれぞれに分け、重ねて山にしている。
仔実装3匹が葉と蔓を、大汗を流しながら団子に丸めている。
『テッチッ、テッチッ、がんばるテッチッ』
『たいへんテッチュ。でもオイチイおだんごテッチュ。まるめるテッチュ。
 まるめまくるテッチュッチュ』
『おテテ、イタいテーチ。でも、チョウジョオネチャもジジョオネチャも
 かんばってるテーチ。かちこいアタチが、がんばらないわけには、いか
 ないテーチ』

長女仔蟲、次女仔蟲に5女仔蟲か。
間引きの結果か?それとも事故死か何かか?
ホソの仔実装たちは、大きさからするとせいぜい生後2週間だ。
仮に間引いた結果だとすれば、かなり迅速な処置だと思う。

それはともかく、ホソの3仔実装の作業歌(?)は、なかなかリズムが
良くて、ちょっと感心してしまった。
産まれてすぐのことを考えると、なおさらである。
卵胎生の実装石ならではの、胎教の賜物だろうか。
1匹の歌の内容には、少し気になるものがあったが。

『ママとオネチャたち、アチャチ、おだんごコネコネできないレチ。
 ゴメンなちゃいレチ』
『サンジョちゃんが、ちゃんとヨンジョちゃんの面倒を見てくれてるから、
 ママと姉妹ちゃんたちがお団子ご飯作れてるデス。
 サンジョちゃんは、身体は小さくても、しっかりとお手伝いができる、
 賢くて可愛い親指ちゃんデス』
『はいレチ、ママ♪ ありがとレチ~♪』
『レフ~、ウジちゃん、ちぃオネチャだっこ、うれちぃレフ~♪
 おおきいオネチャたちの、コネコネみるの、たのちぃレフ~♪』

おっと、なるほど、親指実装がホソの3番仔、蛆実装が4番仔だったか。
産まれた順序は早いが、身体は小さかったということね。

しかし、サン親指とヨン蛆は、大きさにさほどの差がない。
そのため、ずっと抱き上げていることはできないのだろう。
サン親指はヨン蛆の視点を高くするため方法として、普通に抱き上げる
のではなく、ヨン蛆の尾と後足を地面に着けさせ、ヨン蛆が立ち上がって
いるかのような体勢になるよう、抱きかかえて支えている。
これだって親指実装にしたら重労働だろう。
こちらも、かなり仲の良い家族である。

だが不明な点は、まだいくつもある。
デカとホソの関係。
デカは生後3年くらいは経っていそうに見える。
身体の大きさはもちろん、ベテラン感漂う貫禄がそう思わせる。
ホソはまだ若々しく、仔たちへの接しぶりを見ても、この仔たちがホソの
初仔である可能性は高いように思える。
そうすると、ホソはデカの仔なのだろうか。
それにしては、あまり似ていない気がする。
実装石の容姿の違いなど分からないが、雰囲気とでもいうか、身に纏って
いる“何か”が少し違うように思えるのだ。
渡りを共に行うくらいだから、近い血脈の可能性が高いが……

まあいい、これもデカとホソに後で聞いてみよう。

不器用な実装石たちは、40分ほどもかけて2家族の腹を満たすだけの
団子を作り上げると、庭蟲たち11匹が集まり、車座になる。
早速デカ組とホソ組の間で、セイタカアワダチソウ団子と葛の葉団子の
トレードが始まり、互いの出来をデスァテチャレチャと誉め合っている。

「なんか、本当にすごいのね、この実装石たち」
これまで黙って様子を見ていた純香が、身を寄せて来て、庭蟲たちには
聞こえないように小さく感嘆の声を上げる。
もし聞こえてしまったら、調子に乗らせてしまうかもしれない。
「こんなに仲が良い実装石の家族を見るのは、多分初めてだよ。
 頭もいいし。………そうは見えないけど、演技の可能性はあるのかな」
「いや、あまりに優秀なんで俺もちょっと疑ったけど、公園なんかで
 人間から餌をもらうために見せるバカな演技、あれとは全然違うから、
 それはないと思うよ。
 あっちは本当に下らない小芝居だけど、庭蟲たちは自分たちで食事を
 作る作業をしてるわけで、その作業だって頭の悪い実装石にしてみれば
 かなり難しくて重労働だ。
 それを分担作業でこなしながら、演技する余裕は無いと思う」
「そう、だよね」

私と純香は、秋の日だまりの中で、庭蟲たちの食事風景を眺めている。
きちんと座ったまま、騒ぎ過ぎず、しかし楽しげに、デカが親指実装の
食事の世話をしながら食べていればニィ仔蟲がその口元に草団子を運び、
それを見た5女仔蟲は蛆実装に素嚢乳をやるホソに草団子を食べさせて
やり、チュウは妹仔蟲の口元に着いた草の汁を丸手で拭ってやる。

「……すごいね」
「……ああ、すごい」

   本当にな  スゴいよな  ……使えそうだな、本格的に

===================================

さて、食事の後に庭蟲どもにやらせることだが、我が家の庭に棲まわせる
以上、やはりどうしても気になることがある。

庭蟲どもの、汚れと臭いだ。

野良としては、元々かなり清潔である。
午前中にもきちんと身体も服も洗ったことで、さらに汚れは落ちた。
それは認める。

だが、それでも、汚いし、臭い。

まず、これまでの野良生活で染み着いた元々の汚れがある。
それに、そこらに落ちている生ゴミや、愛護派が配っている何が原材料か
分かったものではない実装フードなどを日常的に食べていれば、耐え難い
不潔さが内臓まで染みわたっている。
森林公園にいた以上、庭蟲どももそうに違いない。
その証拠が、この庭蟲どもから漂う悪臭である。

その不潔さ、おぞましさは、
   “糞蟲・野良犬猫などに襲われる心配がないために
   じっくり丁寧に行える洗濯や水浴び”
   “正しい食材を正しく処理した食事”
これらを1度や2度行ったらあっさりと改善してしまえるような、
そんな生易しいものではない。

この野良実装石どもの根本的な毒素をその身体から追い出すには、私が
教えている実装石にとっての正しい生活が、最低でも1か月は必要だろう。
野良実装石の不潔さとは、そこまで根深いものなのだ。

だから、野良実装を触るのみならず、あろうことか、拾って家に連れて
帰ってしまう者の気持ちを、私は到底理解できない。
犬や猫、野うさぎやタヌキといった野良・野生動物などより、実装石の
方が、ずっとはるかに臭いのだ。
本当に信じられない。

防御力も攻撃力も運動能力さえ犠牲にし、高い知能だけをただひたすらに
求めた爬虫類と鳥類の中間のような動物が大昔にいた。
その動物は、執念の果てに直立二足歩行を手に入れ、結果、身体の割に
巨大な脳へと進化することに成功した。
だが、形振り構わずに脳を高度に発達させた代償というべきだろうが、
その脳が放出する熱を体外に逃がす必要が生じたため、実装石は羽毛を
頭巾や服の形態に分離・変化させ、着脱可能にすることで地肌を晒して
放熱させるとともに、暑さ寒さをある程度コントロールできるようにした。
頭部に至っては、カウンターシェーディングとして前髪と後ろ髪2か所を
残しただけの、ほぼ禿頭とするほどの念の入れようだ。

そこまではいいのだが、元々攻撃力と防御力が無いに等しいため、その
逆説的な生存戦略として、しっぽを切られても再生し、歯も何度だって
生え変わる、爬虫類由来の異常な回復力を維持し続けることになった。
仮に身体を壊されたとしても、それを上回る回復力があればよい、という
ある意味勇気ある選択をしたわけだ。

さらに、厄介なのは体内で大量に有する葉緑体である。
これで盛んに光合成し、エネルギーを産み出すと同時に葉緑体をさらに
大量に生産していく。
大量に生成もされるが、一方で大量に老廃物として排出もされる。
摂取した以上に糞をするとまでいわれる実装石の糞が大量で、なおかつ
緑色なのは、この死滅した大量の葉緑体のカスが血液によって糞袋へと
運ばれ、糞とともに排出されるためだ。

それらの帰結として、当然ながら実装石の新陳代謝は、その身体の大きさ
に比して、膨大なものとなる。
その膨大な新陳代謝が、実装石の身体を異様に臭くするのも、これまた
必然である、というわけだ。

長々と説明したが、要は単に、私には実装石の臭いが我慢できないのだ。
臭いし、クサいし、激しく臭う。
私には、気にしないことにしてやり過ごす選択肢が思い浮かばなかった。
私は平均よりも嗅覚が鋭いのも、この場合は不幸である。

だから水洗いだけでなく、泡立てて洗うことを、ぜひとも教えたい。
もちろん、人間が作った石鹸や洗剤などは使わせない。
だが————

14時半を回ったか。日はもう少しあるよな。
食事も終わったようだ。

「おい。親蟲2匹と中蟲。こっちへ来い」

デトデトテトテトとデカホソチュウがこちらへ走って来る。
実装石なりに機敏に動こうという従順さは認めるが、苛立つほどに足が
遅い。その遅さで全力か、と罵りたくなる。
……ふぅ、落ち着け……じきに、実装石本来の走り方も教えんとならんか。

「次は、改めて、きちんとした洗濯と身体の洗い方を教える。
 まず森に行くぞ。着いて来い」

私と純香が並んで走る後ろを3匹のノロマが必死に走って着いて来る。
私たちの歩みは、通常よりかなりゆっくりなのだが、それでも、緑色の
ノロマどもはどんどん離れてしまう。

   なんと無様な生き物か

目的の場所まで15メートルほどしか移動してないのに、もう大量の汗を
かき、息を激しく切らしている。
このノロマどもは、森林公園からここまで、一体何日をかけたのだろう。
全く、よくたどり着けたものだ。

ノロマ蟲の息が戻るのを待たず(いつになるか分からん)説明を始める。

「ここに落ちている木の実の皮を良く覚えておけ。“エゴの実”という。
 これだ。拾ってみろ」

見ようによっては実装石の口の形に似ている。
干からびて灰茶色の実装石のミイラの口かな。

『なんか、テヒーテヒー、ワタチたちの、テヒテヒ、お口のカタチに、
 テヒ、似てるテス?』

チュウが息を切らせながらも、完全に乾燥したエゴの果皮を手に取り、
マジマジと観察して感想を言う。

   …………腹立つなぁ、この糞蟲が

実装石ごときに同じ感想を持たれてしまったことの逆恨みである。

「これをできるだけたくさん拾え。拾ったら、小屋まで持って行け」

   デスゥデスゥ デスデス テステス

作業をする3匹の口から鳴き声が漏れる。
特製リンガルでも翻訳しないところをみると、意味の無い、単なる鳴き声
であるようだ。
クチバシの名残の形状がそのまま残った“A”の口は、しっかりと閉じる
ことが出来ないから、鳴き声というより、息漏れの音なのだろう。
いちいち無様な生き物だ。

そしてまた、集めるまでは仕事が速かったが、集めた後で何やら戸惑い、
オロオロとしている様も私を苛立たせる。

純香がスッと私に寄り添い、無言で手を握ってくる。
落ち着いて、という感じだ。
私を内面まで良く理解してくれている、良きパートナーだ。

「なんだ。どうした」
『……あのぅ、デスゥ……』
「だからなんだ。はっきり喋れ」
『袋を持って来なかったので、たくさん持って行けないデスゥ』

ビニール袋も人間由来の物だから、いずれは使わせないようにするが、
今使っている袋ぐらいなら、破れて使えなくなるまで使わせてやっても
いいかとも思う。
しかし、ゆくゆくは実装石が自分で作れる袋にさせなくてはならない。
徐々に慣らしていくべきだろう。

「庭蟲の遅い足で小屋まで戻り、取って来るのを待ってはいられない。
 胸羽、実装石が言うところの前掛けに乗せて運べ。
 今使う分だけなら、デカ蟲とホソ蟲の前掛けに乗る分で十分なはずだ。
 明日以降の分は、後で取りに来い」
『はいデスゥ』

まずホソとチュウがデカの前掛けいっぱいに乗せ、次いでチュウがホソの
前掛けにたっぷりと乗せる。

そのせいで、さらに倍も3匹の歩みは遅くなったが、とにかく無事に水場
まで戻って来れた。
行動にいちいち時間が掛かる。

   ああ、クソッ  本当にこの蟲ども面倒くせえ

「石でこのエゴの実を、できるだけ細かく割れ」

   デッスゥデッスゥ  デスッデスッ  テッス テッス

「割れたら、その細かくなった欠片を、脱いだ服でくるめ。
 くるんだら、そのまま水をかけて、ゴシゴシ擦ってみろ。
 細かくなっても実は固いから、強く擦り過ぎて、服を破くなよ」
『はいデスゥ』

服を脱ぎ(これも遅い!)、デスゥデステスと声を出しながら(例によって
息漏れだろう)、言われたとおりに作業を行う。

『デ、デ、デ!?』

まもなく、驚きの声を上げる。

『あわあわになってるテス!』

そのためのエゴの実なのだから当然だ、この臭蟲が。
実装石にとっては十分過ぎるほどの、天然の石鹸代わりになるだろう。

「その泡で、身体も洗え。しっかりと、隅々までな。
 ああ、仔蟲どもの服と身体も洗っておけ」

3匹の様子を興味津々に見ていた仔蟲と親指蟲と蛆———は、レフーとか
鳴いて風に揺れる草に戯れている———たちは、呼ばれて喜んで飛んで来る。
クソ遅いが。

そしてテチャレチャと歓声を上げて泡だらけになってじゃれ回る。
幸せな光景だろう——人によっては。

   ああ、クソ、潰してえ

しかし、まあ、これで、庭蟲どもの衛生面もなんとかなるだろう。
ここに至るまでがスゴいストレスだったが。

「この洗い方を毎日やれよ」

はいデスゥデステス、と返事をしながらだいぶ傾いた陽の中で服を干す
庭蟲どもを横目に見ながら、私はストレス発散の準備を純香に頼む。

ちなみに、庭蟲どもは裸でいるし、夜までに服が乾くことはないだろうが、
今日は割と暖かいし、蟲どもの小屋の中はいつの間にやら入口を塞ぐほど
たっぷりと、庭蟲たちの手によって、枯れ葉枯れ草が積み込まれている。
あの中で家族固まって眠れば、寒いことはあるまい。
本当に優秀な実装石たちだ。   生意気にも。

とはいえ、禿裸が冬を越すこともあるのだから、このぐらいの天候なら
実装石の苦にはならないのだろうが。

純香が戻って来て私に2本の容器を手渡してくれ、夕飯の支度を美翠と
するために、すぐ家の中に戻って行く。

   さーて、ストレス発散 ストレス発散♪

手足耳無しで糞を飲みながら禿裸案山子をやっているにもかかわらず、
幸せ回路発動でもしているのか、妙に恍惚とした表情を浮かべている
糞蟲どもに、ドボドボと容器の中身をぶっかける。

塩素系洗剤の原液を、だ。
糞蟲の臭い消し兼鳥避け兼嫌がらせのためである。

さぞや沁みたか、新しい激痛で夢から覚め、また鉄パイプの先で気持ち
悪いウゴイゴダンスが始まるのを一頻り眺め、すっきりとして家に戻る。

今日の仕事は、これで全課程終了である。
あとは、美翠を可愛がり、純香とイチャイチャするだけだ。

   ああぁぁ~  長い、長い長い1日だった!



   ———続く——— 

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1 Re: Name:匿名石 2022/02/06-04:21:39 No:00006477[申告]
エゴの実で洗濯!庭蟲に画期的過ぎてビックリだ
2 Re: Name:匿名石 2022/02/09-03:37:53 No:00006478[申告]
他の機能を犠牲にしすぎたからだとは言われてるけど
無駄に体躯に似つかわしくない程度にうどん玉を発達させたのに底辺生物になってる糞蟲…
祖先のトリモドキも浮かばれないな
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