タイトル:【虐】 夢を見ていた 4/7
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作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2570 レス数:0
初投稿日時:2006/06/24-06:34:52修正日時:2006/06/24-06:34:52
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『 おう、帰ったぞ。 』
「 おかえりなさいデス。 」
「 テチュ! 」
「 オニイチャンテチ! 」

公園から帰って門をくぐると、カセン達が俺を出迎えてくれた。
足元へケンとコウがテチテチと走って寄って来る。
庭先にはおばさんもいて、その近くには見慣れぬ犬小屋が有った。

『 …おばさん、それは? 』
『 その子達の寝床よ……こんな感じでどうだった? 』
「 おばさんから毛布を貰えて、とても暖かいデス! 」

小屋の中には毛布が敷き詰められていた。
更に見れば、小屋の上にはトタンがかぶせられており、雨漏れする事も無いだろう。

( トントン )

軽く叩いてみても、丈夫なのが分かる。
しかも小屋は日当たりの良い場所に置かれており、天気の良い日は気軽に外でくつろげる。
回りは丁度芝生になっていて、仔実装達が遊ぶには十分なスペースだった。

『 すいません……直ぐに出て行くつもりなのに、ここまでしてもらっちゃって。 』
『 構わないわよ、どうせ物置に有った犬小屋を持ってきただけだから。 』

しばらく世話になってるだけなのに、本当に申し訳ない。
しかも2,3日で出て行く身なのに。
恐縮して、心から頭を下げてお礼を言った。
家に帰ったら、地元の名産を何か贈らないとな。

『 そうだ、これを食ってくれ。安物だけどな…。 』

公園の帰りに寄った量販店でお徳用実装フード(大袋)を買って来た。
3匹の前に、それぞれの皿を置き、適量を盛ってやる。

『 いただきます、を言うんだぞ? 』
「 いただきますデス! 」
「 ますテチ! 」
「 いただきますテチュ! 」
『 誰も取ったりしないから、慌てず行儀良く食えよ。 』

カセン達は、一つ一つ摘むと、口の中に運び始めた。
3匹は美味しそうにポリポリと齧っている。
ケンとコウにはまだ固いかもと思ったが、そんな事も無さそうだ。
不平不満は一言も零さなかった。

『 あんまり良い物食わせられなくてすまないな。 』
「 そんなことないデス、美味しいデスよ。
  それに食べ物が有るだけ幸せデスゥ…… 」

そう言ってくれると俺としては嬉しいのだが。
明日はデザート用に金平糖でも買ってきてやろうかとも思う。
カセン達は自分達の立場をわきまえていた。
野良の時に比べて今の自分達の境遇が恵まれていると自覚してるのだろう。
目の前の実装フードの味を堪能している。
親仔揃って食べ物の心配が無くなったのが余程嬉しいらしい。
寝る場所は毛布付きの小屋。
雨漏りもせず、今までのダンボールハウスと比べて段違いかもしれない。
だがトイレや他の躾ができれば、直ぐにでも室内で飼ってやりたい。
嬉しそうに食べ物を口に運ぶ様子を見て、何だか俺も幸せな気持ちになってくる。

そんな時……ふと、俺は公園のノロの事を思い出した。
そういえばアイツに家族は居ないのだろうか。
いつも公園の実装石に虐められて友達も居ないように見える。

目の前のカセン達と公園のノロ。

同じ実装石だが、一方は家族がいて食事に不自由せず寝る場所も有る。
しかしノロには何も無い。
さっき渡したパンだって明日には無くなっているだろう。
アイツがどうしようもない糞虫なら良かったかもしれない。
心配せず、すぐに忘れる事ができたから。
ノロマでグズで馬鹿かもしれないが悪い奴では無かったから。

今頃アイツは公園で何をやってるんだろう。

俺が渡したパンを大事に抱え、少しづつ齧って飢えをしのいでいるのか。
暗いダンボールハウスの中、1匹だけで過ごしているのだろうか。
まだ寒いから凍えていないだろうか。


「 ご主人サマ…? 」
『 ン……あぁ、どうした? 』
「 いえ……考え事でもしてたのデスか…? 」
『 ……少しな。 』

ノロの事を考えて少し呆けていたらしい。
気を取り直して、俺はカセン達を綺麗にすることにした。

『 そうだ、今からタライにお湯を入れて風呂にするぞ。 』
「 風呂…って何デス? 」
『 そうか、お前達は風呂を知らないんだな……それから服も洗濯してやるから。 』

おばさんに頼み、大きなタライを借りて沸かしたお湯を入れた。
水道からホースを引っ張って水を入れ、丁度良い湯加減にする。

「 これがお風呂…デス? 」
『 あぁ、そうだ。お前ら、さっぱりしとけよ…。 』

最初に服を脱いだカセンを持ち上げ、お湯の中に入れた。

『 どうだ、湯加減は? 』
「 とっても気持ち良いデス! 」
『 よし、ケンとコウを溺れないようにしっかり持ってろよ…。 』
「 つぎはワタチテチュー! 」
「 オニイサン、はやくテチー! 」
『 あぁ、慌てるな。順番だ、順番…。 』

次にケンを、そしてコウを持ち上げるとカセンに渡した。
タライに張った湯船は、仔実装には深い。
カセンが持っていないと溺れてしまうだろう。

「 きもちいいテチュー♪ 」
「 おふろさいこうテチ♪ 」

今まで冷たい水でしか身体を洗った事の無いケンとコウには新鮮だった。
興奮してパシャパシャとお湯をかけ合い、カセンに支えられながら泳ぐ真似をして遊んでいる。

「 お前たち、落ち着くデスよ? 」
「 テチー♪ 」

あやしながら、カセンが仔実装達の髪をお湯に浸けて洗っている。
しかしケンとコウはそんな事もお構い無しに、タライの中で遊んでいた。

『 …よし。カセン、ケンとコウを綺麗にしとけよ。 』

その近くで俺は別のタライを置いて、カセン達の服を水に浸した。

「 ご主人さま、何をするデス? 」
『 洗濯だよ、洗濯。お前たちの服、もっと綺麗にしてやるから。 』

タライの中に分けて貰った洗剤を入れ、手揉みで洗い始める。

「 服の洗濯なら、私がするデスよ…? 」
『 まぁ、今日は特別だ。
  それよりもカセン、子供達の身体を綺麗に洗っとけよ。
  それからお前自身もな。 』

洗濯が終わると服を干し、カセン達には服代わりにタオルを渡した。
本当は昼間に干しておきたいところだが、仕方ない。
今夜はそれで我慢してもらう事にした。



『 はは…飼い主さん、ご苦労さま。 』
『 いいえ、今日は本当に何から何までお世話になりっぱなしで…。 』

カセン達を風呂に入れた後、俺は遅い夕食をご馳走になった。
わざわざ俺のために残しておいてくれたらしい。
後でしっかりお礼しないと…そうだ。

『 そういえばグリン達の事ですけど、手掛かりが有りましたよ。 』
『 え…犯人が分かったの? 』
『 いえ、そうじゃないんですが…多分、この街の虐待派の人間に殺されたんじゃないかと。 』
『 や、やっぱりそうなの!? 』
『 やっぱりって……何か有ったんですか? 』
『 グリンちゃん達では無いんだけど…別の行方不明になってた実装石の首輪が見つかったのよ。 』
『 ど、どこで見つかったんです? 』
『 それがね、驚いた事に…。 』

ペットショップの店員の言葉通り、この街では飼い実装が10匹以上行方不明となっていた。
その内の1匹の首輪が、とある家の近くで発見されたという。
そこは街でも有名な名士の邸宅だった。
非常に大きな屋敷を構えているらしい。
その人は市議会議員も勤めており、回りからは先生と呼ばれている。

『 あんな立派な人のお宅の近くに……想像したくないんだけどね…。 』

おばさんは残念そうに言葉を洩らした。

現在の法律で実装石の虐待及び虐殺は禁じられてはいない。
とは言え、虐待派と呼ばれる人間は、他人へ滅多に自分の趣味を漏らさないだろう。
やはり世間体というものを考えた場合、秘密にしておくのが得策だ。
同じ趣味の者か、もしくは親しい間柄で無い限りは黙っておくだろう。
誰もが持つ密かな趣味は秘密にしておくものだ。

だが今回、疑惑のかかった人物はそれなりの名士だ。
それこそ日頃から言動に細心の注意を払わなければいけない。
そのような地位の人物が実装石虐待を趣味にしているなど、今後の活動へ悪い影響を及ぼす。
しかも他人の飼い実装を捕まえてるとなれば弁解の余地は無い。
罪は軽いかもしれないが、完全に議員生命は失われる。
世間体としても最悪だ。

『 …それで、その人は何て言ってるんです? 』
『 当然否定してるわ。
  自分は実装石虐待なんてしてないし、まして他人の飼い実装を盗んだりしないってね。 』
『 その家の中は調べたんですか? 』
『 警察の令状でも無い限り無理よ…。
  それに広い家だし、家の者じゃないとどの部屋にあるかも分からないわね。
  それでも飼い主の一人が今日、尋ねに行ったらしいんだけど…。 』
『 …門前払いですか? 』

おばさんは首を縦に振った。

ペットショップの店員は、この街にも虐待派がいると教えてくれた。
そして100匹以上、虐待のために家で飼っている事も。
それが本当なら、それなりの家の広さ、それなりの経済力の有る人物だろう。
確かに店員の言葉と一致する。

『 …だけど、家の近くで首輪が見つかっただけで犯人と決め付けるのもね。 』
『 その通りですね、何かの偶然で落ちていただけかもしれないし。 』
『 しかし…偶然じゃないとしたら……。 』

それだけ言うと、おばさんは黙りこくってしまった。
このおばさんは愛護派でも無いが虐待派でも無い。
だが、それでも社会的地位の有る人物が、密かに虐待を趣味としているのは少なからずショックらしい。
しかもそれが身近な人物なら尚更だ。
今は単なる疑惑にしか過ぎないが……。




夕飯後、俺も風呂に入ってカセン達の小屋の近くに来た。

家の近くに街灯があるため、夜になっても明るい。
初夏とはいえ、まだ夜風は冷たい。
だが部屋に実装石を連れ込めないため、多少寒くても一緒に居るためには仕方なかった。

『 なぁ、カセン。 』
「 はいデス。 」
『 俺がな、飼い実装を探してたのは話したよな。 』
「 聞いたデス。 」
『 その飼い実装達、殺されたらしい…。 』
「 こ、子供もデスか? 」
『 あぁ、そうだ……それで、カセンに聞きたいんだ。
  その飼い実装は仔実装と一緒に家の中にいて、犯人に連れてかれた。
  だけどな、もし虐待派の人間に連れてかれるなら、絶対抵抗するよな?
  虐待派でなくても、頭の良い親実装なら、警戒して知らない人についていくはずない。
  しかし実際に、飼い実装達は連れてかれた。
  しかも飼い実装は自分から鍵を開けたらしい。

  犯人は、どうやって飼い実装を外に連れ出したと思う? 』

「 デスゥ…。 」

この街では、飼い実装達の失踪が多発してる。
その失踪の全てが同じ犯人としたら、犯人はどうやって連れ出したのだろう。
野良実装なら餌で釣れるかもしれない。
だが食べ物に餓えてない飼い実装に、そんな誘惑が通用するとは思えない。

「 私もデスが、子供がいれば親はニンゲンを警戒するデス 」
『 だよなぁ…。 』

公園に入れば、仔実装を見せてくる親実装は多い。
だが少し頭の良い親実装なら絶対にそんな事しない。

「 特に飼われてない時に、虐待派のニンゲンに目を付けられたら終わりデス
  だから子供達は、安全な所に隠しておくデス
  知らないニンゲンを警戒するのは普通デスよ… 」
『 うん……。 』

俺は夜空を見上げた。

不自由無く暮らしている飼い実装の場合、カセンに比べて人間に対する警戒心は少ないかもしれない。
だがそれでも、見知らぬ人間に対しては警戒するだろう。
ここは田舎で、留守にしても鍵を開けっ放しにする家は多い。
だがそれでも飼い実装を連れ出せるものだろうか。
犯人は一切、手がかりを残していない。
もし親実装と仔実装を抱きかかえて連れて行くとした場合、人目につく可能性は高い。
そんな不審人物がうろついてるような目撃情報は無い。
しかも強引に連れ出すとしたら、実装石だって暴れる。
犯人は、余程身を隠すのが上手く、実装石の扱いに長けているのだろう。
その挙句、連れこんだ場所で、刃物を使い切り刻んで虐待…いや、虐殺か。
幸せに暮らしている飼い実装に虐待願望を抱いている虐待派。

問題は、その願望を満たすため実行している事実。

『 カセン、ケン、コウ、お前達は知らない人について行くんじゃないぞ? 』
「 分かったデス、気をつけるデスよ 」
「 分かったテチュ- 」
「 注意するテチー 」

とは言ったものの、俺は結構楽観的だった。
明日は一日かけて出発の準備をして、明後日にはこの街を出る。
あとたったの二日だ。
それにこれだけ騒ぎになってるとすれば、犯人の虐待派も影を潜めるだろう。
しかも、この家は田んぼに囲まれた一軒家で見通しが良い。
誰か不審な人物が来たら一発で分かる。




次の日の朝。
俺は、この街を出るための準備を始めた。
正確にはカセン達の準備だ。
何しろ、突然旅の道連れが三匹増えた。
ならば、その装備などを改めて用意する必要が有る。

『 こんにちは〜っす。 』
『 あぁ、どうもいらっしゃいませ。 』

ペットショップに入ると、いつもの店員が挨拶を返してくれた。

『 …あれ?もう実装探しは終わったんじゃ…? 』
『 あ、それなんですがね…。 』

俺は手短にカセン達の事を話した。
新たに三匹の実装石を飼うことになった以上、必要な物を買わなければいけない。
だから世話になった感謝の意も込めて、ここで色々揃える事にした。

『 …そういう事ですか。
  ありがとうございます、色々お世話した甲斐が有りましたね。 』

店員は冗談交じりで微笑んでくれた。

『 えぇ、もう明日にはこの街を出ようと思いまして。 』
『 そういえば、この街の人じゃなかったんですね。
  ……なら、あの話も関係有りませんか。 』
『 あの話って…。 』
『 行方不明になった子の首輪が見つかった話は聞きました? 』
『 えぇ、どこかのお屋敷の近くで見つかったらしいですね。 』
『 …と、いう訳なんですよ。 』
『 はい…? 』
『 ……。 』

店員は深刻な表情を浮かべると、それ以上は何も言わなかった。
突然の沈黙に俺は困惑し、首を傾げる。

『 何が、という訳なんです? 』
『 …前にお話した事を覚えてますか? 』
『 どの話でしたっけ? 』
『 …このお店もたくさんの実装石を卸してるって話です。 』
『 えぇ、それなら覚えてますが……えぇ!? 』
『 声が大きいです! 』

幸い店内には誰も居ない。
だが、他の人に聞かれてはマズい話題だけに注意しないといけない。

『 あなたも無関係じゃありませんし、
  明日にでもこの街を出てくのならお話しますが……その通りなんです。 』
『 そ、それじゃ……飼い実装をさらったのは…。 』
『 …かもしれません。
  実は私も店長も知らなかったんです。
  実装石を大量に引き取りに来る人は全然別の人ですから。
  ただですね……その引取りに来た人、そのお宅の関係者なのが分かって…。 』
『 何かの間違いじゃ…? 』
『 こちらとしては売れ残った実装石ですから、お安くしておきますよ。
  けれどですね…それでも数十匹単位の飼い実装ですから、それなりの金額になります。
  一般の方が虐待のためだけに出せる金額じゃないんですよ…。 』

百匹以上の実装石を飼育するだけのスペース。
更に虐待用のアイテムや設備が整った部屋。
そんな広い家など、自然に限られる。
店員はおそらく、そのお屋敷のどこかに虐待部屋と飼育部屋が有るだろうと言った。

『 それで今、被害者の飼い主さん達が団結して掛け合うらしいですよ。 』
『 その家の人にですか…? 』
『 皆さん、カンカンですから……一騒ぎ有りそうですね。 』

最後に今話した事を口止めされると俺は買い物を始めた。
だがカセン達の首輪を買うためにこの店に来たものの、さっきの話で集中できない。

地元の隠れ虐待派の名士の屋敷近くに落ちていた行方不明の飼い実装の首輪。
普通に考えれば、無関係とは思えない。
もしもその名士が犯人だとしたら…大騒ぎになるよな。

『 …いや、それより今は買い物だ。 』

俺は頭を切り替えると買い物へ集中することにした。
その虐待派の事を俺が考えてもどうにもならない。
今は買い物が大切だ。


気を取り直し、首輪コーナーを見てみる。
そこには様々な種類の実装石専用首輪が並んでいた。
色だけで赤、青、黄、紫、緑、橙、白、黒…更に多様な装飾。
見ているだけで目移りした。

『 それじゃ、これとこれとこれを…。 』

俺は手頃な値段で、名前欄の見やすい首輪を3つ選んだ。

『 成体用1つと、仔実装用を2つですね。 』
『 …あ、ちょっと待ってください。 』
『 他にお買い物を…? 』
『 えっと……。 』
『 はい? 』
『 ……いや、いいです。それでお勘定をお願いしますね。 』

店を出て、袋の中に入った様々な用具を見てみる。
その中の3つの首輪を見て思う。
これをカセン達に渡せば、飼い実装の仲間入りだ。
今はまだ首輪の無い状態だから、他の野良実装と外見的に見分けがつかない。
だが、ネーム入りの首輪が有れば別だ。
少なくともこれから、虐待派の人間から襲われる事は無くなるだろう。

しかし…

『 ん…。 』

MTBを道の端で止めると、俺は袋の中の首輪を数えた。

3つ

足りない気がした。
もう一つ、成体用の首輪を買うべきだったかと迷う。

その後、俺は街中の色々な店を回って準備を整えた。
俺自身の食料と着替えなど。
この際、色々買い込んでおいた。
そしてほぼ買い物を済ませ、気が付くと日が傾いていた。
夕陽でうっすらと空が赤く染まる。

『 …最後のお別れかもしれないしな。 』

俺は荷物を積んだまま、公園に向かった。




『 どこにいるんだアイツ…。 』

俺は買い物袋をMTBに縛り付けて公園内に入った。
公園内にはちらほらと実装石の出歩く姿が見える。
だが、この日はノロから声をかけられるでもなく、虐められる悲鳴も無い。
公園内を一回りしてもノロの姿は無かった。

『 まさか…。 』

遂に他の実装石から虐め殺されたのだろうか。
むしろ今まで殺されずにいたのは奇跡かもしれない。
そう思うと昨日、一言かけずに別れたのを非常に悔やむ。

『 ……あ! 』

ふと公園から見上げると、高台が目に入った。
そこの芝生に座り込む緑色の実装石。
それがノロだと確信すると、俺はその方向へ登っていった。



『 おい、こんな所にいたのか…。 』
「 …あ!ニンゲンさん、こんにちはデス 」

ノロは芝生に座り、夕焼けに照らされる街の光景を眺めていた。
回りには人も実装石もいない。
ノロ、ただ1匹だけだ。
初夏特有の白や黄色の花に囲まれた芝生。
そこにノロは座っていた。

『 あのなぁ、ノロ……俺、明日この街を出るんだ。 』
「 また旅に出るんデスか? 」
『 あぁ、旅に戻るって事だな……だから今日でお別れだ。 』
「 デスか……寂しくなるデス
  ニンゲンさんには、食べ物を貰ってお世話になったデスよ… 」

ノロは座ったまま、俺に向かってペコリと頭を下げた。
夕陽に照らされ、辺りは薄暗くなったものの、やはりコイツの服は汚いのが分かる。
実装石にとって大切な服は汚れきっており、髪の毛も手入れの施された様子は無い。
だが、コイツはやはり憎めない。
その謙虚な態度に嫌悪感を抱くことができなかった。

『 そんな事は良いんだがな…ノロ、お前には家族が居ないのか? 』
「 家族…デスか? 」
『 親とか姉妹とか子供とかだ。 』
「 ママは、私が小さい頃に死んじゃったデス……
  お姉チャン達は、ノロマな私を捨てて、どこか遠くに行っちゃったデスよ
  それで子供は…… 」
『 …ん? 』

ノロは俯き、自分のお腹に手を当てた。

「 私は子供を産めない身体なんデス 」

『 え…。 』

呟くと、ノロは自分のお腹を撫で始めた。
その手つきは優しく、表情は穏やかで……まるでお腹に子供が宿っているかのように。

『 お前……昔、何か有ったのか…? 』
「 デスゥ…… 」

ノロは俯いたまま、お腹を撫でていた手の動きを止めた。
低く呻くものの、それ以上は言葉にしない。

『 …そうか、聞いたりしてすまなかったな。 』
「 いえ、いいデスよ、気にしてないデスから…
  それより、あれを見てくださいデス 」

ノロが指差したのは左下……いつもの公園だ。
その公園の噴水の近くで、親仔の実装石が歩いている。
大きな実装石に、4匹の仔実装が連れられていた。
おそらく、家に帰る途中なのだろう。
2匹の仔実装は両手に繋がれ、後の2匹はその回りを楽しそうに走り回っている。

「 …私は、この場所が好きデス 」
『 景色がいいからか? 』
「 少し違うデス……ここからなら、公園の中がよく見えるデスから… 」

俺はノロの顔を横目で見てみた。
眼下の親仔実装を見ているノロの表情は、幸せに満ちていて……それでいて寂しげに見えた。

『 …ここから実装石を見ているのが好きなのか? 』

ノロはコクリと頷いた。

「 あの親が私だったら…と思うデス 」
『 あの実装石がお前だったら…? 』
「 そうデス… 」

親仔実装を見ているノロの視線が更に柔らかくなった。
表情だけでなく、その話す口調までも楽しそうに……幸せに満ちていた。


「 子供達の手を引いて、一緒に公園の中を歩いて、遊びまわって……

  食べ物は余り無いデスが、夜は一緒に暖かく寝て……

  そう考えるだけで楽しいデスよ… 」


『 お前… 』

なんて声をかけてやったら良いか分からないが……とにかく悲しかった。
想像の中で、ノロは子供達に囲まれている。
公園で手を繋いで一緒に歩き、一緒に遊び、一緒に寝て過ごしている。
ノロと子供達は幸せな生活を送っていた。

だが現実は違う

毎日が生きるのに精一杯で、常に餓えていた。
公園では他の実装石達に虐められ、助けてくれる存在は居ない。
家族は親も姉妹も居ない。
そして子供も産めない。
近くには誰も居ない。
現実のノロは常に独りぼっちだった。

『 …なぁ、ノロ。 』
「 デス…? 」
『 その……な…。 』
「 どうしたデスか…? 」

振り返ると、ノロが怪訝な顔つきで俺を見ている。
公園を眺めているノロの姿がとても寂しくて…
何か声をかけてやりたいが、今の俺に何が言えるだろう。
暫くして俺は、ようやく言葉を決めた。

『 …明日もここにいるのか? 』
「 朝から昼間では公園にいると思うデス……夕方は、ここに座ってるかもしれないデスよ 」
『 そっか……なら明日、街を出る前にもう一度来てやるよ。 』
「 デェ…? 」
『 最後だからな…今は手ぶらだが、明日は食い物を持ってきてやる。
  そうだ、奮発してお前が食った事無い美味い物だ! 』

今のノロが余りにも寂しかったんで、少しでも明るくしようと俺はおどけてみせた。
だが、そんな俺を見るノロの反応は鈍い。

「 …なぜ、食べ物をくれるデス? 」
『 なぜって…。 』
「 ニンゲンさんは飼い実装探しも終わったデスし、私に用は無いはずデスよ…? 」
『 それは……確かにそうだが…。 』

やはりノロは怪訝な顔つきで俺を見ている。

『 …損得じゃ無いな。 』
「 デス? 」
『 昨日も言ったろ?
  こうやって話をして知り合いになったんだ。
  もう2度と会えないんだし……最後にお別れくらいしても良いんじゃないか? 』
「 知り合い…デスか。 」
『 あぁ、そういうことだ。
  お前は実装石なんだ、あまり難しく考えるな……貰える物は素直に貰っとけばいいんだ。 』
「 デスゥ… 」

ノロは釈然としない顔つきで頷いた。
最初に会った時は、食い物をせびったくせに…今は貰う理由がどうとか変な奴だ。

『 じゃ、また明日な。それまで生きてろよ。 』
「 分かったデス、さよならデスよ〜 」

俺はノロを背にして公園の方へ降りていった。
もう日は暮れかかっている。
辺りは暗い。
家ではカセン達が待っているし、早く帰らないと…。

『 …ん。 』

見納めに駐輪場から見上げると、ノロはまだ芝生に座っているのが見えた。

『 まだ見てるのか………え? 』

ノロが見ている先……公園に出歩いている実装石の姿は居ない。
もう、それぞれのダンボールハウスに帰ってしまったのか、公園はひっそりと静まり返っていた。
だがノロは芝生に座っていた。
さっきと同じように公園を見下ろしている。
駐輪場へ向かわずに暫くノロの様子を眺めていたが、その場から動く気配は無い。

『 ん……。 』

再び公園を眺めてみる。
やはり、誰も出歩いている者はいない。
しかし変わらずノロは公園を見下ろしていた。
実装石も人間も居ない公園を。
日が暮れ始め、親仔実装は全て家に帰ってしまい、静かになった公園を。


他の実装石を遠くから見るのが好きで…その為に高台から眺めているはずなのに。



『 アイツ、何を見てんだ……? 』




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