・・・・・・・・・・ 作中だらだらと喋らせていますが 大半が、特に生物学を修めたことの無い作者による雰囲気台詞です。 深く考えずにお読みください。 ・・・・・・・・・・ 実装石と言う『トンデモない生物』がいる。 『実装石と言うトンデモない生物の謎』に取りつかれた人間がいる。 そしてその、 『実装石と言うトンデモない生物の謎に取りつかれた人間』が集まった結果、 あるひとつの施設が生まれることになった。 ———その名を『実装石研究所』と言う。 「……つまり赤涙色素と緑涙色素が結びついた結果が『絶望の黒い涙』である、と」 「分析上はそうだな。ただ……色素を結合させる要因についてはまだ判明していないんだ。 過度のストレスからくる偽石のエラー反応の一種と言う仮説はあるが 仲介役となる何らかの物質が存在するのかどうか、 左右の涙腺と言うそもそもの分泌ヵ所が違う色素が、何処で、何故、結合するのか?」 「あー……その様子だと、実験、うまく行ってない感じですか」 「……ああ、今のところ全滅だな。 再検証しようにもまず『絶望の黒い涙』までたどり着かない。 その前にストレス過多で自壊してしまうんだ。 こうなってくると、先に『実装石の絶望』について研究せざるを得ないかもしれない」 私はため息を吐いて、手にしたコーヒー入りの紙コップをゆらす。 カフェインが濃いばかりの代物だが眠気を払うためだけならば悪くはない。 安っぽいコーヒーで口を濡らすと 愚痴めいた話の聞き役に徹してくれた後輩に水を向ける。 「としあき君の方はどうなんだ? たしか繁殖の比較実験だっただろう?」 「相変わらず数字の上では誤差の範囲を出ない感じですねぇ。 体感としては結構違う気はするんですけど」 「ふむ、もう少し聞かせてくれ」 「そーですねー、単為生殖で増やすよりは 交配血統の方が環境の変化への対応は比較的早いように思います。 ただ個体差も勿論ありますからねー。集団として平均値に直すとどうしても」 「ん? 選別はしてないのか?」 「うーん、今は品種改良が目的じゃないですし、そこまで細かくは。 ……大げさに言えば『進化の観察』がしたいんですよねー。 今の花粉繁殖に限らず、いずれは動物性のタネでも試したいんですけど」 ぼやくように言うが後輩の目は楽しそうに輝いている。 希望を持ち、目標に向かって進むのは良いことだ。 だが、 「そこら辺は獣装石対策をしてからの話だな」 「えー。あれ、都市伝説の類いでしょう?」 「火のないところに煙は立たず、とも言う。 何よりまず、自分が扱っているのが 実装石と言う『わけのわからんモノ』だと言うことを忘れるなよ」 しまった。 釘を刺すつもりだったが、少しばかり語気が強かったか。 落ちた沈黙はなんとも気まずい。 フォローは苦手なんだ。 なにか少しでも紛らわせられるような話題があればいいんだが。 ……ああ、そう言えば 「最近読んだ文献にな、『実装石は卵生』と言う趣旨の記述があったんだ」 「え?! なんですかそれ! 初めて聞きましたよ?」 「うん、私も初めて読んだんだがな。 調べてみると、少数だが確かにそう言う記録が残っているんだ」 「うわぁマジかあ……すみません、あとでちょっとその資料教えて下さい…… ……そう言えば、俺も実装石の『排尿』の記録見たことありました」 「ああ、少し古い記録だが、そっちはそれなりの数が有るな。 最近は確認されていないから、眉唾もののように言われることも少なくないが」 ぐったりと脱力したようにソファにもたれ掛かる後輩。 彼の研究テーマからすれば、探る資料が増えたことになるので仕方ないのかもしれない。 休憩中に聞くには酷な話だっただろうか。 だがまあ、先ほどの空気からは変わったので、良しとする。 「ほんっっっっとに訳分かんないですね実装石ってやつは」 「だからそう言っただろう。まあ、研究のし甲斐があるのは確かだな」 「そこは否定しません」 そろそろ休憩を終え、腰を上げようか、と言うところで また別の後輩が、きょろきょろと何かを探すようにしながら速足で近づいてくるのが見えた。 「どうした、双葉」 「あ、センパイ! としあきさんも! よかった〜、ちょっと手を貸して下さい! 肥満研の実装石が給餌中に爆発したんです!」 呼び止めてみたものの ……まったく意味が分からない。 分からないが、実装石を扱っていれば、こう言うことは稀によくある。 「双葉、説明」 「はーい。……えーっと、今日も肥満研で実験の見学とお手伝いしてたんですけど、 その実装石はちょっと落ちつかない感じで、今考えるとちょっと様子がおかしかったかもしれません。 でも、その時は誰もあんまり気にしなかったんです。そういう日もあるかな〜って。 なんですけど、明らかにフードの量が体積を超えても実装石の食事の手が止まらなくて、 そのまま、腹部破裂から爆発四散しました」 説明を聞いてますます意味が分からなくなるのも実装石ではよくあることだ。たぶん。 かろうじて、異常に食い意地のはった個体だったのだろうという予測だけはできるが。 「で、えっと 給餌担当だった肥満研のひとは至近距離で爆発くらっちゃったので衛生のためシャワー、のあとは健康チェック、 ほかのひとは、無事だった偽石と頭部をサンプルに欲しがった再生研のひとと交渉に入っちゃって、 記録映像の方は、生体研のひとが資料用にコピーとらせてくれって持って行っちゃってて」 ああ。 実装石の方の事情はさっぱりだが、人間の方の事情の検討はついた。 つまり 「はい、掃除に手が足りないんです。手伝ってください♪」 ・・・・・・・・・・ 実装SSの正道から外れているのは重々承知の上ですが 前作「ミドリと言う名の仔実装」にコメントつけて頂けた喜びで指が滑りました。 お好みに合わない場合は忘れて下さい。 以下、忘れっぽい作者による作者のための覚書 実装石研究所 ‐ 名目上は『実装石への理解を深め、偽石の謎を解き明かす』ため設立。 想定外の事故を減らすためにも、所内における研究情報の共有を推奨。 実装石 ‐ 所の研究対象、兼、実験動物。 備品扱いなので、紛失・実験外での破損には始末書必須。 博士 ‐ 所のなんかえらいひと。作者の文章力の無さで出番が消えた。 『絶望の黒い涙』はこの人の研究。の、ひとつ。 私(先輩) ‐ ただの所員その1…だった筈が、 何かと突き詰めて調べるせいでいつの間にか博士の助手役にされた。解せぬ。 本来の研究テーマは『実装石の社会』。 としあき氏 ‐ 後輩その1。取り組んでいる研究テーマは『実装石の繁殖と遺伝』。 ほんのりと、愛派寄りかもしれない。 双葉嬢 ‐ 後輩その2。今のところ、個人での研究テーマは抱えていない新入り。 各研究班を見学したり、パシられたりしている。所内では珍しい、虐派公言勢。 肥満研 ‐ 時に食餌量を上回る排泄をする実装石が、肥満に至るメカニズムを研究している班。 再生研 ‐ 実装石の再生について研究している班。内部には、テーマごとに分かれたグループを抱えている。 (例・『二分割した実装石を同時に再生した場合、本石と言えるのはどちらか』など) 生体研 ‐ 生物としての実装石を研究している班。再生研に同じく、細分化されたグループが多くある。 今回の映像は『体積、及び表面積の短時間での膨張率』の資料用に持っていきました。

| 1 Re: Name:匿名石 2017/02/04-09:25:04 No:00004168[申告] |
| 実装石が直接登場しないのに、実装の阿鼻叫喚が容易に想像できますね(笑)
表現力の高さに舌を巻きます。 博士には、ぜひ今後とも黒い涙の考察を続けて頂きたいです。 このフレーバーから、それぞれの登場人物を主人公に、研究テーマを題材にした作品へ派生していくのかもしれないと思うと、今から胸が熱くなります^^ |
| 2 Re: Name:匿名石 2017/02/04-15:02:55 No:00004171[申告] |
| 大学で生物学を専攻していたとしあきだが、
こういうそれっぽいスクは嫌いじゃない。 ぜひ続きが読みたい。 |
| 3 Re: Name:匿名石 2017/02/04-17:53:24 No:00004173[申告] |
| こういう実装石をデギャデギャ鳴かしてないのに絶望的状況が想像できるスクはいいなあ |
| 4 Re: Name:匿名石 2017/02/04-22:06:09 No:00004176[申告] |
| 他の方もおっしゃっているように、直接的な表現なしで想像させるという技法は
めったに見られないだけに新鮮です 今まで色んな作者さんが書かれてきたスクの一つ一つが、実装石の研究レポートみたいなもんだからなあ… 卵生のもの、排尿するもの、様々な設定があり、人によってそれらにちゃんと それっぽい理屈がついてるのが実装石という生物の面白さですね |
| 5 Re: Name:匿名石 2017/02/05-05:32:12 No:00004179[申告] |
| 面白そうな題材ですね。今後の研究報告に期待してます! |