タイトル:【愛】 【躾】あなたと私の仔育て備忘録 ~其の零~
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作者:ジャケットの男 総投稿数:27 総ダウンロード数:1452 レス数:5
初投稿日時:2017/01/29-12:50:36修正日時:2017/01/29-12:50:36
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『 あなた と 私 の 仔育て 備忘録 そのぜろ♪ 』







「…私は、今、きっと恋をしている。」



私はスタッフルームの女性用更衣室で仕事着に着替えながら、
頬を赤らめて、そんなことをぽつりと呟きました。



皆さん、はじめまして。それとも、お久しぶり…ですかね?
私は大手のペットショップに勤務している女性店員です。



私は今日も出勤してから直ぐに、日課である販売動物たちの世話を心を込めて行っています。
ノミやダニが寄生しやすいので、特に哺乳類の世話は大変です。
だけれど、良い飼い主の目に留まるように、いつ買われても良いように、せめて、見た目と健康には気をつけないとね。
定例業務ではあるけど、私は愛情と責任を持って、丹精に丹念にどの子たちにも平等に世話をしています。

あ、そうそう。
そういえば先日、トリマーの資格も取ってきたんです。
私は冴えない女ですけど、トリミング技術だけはちょっとしたものなんですよ?

現在、当店の店舗内にはトリミングルームが設置されています。
当店の近隣には犬を飼っているご家庭が多いので、割と盛況です。

今のところは完全予約制なのですが、
今後もトリマー有資格者を増員する予定なので常時ご利用ができるようになっていくと思います。

私は、午前中に予約が入っていたトリミング希望のお客様の対応を済ませた後、
定例業務の動物達の世話をひと段落つかせてから、相談窓口の受付に戻って、帳簿をつけながらコーヒーを飲んで一息つきました。



…嘘です。ごめんなさい。
一息つくといいながらも、実は、私の目は店内をうろつく買い物客たちの中に、あの人の影を追い求めていました。
もしかしたらフラッと、仕事帰りにでも、ここに立ち寄ってくれるかもしれない。
…などと、胸をときめかせて、少し期待しながら、ここで待っているんです。


ふふっ、おかしいですね。
女を捨てたつもりの私だったのですが、まるで恋する乙女のようなことをしています。


私は自然とにやついてしまう顔を隠すように、コーヒーカップを両手に抱えて口元にあてがいながら微笑み、
ふと、あの人との出会いや、きっと恋に落ちたのだろうあの日の事を思い出していました。






間幕






彼との出会いは偶然でした。

過去に実装石の飼育に失敗して以来、哺乳類を嫌悪するようになっていた私。
日々の業務に忙殺される間、世間も私も、実装石のことなんて忘れていた頃。

とても真剣な瞳で、ペットの飼育相談をしている私の元へ実装石の躾について尋ねてきたのが彼でした。

今でも彼の生真面目な表情を思い出します。
最初は実装石なんて…、と思っていました。
彼と実装石の関係が、私と同じように壊れてしまえばいいとも思っていました。

……いえ、もしかしたら、心のどこかでうまくいってほしい、とも思っていたかもしれません。
自分でもどれが本当の気持ちなのか、まったく分からないくらい当時の私は複雑な心境でした。

けれど、ただ一つ確かだったのは。
私は、仕事をしている間も、四六時中、その後の彼の事が気になって仕方なかった事を覚えています。

あれから、彼と実装石はどうなっただろう?
私のように絶望していないかな?それとも、まさかうまくいっているのだろうか?
商品の補充をしている間も、仔犬や仔猫のブラッシングをしている間も、そんな事を考えていました。


そんな時、今は懐かしいあの小さな生き物。小さな仔実装をタオルに包んで両手に抱えた彼が、
閉店業務に取り掛かり、出納帳簿をつけていた私の元へ、血相を変えて駈け込んできたのです。

彼は息も絶え絶えに


「あの! この前、訪れた者です!
 すみません、実装石のケガについて、処置の仕方を教えてくださいっ!!!」


と叫び、私に詰め寄ってきました。
大事そうに両手に包まれている仔実装と、彼のその悲痛な面持ちは、私の心の中の何かを確実に動かしたのだと思います。


「はぁ、まったく…。本当は、胎生生物の世話なんてまっぴらなんですけどねぇ…。
 まあ、顧客獲得につながるなら、仕方ないですねぇ…。ちゃんとペット用品を買うときは、うちで買ってくださいよ?」


そんな憎まれ口を叩きながらも、私は過去に自分が犯した過ちと経験から、
その仔実装に適合するであろう対処方法を脳内検索する。



…
……



…無事に仔実装の処置を終えた私は、
彼に来客用のコーヒーを差し出しながら、
あれから、ずっと興味を惹いていた、彼と仔実装の物語を治療費代わりに聞いてみることにしたのです。

彼は、その仔を拾ってから今までの経緯、
彼が体験した飼い犬の失敗談と、
躾し直した飼い犬に交通事故から救われたが、目の前で飼い犬の轢死する瞬間を目撃したという苦い思い出を
包み隠さずに私に話してくれました…。



「……ひぅっ、ひぐっ……うぅぅ……!!!」



彼の話を聞き終えた私は、
心の中に冷たく固まっていた何かが溶けていき、目から零れ落ちているかのように、
自然と両目からポロポロと止めどなく涙がこぼれているのに気づきました。



「えええ!?
 な、なんで泣くんですか!? すみません、俺、何か悪い事しましたかっ!?」



彼は心配そうに私を覗き込んでくれる。
そんな仕草すら、私には眩しくて、眩しくて…。



「あぅぅ……、うー…、これ、どうぞ……」


私は、引き出しからボロボロに使い込まれて所々を涙でふやかしてしまった古いノートを取り出すと、
彼にズイっと押し付けて、膝を抱えてスンスンと泣き続ける。


彼は受け取ったノートを、丁寧に丁寧に読んでくれました。
そう、まるで私をこれ以上傷つけないように。そんな配慮が見える優しい手つきでした。



……
………



彼は、ノートを読み終えた後、声を出さずに泣いてくれた。
その涙に、どんな意味があったのか、私には知る由もありません。



「うふふ……どうせ狂った女とか……思って…ますよね…?
 ……って、なんであなたまで泣いてるんですか。うふふ。」



それでも、目の前にいる彼は、私の気持ちを理解してくれるに足る人であると、強く感じたのです。
私は、きっと…あの仔を失って以来、初めての…、とても、とても自然な微笑みが浮かび上がった。


その後も、彼の気遣いが嬉しくて、嬉しくて…。
ついつい意地悪な事を言いつつも、彼が楽し気に言葉を返してくれて、
本当に、心の底から笑い合う事ができました。


たぶん、私は恋に落ちた…。
ううん、きっと恋に落ちた。

この気持ちを恋と言わないなら、世界に愛なんてない。





……
………





私は、その日以来、彼が店に訪れてくれるのを待ち焦がれていた。
私が休日の時に、彼が来店していたと同僚から聞くと、もう悔しくて悔しくて。
あの日、私の連絡先を渡しておかなかったのを何度も後悔したものだ。


そんな、ある日。
彼が久々に私の勤務日に立ち寄ってくれた。

今日はリードを買いに来たようだ。きっと、ポチを散歩に連れていく用意でもしているのだろう。
私はそんな事を分かっていながらも、憎まれ口を叩く。

互いに軽口を投げかけながら、
ふいに、私があげたノートとリンガルが何かの役に立ったのか気になり
あれからどうなったのかを聞いてみた。


…なんと、ポチは彼をママと認識してくれていて、躾のために彼が出していた指示を覚えるため歌を謳い、
彼に対しても、感謝の歌を捧げていたというではないか。

…しかも彼は、その上で、ポチの気持ちをもっと知りたいとか、
もっと言う事を聞かせたいと願うのではなく、ポチをペットとして…。
言葉ではなく、その仕草をきちんと観察する事を選ぶためにリンガルを捨てた。

私ならきっと、あの仔の時のように舞い上がって、蝶よ花よと甘やかしてしまっただろう。
彼は、なんて強靭な意志の持ち主なのか。

私は、彼とポチの飼い主とペットとしての固い絆に思いを馳せながら…。

遠い日の、あの仔と私の姿を、彼とポチに重ね見る。
嬉しさと悔しさと、切なさと情けなさがぐちゃぐちゃに入り乱れる。



「……だがら゛ぁ!
 な゛ん゛で、ぞぉ涙腺ゆるむ話ばっがずるの゛ぉぉぉ!」



私は、その場に体育座りになって鼻水を垂らしながら泣いてしまった。
そんな私に呆れる事もせず、彼は私を気遣いながら、謝罪をしてくれたのだ。


もうなんというか、百年の恋が千年の恋に昇格しちゃいますよ?


「別にいいですよぉ…、元々が貰いものだし、いらないなら捨ててくれって言って渡したんだから。
 それに、もう…そんなの表示されちゃあ…。そりゃ、まともに躾を続けるなら、捨てたくなりますよ。むう…。
 …また、進展あったら教えてくださいね。あ、そういえば連絡先交換してませんねぇ。
 これ、私の名刺とメールアドレスです。何か、相談したい事あれば、気軽にどうぞっ♪」


私は、自分本位な考えにちょっぴり自己嫌悪しながら、

私を救ってくれた彼のために、何かできる事はないか。
…それと、彼との距離を縮めたいという下心がほんの少し。

いつでも彼の相談に乗りたくて、私は、拒まれるかもしれない不安にビクビクしながらも、
名刺入れから名刺を取り出して、私用携帯とメールアドレスを書き込んでから彼に差し出した。

彼は、私の名刺を受け取ってくれて、財布の中に丁寧に仕舞ってくれた。
どうやら拒まれてはいないようで、少し安心する。


「あ、はいっ!ありがとうございます!
 何かあれば、すぐ連絡させてくださいっ!」


彼の眩しい笑顔と溌剌とした台詞に、私は心をときめかせつつ、家路に急ぐ彼に手を振った…。







間幕






今でも思い出すと頬が赤く染まる。
そんな姿を誰かに見られたくなくて、私は両手で抱えていたカップを一気に煽り、コーヒーを飲み干す。

今日も彼の姿は店舗の中に現れない。
寂しい気持ちを抑えながら、私はいつもよりちょっとだけ沈んだ気持ちで午後の仕事を片付けた。

…その日の夕方。
彼から携帯電話に着信があった。

腰を据えて相談したい事があるとのことだ。
私は、舞い踊りたい気持ちを抑えながら、自分が勤務していて都合の良い日を彼に伝えた。




……
………



なんとポチに犬(の恰好)へのトラウマがあるというではないか。
これは、非常に困ったことになってきた。



「う〜ん…。
 まず、ネックは犬ですよねぇ。この辺りにお住まいの方、割と犬を飼ってる家庭が多いんですよ。
 よくうちをご利用してくださいますからねぇ。
 犬自体への恐怖も近いうちに克服させておかないと、外に出る度に失禁する事になると思いますよ。
 あとは、首輪とリードがダメとなると、散歩に使うならハーネスあたりですかねー?
 …ああ、運動不足解消なら、当店の裏庭にドッグラン用の広場がありますよ♪
 今の時期、誰も使用していないので、仔犬たちの遊び場として利用してるんですよ。
 当面はうちに連れてきて、仔犬とでも一緒に遊ばせて、犬に慣れさせつつ、運動不足も解消させる…なんてどうですか?
 もちろん、何かあれば責任問題になるので、私がいる時だけって事になりますが…。」



私は、唸りながら最善の、そして、ちょっぴりのアプローチも含めた意見を提案する。
だが、彼はボーっと彼方の方を見ているではないか。
彼の反応が薄いのが、ちょっと悔しくて、私は目を据えて彼に声をかけた。



「おーい?聞いてますかー?
 それとも哺乳類諦めて、私と卵生生物の世界に行きますかー?」



「って、卵生生物の世界て何さ!?
 …あー、ごめんなさい、貴女にお世話になってばかりで、申し訳ないな、何か御礼すべきかなぁと思ってて。」



(え!?
 は、はずかしい!本当に私の事を意識してくれてたなんて!!)



私は嬉しいやら恥ずかしいやらで、ついつい、いつも以上に軽口をたたいてしまう。



「あはは、気にしないでくださいな。ちゃんとうちでお買い物していってくださってますからねぇ。
 顧客確保のためですよ、うふふ♪
 まあ、どうしても、というなら、今度デートに誘ってください、ふふ。」

「マジですか!?」



彼は、私の軽口に即座に反応してくれた。
これは、もしかして、本当に脈があるのかもしれない。
でも私の勘違いだったりぬか喜びになったら、ちょっと、ううん、かなり立ち直れない。

私は自分を守るため、
茶目っ気を込めた笑顔で、冗談として返す事にした。



「冗談です♪」
「…orz」



彼は、かなり落ち込んでしまった…。

あああ、ごめんなさい!
違うんですよ、本当はすごい嬉しいんですよ!?
ごめんなさい、ごめんなさい!
私にもうちょっと勇気があれば…!



「まあ、それも冗談ですけど、うふふ♪
 さてさて、じゃあ、私の勤務表を渡すので、私が休みの日で、そちらも都合が良い日の朝にでも電話ください♪
 店長に相談して、広場を使えるようにしておきますので♪」



私は、茹で上がっているかのように顔を紅潮させながら、照れ隠しも含めて自分の勤務表を彼に渡した。
うん、自分でもかなり大胆なことをしたなぁ…て思います。
きっと、この時の私は嬉しさやら恥ずかしさやら情けなさやらで、舞い上がってたんだと思う。


まあ、その日から、完全に恋する乙女なわけですよ。
携帯の着信に一喜一憂したり、職場の同僚に彼の素晴らしさを語ってみたり。


そんな訳なんで、自然と職場の中でも私の彼へのゾッコン具合が知れ渡ってしまいました。
店長なんて、まだ付き合ってすらいないのに、彼と結婚しても、うちを辞めないでくれと涙ながらに説得してきたり、
結婚式のスピーチを僕がするなんて言い始めています。いや、彼の耳に入ったら本当に恥ずかしいんでやめてください。




……
………



彼からの電話が鳴った。
私はもう有頂天になってしまい、当日の待ち合わせの1時間前には職場に顔を出して、
やや大きくなってきて売れ残っている仔犬たちの躾をしながら、ドッグラン用の広場で遊んでいました。

やっぱり動物はどれも可愛い。
この仔たちも、だいぶ大きくなってきて、買い手の幅が狭まってきたから、
せめて誰かに飼ってもらえた時に困らないよう、ちゃんと基礎的な躾と散歩の練習くらいはしてあげなくちゃね。

私がそう思えるようになったのも、彼とポチのおかげ。
ああ、今から彼とポチと一緒に遊べるのが楽しみだ。

そんなことを思いながら、仔犬たちとじゃれていました。
そしたら、いつの間にやら約束の時間を回っていたようで、店長が彼を連れてきてくれたではないですか。

…余計な事、言ってないといいんだけど。
何やら、呆然と私を見つめて立ち尽くしているので、
私は取り繕うような笑顔で彼に近づいた。



「こんにちはっ♪
 やー、哺乳類と遊ぶのも、たまにはいいですねぇ!」

「あ、はい。今日はありがとうございます。休日にわざわざすみません…。」

「そんな遠慮しないでください、私も楽しくてやってるんですから♪
 さあさ、早くポチちゃんを広場に出してみてくださいよ〜っ♪」



私に促されて、彼がキャリーバッグのチャックを開けた。
その中には、だいぶ体が大きくなったポチがお座りしたままの姿勢で待機している。

飼い主からのコンタクトがない限り、指示された行動をずっと続けているのだろう。
待て、お座りの躾が徹底されている様子のポチの姿に、私は彼の躾の上手さを尊敬せずにはいられなかった。

キャリーバッグを開いた彼を見て、ポチは待ち侘びたように嬌声をあげて万歳をした。
だが、そこまでだ、決して自分からキャリーバッグの外に出ようとはしない。

きっとここに移動するまで少なくない時間をバッグに押し込まれていたのだろうに、
今すぐ飼い主に飛びついていきたいだろうに、
ポチは指示があるまで、その場で待つ事を理解して実践しているのだ。



「 ポチ おいで 」



でぇ!でっすぅ〜ん♪
でっ!?でぇぇ!?


彼がポチに指示を与えると、ポチは、いそいそとバッグから出てきて彼の足元に擦り寄る。
その後、私や私の足元で戯れる仔犬の姿を見て驚きの声をあげた。

ポチが興奮しきる前に彼は何度もポチに指示を与えて、ポチの緊張をほぐしていく。
そのタイミングも絶妙だ。やはりペットショップの仕事として動物と付き合うのと、自宅で飼いとして動物と触れ合う事の差なのだろうか。

彼は、ポチを抱き抱えながら、私と仔犬たちに近づき、
自分から仔犬と触れ合ったり、仔犬の世話をしている姿をポチに理解させるように、優しく丁寧に仔犬と接してくれた。

最初は、私や仔犬に、おっかなびっくりのポチだったが、彼と仔犬が触れ合う姿を見たり、
私の匂いを嗅いでみたりと、彼と私や仔犬たちとの間を行き来しては何度も首を傾げていた。

ポチは、しばらくの間、彼の周りでうろちょろするだけだったが、
次第に好奇心に負けたのか、何度か私と仔犬に近づき、撫でてみたり、頬擦りをしてみたりを始めた。

仔犬たちも害意がない事を理解したのか、次第にお互いに追いかけっこをして遊ぶようになる。
転げまわりながらキャッキャッと遊ぶポチと仔犬の姿は、実に微笑ましいものだった。


最初は警戒していたのか、私が動く度に、



でぎゃ!?
でぇぇぇ!?



と、泣き叫びながら逃げていた。

そこで私は、指先をポチの鼻先にゆっくりと近づけて匂いを嗅いでもらい、
私にポチへの害意がない事を分かってもらう努力をした。

また、彼からポチが好きな遊びを聞いていたので、仔犬用の輪状のフリスビーを目の前にぶら下げて釣ってみたりと、
ポチが私にも興味を示してくれるよう努力を惜しまなかった。



でぇ…?
でっすぅ〜ん?でぇ〜すっ♪



やはり遊びの誘惑には抗えず、ポチはフリスビーに飛びつく。
しばらくポチと遊びまわり、ポチが満足気に鳴き声をあげたところで、
私はポチを優しく抱き上げながら頭を撫でてあげる。

ふと彼の方を見ると、私とポチの遊びに気を使ってくれたのか、
彼は仔犬を引き連れて遊び回っている。仔犬と駆け回る彼の少年のような屈託のない笑顔が微笑ましい。



でっすぅ〜ん♪



ポチは私の指に頬擦りをしてくれた。
シャンプーの香りのする艶やかな栗色の髪を撫でると、ところどころ髪がからまっているのが目につく。
どうやら彼は、動物を飼うための躾については一流のようだが、
動物を誰かに見てもらう事を前提にした美容・整容という一点については不得手とみました。

私は常備しているポーチから櫛を取り出し、ポチの髪の絡まりを丁寧にほぐし、綺麗に梳かしてあげる。



でぇっ!?
でっでっ!?

でぇ?でっすぅ〜〜ん♪でっすぅぅ〜〜〜ん♪



髪をいじられたポチは最初は不安げな声をあげていたが、
私が髪を梳かしてくれている事に気付くと、私に擦り寄って甘えた声をあげて、身を任せてくれた。

私とポチの姿を見て、彼はどうやらジェラシーを感じたようで、
私がポチの髪を梳かしている間、何度も、ポチの名前を呼んでいた。

その度に、うっとりと夢見心地だったポチは、



でででっ!?



と慌てふためき、私にぺこりと一礼しては彼の元へと駆け足で戻っていく。
彼が私の所へ行くように指示を出すと、ポチは何度も首を傾げながら、
私の所に来て再度ぺこりと一礼してから頬擦りをして、ブラッシングの続きを期待するような目で見上げてくれた。

そんなポチと私を、ちょっとムッとした表情で見つめる彼。
その姿のポチと彼の可愛いことといったら。

私はケラケラと笑い、男と仔犬たちを自分の元に呼んでからポチの髪を梳かしてあげたり、仔犬たちのブラッシングをしてあげる。
もちろん、ポチを取られたと拗ねている可愛い彼の頭も撫でてあげながら。

とても、とても楽しい1日だった。




……
………





それから、何度かお互いの休みを合わせて広場で遊んだり公園に散歩に連れていったりした。
ポチも慣れてきたのか、私の姿を見れば、自分から駆け寄って頬擦りをしてくれる。

公園に初めて散歩にいった際、赤い首輪と太いリードをつけた大型犬とその飼い主に鉢合わせたポチは、
でぎゃああああああああ!?と悲鳴を上げて腰を抜かしながらも、彼の前に仁王立ちになっていました。


彼が素早く伏せの指示を出して落ち着かせていたので、それ以上のパニックにはつながらなかったのが幸いでしたが。


大型犬の飼い主の方も、見慣れない奇妙な動物を連れている彼を見て怪訝な表情を浮かべていましたが、
連れ立っている私の姿を見かけると、満面の笑みで世間話に興じてくれました。


大型犬の飼い主は以前、犬の躾について私の所へ相談にきた人でした。
散歩の度に、飼い犬が拾い食いをしてほとほと困り果てていたらしい。
私が躾のアドバイスをして以降、うちの店を何度か利用してくれるようになったお客さんなのです。
今の大型犬の様子を見る限り、どうやら躾は成功したようで一安心です。


彼はというと、大型犬の耳の裏を優しく掻いて、早々に大型犬とも飼い主さんとも仲良くなっていた。
いや、まあ、なんといいますか。なんでそんな早く、飼い犬とまで仲良くなれるんですか…。
もしかして、この人、シートン博士の生まれ変わりなのでは…。って、シートンは博物学専攻じゃないですか(笑)


などと、私が心の中でノリツッコミをしつつ、ポチの様子を見てみれば、
ポチの方も彼の足元に寄り添いながらも、彼を不思議そうに見上げていました。


私がポチを見ている事に気付くと、ポチは私に近づいて頬擦りをしてくれて、
彼の事を指さしながら耳をピコピコと動かして、ですですぅ♪と興奮した様子で鳴いている。

ポチが何を言っているか分からないけど、不思議と何となくだけど、ポチが言いたいことが分かったような気がした。
たぶん、私と同じ気持ちになっているのだろう。そうでなかったとしても、私がそう感じたのだ。それでいいんじゃないかな?

私はポチに



「ねー♪」



と相槌を打った。



そうやって私は、徐々に徐々に、彼とポチの間に溶け込むのが当たり前の日々になっていった。
そんな折、頃合いと思ったのか彼は、私に彼と同じ方法でポチへの躾に参加してほしいと進言してくれた。
願ってもない申し出に、私は、過去のトラウマから初めは恐る恐ると、回を重ねるごとに徐々に、ポチへの躾に乗り気になっていった。

もちろん、指示の優先度は飼い主である彼の方が上だが、
ポチは私の指示にも、きちんと従ってくれている。

私達が示し合わせて、同時に指示を出すと、ポチは、どっちがどっちの指示だっけ?
とでもいうようにデェェ!?と慌てふためく姿を披露して、もう、それがおかしくって…。
私たちは互いに見つめ合って、笑いながらポチと一緒に楽しく遊んだ。

そんな日々が続いたある日。
彼から交際を申し込まれた。

照れながら俯く彼の仕草は、本当に微笑ましい。
もちろん、私は二つ返事で答えましたよ。はい。



…ごめんなさい。本当は、全然そんなクールな感じじゃなかったです。

彼から交際を申し込まれた時、もう嬉しさと恥ずかしさから、顔を真っ赤にさせてうずくまりました。
もう、嬉しくて嬉しくて、おしっこちびりそうだった。

ポチはといえば、私が彼にいじめられたと思ったのか、どうしていいか分からず、私の前に彼から庇うように立ったり、
かと思えば首を傾げて彼の元に戻ったりと、くるくると私と彼の間を、困った表情を浮かべながら動き回っていた。

何時の間にやら、ポチにとって、私はもう一人の護りたい主人と思ってもらえるようになっていたらしい。
ポチを心配させてはいけないな…と思って、私は勇気を出して顔をあげた。
うれし涙でぐちゃぐちゃになってたけど、私はたぶん、今までないくらいの笑顔で「はい!」と頷いて彼の胸に顔を埋めた。

私と彼が抱き合っているのを見て、安心したのかポチは、



でぇ〜…
でふぅ〜…



と、額に浮かんでいた汗を前脚で拭って一息つくのだった。






……
………






そんな穏やかな日が、これからもずっと続いていくと思っていたある日。
彼から切羽詰まった声色で、至急相談したい事があると電話が来た。
ポチがいつの間にか妊娠していたらしいのだ…。










つ  づ  く








{後書き}

というわけで、愛しの我が娘、女性店員さんが主人公の物語の始まりです。
設定は相変わらずの実装石が忘れ去られて久しい世界ですけどね。


申し訳ありません。彼女が男とポチの散歩訓練に付き合うに至るまでの心情変化をどうしても文に書き起こしておきたくて、
今回は、女性店員さんメインで、実装石の登場シーンの少ないスクになってしまいました。
実装スクなのに、なんという体たらく。だけど後悔はしていません(; ・`д・´)

ちゃんと次回からはポチの仔たちが、テチテチ、ぽてぽて、てちゅ〜ん、チュワ〜ン、ヂィィ!?と
可愛らしい仕草や甘い声をあげてくれるので、是非、楽しみにしていてください。


この物語は、女性店員さんのハッピーエンドが保証されています。ちゃんと男と結婚して子宝にも恵まれる未来が保証されています。
是非、安心して読んでくだされば幸いですm(__)m

ああ、でも、育ててる仔たちにはハッピーエンドの保証はありませんよ?( ゚Д゚)
なにせ飼いの上限枠は8匹まで、ポチの出産は3回と、既にある程度の未来が決まっていますので(; ・`д・´)

相変わらず、実装石に対しては愛虐の境界を渡らせたい鬼畜な作者で申し訳ないです(;^ω^)

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1 Re: Name:ジャケットの男 2017/01/29-12:55:57 No:00004045[申告]
読者の皆様を不安にさせたりお待たせしたようで申し訳ございません。
取り敢えず、其の0を再投稿します。

其の1以降は、ぼちぼち作成していきますね。
次回はシリーズ物から離れて、ちょっと観察系の短編を投稿する予定。
それでは、また次回ノシ
2 Re: Name:匿名石 2017/01/29-19:20:39 No:00004048[申告]
ムツゴ○ウがシートン動物記に変わってる(笑)
やはり女性店員さんが可愛い
ポチの仕草も微笑ましい
3 Re: Name:匿名石 2017/01/30-12:35:04 No:00004057[申告]
関連スクを改めて見るとこの短期間によくぞこれだけ書いてくださったましたなあ
4 Re: Name:匿名石 2017/02/02-19:39:35 No:00004132[申告]
虐待よりも自滅事故による哀展開を期待しちまうぜ
5 Re: Name:匿名石 2017/02/02-19:59:53 No:00004135[申告]
男に、さらに女性店員さんまで加わってる環境下で事故れるだろうか
ポチの最終回でもポチが子供助けて死んだときによりによって子供でという感じのことを言ってたということはたぶん意図しない事故での実装石死亡はないんじゃなかろうか
ルールを守れない屑は死ねってトラップを仕込んでおいて死亡ならあるかも
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