『 ポチと幸せの虹の橋 第5戒 』 俺の必死の叫び声が、ポチに届いた…。 ポチは弱々しい鳴き声をあげながらも、抱きしめていた俺に頬擦りを返してくれた。 ですぅ…ん… すまない…。 本当にすまない…。 ポチは、恐らく公園で暮らしていた時に、飼い犬にでも襲われたのだろう。 自発的なのか、たまたまなのか、自販機の下に逃げ込む事で、生き延びる事ができたといったところか。 可哀そうに…、俺が拾い上げるまで、自販機の下から出る事もできず、震えていたんだな。 俺はポチに、図らずも恐怖をフラッシュバックさせてしまったのだ。 …だが、これでは、散歩に連れていく事もできないじゃないか。 俺は、ポチの介抱をしつつ、今後の散歩の仕方について思案しながら玄関先を片付けた。 …… ……… 1ヶ月が経ち、ポチもすっかり元気になった。 いつも通りに俺の指示に従って、輪っかを追いながら室内を元気に走り回っている。 「 ポチ おすわり 」 でっすぅ〜ん! でぇ? ですです? おすわりの指示が出ると、俺が視界に入っていなくても、即座にお座りの態勢になってくれる。 俺が見えていないのが不安なのか、お座りを維持しつつ、キョロキョロと首を動かしているのは実に可愛らしい。 「 ポチ ふせ 」 でっす! ですぅ〜ですぅ〜♪ 忙しなくキョロキョロしていても、俺の声が届けば、安心して新しい指示の通りに動き、伏せの状態を保つ。 「 ポチ おいで 」 でっすぅ〜ん♪♪ でぇ?です? でっ!! ぽてぽてぽてッ でっすぅ〜ん♪ ですぅ〜♪♪ ポチはバッと立ち上がると、全周囲を見渡し、俺がどこにいるのか捜索をはじめた。 俺を発見すると、短い手足を懸命に動かしてポテポテと大急ぎで駆け寄り、足元で俺を見上げて報酬が出るのを待っている。 クリュックリュッ! 「よぉぉぉしよし! えらいぞ、ポチ!」 でっすぅ〜〜〜ん♪♪ …あれからの1ヶ月。 教え込んだ指示への抵抗は見られなかったので、報酬の出し方を変更して訓練を続けた。 連続して指示を出し、一連の指示を完遂したら報酬を得る事が出来るといった具合だ。 どのような指示でも、最終的に俺の元に戻ってこれる事、きちんと報酬が与えられる事を理解してからは、 ポチも飲み込みが早くなり、たとえ遊びに夢中でも、俺の声を常に意識して捉えてくれるようになった。 雑音やBGMを流しながら、俺の指示を聞き分ける訓練も難なくクリアしたのには、俺自身も驚いたが。 …… ……… このまま一生を室内飼いとして終わらせる事も考えたが、今やポチは60cmにまで成長している。 現在、ポチハウスは天井をくり貫いた段ボールを使って幅6個×高さ2個分の大きさに拡張しているが、 60cmの生き物が、十分に動き回れるとは言い難いスペースだ。 さすがに、この大きさの生き物が、半日以上をこのスペースに閉じ込められたままでは、 どう考えても運動不足だし、ストレスも溜まるだろう。 かと言って居間を解放するのも、女性店員さんの日誌を見る限り、非常に危険な行為だろう。 …八方塞がりだ。 今は、俺の留守中に渡す玩具として、輪っか以外に、菓子箱を加工した積み木や、 低反発の枕を加工したマットレスを、ローテーションでハウス内に入れて当座を凌いでいる。 でっす〜ん♪ ガラガラッ ポコンッ でぇ!? でぇぇぇんでぇぇぇん! すんすん… で! でぇっ♪ ポチは大喜びで与えられた積み木を積み上げていく。 与えた当初は、何も考えずに積み上げていくため、不安定になった積み木が崩れて頭上から降り注いでは泣くといった状態だった。 それでも、何度か繰り返せば、与えられた積み木を全て使って塔を作成してみたり、門を作ってみたりと、 幼稚ながらも発想遊びを延々と楽しんでいる姿も見られるようになった。 でぇ? ぽふぽふっ! ごろんっぽふっ! でぇぇぇぇ!? ですぅぅん♪ でっすぅぅぅぅん♪ マットレスは、かなり好評な様子だ。 ふにふにと触ったり、寝転がったり、ダイビングして反発を楽しんだりと、 俺が仕事から帰宅するまでの間、まったく飽きもせずに延々と感覚遊びを楽しんでいるようだ。 ローテーションで物が与えられるという事をポチが認識できたのも、恐らく一番興味を惹いたマットレスのおかげだろう。 ポチも現状の玩具には、どれも興味津々で、今のところは楽し気に遊んでいる。 マットレスも運動不足解消にはなりそうだが、それを常時与えるのは、飽きを招く恐れがあるので避けたい。 飽きては次の物を…といって別の玩具を用意し続ければ、ポチは新しい物でしか満足しなくなるだろう。 それは、ポチのためにはならないし、俺の負担にしかならない上、なにより俺が楽しくない。 飼い主とペットの健全な関係とは、果たしてどういうものなのか。 俺は、それを互いに一緒に暮らしていて楽しいと感じる事だと思っている。 いや、正確には飼い主が楽しいと感じ、ペットも嬉しそうに飼い主に反応する事、なのだが。 せっかく動物を飼っているのだ、俺はポチと一緒に散歩を楽しみたいし、 たまには壁のない場所で、思いっきりポチを走らせてやりたい。 俺は、女性店員さんから貰った名刺を取り出し、 相談に伺える日を予約した。 …… ……… 「なるほど〜。 それはまた…、難儀な事になりましたねぇ…。」 俺の話を、女性店員さんは神妙な面持ちで頷きながら聞いてくれる。 「散歩に出れば、犬と遭遇する事もあるでしょうし、他にも危険な事がいっぱいあると思います。 本当は、室内飼いだけに留めたほうがいいかもしれない。 仔の時の大きさなら、俺もそれでいいかなとは思いましたが、小型犬ほどの大きさに成長した今の姿を見ていると、 俺としても、せっかくなのでポチと一緒に散歩を楽しみたいなぁ…と思いまして。」 「う〜ん…。 まず、ネックは犬ですよねぇ。この辺りにお住まいの方、割と犬を飼ってる家庭が多いんですよ。 よくうちをご利用してくださいますからねぇ。 犬自体への恐怖も近いうちに克服させておかないと、外に出る度に失禁する事になると思いますよ。 あとは、首輪とリードがダメとなると、散歩に使うならハーネスあたりですかねー? …ああ、運動不足解消なら、当店の裏庭にドッグラン用の広場がありますよ♪ 今の時期、誰も使用していないので、仔犬たちの遊び場として利用してるんですよ。 当面はうちに連れてきて、仔犬とでも一緒に遊ばせて、犬に慣れさせつつ、運動不足も解消させる…なんてどうですか? もちろん、何かあれば責任問題になるので、私がいる時だけって事になりますが…。」 女性店員さんが、唸りながら意見を提案してくれる。 本当に、この人は生真面目で優しい人だな…。 お世話になってばかりだし、何か御礼をすべきだろうか。 「おーい?聞いてますかー? それとも哺乳類諦めて、私と卵生生物の世界に行きますかー?」 女性店員さんの深淵の目に覗き込まれながら、 強制的に俺の意識は現実に引き戻される。 「って、卵生生物の世界て何さ!? …あー、ごめんなさい、貴女にお世話になってばかりで、申し訳ないな、何か御礼すべきかなぁと思ってて。」 「あはは、気にしないでくださいな。ちゃんとうちでお買い物していってくださってますからねぇ。 顧客確保のためですよ、うふふ♪ まあ、どうしても、というなら、今度デートに誘ってください、ふふ。」 「マジですか!?」 「冗談です♪」 「…orz」 「まあ、それも冗談ですけど、うふふ♪ さてさて、じゃあ、私の勤務表を渡すので、私が休みの日で、そちらも都合が良い日の朝にでも電話ください♪ 店長に相談して、広場を使えるようにしておきますので♪」 「わかりました、あ、じゃあ移動用に何かカゴでも買った方がいいですかね?」 「あー、じゃあ、この辺りのキャリーバッグなんてどうでしょう? 安いですし、メッシュ部分にカバーも装着できるので、普通のキャリーバッグとしても使えますよ?」 「じゃあ、それ買っていきます。今日は相談に乗って頂き、ありがとうございました!」 「いえいえ♪ 私もポチに会えるのが、今から楽しみです♪」 女性店員さんの朗らかな笑顔に見送られて、俺は自宅への帰路につく。 (ん?ポチと合うのが楽しみ?) 家路を急ぐ途中、女性店員さんの口から、意外な言葉が出た事を後になって気付いた。 …… ……… 出かける前に、もう一つクリアしなければならないポイントがあった。 玄関前の姿見に反応したように、俺と自分以外の存在への恐怖だ。 今までポチの世界は、俺と俺が与える物と自分だけだった。 それが散歩に連れて行こうとしたあの日、 勘違いとはいえ、はじめて自分と俺以外の動く生き物を目にして興奮した。 興奮により自制が効かなくなれば、俺の指示も入りにくくなるのは自明の理だろう。 あの日も、激しい興奮状態になければ、死にかける事はなかったかもしれない。 …本来なら、犬と同じように、仔のうちに別の仔と遊ばせて社会性を学ばせておくべきだったのだろうが、 ポチ以外の実装石と触れ合える環境は、俺の知り得る限りは存在しない。 いや、存在したとして、あの日誌に記録されていた特性を考えれば、それすらも危険行為なのかもしれない。 今のままではポチは部屋から出る事すらままならないだろう。 部屋飼いのみで一生を終わらせるなら、それでもいい。 だが、そんな鬱屈したままの臆病なポチを飼っていて楽しいだろうか? 俺は楽しくない。ポチには俺が楽しいと思うものに共感できるようになってほしい。 それには何としても、この課題をクリアしなくてはならないのだ。 (さて…、ポチにどうやって社会性を学ばせるか。 んー、まずはやっぱり自他の認識からかなぁ。) 俺は、置き鏡、懐かしのフラワーロック、手作り人形キット、小型犬用のハーネス、散歩用ソックスを購入した。 手作り人形キットを使って、仔の時のポチの姿を思い出しながら仔実装石の人形を作成する。脚の裏には重し代わりの滑車をつけておく。 それに首輪とリードをつけてフラワーロックの葉っぱに結ぶ。これで実装石を散歩させている他人を演出するつもりだ。 呼びかけに反応してフラワーロックが動き回れば、仔人形と散歩しているように見えるだろう。 またポチが怖がらないために、ポチ用の散歩装束を整える必要があった。 首輪とリードのままでは、きっと恐怖に委縮したままになるだろう。それでは散歩を楽しめない。 俺の古着を継ぎ接ぎ、ポチの体形に合うように仕立て直してつなぎ着を作成する。それにハーネスを縫いつけた。 即席だが、これで首輪の代わりに散歩の合図になるお出かけ着の出来上がりだ。 あとは、犬用の太いリードはポチが怖がるので、代用になる物がなにかないだろうか…。 ああ、あれがいいかな? 俺は、昔磯釣りに嵌っていた時に好んで使用していたサルカンとテグスにリールをクローゼットの奥から取り出した。 これをリード代わりに使用する事としよう。 長い事使っていなかったリールに油をさしてテグスを取り付けて錆びついていないかチェックする。 綺麗に回ってくれるのを確認した後、ポチとの散歩に丁度よい長さまでテグスを調整し、テグスの先端にサルカンを取り付ける。 もちろんテグスとサルカンの結び方は石鯛結びだ。 あとはサルカンに釣り糸代わりに何かのおまけでもらったキーホルダーのフックを取り付けた。 ハーネスにフックを取り付けて強度確認をする。ギチッ!と厚手の布を引っ張っているような抵抗感。うん、頑丈だな。 これでちょっとした遊びにも使えるポチの散歩用リードも完成だ。 …… ……… まずは自己の認識をはっきりさせよう。 俺は、置き鏡を使ってポチの認識強化を図りつつ、徐々に散歩に馴らせていく事にした。 「 ポチ おいで 」 でっすぅ〜♪ 「 ポチ おすわり 」 でぇすっ! ゴトッ ポチの目の前に置き鏡を設置する。 でっ!? ふしゃぁぁぁあッ!! 「 ポチ おすわり 」 ふぅぅぅっ! で?ですぅ? ですぅん! 置き鏡に映る自分の姿を見ると同時に、ポチは即座にお座りを止めて俺と鏡の間に飛び出て威嚇をはじめる。 やはり、俺と自分以外を脅威と認識して、脅威から俺を守ろうとしてくれているようだ。 エスカレートする前に、俺がポチの名前を呼び再度お座りを促すと、ポチは威嚇を止めて俺の顔を見上げながらお座りした。 (ポチ、守ろうとしてくれてありがとうな。 でも、お前の意気込みは買うが、護るのは飼い主の俺であって、お前じゃあないんだよ。) 呆けて俺を見上げているポチの後ろに座り、後ろからポチを片手で抱き上げる。 その状態で俺は、空いているもう一方の手を使ってポチに視線誘導しながら自分の手を鏡にぺたぺたと張り付けた。 ポチは、鏡に映る抱えられている自分と、俺の手の動きを不思議そうに見ていた。 …でぇ? ですぅ?? ぽふぽふぽふ でぇ!でぇ! でぇ〜すっ♪ でっすん♪でっすん♪ でっすん♪でっすん♪ 俺はポチを床に下ろして、ポチの後ろから前脚を取り、直接、鏡にぽふぽふと触らせてみる。 自分の動きに合わせて、目の前の生き物が動くのが楽しいのか、次第に興が乗り始めたようで、 腰を左右に前脚を上下に振り続けるダンスを久しぶりに披露して、上機嫌に鏡を使った遊びをはじめる。 「 ポチ ふせ 」 で! でっすん! ごろんっ ポチは伏せの合図を聞くと、鏡の前で夢中になって踊っていたダンスを即座に切り上げて、地面に寝転ぶ。 俺は、寝転んだポチに、サッと出掛け着を着せて立たせた。 でっ!? スンスン! でっすぅぅぅぅんん♪♪ 出掛け着を纏った自分の姿を鏡で見て、出掛け着の匂いを嗅いだ後、ポチは上機嫌に頬をほころばせて嬌声をあげる。 どうやら、普段着をもらったものと勘違いしてそうなので、さっさと次の指示を出す事にした。 「 ポチ さんぽ 」 で…? でぇぇ……。 でっすん…。 ポチは、この格好が散歩の合図だという事を直ぐに理解したようだ。 だが、反応がすこぶる悪い。 まあ、それもそうか。 ポチにとって、今まで散歩はエサを拾い食いしては腹を下して苦しい思いをしたり、 更には幼き日のトラウマと対峙してしまった辛い経験のリプレイでしかないのだから。 なので、今日の散歩はポチが楽しめる事を優先するつもりだ。 今回の散歩では、居間のあちこちに段ボールで作成した遊具を配置しておきアスレチックコースにしておいたのだ。 楽しんでくれるといいのだが。 俺はポチを抱えて、居間のバリケードを越える。 バリケードを越えた後、ポチに犬の散歩用ソックスを履かせてやった。 でぇぇぇぇ!? でぇぇぇぇすぅぅぅん!!!!! でっすんでっすん! でっすんでっすん! ポチはソックスを履いた途端、憂鬱な表情を吹き飛ばして、上機嫌に吠えてダンスを始めた。 やはり靴があると嬉しいのか。 犬のつもりで世話していたので、素足という事にまったく抵抗がなかったのだが、 よくよく思い出してみたら、野良の実装石は靴を履いていたもんな。 「 ポチ さんぽ 」 でぇ〜〜?? でぇ!ですぅですぅ♪ 俺はポチに自作リードの先端にあるフックをぶらぶらと揺らしながら再度の散歩の指示を出す。 ポチはぶらぶらと揺れているフックに興味深々で何かの遊びと思ったのか、 ぶら下がるフックを前脚で掴もうとトテトテと足踏みしながらフックを追いかける。 猫のような仕草で可愛らしいな。 俺はそのままポチの出掛け着に編み込んでいるハーネスへ自作リードのフックを取りつけて、 居間を一周するジェスチャーと指示を与える。 ポチも早々とフックへの追いかけっこを切り上げて、俺の後ろをつかず離れずついてきた。 しばらく居間を壁沿いに歩いていくと、小さな箱を階段状に積み上げた物が見えてくる。 俺は、それの手前でポチにつないでいたリードのフックを取り外して、階段を一跨ぎに飛び越して振り向く。 で!? ですぅぅ? ポチは、俺に置いて行かれた事と思ったのか階段の手前で立ちすくみ、途方に暮れた表情で俺の動作を見つめていた。 今まで見た事のない物に怯えているのだろう。 俺は、ポチにまっすぐ上ってくるように指でジェスチャーする。 でぇぇぇ… でっすでっす ポチは、階段を恐る恐る登っていく。 ポチの歩幅に合わせて階段を作成したので、それほど大変ではないはずなんだがなぁ。 でぇぇ!? でっす〜〜〜ん!? 階段を登り切ったポチは、滑り台になっている斜面を見て、更に立ち竦む。 「 ポチ おいで 」 俺は、斜面の手前で固まっているポチが勇気を出して降りてこれるよう、 滑り台の下で手を広げて、優しく呼びかけた。 で…でっすぅぅん! ポチも、俺が受け止めてくれると信頼しているのか、 そろりそろりとだが、斜面に足を下して体重を寄せる。 シュルルルルッ! でぎゃぎゃ!!?でぎゃああぁああ!?? ポチは滑稽な叫び声をあげながら、滑り台を滑空した。 滑り切ったところを、俺がタイミング良く抱き上げてやる。 でぇぇぇえ! でっすぅぅぅぅん♪でっすぅううううん♪ ポチは俺に抱えられながら、耳をピコピコと動かし、鼻をピスピスと広げて大興奮のご様子だ。 俺はクリッカーを鳴らしながらポチを撫でて地面に降ろすと、リードフックをつけ直して更に歩を進めた。 ポチも興奮醒め止まない様だが、どうやらご満悦のようで楽し気に鼻歌を歌いながら、俺の後を追ってくる。 次にたどり着いたのは蓋を開けた状態で放置されているキャリーバッグだ。 で?でで? ですぅ〜ん? ポチは、これは何だろう?とでもいうようにキャリーバッグの周りをくるくると回る。 俺はポチのリードを外して、ポチに中に入るようジェスチャーした。 でっす! ポチは元気よく頷いてキャリーバッグの中に入る。 俺は、キャリーバッグの取っ手にフックを取り付けると、ポチを置いてスタスタと遠くに離れた。 でぇぇぇ!?でぎゃぁああああ!!! でぇぇぇすぅぅ!!!!!!! ポチはどうやら捨てられると勘違いしたのか、 悲鳴をあげながら必死になってキャリーバッグを跨いで俺に着いてこようとした。 「 ポチ まて 」 で!? ですぅ… ポチは俺の指示を聞くとピタリと止まって、キャリーバッグの中に立ち尽くす。 目には涙を浮かべながらも、俺の次の指示が来るのを懇願するように見つめ続けていた。 俺はポチのいじらしい姿に身悶えしつつ、リールを巻く。 しゅるるるるる〜! ででっ!? でっすぅぅぅん!?でっすぅぅぅん♪ テグスがリールに巻き取られていくのにつられて、 フックを取り付けたキャリーバッグはポチを乗せたままスルスルと俺に引き寄せられるように動く。 ポチは自分も俺も動いていないのに、互いの距離が近づいた事に心底驚いた表情を浮かべながら 目をキラキラさせてキャッキャッと嬌声をあげている。 でっすぅぅん!でぇすですっ! ですぅ〜♪ ポチは捨てられると勘違いしていた記憶すら吹き飛んだのか キャリーバッグに乗ったまま、俺を見上げながら次の催促をするようにキャリーバッグの側面をぽふぽふと叩き始める。 「 ポチ おいで 」 でぇ…? ですぅーん… ポチは残念そうに呟きながらも、キャリーバッグから降りて俺の元へ駆け寄った。 そんなポチをクリッカーを鳴らして褒めつつ、俺はジェスチャーでキャリーバッグを元あった位置に戻してくるように指示する。 でぇ? でっすん? ポチは顔に疑問符を浮かべながらもキャリーバッグをずるずると引きずって、元あった位置に運んだ。 ポチの行動を褒めつつ、俺は再度ジェスチャーでポチにキャリーバッグに乗るよう促す。 でぇぇ!! でっすぅ〜ん♪ しゅるるるるる〜 でっすぅぅぅ〜〜〜〜〜ん♪ でっすん♪でっすん♪ でっすん♪でっすん♪ ポチは満足気な表情を浮かべて嬌声をあげつつダンスを踊る。 そんなやり取りを3回ほど続けると、ポチは俺が指示を出す前に 自発的にキャリーバッグを元の位置に片付けて自主待機するようになった。 俺はポチの行動を内心褒めつつ、キャリーバッグからフックを取り外す。 「 ポチ おしまい ポチ おいで 」 でぇ…? でぇぇ……でっすぅ〜ん… ポチは残念そうに肩を落として空気が抜けるような鳴き声を出しつつも 俺の元にむかってぽてぽてと歩み寄った。 残念そうなポチの目の前に、お気に入りの段ボールの輪っかをぶらつかせてやると 途端にポチの目が燦々と輝く。 俺は輪っかをリードフックに取り付けて、ぽいっと遠くへ投げ飛ばす。 でっすぅ〜〜ん♪ ポチは楽し気にぽてぽてと輪っかを追いかけたが、ここからはちょっといつもとは違う遊びだ。 俺はポチが輪っかに前脚をかけようとした瞬間、ちょっとだけリールを巻く。 するるっ でっ!? でっすぅっ!! ポチは驚きの声をあげつつ、動いた輪っかを何とか捉えようと追いすがる。 またちょっとリールを巻く。 でぎゃっ!? ですぅ〜ん?です!でっすぅぅ〜ん! ポチは動き回る輪っかにむかって不敵に微笑むと、四つん這いになって尻を振り、勢いをつけて飛びかかろうとした。 もちろん、俺も勢いよくリールを巻いた。 でぎゃああああ!? ポチは悔しいのか地団太を踏むが、諦めずに何度も輪っかに飛びついて食らいつくことができた。 嬉しそうに輪っかを抱きしめるポチごとズルズルと床を滑らせ、俺はリールを巻いて手繰り寄せる。 ポチも輪っかの動きと俺を関連付ける事ができたのか、この遊びにご満悦で嬌声をあげつつ俺の足元に頬擦りをしてくれた。 こんな感じで最初の散歩のスタート地点までポチ釣りを楽しみながら動き回った。 この日は、俺もポチもくたくたになるまで、同じコースを何度もぐるぐると歩きまり続けたのだった。 …… ……… 次の散歩の日、俺は再び置き鏡をポチの前に置いて散歩の身支度をさせる。 ポチも鏡と自分の姿に慣れてきたのか、キャッキャッと笑いながら鏡の前で動き回って楽しそうにはしゃぐ。 ですぅ〜ん♪ですぅ〜ん♪ 先日の散歩を思い出しているのか、ポチは既に目をキラキラとさせて俺に擦り寄って甘えた声を出していた。 だが、今日の散歩はちょっとポチの恐怖を煽ることになるだろう。 先日同様のアスレチックを設置しているのだが、今回は道中にフラワーロックと仔実装人形を配置しているのだ。 きっとポチは物珍しさから近づくか、恐怖から大声をあげるかのどちらかの反応を示すはず。 フラワーロックは傍で音がすると反応して動き出す。 その動きに連動してリードを取り付けた仔実装人形も滑車を滑らせて動き回る姿を再現するという仕組みだ。 威嚇が始まったらすぐにお座りや伏せで行動切り替えを促していくつもりだ。 ポチにとっては怖い思いをするだろうが、こればかりは慣れてもらうしかない。 でっぎゃああ!? 散歩を開始して早々、ポチはリードを取り付けられた仔実装とフラワーロックの姿を見つけると驚きの悲鳴をあげた。 その悲鳴に反応してフラワーロックが揺れて、仔実装人形も上下左右に暴れまわるのだからそりゃ怖いだろう。 ふうぅぅぅぅっ!!! ポチは腰を抜かしつつも俺の後ろではなく、俺の前に這いずりながらフラワーロックと仔実装へ威嚇した。 その姿は、まさに忠犬のそれだろう。 「 ポチ ふせ 」 俺はポチを撫でつつ、伏せの指示を出す。 ポチは不安そうに俺を見上げつつも、大人しく伏せをして待機してくれた。 ポチを安心させるように優しく顎を撫でた後、 俺はフラワーロックに「こんにちは!」といいながら近寄ってスイッチをOFFにする。 その後は何事もなかったようにフラワーロックから離れてポチとの散歩に戻った。 デー? ポチは俺の後をぽてぽてと着いてきているが、 動きを止めたフラワーロックと仔実装人形を何度も振り返って見つめていた。 アスレチックを楽しんでいる間、ポチはそれらの事が記憶からすっぽりと抜けていたが、 2周目に突入して再度フラワーロックと対峙すると思い出したように悲鳴を上げる。 だが、今回はフラワーロックのスイッチがオフになったままなのでフラワーロックも仔人形も静かなままだ。 でしゃぁぁぁぁ!? で? でー?ですぅー? ポチは仔人形に近づくと、何やら話しかけ始めた。 俺は素早くフラワーロックのスイッチを押す。 途端に暴れ出すフラワーロックと仔人形に驚いて、 ポチは腰を抜かしながら俺の足元に戻ってきた。 俺が再び「こんにちは!」と会釈をしながらフラワーロックに近づいてスイッチをオフにする。 ポチは自分が近づいた時の違いと、俺が近づいた時に違いについて不思議そうに首をひねっていた。 どうやら好奇心の方が恐怖心に打ち勝ちつつあるようだった。 俺は、その日から仕事休みの日には毎日散歩を続けて、 フラワーロックを配置する日、しない日をランダムに繰り返してポチを馴らせていった。 ここまできたら、大丈夫かな? 俺は女性店員さんの勤務表を見ながら、自分の勤務と照らし合わせて、 都合の良い日を伝えるために女性店員さんへ連絡した。 …… ……… その日はポチとの散歩に出かける合図をした後、 キャリーバッグの中へポチを誘導して待ての指示を出した。 キャリーバッグを抱えて、ペットショップに訪れて女性店員さんの元へ向かう。 だが女性店員さんはいつもの場所にいなかったので、代わりにその場にいた店長に女性店員さんの事を尋ねる事にした。 「おお、君が噂の青年か!本当にありがとう! 僕もあの娘の事が長年の気がかりだったんだよ。あの娘がああなってしまったのは僕のせいみたいなもんだからね。 でも君と出会ってから、以前のように笑うようになったんだよ!本当に、本当にありがとうな! …で、君たち結婚はいつ?心底お祝いしたいんだけど、あの娘に家庭に入れ!とか結婚退職しろ!とか絶対言わないでね? あの娘に辞められたらうちやばいんだよね…、鳥類爬虫類の販売が黒字なのはあの娘のおかげだからさ…。本当に店が潰れちゃう…。」 俺は顔を真っ赤にして声を裏返しながら否定しつつ、店長に広場へと案内してもらった。 どうやら女性店員さんは職場の仲間や上司に恵まれているようで、少し安心した。 広場につくと店長さんは「邪魔しちゃ悪いから」と足早に立ち去る。 女性店員さんは………いた。 仔犬と遊びながら楽し気に笑っているじゃないか。 俺がその光景を呆然と立ち尽くして眺めていると、俺に気付いた女性店員さんの方から笑顔で近づいてきてくれた。 「こんにちはっ♪ やー、哺乳類と遊ぶのも、たまにはいいですねぇ!」 「あ、はい。今日はありがとうございます。休日にわざわざすみません…。」 「そんな遠慮しないでください、私も楽しくてやってるんですから♪ さあさ、早くポチちゃんを広場に出してみてくださいよ〜っ♪」 笑顔の女性店員さんに促されつつ、俺はキャリーバッグのチャックを開けた。 ポチがお座りしたままの姿勢でいる。 俺がキャリーバッグの中を覗くと、待ち侘びたように嬌声をあげて万歳をした。 「 ポチ おいで 」 でぇ!でっすぅ〜ん♪ でっ!?でぇぇ!? 俺はポチに指示を与えると、いそいそとバッグから出てきて俺の足元に擦り寄る。 その後、いつもと違う周囲の様子に驚きの声をあげた。 女性店員さんや仔犬を見て、おっかなびっくりのポチだったが 女性店員さんの匂いを嗅ぎ、俺と女性店員さんの間を行き来しては何度も首を傾げていた。 しばらくの間は、俺の周りでうろちょろするだけだったが、 好奇心に負けたのか、何度か仔犬に近づき、撫でてみたり、頬擦りをしてみたりを始めた。 仔犬たちも害意がない事を理解したのか、次第にお互いに追いかけっこをして遊ぶようになる。 転げまわりながらキャッキャッと遊ぶ姿は、実に微笑ましいものだ。 女性店員さんの事も、最初は警戒していたが 優しく抱き上げながら撫でてもらったり、綺麗に髪を梳かしてもらったら途端に店員さんに靡いた。 ちょっとくやしかったので、髪を梳かしてもらっている最中に何度かポチを呼ぶ。 うっとりしていたポチは、俺の指示を聞くとその度にデデデ!?とわたわたと慌てふためいて俺の元へ駆け寄ってくるのだった。 女性店員さんも、俺とポチのやりとりを見てケラケラと笑い、ポチの髪を梳かしながら俺の頭を撫でる。 むう。 …… ……… それから、何度かお互いの休みを合わせて広場で遊んだり公園に散歩に連れていったりした。 ポチも慣れてきたのか、女性店員さんの姿を見れば、自分から駆け寄って頬擦りをはじめた。 その様子を見て、頃合いと思った俺は、女性店員さんに俺と同じ方法でポチへの行動強化を実践するよう進言した。 女性店員さんも、はじめは恐る恐るとだったが回を重ねるごとにポチへの躾に乗り気になってくれた。 指示の優先度は俺の方が上だが、 ポチも、女性店員さんの指示にきちんと従えている。 二人から同時に指示を出されると、どっちがどっちの指示だっけ? とでもいうようにデェェ!?と慌てふためく姿がおかしくって、俺たちは互いに見つめ合って笑いながらポチと一緒に楽しく遊んだ。 …… ……… そんな穏やかな日が、これからもずっと続いていくのだろうと思っていた時。 ポチがいつの間にか妊娠していた。 ポチも自分の状態が分からず、デー?と首を傾げながら腹をさすっている。 まさかとは思うが、春先に散歩したことが問題だったのだろうか。 散歩中は特に変化はなかったが、自宅に戻ってから俺は自分のジャケットを脱ぎ、 ポチの出掛け着を脱がせてから、ポチにハウスを命じた後、俺は食事の用意をしていた。 そのわずかな間に、ポチは目が緑に染まり、徐々に腹が膨れた状態になってきたのだ。 そういえば、実装石は花粉でも妊娠すると日誌に記載があったが。 まあ、今更、妊娠した経緯について原因を探ってもどうしようもない。 差し当たっての問題は、生まれてくる仔についてだ。 女性店員さんに相談すると、彼女も浮かない顔をする。 仔の育成の難しさを痛感している彼女の事だ。 生まれた後の事を考えると、気が重いのだろう。 俺たちは何度も真剣に議論を重ねた。 右目を赤色に染めて堕胎する事も考えた。 だがポチが腹を撫でながら でしぃ〜♪ ですぅ〜♪ でしゃ〜ん、ですでぇ〜す〜♪ でってでろで〜♪ でっでろす〜♪ でっでろし〜♪ でっでろしゃ〜♪ でっでろしぃ〜♪ でっでろで〜♪ ですん? と胎教の歌を謳うようになってから、ポチの仔も飼育する事を心に決めた。 俺たちは、出産前日まで何度も多頭飼いのシミュレーションをした。 結論として、まず仔は生まれた端から全て俺たちが取り上げていく事。何匹出産しようとも飼育するのは8匹まで。 初乳から一次成長の間までつきっきりで飼育すること。これによって俺たちを保護者と刷り込ませること。 また、仔に多頭飼いの認識を与えながら、保護者である俺たちの介入がない限り、 お互いに一切の干渉をさせないような飼育スペースを作成する事を考え付いた。 仔の飼育スペースには _ _ _ ①|②|③| _ _ _ ⑧|⑨|④| _ _ _ ⑦|⑥|⑤| のような仕切りのある小部屋を作り、壁には互いに声が届かないようコルク板を用いた防音壁として設置し、 相互にお互いを確認し合えないよう厚めのプラスチックを窓にマジックミラーフィルムを貼る。 ①の部屋からは②の部屋を見る事はできるが⑧の部屋は見えない。 ②の部屋からは①は見えないが③が見える。③は④が見えて、④は⑤が…という感じだ この部屋に仔を1石ずつ振り分けて入れて飼育するが、ローテーションで仔を①〜⑧と⑨の部屋で入れ替えさせていく。 給餌は①〜⑧、⑨といった部屋の順番で行う。⑨だけが全周囲の部屋の様子を見ることができる。 これによって自分だけが一番といった優越感を与えず、かつ自分が一番最後という劣等感も与えない。 双方向のコミュニケーションは取れないが、周囲に同族がいる事で安心感を与える。 部屋には小さなスポンジボールを1つだけ遊び道具として入れる。 躾の際には①の部屋の仔から順番に。 ポチには、仔が十分に育ってから社会性を学ばせるための遊び相手としてだけ接触させること。 糞蟲性をもった仔は見つけ次第、即座に処分する事。他にも細々としたプランを練って出産に挑んだ。 間幕 …あれから5年後。 俺の行った仔の仕分けは功を奏して、糞蟲化させない仔実装の多頭飼育の方法も確立する事ができた。 ポチも3度の妊娠を経験し、出産の度に手渡される仔の頭数の少なさに疑問を持つようにもなっていたが、 俺に全幅の信頼を寄せており、俺から都度に手渡された仔の保育にのみ専念して、俺の指示通りの育児を行えていた。 その後も、特に糞蟲化するような事もなく、無事に躾を身につけた善良な仔達と共に飼い続ける事ができた。 驚いたことに仔のうち数匹は犬のように毛むくじゃらの仔だった。 その毛むくじゃらの仔達は、他の仔に比べても特に躾の入りが良く、俺は殊更にその仔達を可愛がった。 仔達の具体的な仕分けや飼養・保育に関しては、俺とポチの物語の外の話になってしまうので、 この場で詳しく語る事はやめておこう…。 ポチの3度目の出産と保育が終わった頃、俺は女性店員さんと結婚した。 早々に子宝にも恵まれたのは嬉しかったが、新しい家族である我が子とポチの関係性をどうしようかと 思い悩んでいたが、ポチは早々に俺たちの子どもを自身の家族と認識して育児に参加してくれるようになっていた。 子どもは、すくすくと成長しハイハイができるようになると色んな処へ移動するようになる。 俺たちは子どもの成長が嬉しくて、嬉しくて、ポチと仔達の時にはきちんと気をつけていた事を失念していた…。 それは、ある晴れた日の午後だった。 洗濯のために開け放たれた庭に続くベランダの窓。 庭先で洗濯物を干している母を見つけるハイハイができるようになったばかりの子ども。 俺は居間で仔たちの調教をして子どものことを彼女に任せきりだった。 どうなるかなんて誰でもわかる。俺でもわかる。彼女もわかっていた。 幸せに包まれていた俺たちは浮かれていたのだ…。 だが! 彼女の洗濯物を手伝っていたポチだけが異変に気付いた。 誰よりも先にポチは子どもの危機に気付き、大慌てで、必死にぽてぽてと窓の下に仰向けにスライディングして駆けつけたのだ! ベランダから転落する子を柔らかい腹部でしっかりと受け止める! ああ、そうだ! 間に合ったのだ! ポチは、自分自身をクッションにして転落した我が子を助けてくれたのだ。 ポチは…、それはそれは、大事そうにしっかりと子どもを抱きしめていた。 彼女がその事態に気づき、地面に倒れているポチと子をしっかりと抱き上げながらわんわんと泣く。 子は何が起きたのか分からずわんわんと大声で泣いていた。 俺はその泣き声で、初めてその一連の出来事に気付いたのだ。 本当に自分が不甲斐ない。我が子の危機にすら気付いていなかったなんて。 俺は子を身を挺して救ってくれたポチに礼を言おうと、泣きじゃくる彼女からポチを受け取った。 …ああ、そうか。 彼女がなぜ泣いていたのか、単に自分の不注意を嘆いていただけじゃなかったのだ…。 子の無事を知って感極まっていただけじゃなかったのだ…。 ……ポチは、子どもを受け止める際、 腹部にあった偽石を運悪く破損してしまったようだ…。 ……彼女から引き上げたポチの瞳は………白く濁っていた………。 ……だが、なぜだろうか。 …ポチは…とても…、それはそれは…、とても、とても…幸せそうに微笑んでいるようにみえた…。 【 エ ピ ロ ー グ 】 私は再びそこに来ることができた。 遠いあの日。私が死にかけた日。 ワンワンと叫ぶ、怖いけど怖くない、やさしいあの人が教えてくれた虹の橋のたもとという場所。 あの人に認めてもらえたから、私はおおきなママの元に帰ることができた。 こんな醜いバケモノの私なのに、あの人は認めてくれたんだ。 おおきなママはご主人様という人だという事を教えてくれた。 私の…、ううん、私たちの家臣としての心得も教えてくれた。 私は遠くに見える虹の橋を見つめながら、胸を張って歩く。 あの人は、まだここで誰かを待っているのだろうか? 呼べば出てきてくれるだろうか? ああ、でも、そういえば。 あの時、私はあの人の名前を聞きそびれてしまったのだ。 でも、あの人のことだ。 きっと、危なっかしい私を見ていてくれていることだろう。 ねえ、聞いて。 どこかにいるはずのやさしいあなた。 私ちゃんと守れたんだよ! おおきなママを守れたよ! ママの仔を守れたんだよ! 私みたいなバケモノでも! 護ることができたんだよ! 私もあなたと同じになれたんだ! 強いあなたと同じになれたんだ! やっと自分に誇りをもって歩けるよ! 私はちゃんと役に立てたんだ!恩返しできたんだ! 私がそう叫ぶと、遠くで遊んでいた怖いけど怖くないわんわんと喋ってる人たちの輪から 大きな黒い影がひとつ離れて私の元に駆け寄ってきた。 「…ようチビ。久々だな。元気にしていたか? というのも何か変だな、ちゃんとご主人様の元に戻って家臣の心得を護れていたみたいだな?」 やさしいあの人は牙を剥き出しにして苦笑いをしてくれる。 私もぎこちなくだけど、にっと歯をむいてわらってみせた。 私、ちゃんとおおきなママ…じゃないや、ご主人様を守れたんだよ。 だから、私もここであなたと一緒にご主人様を待ってもいいかな? 「ああ、お前はちゃんと主人への忠義を果たせた。 こんなに小さいのに本当に大した奴だよ。」 やさしい人はフワフワのしっぽを振りながら私の頬を舐めてくれた。 私も頬擦りで嬉しい気持ちを伝えた。 ねえ、やさしいあなた。あの時はちゃんとお名前聞けなかったよね?ごめんね? 私はポチ、おおきなママ…じゃなくてご主人様につけてもらったの。とっても素敵なお名前でしょ? ねえ、毛むくじゃらだけどバケモノじゃない、とってもやさしいあなた。あなたの、おなまえは? 「ああ。俺の名前も… 涼やかな風が吹き抜け、どこから連れてこられたのか無数の花びらが空に舞った。 その音にかき消されて、あの人の声は届かなかったが何といったのかは分かった。 私は、きっと今までにないくらい顔をほころばせていたことだろう。 それから綺麗な虹の橋のたもとで、私とポチは楽し気に遊び回った。 いつか来るだろう、おおきなママを待ちながら、いつまでも、いつまでも幸せに…。 お し ま い {後書き} 「流行り廃りのその跡に」「ポチと幸せの虹の橋」 この両作品を虹の橋のたもとにいる我が愛しきペット達に捧げる。 ここまでお付き合い頂けました、読者の皆様方。 本当にありがとうございましたm(__)m それでは、またノシ 2017.1.23修正 読者の皆様、コメントありがとうございました。 ひとまずは男とポチの物語は一つの区切りをつけたいと思います。 >コメントを頂けた皆様へ。 ポチの冥福を祈って頂ける方が多く、とても暖かい気持ちになりました。 これだけの人に愛してもらえ、ポチも草葉の陰で喜んでいることでしょう。 ありがとうございますm(__)m 生き物を飼うという事は、楽しい事と辛い事と嬉しい事と面倒な事の繰り返しだと思います。 報われる事もあれば救われない事だってあると思います。 ですが、男とポチが過ごした日々は間違いなく報われていたはずです。 読者の皆様のおかげで、ポチを無事に虹の橋のたもとに送り出せました。 ご愛読頂き、本当にありがとうございましたm(__)m 仔犬たちとの戯れについては、すみません。 単純に虹の橋のたもとの様子はきっとこんな感じだろうなと描写したく筆を走らせたので、あまり深く考えていません。 ひとつだけ当世界の種明かしを。環境省は実装石を特定動物としては扱っていません。 特定動物として扱われたら、女性店員さんは必ず把握するので、 さすがに男がペットショップに相談に行った際、ストップかけることになったでしょう。 他の点につきましては、物語のフレーバーとして詳細描写はしないままが良いかな、と思って敢えてぼかしております。 実装石が忘れ去られた世界、実装を飼っている者と世間との対立や確執、獣装石への男の贔屓目、仔の取捨選択について…etc 次回作を女性店員さんに主人公交代して書き綴って行こうかと思っていたのですが、 やはり蛇足な気がしてきたので、何かしら続編への期待を残して話を畳むのも悪くはないかも、と。 一度ポチから離れて別作品を書いていきたいと思います。 それでは、皆様。 最後までお付き合い頂き、ありがとうございました! いずれまた、どこかでノシ

| 1 Re: Name:匿名石 2017/01/20-07:43:05 No:00003943[申告] |
| 乙です
ポチ… |
| 2 Re: Name:匿名石 2017/01/20-08:16:55 No:00003944[申告] |
| 作者様の過去からしてポチはこうなる運命だったか
今はお休み、ポチ |
| 3 Re: Name:匿名石 2017/01/20-15:22:36 No:00003950[申告] |
| こんな飼い実装が本当にいたら楽しそうと思える好感度の高いポチだった。
人命救助まで果たすとは凄い漢だぜ。 暫し読後の余韻に浸るとするかな、乙でした! |
| 4 Re: Name:匿名石 2017/01/20-16:23:43 No:00003951[申告] |
| 平屋なのか3階建なのか分からんけど
⑨の部屋、八角形にしないと 全部屋見えなくないか? |
| 5 Re: Name:匿名石 2017/01/20-18:01:27 No:00003952[申告] |
| ポチお疲れ様でした
とても素晴らしい作品でした それと男と女性店員さんお幸せに… |
| 6 Re: Name:匿名石 2017/01/20-19:46:59 No:00003953[申告] |
| 主人公の忍耐力が素晴らしいな。
生き物を飼うってことを安易に考えてるヤツらに見習わせたいわ。 |
| 7 Re: Name:匿名石 2017/01/20-19:47:10 No:00003954[申告] |
| ポチよ、やすらかに |
| 8 Re: Name:匿名石 2017/01/21-09:07:57 No:00003958[申告] |
| 素晴らしい作品でした
大きくなってからかわいいポチに最後まで夢中になって読みました 作者さん独自のよく考えられた躾方法にもとても感心しました 途中、いろんなことがありましたが、この素晴らしい作品を完結させてくれてありがとうございます 最後は虹の麓へと言ってしまったポチでしたが、きっと彼女も幸せだったと思います そしてポチをこれだけ立派な実装石に育てた主人公(と、それを描いた作者さん)には万雷の拍手を送りたい お疲れ様でした |
| 9 Re: Name:匿名石 2017/01/21-13:13:14 No:00003959[申告] |
| 子犬と戯れてるシーン想像するとめっちゃ可愛い
しかし、飼い主の大切な者のためにすすんで命を捨てられるとか 下手に紫BBAに無制限愛護されて満足する心を奪われた飼い実装よりよほど良い実装生だったのでは |
| 10 Re: Name:匿名石 2017/01/21-13:45:04 No:00003960[申告] |
| 完結、お疲れ様でした
ポチが本当に公園を散歩して仔犬じゃない犬を克服できたのかとか ポチの妊娠、出産、育児の詳細や内心の変化も見たかった気がしないでもない いつか気が向かれたらポチの後半生も書いてください |
| 11 Re: Name:匿名石 2017/01/21-22:41:43 No:00003964[申告] |
| お疲れ様でした
実装石を実食用や実験ネタみたいな実装石独特、ならではの飼い方じゃなくて犬猫のちょっと違うやつのように飼うというのはレアな切り口でしたね 底意地の悪いことを考えると、仔犬と戯れるってポチ・男側はいいけど仔犬の方の飼い主さんがいたら嫌じゃないのか? 犬と飼い主同士でも気を遣うだろうに異種、それもブームは短期間だったとはいえ悪評しか残っていないと思われる (女性店員さんは別格にしても怪我回の獣医が揃いも揃って存在否定の診察拒否) 当時を知らない人なら知らないで動物なのに変な服着てデスデス鳴く怪生物が混じってくるって それにその後もうちょっとポチの社会性や犬耐性が上がってきたら公園に連れていっただろうけど ペットショップはまだ自分のペットの種以外にも理解を示す愛○家の優しい世界だけど 公園には情け容赦を知らない子供もいればブーム時代に糞蟲相手に嫌な思いをした人もいるかもしれない そんな人は世界へのバケモノの復帰にいい顔はしないだろう そういう実装に厳しい、否定的な世間に男とポチはどう向き合うのか? そして、ポチが仔を生めば実装石は増えるけど、そうやって増えていった仔はどうなったんだろう 糞蟲は殺処分するから逆にいいとしてまともな仔を飼育していればやがてそれなりに図体のでかい成体になって場合によっては3世代目誕生となるわけだけど 田舎の農家みたいな部屋と庭と田んぼと裏の山だけはたっぷりあるでなって環境じゃなきゃまとめて飼い続けるなんて不可能 となれば里子にでも出すしかないがそのあたりの問題はどうしたのか? 最初は信頼できる愛「護」飼い主に譲っていけばいいとして愛誤派や虐待派に見つかる日が来るかもしれない 何かあって心底実装石を憎んでいて、せっかく絶滅したと思っていた実装石をまた増やそうなんて愛誤派も実装ごと死ねという実装絶滅主義者に襲撃される可能性もある せっかく実装石が消えかけていた世界って設定だったし 実装石が再び社会に出てくるのかどうなのかって問題についても男の結論=ジャケット氏の考えも見たかった あと、犬と戯れていて獣装生まれたんだなあ 自分と何か違う仔の誕生にポチはどう感じるのか ポチは親だからまだ母性が働くとして他の仔は実装石本来の何か違うモノへの差別意識で糞蟲化したのかしなかったのか 男も独白、自省ですら獣っぽい仔は特にかわいいって語ってるし 自分では分け隔てなく飼育してるつもりでも贔屓してない?大丈夫? ともあれ、ポチよあの世界で安らかに過ごしてくれ |
| 12 Re: Name:匿名石 2017/01/22-01:45:46 No:00003967[申告] |
| 筆力高い作者さんだから難しいことも書いてほしいっていうのはわかる
でも、実装愛護で動物愛護な作品だからそれを否定するようなキャラを出して長々とやって最後はそいつを否定する展開になっても どっちつかずで苦い話になってもつらいだけだったと思う これは男の工夫とポチの忠誠の物語だったんだよ |
| 13 Re: Name:ジャケットの男 2017/01/22-02:09:02 No:00003968[申告] |
| 読者の皆様、コメントありがとうございました。
ひとまずは男とポチの物語は一つの区切りをつけたいと思います。 >コメントを頂けた皆様へ。 ポチの冥福を祈って頂ける方が多く、とても暖かい気持ちになりました。 これだけの人に愛してもらえ、ポチも草葉の陰で喜んでいることでしょう。 ありがとうございますm(__)m 生き物を飼うという事は、楽しい事と辛い事と嬉しい事と面倒な事の繰り返しだと思います。報われる事もあれば救われない事だってあると思います。 ですが、男とポチが過ごした日々は間違いなく報われていたはずです。 読者の皆様のおかげで、ポチを無事に虹の橋のたもとに送り出せました。 ご愛読頂き、本当にありがとうございましたm(__)m >コメント4様へ。 部屋の構造については、次回作で詳細を説明をしようと思っています。 まだ思いつきのネタなのできちんとした図画化をしていないのですが、各部屋の四方の壁はコルク部分以外がマジックミラーフィルムによる鏡張り、1方向のみ隣室の様子が覗ける窓になっている構造と思ってい頂ければ差支えないかと。 ①③⑤⑦の部屋は⑨から半分だけ見えるような作りを空想しています。 コメント10様へ。 実は次回作にて、そのあたりの描写を少しする予定です。 お楽しみ頂ければ幸いですm(__)m >コメント11様へ。 題材選択へのご評価を頂きありがとうございますm(__)m ご考察の通り、ポチの5年間の空白には危険が多く含まれています。 仔犬たちとの戯れについては、すみません、単純に虹の橋のたもとの様子はきっとこんな感じだろうなと描写したく筆を走らせたので、あまり深く考えていませんでした。 ひとつだけ種明かしとして、環境省は実装石を特定動物としては扱っていません。 特定動物として扱われたら、女性店員さんは必ず把握するので、さすがに男がペットショップに相談に行った際、ストップかけることになったでしょう。 他の点につきましては、物語のフレーバーとして詳細描写はしないままが良いかな、と思って敢えてぼかしております。 実装石が忘れ去られた世界、実装を飼っている者と世間との対立や確執…etc ですが、以前のコメントでもどなたかが話題に出して頂けましたが、この世界は実装石に冷たい世界の設定です。それは良い意味でも悪い意味でも、司法を含む世間一般が、一切の特別扱いをしない世界です。実装石を悪者・危険生物(特定動物)…というレッテルすら張りません。もちろん、最後の1匹になろうがレッドリストにあげる事すらないでしょう。そんな実装に冷たい世界です。 なので個人の主張として、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いと実装飼い主を襲っても、司法は傷害罪で立件します。飼い実装であろうと、誰かを噛んだり糞を投げつければ、咬傷糞害事故として被害届を提出して、相手に賠償しなければなりません。程度によっては司法介入により殺処分。 動物愛護法では飼い主に「動物を適正に飼養すること」が求められているので、飼い主が無責任だったり悪辣であれば、刑事・行政介入があります。 どんな動物を飼うにしても、何かがあれば、飼い主は刑事・民事・行政責任を負わねばなりません。それが動物を飼うという事の責任だと思います。 いずれフレーバーから新たな物語を作成したいとは思っていますが、現時点では明言は避けたいかなぁ…と。 >今後について。 ポチの仔の飼養や仔たちの取り扱いについては、主人公を女性店員さんに変えて、男とポチの空白の5年間を埋める形で、物語を紡いでいきたいと思います。 その中で、保育・譲渡の問題を取り扱いたいかと。 是非、次回作も皆様にお楽しみ頂ければと幸いです。 それでは、皆様。 最後までお付き合い頂き、ありがとうございました! また次回作にてノシ |
| 14 Re: Name:ジャケットの男 2017/01/22-02:11:40 No:00003969[申告] |
| >コメント12様へ。
コメントありがとうございます。 上のコメントにも記入しましたが、いずれ、別の話・主人公にて、この世界のフレーバーを用いた作品を書きたいと思います。 是非、その作品も、皆様にご愛読頂ければ幸いですm(__)m |
| 15 Re: Name:匿名石 2017/09/21-05:34:45 No:00004890[申告] |
| 虐待派にこそ通して見てもらいたいシリーズ |
| 16 Re: Name:匿名石 2017/09/22-22:42:09 No:00004897[申告] |
| 誰に読んでほしいとかよりそもそも次回作がいつになるかだよ |
| 17 Re: Name:匿名石 2023/07/23-22:24:26 No:00007620[申告] |
| 名作をありがとうございました
いい仔だろうとこれだけの覚悟と努力がないとちゃんと飼えない 生き物を飼うってそういうことなんですね |