タイトル:【愛かな?】 二代目デスゥ
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初投稿日時:2006/08/19-04:00:51修正日時:2006/08/19-04:00:51
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三代記 〜二代目 平穏なる実装生 中編〜

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正直弱っている…。

子供…特に女の子が小動物好きというのは決まりごとのようなものだが、
よりによって、”仔実装を助けたい”といきなり言われたのには困惑だ。

俺は実装石の生態にはある程度知識はあるほうだ。

何せ、こうして運良く結婚するまでは、
虐待派として色々とやってきた。

娘が実装石を見てこう言うだろうとは予想はしていたが…。

何度も何度も、実装石は小さくて可愛く見えるけど、
とっても育てるのが大変な生き物だよと教えてきた。

飼育自体は簡単だ。
肉体に酷い加虐を加えなければ、特別な世話の必要もないし、多少餌を抜いても何を食べさせても生きていける。
それは中々死なない生き物を意味している。

それと”育てる”ということはまったく次元の違う話なのだ。

あの自分勝手な知能に礼儀や奉仕を覚えさせるのは大変な作業だ。

人の手の掛かったペット実装でも知能や礼儀の維持には苦労することになる。
そう、知能は並みの犬猫より数段賢いが、賢いだけで維持されない。
いや、人間と相互コミュニケーションを取る術があるという分、賢く見える錯覚だ。
賢くても鶏並みの記憶力…しかも、半端に賢いと自分勝手に判断する。
野良のように賢さのランクが低いと致命的だ。

それを判りやすく娘に説明するのは、実装石に教育するのに近かったが、
娘は理解してくれて、実装石を見かけても何も言わなくなった。
近所で実装石飼いが流行っても欲しがらなかった。


しかし、やはりというか…傷ついたヤツは母性本能を擽ると言うのか…
とにかく途端にワガママを言い出した。


娘の差し出した仔実装を見せられた。

『パパ…実装石のプロでしょ…助けてあげて』

『ん、ああ、できるだけ…ってコレは酷いな…』
実装石のプロってなんだよ…妻が変なことを吹き込んだな…。


しかし、確かにコレだけ酷い状態の仔が居たら、娘なら放って置かない気持ちもわかる。


『これは、仲間にやられたんだな…うわ、口の中も糞だらけだ…』

生後2週間…いや3週間かな…。
頭巾があるので見れるが、頭は相当執拗に殴られている。
新しいものもあれば、直りかけの陥没痕もある。
糞まみれでも髪が抜かれず残っているのは実装石としては救われている。
おそらく、力の弱い仔実装同士のケンカだろう。

何とか水道で指を洗いながら口の中の糞を掻き出す。
コレだけの傷と消耗では、傷への刺激は禁物…。
水道で口を洗い流すのは厳禁だ。
歯も…折られては居ない。

頭巾を取る…娘が『うっ』と顔を背ける。
内出血が痛々しい。
一昔前は、このぐらい当たり前…おれがする側だったのだがな…。
『コレで、あそこのコンビニで100円金平糖と栄養ドリンクを買って来なさい』

『え!お薬屋さんでお薬とか買わないと…』

『実装石は普通の生き物とは違うって教えたでしょ…薬はいらないの』

娘が走っていくのを見て、俺はようやく本格的に頭巾を取る。
服を…破る。
この服はボロボロ過ぎてもう服として役に立たない。
下手に脱がそうとして損傷箇所を刺激するのは良くない。

『実装石同士だと、ある意味人間以上に陰惨だな…』
俺はゆっくり排泄口に突き刺さる木の枝を抜き取った。
下半身は酷く損傷していないのを確認して、少し排泄口の周りを押して中の泥を押し出す。

後はここでは何もできない。

娘が金平糖と栄養ドリンクを買ってくる。

金平糖を取り出し栄養ドリンクを掛けて、それを仔実装の口に押し込む。

仔実装は弱々しく金平糖をしゃぶりだす。

「レ・レチッ…」

まるで親指実装のような小さく弱々しい声…。
この大きさの仔実装では考えられない。

『幼児退行してるな…余程の目に遭ったのか』

『ヨウジタイコウ?』

『人間でもたまにあるけど、赤ちゃんに戻って痛いこととか苦しいこととか忘れるんだ
 それだけ酷い目にあったって証拠なんだよ』

『元に戻るの?』

『さぁ…実装石のは人間とはぜんぜん違う仕組みでそうなるからね
 元に戻るとは思う…でも、元に戻らないほうが、コイツの為ではあるが』
『どうして?』
『いいかい、ここでこいつを助けるということは、自然の法則に反するということなんだ。
 それは、お前が責任を持って育てることになる。
 自然の生き物は人間に飼われると、野生に戻るのは難しい。
 実装石は、もっと難しいんだ…高い知能があるからね。
 同時に、知能がありながらもこうして仲間同士で殺し合ってる。
 どちらにしろ、一度、人の手に飼われた実装石は、むやみに自然に帰さないほうがいいんだ…。
 そして人間に飼われるなら余計なことを覚えていないほうがいい。
 パパの言っていることはお前がもう少しおおきくなったら判るようになる』

仔実装は金平糖を噛み砕けない。
元気なら飲み込むし、弱っていれば舐めて小さくする。
栄養ドリンクも劇的に効くが、それだけ刺激も強いから少しづつ飲ませるにはこの方法が楽だろう。

程よく舐めたら、口をチョンと突付くと刺激と痛みで金平糖を吐き出す。
もう一度それを栄養ドリンクに漬けて舐めさせる。

「レチュレチュ〜♪」

こうして見ている分には、仔実装のうちはまだ可愛いものだ。

俺たちは仔実装を抱えて家に戻った。

このまま…幼児化したままであれば、
少なくとも娘を酷く傷つけることにはならないだろう。

いや、実装石の独特の精神構造であれば…コイツがその中の糞虫であれば、
蛆実装でもない限りは、飼う側の人間を悲劇に導く危険な存在…。
飼う側の心が純粋で優しければやさしいほど、その心を蝕み傷つける。

それは、実装石個々が意図してやろうとしていることではないだろうが、
それだけにどちらも救い様が無い。

この仔実装は未知数だ。
生まれて間もない頃まで精神が退化している。
過去を全てリセットされたのか、されていないのか?
元に戻るのか、戻らないのか?
それが元に戻ったとき、どんな本性になることか?
賢いだけに僻まれて多数で迫害されたのか、糞虫故に墓穴を掘って多数で襲われたのか?

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ムニュ…ムニュ…甘い…甘い…
イタイ…イタイ…甘い…

ココは…ドコ…アタタカイ…フカフカ…

明るい…オッキイカゲ…ニンゲンさんがいる…
ママは?妹チャンは?ドコ?

ママァ…ママァ…
「ママァァァァァァァァァァァァ」

ワタチは声の限りに叫んだ…
ママと一緒じゃないとトッテモ怖い…怖い…寂しい

ワタチ、イッパイイッパイ、イタイことされた。
ちぬようなことされた。

ニンゲンさんが覗き込む…オッキイ…
ニンゲン…ニンゲン…
「レチァァァァ!レピィィィィ」
ニンゲンも怖い…怖い…ちぬような事をする…
ウンチ…ウンチ…キモチイイウンチする
ウンチ…するととってもキモチイイ

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『パパ!仔実装ちゃん起きた…でも叫んで、またウンチしてる…』

家に連れ帰って、とりあえず様子を見ながら処置をした。

注射器があれば患部や偽石近くに負担を掛けずに直接栄養剤を送れて手っ取り早いんだが、
そんな便利な道具がカタギの家にあるはずも無い。

昔の道具は結婚を期にキッパリ処分したんだ。

処置と言えば、せいぜいオロナイン軟膏を塗った包帯を巻いただけ。
実装石は屋外よりある程度の清潔な環境なら簡単に破傷風にかかることは無い。
だが今は別だ。

実装石は簡単に死なないし病気にもかかりにくい。
全てはその脅威の再生能力のなせる技だ。
逆に、それが弱まると手の施しようも無く弱って死ぬ。
栄養剤を胃から体内に吸収する作業ですら吸収する栄養以上に体力を使って死んでしまうのだ。

とんでもない強さと弱さが混同する生き物だ。

それだけに根気の勝負。
安い栄養剤を金平糖に漬けては舐めさせた。
少しづつ、少しづつ、金平糖の糖分と共に栄養を送る。
身体が受け付ける限界を超えてはいけない。

食には貪欲な実装石も、弱い時にはトコトン弱い。


2日目にようやく目を覚ましたかと思えば、この大騒ぎだ。

意識ははっきりしていないようだ…寝言を叫びながら賢明に気張って糞を垂らしている。
実装石にとって手軽なストレス解消が脱糞行為だ。
排泄行為と同時に、生殖器官と一体化しているために、
仔実装とはいえ立派に刺激を感じる。
人間以上に排泄行為が快感に感じるのだ。

でも、それはある程度自然に身体が回復している証拠だ。

この怖がり方は、人間も恐れているな…。
まだ、教育可能かもしれない。

『実装石は糞をたくさんすると教えたでしょ…これぐらいで驚いちゃダメ
 ほら、換えのタオルを敷いて…』


何日かすると、再生が軌道に乗ってきたのか動けるようになってきた。
傷の治りは遅いが、体力は食事もでき、這って歩くぐらいは出来る。
ただ、時折、何も無い空間に向かって絶叫したり、娘を恐れたりする。

俺は水槽に入れて飼うように指示した。
姿は裸に頭巾だけという格好のままだ。


新聞紙は娘が責任を持って換える。
餌もそうだ。

餌はごく一般的な市販の実装フード…栄養重視のを選ぶ。

何事も最初が肝心…娘にも仔実装にもだ。

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ワタチはニンゲンさんに飼われている。

ニンゲンさん達はとっても優しい。
ワタチの体をイッパイイッパイ心配してくれる。

ワタチが怖くて泣くと、優しく声を掛けてくれる。
コワイ夢を見ると覗き込んでくれる。
ウンチを取って、身体をアタタカイので拭いてくれる。

いつも優しく声を掛けてくれる。
『仔実装ちゃん…痛くない?ウンチは?ゴハン食べられる?』

『おい、何時までも”仔実装ちゃん”じゃかわいそうだろう…
 それに、その呼び名のままじゃ、仔実装が頭悪くなる。
 お前が母親の代わりなんだから名前をつけてあげるんだ。
 名前は大切だぞ…あるとないとでは性格が段違いになる』

『んーっ、じゃ、お花に包まれていたから”はなまるこ”ちゃん!』

『…悪くは無いが、長すぎると仔実装には辛いな…
 長い名前は、悪い方向に勘違いして、これもバカになる傾向がある
 簡潔なのをいっちょう…』

『じゃ、間を取って…』
『まて!その名は釣りばっかりしそうな方のバカだから却下』
『えーーーーっ、じゃまる…マルちゃんは?』
『無難だから許可』

『わーい、マルちゃん…お前はマルちゃんだよ〜』

マル?マル…ワタチのナマエ?
ワタチはマル…
ニンゲンさんはママみたいに優しい…
ママみたいなニンゲンさんのくれたナマエ…
ワタチはマル…
「テチィィィィィィ♪」

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仔実装の調子は良い。
名前をつけてから劇的に回復した。
食事も良く取り、十分に歩ける状態だ。
頭の変形も、多少は残るだろうが、良い方向に向かっている。

怖がっていた様子も一変して、娘や俺達になついている。
今では、手を入れると指にじゃれ付いて遊びだす。

こうしている間は、人間に慣らして飼われたペット仔実装の生まれたてのを手に入れたようなものだ。
姿だけなら愛くるしい。

だが、日が経つにつれてマルの精神状態は徐々に肉体年齢に近づこうと成長している。

しかし、様子を見る限りでは、元々がある程度清潔さを持って育てられたようだ。
この様子なら飼うのに十分な清潔さとトイレの躾けは苦ではないだろう。

まずいと評判の実装フードにも文句を言うわけでもないし、食べる量も大人しい。

名前を与えて理解させる効果は絶大だ。
人間の家族という自負を与え、野良として暮らしていた世界と違うことを実感させる。
知能を刺激して個としての存在の意欲を掻き立てる。
時にそれは、いらぬ増長を産む危険なモノではあるが…

気になるのは、未だに何かにおびえた行動をすることだ。
突然叫んで走り出す。
おびえて丸まって脱糞する。
寝言でうなされている。

そして、一段落すると、また拾った頃の無垢な仔実装に戻っている。

まるで、元の生活の自身と対峙している様だった。

今の状態なら、飼うのに難しいことは無い。
しかし、元の性格が糞虫であれば…

俺は妻と相談した。
『あなた…本当にするの?』
厳しい方の躾をすることをだ…。

結婚したときに虐待からは足を洗ったが、
それは単にケジメの為で、妻は俺が元虐待派であることは知っている。

『実装石を飼うということは精神的な戦いになる。
 躾けは避けては通れない。
 軽いことは娘にもやらせられるが、その前にコイツの元の顔を知って、
 それに備えなければいけない』


それから、俺は娘に、実装石の風呂の入れ方を実践させ、
程よい怒り方、怒っても言うことを聞かないときの対応を教える。

最初は人間が風呂に入れてやるのが一番だ。
風呂の良さ、清潔にすることを覚えさせ、自立性を養える。
徐々に簡単な助けだけで実装石が自力でできるように誘導していく。


衣食住…それらが一定まで満たされてくると、確実に実装石は普通の状態が満足できなくなる。
過度に清潔さや食事の質と量を要求するようになってくる。
犬猫と同じではあるが、実装石の要求に限界は無い。
何せ、犬猫とは違い、彼らは知識の習熟があるだけに何事も人間と同等を欲する。

マルの場合、過度の食欲は無いが清潔感にはうるさい。
糞はタダ漏らしにしないが、おまるの使い方が覚えられない。
そのくせ、少しでも臭く感じたり汚れると生理現象の様に風呂を要求する。
風呂に入れられる為に、糞を身体に塗るようにもなる。
意外に狡猾だ。


そこで、怒ることが必要になる。
簡単に言えば、口で叱り、叩くことになる。
それでも、言うことを聞かなければ、必然と叩く回数が過度になるので、
普通の人間なら威力が際限なくあがり命が危険で、娘の様なのだと手加減されているのでナメられる。
そんなときは、無視をする…餌も風呂の準備もしない。
そういう強弱や変化球のつけ方を娘に教える。

娘の担当している躾け自体は順調なものだ。
良好といって言い。

簡単なことでも、何度言ってやらせても出来ない事も多い。
何度も繰り返してやらせている状態だ。
その学習速度自体は、やはり実装石のレベル…それも野良だ。
だが、覚えようとする姿自体は従順で真摯だ。

だが、俺にはそれが良いことばかりには映らない。
何か過度に従順すぎる…話がうますぎるんだ。
その従順さは下手な高級ペット並だ。
それが幼児退行した恩地だとするなら、その揺り返しがある気がする。

そして、それを現す様な傾向がある。
怒ったこと、叩いたことの行為だけは都合よく忘れている。

それが、不自然なほどの従順さにつながっている様な気がする。

どうも、時折見る悪夢と関係しているような気がする。
そして、徐々に本来のマルに戻ろうとしている気がしてならない。

娘にはマルの言うことは理解できない。
マルにはどれだけ俺たちの言う言葉が意味まで理解できるかわからない。
マルはそれだけ未知数の塊だ。

俺は娘が居ない時間、俺は心を鬼にした。
もし死んだら俺は一生、娘に口を利いて貰えないかも知れない…。
そんな恐怖を背中に受けて…。
手に握る実装リンガルは手の汗に滑り落ちそうだった。

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ココはお家…ニンゲンさんのお家で、ココはワタチのお部屋。
シンブンシの床は暖かくてキモチイイ♪いっつもキレイでキモチイイ♪

お風呂もイッパイ♪キレイキレイ♪
シャンプーゴシゴシ…してもらうとキレイ、イイニオイ♪
シャンプーゴシゴシ…ワタチがしてもキレイ、イイニオイ♪


あっ、ニンゲンさんのパパさんが来た。

「ワタチはすっかりゲンキテチュ♪パパさん遊んで欲しいテチィ♪」

『ああ、だが、その前に話しておきたいことがある』

ん!?ニンゲンパパさんワタチの言葉がわかるの?

『お前は何が怖くて毎日泣くんだ?』

泣く…怖い…

『お前のママはどうした?姉妹はどうした?話なさい!』

ニンゲンパパさん怖い顔…ママ、ママ、怖い、怖い事…ちぬような事!?

「ママ…妹チャン…親指チャン…蛆チャン…
 ワタチは…ワタチはオネイチャンテチ…
 ワタチはマルテッチ…オネイチャン、チガウテチィィィン!」

「お姉チャン助けてテチィィィィ」
妹チャンのお手手…チギレル。

「レェェェレェェェェ!オネイチャン、タスケテレチィィィ」
親指チャンが落ちて苦しんでる。

「レヒィィィ、オネイチャンレピィィィィ」
蛆チャンがぐったりする。

「イヤイヤイヤ!
 妹チャン!お手手ぇぇぇ!
 親指チャン!ゴメンテチィィィ…
 蛆チャン!逃げるテチィィィィ!
 ママ哂う…怖い笑い顔…ワタチはマルテチィィィィ
 ニンゲン踊る…ママの顔歪む…歪んでも哂ってワタチを追いかけてくるテチー!
 ママ!ママ!ママはウソツキテチィィィ」

ウンチ…ウンチ…怖い、ウンチする…

ブピブピ…

『ウンチは決められたところで!』

ニンゲンパパ、怖い声…怖い怖い…

チクッ!痛い!
お手手!ワタチのお手手!痛い!光るの刺さってる!
イタイ!痛い!逃げるぅぅぅぅ

ドン!

痛い!どこ?進めない?カベ!こっちカベェェェ
こっちぃぃぃぃ…

ドン!

こっちもカベェェェェ…

ブバ…ブリブリブリ

『どうした!覚えたことすら出来ないのか!』

「そんな事シラナイ!シラナイテチィィィ!タスケテ、ワタチをタスケテテチ…イタイテチ…ユルシテテチ」

『とりあえずその糞まみれの身体を洗うぞ…』

ニンゲンに抱かれた…。
イタイ針…抜けた…。
ニンゲンに…抱かれた…。

「ジックス、ジックス…ニンゲン踊るテチィ…ママ歪むテチィィィ…怖いテチィィィィ」

ブリブリ…プピィィィィー

おフロ…おフロ…アタタカイ…キモチイイ…
シャンプー♪シャンプー♪シャ…

「アツイ?アツイ!?アツィィィィィ!
 ゴボァ!ボウッ!おぼれっ…ゲボッ…おぼれるテチィィィィ」

イタイのイヤ!クルシイのイヤ!コワイのイヤ!イッパイイヤ!
シラナイ!シラナイ!こんなに苦しいのシラナイ!
知ってる…知ってる…イッパイ苦しいの知ってる!
妹ちゃん死んだ、親指ちゃん死んだ、蛆ちゃん死んだ、ママも死んだ。
みんな苦しい、痛い、怖い、死んだ。
ワタシも苦しい、痛い、怖い、イッパイ知ってる…

ワタシは…ダレ?
ワタシはオネイチャン
ワタシはマル

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予想通り、母親や姉妹の事を聞いたらパニックを起こして、
幼児退行以前の人格…いや、実装格が前面に出てきた。

大人しいマルは、本当のマルであって本当のマルではない。

人間なら余程の事でないと起こらない”幼児退行”や”二重人格化”も、
実装石の世界では、簡単な自己保身方法として容易に起こりうる。
ただ、その場合は、危機を逃れたと判断した場合に回復する。
それこそ、ものの1時間程度の話…機械的な機能だ。

しかし、コイツの場合、実装石基準でより酷い目にあった…
あるいはパンクするほど様々なことがあったことで、
その機能が混線して複雑な状態にあるのだ。
自分に都合の悪い事象は、ほとんど元の実装格の記憶領域に封じ込まれる。

元の実装格が出ないというなら、それは俺達が飼う上で喜ばしいことだった。
基礎はある上に、そこから中身を作り放題なのだ。
0から作るのでもなく、また、完成してしまったものを改築増築するのでもない。

だが、行動を見る限り、俺はそんなに良い事は無いと感じていた。

様は、今のマルは元の実装格がベースで、そこに寄生しているだけの実装格…。
普通は、危機に際してそう言った新しい実装格を作り、そちらが酷いことをされた記憶を担当して、
実装脳で短期間のうちに都合よく忘れ去るのだが、
コイツの場合は仔実装のために、その機能が未熟で間に合わなかった。
あるいは、元のほうが衝撃的なことを経験してしまったので、
今の寄生実装格が定着してしまったというところだろうか…。

それだけに元のマルが経験してきた生活基礎知識に関しては、都合よく利用できている。
トイレや清潔さといった項目だ。

トイレは理解し、清潔さの基準もある。
しかし、おまるの使い方は非常に簡単なのに、何時まで経っても覚えない。
そこがトイレであると判りながら、ただ跨って容器の中に落とすだけだということが何度やっても覚えられない。
結局、おまるのある場所の近くに糞をするだけ…。
それは、マルが経験してきた基準を超えた行動が記憶されない…されにくい状態を示す。
まして、それの失敗に対してペナルティが付くと余計に悪い。

こちらの要求がまだ簡潔で簡単なうちはよい。
マルが野良のときに受けて教育や経験がベースになっているなら、
それが生きているからだ。

その証拠に風呂のように、元の実装格が快感と感じる項目の覚えは良いようだ。

だが、ペットとして人間と生活するということは、
野良の生活には無い、それ以上の事柄を要求することになる。
そして、それの習熟には必ず実装石には苦しい教育が待っている。

それでなくても、度々、混線度合いによって幻覚を見ている。
元の実装格が戻ろうとしている。

元に戻ったときに、せっかく教えていたことがひっくり返ってしまったら、もう再教育は不可能だ。
実装石の成長は恐ろしく早いのだから。

なら、いっそ今の内にショック療法で元の実装格を引き出して見ようと言うのである。
俺の頃には、実装石の幼児退行は、そんなに細かいところまで生態が判って居なかった。
昔の仲間に連絡を取って、最近の研究で新しい方法が無いか聞いたりしたが、
結局、方法といえば今も昔もコレしかない。
実装石の精神治療といえばトコトンまで追い込むこと…。


俺は限界近くまでマルをいたぶった。
ただ恐怖を与えるだけの虐待に複雑な道具は必要ない。
数多くの実装石を虐待して、その死の限界を知る経験だけあればよい。

針、デコピン、張り手、熱湯風呂、そして言葉…。
とにかく、娘が寝て起きるまでに再生可能な限界まで傷を与えた。
それを何日も繰り返した。

それは、新しいマルにも元のマルにも地獄だっただろう。

その結果、マルは限界近くまで疲労し人間を恐れた。

愛嬌のある姿は失せ、無気力で、活動は機械的になり、
食欲は低下し、一日、手作りのベットでタオルをかぶって震えるだけの日もあった。
触れるだけでパニックを起こして水槽の壁をぶつかりながら走り続けて失神することもあった。

娘には”パパ!何をしたのよ!?”と怒られた。


でも、ある程度マルの事がわかってきた。

マルの親は割りと糞虫性格なのは確かだ。
よく嘘を付き、我が子たるマルから指摘され憎まれていることから、それを利用していたことが伺える。
マル自身もその性格を受け継いでいるのだろうか?

マルと共に生まれた姉妹は、ほとんど親が元凶で死んでいるようだ。
うわ言の内容からすれば、身を守る為に盾にしたか生贄にしている。

その親は、どうも人間の手に掛かったようだ。
親と人間とジックスが一緒にうわ言に上ることから、ロクな死に方でないのは確かだ。

最後に居たのは蛆実装だけ…それも、目の前で亡くしている。

そんな実装石など、この世には何万と存在するのではあるが、
一方で、マル自身から見れば、確かに、この大きさの仔実装にとって膨大な経験だ。

後は、この調子で精神をオーバーフロウさせれば、
マルの実装格は統合されて安定する。
同時に精神のオーバフロウは、廃人…廃実装化か崩壊死にも直結している。

殺したら…娘に絶交される…
その恐怖を背に、俺は今日も水槽に向かう…。
これは戦いだ。

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今日も来る…怖い、怖い時間…。
優しいニンゲンさん居ない時間…。
ニンゲンパパさんがワタシの部屋に来る。

『さぁ、お話の時間だ…マル…それとも今日はオネイチャンかな?』

ニンゲンの手に光る針…

助けて…助けて…助けてママ…

『お前のママはとってもウソつきだ。
 お前の妹達を生贄にして助かろうとした…違うか?』

ニンゲンがワタシの手を持ち上げる。

『それで妹ちゃんは手を千切られた』

ツプッ…手に針が刺さる。

「テチァァァァァァ!妹チャンの手ェェェェ!ママ離して、チギレルテチィィィィ!
 マモル、約束違うテチィィィ!ママ!妹チャンを抱っこした…あいつらに差し出したテチィィィー
 妹チャン食べたテチィィィィ!!」

『次の親指チャンはどうなった?』

「テェェェ…テェ!親指チャン…ママ!ママが投げたテチィィ…」

グイッ…ヒュー…グシャ!
身体がフワッと浮いて景色が上に流れて、バチンと痛くなる。

「テギァァァァァ!痛いテチィィィィ!親指チャン死んじゃうテチィィィィ!」

『蛆チャンは…お前が今度は盾にしたのか?ママと同じく』

ペチ!ペチン!

「イヤ!ママの真似イヤ!蛆チャン!ワタシが守るテチィィィ
 そっちに行っちゃダメテチィィィィィィィィィィ」

ペチ、ペチ、ポコ、ポコ…

「テェェェ…ママのウソツキ…お外は幸せじゃないテチィィィ、ニンゲン、ワタシなんて可愛くないテチィィィ
 お家も作ったテチィ…ワタシ、一人で頑張ってゴハン取ったテチィィィ
 痛い事されてもゴハン取ったテチィ
 でも、蛆ちゃん苛められたテチィ!ワタシも苛められたテチィ!
 ママのウソのせいテチィ!ママの優しさなんてオオウソテチィィィィ!」

ボコ、ボコ…ブリブリブリ…「レチィィィィ…」

『今度はマルか…都合よく逃げたつもりか?
 お前たちの都合のいい精神機能があってもお前に逃げ場は無いぞ』

ンペロ…「レヒッ…ヘホ、フハ、ムム」

ニンゲンさん…どうして舌を引っ張るの?
ワタチ、ニンゲンさんの事呼べない…甘えられない。

ツプッ!

「リレェェェェ!ヒヘロハ!フヒフヒヘァァァァァ!!」

『俺はお前が憎くてやっているんじゃない…
 でも、このままだと、どちらのお前になっても、中途半端なお前はこの家で飼うことはできない。
 お前を守っている、その精神機能が邪魔なんだ。
 ”娘の為に”頑張ってくれ!!』

ニンゲンさん、とっても悲しい顔…ワタチ、何かしたの?

『お前はどちらを選ぶんだ?お前を生んだママか?それとも、人間の飼い主か?』

何を言っているの?ワタチはニンゲンさんの手の中で生まれた…それしか覚えていない。
ニンゲンさん、ワタチをイッパイ可愛がって…オフロスキ…
オトイレ…オトイレ…
イタイ、イタイ…
ワタシは…トイレで生まれた…ママに抱かれて…お外に出るのを待ち続けた。
お外は広い世界…とっても楽しいこと…待ってる…。
ママは賢くて強くて…お家もイッパイ…ニンゲンはママの魅力に…。

ウソ!全部ウソ!
でも、わかることがある。
ニンゲンさんに飼われるはシアワセ…それは本当…。

ワタシの中で何かが弾けた。
ワタシは今まで何をしてきたの?

もう、ワタシは逃げるのに疲れた。
痛いこと、苦しいこと、怖いこと、何でも逃げた。
ママからも、あの3匹からも、怖いニンゲンからも、ナカマ達からも…そして、妹達からも…。

結局、ワタシは逃げるだけで、何も手にしていなかった。

せっかくニンゲンさんに助けられたのに、ワタシは逃げることしかしなかった。
ママは、結局、全てから逃げることしか教えてはくれなかった。
だからワタシは、また逃げて何もかも失うところだった。
イッパイイッパイ経験したのに、逃げることしか知らなかった。

ワタシは、マルであることから逃げない。
オネイチャンであったことからも逃げない。

ワタシはオネイチャンの時の苦しいこと覚えてる。
ワタシはマルの時の苦しいこと覚えてる。
でも、マルはシアワセ…きっとシアワセ…。
でも、マルのままだと、ワタシはシアワセなのにシアワセじゃない。
シアワセな事、覚えていない。
マルのままだと、シアワセなのをシアワセと思ってない…

どちらもワタシの名前…どちらも思い出…。

「ワタシはママから生まれたテチィ…ママからイッパイお外を教えてもらったテチィィィ
 でも、全部ウソテチィィィ、ママはワタシを本当に愛してなかったテチィ…
 ワタシは、ニンゲンにもナカマにもイッパイ怖い事されたテチッ
 でも、ワタシはニンゲンさんに助けてもらった…わかるテチィィ!
 ニンゲンさん達にイッパイ優しくされたテチィィィ
 そんな顔で苛められたくないテチィー!
 ワタシは、ニンゲンさんに苛められても、マルがシアワセだと感じたいテチィィィィ
 オネイチャンの時より、これがイッパイイッパイシアワセテチィィィィン♪」

痛いのが消えた…。
ニンゲンパパさん、ワタシを抱く。
ニンゲンパパさん、少し泣いている。
ワタシ、イッパイ甘えたいけど、身体が動かない。

『よく頑張ったな…お前は今まで見てきた中で、一番強い実装石だ。
 これから、またお前は一から躾けなおす事になるが、ちゃんとやれるな?』

「はいテチィ!ワタシはトッテモダメなママに育てられた頭の悪い仔テチィ…
 でも、イッパイ頑張るテチィー」

『よし!明日から厳しくなるぞ…でも、お前は、ウチの家族の一員だ』

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マルは試練を克服した。

現役を退いたとはいえ、ある程度経験を積んだ虐待師の経験を持つ父親の手に掛かれば、
短時間で肉体・精神のギリギリの責めを行う事は簡単だ。
反応を楽しむ為の加虐で無いのならば尚更だ。

肉体表面の再生時間を考慮して、日に3時間…それを土日を除いて行われた。


マルは、精神保護機能の不十分な仔実装。
それも機能が混線したままだ。
効率良く機能を生かす事が出来ず。
マルと旧マルの2つだけの実装格を交互に呼び出して痛みから逃れる事しか出来ない。
しかも、効率良く痛みを忘れる事も出来ず。
2つの実装格共に精神の正常を保っていられる限界に達した。

それでも、大半の加虐の記憶が忘れ去られてしまった。
父親は、正直、実装石の精神機能の脅威を知った。
特に、痛みを忘れる為に生まれ、前面に出ている新マルの幼稚さは驚異的だ。

最も、それだけ脅威の機能が生きているのは、父親が寸手で手加減してしまうからでもあった。
野良であれば、その機能で痛みから逃れられても、大抵の場合は状況的に”生きては居られない”
ペットであれば、その機能で教育が無駄になるのなら、”覚えが悪い”と捨てられる。
虐待対象なら、この機能があるがために虐待され続け、
待ち受けるのは、オーバフロウによる回復不能な精神崩壊である。


その記憶の再混線による融和がこうして成功したのは奇跡である。
融和なきまま、どちらかの実装格が先に崩壊してしまえば…
新マルの幼稚すぎる実装格が、加虐で記憶を忘れる機能に完全に目覚めていたら…
融和後の膨大な苦しい記憶の情報量に耐えられなければ…

まさに、タイトロープ(綱渡り)…
僅かでも力加減を誤れば、マルは生きる屍となっていただろう。

それを救ったのは、新しいマルが、人に助けられた暖かい記憶を忘れなかった事、
古いマルが、悲しい出来事を忘れなかった事。
マル自身が、それと向かい合って葛藤した事が奇跡を起こしたのだ。

知能や知恵では解決できない事を、マルは成し遂げた。

そして、その試練を乗り越えたマルは大きなものを手に入れた。


ただの野良実装石としても平均に過ぎない親から生まれた仔として、
これまた、特に何かに優れているわけでもないマルは、
”比較する心”と”謙虚さ”という2つの”心”を手に入れたのだ。

マルは今もって、この大きさの仔実装としてはごく平均的な知能しか持って居ない。
むしろ、糞虫と言って良い親から知識を学び、平穏に過ごせなかった事で経験は歪んでいる。
しかし、賢い実装石ですら欠けている、この2つを手に入れた事はマルに成長力を与えた。


物を忘れる事が、機能として最も手っ取り早くストレスを溜めないように出来ている実装石が、
現状と過去を比較して、知識として集約する機能は無い。
実装石が持つ比較とは、未知の状況を自分の知識内部に都合よく解釈して比較するだけである。

ただでさえ、自己に都合のよい事象しか記憶しない実装石は、
どんな状況でも比較検討しているつもりで、自身が経験した基準でしか判断しない。

例えば、公園で虐待派の撒くコロリやドドンパに面白いほどに引っかかるのは、
引っかかるまで、餌をまくのが愛護派か虐待派か判断の基準は無く、
引っかかったという経験を得るには命という代価を支払うのが普通であるからだ。
それに引っかからないのは、奇跡的に命の代価を免れた経験を持つものだけである。

そして、胎教、育児で、短期間に教育できる実装石が、その経験を後世に生かしきれないのも、
都合よい解釈しか出来ない実装脳があるからだ。
親の教えは”知識”であり、自己の”経験”ではないからだ。

しかし、マルが手に入れた比較する心は、その知識を知識として活用できる。
経験を生かしてさらなる経験を、命の代価を払わずに学べる力。
謙虚さという心があることで、より厳正に状況判断を可能にするのだ。


マルは未だ実装石基準ですら野良の平均に位置するレベル。
人間から見れば、それこそ、救いようのある屑虫のレベルでしかない。

マルはようやく、スタートラインに立つ事が出来たのだ。

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後編につづく…

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