※人間と実装石の会話は全てリンガル使用済みとしてお読みください。 「デェッス……デェッス……」 夏の暑い盛り、とある公園で一匹の実装石が家路を急いでいた。 まるで緑のサンタクロースのように背負ったコンビニ袋には、先ほど拾ってきた魚の骨などの生ゴミがぎゅうぎゅうに詰め込まれている。 今日はちょうど人間がゴミを出した直後、他の同属がやってくる前という絶好の時間にすべり込むことができたのだ。 これだけの量となると、仔のいない自分だけで食べるには明らかに多すぎるが、実装石の生活はいつ飢餓に陥ってもおかしくはない。 実りの秋はまだまだ先なのだから、食べられるときに食べてエネルギーを蓄えておくのは野良実装として当然の心得なのだ。 「デェッス……デェッス……」 実装石が走るとき特有の声で荒い息を吐きながら、野良実装は走る。 家で待っている者は特にいないのだから別に急ぐ必要もないのだが、せっかく大量に得られた食料を同属に奪われでもしたら大変だ。 ときにあたりをキョロキョロと警戒しながら、野良実装は家路を急ぐ。 だが、同属の気配を警戒するあまり、足元がお留守になっていた。 ————— ズザァ! ————— 「デェッ!?」 落ちていた小石に躓き、野良実装は転んでしまった。 そこに————— 「デ……? グリンじゃないデスか。今日はえらく実入りがよかったらしいデスゥ?」 一匹の成体実装が立ちはだかった。 「デ、デヒィィーッ!?」 立ちはだかった実装石は、野良実装を『グリン』と呼んだ。 飼い実装の証である名前を、なぜ野良実装が持っているのか。 それは、この野良実装が元・飼い実装であるからに他ならない。 三ヶ月ほど前、グリンは他の二匹と共にこの公園に捨てられたのだ。 捨てられた三匹のうち一匹は野良生活に馴染む前に飢えた禿裸に喰われて死んだが、幸いにもそこそ頭の回る個体であったグリンともう一匹はなんとか今まで生き延びることができた。 だが、もう一匹は元々持っていた糞蟲ぶりによってその知能を悪知恵と化し、上手く立ち回ることで公園の中でも指折りの地位に上りつめていた。 それが今、グリンの目の前にいる『エメラル』である。 エメラルはいつもグリンから食料を奪っていた。 公園内での“ある程度の地位”を保障してやる代わりという名目であったが、もちろんそれによる恩恵は何もない。 要はヤクザの『守ってやるから“みかじめ料”を払え』という言い草と同じだ。 今日のようにたくさん食料が入手できたのを知られたときは一巻の終わりだった。 手に入ったものはほとんど奪われ、いつも申し訳程度のカスが残されるのみである。 むしろ手に入った食料が少ないときのほうがその場で食べてしまえるぶん安全なぐらいだ。 逆にグリンが今まで餓死せずに生きてこられたのはそうする知恵を身につけたおかげであり、そうでなければとっくに飢えて死んでいただろう。 自分の住んでいるダンボールハウスにせよ、唐突にエメラルがやってきて蓄えたものを持っていかれないよう、グリンは本命の食料庫の他にダミーの食料庫を用意していたほどだ。 いずれにせよ、グリンにとってエメラルが何のメリットもない、ただ迷惑なだけの存在であることには変わりなかった。 かといって善良……というよりは根が気弱なグリンには何もできない。 今日もまた、せっかく手に入った大量の食料を奪われ、目の前にはほとんど齧るところのないリンゴの芯が一つ残されただけだった。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 「デスン……デスン……」 グリンが泣きべそをかきながら家路を歩いていると、公園のベンチに座る一人の青年がいた。 馬鹿な実装石であればここですぐに近寄っていって媚を売る。 相手が愛護派ならば飼ってもらえずとも殺されることはないが、虐待派だったときには目も当てられない無惨な最期が待っている。 逆に賢い野良実装であれば決して人間には近づこうとしないか、飢えに耐えかねて人間にすがるときでも、まず相手が虐待派ではないかどうかを慎重に確かめる。 だが、元・飼い実装であったグリンは野良実装ほど人間を警戒しない。 グリンはベンチに座った青年に話しかけるでもなく、かといって警戒して離れた場所を歩くでもなく、まるで青年がいないものであるかのごとく、ただ目の前をトボトボと通り過ぎようとした。 「どうしたんだい? 何か悲しいことでもあったのかい?」 声をかけられて、グリンはそこで初めて青年の存在に気付いたかのように顔を上げた。 「デェ……ニンゲンさんデスか………なんでもないデス」 「本当かい? 泣きながら歩いてるように見えたけど」 「………ただ自分と同じジッソウに食べモノを盗られただけデス。いつものことデスゥ………」 「いつものことって……酷いやつがいるもんだなあ。僕でよかったら話を聞いてあげようか? 力にはなれないかもしれないけど、愚痴をこぼすだけでも気持ちが楽になったりするものだよ」 「ニンゲンさんは優しいヒトデスゥ……どうしてそんなにワタシに構ってくれるデス?」 「僕は昔、実装石を飼っていたんだけどね、事情があって飼えなくなってしまったんだ。そしてこの公園に捨ててしまったんだよ。すぐに後悔して探しに戻ったんだけど、そのときにはもうその仔はいなくなってて、 その仔が着ていたピンクの実装服だけが残されていたんだよ。おそらく同属に襲われてしまったんだろう。それ以来、僕はここで野良実装たちを見守っているんだ。あの仔が実は生きてて、また会えるんじゃないかと思ってね」 「デェェ……ワタシもここに捨てられた身デス。そのときイッショだったオトモダチはハゲハダカに襲われて……」 そして、グリンはいつの間にやら青年に自分の身の上話を語っていた。 元・飼い実装であったこと、飼い主の都合で三匹揃って捨てられたこと、そのうち一匹はすぐに殺されたことや、もう一匹は今や自分の食料を掠め取る糞蟲に成り下がっていることなどを全て吐き出したのだ。 そうすると、青年の言ったとおり少しだけ気が楽になったような気がした。 「そうか……苦労したんだね。ところで、そのエメラルとかいう実装石には随分と困っているみたいじゃないか。何とかしたくはないかい?」 「たしかに困ってるデスが……ニンゲンさん、まさかエメラルになにかする気デスゥ? それならやめて欲しいデス。あんなのでもイッショに育ったワタシのオトモダチなんデス。死なせたくはないデスゥ」 「いやいや、僕だって実装石を殺したりしたくはないからね。そんなことはしないよ。ただ、君自身がエメラルに殺されそうになったりした場合とか、自分の身を守るためにどうしても 相手をやっつけるしかないときもあると思うんだ。そんなときのために、君にそれができる力を与えてあげようと思ってね」 「チカラ……デス?」 「これだ」 そう言って、青年は懐から一冊のノートを取り出した。 一見ただの大学ノートだが、表紙に油性マジックでデカデカと『DESU NOTE』と書いてある。 「これはなんデスゥ?」 「これは『デスゥノート』といってね、これに名前を書かれた者は……死ぬ」 「デデェッ!?」 「実装石であろうと人間であろうと、または他の動物であろうと、あらゆる生き物を殺せる魔法のノートだ。君の手の先を少し噛みちぎって血を出すなり、目から流れた色付きの涙で相手の名前を書けばどんなやつもイチコロさ」 「デェェ……そ、そんなコワイものいらないデスゥ……」 「さっきも言っただろう? 自分の身を守るためには、どうしても相手を殺さないといけないときがある。自分だけじゃない、大事な“オトモダチ”を守るときにも力は必要だ。そして危険な相手は君と同じ実装石に限らない。 虐待派の人間や他の動物に自分や“オトモダチ”が襲われたときにだって使えるんだから、持っていて損をすることはないよ」 「………じゃあ………一応もらっておくデス」 そうして、グリンはビクビクと怯えながらも遠慮がちにノートを受け取った。 「でも、ワタシたちジッソウは字が書けないデス。どうやって使えばいいデスゥ?」 「ああ、それならちゃんと文字を教えてあげるよ。そのノートは漢字とかの難しい文字で書く必要はないからね。一番簡単なカタカナさえ覚えたら、それだけでOKさ」 そしてその日以降、青年は数日間にわたって公園に通い、グリンに五十音のカタカナを教え込んだ。 元々実装石にしてはそこそこ頭が良く、昔からショップで飼い実装としての教育を受けてきたこともあって、グリンは一週間ほどでカタカナをマスターした。 不器用な手なので決して上手とはいえないが、一応人間が読んでも判別できる程度の文字は書けるようになっている。 「よし、これで一通りのカタカナは書けるようになったね。それじゃあ最後に、このノートの使い方を教えておこうか」 「デスッ」 「まず第一に、名前を書くといってもそれだけじゃいけない。相手の名前を書いた後、必ずそれを大きな声で読まないといけないんだ。そしてもう一つ、名前を書くときは必ずそいつが目の前にいなければいけない。 離れたところにいる相手の名前を家の中でこっそり書いても、次の日にはそいつが死んでるなんてことはないから注意して」 「わかったデス」 「次に使える時間だ。このノートは空にお日様が出ているときにしか使えない。まあ夜寝ている間には使うことはないだろうし、日が沈んだら家に帰るだろうから問題はないと思うけどね」 青年の言葉にグリンがコクリと頷く。 「あとは名前だけど、ちゃんと個人名を聞き出したうえで書かなければならないのは人間だけだ。野良犬や野良猫には名前がないからね。同じように、固有名詞を持たない野良実装に対しても『目の前の実装石』とかで通用する。 大勢に囲まれたときなんかは『ここにいる実装石全員』とかでも大丈夫だ。使いやすい部分と使いにくい部分があると思うけど、まあ上手くやってね」 「デェ……ニンゲンさん、ありがとうデスゥ。使うかどうかはわからないけど、ニンゲンさんからもらったものとしてダイジにさせてもらうデス」 「うん、じゃあ頑張ってね」 そうして、青年は公園から去っていった。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- それから数日後、グリンは公園内の噴水の前にいた。 公園に住む野良実装たちの集会……というと聞こえはいいが、実際は公園のボスが下っ端の実装石たちに何かを命令するために召集をかけたのだ。 傲慢で性悪な者ほど強い傾向がある実装石において、公園の野良実装を束ねるボスともなれば大概の場合糞蟲である。 こうして集められるときは、いつも大体ろくでもないことを言い出すのがボス実装の常であった。 「デェェ……最近ミツギモノの量が減っているデス。このままではワタシが飢えて死んでしまうデス! というわけで、これからは毎日食べモノのハンブンをワタシによこすデスゥ!」 「「「デ、デェェーッ!?」」」 集められた実装石たちの悲鳴が噴水広場に響き渡る。 特にグリンには衝撃的なことであった。 いつもエメラルに食料を奪われているのに、これ以上収奪されたら自分の食べる分すら確保できなくなってしまう。 そのとき、グリンの脳裏にデスゥノートのことが頭をよぎった。 ボスとは本来群れを守るべき存在なのに、こいつは何の恩恵もないどころか、むしろ群れの実装石たちにとって害悪しかない存在ではないか。 群れのためにもこいつを始末してしまったほうがよいのではないか—————グリンはそう考えたが、すぐに思い直して頭を振った。 いけない。 群れのためなどと正当化したところで、結局根底にあるのは自分の保身ではないか。 そんな嘘で固めた正当性を盾に同属を殺すことを考えるなんて糞蟲のすることだ。 立派な飼い実装として主人に接するための教育を受けてきたグリンは、エメラルとは正反対の善良な実装石であった。 とはいえ、このままでは自分の身が危ないという事実は何も変わらない。 どうすべきか—————グリンが思案に暮れていると、実装石にとって死神の哄笑にも等しい声が彼方から聞こえてきた。 「ヒィィヤッハァァァァァァァ!!!!!」 本能的な恐怖を呼び覚ますその声に、その場にいた全員がびくりと体を震わせた。 声のしたほうを見ると、鶏のトサカのように逆立った髪にサングラスをかけた顔、肩の部分にトゲのついたレザースーツにバールのようなものを手にしているという、絵に描いたような虐待派の男がこちらに近づいてきていた。 「よっしゃあぁ! ちょうど糞蟲どもが大量に集まってやがるじゃねえか! こりゃあ虐殺のし甲斐があるぜぇぇ!」 モヒカン男はバールのようなものをブンブンと振り回しながら迫ってくると、手近にいた実装石の頭に叩きつけた。 「ビュベァ!」 砕けた頭が胴体にめり込み、頭のない案山子のようになった実装石が地面に倒れ込む。 そのときにはすでに、男の横薙ぎによって別の実装石たちの首が四つばかり宙に舞っていた。 「「「デヒィィーッ!?」」」 たちまち広場が阿鼻叫喚の地獄と化す。 「デェッ! ニ、ニゲルデスゥゥーッ!」 群れの長でありながら、ボス実装は我先にと逃げようとする。 「逃がすかよぉっ! 必殺…『ジャ○ビニ流星打法』ーっっ!」 モヒカン男がバールのようなものを大きく振りかぶり、近くにいた実装石の頭をフルスイングで打ち抜く。 すると腐ったスイカのように砕け散った成体実装の目玉や骨が飛び散って弾丸と化し、逃げようとしていたボス実装の後頭部に突き刺さった。 「デギャァッ!?」 ボス実装は噴水の上から転げ落ち、そのまま地面で頭蓋を砕いて即死した。 食らった実装石の目玉や骨も脆かったのでそれ自体は大したダメージにならなかったのだが、偉そうにするために高い場所に陣取っていたのが裏目に出たのだ。 このままでは全員殺されてしまう—————そう思ったグリンは、自分の住むダンボールハウスに向かって走り出した。 グリンの棲み家はこの噴水から見える場所にあるので、実装石の足でもそれほど時間はかからない。 グリンはダンボールハウスの中に転げ込むと、奥にしまってあったノートを取り出し、再び噴水広場へと向かった。 広場ではまだ男が虐殺を続けている。 グリンは男に背後から近づくと、あらん限りの声を振り絞って叫んだ。 「待つデスッ!!!」 「あん?」 モヒカン男がグリンのほうを振り向く。 「ニンゲン……これ以上のギャクサツはユルさんデスゥ! ワタシが相手になってやるから、名を名乗れデスゥ!!!」 いつものグリンとは明らかに違う剣幕に、傍で見ていたエメラルさえも驚いていた。 いや、一番驚いたのはグリン自身だ。 相手に名前を名乗らせるための挑発とはいえ、まさか自分の口からこんな台詞が出ようとは。 「プッ………! クククク………あーっはっはっは! おんもしれえ! 糞蟲のくせに随分な口を利いてくれるじゃねえか。ええ、おい? そんなに知りたけりゃあ教えてやるよ。俺様の名は火矢葉・照独(ひやば・てるひと)。 この作者のスクじゃちったあ名の知れた虐待派だぁーっ!」 モヒカン男の名乗りを聞くや否や、グリンは背後からノートを取り出して地面の上に広げ、自分の手の先を噛み切って血で男の名前を書き綴る。 その様はまるでNARUT○の口寄せの術のようだ。 そしてグリンは、目の前にいるモヒカン男の名を大声で叫んだ。 「ヒヤバテルヒトッッ!!!」 グリンがそう叫んだ瞬間————— 「グッ!? ゥ……うう………な、何だ? ……………が……がはっ…………!」 モヒカン男が急に胸を抑えて苦しみ始め、地面に倒れて動かなくなった。 「デ、デデッ!?」 グリンはすぐ傍に落ちていた枝を拾うと、慎重に近づいて倒れた男の体をつついてみた。 だが、モヒカン男は何の反応も示さない。 どう見ても完全に死んでいる。 「や、やったデス………あのニンゲンさんが言ってたことはホントウだったデスゥ!」 グリンが天に両手を突き上げてガッツポーズをする。 すると次の瞬間、周囲から大歓声が湧き上がった。 「す、すごいデスゥ!」 「ニンゲン……それもギャクタイハをやっつけたデス! このお方はきっとジッソウのマモリガミデスゥ!」 「デ……」 いつの間にやらグリンは生き残った実装石たちに囲まれ、喝采の嵐に飲み込まれていた。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- それからというもの、グリンは群れのボスに祀り上げられた。 前のボスが何の役にも立たない糞蟲だったというのもあるが、実装石が決して敵うはずのない人間を退けたのだから当然といえば当然だ。 エメラルのように前のボスの下で偉そうにしていた穀潰しどもは不満を漏らしたが、それも最初のうちだけだった。 なにせグリンは他の公園からやって来た乱暴者の糞蟲やマラ実装、果ては野良猫までもノートを使って倒してのけたのだ。 逆らってもメリットはないと分かったとたん、この糞蟲どもは手のひらを返すのも早かった。 グリンがノートに名前(実装石ならば『メノマエニイルジッソウセキ』など)を書くと、どんな実装石であろうとマラ実装であろうと、たちどころに頭が爆散して粉々になった。 野良猫は砕け散りはしなかったが、最初に殺した人間のようにばったりと倒れて動かなくなった。 元々慎重で善良な性格のグリンはノートを乱用するようなことはなかったし、力に溺れて糞蟲化することもなかったが、そのことで仲間たちからはますます慕われるようになっていった。 そしてしばらく経って、夏も終わりに近づいたある日————— 「デギャァァーッ!!!」 公園の裏にあるゴミ捨て場に野良実装の叫び声が響いた。 「ボ、ボス! 助けてくださいデス! エサ場でナカマがカラスに襲われてるデスゥ!」 グリンの住むダンボールハウスに、下っ端の実装石が転がり込んできた。 前のボスと違い、責任感の強いグリンは公園の野良実装たちからいつも頼りにされている。 「わかったデス、すぐに行くデス」 グリンはノートを抱えると、ゴミ捨て場に向かって走った。 「デェェーン! 助けてデスゥゥーッ!」 グリンが現場に到着すると、一匹の実装石が五〜六羽のカラスに集団で襲われ、目玉や体の肉を啄ばまれていた。 よく見れば、襲われているのはエメラルだ。 「エメラル! いま助けるデスゥ!」 グリンは地面にノートを置いて開くと、いつものように自分の血で『カラス』と書いた。 そして————— 「カラス! エメラルから離れろデスゥ!」 “カラス”という名詞を口にした。 だが…… 「デギャァァァァ!!! イタイデス! イダイデズゥゥゥ!!!!!」 カラスは死ぬどころか、なおもエメラルに攻撃を加え続けている。 エメラルは手足がちぎれかけ、もはや殺される寸前だ。 「デデェッ!? ど、どうして? どうして死なないデスゥ!」 グリンはもう一度ノートに『カラス』と書いてみた、そして 「カラス!」 叫んだが、やはり全く効果はない。 次は『メノマエノカラスタチ』と複数形で書いてみたが、それでも結果は同じだった。 「デェェーン! どうして……どうしてデスゥゥ……」 グリンは地面をバンバンと叩いて悔しがるが、それで事態は解決しない。 「デギ……ァ………」(パキン!) そんなことをしている間に、ついにエメラルはカラスの嘴で偽石を砕かれて絶命した。 「デァァーーー!? エ、エメラルゥゥー!」 グリンは両目から血涙を流して叫んだが、全ては後の祭りだ。 そして幼馴染の死を嘆く間もなく、今度は目の前のカラスたちがグリンをターゲットに定めた。 「デ、デヒャァァーッ!?」 カラスたちは容赦なくグリンの肉を啄ばみ、服を引き裂き、髪を引きちぎる。 グリンはその間にも必死でノートに『カラス』と書き続け、叫び続けたが、効果は一向に表れなかった。 そこに、小学校中学年ほどの少年を連れた二人の男がやってきた。 男たちが近づくと、人間の気配を察したカラスたちが飛び去っていく。 片目を潰され、瀕死になったグリンがその姿を見上げると、それは自分にノートを与えてくれた青年だった。 グリンは助けを乞おうとしたが、隣にいるもう一人の男を見て戦慄した。 それは、最初に自分が殺したはずのモヒカン男だったのだ。 「デ、デェ………」 息も絶え絶えなグリンが声を上げようとすると、青年はその姿を見てニヤリと笑みを浮かべた。 「悪いねぇ。猫はともかく、カラスは殺したり痛めつけたりすると仲間に顔を覚えられて、後でこっちが酷い目に遭わされたりするからね。さすがに手が出せないんだよ」 グリンには青年が何を言っているのか分からない。 「ヒャーッハッハ! 馬鹿な糞蟲にゃ言っても分からねえって」 「それもそうだわな。まあ、十分にデータは取れただろ。蒼幸(あおゆき)、ちゃんとノート回収しとけよー」 「うん!」 蒼幸と呼ばれた少年が、グリンの前に広げられたままのノートを拾ってホコリを掃った。 少年の手には同じように『DESU NOTE』と書かれたノートが何冊も抱えられている。 この数週間の間、グリンの身の回りに起こったことは一体なんだったのか。 真相はこうだ。 女の子のように端正な顔立ちをしたこの少年は青年の甥っ子で、夏休みの自由研究として実装石の観察を行うことにした。 それを聞いた観察派の青年が、友人の火矢葉を誘って今回の計画を思いついたのである。 その内容は“ある程度の知能を持った実装石には良蟲が多いか、はたまた糞蟲が多いか”ということを調べる実験だ。 まず、最初にそこそこ知能の高そうな実装石に目をつけ、声をかける。 会話の内容で知能が求めるレベル(文字を覚えられるかどうか)に達していることが分かったらノートを渡し、それを何のために使うか、どれぐらいの頻度で使うかを観察するのである。 もちろんノートに名前を書かれた者が死んだのは全て演出だ。 最初の火矢葉はなかなかノートを使おうとしないグリンを促すためのゲストであり、死んだのもただの芝居である。 実装石には呼吸を確認するとか心音を聞くといった知識はないため、倒れただけで死を偽装するのは簡単だ。 そしてそれ以降の死に関しても、実装石に対しては離れた場所からスリングショットを使ってベアリング弾を頭に撃ち込み、猫に対しては眠り薬を塗った吹き矢を尻に撃ち込んだだけである。 カラスに対して何もしなかった理由は前述のとおりだ。 そして最初に教えたルールは、使える時間も、書く名前がいい加減でもいいことも、そして書いた相手の名前を高らかに宣言しなければいけないことも、全ては人間が観察しやすいようにするため、 ちゃんと観察の目が行き届いている間にだけノートを使うように仕向けるための縛りにすぎない。 つまり、グリンはただ小学生の自由研究に名を借りた観察派の実験につき合わされ、手のひらの上で踊らされていたのである。 「おい蒼幸、俺にもそのノート見せてくれよ。なんせわざわざ芝居までして使わせてやったんだからな。俺にも見る権利はあるだろ」 火矢葉がグリンの使っていたノートを少年から受け取り、ぱらぱらとめくる。 「お、そんなに書き込んでないな。ケッ、つまんねえ。やっぱこいつは良蟲寄りだわ」 「まあ、こいつは最初から良蟲っぽいのを見越してノートを渡したからな。逆に糞蟲気味の仔実装なんかにノートを渡して字を教えてやると、大体すぐに『オネチャ』『イモウトチャ』『ママ』ってな具合に、 平気で家族の名前を書き込みやがるから面白いぞ」 「ヒャッハハハハ! さっすが糞蟲! つーか実装石ってのはそうでないとな」 「蒼幸、レポートだけじゃなくてちゃんとノートのほうも提出しろよ? 自由研究ってのは、こういう貴重な資料にもなりうるものが高評価をもらえるんだ」 「わかってるよ叔父さん」 三人の人間はグリンに一瞥もくれることなく、楽しそうに談笑しながら去っていった。 何がどうなったのかはよく分からないが、人間のせいでこのような目に遭ったことだけは理解できた瀕死のグリンが涙を流す。 その目に、たくさんの同属の足が見えた。 「デェ……」 顔を上げてよく見れば群れの仲間たちである。 グリンは仲間たちに向かって助けを求めるように手を伸ばしたが、次の瞬間、顔面にその仲間たちの足がめり込んだ。 「デビュァ! ………な………ナニを………」 「うるさいデスこの役立たず!」 「ニンゲンをやっつけられるからボスにしてやっていたのに、カラスも追い払えずにナカマを死なせるやつなんかに用はないデスゥ!」 「デ……デデ………」 そうして、野良実装たちによるリンチが幕を開けた。 しょせん実装石とはこんなものだ。 それまでいくら世話になった者であろうと、もはや役立たずと見たら容易に切り捨てる。 彼女たちに義理とか恩義という概念は存在しないのである。 振り返ってそれを見たモヒカン男は、やれやれといった顔でかぶりを振った。 「あーあ、役立たずの禿裸になった途端、さんざん世話になったはずのボスをリンチかよ。ほんとどうしようもねえなあの糞蟲どもは」 「ほんと、ああいうところが虐殺派をムカつかせるんだってのになあ……そういやお前も虐待派というよりは虐殺派でしょ? あれ、見逃すの?」 「そうだな……あの良蟲の敵を討ってやろうなんて気は毛頭ないが、糞蟲どもを放っておくのもまた気分が悪いもんだ。じゃ……いっときますかあ?」 そして、モヒカン男はどこからともなくバールのようなものを取り出すと、踵を返して野良実装たちのほうへと歩いていった。 「はーい蒼幸、俺たちはもう帰ろうなー。ああいうのは教育に悪いから見ちゃいけません」 「ええー、ボクも見たかったなぁ」 「だーめ、さっさと帰ってレポート書くの」 「はーい」 その後、蒼幸くんが提出した『デスゥノートを使った野良実装たちの研究レポート』は先生に褒められただけでなく、夏休みの自由研究コンクールで市長賞を取ったという。 そして数年後、蒼幸くんは実蒼石のブリーダー兼・実装石の駆除派として勇名を轟かせたとか…… -END- ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- あとがき ちょっと遅れましたが、今回は映画公開記念ということで。 実は前々からちょっとずつ書き溜めていたネタだったのですが、まさか完成直前になって昔同じネタを書かれていた作者さんの作品が投稿されるとは…… 比べられると練り込み&演出の拙さに汗顔の至りなのですが、これはこれとして楽しんでくだされば幸いです。 ちなみに蒼幸のモデルは実蒼石のモデルである蒼○石です。 ああいう中性的な男の子(男の娘に非ず)を思い浮かべていただければ。 またネタ切れなので、次回作までは少し間が開いてしまうかもしれません……

| 1 Re: Name:匿名石 2016/11/20-02:56:17 No:00002905[申告] |
| グリンがわりと善蟲で知能もあるから本当の神様に貰ったかと思ったら…
まあ、わざわざ実装に名乗ってやる虐殺派なんていないよなあ それに本当に殺せていたら糞塗りやら死体蹴りやら最後は食べるやらせんはずないよな グリンはともかく周りの糞蟲ならそうする その描写がない時点で気づくべきだった |
| 2 Re: Name:デスゥ・ノートの作者です 2016/11/20-09:44:04 No:00002916[申告] |
| >この作者のスクじゃちったあ名の知れた虐待派だぁーっ!
このセリフがつぼにはまりました。www こういうお遊びは複数のシリーズを同時進行して たくさんのスクを発表している作者さんだけに許された特権ですね。 遅筆な自分には到底無理な芸当です。w 次回作も楽しみにしています。 |